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名古屋高等裁判所 平成14年(ネ)891号 判決 2003年5月20日

主文

1  控訴人Aの控訴に基づき,原判決主文1項を次のとおり変更する。

「控訴人Aは,被控訴人会社に対し,10万0200円及びこれに対する平成12年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

2  被控訴人Bの附帯控訴に基づき,原判決主文2項を次のとおり変更する。

「被控訴人Bは,控訴人会社に対し,20万6664円及びこれに対する平成12年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

3  控訴人会社の控訴及び控訴人Aのその余の控訴をいずれも棄却する。

4  被控訴人会社の附帯控訴及び被控訴人Bのその余の附帯控訴をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人らの,その余を被控訴人らの負担とする。

6  この判決の主文1,2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人Bは,控訴人会社に対し,52万1660円及びこれに対する平成12年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人会社の請求を棄却する。

4  訴訟費用は1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2附帯控訴の趣旨

1  原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  控訴人Aは,被控訴人会社に対し,140万4507円及びこれに対する平成12年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  控訴人会社の請求を棄却する。

4  訴訟費用は1,2審とも控訴人らの負担とする。

第3事案の概要

本件は,控訴人Aの運転する貨物自動車と被控訴人Bの運転する貨物自動車とが衝突した交通事故に関し,控訴人A運転車両の所有者である控訴人会社が被控訴人Bに対し,また,被控訴人B運転車両の所有者である被控訴人会社が控訴人Aに対し,それぞれ民法709条に基づき損害の賠償を求めたところ,原審がいずれもその一部を認容したことから,控訴人らから控訴があり,被控訴人らから附帯控訴のあった事案である。

1  争いのない事実等

(1)  平成12年5月18日午後2時50分ころ,名古屋市a区bc丁目d番e号先道路上(以下「本件事故現場」という。)において,控訴人Aの運転する大型貨物自動車(以下「控訴人車両」という。)が第1車線から第2車線に進路を変更するに際し,第2車線を走行中の被控訴人Bの運転する普通貨物自動車(以下「被控訴人車両」という。)の左側面に控訴人車両の右側面が接触する交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)(争いがない。)。

(2)  本件事故当時,控訴人会社は控訴人車両を,被控訴人会社は被控訴人車両をそれぞれ所有していた(甲第3号証,乙第4号証,第7号証及び弁論の全趣旨)。また,控訴人Aは控訴人会社の,被控訴人Bは被控訴人会社のそれぞれ従業員であった(甲第5号証,乙第7号証,控訴人A,被控訴人Bの各本人尋問の結果)。

2  争 点

(1)  本件事故態様(控訴人Aと被控訴人Bの過失割合)

(控訴人らの主張)

本件事故は,控訴人Aが控訴人車両を運転して第1車線を走行中,右側の方向指示器を点滅させ第2車線の安全を確認したうえで第2車線に進路変更しようとしたにもかかわらず,控訴人車両に後続して被控訴人車両を運転していた被控訴人Bがこれを無視しあるいは見落として強引に第1車線から第2車線に進路変更し,控訴人車両を無理に追い越そうとしたために発生したものであり,被控訴人Bの一方的な過失によるものである。仮に,控訴人Aに過失があるとしても,その程度は極めて軽微であるというべきである。

(被控訴人らの主張)

本件事故は,被控訴人Bが,被控訴人車両を運転して第2車線を走行中,被控訴人車両の左方やや前方の第1車線を走行していた控訴人車両が突然何らの合図もなく第2車線へ進路変更したために発生したものであり,控訴人Aの一方的な過失によるものである。

(2)  本件事故によって控訴人会社の受けた損害

(控訴人らの主張)

控訴人会社は,本件事故によって次のとおりの損害を受けた。

ア 控訴人車両の修理費用 47万1660円

イ 弁護士費用 5万円

(3)  本件事故によって被控訴人会社の受けた損害

(被控訴人らの主張)

被控訴人会社は,本件事故によって次のとおりの損害を受けた。

ア 被控訴人車両の修理費用 128万4507円

被控訴人車両は,本件事故当時,1か月当たり約30万2108円の純益を得ており,本件事故がなければ,平成17年ころまで稼働することにより,被控訴人会社は1812万6480円の純益を得ることができたはずであるのに,本件事故により250万円ほどの新車を購入して被控訴人車両の填補をせざるを得なかった。よって,少なくとも,128万4507円の修理費用は本件事故による損害と認められるべきである。

イ 弁護士費用 12万円

(控訴人らの主張)

被控訴人車両は,平成元年初度登録の車両であり,事故当時においては約11年が経過し,法定の償却期間も終了していたのであり,市場における交換価値があったとは認められない。被控訴人車両の次回の車検(平成12年9月16日)までの間(122日間)の使用価値を考慮するとしても,その金額は1日当たり1000円を超えることはない。また,被控訴人車両には,アルミボディが架装されていたが,その時価は5年経過のもので15万円とされており,11年が経過した被控訴人車両のアルミボディの時価額は3万円を超えることはない。本件は修理費用が時価額を超える経済的全損の事案であり,被控訴人車両の時価額は,本体価格12万2000円(1000円×122日)及びアルミボディの時価3万円を加えた15万2000円を超えることはない。

第4当裁判所の判断

1  本件事故態様(控訴人Aと被控訴人Bの過失割合)について

(1)  甲第1号証,第3ないし第5号証,乙第2ないし第4号証,第6,第7号証及び控訴人A,被控訴人Bの各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,これを左右する証拠はない。

ア 本件事故現場は,概ね東西方向に通ずる2車線からなる一方通行路(以下「本件道路」という。)で,その東側にはY字型の交差点があり,同交差点を右折すると,本件道路は1車線となって国道23号線の東行車線に合流するようになっているため,同交差点から国道23号線との合流点手前にかけて第1車線には導流帯が設けられるとともに,第1車線路面上には第2車線への合流を指示する白色ペイントによる矢印が表示されている。また,本件事故現場の西側には交差点があり,同交差点から更に西側は片側各2車線の道路(名古屋環状線)となっている。同交差点の西詰では,第1車線は直進及び左折専用となっており,直進すると国道23号の下部を経由して本件道路に進入するようになっていて,また,第2車線は右折専用となっている(本件事故現場の概略は別紙図面のとおりである。)。

イ 控訴人Aは,荷物を積載せずに車両重量9780キログラムの控訴人車両を運転し,名古屋環状線の東行第1車線から国道23号線に向かうために本件道路に進入してひとまず第1車線を走行し,右側の方向指示器を点滅させ,右側ドアに設置されたミラーで右後方を確認し,第1車線から第2車線へ進路変更を開始したところ,第2車線を走行してきた被控訴人車両の左前部付近に控訴人車両の右後部付近を衝突させ,本件事故を発生させた。

ウ 一方,被控訴人Bは,本件事故当時,建築用製品約1トンを積載して車両重量2610キログラムの被控訴人車両を運転し,名古屋環状線の東行第1車線を走行していたが,国道23号線に向かうために本件道路に進入し,第1車線から第2車線に進路変更しながら走行した。このとき,被控訴人Bは,左前方を走行していた控訴人車両が第1車線から第2車線に進路変更しようとしているのに気付いたが,被控訴人車両に比べ控訴人車両の速度が遅かったことから,被控訴人車両と接触することなく通過できるものと考え,そのまま第2車線を走行し続けたが,控訴人車両が接近してきたため危険を感じ急制動の措置を講じたが,間に合わずに本件事故を発生させた。

(2)  上記認定によれば,控訴人Aは,第1車線から第2車線に進路変更するに際し,第2車線走行中の車両の有無及びその動静に対する注視を怠った過失により,被控訴人車両が接近しているのに気付くのが遅れ,本件事故を発生させたものと認められる。一方,被控訴人Bは,本件道路は前方で1車線に減少するのであるから,進路左前方を走行していた被控訴人車両が第2車線に進路を変更してくることは十分予想されるのに,その動静に対する注視を怠った過失により本件事故を発生させたものと認められる。そして,本件事故直前の控訴人車両と被控訴人車両との位置関係,本件道路の形状等に照らせば,控訴人Aと被控訴人Bとの過失割合は,控訴人Aが6割,被控訴人Bが4割とするのが相当である。

2  控訴人車両の修理費用について

乙第5号証及び弁論の全趣旨によれば,控訴人会社は,本件事故によって控訴人車両の修理費用として47万1660円の損害を受けたものと認められる。

3  被控訴人車両の修理費用について

甲第2号証によれば,名古屋三菱ふそう自動車販売株式会社は,被控訴人車両の修理費用として128万4507円との見積りをしていることが認められる。しかし,乙第2号証によれば,控訴人会社が自動車保険契約を締結している保険会社のアジャスターが被控訴人車両の修理費用として50万4640円との見積りをしていることが認められるから,これとの対比からすれば,上記128万4507円の見積額はにわかには正当とは認めがたい。のみならず,甲第3号証,乙第1号証及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人車両は,平成元年8月に初度登録がされた車両で,オートガイド自動車価格月報(いわゆる「レッドブック」)平成13年5・6月版には被控訴人車両と同車種またはこれに類似する車種の価格の記載はないことが認められるところ,現に被控訴人会社が被控訴人車両を使用して営業をしていたことに照らせば,被控訴人車両をただちに経済的に無価値であるとすることはできないとしても,本件事故当時の本件車両の交換価値は上記50万4640円をも相当程度下回るものと考えざるを得ない。

この点,被控訴人らは,本件事故当時にも相当額の売上げを上げていたことを理由に,被控訴人車両は少なくとも128万4507円の価値はあったと主張するが,被控訴人車両のような営業車は,運送業者等の営業用資産として利用されるのが一般的であり,中古車市場においては当然にそのような事情を前提に価格が形成されるものと認められるから,上記のような売上げを得る可能性があったとの一事をもって被控訴人車両の時価額がそのように高額であったと考えることは到底できない。そして,被控訴人車両に将来において相当期間使用できるという見込みないし期待があったにとどまらず,相応の経済的な価値があったとすれば,被控訴人において適宜の方法でそれを立証すべきであり,そのような的確な立証のない本件においては,控訴人らの自認する15万2000円をもって被控訴人車両の時価額と算定するのが相当である。そうすると,この額は上記修理費用見積額のいずれをも下回るから,この15万2000円の限度で被控訴人会社が本件事故によって受けた損害と認めるのが相当である。

4  結 論

以上によれば,本件事故によって受けた損害は,控訴人会社は47万1660円,被控訴人会社は15万2000円となるところ,本件事故につき,控訴人Aには6割,被控訴人Bには4割の過失があるから,過失相殺として上記各損害額からこれらの割合で控除すると,控訴人会社は18万8664円,被控訴人会社は9万1200円となる。本件の性質,審理の経過,認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は控訴人会社は1万8000円,被控訴人会社は9000円とするのが相当であるから,結局,控訴人会社は被控訴人Bに対し20万6664円及びこれに対する本件事故の日である平成12年5月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の,被控訴人会社は控訴人Aに対し10万0200円及びこれに対する本件事故の日である平成12年5月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金をの各支払を求めることができる。

よって,これとは一部異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 鬼頭清貴 裁判官 濱口浩)

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