名古屋高等裁判所 平成13年(行コ)5号 判決 2001年10月30日
控訴人
A合名会社
同代表者代表社員
甲
被控訴人
岐阜南税務署長
吉村昌之
同指定代理人
瀬戸茂峰
同
松井保之
同
三ツ井敬雄
同
松田清志
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人が、控訴人の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度分の法人税につき、控訴人に対し同年12月26日付けでした法人税額等の更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、法人税額16万7160円を超える部分を取り消す。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は、被控訴人(税務署長)が、控訴人(織物販売業)に対し、その平成7年4月1日からの一事業年度の法人税の青色確定申告及び同修正申告おいて、期末棚卸資産に生機(「きばた」、染色前の反物)等の計上漏れがあったとして、法人税額等の更正(本件更正処分)及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)をしたのに対し、控訴人において、①上記生機等は同事業年度中における仕入先の自己破産申立てにより、控訴人はその所有権を失っていたか又はその支配権を喪失して棚卸資産ではなくなっていたこと及び②被控訴人が法人税法130条2項により本件更正処分の理由として示した内容には不備があることを根拠として、本件更正処分及び本件賦課決定処分(合わせて本件課税処分)の取消しを求めたところ、原審は、控訴人の法人税申告には棚卸資産の計上漏れがあり、被控訴人が示した本件更正処分の理由は相当であるとして、控訴人の請求を棄却したので、控訴人がこれを不服として控訴した事案である。
2 双方の主張は、次のとおり訂正し、当審における主張を付加するほかは、原判決の「事実」の「第二 当事者の主張」のとおりであるからこれを引用する。
(1) 引用範囲の中に「生機等」とせず単に「生機」とあるのはすべて「生機等」と、「申立て」とせずに単に「申立」とあるのはすべて「申立て」と改める。
(2) 控訴人の当審での主張の補充
ア 本件生機等の支配喪失について(原判決の「再抗弁2」関係)
控訴人の本件生機等は、仕入先Bの破産申立てにより、C等の意のままになったものであり、盗難により所有権を喪失した場合と法的、社会的、経済的に何ら変わらない状態に至ったものというべきである。
イ 損害賠償請求権等の貸倒について(原判決の「再抗弁3」関係)
控訴人がBに対し、本件生機等の仕入代金相当額の返還請求権ないし損害賠償請求権を法律上有したとしても、Bは自己破産の申立てによってその支払能力がなくなり、債権の回収見込がないことが明らかになったというべきである。債権の価値の評価(貸倒か否か)は法律や通達によって定まるものではなく、社会一般の評価によるべきである。
ウ 本件課税処分の理由付記について(原判決の「抗弁に対する認否及び原告の主張3」関係)
被控訴人は、控訴人の棚卸資産に関する帳簿として「棚卸資産の明細書」を掲げるが、控訴人の帳簿として「棚卸資産の明細書」は存在しない。
行政手続法1条は、処分手続に関し「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする」と定めており、同法32条にも照らすと、更正の理由は、なぜそのような判断に至ったのかという判断課程を具体的に記載する必要があるというべきである。
被控訴人の理由付記では、本件生機等につき、なぜ棚卸資産として計上しなければならないのかについて何ら説明をしていないものであって、本件課税処分の理由として不備がある。
(3) 上記主張に対する被控訴人の反論
ア 控訴人の主張ア、イに対して
企業会計の場合と異なり、法人税法では、課税の公平の観点から、可能な限り客観的に覚知しうる事実関係に基いて益金、損金を計算すべきであるから、控訴人の主張する事由ではいまだ棚卸資産の喪失ないし貸倒損失とするに当たらない。
イ 控訴人の主張ウに対して
行政手続法1条2項は、「他の法律に特別の定めがある場合には、その定めるところによる」としており、法人税法130条2項は上記「特別の定め」に該当する。
行政手続法の施行に伴い改正された国税通則法74条の2第1項は、「行政手続法(中略)3条1項(適用除外)に定めるもののほか、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為(中略)については、行政手続法第2章(申請に対する処分)及び第3章(不利益処分)の規定は、適用しない。」と定めている。したがって、本件更正処分の理由付記について、行政手続法14条1項、3項の適用はなく、また、控訴人主張の同法32条は行政指導に関する規定であるから更正処分の理由付記とは関係がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり加除、訂正し、当審における主張についての判断を付加するほかは、原判決の「理由」のとおりであるから、これを引用する。
1 引用範囲の中に「生機等」とせず単に「生機」とあるのはすべて「生機等」と、「申立て」とせずに単に「申立」とあるのはすべて「申立て」と改める。
2 原判決21頁2行目の「抗弁(一)」を「抗弁1(一)」と改め、5行目の「証人甲)及び当事者間に争いのない事実によれば」を「証人甲)、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば」と改める。
3 原判決22頁5行目の「求めたが」から9行目までを次のとおり改める。
「求めた。CはかねてBとの間で委託加工品契約を締結しており、その中には、Bにおいてやむを得ない事由により支払不能のおそれがあるときは、委託加工受託品につき、相当価格の範囲で代物弁済とすることができる旨の代物弁済予約条項があったところ、松岡は上記孝純らの返還の求めに対し、上記代物弁済予約条項を根拠にして拒絶した。」
4 原判決23頁1行目及び24頁3行目の各「1000万円弱」を「864万1622円」と改める。
5 原判決23頁11行目の「Bとの間の」を「Bとの間に締結された」と改め、26頁3行目から4行目にかけての「原告が同社に対して」を「控訴人がBの乙の協力を得て、同人の立会いの下に、Cに対して」と改める。
6 原判決27頁6行目の「盗難のように」を「犯人及び被害品の所在が不明である場合の盗難のように」と改め、9行目から10行目にかけての「本件生機はCにあることは明らかであり、」を「本件生機等はCが保管していることが明らかであって、その所在が不明になったものではなく、」と改める。
7 原判決28頁6行目から7行目にかけての「しかしながら、」を次のとおり改める。
「しかしながら、控訴人は、仕入価格合計2407万8200円の本件生機等につき、Cから返還を拒否されてより1ヶ月以内に、仕入価格の約3分の1に当たる864万1622円を支払うことによってその占有を回復したのであるから、控訴人は、Bの自己破産申立て及びCの返還拒絶という事実だけによって、本件生機等の所有権を完全に失ったものでないことが逆に明らかであって、その支配の回復可能性を失ったものではないといわなければならない。」
8 原判決32頁11行目の「本件更正処分の理由」を「本件更正処分の理由の記載」と改め、33頁3行目の「右以上に被告において」を「右以上に、控訴人が口頭で指摘したに過ぎない棚卸減耗の弁明に対して、被控訴人において」と改める。
9 控訴人は、当審において、本件更正処分の理由には「棚卸資産の明細書と商品出納帳とを照合したところ」と記載されているが、「棚卸資産の明細書」なる帳簿書類は備えていないと主張する。
しかし、既に判示の本件更正処分の経過からすれば、この理由の記載は「控訴人の決算書ないし確定申告書中の棚卸資産の明細と、控訴人の帳簿書類である商品出納帳(製品・預り反明細書)とを対照させた結果」を意味しているものであり、控訴人も当然そのように理解できたことが明らかである。したがって、この点により本件更正処分が瑕疵を帯びるものとはいえない。
10 控訴人は、当審において、法人税の更正処分における理由付記についても、行政手続法1条、あるいは32条の趣旨に沿って、その判断課程を具体的に記載する必要があると主張する。
しかし、法人税の更正処分の理由付記につき、行政手続法2章及び3章の適用がなく、理由の記載に関する同法14条1項、3項も適用されないことは被控訴人の反論のとおりであって、控訴人の主張は採用できない。
第4結論
よって、控訴人の請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却し、控訴費用は控訴人に負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)