名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)242号 判決 2003年7月16日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が,控訴人の経営する病院で脳動脈瘤破裂予防手術を受けたところ,脳梗塞になり,これによる後遺障害を有するに至ったが,この後遺障害の発生は同病院の医師の過失又は不完全履行によるものであるとして,控訴人に対し,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき,損害賠償として9347万9115円及びこれに対する不法行為又は不完全履行の日である平成8年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,被控訴人の脳梗塞は,担当医師が右内頸動脈の動脈瘤(以下「本件動脈瘤」という。)のクリッピング術をした際の手技上の過失により右前脈絡叢動脈が閉塞したとして,不法行為(使用者責任)の成立を認め,被控訴人の請求を一部認容したので,控訴人が控訴したものである。
2 争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,以下に付加するほか,原判決の「第2事案の概要」の各該当欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決12頁2行目の「右」を「上記」と改める。
3 争点(1)(本件手術を担当したA医師及びB医師(控訴人担当医師)に手技上の過失があったか否か)に対する控訴人の当審主張
(1) 原判決について
ア 原判決は「…B医師は…他方で出血のために視野が悪く,右前脈絡叢動脈の起始部を目視することは困難であった上,本件動脈瘤のクリッピングに際しては,一つのクリップについては3回,もう一つのクリップについては5回のかけ直しがされたことが認められる」とし,「以上の事実に鑑定結果においても,クリップにより右前脈絡叢動脈が起始部の近くで屈曲,狭窄を来した可能性を否定できないとしていることを併せ考慮すると,B医師の本件動脈瘤のクリッピングの過程において,あるいはクリップをした結果,右前脈絡叢動脈が起始部の近くで屈曲,狭窄を来し,あるいは損傷され,もって右前脈絡叢動脈が閉塞したものと推認するのが相当である」としている。
しかし,原判決は「クリップをかけ直すことにより生じる様々なトラブルを防ぐために,できるだけクリップはかけ直さないこととされていることが認められる」としているが,本件の場合,クリップのかけ直しは脳動脈瘤の閉塞を完全にするためのものであり,穿通枝障害とは全く異なる事実である。
もちろん,クリップが1回で完全にかかり動脈瘤を閉塞することができれば問題はないが,実際には何度もかけ直して動脈瘤の閉塞を完全にすることが必須である。むしろクリップのかけ直しを避けて動脈瘤の不完全閉塞のために再出血し,重大な結果がもたらされることが初学者に見られる事実である。原判決の云う如く「できるだけクリップはかけ直さないこととされている」という見解は,脳神経外科学会においての定説ではないし,実証された証拠に基づかない一方的な見解というべきである。ビデオ(甲12)を見れば明らかなように,出血で見にくいなどということは全くない。また,クリップは一度だけの操作で満足のいくクリッピングなどできないのが通常であり,いかなる動脈瘤でも一般的に最低3回ないし4回の操作(かけ直し)が行われているのである。
イ 原判決は「穿通枝の起始部を目視することが困難であった上」と認定しているが,明らかに証拠に基づかない事実の認定である。本件においては,当然のことながら手術顕微鏡下において手術が行われているのであり,手術顕微鏡下において穿通枝の起始部が確認されていたのであり,そのために動脈瘤の完全閉塞を目指して数回のクリップのかけ直しが行われていたものである。すなわち,B医師は,内頸動脈の背側の血管壁の修復と再出血予防,同内頸動脈の出血部の裏側に存在する動脈瘤頸部の完全閉塞を目的として,右前脈絡叢動脈の起始部を視認しながらクリッピングを行ったものであり,右前脈絡叢動脈支配領域の梗塞が結果として観察されたからといって,B医師の上記手術操作を手技上の過失と断じることは許されないというべきである。
ウ 原判決の認定は,誤った認定事実を前提とした推論であるに過ぎず,これをもって担当医の手技上の過失と認定することは,証拠に基づいた合理的な推認とは到底いえないものである。
エ 原判決の認定方法によれば,動脈瘤のクリッピングにおいて障害が発生した場合は常に担当医の手技上の過失が認定されることになる。本件においては,我が国の脳神経外科学会の先達会員の脳外科医が本件のような動脈瘤のクリッピングに対して,有窓クリップの開発,また動脈瘤の母血管に対して長軸方向にきっちりと正しくクリップをかけるというような手技を綿々と築き上げてきたものであり,現時点においては完成の域に達しているものである。本件のごとく,穿通枝を損傷しておらず,完全なクリッピングをし,かつ穿通枝が温存されているにもかかわらず,結果として穿通枝の血液の通過障害が発生したとしても,それは現代医学の水準から考えて,まさに予測不可能のことであり,それをもって原判決のごとく手技上の過失を即断することは許されない。
(2) 原審鑑定について
原審鑑定人は,「証拠物件の術中ビデオテープからはクリッピングに際し,直接右前脈絡叢動脈を損傷したようには考えられない」と既述しながら,一転して「しかしながら(クリッピング後の同血管の起始部の状態がビデオテープではよく確認できないが)同血管は細い血管であり,クリップにより同血管が起始部の近くで屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」としている。
しかし,原審鑑定人は,「クリッピング後の同血管の起始部の状態が確認できない」といいながら,何故に「屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」という結論になるのか全く理解できない。原審鑑定人は,その理由として単に「同血管は細い血管であるから」ということだけをあげるが,同血管が細い血管であることは公知の事実である。
原審鑑定人は起始部の状態を確認していないが,「証拠物件の術中ビデオテープからはクリッピングに際し,直接右前脈絡叢動脈を損傷しないように非常に慎重に丁寧に施行しており,また同動脈を損傷したようには考えられない」といい,「本件クリッピング手術と脳梗塞との間に関連はあると考えられるが,手技上過失とは断定できない」とまで記述しているのである。
それなのに何故突如「クリップにより同血管が起始部の近くで屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」とした飛躍した結論に至るのであろうか。
そこに納得のいく説明や根拠を示さず,理由付けは全くないばかりか,全く前後矛盾した記述をしているのである。
以上のように原審鑑定は矛盾に満ちたものであり,何をもって担当医師の過失というのか理解できない。原判決も同様であり,前後矛盾した原審鑑定書の中の「同血管が起始部の近くで屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」という理由を示さない記述のみを援用しているにすぎない。
4 控訴人の当審主張に対する被控訴人の応答
(1) 控訴人の当審主張(1)のアないしウは争う。被控訴人の当審主張(1)のとおり過失がある。
(2) 同(1)のエは争う。B医師には手技上の過失がある。
(3) 同(2)は争う。本件は,手術直後に脳梗塞が発症している事実からして,穿通枝障害があったことは明らかな事案である。すなわち,本件においては手術の翌日(平成8年4月26日)の頭部CT写真に既に脳梗塞の所見が認められているのであり,この所見から,被控訴人の脳梗塞の原因が脳血管攣縮によるものではなく穿通枝障害であることは明らかである。
5 被控訴人の当審主張
(1) 争点(1)について
ア 穿通枝を温存するためには,穿通枝の走行を確認することはもちろん起始部が動脈瘤と癒着している場合には十分な剥離を行い,クリッピング後にも起始部等で穿通枝を閉塞していないか確認することが重要である。特に本件で問題となっている前脈絡叢動脈は,術野において,内頸動脈の真裏から出ていることが多いので,顕微鏡下での確認では不十分であり,マイクロミラーや内視鏡で確認することが必要である。
当審においてB医師は,前脈絡叢動脈の起始部を確認したと証言するが,オリジナルビデオテープ(乙14の1・2)において起始部の確認がなされているとは到底いえないし,原審鑑定人もこれを指摘するところである。
また,前脈絡叢動脈の確認のためには,マイクロミラーや内視鏡による確認が重要であるが,B医師はマイクロミラーも内視鏡も使用しなかったのであり,その確認が不十分であることは明らかである。
イ 本件において,控訴人担当医師は,前脈絡叢動脈に損傷・狭窄・屈曲等による障害を発生させないよう慎重にクリッピング操作を行うべき注意義務がある。
ところが,本件においては,内頸動脈の出血のため手術部の視野が悪く,内頸動脈以外の血管が同定しえない状態であったにもかかわらず,視野を十分に確認できるよう手術部を洗浄するなどの処置が行われていない。
そして,クリップのかけ直しは穿通枝障害等のトラブルの発生を防ぐため,できるだけ避けるべきであるところ,本件では1個目のクリップについては3回,2個目のクリップでは5回クリッピングされているところ,クリッピング前にB医師は,マイクロミラーや内視鏡を使用することにより,前脈絡叢動脈など穿通枝の起始部とともに,内頸動脈の裏側に位置している動脈瘤の頸部の確認ができたにもかかわらず,マイクロミラー等を使用せず,十分確認を行わないまま,避けるべきとされているかけ直しを前脈絡叢動脈分岐部の動脈瘤に対し,一旦クリップをかけてまた外すという試行錯誤のクリッピングを行ったのであり,その過失は明らかである。
動脈瘤クリップは,脳動脈瘤を閉鎖する以外の目的で使用することは禁忌とされ,クリップの上にクリップをかけるという方法で使用されるのは,ブースタークリップという特殊なクリップに限られる。B医師が当審において証言するとおり1個目のクリップの上に重ねて2個目のクリップをかけたのであれば,細い金属の上に細い金属が重なっている状態であり,2個目のクリップが滑脱して前脈絡叢動脈を閉塞すると考えられるのである。
ウ 本件では,前脈絡叢動脈という重要な穿通枝分岐部の動脈瘤に対するクリッピング手術を行うのであるから,その血流を確認するためにドップラー血流計による血流確認を行うことは必須である。ドップラー血流計による術中モニタリングは簡便で,かつ経済的であり,地域の中核病院である控訴人病院が平成8年当時これを使用することは可能であった。
また,脳動脈瘤手術におけるモニターとしては,電気生理学的検査を行うことが可能であり,穿通枝の障害の有無の確認には,体性感覚誘発電位(SEP)が有効であるとされているが,本件ではこれも用いられていない。
本件においても,前脈絡叢動脈の障害の確認のためにドップラー血流計やSEPによるモニターを行っていれば,早期にしかも可逆的変化のうちに前脈絡叢動脈の障害を確認し得たはずである。
したがって,B医師には,ドップラー血流計やSEPを使用しなかった過失がある。
エ 控訴人は,被控訴人の脳梗塞は,手術操作による機械的刺激により生じた脳血管攣縮によるものである旨主張する。しかし,手術時の機械的刺激といった一次的,一過性,局所的な血管の攣縮によっては,脳梗塞を発症させるまでにはいたらない。脳梗塞を発症させるなど臨床上問題となる脳血管攣縮は,クモ膜下出血4日目ころから見られる脳血管攣縮である。すなわち,脳動脈瘤が破裂し,クモ膜下腔に血液が流れ込むと,血液の分解産物がクモ膜下腔を走る動脈を刺激して,長期間(1~2週間)血管の攣縮が誘発され,これにより虚血症状,すなわち脳梗塞がもたらされるのである。「血管攣縮は,その他の頭蓋内疾患の脳血管撮影ではほとんど見られないことから,脳動脈瘤破裂後に見られる特徴的現象である。」(甲21~23)とされているのである。
この点,原審鑑定人も,血管攣縮につき「通常未破裂動脈瘤の手術で脳梗塞に至るような血管攣縮が発生することは極めて少ない」(原審鑑定書3頁)と,婉曲な表現ではあるものの,控訴人の脳血管攣縮による脳梗塞との主張を否定している。また,同鑑定書は,「同血管(前脈絡叢動脈)は細い血管であり,クリップにより同血管が起始部の近くで屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」(同3頁)とされており,他に被控訴人の脳梗塞の原因について言及はない。
以上より明らかなとおり,被控訴人の脳梗塞の原因は,原判決が認定したとおり「クリッピングの過程において,あるいはクリップをした結果,右前脈絡叢動脈が起始部の近くで,屈曲,狭窄を来し,あるいは損傷され,もって,右前脈絡叢動脈が閉塞した」以外の何ものでもない。
(2) 争点(2)(控訴人病院医師に説明義務違反が認められるか否か)について
原判決は,A医師の説明義務違反について判断を行っていないが,この点について論じる。
一般に医師が患者に対して医的侵襲を伴う医療行為を行う場合,患者の自己決定権を保障するため,当該医療行為の内容・目的を説明して患者の同意を得なければならないと考えられており,このような原則はインフォームド・コンセントの法理といわれ,判例も「頭蓋骨陥没骨折の傷害を受けた患者の開頭手術を行う医師には,右手術の内容及びこれに伴う危険性を患者またはその法定代理人に対しても説明する義務がある」(最高裁昭和56年6月19日判決)として基本的にこれを肯定している。
そして,医師が説明義務を履行したとすれば,患者が当該医療行為に同意せず,死亡等の結果が発生しなかったであろうと認められる場合には,説明義務違反と死亡等の結果との間に相当因果関係があるといえるから,逸失利益等の財産的損害も賠償の対象となる。
本件においては,手術をしないという選択肢も取り得たもので,被控訴人は手術には極めて消極的であったのであるから,A医師が説明義務を尽くしていれば,被控訴人は本件手術を受けなかった可能性が高く,後遺障害も発生しなかったものであるから,控訴人は説明義務違反と因果関係を有する被控訴人の後遺障害による損害を賠償する責任を負う。
6 被控訴人の当審主張に対する控訴人の応答
(1) 被控訴人の当審主張(1)のアは争う。控訴人の当審主張(1)のとおり,B医師は,前脈絡叢動脈の起始部を視認しながらクリッピングを行っている。その際,B医師は,マイクロミラーや内視鏡は使用していないが,顕微鏡下で前脈絡叢動脈の起始部や脳動脈瘤の頸部が確認できたので使用しなかったものである。被控訴人は,オリジナルビデオテープで起始部の確認ができないと主張するが,控訴人病院で使用していたビデオは質が低く,映像は暗く不鮮明であるけれども,手術に使用した顕微鏡は明るく立体的に見ることができたので,前脈絡叢動脈の起始部は顕微鏡下では十分に視認,確認できた。
(2) 同(1)のイは争う。控訴人の当審主張(1)のとおりである。なお,2個目のクリップは脳動脈瘤を閉鎖するものではなく,裂けた内頸動脈を補強する意味で綿シートと2個目のクリップを使用したものである。
(3) 同(1)のウは争う。頭蓋内の内頸動脈等の数㎜の血管に対しては,現在でもドップラーを使用して脳動脈瘤クリッピング直後の母血管の血流の有無,血流量を手術中に観察している。しかし,前脈絡叢動脈のような1㎜にも満たない小さい血管に対応するドップラー血流計は,当時(平成8年)用意されてなく,利用不可能であった。現在においても,利用できるドップラー血流計で前脈絡叢動脈を血流信号を得ようとしても,その近傍の内頸動脈などの大きな血管の血管信号を拾ってしまい,確実な前脈絡叢動脈の血流信号は得られないのが医療の現場である。
また,SEPモニターについても,被控訴人病院においては,脳動脈瘤の手術の際に使用されてなく,当時の平均的な病院の平均的な脳神経外科医は,脳動脈瘤手術の際にSEPモニターを使用していない。
(4) 同(1)のエは争う。被控訴人の手術時の機械的刺激といった一次的,一過性,局所的な血管の攣縮によっては,脳梗塞を発症させるまでにはいたらないとの主張は,何の裏付けもない独断的な意見にすぎない。また,被控訴人は,クモ膜下出血後にみられる「脳血管攣縮」を持ち出してるる主張し,原審鑑定人も控訴人の主張を否定している旨主張するが,控訴人は未破裂脳動脈瘤の手術に伴う血管攣縮を問題としているのであり,原審鑑定人も,手術後の脳血管攣縮による脳梗塞の発生することを否定していない。術後に発生する脳血管攣縮の発生機序についてはいまだ解明されておらず,また脳血管攣縮についての研究論文も少なく,原審鑑定人も十分な言及ができなかったにすぎない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件手術を担当したA医師及びB医師(控訴人担当医師)に手技上の過失があったか否か)について
(1) 本件手術の経緯について
上記(引用にかかる原判決)争いのない事実等に証拠(甲7,9,12,乙6,9~11,13の1~10,14の1・2,15,原審証人A,同C,原審鑑定結果,当審証人B,同D)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められる。
ア 平成8年4月9日の脳血管造影検査の結果,被控訴人の右内頸動脈に直径9㎜の本件動脈瘤のほか,左中大脳動脈に直径3.5㎜の,脳底動脈に直径5.5㎜の各動脈瘤が発見され,このうち,まず,右内頸動脈にある本件動脈瘤と脳底動脈にある動脈瘤について,開頭術による動脈瘤頸部クリッピング術の方法で,破裂予防手術(本件手術)が行われることになった。
イ 同月25日午前11時02分から,脳神経外科医長のE医師の立会の下で,A医師により,本件手術が行われた。
ウ A医師は,まず,被控訴人のくも膜等を剥離し,脳底動脈の動脈瘤をクリップした。
エ 次に,A医師は,右内頸動脈にある本件動脈瘤のクリッピングにとりかかることとし,脳底動脈と上小脳動脈分岐部の動脈瘤を確認できたため,内頸動脈と動眼神経の間から進入しようとして,内頸動脈を脳ベラによって圧排した。ところが,内頸動脈の伸展により,その背側(内頸動脈の動脈瘤と反対側)から多量の出血が起こった。そこで,A医師は,吸引と圧迫により止血を試み,止血できたことから,その後,内頸動脈と動眼神経の間からブレードの長いチタン製のクリップでクリッピングした。
オ B医師は,本件手術に立ち会う予定はなく,控訴人病院の外来で診療に当たっていたが,上記多量出血があったため,手術室に呼ばれて本件手術に立ち会うことになった。
カ A医師は,右内頸動脈にある本件動脈瘤のクリッピングにとりかかったが,右前脈絡叢動脈が本件動脈瘤に強く癒着しており,そのままではクリップが掛けられない状態で,手技が難しいことが分かったため,執刀医をB医師に交代し,本件動脈瘤のクリッピングは,B医師が行うことになった。
キ B医師は,まず,マイクロ剥離子を使って,癒着している本件動脈瘤と右前脈絡叢動脈を剥離する作業を行い,その後,本件動脈瘤のクリッピングに取りかかった。
ク しかし,出血が多く,手術部の視野が悪くなっていたことや,右内頸動脈と右前脈絡叢動脈の分岐部(右前脈絡叢動脈の起始部)が右内頸動脈の裏側(術者から見て)にあって隠れていたことから,本件動脈瘤をクリップする際,上記分岐部を目視することは困難であった。
ケ そのため,B医師は,有窓クリップを使って,慎重に,本件動脈瘤の頸部をクリップする作業を行い,一旦はクリップを掛けたものの,取り外した上,2回目のクリッピングをしたが,これもかけ直して3回目のクリッピングをした。1回目のクリッピング後,3回目のクリッピングが終了するまでの間に要した時間は,約15分であった。
コ その後,B医師は,本件動脈瘤の頸部を2本目の有窓クリップにて,1本目の有窓クリップと向かい合う形(左右で挾む形)でのクリッピングに取り掛かり,1本目のクリップ終了時から約2分30秒後にクリッピングを終えた。しかし,その後,2本目のクリップを取り外し,上記右内頸動脈の背側を脳外科手術用綿で覆った上,再度有窓クリップ(2本目)を使用してクリッピングをしたが,また取り外した。その後,3回目のクリッピングをしたが,これもまた取り外し,4回目のクリッピングにとりかかり,クリップを掛けたものの,これもまた取り外した。そして5回目のクリッピングにてクリッピング作業を終えた。2本目のクリップのクリッピングに要した時間は,1回目のクリッピング後,4回目のクリッピングで掛けたクリップを取り外すまでが約22分であり,4回目のクリッピングで掛けたクリップを取り外してから,5回目のクリッピングが終了するまでの間に要した時間は,ビデオテープ(乙14の1・2)が途中で切替わったため,正確な時間は不明であるが,少なくとも3分は要した。
サ 上記クリッピングの作業中,1本目のクリップのクリッピング作業においては,B医師は,右前脈絡叢動脈の血流を時々確認し,右内頸動脈を金属スティックで押しのけて同動脈の裏側にある右前脈絡叢動脈の起始部を確認しようとすることもあった。しかし1本目のクリップを掛けた後は,B医師は,右前脈絡叢動脈の起始部の確認作業を特に行わず,2本目のクリップ作業が終了した段階においても,同動脈の起始部の確認作業はしなかった。もっとも,上記クリッピング作業により,右前脈絡叢動脈を損傷したような形跡は見られない。
シ 本件手術においては,マイクロミラー,内視鏡,ドップラー血流計,SEPモニターが使用されたことはなかった。
ス 本件手術は,同日午後7時38分に終了し,被控訴人は同日午後8時10分に手術室から退出し,自室に戻った。
セ 看護師が,同日午後9時10分に被控訴人の状態を確認したところ,疼痛刺激にて両上肢,右下肢に動きが認められた。同日午後10時には,被控訴人は右手離握手はでき,右下肢の膝立もできたが,左上下肢は右に較べると動きが弱かった。同日午後11時には,被控訴人は右上下肢は命令動作ができたが,左下肢はバビンスキー反射にて少し動く程度であった。
ソ 看護師が,翌26日午前2時に被控訴人の状態を確認したところ,左上下肢が全く動かず,刺激にも反応しなかった。そこで看護師は,E医師に様子を見てくださいと報告した。そして,同日中に行われたCT検査の結果,2か所に低吸収域が認められ,そのうち,一つは,手術中の脳圧排に伴う脳挫傷の所見と考えられたが,もう一つは,右前脈絡叢動脈の閉塞による脳梗塞巣であると認められた。
(2) 被控訴人に発症した脳梗塞の原因について
上記認定事実によれば,被控訴人に本件手術後に発症した脳梗塞は,右内頸動脈にある本件動脈瘤のクリッピング手術の際に生じた右前脈絡叢動脈の閉塞によるものと認められる。
なお,控訴人は,原審において,平成8年4月26日のCT検査により認められたもう一つの低吸収域も脳梗塞によるものであると主張するが,原審鑑定結果によれば,同主張は採用できない。
(3) 脳梗塞の発症原因について
ア 証拠(甲2,25,36の1・2,原審鑑定結果,当審証人D)によれば,一般に未破裂脳動脈瘤手術後,穿通枝障害を来した例については,その発生原因は手術操作によるものが多く,中でも脳ベラによる穿通枝の圧迫,動脈瘤剥離中における穿通枝の損傷等の技術的な問題によることが多いこと,とくに,前脈絡叢動脈等の穿通枝は,クリップによって生じる屈曲,狭窄により閉塞しやすいこと,また,クリップをかけ直すことにより生じる様々なトラブルを防ぐために,できるだけクリップはかけ直さないこととされていること,有窓クリップはバネ圧が高いため,ネック近傍での内膜損傷を考慮し,かけ直しは極力少なくすることとされていることが認められる。
本件においては,上記のとおり,B医師は,被控訴人の本件動脈瘤のクリッピングを慎重に行っており,その際に右前脈絡叢動脈を損傷した形跡は窺えないものの,他方で,出血のために視野が悪く,また右前脈絡叢動脈の起始部が右内頸動脈の裏側(術者から見て)にあることから,右前脈絡叢動脈の起始部を目視することは困難であった上,本件動脈瘤のクリッピングに際しては,1本目のクリップについては3回(所要時間約15分),2本目のクリップについては5回(所要時間は少なくとも約25分)のクリッピングが行われたことが認められる。
なお,控訴人は,当審において,2本目のクリップは,本件動脈瘤を閉鎖するものではなく,裂けた内頸動脈を補強する意味で綿シートととともに使用したものである旨主張し,当審証人Bの供述にも同主張に沿う部分がある。
しかしながら,原審証人Aは,有窓クリップを2個使用した理由として「この場合は,ネックという首根っこの間口がかなり広かったもんですから,一つのブレードでは不安だということで,左右から挾むようにして掛けたんです。」と供述していること,上記のとおり,2本目の有窓クリップを最初に掛けたときは,右内頸動脈の背側を脳外科用手術綿で覆うことなく行っていることを考慮すると,当審証人Bの上記供述はにわかに措信し難い。原審証人A及び当審証人Bの上記各供述を総合すると,2本目の有窓クリップは,本件動脈瘤のネックの間口がかなり広く,1本では不安であったことから,左右から挾むようにして掛けることにしたものであり,その際に,裂けた内頸動脈を補強するために同動脈の背側を脳外科用手術綿で覆い,その上に2本目のクリップを掛けたものと認めるのが相当である。
イ 証拠(甲24,25,当審証人D)によれば,本件手術のように内頸動脈と前脈絡叢動脈との分岐部にある動脈瘤についてクリッピング手術を行う場合,前脈絡叢動脈を温存することが必須の条件であり,目視による場合には,前脈絡叢動脈(穿通枝)の起始部の状態を確認すること,前脈絡叢動脈(穿通枝)の血流の走行を確認することが重要であることが認められる。
本件手術においては,上記のとおり,右前脈絡叢動脈の起始部の確認作業は1本目のクリップを掛け終わった後は特に行われず,2本目のクリップを掛け終わり,クリッピング作業が完了した段階においても行われていない。
なお,控訴人は当審においてB医師は右前脈絡叢動脈の起始部を確認した旨主張し,当審証人Bもこれに沿う供述をするが,証拠(乙14の1・2,原審鑑定結果,当審証人D)によれば,上記のとおり認められるから,B医師の供述は採用できないので,控訴人の主張は理由がない。
ウ また,証拠(甲35,36の1・2,37,39,40,当審証人D)によれば,目視では前脈絡叢動脈の血流を確認するのが困難な場合や確認したと思っても間違っている場合があるため,ドップラー血流計を使用して前脈絡叢動脈の血流を確認する方法も行われていることが認められる。さらに,証拠(甲30,32,34)によれば,ドップラー血流計による方法の他に,SEPモニターによる方法も行われていることが認められる。
本件手術においては,上記のとおり,右前脈絡叢動脈の起始部の確認作業は1本目のクリップを掛け終わった後は特に行われず,2本目のクリップを掛け終わり,クリッピング作業が完了した段階においても行われていない。そして,ドップラー血流計及びSEPモニターによる血流の確認も行われていない。
なお,控訴人は,当審において,ドップラー血流計により右前脈絡叢動脈の血流を確認することはできないし,一般的にも行われていない旨主張し,当審証人Bもこれに沿う供述をする。
しかし,上記証拠によれば,B医師の上記供述は採用できないので,控訴人の主張は理由がない。また,控訴人は,SEPについても同様の主張をし,これに沿う当審証人Bの供述があるが,SEPによる血流確認の方法が行われていることは上記証拠により認められるから,控訴人の主張は理由がない(一般的に行われているかについては,後記のとおりである。)。
エ 上記認定のとおり,本件手術終了後3時間も経過していない段階で右上下肢は動くのに左下肢には動作不良が認められる状態であったことからすると,本件手術終了後の早い段階で脳梗塞の症状が発生していると認められ,その原因としては,右前脈絡叢動脈に損傷がない以上,右前脈絡叢動脈の起始部の屈曲,狭窄による梗塞の可能性が一番高い。
なお,控訴人は,原審及び当審において,右前脈絡叢動脈の閉塞は,控訴人担当医師が右前脈絡叢動脈を本件動脈瘤から剥離した際,そのことによって血管が受ける機械的刺激により血管攣縮が生じたことによるものである旨主張する。
しかしながら,本件において提出された医学的文献のうち,未破裂脳動脈瘤の手術において脳血管攣縮により脳梗塞が発生した旨を記載した文献はなく,血管攣縮については,クモ膜下出血例において出血後4日ごろから出現し,7~14日目にもっとも多い(甲21)とされているにとどまること,原審証人Aは,未破裂脳動脈流の手術において血管攣縮は起こるが実際に閉塞することはそんなに起こらないと思われる旨供述し,当審証人Bは,穿通枝の血管攣縮が原因の場合,梗塞の症状は数時間後から約24時間でゆっくり出てくる旨供述していることを考慮すると,上記脳梗塞が右前脈絡叢動脈の血管攣縮によるものという可能性は極めて低いと認められる。
オ 上記のとおり,本件手術においては,できるだけ避けるべきであるとされているかけ直しが6回行われていること,1本目のクリップを掛けた後は,右前脈絡叢動脈の起始部に屈曲,狭窄が生じていないことの確認は特に行われず,2本目のクリップを掛けた後も確認されていないこと,右前脈絡叢動脈の起始部の屈曲,狭窄による梗塞以外に被控訴人に生じた脳梗塞の原因として考えられるものがないことが認められる。
以上に加え,原審鑑定においても,クリップにより右前脈絡叢動脈が起始部の近くで屈曲,狭窄を来した可能性を否定できず,通常未破裂脳動脈瘤の手術技法によって,脳梗塞に至るような機械的な血管攣縮が発生することは極めて少ないとされていることを考慮すると,被控訴人に発症した脳梗塞は,右前脈絡叢動脈が起始部の近くで屈曲,狭窄を来し,もって右前脈絡叢動脈が閉塞したことによるものと認めるのが相当である。
(4) 控訴人担当医師の過失について
上記のとおり,右前脈絡叢動脈の起始部の近くで発生した屈曲,狭窄により右前脈絡叢動脈が閉塞したものと認められるところ,これは避けるべきであるとされているクリップのかけ直しを,B医師が2本のクリップについて合計6回にわたってかけ直したことに起因するものと推測される。
そして,右前脈絡叢動脈の起始部に屈曲,狭窄が生じていないかを確認すべきであるところ,B医師は,1本目のクリッピング終了後は特に確認を行わず,しかも2本目のクリップのクリッピングが終了した時点でも確認しなかった。
また,前脈絡叢動脈の血流は,目視で血流を確認できたと思っても,閉塞している場合があるから,ドップラー血流計を使用して血流を確認する方法が一般的に行われているところ,B医師は,ドップラー血流計による血流確認を行っていない(なお,SEPモニターについては,一般的な方法に至っているとまでは認めるに足りない。)。
以上のB医師の行為はいずれも過失に該当するから,控訴人担当医師には過失があったと認められる。
(5) 小括
以上のとおり,被控訴人の脳梗塞は,控訴人担当医師の過失に基づくと認められるから,控訴人は被控訴人に対し,民法715条1項に基づき,被控訴人の被った損害を賠償すべき義務がある。
2 争点(1)に対する控訴人の当審主張について
(1) 控訴人の当審主張(1)のアについて
控訴人は,原判決は「トラブルを防ぐために,できるだけクリップはかけ直さないこととされていることが認められる」としているが,本件の場合,クリップのかけ直しは脳動脈瘤の閉塞を完全にするためのもので穿通枝障害とは全く異なる上,実際には何度もクリップをかけ直して動脈瘤の閉塞を完全にすることが必須であり,原判決の上記見解は,脳神経外科学会においての定説ではなく,実証された証拠に基づかない一方的な見解である旨主張する。
しかし,証拠(原審鑑定書添付資料:藤田俊一外「無症候性未破裂脳動脈瘤の手術治療」)によれば,「clipをかけ直すことにより生じるさまざまなtroubleを防ぐために,できるだけclipはかけ直さない」こととされていることが認められ,そして,本件においては,合計8回のクリッピングが行われ,これが右前脈絡叢動脈の障害をもたらしたものと認められる。
したがって,控訴人の主張は理由がない。
なお,控訴人は,ビデオ(甲12)を見れば明らかなように,出血で見にくいなどということは全くない旨も主張するが,オリジナルビデオテープ(乙14の1・2)によれば,上記認定のとおりであると認められるから理由がない。
(2) 同(1)のイについて
控訴人は,原判決の「穿通枝の起始部を目視することが困難であった上」という認定は証拠に基づかない事実の認定である旨主張する。
しかし,右前脈絡叢動脈の起始部は術者から見て右内頸動脈の裏側にあり,そのままでは目視することはできないから,起始部を確認する場合には,脳ベラで右内頸動脈を右側に押して確認するか,それでも十分確認できない場合にはマクロミラー等を使用して確認する必要があるところ,その確認が十分でなかったことは上記認定のとおりである。
したがって,控訴人の主張は理由がない。
(3) 同(1)のウについて
控訴人は,原判決の認定は,誤った認定事実を前提とした推論であるに過ぎず,これをもって担当医の手技上の過失と認定することは,証拠に基づいた合理的な推認とは到底いえない旨主張する。
しかし,控訴人担当医師に過失があったことは上記認定のとおりであるから,控訴人の主張は理由がない。
(4) 同(1)のエについて
控訴人は,原判決の認定方法によれば,本件のごとく,穿通枝を損傷しておらず,完全なクリッピングをし,かつ穿通枝が温存されているにもかかわらず,結果として穿通枝の血液の通過障害が発生した場合には,常に担当医の手技上の過失が認定されることになるが,これは現代医学の水準から考えて,まさに予測不可能のことである旨主張する。
しかし,上記のとおり控訴人担当医師には,クリップのかけ直しを多数回行い,右前脈絡叢動脈の起始部の屈曲,狭窄の有無を確認せず,ドップラー血流計による血流の確認もしていないという過失があるから,控訴人の主張は理由がない。
(5) 同(2)について
控訴人は,原審鑑定人は,「クリッピングに際し,直接右前脈絡叢動脈を損傷したようには考えられない」と既述しながら,一転して「同血管は細い血管であり,クリップにより同血管が起始部の近くで屈曲,狭窄をきたした可能性は否定できない」としているが,何ら理由付けのない飛躍した結論である旨主張する。
しかし,クリップにより右前脈絡叢動脈が起始部の近くで屈曲,狭窄を来すことがあるところ,本件においては屈曲,狭窄のないことの確認がないから,上記原審鑑定に誤りがあるとはいえない。
したがって,控訴人の主張は理由がない。
(6) その他,控訴人は控訴人担当医師には過失がないとしてるる主張するが,上記結論を左右するに足りない。
3 争点(4)(損害)について
(1) 後遺障害について
証拠(甲7,14,15,18の1・2,19,原審証人C)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件手術に起因する脳梗塞により,左片麻痺となり,現在も左片麻痺の後遺障害が残存し,左上肢の機能は全廃し,左下肢については,立ち上がって数メートル歩行することは可能であるものの,基本的には常に車椅子を使用する状態であること,また,本件手術以後,仕事を辞めざるを得ず,身体障害者福祉施設に入所して生活していることが認められる。
以上の事実によれば,被控訴人の労働能力喪失率は100%と認めるのが相当である。
なお,控訴人は,原審において被控訴人の後遺障害は等級表第5級6号の「1上肢の用を全廃したもの」と第7級10号の「1下肢に仮関節を残し,著しい運動障害を残すもの」に近いものであると主張するが,控訴人主張のとおりであるとしても,自賠法施行令2条1項により,第8級以上に該当する身体障害が二以上あるときは,重い方の身体障害2級を繰上げることとされているから,第3級に繰上げられることとなり,労働能力喪失率を100%とすべきことに変わりはない。
(2) 逸失利益
証拠(甲3)によれば,被控訴人の本件手術前の年収は617万6046円と認められる。
したがって,被控訴人は,本件手術により上記後遺障害が発生しなければ,本件手術時から67歳までの9年間,毎年上記収入を得ることができたものと認められる。
上記9年に対応するライプニッツ係数は7.1078であるから,被控訴人の上記後遺障害による逸失利益は,4389万8099円となる。
(3) 慰謝料
被控訴人が上記後遺障害により被った肉体的・精神的苦痛は相当大きいものであったことは容易に推測でき,これを慰謝するには2000万円をもってするのが相当である。
(4) 付添看護料
証拠(甲7,14,15,18の1・2,19,原審証人C)によれば,被控訴人は,本件手術後,2度の転院の後,身体障害者福祉施設に入所しており,今後もこのような施設において付添看護を受けることが必要であり,その期間は58歳からの平均余命年数22年であると認められる。
被控訴人が現在入所している施設の費用は,原審の口頭弁論終結時において月額7万7100円(年額92万5200円)であり(甲19),その後,その額が変動したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,同額に上記22年に対応するライプニッツ係数13.1630を乗じた1217万8407円が付添看護料となる。
(5) 弁護士費用
本件における立証活動の難易,認容額その他の諸事情を考慮すると,弁護士費用は700万円が相当である。
第4結論
よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 藤田敏 裁判官 田邊浩典)