名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)23号 判決 2003年12月25日
控訴人兼被控訴人
甲
(以下「1審原告甲」という。)
控訴人兼被控訴人
乙
(以下「1審原告乙といい、上記2名を「1審原告ら」という。)
被控訴人兼控訴人
名古屋中村税務署長 尾藤光則
(以下「1審被告」という。)
指定代理人
小林昭彦
同
安福達也
同
中堀博治
同
根岸裕介
同
荒木徹
主文
1 1審被告の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審原告甲の請求のうち、相続税の更正処分につき納付すべき税額388万8100円を超えない部分の取消しを求める部分にかかる訴えを却下する。
(2) 1審原告乙の請求のうち、相続税の更正処分につき納付すべき税額668万5400円を超えない部分の取消しを求める部分にかかる訴えを却下する。
(3) 1審原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。
2 1審原告らの各控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は1、2審を通じて1審原告らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 1審原告甲
(1) 原判決中1審原告甲に関する部分を次のとおり変更する。
(2) 1審被告が1審原告甲に対し、平成9年8月12日付でした平成3年11月22日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし、平成10年5月25日付更正処分により一部取り消された後のもの。)のうち、納付すべき税額368万1057円を超える部分を取り消す。
(3) 訴訟費用は1、2審とも1審被告の負担とする。
2 1審原告乙
(1) 原判決中1審原告乙に関する部分を次のとおり変更する。
(2) 1審被告が1審原告乙に対し、平成6年7月6日付でした平成3年11月22日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし、平成9年12月22日付異議決定により一部取り消された後のもの。)のうち、納付すべき税額482万1830円を超える部分を取り消す。
(3) 訴訟費用は1、2審とも1審被告の負担とする。
3 1審被告
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記部分にかかる1審原告らの各請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は1、2審とも1審原告らの負担とする。
第2事案の概要
1 本件は、1審原告らが、父である被相続人丙(以下「丙」という。)の死亡による相続税の納付に関し、1審被告が行った更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分が違法であるとして、その取消しを求める抗告訴訟であるところ、原審が、1審原告らの請求の一部を認容したことから、これに不服である1審原告ら及び1審被告の双方が控訴した事案である。
以下、略語は原判決のものに準ずる。
2 争いのない事実等
争いのない事実等は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2 前提事実(争いのない事実等)」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁10行目、4頁22行目の各「別紙」をいずれも「原判決別紙」と改める。
(2) 同23行目の「とおりである」を「とおりであり、その際の1審原告らの申告額は、別表1「相続財産一覧表」(以下「一覧表」といい、同表の番号欄記載の各財産は単に「番号1」などという。また、他の別表中の番号は、同表の番号と一致するものである。)の『1審原告らの申告額』欄記載のとおりである。」と改める。
(3) 同24行目の「後記3の」から25行目末尾までを「一覧表中、網掛け表示のされていない部分は、当該財産の帰属又は評価額について当事者間に争いがない。」と改める。
3 争点
(1) 丙の相続財産の範囲及びその課税価格
(複数口の預貯金が存する場合の内訳及び取得者等に関する1審被告の主張は、原判決別表9のとおりである。)
ア 番号1<1>、同<2>の各土地、番号2<1>、同<2>の各建物の評価額(当審における1審原告らの新主張)
(1審被告の主張)
これらの物件の課税価格(相続税評価額)は一覧表の「1審被告主張額」欄のとおりである。
(1審原告らの主張)
課税価格については争わないが、各相続人の相続税額の算出に際しては、土地の課税価格を相続税評価額によらず不動産鑑定額によって計算すべきであり、その額は、番号1<1>の土地が5839万円、同<2>の土地が6344万円、番号2<1>の建物が136万円、同<2>の建物が118万円である。
イ 番号2<3>の構築物(庭園設備)及び同<4>の建物の評価額(原判決争点1)
(1審被告の主張)
1審原告らは、当初申告において番号2<3>の構造物の価額を100万円であるとしており、上記申告価格についてこれを不相当とする理由は特段見当たらない。また、同<4>の建物についても、木造建物が相続開始時に現に存在する以上、年数が経過しているとか、使用されていないということのみでは、だたちには無価値であるとはいえず、財産評価基本通達89に基づき、上記建物の固定資産評価額(6万5400円及び4万6764円)をもって評価額とするのが相当である。
(1審原告らの主張)
番号2<3>の構築物は、素人が趣味で作った程度のもので、特に昭和58年以降は全く手入れをされず価値はなく、遺産分割でも算定の基礎とされていないので、評価額は0円とすべきである。同<4>の建物は、木造で相当の年数が経過しており、丙死亡の数年前には小火があり、家の中や屋根の一部が抜け落ち修理不能の状態であった。また、10年以上も使用されていないから、建物としての価値はない。
ウ 番号3、5ないし7、10ないし23、25、27ないし31、34ないし40、44-1は、丙の相続財産か、あるいは一覧表の「1審原告らの主張」の「帰属」欄記載の者の財産か(原判決争点2)。
(1審被告の主張)
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(2)」の「ア」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
ただし、原判決9頁8行目の「死亡当時も、」の後に「年間」を加える。
(1審原告らの主張)
(ア) 丁の資力について
丁は、昭和47年から死亡時まで6室のアパートを所有しており、平成元年度は203万5647円、平成2年度も1か月18万5400円の家賃収入を事業所得(257万4484円)として申告しているほか、更に1軒分の収入も得ていた。丁は、昭和58年以前は家賃収入は全額貯金しているとのことであったし、昭和58年にA夫婦と同居するようになってからは、丙と丁の生活費として丁の家賃収入から、当初は8万円をIに渡しており、郵便局の貯金口座に入金される年金を貯めて丙名義と丁名義の定額貯金をしていた。なお、上記賃貸に際して使用する印鑑も家賃振込口座も丁名義であった。
これに対し、丙が当時の民間企業勤務者の平均年収額の3倍近い年収を得ていたなどということはなく、丙の収入は、借家1軒からの家賃3万6000円、駐車場6000円(毎月)、年金(配偶者分の加算あり)及び恩給であって、平成3年度の所得も180万4021円であるにすぎず、丁の平成元年度収入198万2000円より少ない。
また、丁は、番号49の建物を建築した昭和48年当時、昭和46ないし47年の資産状況に対する税務署からの「お尋ね」に対し、J証券の債券、株券、預貯金を有しており、これらを原資として同建物を建築したと回答しているほか(乙91)、そのころ、Gから株式配当も受け取っており(乙96、97の各1)、相当の資産を有していた。更に、丁は、結婚後も多治見に転居するまで20年以上縫製工場で働いており、結婚の際に持参した金員をGに出資し、その後も内職をして収入を得ていた。また、貸金の代物弁済として取得した田を資産として有していた。
(イ) 印鑑の管理について
丙と丁は、印鑑を別々にすることにより、各人の財産を区別して管理していた。
丙は、銀行取引や税務申告等には実印である丸印を使用し、取締役会議事録には「丙」と彫られた楕円形の印鑑(以下「楕円印」という。)を使用していたが、Aは、自己の税務申告に楕円印を使用し、その存在を秘匿していた。一方、丁は、小判印を自己の実印として印鑑登録し、不動産を売買する際に使用しているほか、所得税の確定申告や、丁の財産であることに争いのない番号52のL銀行の丁名義の普通預金口座の取引にも使用しているから、同印鑑が使用された取引は、丁に帰属する財産に関するものである。
なお、1審被告は、丙名義の口座である番号25の郵便局の普通貯金及び番号31の丙名義のL銀行の普通預金につき小判印が使用されていることを根拠に、小判印の使用された口座も丙に帰属すると主張するが、番号25及び31は、丙の単独財産ではなく、丙と丁の共有に属する口座であって、番号25は年金が振り込まれる口座であること、番号31は電気代等の家計費の支払に使用する口座であることから、いずれも丁が管理していたため、小判印が使用されているものである。
小判印は、丁の実印であり、届出印鑑として小判印が使用されている預貯金等は、いずれも丁の財産である。また、番号39は、1審原告乙が贈与を受けた財産であり、番号25及び31は、丙と丁の共有財産である。
(ウ) J証券の担当者との交渉はすべて丁が行っており、使用印鑑も小判印であるから、これに関する財産(番号3、6、7、10ないし18)は、いずれも丁に帰属する。丙は、昭和62年に口座を開設する以前には、J証券との取引がない。
(エ) 小判印の使用されている取引については、口座開設も管理も丁が行っている。番号22ないし37のM銀行の信託共通印鑑届の筆跡は、丁のものであり、丙その他の者の筆跡ではない。M銀行については、丁が最初に口座を開設しており、このことからも、丁が中心となって行った取引であることがわかる。
(オ) 番号6の丁名義の国債及び番号27の丁名義の郵便貯金は、いずれも丁の財産としてマル優等の申告をしている上、小判印が使用されているから、丁に帰属する。
エ 番号24の丙遺産の現金の価額(原判決争点4)
(1審被告の主張)
丙死亡前の平成3年10月22日に、M銀行で解約された1072万2079円とK銀行で解約された491万7706円から、寺社への寄付金を控除した残金1111万4292円である。
(1審原告らの主張)
M銀行の丙名義の貸付信託は、平成3年10月22日に解約され、解約金は別の口座番号に定期預金として預けられた後、同年11月8日にA名義の口座に貸付信託として預け替えされ、平成9年の分割時に1169万7475円存在していて、Aが取得した。また、K銀行の解約金は現金で家に持ち帰り、その金員は寺などに寄付した。したがって、現金は、平成3年11月22日当時の手持現金47万4507円のみである。
オ 番号45は、丙の相続財産か、それとも丙が生前にAに贈与したものか。また、相続時の価額はいくらか。(原判決争点5)
当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(5)」の「ア」及び「イ」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
カ 番号47-1(その詳細は、別表2「丁相続財産」のとおり。)の丁の遺産を丙の相続財産に含めるべきか又は除外すべきか(原判決争点7)。
(1審被告の主張)
丁死亡時に丙が生存していた以上、丁の遺産のうち法定相続分の2分の1は丙の遺産に含まれるというべきであり、現に本件審判においてもそのことを前提として判断されている。
(1審原告らの主張)
丙は、丁の遺産の2分の1の法定相続分を有するが、遺産分割前に死亡しており、遺産分割の効力が死亡時にさかのぼることから、丁の遺産を相続していない。よって、丁の遺産の相続分を丙の遺産に入れるべきではない。
キ 番号47-1の丁から相続した財産のうち、Eから相続した財産(別表2「丁の相続財産」番号54。以下、同表の各財産は単に番号のみをもって示す。)は、丙の遺産から除外すべきか。番号57のEの遺産の現金はいくらか。番号54のE相続財産の評価額はいくらか(原判決争点6-1)。番号55の土地の評価額はいくらか(当審における1審原告らの新主張)。
(1審被告の主張)
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(6)」の「ア」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1審原告らの主張)
丙の遺産にEからの遺産は含まれない。Eの遺産のうち、丁死亡に伴う丙の法定相続分は、本件審判により、Cらが取得したので、E相続開始時にさかのぼってCらが直接Eから取得したことになる。したがって、上記法定相続分を丙の遺産に含めるのは誤りである。
また、番号54の評価額は3601万4551円、番号55の評価額は3597万3626円とすべきである。
ク 番号50の丁の遺産の現金は存在したか(原判決争点8)。
当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(9)」の「ア」及び「イ」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
ケ 番号47-2の1審原告乙に対する貸付金198万円は存在したか(原判決争点6-2)。
当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(7)」の「ア」及び「イ」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
コ 丙の遺産として、一覧表に記載されたもの以外の財産が存在するか(当審における1審原告らの新主張)。
(1審原告らの主張)
別表3「1審被告が丙財産であると主張していないが、1審原告らが丙財産であると主張するものに関する1審原告らの主張」の各財産は、いずれも丙の遺産である。
上記別表の番号j、kは、L銀行の丙名義普通預金から丙死亡後にIが引き出し、Iが作成したものであり、丙の遺産である。
同番号l、mは、丙死亡直前に丙の郵便局の普通貯金口座から400万円を引き出してIが作成したもので、丙の遺産である。
同番号nは、解約金がL銀行のA名義の遺産管理口座に入金され、AやBの相続税の支払に充てられていることから、Iの固有財産ではない。
番号oは、5口(180万円)のうちの2口で、他の3口(130万円)が、幼児には資力がないとの理由で丙の遺産とされながら、この2口がbの固有財産であるとするのは矛盾しており、丙の遺産である。
なお、以上のほかにも、本来は丁の遺産であるのに、1審被告がAの固有財産として扱っているものがある。
(1審被告の主張)
1審原告らの主張は争う。
サ なお、1審原告らは、原審において、番号18ないし23、26ないし30についてもその価額を争っていた(原判決争点3)が、当審において、1審被告の主張と同旨である旨認めている。また、1審原告らは、原審(原判決争点3)及び当審において、番号51の価額は737万7671円であると主張するが、その主張するところは、番号51は本来737万7671円であるが、そのうちの一部をAの家族が払い戻して番号27(390万9318円)としたというものと解され、そうすると、その差額である346万7146円は、番号51についての1審被告の主張と同額となって、この点についての争いはないこととなる。
(2) 丁は、Eの相続人に対して291万4622円の債務を負担していたか(原判決争点9)。
(1審原告らの主張)
1審原告らは、1審被告の担当者であるP(以下「P」という。)に騙され、2分の1を申告すれば全額債務として認めると言われて番号50の申告をした。したがって、これは丁のEに対する債務として認められるべきである。
(1審被告の主張)
1審原告らは、修正申告書で「Eの財産に対する債務」として290万円(正確には番号50の現金291万4613円と思われる。)を計上し、M銀行名古屋支店のE名義の普通預金を丁がEから取得した見返りとして債務を負担していると主張するようであるが、本件調停においては、これをEの遺産分割の対象としないで丁のものとするが、相続税などの問題が生じたときには、丙の側の問題とするように合意されているので、1審原告らが主張するような債務を丁が負担した事実はない。
(3) 別表4「丙からAに贈与されたものか争いのある財産」の番号a、b、cの財産(以下、単に番号のみをもって示す。)は、丙が生前にAに贈与したものか、丁の財産か(原判決争点10)。
(1審被告の主張)
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(11)」の「ア」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1審原告らの主張)
これらの取引には丁の実印が使用されており、番号a、cについては名義も丁であって、いずれも丁の財産というべきであり、そもそも丙の財産ではない。しかも、解約等はAとIが勝手に行ったにすぎず、贈与の事実もない。
ア 番号aについて
丁は外務員に勧められてQ銀行に預金したことがあるが、丙は同銀行とは付き合いがない。取引開始時に同銀行は丁本人と確認している記載がある(甲10)。
イ 番号bについて
J証券との取引は、丁が丁自身の名義やその家族名義で行っていた。使用された印鑑は丁の実印であり、丁はJ証券でも実印を取引印として特優の申告をしている。なお、丁は、昭和36年からJ証券と取引をしており、また、丁の娘はJ証券に勤務していた。
ウ 番号cについて
印鑑が丁の実印であること、丁と丙の住所は同じで、住所だけではどちらの預金かわからないこと、家計のやりくりは丁が行っていたこと、マル優の手続もしていたことなどから、丁の財産である。
(4) 1審原告らの財産取得価格(原判決争点11)
(1審被告の主張)
次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(12)」の「ア」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決21頁25行目、22頁3行目の各「別表」を、いずれも「原判決別表」と改める。
イ 同13行目の「すなわち、」から21行目末尾までを「なお、本件審判における調整金は、分割時価格を基本として、遺産分割に当たり本件各相続人がそれぞれ取得すべき遺産価格と実際に取得した遺産価格の差額を表したものである。言い換えれば、審判書に記載されているところの取得すべき価格が丁相続及び本件相続のそれぞれにおいての具体的相続分であり、これに個々の財産を当てはめた結果、調整金がそれぞれに発生し、丁の遺産分割の調整金が丙の遺産分割において再調整されたものである。したがって、調整金は、特定の相続財産に対応する代償たる性質を有しないものであり、その価値の増減ということを想定すべきものではない。」と改める。
(1審原告らの主張)
1審被告は、本件審判において1審原告らが取得するものとされた相続財産あるいはその代償財産を1審原告らが相続により取得したとの前提で、1審原告らの相続税額を算出しているが、本件審判において分割の対象とされた財産には、AやBが保有したり、個人的に費消したものが含まれておらず、すべての代償財産を算定したものではない。特に番号24のM銀行の丙の解約金は、Aが定期預金としており、Aが取得している。
このように、実際に取得した代償財産の価額が、本来取得することとされた相続財産のそれを下回っている場合、上記費消等による価額減少分に対応する相続税を1審原告らの負担に帰せしめるべきではないから、1審原告らの相続税額算定に当たっては、本件相続開始時における相続財産の現在高をもって1審原告ら取得分の本件相続開始当時の評価額(遺産分割によって得た財産額を、年利5ないし6パーセントで相続時に割り戻した金額)を除することにより、1審原告らの負担すべき税額を決定すべきであり、1審被告主張のように単純に遺産分割時における1審原告らが取得した金額の割合をもって算出することは違法である。
仮に1審被告主張のような手法をとるのであれば、相続開始後分割までの間に発生した果実等を考慮し、Aらが保有したり費消したものは加算してあるべき金額を算定すべきであるし、また、基準時は統一すべきであるから、分割当時の全相続財産の価額(Aが相続開始後費消した金額不明の部分を含む。)に占める1審原告らが実際に取得した財産の遺産分割時における価額の割合をもって相続税額を算定すべきである。
なお、1審原告甲が取得することになった調整金は、本件審判によって丁の遺産である番号48の土地と番号49の建物をBが取得することとされた代償として、Bが1審原告甲に対してこれに見合う代償財産を給付することになったところ、丙の遺産分割が同時に行われたため、Bが取得すべき丙の遺産がBからの代償財産として1審原告甲に給付されることになったものであり、それ以上に1審被告の主張するような役割や意味はない。本件審判では、1審原告甲が303万2474円の調整金の支払を受けることになっているが、1審原告甲はこのような趣旨の調整金はもらっていない。
また、分割の対象とされた相続財産あるいは代償財産の遺産分割時の時価評価は厳密になされておらず、分割は不公平な結果となっている。例えば、番号48の土地は5679万円、番号49の建物は552万円と評価すべきであるのに低額に評価され、そのため、1審原告甲が取得すべき調整金の額が不当に少なくなっている。
(5) 1審原告らについて、国税通則法65条4項の正当な理由があると認められる場合に当たるか(原判決争点12)。
(1審被告の主張)
原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「4 争点に関する当事者の主張」の「(13)」の「ア」に摘示のとおりであるから、これを引用する。
(1審原告らの主張)
Aは、本件相続開始前から本件相続財産を管理していたが、1審原告らに対し、その管理に係る相続財産の内容を一切明らかにしなかったため、1審原告らは申告することができず、1審被告に相談に行った。Pは、期限内に申告しないと無申告加算税が課されるので、Aの修正申告を写すように指示された。1審被告からは、1審原告らには調べることができないであろうから1審被告が調べると言われて参考書類(乙55)を渡し、更に、1審原告らは1審被告に対し、調査依頼の電話を何度もしたが、自分で調べるようにとの指示はなかったため、時間が経過してしまった。
1審原告らは、Pに対し、M銀行のA名義とb名義のものは丙の遺産であると指摘したが、Pはこれを聞き入れなかったので、やむなく1審被告の基準に合わせてM銀行の家族名義のものは各自の固有財産として修正申告を行った。
1審原告らが遺産の範囲の確定をすることができなかったのは、Aが、丙の遺言書や預金通帳並びに丁及びEの遺産を、自己の顧問であるR(以下「R」という。)の税理士に預けてしまい、1審原告らに見せなかったこと、Rの指導により、遺産である預貯金等の解約や名義変更が行われたため、銀行等を調査しても判明しなかったこと、税務署が、税務調査の内容をRとAにのみ見せ、1審原告らに見せなかったこと、Rが資料を1審原告らに見せなかったこと、修正申告時、1審被告により十分な検討時間や資料が与えられなかったこと、Pが1審原告らの修正申告書の提出日を平成6年7月12日にすると言ったにもかかわらず、その期限前に本件更正処分等をしたことが原因である。
したがって、本件については、過少申告額の全部につき、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由がある(国税通則法65条4項)というべきである。
また、Pは過少申告加算税はAに賦課することとし、1審原告らには賦課しないことを約束しており、そうであるからこそ、1審原告らの知り得る範囲の申告されていない遺産に関する書類を1審被告に交付したのであって、この意味でも1審原告らに対する過少申告加算税の賦課決定処分は違法である。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)について
(1) ア(番号1<1>、同<2>の各土地、番号2<1>、同<2>の各建物の評価額(当審における1審原告らの新主張))について
1審原告らは、各相続人の相続税額の算出に際し、土地の課税価格を相続税評価額によらず不動産鑑定額によって計算すべきである旨主張する。しかしながら、相続税は、「相続又は遺贈に因り財産を取得した者の被相続人からこれらの事由に因り財産を取得したすべての者に係る相続税の総額を計算し、当該総額を基礎としてそれぞれこれらの事由に因り財産を取得した者に係る相続税額として計算した金額」により課されることとされ(相続税法11条)、また相続税の総額は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額を基に計算され(同法16条)、各相続人等の相続税額は、「被相続人から相続又は遺贈に因り財産を取得したすべての者に係る相続税の総額に、それぞれこれらの事由に因り財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出」する(同法17条)こととされているのであるから、各相続人の相続税額を算出するに当たっては、相続税の総額を算出する際のもととなった課税価格を基礎にすべきものであることは明らかであり、不動産鑑定額を採用すべきであるとの上記1審原告らの主張は採用できない。
そして、1審原告らが課税価格については争っていないことからすれば、これらの財産についての評価額は、1審被告主張どおり、番号1<1>については2113万6340円、同<2>については3448万8920円、2<1>については98万2214円、同<2>については84万9277円とするのが相当である。
(2) イ(番号2<3>の構築物(庭園設備)及び同<4>の建物の評価額(原判決争点1))について
当裁判所も、番号2<3>の構築物については100万円、同<4>の建物については11万2164円と評価すべきものと判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1 争点1について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
(3) ウ(番号3、5ないし7、10ないし23、25、27ないし31、34ないし40、44-1は、丙の相続財産か、あるいは一覧表の「1審原告らの主張」の「帰属」欄記載の者の財産か(原判決争点2)。)について
当裁判所も、これらの財産はすべて丙の相続財産に属するものと判断するが、その理由は、次のとおり加除訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「2 争点2について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決27頁19行目の「昭和24年から」を削除する。
イ 同24行目の「昭和26年」を「昭和24年」と改める。
ウ 同28頁13行目の「当時の民間企業勤務者の平均年収額の3倍近い」を削除する。
エ 同14行目の「他方、」の後に「昭和44年当時は、」を加える。
オ 同33頁14行目の「前記認定のとおり」から17行目の「認め難く」までを「前記認定に係る丙と丁の双方の職歴や収入状況や、前記認定のとおり、当時丁は身体が不自由な状態にあり、活発に株式売買や金融取引をなし得るような状況ではなかったと認められることに照らすと」と改める。
カ 同34頁5行目の「丁の収入は」から6行目の、「支出していたこと、」までを削除する。
キ 同10行目の「丁もGの株式を所有していたと」を「丙がGの株式を取得する際には丁の預金がその資金に充てられた旨」と改める。
ク 同20行目の「維持されていたとは」から24行目の「したがって」までを「維持されていたものと認めるのは困難であり」と改める。
ケ 同37頁16行目の「資力を有していたとは考え難い」を「資力があり、かつ、そのような預入れをする意思があったとすることには疑問がある」と改める。
(4) エ(番号24の丙遺産の現金の価額(原判決争点4))について
本件相続開始時点において、丙の財産として47万4507円の現金が存した事実は1審原告らも自認しているととろ、証拠(甲46、78の2、乙34、51、52、121、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、丙死亡前の平成3年10月22日に、上記金員とは別に、丙の預金であったM銀行名古屋支店とK銀行名古屋支店の各預金口座がそれぞれ丙の指示により解約され、1072万2079円と491万7706円の合計1563万9785円の解約金の中から、同月26日、Aが、丙の指示により、Wに300万円、Xに100万円、Yに100万円の金員をそれぞれ寄付したことが認められる。そうすると、本件相続開始時に、前記1審原告らによる自認額に、解約金合計から500万円を控除した額を合算した1111万4292円が現金として実在していたと認められる。
1審原告らは、当該現金の原資のうち、平成3年10月22日に解約された丙名義のM銀行名古屋支店の貸付信託に係る解約手取金額1072万2079円は、現金として存在せず、平成3年11月8日に作成されたM銀行名古屋支店のA名義の定期預金1000万円の原資となっていると主張する。しかし、証拠(乙23、25、53、証人A)によれば、上記A名義の定期預金1000万円は、平成3年11月8日にQ銀行中村公園前支店のA名義の普通預金から引き出された現金393万円、同日に解約されたM銀行名古屋支店の丁名義の貸付信託の解約手取金(現金)489万4880円、同日にL銀行中村公園前支店のA名義の普通預金から現金出金された120万円を合計した1002万4880円の一部を原資とするものであることが認められるから、1審原告らの上記主張は採用できない。
(5) オ(番号45は、丙の相続財産か、それとも丙が生前にAに贈与したものか。また、相続時の価額はいくらか(原判決争点5)。)について
当裁判所も、番号45の地上権は丙の相続財産に属し、かつ、相続時の評価額は475万5000円とするのが相当であると判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「5 争点5について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
(6) カ(番号47-1の丁の遺産を丙の相続財産に含めるべきか又は除外すべきか(原判決争点7)。)について
民法909条本文は、遺産分割の効力が相続開始時にさかのぼって生じる旨を規定しているところ、丁の遺産分割についてその効力が丁死亡時にさかのぼることは当然であり、その時点で生存していた丙が相続割合に応じた相続分を取得することは明白である。そして、本件審判も、論理に従い、まず丁の遺産分割を行う旨明確に述べているのであって、丁遺産のうち丙相続分が丙の遺産を構成することも明白であるというべきである。
(7) キ(番号47-1の丁から相続した財産のうち、Eから相続した財産(番号54)は、丙の遺産から除外すべきか。番号57のEの遺産の現金はいくらか。番号54のE相続財産の評価額はいくらか(原判決争点6-1)。番号55の土地の評価額はいくらか(当審における1審原告らの新主張)。)について
ア 当裁判所も、番号54は丙の相続財産に属し、かつ、番号57の相続開始時の評価額は8449万8586円とするのが相当であると判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「6 争点6-1について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
イ 番号55の土地についての評価額が7525万4000円であることは、1審原告らが原審において自認していたところであり、また、1審原告らが申告において採用していた額でもあるうえ、1審原告らの当審における主張額を裏付ける的確な証拠もないことから、番号55の土地の評価額は7525万4000円とするのが相当である。
(8) ク(番号50の丁の遺産の現金は存在したか(原判決争点8)。)について
当裁判所も、番号50の丁の遺産の現金は本件相続時に存在していたとは認められないものと判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「9 争点8について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
(9) ケ(番号47-2の1審原告乙に対する貸付金198万円は存在したか(原判決争点6-2)。)について
乙120、121によれば、I及びBは、名古屋国税局の大蔵事務官に対し、丙の貸金管理用の「御通帳」を見たことがあり、それには丙の1審原告乙への貸付金の記載があり、2万円の返済がされている旨の記載があったが、貸金額についてはわからない旨述べたことが認められ、また、証人Aは、丙の貸金管理用の「御通帳」には、借主として1審原告乙の氏名が記載され、2回くらい返済があった旨の記載はあったが、金額の記載はなく、うろ覚えであるが、丙は200万円前後貸したように言っていたと思うと供述する。
しかし、仮に、丙が1審原告乙から上記2万円の返済を受けた事実があったとしても、このことから当然に1審原告乙が丙からこれを上回る借入れをしていたと推認することはできないし、また、丙が1審原告乙に対して貸付をしたとする金額については証人Aの上記のような供述があるにすぎないのであって、このことのみから、1審原告乙が丙から200万円を借り入れたものと認めることはできない。
よって、番号47-2の1審原告乙に対する貸金が存在することを認めるに足りない。
(10) コ(丙の遺産として、一覧表に記載されたもの以外の財産が存在するか(当審における1審原告らの新主張)。)について
1審原告らの主張する各財産が、丙死亡当時において丙の財産として存在したことを認めるに足りる的権な証拠はないから、1審原告らの主張は採用できない。
また、1審原告らは、本来は丁の遺産であるのに、1審被告がAの固有財産として扱っているものがあると主張するが、その具体的内容や根拠が十分に特定されているとはいえず、また、これらの存在を認めるに足りる的確な証拠もないから、この点に関する1審原告らの主張も採用できない。
2 争点(2)(丁がEの相続人に対して291万4622円の債務を負担していたか(原判決争点9)。)について
当裁判所も、丁がEの相続人に対して債務を負担していたものとは認められないものと判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「10 争点9について」に説示のとおりであるから、これを引用する。
3 争点(3)(番号a、b、cの各財産は、丙が生前にAに贈与したものか、丁の財産か(原判決争点10)。)について
(1) 証拠(乙3、17の2、23の1、24、27、132、136)及び弁論の全趣旨によれば、番号aの財産は、平成元年7月28日に預け入れられた丁名義の定期預金にして、元本は361万円で、その原資は、昭和63年4月23日、7月27日、10月14日にそれぞれ丁名義で預け入れられた3口の預金の解約金の一部であり、平成3年11月5日に解約されていること、番号bの財産は、A名義で昭和62年9月29日に300万円で購入された株式債券ファンドであり、平成3年10月11日に満期償還され、同月30日にAの口座に入金されており、その購入資金はA名義のZファンド85の売却代金276万4710円及び差額分の現金であること、番号cは、丁名義で昭和63年3月20日に購入されたf300万円及び同年4月1日に購入されたf108万円であり、平成3年11月8日にいずれも解約されていることが認められ、これらの事実に、前記認定に係る丙と丁の生活状況、昭和60年ないし平成元年ころの両名の収入及び丙の株式取引及び金融資産管理状況を総合すれば、番号a、b、cの各財産は、いずれも丙が取得した財産であると認められる。
(2) そして、証拠(甲79、乙28、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、Aは、平成3年8月にU病院に入院していた丙から番号a、b、cの各財産について預金通帳3点を預かったこと、A及びBが1審被告に提出した本件相続に係る相続税の修正申告書には、番号a、b、cの各財産について相続開始前3年以内に贈与を受けた財産として修正申告していること、番号a、b、cの各財産の解約金はいずれもA名義の預金とされていること、本件審判においては、番号a、b、cの各財産はAの特別受益であると認定されていることが認められ、これらの事実によれば、番号a、b、cの各財産は、Aが丙から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産であると認めるのが相当である。
4 争点(4)(1審原告らの財産取得価格(原判決争点11-1、2))について
(1) 証拠(甲14、17、67、乙28、55の3の4、139)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 本件相続においては、Aが丙の生前ないし死後に、相続財産に含まれる預金等の多くを解約するなどして、現金や他の預金、金融商品等に変化させており、分割当時には相続財産が相続開始時と全く異なる形態をとっていたこと、このため、本件審判においては、上記のとおり変化した後の代償財産により遺産分割がされた。
イ 1審原告甲は、本件審判によって、別表5「1審原告甲の取得財産明細表」のとおりの財産を取得した。1審原告甲が得た上記財産のうち、番号24、25、31、32、41ないし43、44-1、44-2の本件相続開始時の価額は上記別表5のとおり合計1694万5964円となるが、Aがこれらを解約し、解約によって得た金銭の一部である992万円でA名義でgを取得しており、これを代償財産として提供したため、本件審判において、1審原告甲が上記gを取得することとされたが、本件審判時のその価額は1055万7178円であった。
ウ 1審原告乙は、本件審判によって、別表6「1審原告乙の取得財産明細表」のとおりの財産を取得した。1審原告乙が得た上記財産のうち、番号10ないし14の本件相続開始時の価額は上記別表6のとおり合計599万0627円となるが、Aがこれらを解約し、解約によって得た558万9753円でA名義でJ証券hファンドを取得しており、これを代償財産として提供したため、本件審判において、1審原告乙が上記hファンドを取得することとされたが、本件審判時のその価額は394万8270円であった。
(2) 1審原告らは、実際に取得した代償財産の価額が、本来取得することとされた相続財産のそれを下回っている場合、価額減少分に対応する相続税を1審原告らの負担に帰せしめるべきではないから、1審原告らの相続税額算定に当たっては、本件相続開始時における相続財産の現在高をもって1審原告ら取得分の本件相続開始当時の評価額(遺産分割によって得た財産額を、年利5ないし6パーセントで相続時に割り戻した金額)を除することにより、1審原告らの負担すべき税額を決定すべきであると主張する。
しかし、相続税法22条は、「相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による」ことを定めているところ、この「時価」の算定に当たり、1審原告らの主張するような計算をすべき根拠はないといわざるを得ない。1審原告らは、実際に取得した代償財産の価額が、本来取得することとされた相続財産のそれを下回っているというが、仮にそうであったとしても、その結果は本件審判によって生じたものであって、結局のところ、1審原告らの上記主張は、既に確定している本件審判の認定、判断に対する不服を述べるものであるにすぎないというほかなく、採用することができない。
(3) もっとも、上記代償財産は、本件審判によって、丙死亡時に1審原告らが取得したこととなるから、丙死亡時における評価額を算定する必要がある。ところで、代償財産を提供する者は、他の相続人が本来ならば取得できたであろう相続財産を取得する代わりに代償財産を提供するものであること、また、代償財産の交付を受ける者については、その代償財産は直接被相続人から承継取得したものではないが、相続により取得した財産として相続税の課税対象となるものであることからすれば、本件のように、家事審判によって、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているような場合には、代償財産に対応する本件相続財産の相続開始時の評価額をもって代償財産の相続開始時の評価額とすることにも合理性が認められる。そして、1審原告らは、本件審判手続において、本件相続財産に対応する代償財産の提供に承諾する意向を示したことを前提に本件審判が行われ(乙28)、本件審判が確定していることからすれば、本件においては、上記のようにして代償財産の相続開始時の評価額を算定するのが相当であるというべきである。
なお、1審原告甲が本来取得するはずであった番号24、25、31、32、41ないし43、44-1、44-2の各財産の本件相続開始時における評価額の合計は1694万5964円であり、その代償財産として提供された財産の遺産分割時の価額は1055万7178円であるところ、1審原告甲は上記代償財産のうち736万4687円を取得したから、本件相続開始時における上記各財産の評価額合計に、代償財産全体に占める1審原告甲の現実の取得額の割合を乗じた1182万1503円をもって、1審原告甲の本件相続開始時における取得財産評価額とすべきである。したがって、1審原告甲の得た上記代償財産の本件相続開始時における取得財産評価額は、1182万1503円とするのが相当である。
(4) 1審原告らは、本件審判では、1審原告甲が303万2474円の調整金の支払を受けることになっているのに、1審原告甲はこのような趣旨の調整金はもらっていないと主張するが、証拠(乙28)によれば、本件審判中には、1審原告甲以外の当事者が1審原告に対し303万2474円の調整金の支払を命じた部分はないことが認められるから、上記1審原告甲の主張は誤解に基づくものというほかなく、採用できない。
また、1審原告らは、分割の対象とされた相続財産あるいは代償財産の遺産分割時の時価評価は厳密になされておらず、分割は不公平な結果となっていると主張するが、1審原告らのこの主張は、前記同様、既に確定している本件審判の認定、判断に対する不服を述べるものであるにすきず、丙相続に係る本件課税処分には何らの影響を与えるものではないから、採用できない。
5 争点(5)(1審原告らについて、国税通則法65条4項の正当な理由があると認められる場合に当たるか(原判決争点12)。)について
(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」とは、申告時に適法と認められた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意、過失に基づかずに過少申告となった場合のように、当該過少申告が真にやむを得ない理由によるものであって、納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になるような場合を意味し、単なる納税者の税法の不知、誤解はこれに該当しないと解すべきであるところ、1審原告らが上記正当な理由として掲げる事由は、結局のところ、共同相続人又はその関係者の行為によって遺産の範囲が不明確になったため、正確な申告をすることができなかったということにすぎないから、上記の「正当な理由」に当たるということはできない。
(2) 更に、1審原告らは、Pが1審原告らに対して過少申告加算税を賦課しない旨約したと主張し、証拠(甲63、1審原告甲)中にはこれに沿う部分がある。
しかし、税務調査を担当する者が上記のような約束をすることは通常考え難い一方、素人である1審原告らがPの発言を誤解した可能性も否定できないところであり、上記約束を否定する証拠(乙55の1、証人P)に照らしても、1審原告らの上記主張は採用できず、この点からいっても、1審原告らにつき国税通則法65条4項の「正当な理由」があるとは認められない。
6 結論
(1) 丙の相続財産等
ア 丙の相続財産は、番号1ないし43、44-1、44-2、45、47-1の各財産であり、その本件相続開始時における価額の合計額は、別表8「相続財産一覧表」のとおり、3億0350万3273円となる。また、本件相続に関し、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産となる財産は、番号a、b、cの各財産であり、その本件相続開始時における価額の合計額は、別表4「丙からAに贈与されたものか争いのある財産」のとおり、1183万0278円となる。
イ 本件相続に関し、相続税の課税価格から控除される金額は、葬式費用210万3616円、未払医療費10万2916円、譲渡所得税336万2800円(乙1)、貸家に係る敷金(保証金)90万円(乙66ないし71)を合計した646万9332円である。
(2) 1審甲の納税額の計算
ア 1審原告甲の取得財産価格は、別表5「1審原告甲の取得財産明細表」の合計5348万1240円から、本件審判によって、本来取得すべき金額との差額であって1審原告甲が支払うべきものとされた調整金(本件審判の命じた608万4338円を別表7「調整金相当額計算表」のとおり相続開始時に引き直した635万9959円)を控除した4712万1281円である。
イ 1審原告甲の課税価格から控除される金額は、上記(1)イの646万9332円から、本件審判によりBが取得した丁の遺産である番号49の建物の賃貸に係る敷金(保証金)55万円(乙66ないし70)及びAが取得した丙の遺産である番号2<1>の建物の賃貸に係る敷金35万円(乙71)を控除した556万9332円に、1審原告甲の法定相続割合(5分の1)を乗じて算出した111万3866円である。
ウ そして、平成3年法律69号による改正前の相続税法16条に基づき課税額の計算をすると、1審原告甲の課税価格は、別表9「1審原告甲課税額」のとおり4600万7000円(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)、同じく相続税額は、796万8300円(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)となる。
(3) 1審原告乙の納税額の計算
ア 1審原告乙の取得財産価格は、別表6「1審原告乙の取得財産明細表」の合計5185万2692円から、本件審判によって、本来取得すべき金額との差額であって1審原告乙が支払を受けるものとされた調整金(本件審判の命じた2万0872円を別表7「調整金相当額計算表」のとおり相続開始時に引き直した2万1818円)を加算した5187万4510円である。
イ 1審原告乙の課税価格から控除される金額は、上記(2)イに準じて、111万3866円である。
ウ そして、平成3年法律69号による改正前の相続税法16条に基づき課税額の計算をすると、1審原告乙の課税価格は、別表10「1審原告乙課税額」のとおり5076万0000円(国税通則法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)、同じく相続税額は、879万1500円(国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの)となる。
(4) 以上によれば、1審被告が1審原告らに対してした、原判決の「事実及び理由」欄の「第1 請求」欄記載の各処分は、いずれも上記税額内でされたものであるから、適法であるというべきである。
なお、1審原告らの相続税の更正処分の取消請求中、1審原告甲については修正申告、1審原告乙については申告より下回る部分については、そもそも、1審原告らには上記各所分の取消しを求める訴えの利益はないものといわざるを得ない。なぜなら、納税者のした申告に誤りがあり、これを減額したい場合には、納税者は法定の期間内に更正の請求をすることができるのであり(国税通則法23条1項、2項)、そのような手続を取ることなく、取消訴訟において申告額を超えない部分の取消しを求めることは、法の定める手続きを欠きながらこれを実現するものであって、相当ではないからである。
したがって、1審原告甲の請求のうち、納付すべき税額388万8100円を超えない部分の取消しを求める部分にかかる訴え及び1審原告乙の請求のうち、納付すべき税額668万5400円を超えない部分の取消しを求める部分にかかる訴えを却下し、1審原告らのその余の請求をいずれも棄却すべきである。
(5) よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 鬼頭清貴 裁判官 濱口浩)
(別表1)相続財産一覧表
<省略>
(別表2)丁の相続財産
<省略>
番号54の詳細
<省略>
(別表3) 1審被告が丙財産であると主張していないが、1審原告らが丙財産であると主張するものに関する1審原告らの主張
<省略>
(別表4) 丙からAに贈与されたものか争いのある財産
<省略>
(別表5) 1審原告甲の取得財産明細表
<省略>
(別表6) 1審原告乙の取得財産明細表
<省略>
(別表7) 調整金相当額計算表
<省略>
(別表8) 相続財産一覧表
<省略>
(別表9) 1審原告甲課税額
<省略>
(別表10) 1審原告乙課税額
<省略>