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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)832号 判決 2003年3月18日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

(以下,略語は原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決中下記(2)ないし(4)の請求を棄却した部分を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴会社(株式会社大亀屋)に対し,499万0758円及びこれに対する平成11年12月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人は,控訴人Aに対し,200万円及びこれに対する平成11年12月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(4)  被控訴人は,控訴人Bに対し,300万円及びこれに対する平成11年12月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(5)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,控訴会社が,銀行取引約定を交わすなどして長年にわたって取引を継続してきた被控訴人(銀行)から,手形割引,保険料及び公共料金の引落し並びに季節融資の借換えを拒否され,根抵当権実行を申し立てられる等したことにより,控訴会社,その代表取締役の控訴人A及び取締役の同Bがいずれも信用を失い,精神的苦痛を被ったとして,被控訴人に対し,控訴会社は銀行取引契約の付随義務違反及び準委任契約の債務不履行又は不法行為に基づき,控訴人A及び同Bはともに不法行為に基づき,それぞれ損害賠償及び遅延損害金(本件訴えに先行した民事調停申立日の翌日から年6分)の請求をしたのに対し,被控訴人が債務不履行及び不法行為の成立並びにこれらによる損害の発生を争った事案である。

原審は,被控訴人が控訴会社の口座からの保険料等の引落しを予告なく拒絶した点が準委任契約の債務不履行に当たるとし,これにより生じた立替保険料の利息分の損害及び遅延損害金の一部を認容したが,控訴会社が主張するその余の債務不履行及び不法行為に基づく請求並びに控訴人A及び同Bの主張する不法行為に基づく請求については,いずれも認められないとして各請求を棄却したので,控訴人らが敗訴部分を不服として控訴した。

2  争いのない事実及び証拠により明らかに認定できる事実並びに争点は,当審での主張も踏まえて次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2,3とおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決3頁14行目の「3000万円」を「2000万円」と,20行目及び21行目を「約束手形の割引を依頼したが(乙9),被控訴人は,同月20日までにこれを拒否した(甲35,乙39,弁論の全趣旨。以下「本件手形割引拒否」という。)。」と,4頁2行目から3行目にかけての「季節融資を受けており」を「季節融資をしており」と,14行目の「甲15」を「甲16」とそれぞれ改める。

(2)  原判決5頁18行目の「これに応じる義務があり,また,これを拒否する場合」を「これに応じる義務を負う契約関係,すなわち控訴会社が予約完結権を有する手形割引契約又は諾成的消費貸借契約の予約契約(一方の予約)が成立していたものというべきである。仮に,同予約契約の成立が認められないとしても,手形割引及び季節融資の申入れを拒否する場合」と,20行目から21行目にかけての「信義則上,商慣習上の義務」を「信義則上の義務」とそれぞれ改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴会社の債務不履行に基づく上記第1の1(2)の請求及び控訴人らの不法行為に基づく同(2)ないし(4)の各請求はいずれも理由がないと判断する。その理由中争点に対する判断は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 判断」の1ないし5のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決8頁1行目の「原告会社と被告との間に特段の紛争は生じていなかった」を「控訴会社と被控訴人との間の取引では特段の紛争は生じていなかったが,被控訴人が控訴会社と一体のものと見ていたトータス(控訴会社はその連帯保証人)の被控訴人に対する借入金の返済は後記(3)③のとおり遅滞に陥るに至っていた」と改める。

(2)  原判決8頁3行目の「しかしながら」から5行目の「証拠はない。)」までを「控訴人らは,控訴会社と被控訴人との間に,控訴会社が予約完結権を有する手形割引契約又は諾成的消費貸借契約の予約契約(一方の予約)が成立していたと主張する。しかし」と,8行目の「融資や手形割引に応じる義務がある」を「融資や手形割引について予約契約が成立していた」と,11行目から12行目の「である。」までを「義務を負わせる一方の予約契約が成立していたとまで認めることはできず,他にそのような予約契約の成立を認めることのできる証拠はない。」とそれぞれ改める。

(3)  原判決8頁23行目の「また,」から24行目の「手形割引拒否や」までを削り,26行目の次に改行して次を加える。

「なお,本件手形割引拒否については,回答までに最長5日を要したと認められるが,これが商取引の信義則に照らし違法な遅延であったと認めるには至らない。すなわち,乙第9号証及び弁論の全趣旨によると,控訴会社が平成6年12月16日に被控訴人柳津支店へ割引依頼をしたテルヤマグチ㈱振出しの額面207万8473円の約束手形につき,同支店では,先に割り引いていたテルヤマグチ㈱振出しの額面460万2338円の約束手形が同月20日に決済された後に割引に応じたい旨の意見を付して本部禀議を要請した事実が認められ,同月16日のうちに割引できない旨の回答をしたとする乙第39号証はにわかには採用できず,同月20日までに本件手形割引拒否の回答をしたと認めるほかない。しかし,上記割引拒否告知の末日である同日は控訴会社において割引実行を希望した日ではあるが(乙35),他方,上記認定事実によると,被控訴人において先に割り引いていたテルヤマグチ㈱の約束手形の決済状況確認のために設定した日取りであると推認されるところであり,これらの諸点に,上記割引希望日が控訴会社の支払の都合上余裕のない日取りであったことや控訴会社において他の取引銀行でも上記手形の割引を受けられなかった等の事実については主張立証がないことを併せ考慮すると,上記回答の遅れが信義則上違法なものであったとは認めるに至らない。」

(4)  原判決11頁17行目の「余剰価値があるからといって」から18行目の「認められないから,」までを「剰余価値があり,控訴会社が被控訴人と長年にわたり取引を継続し,被控訴人の営業に協力もしてきたという事情があるからといって,被控訴人において控訴会社所有不動産に対する根抵当権の実行を避けるべき信義則上の義務があるとまでいうことはできないから,」と改める。

2  したがって,上記第1の1の(2)ないし(4)の控訴人らの請求は,債務不履行及び不法行為の成立が認められないので,いずれも理由がない。

第4結論

よって,原判決中控訴人らの上記各請求を棄却した部分は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用は控訴人らに負担させることとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)

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