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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)1004号 判決 2003年7月17日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は,1審原告の負担とする。

事実及び理由

(以下,略語は原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告

(1)  原判決を取り消す。

(2)  1審被告は,1審原告に対し,100万円及びこれに対する平成13年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。

(4)  (2)につき仮執行宣言

2  1審被告

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,岐阜市議会議員である1審原告が岐阜市議会において「猿以下」等と発言したことについて,同市議会が1審原告に地方自治法135条1項2号の「公開の議場における陳謝」の処分(先行処分)をし,1審原告が先行処分に従わなかったため,さらに,同市議会が1審原告に同条項3号の「5日間の出席停止」の処分(本件処分)をした事実関係を前提とし,1審原告が1審被告に対し,本件処分が表現の自由・人格権を侵害する違憲・違法な処分であるとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金(本件処分が発効した日である平成13年6月18日から民法所定の年5分)の支払を求めたが,1審被告は本件処分が裁判権の対象とならないし(本案前の答弁),本件処分は違憲・違法ではない等と主張して争った事案である。

原審は,本件処分が地方議会の内部規律の問題で裁判権の対象とならないとして,本件訴えを不適法として却下したところ,1審原告がこれを不服として控訴した。

2  争いのない事実等,争点及び当事者の主張は,次のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1,2のとおりであるからこれを引用する。

原判決2頁4行目の「岐阜市議会議員である」を「本件発言及び本件処分当時岐阜市議会議員であった」と改め,5頁12行目の次に行を改めて次を加える。

「(8)岐阜市議会議長は,同月18日,1審原告に対し,本件処分を通知した(甲11,弁論の全趣旨)。」

第3当裁判所の判断

当裁判所も,本件処分の適否は司法審査になじまず,裁判権の対象とならないものであり,その判断を前提とする本件訴えは不適法であると判断する。その理由は,次のとおり改めるほか,原判決「事実及び理由」の「第3 本案前の争点についての判断」のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決11頁15行目の「解するのが相当である。」から21行目までを次のとおり改める。

「解するのが相当である(最高裁大法廷昭和35年10月19日判決・民集14巻12号2633頁)。

以上のとおり,本件各処分は,地方議会の議員に対して地方自治法135条1項2号の『公開の議場における陳謝』(先行処分),3号の『一定期間の出席停止』(本件処分)の懲罰を科したものであるところ,いずれも議員の権利行使を一時的に制限したものにすぎず,それらの懲罰事由の存否,懲罰処分の内容の相当性については,原則として当該議会の裁量に委ねられるべきものであり,司法による裁判権の対象とならないと解される。

そして,本件処分を違法であるとして不法行為に基づく損害賠償請求をし,懲罰事由の不存在,懲罰処分の内容の不当性を主張する場合にも,同請求の理由として主張する点は,上記のとおり,地方議会の内部規律の問題として,その裁量に委ねられ,原則として地方議会の自主的な決定を尊重すべき事項であり,同様に司法による裁判権は及ばないものである。したがって,本件処分の懲罰事由の存否,その懲罰処分の内容が違憲・違法であると主張して損害賠償を求める本件訴えも,司法による裁判権の対象とならない事項についての審判を求めるものとして,不適法な訴えとして却下を免れないものといわざるを得ない。」

2  原判決12頁15行目から13頁2行目までを次のとおり改める。

「そこで検討するに,地方自治法134条の普通地方公共団体の議会の懲罰権は,会議体としての議会の規律と品位を保つために認められているもので,その趣旨に照らせば,懲罰の対象となるのは,議会内における議員の行為に限られるものと解すべきであり,議会の運営と全く関係のない議場外の個人的な行為を懲罰事由とした場合には,例外的に司法審査が及ぶものと解することができる。

しかしながら,議会内における発言内容を懲罰事由としている場合に,その事由の存否や懲罰を科すべきかどうかの判断,さらに懲罰内容を決定するにあたり,その発言内容以外の諸事情を一切判断の資料にできないものと限定する必要はなく,反省の態度や議場外に存する諸事情も考慮した上で,議会内における行為に対する懲罰内容等を決定することができるものと解するのが相当である。」

3  原判決15頁1行目から5行目までを次のとおり改める。

「上記認定の諸事情も考慮して勘案するに,先行処分は,1審原告の本件発言が不穏当,不適切な発言であり,議会の品位を著しく傷つけたものとして,懲罰事由に該当するものと判断をした上で,懲罰を科すべきかどうか,その懲罰の程度を判断するための事情として,本件発言後の議場外での言動等から窺える1審原告の反省の程度等を考慮したものといえるのであって,議会の運営と全く関係のない議場外の1審原告の個人的な行為を懲罰事由としたものということはできず,1審原告の上記主張も採用できない。」

4  原判決15頁11行目から14行目までを次のとおり改める。

「また,1審原告は,本件各処分について日程的に政治的過程での是正が期待できないことから,司法審査の対象となる旨主張するが,そもそも出席停止などの懲罰処分が地方議会の内部規律の問題として,その自治的措置に任せられているのは,地方議会の自律権を尊重する趣旨であって,現実に是正ができるかどうかと関係することではなく,現実の是正の可能性がないからといって,司法審査の対象とすべきものと解することはできず,1審原告の上記主張も採用できない。」

5  原判決15頁21行目から16頁4行目までを次のとおり改める。

「しかしながら,既に判示の本件各処分の経緯によれば,本件発言及びこれに派生する経緯以外の点を理由として,本件各処分がされたことを認めることはできないし,1審原告が主張するその余の上記事項については,既に判示の地方議会の裁量権の範囲内の事情を主張するにすぎず,その裁量権の逸脱・濫用を認めることができない。したがって,1審原告の上記主張は採用できない。」

第4結論

よって,1審原告の本件訴えは不適法でありこれを却下すべきところ,これと結論を同じくする原判決は相当であり,1審原告の本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし,控訴費用の負担を定めて,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 佐藤真弘)

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