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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)322号 判決 2002年12月19日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人は,被控訴人に対し、60万円及びこれに対する平成11年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は第1,2審を通じてこれを5分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

5  この判決は第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

(以下,略語は原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が営むローカルラジオ放送局のパーソナリティー(特定番組を担当するタレント)として番組を担当していた被控訴人が,控訴人との契約(以下「本件契約」という。)が労働契約であって,控訴人によって,担当の全番組から降板させられ,契約関係を解消されたこと(以下「本件解除」という。)は違法な解雇(労働契約の解除)であり,仮に本件契約が業務委託契約であるとしても,これを一方的に終了させる本件解除は違法であり,いずれも不法行為を構成するとして,不法行為に基づく慰謝料300万円及び遅延損害金(不法行為日以後年5分の割合。なお原判決1頁19行目の附帯請求の起算日に「平成12年」とあるのは「平成11年」の誤記と認める。)の支払を求めたのに対し,控訴人が,本件契約は労働契約に当たらない準委任ないし請負契約であること,仮に労働契約であっても,被控訴人に業務命令違反があったから本件解除は有効であり,不法行為にあたらない等と反論して争った事案である。

原審は,本件契約が労働契約であり,本件解除は解雇権を濫用したもので違法であり,不法行為が成立するとし,被控訴人の請求の一部(慰謝料130万円と遅延損害金)を認容したので,控訴人がこれを不服として控訴し,本件契約は請負契約であるとするほか,上記主張を補足する主張をした。

2  当事者間に争いのない事実並びに争点及び当事者の主張は,当審での主張も踏まえて次のとおり改めるほかは,原判決「事実および理由」の「第2 事案の概要」の1,2のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁11行目の「 被告は」から13行目までを次のとおり改める。

「 控訴人は被控訴人に対し,平成11年5月15日,担当中の全番組から降板させることを口頭で通知して本件契約解除の意思表示をし(本件解除),同月27日に至って,業務委託契約を同月17日以降解除すると同月15日に告知したことを確認する旨の文書を送付した。」

(2)  原判決2頁15行目の次に次のとおり加える。

「(5) 控訴人には本件解除当時就業規則があり,これには次のような定めがあった(乙81)。

ア 表題

株式会社エフエムたじみ社員の就業に関する規則

イ 第1条 趣旨

この社員の就業に関する規則(以下「規則」という。)は、(中略)社員の就業に関する事項について(中略)、社員の権利を保障し(中略)、最低の基準とすることを原則として定めたものです。

ウ 第3条 社員の定義と適用範囲

この規則における社員とは、第2章(人事)によって社員として採用された者をいいます。なお、嘱託社員、パートタイマー、アルバイトなどの就業に関する事項は別に定めます。

エ 第5条 採用

会社は、入社を希望する満15歳以上の者の中から、面接そのほかによる選考に合格し、所定の手続きを行った者を社員として採用します。

オ 第36条 解雇

会社は社員が、次の1つに該当するときは解雇します。

(以下,解雇事由として7号が列挙されているが,省略)」

(3)  原判決2頁17行目を「(1) 本件契約は労働契約か,及び被控訴人は就業規則の適用を受けるか。」と,25行目の「被告の指導監督」から26行目の「労働契約にあたる。」までを次のとおりそれぞれ改める。

「被控訴人は,控訴人の指揮監督の下に労務を提供していたものであるから,その契約関係は労働契約であり,控訴人の上記就業規則(以下「本件就業規則」という。)の定める社員に該当し,その適用を受けるものである。」

(4)  原判決3頁5行目を「本件契約は労働契約にあたらない請負契約である。」と,8行目の「締結した」を「3か月毎に締結してきた」と,9行目から10行目にかけての「パーソナリティーであり、労働者ではない。」を次のとおりそれぞれ改める。

「パーソナリティーであるし,本件解除当時の本件契約は,平成11年3月25日の全体会議において,被控訴人との間で取り交わした請負契約であり,その内容は,同年5月から7月まで,毎月曜日と毎水曜日のイブステをダブルキャストで放送するというものであって,同年4月5日にAが初めて出社した際には,被控訴人が5月第1週から月曜日のイブステで組む相手はAである旨を被控訴人に伝えた。したがって,控訴人と被控訴人との本件契約は労働契約ではなく,また,被控訴人は本件就業規則が適用される『社員』ではない。」

(5)  原判決3頁11行目を「(2) 労働契約である場合,本件解除は違法な解雇か。」と,18行目から19行目にかけての「解雇事由に該当する。」を「これは上記請負契約の債務不履行でもあって,解雇の理由があり,解雇権の濫用に当たることはなく,本件解除は適法である。」と,21行目を「本件解除は,本件就業規則に基づかない違法な解雇であり,また,被控訴人に本件就業規則の適用がないとしても,解雇の合理的理由を欠き,解雇権を濫用するものであって違法である。」とそれぞれ改める。

(6)  原判決4頁10行目を「(3) 労働契約でない場合,本件解除は違法か。」と,12行目の「準委任契約であるとしても」を「本件契約が労働契約に当たらない請負契約であるとしても」と,14行目及び16行目の各「解約」を「解除」とそれぞれ改め,18行目の次に改行して次を加える。

「(被控訴人)

慰謝料額は300万円が相当である。

(控訴人)

争う。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,本件解除は違法な解雇であるといえ,被控訴人の本件請求は,慰謝料60万円とこれに対する遅延損害金の限度で理由があると判断する。その理由は,次のとおり改め,次項以下を加えるほかは,原判決「事実および理由」の「第3 判断」の1ないし3のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決5頁9行目の「6月まで」を「5月12日まで」と改め,6頁4行目の「ところで」から6行目の「要するところ」までを削り,16行目の「契約は、雇用関係であると認められる。」を次のとおり改める。

「本件契約は労働契約であると認められる。控訴人は,本件契約が請負契約であると主張するが,上記認定(原判示)のように被控訴人が控訴人の指揮監督の下に番組を運営していた事情に照らすと,請負契約的な要素があっても,労働契約であることの認定を妨げない。

被控訴人は,本件就業規則所定の『社員』の地位にあったものであると主張するが,同規則3条が定める『社員』は,同規則「第2章 人事」によって社員として採用された者と定められており,上記認定(原判示)の被控訴人の採用経過及び勤務形態等は,同章の規定する社員としてのそれに該当するとはいえず,被控訴人が本件就業規則の適用を受ける『社員』であるとは認められない。そして,本件就業規則3条は,嘱託社員,パートタイマー,アルバイトなどの就業に関する事項は別に定めるとしているが,別の定めは作成されていない(弁論の全趣旨)ので,被控訴人に対して適用される控訴人の就業規則はない。

なお,控訴人は,本件契約は期間3か月毎に締結してきたもので,本件解除当時の本件契約は,平成11年3月25日に締結されたものである等の主張をするが,既に判示の本件契約締結及びその後の経緯によれば,期間の定めのないものと認められる(控訴人が提出する被控訴人以外のパーソナリティーの契約書は,いずれも本件解除後に作成されたことが同書面自体から明らかであって,上記認定を妨げるものではない。)。」

(2)  原判決6頁19行目の「30ないし33、」の次に「35の1,甲36」を加え,22行目の「① 」を「① 被控訴人は,」と,9頁26行目の「同年5月10日(月曜日)、」を次のとおりそれぞれ改める。

「同年5月8日,被控訴人からAに対し,同人と組んでイブステを行う時期について控訴人からの指示がない旨のメールを入れたところ,同年5月10日(月曜日)午前8時36分ころ,Aから被控訴人に対し,同日は控訴人のスタジオへ行っても仕方がないので,同日のイブステはキャンセルするが,被控訴人の方でも控訴人のプロデューサー等に開始時期を確認するよう依頼する旨のメールが返された。そして,控訴人のプロデューサーBへは,」

(3)  原判決10頁7行目の「解雇することを」を「番組降板を」と,15行目から17行目までを次のとおりそれぞれ改める。

「 そうすると,Bの被控訴人に対する業務上の指揮命令が明確でなかったことも一因となって被控訴人が控訴人の業務計画に即応しなかったという経緯のもとにおいて,被控訴人が控訴人の指示に従って2人体制で放送すること自体を拒否していないのであるから,その後の業務について明確な指示をすれば,被控訴人が同指示に従うことが期待できる状況であるにも拘わらず,解雇することは著しく不合理であって,社会通念上相当なものとして是認することはできず,本件解除は解雇権を濫用した解雇と認められ,違法であるということができる。」

(4)  原判決10頁26行目を「被控訴人の慰謝料額は60万円と評価するのが相当である。」と改める。

2  控訴人は,当審において,①プロデューサーとパーソナリティーとの関係は上意下達方式ではなく,パーソナリティーが自己の責任と関心を持って自主的に行動すべきものであるから,労働契約関係ではないこと,②被控訴人がAとのダブルキャストによるイブステを行わなかったのは,被控訴人においてAを避けたいとする気持ちがあったからであり,被控訴人は控訴人の指示に従う意思がなかったこと等を主張する。

しかし,上記①については,控訴人の主張を前提としても,既に判示の控訴人と被控訴人との関係を前提とすれば,労働契約関係であるとの認定を妨げるものではなく,また,同②についても,被控訴人がAと組むことを避けようとした事実やそうすべき事情につきこれを認めるに足りる的確な証拠はなく,控訴人が当審で提出したAの陳述書(乙83)もそのような事情を証するものではない。

3  したがって,被控訴人の本件請求は,慰謝料60万円と不法行為日である平成11年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。

なお,控訴人は原審においては,本件契約を準委任又は請負と主張していたところ,当審では請負契約と主張を整理したものと解して判断をするものであるが,準委任の主張が撤回されないとしても,本件契約が労働契約であることを前提とする上記判断を左右するものではない。

第4結論

よって,上記と結論を異にする原判決は一部相当でないので,上記にしたがって原判決を変更し,第1,2審の訴訟費用の負担割合を定め,原判決の仮執行宣言は上記請求認容部分につき効力があるところ,理解の便宜のためこれを再掲して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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