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名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)19号 判決 2002年9月12日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が,控訴人の平成10年3月分の源泉所得税について平成11年3月31日付けでなした源泉所得税34万6181円の納税告知処分及び不納付加算税3万6000円の賦課決定処分並びに被控訴人の平成10年4月分から平成10年9月分までの源泉所得税144万6148円の納税告知処分及び不納付加算税16万4000円の賦課決定処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,外国人芸能人のあっせん仲介業を営む控訴人が,フィリピン共和国においてフィリピン国籍の芸能人の紹介を行う者に対して支払った金員は,所得税法161条2号に規定する国内源泉所得にあたるとして,被控訴人が控訴人に対し,源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたのに対し,控訴人が,前記金員は国内源泉所得にあたらないとして,これら処分の取消しを求めた事案であり,原判決が本訴請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである。

2  争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり加除訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第2の1,2」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決6頁4行目の「そのもの」を「その者」と改める。

(2) 同9頁4行目の「支払に関する」の後に「控訴人作成の」を加え,同8行目の「本件」を削除する。

3  当審における控訴人の補足的主張

(1) 原判決の事実認定は,現地紹介者であるフィリピン人社会の特殊性に対する理解・認識が欠落しており,重大な事実誤認がある。すなわち,現地紹介者であるフィリピン人は日本人とは社会的環境,道徳観,価値観が全く異なっており,約束を反故にすることなど何の抵抗も感じない日常生活をしているものである。したがって,タレントが6か月という約束した期間を平然として破った場合に対処するため,現地紹介者に対しても手数料の分割払という担保措置を講じざるを得ないし,再入国だからといって,当初の現地紹介者を無視してタレントと直接交渉することは,現地紹介者であるフィリピン人の風俗・習慣から逸脱することになり,今後別の有望なタレントの紹介を受けることができなくなってしまうという特殊事情が存するため,タレントを再入国させるについて当初の現地紹介者を通じて再び行わざるを得ないのである。

(2) 原判決は,控訴人の同業者に対しては現地紹介者に対する手数料が国内源泉所得として扱われていないという控訴人の主張を排斥するに際し,乙5号証(本件の税務調査を担当した名古屋国税局の国税実査官[当時]のA作成の陳述書)の供述記載をもって控訴人の主張と反対趣旨を述べるものとしているが,乙5号証には控訴人の主張と反対趣旨を述べる供述は全く見られないから,その証拠評価を誤ったものである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も本訴請求はいずれも棄却すべきであると判断するが,その理由は次のとおり加除訂正するほか原判決の事実及び理由欄の「第3」に説示のとおりであるから,これを引用する。

(1) 原判決10頁10行目の「甲1号証ないし」を「甲1号証,2ないし5号証の各1,2,甲6号証,」と改める。

(2) 同12頁4行目の「されていること」の後に次のとおり加える。

「,また,控訴人からその現地従業員に対する支払指示に関するメモにおいても,タレントへの初回報酬と現地紹介者への手数料が区別されておらず,その支払合計金額が単にサラリーと一括表示されており,これは,控訴人自身がタレントと現地紹介者との関係を一体視している証左であること」

(3) 同頁15行目の「記載のとおり),」の後に次のとおり加える。

「しかも,ワンタイムコミッションへの支払額は,原判決別表2(1)のとおりタレント1人当たり1回100米ドルから300米ドルにとどまるのに比して,現地紹介者への手数料支払額は,同別表2(3)のとおりタレントの出国時手数料だけでもおよそ1500米ドルから2750米ドルと高額であり,かつタレントへの報酬支払額と比しても前記現地紹介者への手数料支払額が高額であることは同別表3をみても明らかであり,到底,控訴人が主張するような現地の市井人によるタレントの紹介行為に対する対価とは認め難い。」

(4) 同13頁5行目の「なお」を削除し,同12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

「よって,被控訴人のした本件各納税告知処分及び国税通則法67条1項に基づく不納付加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。」

2  付加する判断

控訴人の当審における補足的主張(1)についてみるに,フィリピン人の現地紹介者やタレントが約束を反故にすることなど何の抵抗も感じないほどの道徳観や価値観をもって日常生活をしているとする控訴人の主張は客観的証拠に基づかない独自の見解というべきであり,これを前提とする手数料の分割支払やタレント再入国時の手数料の再支払に関する控訴人の主張及びこれに沿う控訴人代表者の原審供述部分(甲7号証も同旨)も採用することはできない。また同補足的主張(2)についてみるに,乙5号証の14頁24行目以下には,本件の税務調査を担当した国税実査官Aが控訴人の主張を受けて調査したところによると,控訴人と同様の同業者においてはマネージャーコミッションについて課税されている事実がある旨の陳述記載があり,この点に関する控訴人の主張も理由がない。

3  以上の次第で,本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 黒岩巳敏 裁判官 鬼頭清貴)

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