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名古屋高等裁判所 平成14年(う)422号 判決 2002年12月25日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岩野壽雄作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。論旨は、(1)本件路上駐車は、被告人が普通乗用自動車(以下、「本件自動車」という。)を車庫に入れ忘れた過失によるものであるのに、故意による違反と認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある(なお、弁護人は、原審が審理を尽していないともいうが、その趣旨は事実誤認の事情としての主張と解される。)、(2)本件路上駐車は被告人の過失によるものであるところ、自動車の保管場所の確保等に関する法律17条2項2号、11条2項2号は故意犯のみを処罰する規定と解すべきであるのに、その解釈を誤り、これらの規定を本件に適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せて検討する。

1  事実誤認の主張について

自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2頂2号は、自動車が夜間(日没時から日出時までの時間をいう。以下、同じ。)継続して8時間以上道路上の同一場所に駐車することになるような行為を禁止しているが、夜間継続して8時間になる前に駐車状態を解消すれば本罪は成立しないことにかんがみると、その処罰対象となる行為は、自動車を駐車させる行為に限らず、既に駐車状態にある自動車をそのまま放置する行為も含まれるというべきであり、その場合の故意としては、当該自動車を最終的に駐車させた者において、駐車させる際に自己又は他人が法定の制眼時間内に当該自動車を使用又は移動させる等その駐車状態を解消することの予測が立たないままこれを駐車させることの認識があるか、あるいは駐車させた後に前記のような予測が消失したのに、当初の駐車状態のまま放置することの認識があれば足りるというべきである。そして、一旦上記のような認識を持った以上、その後、駐車状態についての認識を持ち続ける必要はないと解される。

これを本件についてみるに、関係証拠によれば、被告人は、平成14年5月23日午後7時過ぎころ、外出先から妻と本件自動車で帰宅したが、車を運転しない妻から、近くのスーパーマーケットに買物に行きたいのでもう一度車を運転して欲しいと頼まれたため、本件自動車を車庫に入れず、自宅前の道路上に駐車したままにして、同日午後8時ころ、妻に買い物に行くよと声をかけたところ、妻から今日は止めると言われ、その日本件自動車を使用する予定がなくなったにもかかわらず、車庫に入れず、そのまま翌朝まで本件自動車を道路上に放置してしまったことが認められる。

そうすると、被告人は、本件自動車を自宅前の道路上に駐車させた当初、駐車状態がほどなく解消されることを予測していたものの、被告人が妻に買い物に行くかどうか尋ね、妻から止めたと言われた時点で、被告人には、その日はもはや本件自動車を使用する予定がなくなったのに本件自動車を道路上に駐車させたままにしておくことの認識があったというべきであって、その後被告人が道路上に本件自動車を駐車したままであることを失念したとしても、本件犯行の故意に欠けるところはないというべきである。本件犯行の故意を認めた原判決の認定に所論のような事実誤認はない。

2  法令適用の誤りの主張について

1で述べたように、被告人に本件犯行の故意を認めることができるところ、自動車の保管場所の確保等に関する法律17条2項2号、11条2項2号が少なくとも故意犯を処罰する規定であることは明らかであるから、これらの規定を本件に適用した原判決には、所論のような法令適用の誤りはない。

論旨はいずれも理由がない。

そこで、刑訴法396条により、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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