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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)1192号 判決 2003年7月18日

主文

1  1審被告会社の本件控訴に基づき,原判決中1審被告会社に関する部分を次のとおり変更する。

(1)  1審被告会社は,1審原告Aに対し,1137万5818円及びこれに対する平成13年5月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

(2)  1審被告会社は,1審原告Bに対し,1457万5818円及びこれに対する平成13年5月2日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

(3)  1審原告らの1審被告会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

2  1審被告C,同D及び同Eの本件控訴並びに1審原告らの本件附帯控訴をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,1審原告らと1審被告会社との間においては,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を1審被告会社の,その余を1審原告らの各負担とし,1審原告らと1審被告C,同D及び同Eとの間においては,控訴費用は同1審被告らの,附帯控訴費用は1審原告らの各負担とする。

事実及び理由

(以下,略語は本判決で記載するものを除き,原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  1審被告C並びに同Dら(同D及び同E)

(1)  原判決中1審被告C及び同Dらの各敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る部分の1審原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)  1審原告らの本件附帯控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用は第1,2審とも1審原告らの負担とする。

2  1審被告会社

(1)  原判決中1審被告会社の敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る部分の1審原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも1審原告らの負担とする。

3  1審原告ら

(1)  原判決中1審被告C及び同Dらに関する部分を次のとおり変更する。

(2)  1審被告C及び同Dらは連帯して,1審原告Aに対し,2940万8864円及び内2852万1649円に対する平成11年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

(3)  1審被告C及び同Dらは連帯して,1審原告Bに対し,3945万6834円及び内3856万9619円に対する平成11年4月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

(4)  1審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。

(5)  訴訟費用は第1,2審とも1審被告らの負担とする。

(6)  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,1審原告Bが生後5か月半の長男Fを乗せた乳母車(以下「本件乳母車」という。)を押して信号機により交通整理の行われていない本件交差点付近の本件道路(概ね東西方向。以下,本件事故現場付近についての方位は本件道路が東西であるものとして表示する。)を北に向かって横断中,本件道路を東側から直進してきた1審被告C運転の1審被告車(自動二輪車)が本件乳母車に衝突し,1審原告Bが負傷し,Fが跳ね飛ばされて死亡した本件事故につき,Fの父母である1審原告らが,1審被告Cに対しては自賠法3条又は民法709条に基づき,1審被告Dらに対しては自賠法3条,民法709条又は債務引受契約に基づき,F及び1審原告らが被った損害及び遅延損害金(事故日から年5%)を請求し,1審被告会社に対しては保険契約に基づき,上記損害及び遅延損害金に相当する保険金を請求したのに対し,1審被告らにおいて損害額の一部(特に,近親者慰謝料及び逸失利益の中間利息)を否認し,過失相殺を主張し,1審被告Dらにおいて責任原因を否認する等して争った事案である。

原審は,1審被告C及び同Dらの自賠法3条に基づく責任を肯定し,1審原告ら主張の損害額の約57%を認め,1審被告らの過失相殺の主張を排斥し,1審原告らの1審被告らに対する上記請求につき損益相殺後の残金として請求額の約40%の損害と遅延損害金(1審被告会社に対しては同損害と遅延損害金の内金に相当する保険金)を認容し,その余の請求を棄却したので,1審被告らが請求認容部分を不服として控訴し,1審原告らが1審被告C及び同Dらに対する請求棄却部分を不服として附帯控訴した。

2  前提事実,争点及びこれについての双方の主張は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1並びに「第3 争点及び当事者の主張」のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決3頁8行目の「乙5」を「乙5,乙15」と,10行目の「111番地先路線上」から11行目までを「111番地先道路(以下「本件事故現場」ともいう。)」と,4頁4行目の「争いがない。」を「丙1,弁論の全趣旨」と,5行目の「被告三井住友海上との間で」を「1審被告会社(当時の商号は三井海上火災保険株式会社であり,平成13年10月1日に現商号に変更した。)との間で」と,11行目の「生命が害されたことにより」を「生命が害されること,または身体が害されその結果として後遺障害が生じることにより」と,14行目の「自賠責保険によって支払われた金額及び」を「自賠責保険によって支払われる金額並びに」と,23行目の「被告は」を「1審被告Cは」と,5頁13行目の「本件事故は、被告Cは、無免許で」を「本件事故は,1審被告Cが無免許で」と,6頁1行目の「邪魔となることから」を「邪魔となり」と,3行目の「左右の動静に注視ながら」を「左右から接近する車両の動静に注意しながら」と,8頁8行目の「被告らの主張」を「1審被告Dらの主張」とそれぞれ改める。

(2)  原判決12頁9行目の「自賠責保険からの支払金2904万3370円に対する」を「自賠責保険金2904万3370円によって賠償された同金額の損害に対する」と,24行目の「原告Aに対しては」を「1審原告Aにおいては」と,26行目から13頁1行目にかけての「原告Bに対しては」を「1審原告Bにおいては」とそれぞれ改める。

(3)  原判決13頁10行目の「無保険車傷害保険金の支払義務の範囲」を「本件無保険車傷害条項1条2項1号にいう『自賠責保険によって支払われる金額』の意義」と,14頁1行目の「22904万3370円」を「2904万3370円」と,17行目を次のとおり,それぞれ改める。

「(ア) 1審被告会社が本件無保険車傷害条項に基づいて支払うべき保険金額を算定するについて前提とする損害の額は,『賠償義務者が被保険者またはその父母,配偶者もしくは子が被った損害に対して法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額』(本件無保険車傷害条項9条1項,以下「賠償責任額」という。)であり,これには1審原告らが本件事故により被った損害に対する遅延損害金は含まれない。

1審被告会社は,賠償責任額を確定し,自賠責保険から支払われる額等を控除した後の残額を無保険車傷害保険金として支払う義務を負うが,その保険金に対する遅延損害金の起算日に関して,本件保険契約約款(丙1)には以下の趣旨の規定がある(第6章 一般条項20条1項3号,2項,21条等)。」

(4)  原判決14頁21行目の「保険金請求権発生の時から60日以内」を「保険金請求権発生の時の翌日から起算して60日以内」と,24行目の「手続をした日から30日以内」を「手続をした日からその日を含めて30日以内」とそれぞれ改める。

第3争点に対する当裁判所の判断

1  当裁判所も,争点1(過失相殺)については,1審被告Cの重大な過失が認められ,それとの対比上,1審原告Bの過失は斟酌すべきものではないと判断し,争点2(1審被告Dらの責任)については,同1審被告らの自賠法3条の運行供用者責任を肯定でき,争点3(損害)については,原判決認容のとおりの損害の発生を認めることができ,争点4(無保険車傷害保険金の支払義務の範囲)については,控除すべき自賠責保険金額は,自賠責保険の査定により現実に支払われた保険金額と解すべきであり,賠償責任額に対する遅延損害金は含まれない趣旨と解釈され,結局,1審原告らの1審被告C,同D及び同Eに対する請求は原審認容の範囲で相当であるが,1審被告会社に対する請求で原審が認容した一部(確定遅延損害金を認容した部分)は相当でないと判断する。その理由は,当審での主張も踏まえて次のとおり改め,2項に判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第4 裁判所の判断」の1ないし4のとおりであるからこれを引用する。

(1)  争点1(過失相殺)に関する部分

ア 原判決15頁23行目を「ア 本件交差点付近の概略は別紙図面のとおりであり,本件交差点は,東西に通ずる車道幅員約8.9メートル(片側各1車線で外側線の外に各幅員0.8メートルの部分がある。)で」と,16頁1行目の「東西道路」を「東西道路(本件道路)」と,2行目の「はみ出し禁止」を「追い越しのためのはみ出し禁止」と,14行目から15行目にかけての「しかし、約2.6メートル進んだ地点で突然右側から被告車が現れて乳母車に衝突した。」を「しかし,外側線から約2.6メートル進んだ地点で本件乳母車の右側に1審被告車が衝突した。1審原告Bは,右方120メートルの地点に自動二輪車を認めてから衝突されるまでの間,再度右方向の安全を確認しなかった。」と,19行目の「歩道上にいる原告B」から21行目より22行目にかけての「走行を続けたことから、」までを「歩道の車道際に佇立していた1審原告Bと路側帯に下ろされていた本件乳母車を発見し,1審原告Bが西(自車の反対)方向を向いていたことから,横断しようとしていることは分かったが,まだ横断しないだろうと考え,その後の1審原告Bの動静を注視することなく,漫然と同一速度で走行を続け,」とそれぞれ改め,25行目から17頁16行目までを削る。

イ 原判決18頁2行目の「 本件事故のように、」から10行目までを次のとおり改める。

「 以上の事実によると,1審被告Cは,衝突地点の手前約70メートル地点で1審原告Bと本件乳母車を認め,自車の進路を横断しようとしていることに気付きながら,まだ横断しないだろうと軽信し,衝突地点の手前約20メートルに至るまでの約50メートルを走行する間(約2ないし3秒間),1審原告Bと本件乳母車の動静に注意をしていなかったものであり,1審原告Bが東(自車)方向を向かないままであった状況及び本件乳母車が動き始めた状況を全く認識しないまま,時速70キロメートルの高速度で運転を継続したのであるから,1審被告Cの前方注視義務違反及び減速義務違反の過失の程度は重大である。

これに対し,1審原告Bも,右方120メートル先に接近してくる1審被告車を認めながら,横断開始直前に右方向の安全を再確認しなかった過失が考えられないではない。

本件事故のように,歩行者が横断歩道のない交差点又はその直近を横断しようとして,直進してきた車両と衝突した場合には,通常は,歩行者に2割程度の過失相殺をされる場合が多い。しかし,本件事故は,1審被告Cが,教習所で履修すべき急制動,回避,交通の状況及び道路環境に応じた運転,危険予測,バランス走行の各科目を履修しないまま,1審被告車を無免許で,制限速度を大幅に超過する速度で走行させ,更に,1審原告Bが横断しようとしていることに気付きながら,その動静に対する注視を怠ったという重大な過失によるものであるから,このような1審被告Cの重大な過失と対比した場合,歩行者であった1審原告Bの上記過失を斟酌することは,損害の公平な分担を理念とする過失相殺の法理に照らして相当でなく,これを斟酌しない。1審原告側にも過失相殺として1割を斟酌すべきであるとする1審被告らの主張は採用できない。」

(2)  争点2(1審被告Dらの責任)に関する部分

ア 原判決19頁4行目の「保証人となることを承諾した。」を「保証人とされたことを事後承認した(1審被告Dは,当審において,保証人とされたことを知ったのは本件事故後であると主張するが,1審被告Cの原審供述(364丁)に照らして上記主張は採用できない。)。」と,10行目を「自宅敷地前の有蓋側溝上に駐車,保管し,同人らもこれを黙認していた。」とそれぞれ改める。

イ 原判決19頁20行目から20頁2行目までを次のとおり改める。

「イ 上記認定の事実,特に,①1審被告Dらは,成人して間もない1審被告Cを自宅に同居させてその住居費,食費等を負担し,その生活費を援助していたこと,②1審被告Dらは,1審被告車を自宅敷地前の有蓋側溝上に駐車,保管することを黙認していたこと(1審被告Dらが同有蓋側溝部分につき何らかの権利を有していた事実を認める証拠はないが,同人らが反対すれば1審被告Cにおいて自宅敷地前有蓋側溝上に自動二輪車を駐車し続けることは困難であったと推認される。),③1審被告Dは,1審被告Cが1審被告車を購入するためのローンの保証につき事後承諾し,更に,1審被告Dらは,1審被告Cの生活費を援助することにより,同人が1審被告車購入のためのローン資金を捻出することを助けていたこと等を総合考慮すれば,1審被告Dらは,1審被告車の運行を事実上支配,管理することができ,社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にあったということができ,同人らは1審被告車の運行供用者に当たると解することができる。」

ウ 原判決20頁3行目から14行目までを削る。

(3)  争点3(損害)に関する部分

ア 原判決22頁3行目の「平成12年6月」から5行目の「治療を受け」までを次のとおり改める。

「平成12年6月から平成13年11月までの1年半の間(実通院日数27日),同病院で治療を受け(甲8,甲21の1ないし27),更に,平成14年4月から同年6月までの間に3回,武蔵野女子大学人間関係学部教授G(精神科医師・臨床心理士)の面接ないし心理検査を受け」

イ 原判決24頁11行目の「自賠責保険からの支払金2904万3370円に対する」を「自賠責保険からの支払金2904万3370円によって弁済された損害に対する」と改める。

(4)  争点4(無保険車傷害保険金の支払義務の範囲及び遅延損害金の起算日)に関する部分

ア 原判決25頁5行目の「本件保険契約の」を「本件保険契約に関する約款の」と,7行目の「当事者間に争いがない。」を「上記(原判示)のとおりである。」と,14行目から24行目までを次のとおりそれぞれ改める。

「ウ ところで,死亡事故の場合に支払われる自賠責保険の最高額は3000万円であるところ,現実に支払われる金額は何らかの理由により減額査定され,上記最高額に満たない場合もある。本件においては2944万0360円と査定され,2904万3370円が1審原告Aを通じて1審原告らに支払われ,39万6990円が1審被告Cに支払われ,後者も1審原告らに支払われたものであるが,後者については,本件で請求されている損害以外の本件事故により1審原告らに生じた損害のために支払われたものである〔甲14,17,18,弁論の全趣旨(1審原告ら2001年11月14日付準備書面)〕。上記のとおり,無保険車傷害保険金については,自賠責保険により支払われる金額が差し引かれるものではあるが,上記無保険車傷害保険の趣旨を考慮すれば,この自賠責保険により支払われる金額は,特段の事情のない限り,自賠責保険により査定されて現実に支払われた額であると推認できる。してみれば,本件においては,自賠責保険により支払われる金額は上記2944万0360円と認められ,上記特段の事情についての立証はない。そして,その内39万6990円については,上記のとおり本件で請求されている以外の損害のために支払われたものであるから,これを本件で考慮することは相当でなく,結局,本件無保険車傷害保険金の支払義務において考慮すべき自賠責保険により支払われる金額は2904万3370円と解される。

よって,1審被告会社の主張は採用できない。」

イ 原判決26頁7行目の「イ しかし、一方、本件保険契約の無保険車傷害条項には、」を次のとおり改める。

「イ ところで,無保険車傷害保険は,責任保険ではなく,車両保険と同様の実損填補型の損害保険であるところ,損害保険給付の範囲を画する実損害の範囲は,本件無保険車傷害条項9条1項(丙1の263頁)によると,賠償義務者が被保険者等に対して法律上負担すべきものと認められる賠償責任額であると定められている。そして,賠償責任額を規定する本件保険契約約款の賠償責任条項13条(丙1の258頁から259頁)によると,保険会社は,一定の場合には,契約保険金額を限度として支払う賠償責任額(同条1項1号)とは別に,すなわち契約保険金額の限度外で「訴訟の判決による遅延損害金」を支払うと定めている(同条2項3号)ことを考慮すると,本件保険契約約款は,賠償責任額の中にはこれに対する遅延損害金を含めないことを前提としていると解される。

ウ そうすると,賠償責任額には事故日からの遅延損害金も含まれるとする1審原告らの主張は採用できないものであり,1審原告らは1審被告会社に対して,保険金額(賠償責任額から自賠責保険の給付額等を控除した後の額)に対する遅延損害金を請求できるに過ぎない。そして,本件保険契約の一般条項20条(丙1の271頁)には,」

ウ 原判決26頁10行目から11行目にかけての「保険金請求権発生の時から60日以内」を「保険金請求権発生の時の翌日から起算して60日以内」と,13行目の「手続をした日から30日以内」を「手続をした日からその日を含めて30日以内」と,15行目から16行目にかけての「規定があることも当事者間に争いがない。」を「規定がある(丙1)。」とそれぞれ改める。

エ 原判決26頁17行目から23行目の「エ」までを次のとおり改める。

「エ 次に,本件無保険車傷害条項による保険金支払債務の履行期について検討するに,上記のように,①無保険車傷害保険は,責任保険ではなく,車両保険と同様の実損填補型の損害保険と解され,自賠責保険金等の上積み保険としての性格を有すること,②その保険約款には,その保険金請求権は,被保険者が死亡した時または被保険者に後遺障害が生じた時から発生し,行使することができると定められていること等を考慮すると,本件無保険車傷害条項による保険金支払債務の履行期は,保険金請求権者が保険金の請求手続をした日を含めて30日を経過したときと解することができる。

1審被告会社は,本件無保険車傷害条項による保険金支払債務の履行期は,1審原告らと1審被告Cらに対する本件判決の確定時であると主張し,確かに,本件無保険車傷害条項9条2項(丙1の263頁)には,賠償責任額を確定する手続として,保険者(1審被告会社)と保険金請求権者(1審原告ら)との間で協議が成立しないときは,訴訟等の手続によって賠償責任額を決定すると定めており,上記1審被告会社の主張に沿うかのごとくである。

しかし,①上記のとおり,約款には保険金請求権の発生時期として上記のような明確な定めがあること,②賠償責任保険の場合には,加害者と被害者との訴訟等で損害賠償請求権が確定するまで賠償義務の範囲が確定せず,それまでは保険金請求権の履行期も到来しないと解されているが,その間の遅延損害金も保険金に含めて支払われることとなるとされているのに対し,無保険車傷害保険の場合には,上記のとおり損害額に対する遅延損害金は保険金に含まれているとは解されないから,保険金請求権の履行期を1審被告会社主張のように解すると,被害者の救済に欠ける場合が生ずるおそれが大きいこと,③上記賠償責任額を確定する手続は,履行期を定めたものではなく,客観的に定まり,履行期も到来している賠償責任額につき,当事者間に争いがあるときに,それを訴訟で解決するとの手続を定めたものに過ぎないと解することも十分に可能であること等に鑑みると,1審被告会社の上記主張は採用できない。

オ」

オ 原判決27頁7行目の「オ」を「カ」と,9行目の「2日から」を「2日を含めて同日から」とそれぞれ改める。

2  前項で触れた以外の当審主張について

(1)  1審被告Dらの運行供用者責任について

1審被告Dらは,1審被告Cが常勤でコックとして働いて定収入を得ていた者であり,成人に達してから1審被告Dらに無断で1審被告車を自己名義で購入し,購入費用と維持費を自分の収入でまかなっていたことなどを勘案すると,1審被告Dらには1審被告車に関する運行利益はもちろんのこと運行支配もなかったと主張する。

しかし,上記(原判示を含む。)のとおり,成人に達したばかりの1審被告Cの収入は,定収入とはいっても月額手取12万円ないし13万円と少なく,66万円もする1審被告車を購入しこれを維持するには,ローン保証や自宅前での管理について1審被告Dらの事後承認を得るほか,1審被告Dらに生活費を依存しなければならなかったと認められるから,1審被告Cが1審被告車を単独で購入するには1審被告Dらの多大の援助があったからこそ可能であったもので,実質的には1審被告Dらとの共同購入に等しいと評価すべきことなどを踏まえると,1審被告Dらが1審被告車の運行供用者であったことを否定することはできない。

(2)  1審原告BのPTSDについて

1審被告Dらは,1審原告BのPTSDについて,そもそもPTSDはその診断基準が統一されておらず,その発病機序も明らかでないこと,この症状は特別事情による損害であり一般的予見可能性がないこと,民法711条が近親者の精神的被害に対し慰謝料を認めているのに,更にPTSDによる損害を認めるまでもないこと,1審原告BのPTSDには同人に固有の生育歴や生活歴の寄与があり,すべてを本件事故の結果とすることはできないこと等を主張する。

しかし,上記(原判示を含む。)のとおり,1審原告BのPTSDについては精神科医師2名による診断と検査を受け,治療を受けたものであり,事故後3年余にわたってその症状が遷延した事実が認められるのであるから,民法711条が予定する近親者の精神的被害の域を優に超え,1審原告B自身が本件事故により病的な精神的損傷を受けたということができ,その慰謝料として,PTSD被害を受けなかった1審原告Aよりも300万円の慰謝料を加算した原審判断が不相当であるとはいえない。

(3)  中間利息控除について

1審原告らは,Fの逸失利益の中間利息控除の利率として年5%が是認されるのは,法定利率が5%であることに有力な根拠があるのだから,現行法制の遅延損害金が単利を用いていることを踏まえると,複利式のライプニッツ方式ではなく単利のホフマン方式を用いるべきであると主張する。

しかし,法定利息が5%であるという点は,中間利息控除の利率として年5%を肯定する1つの根拠であるに過ぎないから,中間利息控除の方式が現行法制の遅延損害金と同様に単利でなければならないということはできず,本件事案の損害算定全体に照らしてみたとき,Fの逸失利益計算においてライプニッツ方式を採用したことが不相当であるということはできない。

3  以上によれば,1審原告らの1審被告C及び同Dらに対する自賠法3条に基づく請求は原審認容の限度で理由があり,1審原告らの1審被告会社に対する保険契約に基づく請求は,同C及び同Dらに対する上記認容損害額から確定遅延損害金分を除いた額と平成13年5月2日以後の遅延損害金の限度で理由がある。なお,1審原告らの1審被告C及び同Dらに対する民法709条及び債務引受契約に基づく請求についても上記認容の限度を超えて認めることができない。

第4結論

よって,原判決中,1審被告会社に関する部分を1審被告会社の控訴に基づき上記にしたがって変更し,1審被告C及び同Dらに関する部分は相当であって,同1審被告らの控訴及び1審原告らの附帯控訴はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担を定めて,主文のとおり判決する。なお,原判決の仮執行宣言中1審被告会社に関する部分は,原判決が維持された範囲で残存する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 安間雅夫 裁判官 佐藤真弘)

(別紙図面添付省略)

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