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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)884号 判決 2003年10月10日

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人Cは,控訴人Aに対し,350万円及び内金250万円に対する平成5年7月13日から,内金100万円に対する平成11年11月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人Dは,控訴人Aに対し,350万円及び内金250万円に対する平成5年7月13日から,内金100万円に対する平成11年11月23日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  被控訴人Cは,控訴人Bに対し,50万円及びこれに対する平成5年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  被控訴人Dは,控訴人Bに対し,50万円及びこれに対する平成5年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(6)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

主文と同旨

第2事実関係

1  本件は,控訴人Aが,被控訴人Cの父であり,同Dの夫であった亡E(平成11年11月22日死亡)から株式購入等の勧誘行為を受けたことによって,亡Eに交付した700万円から弁済を受けた200万円を控除した500万円の返還請求権並びに亡Eの控訴人Aに対する異常な付きまとい行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料200万円の損害賠償請求権を有する旨主張し,また,控訴人Bは亡Eから株式購入の勧誘行為を受けたことによって亡Eに交付した100万円の返還請求権を有する旨主張し,亡Eの相続人である被控訴人らに対し,その相続分に応じて,上記金員の各2分の1及びこれに対する遅延損害金をそれぞれ請求したところ,原審は,被控訴人らと控訴人らとの間で合意(和解)が成立したことにより,被控訴人C及び同Dには上記各預託金の返還義務がなく,また,亡Eの控訴人Aに対する異常なつきまとい行為はなかったとして,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らが控訴した事案である。

2  事実関係は,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3記載のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

当裁判所も控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほか,原判決の「事実及び理由」欄第3記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決11頁17行目の「困難である。」の次に次のとおり付加する。

「 控訴人Aは,乙9ないし11の手帳(以下「本件手帳」という。)には亡Eが控訴人Aを待ち伏せ,同人の買い物に一方的に付きまとい,その買い物の様子を観察した結果を記載したものがあるとし,たとえば,乙11の7の平成5年5月25日の欄に「オシメ」を買ったとの記載は,亡Eの控訴人Aに対する異常な執着心,異常性を示すものである旨,また,同手帳に記載されている買い物の場所は,伊勢丹,大塚家具,高島屋,明治屋といった若い女性が日常買い物をする場所ばかりであり,会った場所も,控訴人Aが居住していた場所の付近である広尾や十番,同人の通院していた病院のある青山,他には,百貨店,スーパー,寿司屋,パチンコ店である上,また,買い物の内容も,時計,サポーター,スリッパ,CD,食料,ビデオ,化粧品等日常品ばかりであって,およそ密会と評価できるものではなく,待ち伏せや付きまとい等を示すものである旨,さらに,同手帳には,控訴人Aの亡Eに対する怒り,不快,激論等の記載があって,控訴人Aが亡Eに抗議をしていたことが明らかに示されている旨指摘する。

しかしながら,待ち伏せに関して,甲22(控訴人Aの陳述書)には,控訴人Aは亡Eに青山ツインビル西館2階の喫茶店で待ち伏せされた旨の記載があるが,乙13によれば,同ビルは地上23階地下3階の大規模ビルであり,地下から各階にエレベーターが直通でつながっているほか,建物内部に2箇所階段があるが,控訴人Aがこれらを利用する限り,2階喫茶店から亡Eに見られる可能性のないことが認められるので,待ち伏せに遭うことはあり得ず,控訴人Aが外階段を利用した場合には亡Eに見られる可能性はあることが認められるものの,控訴人Aが亡Eに待ち伏せされていながら,その後も同様に外階段を利用して待ち伏せに会うというのはいかにも不合理である。また,控訴人Aは,同ビルの地下喫茶店で待ち伏せされたとも指摘するが,亡Eが控訴人Aが通常通る可能性のない地下の喫茶店で偶然待ち伏せて見つけるというのも不自然である。さらに,控訴人Aは,亡Eに広尾の喫茶店や広尾駅で待ち伏せされた旨指摘するが,時間的に自由な仕事をしていて,行動が一定していない控訴人Aに対し,亡Eが平日に喫茶店や駅で待ち伏せして見つけることは困難であるし,連続して異なる場所で異なる時間に的確に待ち伏せしたり,見つけるというのは容易に考え難い。さらにまた,本件手帳には,控訴人Aを見張っていたことなどを窺わせるような記載がないことに照らしても,控訴人Aの上記指摘等は採用できない。

買い物に関しても,控訴人Aの供述,陳述書(甲9,22ないし24)中には,亡Eが1人で買い物をしている控訴人Aの後ろから付きまとい,買い物する様子を盗み見て手帳に記載した旨の記載部分があるが,他方,控訴人Aは,十年来の付き合っていた男性や夫に亡Eの付きまとい行為について相談していないこと,亡Eと共に寿司屋で食事をしたり,喫茶店へ入ったことを自認しているのであって,そうであるならばおよそ嫌悪すべき付きまとい行為を受けている者とは考えられない行動をとっていることになり,控訴人Aの上記供述ないし記載部分はにわかに信用できない。また,本件手帳には控訴人Aの買い物内容が詳細に記載されている部分があり,亡Eの几帳面さが窺えるとしても,その記載をもってただちに亡Eの控訴人Aに対する異常な執着心,異常性があるものと断定することはできない。

本件手帳に記載されている控訴人Aの亡Eに対する怒り,不快,激論等に関しては,通常見られがちな男女間の感情の行き違い等を記載したものとも考えられるから,控訴人Aの供述ないし陳述書のみで,控訴人Aが亡Eに対し付きまとい行為に抗議したものと認めることはできない。

また,控訴人Aは,亡Eが控訴人Aの当時の交際相手であるHにも接触し付きまとい,引いては控訴人Aに異常な付きまといが繰り返されたとして,本件手帳の記載を引用する。しかしながら,本件手帳には,亡EがHに電話したこと,Hがゴルフに行ったこと,H宅へ昼に行ったこと等の記載があるものの,この記載のみから亡EがHにつきまとい,控訴人Aに異常な付きまとい行為をしたものと認めるに足りない。しかも,控訴人Aは,その本人尋問において,Hに亡Eのことを相談できず,亡Eのことを知られていなかった旨供述しているのに,一方,陳述書(甲22,23)では,亡Eが当時Hを待ち伏せたり,付きまとったり,電話をかけた旨,Hから聞いたり,同人に相談しなければ分からない事実を説明しているのであって,控訴人Aの供述ないし陳述書には矛盾が見られるからこれらをそのまま信用することはできない。

また,控訴人Aは,亡Eに対して電話をしたのは年に数回しかなかった旨供述するが,本件手帳によれば,平成6年において,控訴人Aから亡Eに対してした電話の回数は15回も記載されていることが認められ,これらの事実に照らしても,控訴人Aの供述ないし陳述書の記載は信用し難い。

さらに,乙7,被控訴人C本人尋問の結果によれば,被控訴人Cが控訴人Aと面談前に3回ほど電話で話をし,その後,2回面談交渉して本件合意に至り,その後も被控訴人Cは控訴人Aと電話で話をしているが,その間,控訴人Aは亡Eの付きまとい行為に関する話を全くしておらず,かえって亡Eから大変よくしてもらえたとか,父と娘のような関係で何でも言いあえる仲であった旨話していたことが認められ,控訴人らにおいて亡Eの付きまとい行為を主張し始めたのは,亡Eが死亡してから1年以上経過し,本件合意から半年も経過した平成13年1月22日付けの内容証明郵便(甲4)が最初であることをも考慮に入れると,亡Eの付きまとい等を内容とする控訴人Aの供述ないし陳述書の記載は信用できない。

なお,控訴人Aは,平成6年4月9日に亡Eが長野県内のホテルIで控訴人Aの隣室に宿泊した際に見せた異状ともいえる言動(原判決「事実及び理由」記載の第3の2(1)ア(ア)(ウ)の言動)がつきまとい行為を裏付ける旨指摘する。しかしながら,亡Eと控訴人Aの宿泊開始日が同一の平成6年4月9日であり,控訴人Aの宿泊室の隣室が亡Eの宿泊室であったことは,亡Eが控訴人Aに付きまとい行為をしていたというよりも,より親密な関係にあったことを窺わせる事情とも考えられ,亡Eに上記異状な言動があったとしても,その事実だけでは,亡Eが控訴人Aにつきまとい行為を裏付ける事実であると断定することはできない。

また,控訴人Aは,平成11年中に4回も亡Eが長野県内のJホテルに宿泊し(甲17,18),当時,長野県内に在住していた控訴人A宅に来て付きまとい行為を繰り返した旨指摘する。しかしながら,同号証によれば,亡Eは平成11年中に4回Jホテルに宿泊したことが認められるものの,この事実のみでは亡Eの付きまとい行為を認めるに足りない。」

2  同13頁15行目の「本件各証拠を検討しても」を次のとおり改める。

「 被控訴人C本人尋問の結果によれば,被控訴人Cは,亡Eが控訴人らから800万円を預かったかどうか,預かったとしてその金員がどうなったのか,控訴人らに返還されたのか等について調査した結果,野村證券,国際証券,勧角証券については,取引口座がなく,取引の形跡がなかったこと,三田証券では預かった金員の一部が運用されていた形跡があったものの,現在はその口座の残高がないことが判明したが,結局被控訴人らは三田証券についても入出金の行方について確信に至るまで調査することができなかったものであり,被控訴人Cが控訴人Aに対し,残高がなく,亡Eや控訴人らの名義の株券は残っていない旨を控訴人Aに伝えたものであることが認められ,被控訴人Cが控訴人Aに対し,虚偽の事実を伝えたものとはいえないのであって,」

3  同14頁2行目の「できない。」の次に次のとおり付加する。

「 なお,控訴人Aは,交渉の際,同席したFから挨拶もそこそこに強迫文言を言われた旨主張するが,乙7,被控訴人C本人尋問の結果によれば,控訴人Aの素性が不明で背後に暴力団等がついている危険性を考えて,弁護士も同席させたことが認められ,このような事情から控訴人Aの背後関係が不明の段階で,上記強迫文言をいうこと自体が不自然である。そして,話合いの場は,控訴人Aが指定した喫茶店であり,控訴人Aにおいて,平成12年5月24日に強迫されていながら,同年6月28日にも同じような話合いをすることは考え難い。また,Fが控訴人Aに対し,「奥さんもあんたのことを怒っていて,訴えを提起したいくらいであると言っている」と述べた言葉は,本件手帳の記載から,被控訴人Dが亡Eと控訴人Aとの関係を疑い,訴えたいとの感情を伝えたものというべきであって,強迫とはいえない。」

4  同15頁1行目の「いること,」の次に「当審における控訴人B本人尋問の結果によれば,控訴人Bは,控訴人Aが被控訴人Cと名古屋で面談する前に具体的な日時場所は聞いていないものの,同人らが面談する事実を聞いていたこと,」を付加する。

5  同15頁3行目と4行目の間に次のとおり付加する。

「 この点,控訴人Bは当審において,100万円の返還請求について,控訴人Aに代理権を与えていない旨供述する。

しかしながら,証拠(乙7,控訴人A本人,被控訴人C本人)によれば,亡Eが死亡した後の平成11年11月23日あるいは25日に,亡Eの専用電話に控訴人Aから架電があり,その時初めて被控訴人Cが亡Eの死亡の事実を伝えたところ,控訴人Aは亡Eに800万円を預けていた旨話したことが認められるのに対し,控訴人Bは,控訴人Aに対し,亡Eに100万円を預けていたことを同人の死亡の事実を知らされるまで一切話していなかった旨供述しているが,控訴人Aが最初に被控訴人Cに架電した際,800万円を預けたことを被控訴人Cに伝えている以上,控訴人Bは控訴人Aに100万円を預けたことを亡Eの死亡前に伝えていたことが明らかであるから,控訴人Bの供述は矛盾する虚偽の内容を含むものといわざるを得ず,にわかに信用できない。

さらに,控訴人らは,被控訴人Cは,控訴人Aに本件合意書(乙1)に署名,押印してもらう際に,控訴人Bに事前に相談するよう勧めたが,結局事前に相談せずに控訴人Aが同合意書に署名,押印した旨供述しており,被控訴人Cは本件合意書に控訴人Bの顕名をさせなかった旨指摘する。

しかしながら,乙8によれば,被控訴人らから委任を受けたG弁護士が1回目の面談交渉の際,控訴人Aに対し,本件預り金に控訴人Bの名義のものが含まれていることから,控訴人Bから頼まれて話合いに来ているのかを確認したところ,控訴人Aははっきりとこれを肯定したことが認められ,本件合意書に控訴人Bの顕名がないとしても,控訴人Aは同Bを代理していることが認められる。また,控訴人Aが署名,押印するにあたり控訴人Bに相談していなかったとしても,上記のとおり,既に控訴人Aが控訴人Bから本件合意に関する代理権を授与されていることが認められる以上,署名,押印にあたり改めて控訴人Bに相談しなくても,その代理行為の効力を左右するものではないから,上記指摘は採用できない。」

6  同15頁13行目の「理由がない。」の次に「この点,控訴人らは,亡Eの不法行為として,株式購入等の違法な勧誘(原判決の「事実及び理由」欄の第2の3(2)ア(ア)a)及び詐欺(第2の3(2)ア(ア)b)についても判断すべきである旨指摘する。

しかしながら,本件合意は和解の法的性質を有するものと解されるところ,上記認定事実によれば,亡Eの株式購入の勧誘等が違法な行為であるか詐欺によるものかについての紛争を含め,互譲により本件合意がなされたことが認められる以上,当該紛争についてはもはやその真否を問題にすることはできないのであって,ここで判断するまでもないから,控訴人らの上記指摘は採用できない。」を付加する。

第4結論

以上のとおり,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件各控訴は理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊田士朗 裁判官 川添利賢 裁判官 玉越義雄)

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