名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)33号 判決 2002年12月05日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人が,平成13年11月12日付けで行った被控訴人の「CISによるユーザーからの苦情申出情報(平成12年度分中部の情報)」の行政文書開示請求に対する決定処分のうち,別紙1ないし4の黒塗り部分を不開示とした部分(ただし,申告者の氏名,住所,電話番号及び車両の登録番号を除く。)を取り消す。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審とも,控訴人の負担とする。
事実及び理由
(以下,略語は,原判決に準ずる。)
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,情報公開法基づき,「CISによるユーザーからの苦情申出情報(平成12年度分中部の情報)」の行政文書の開示を請求したところ,一部開示・一部不開示の決定(本件処分)がなされたことから,本件処分のうち,黒塗りの方法により本件各文書の一部を不開示とした決定部分(別紙1ないし4参照,ただし,申告者の氏名,住所,電話番号を除く。)の取消しを求めた抗告訴訟である。なお,「CIS」は,Customer Information System(自動車ユーザー相談等事案情報処理システム)の略称で,国土交通省本省,地方運輸局,陸運支局及び自動車検査登録事務所において総合的に利用されている,自動車ユーザーからの検査,整備,車両不具合等に関する苦情,問い合わせ,意見,要望等の効率的な管理等のためのコンピューターによる管理システムのことである。
原審において,控訴人の主張につき本件処分の適法性を基礎付ける事実の主張を欠くため,本件処分が違法であるとされて,被控訴人の請求が認容されたところ,控訴人が,これを不服として控訴した。
2 争いのない事実等,争点及びこれに対する当事者の主張は,次に改めるほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び2のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁22行目から23行目の括弧書きを「〔その前提として,情報公開法6条1項により開示すべき行政文書中の記録の部分(以下『部分開示情報』という。)の意義〕」と,4頁22行目の「判断すべきものではないから,」から23行目までを「判断すべきものではない。」とそれぞれ改める。
(2) 原判決7頁26行目の次に行を改め,次のとおり加える。
「(3) 本件各文書を開示することにより害される利益について,本件文書①を例に,次のとおり分説する。本件の他の文書についても同様に個別的な不開示事由がある。
ア 申告者の保有する車両の初度登録年月,登録日
本件文書①の車名欄には,申告者の保有する車両(トヨタエスティマ)の初度登録年月,登録日が記載されており,これらの記述等は,記録簿申告情報及び記録簿対応情報を構成するものであるが,これを公にすると,他の情報と照合することにより特定の申告者を識別することができるほか,さらに特定の申告者が特定の内容の申告(申告欄記載のとおりの申告)をしていることが明らかとなって,同人の権利利益を害するおそれ,リコール等の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。
イ 関係事業者の名称及び住所
本件文書①の関係者欄には,関係事業者の名称及び住所が記載されており,これらの記述等は,記録簿申告情報及び記録簿対応情報を構成するものであるが,これを公にすると,当該事業者の対応等に関し不満,非難等が表明されていることが明らかとなって,その権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。
ウ 申告内容
本件文書①には,申告欄を中心として,特定の年月日に車両(トヨタエスティマ)を購入した申告者が「空調作動時に異音が出る。」という車両不具合があるとした上で,その不具合に関して,申告者の修理・補償等の関係事業者のなすべき対応に関する要望の内容及びその根拠,関係事業者の対応・接遇等に関する不満とその非難,車両に関する主観的認識,好悪についての申告内容が記載されている。
この記述等は,記録簿申告情報及び記録簿対応情報を構成するものであるが,これを公にすると,関係事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。
エ 回答内容及び指導内容
本件文書①の回答欄には,中部地方運輸局担当者が申告者に「事案の状況について確認する」旨回答したことを踏まえて,特定の日時に「営業所」及びその他の関係事業者(関係者1欄記載とは別の関係事業者をいう。)に照会して受けた回答内容及び指導内容(ここには一般的なものとして明確に説明すべきであるというもののほか,本件特有のものとして「必要であれば」行うべきであるとして告げた指導内容を含む。)が記載されている。
この記述等は,記録簿対応情報を構成するものであるが,これを公にすると,法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。」
(3) 原判決8頁2行目の「(2)は」を「(2)及び(3)は」と改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の請求は,車両の登録番号に関する部分を除き,理由があるものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2 部分開示情報の意義について
(1) 部分開示情報の意義についての判断は,次に改めるほか,原判決8頁5行目から10頁18行目までのとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決8頁17行目の「主張した上,」から18行目までを「主張する。」と,9頁19行目の「このように,」から21行目の「同項本文は,」までを「ところで,情報公開法6条1項本文は,」とそれぞれ改める。
イ 原判決9頁25行目の「すなわち,」から10頁1行目までを次のとおり改める。
「これによると,開示請求に係る行政文書のある一部分につき,①不開示情報の記録されている部分が容易に区分されて除かれた後の当該行政文書の一部分であること,及び,②有意の情報が記録されていないと認められるものではないことの各要件を満たす場合であれば,当該一部分は,情報公開法6条1項に基づき開示しなければならないもの(すなわち,部分開示情報)となるのであり,同条項の趣旨及び文理からみて,当該一部分が有意でないとは認められず,また,当該一部分が他の不開示情報の一部分であるとか,不開示情報との区分が困難等の事情もないにもかかわらず,当該一部分が一個の情報の一部であることを根拠に部分開示情報に当たらなくなるものとは解されない。例えば,1件の行政文書にA,B2つの情報が記録されている場合で,各情報がある部分において重複しているときに,A情報が不開示情報である場合には,これを除くと残部はB情報の一部になることが明らかであり,このような場合に残部が部分開示情報に当たらないと解すべき理由はない。控訴人の上記主張(原判示)は,一個の情報の一部分は『情報』ではないという見解の下に,行政文書中の部分的な記録につき,上記①及び②の要件を満たし得るものであっても,当該一部分に記録された内容が『一個の情報』ではない場合には,なお,部分開示情報に当たらないと解すべきことをいうものとみられるが,有意性が否定されていない当該一部分について,それが『一個の情報』ではないといった形式的な根拠から部分開示情報に当たらないと解釈することは,必要以上に部分開示情報の範囲を限定するもので,情報公開法の趣旨,目的と整合せず,採用することができない。
そして,部分開示情報に関する証明責任について検討するに,情報公開法1条が『この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図』ること等を目的とする旨定め,同5条等において行政文書の原則的開示を定めていること,及び不開示部分の内容を知らない開示請求者に部分開示情報に当たることの立証責任を負わせることは不能を強いるに等しいことなどを考慮すれば,情報開示請求訴訟においては情報開示請求を拒否できる事由の存在についての立証責任を行政機関側において負担すると解するのが相当であり,本件についてみれば,部分開示情報に当たらないことを処分庁が立証すべきであって,その立証が成功しなければ,不開示処分は違法となって取り消されるべきものと解される。また,立証の程度については,事柄の性質上,不開示部分の内容を逐一明らかにするまでの必要はないものの,不開示部分が部分開示情報に当たらないことにつき,合理的な範囲内で詳細な立証をする必要があると解される。
また,上記②の要件に関し,」
ウ 原判決10頁9行目の「独立した情報」を「部分開示情報」と改める。
(2) 以上によると,本件各文書が,申告情報,対応情報及び調査情報等の2ないし3個の情報から構成されるとの前提で,それより細分化された個々の記述あるいは黒塗り部分の情報は,それらが「有意」の内容を有するか否かにかかわらず部分開示情報に当たらない旨をいう控訴人の上記主張は,採用できない。
3 本件各文書中の黒塗り部分(別紙1ないし4の当該部分,ただし,申告者の氏名,住所,電話番号を除く。)は部分開示情報に当たるか。
(1) 車両の登録番号,初度登録年月及び登録日について
ア 証拠(甲3ないし6,別紙1ないし4)によれば,本件各文書の各車名欄の苦情申出の対象となった車両の登録番号,初度登録年月及び登録日は,本件各文書の他の開示された部分と併せれば,有意な情報となると認められ,また,その記録の位置からして,他の部分と容易に区分し得るものと認めることができる。
イ 控訴人は,これらが情報公開法5条1号本文前段の不開示情報(個人識別情報)の一部に当たる旨主張する。
そこで検討するに,車両の登録番号については,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,その番号に基づき自動車登録ファイルの登録事項等証明書の交付申請をする等により,当該車両の所有者個人を特定し,ひいては申告者を識別することが可能となるものと認められるから,上記不開示情報に当たるということができる。
しかし,初度登録年月及び登録日については,その開示により個人が識別される結果が生ずることに関する具体的な立証はなく,かえって,一般人にとって,そのような個人の識別は容易でないとも認められる(甲8)。控訴人は,初度登録年月及び登録日の開示により当該関係事業者等一定の範囲の者にとって申告者を特定識別する手掛かりとなり得るとも主張するが,既に開示されている車名や相談・不具合の申告内容等に加えて初度登録年月及び登録日が開示されれば申告者を特定識別できるような立場の者が存すると想定することは困難であって,本件各文書については,初度登録年月及び登録日の開示が申告者を特定識別する手掛かりとなるとは認め難い。そうすると,初度登録年月及び登録日は,いずれも直ちに上記不開示情報の一部に当たると認めることはできない。
ウ したがって,車両の登録番号は部分開示情報に当たらないが,初度登録年月及び登録日は,部分開示情報に当たらないとは認められないこととなる。
(2) 関係者1欄に記載された関係事業者の名称及び住所について
ア 証拠(甲3ないし6)によれば,本件各文書の関係者欄の関係者2欄には記録はなく,関係者1欄の記録(関係者の名称及び住所)は,単独の情報としても有意でないとはいえず,本件各文書の他の開示された部分と併せれば,有意な情報となると認められ,また,その欄の位置からして,他の部分と容易に区分し得るものと認めることができる。
イ 控訴人は,これらが情報公開法5条2号イの不開示情報(法人等情報)に該当する旨主張する。
ところで,控訴人は,本件文書①の関係者1欄には,関係事業者の名称及び住所が記載されていると主張していることからみて,本件各文書の同欄にはいずれも関係事業者の名称及び住所が記載されているものとみられるが,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,そこにいう関係事業者とは,メーカーの系列会社であるディーラー又は正規輸入事業者を兼ねているディーラーであると推認することができる(同欄に,これ以外の立場の者が記載されていることの具体的主張立証はない。)。そして,これらのディーラーは,その業務上,ユーザーからの苦情を受けることがしばしばあるとみられるから,特段の事情がない限り,本件各文書における苦情等の情報が開示されることから直ちに信用毀損等の正当な利益等の侵害が生ずるものとはみられない(本件においてそのような特段の事情の主張立証はない。)。また,本件各文書の苦情等の情報につき,既に苦情申出の対象となった車名が開示されている以上,正規輸入事業者については,その名称等が既に事実上特定されているということができるのであって,本件における名称等の開示により更に正当な利益等の侵害を受けるものとはみられず,メーカーの系列会社であるディーラーについては,販売者としてユーザーに責任を負う立場にある点でメーカーと同視し得る立場にあるというべきところ,メーカーは車名が特定された車両の苦情情報開示による影響を受けるのであるから,同ディーラーがこれと同様に開示の影響を受けても正当な利益を害するものとはいえない。そうすると,各関係者1欄における関係事業者の名称及び住所を開示することにより当該事業者の正当な利益を害するものと認めることはできない。
ウ したがって,関係者1欄に記載された関係事業者の名称及び住所は,部分開示情報に当たらないとは認められないこととなる。
(3) 申告内容について
ア 証拠(甲3ないし6)によれば,本件各文書の各申告欄の黒塗り部分は,申告内容の一部分であるところ,その内容についての具体的主張立証が存しないため,これらの黒塗り部分に有意な情報が記録されているか否かは判然としない。しかし,立証がない以上,既に開示された他の部分と併せてみた場合に有意でないと断定することもできない。また,各申告欄は,申告欄以外の部分と容易に区分し得るものと認めることができる。
イ 控訴人は,本件文書①の申告欄を例に,そこには申告者の修理・補償等の関係事業者のなすべき対応に関する要望の内容及びその根拠,関係事業者の対応・接遇等に関する不満とその非難,車両に関する主観的認識,好悪についての申告内容が記載されており,これを開示すると,関係事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとして,その情報が情報公開法5条2号イの不開示情報(法人等情報)に当たる旨(したがって,黒塗り部分はその不開示情報の一部である旨)主張する。
確かに,申告者の主観に基づく憶測,非難,好悪などに関する記録は,これが誹謗中傷にわたり,あるいは不正確,虚偽を伴う場合などには,その開示により,信用を毀損し,あるいは,真実でない事実が客観的な事実であるかのような誤解を招くなどして,法人等の正当な利益を害するおそれがあるから,記録された情報の内容によっては,不開示情報に当たる場合があるということはできる。
しかし,本件において,本件各文書の申告欄の黒塗り部分が全て上記の不開示情報の一部であるか否か,そうでないとすれば,どの部分に上記のような不開示情報に当たる程度の実質をもった申告者の主観に係る内容が記録されているのか等について,これを認めるに足りる具体的な主張立証はなされておらず,かえって,本件文書①の申告欄の1行目,本件文書②の申告欄全部,本件文書③の申告欄全部,本件文書④の申告欄の1,2行目の各黒塗り部分などには,もっぱら年月日,場所その他の固有名詞などが記載されており,申告者の主観に基づく憶測等が記載されてはいないとみられる。また,本件文書①及び②の各申告欄のその余の黒塗り部分も,そこに申告者の主観に基づく憶測等が記載され,しかも,その内容が上記不開示情報に当たる程度のものであることについては,本件の証拠からこれらを認めることは困難である。
そうすると,本件各文書の申告欄の黒塗り部分を個別にみたとき,これが情報公開法6条1項の「不開示情報が記録されている部分」であることの立証がないといわざるを得ない。
ウ また,控訴人は,本件各文書の申告欄の黒塗り部分に,申告者の車両の購入年月日,関係事業者との交渉経緯に関する記述等申告者を識別し得る手掛かりとなる情報が記録され,あるいは申告者が交渉相手方に示していない手の内等が記録され,これを開示することにより申告者個人の権利利益を害するおそれがあり,情報公開法5条1号本文前段,後段の不開示情報があるとも主張する。しかし,車両の購入年月日については,上記(1)イに判示の車両の初度登録年月及び登録日についてと同様,個人識別情報の一部に当たると解することはできないし,関連事業者との交渉経緯に関する記述も,これが申告者を識別し得るものと解することはできない。また,申告者が交渉相手方に示していない手の内等についても,本件各文書中のどの黒塗り部分にそのような申告者の手の内等が記録されているのか,また,その記録内容が開示により申告者の交渉に障害を生じさせる程度のものか否かといった点につき具体的な主張立証はなく,黒塗り部分を個別にみたとき,いずれの黒塗り部分についても,そのような不開示情報が存すると認めることは困難である。
エ さらに,控訴人は,申告者が,自らが申告した事実が公にされ,広く周知される状態になれば,申告することをちゅうちょし,あるいは率直な内容を申告することをはばかる結果,リコールに関する事務等が適正に遂行されないおそれがある等として,本件各文書の申告欄の黒塗り部分が情報公開法5条6号柱書の不開示情報(事務・事業情報)に当たる旨主張するが,本件の証拠からは黒塗り部分が申告者個人の権利利益を害するおそれがあると認められないことは上記のとおりである上,一般人において申告者を特定することができない場合に,本件各文書の申告内容につき,既に開示されている部分に加えて黒塗り部分を開示することが,直ちにその後の申告を一般的に抑制し,萎縮させる等の効果をもつことについての的確な立証はなく,黒塗り部分の開示によって上記事務等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが生ずると認定することはできない。
オ したがって,本件各文書の申告欄の黒塗り部分は,本件の証拠の限りでは,部分開示情報に当たらないとは認められないこととなる。
(4) 結果ないし回答の内容について
ア 証拠(甲3ないし6)によれば,本件各文書の結果欄ないし回答欄の黒塗り部分は,結果の内容ないし回答の内容の一部分であるところ,その記録内容についての具体的主張立証が存しないため,これらの黒塗り部分に有意な情報が記録されているか否かは判然としない。しかし,有意でないとの立証がない以上,既に開示された他の部分と併せてみた場合に有意でないと断定することもできない。また,結果欄ないし回答欄は,それ以外の部分と容易に区分し得るものと認めることができる。
イ 控訴人は,本件文書①の回答欄を例に,そこには,特定の日時に「営業所」及びその他の関係事業者(関係者1欄記載とは別の関係事業者)に照会して受けた回答内容及び指導内容(任意的な指導・助言を含む。)が記載されており,これを開示すると,関係事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとして,その情報が情報公開法5条2号イの不開示情報(法人等情報)に当たる旨(したがって,黒塗り部分はその不開示情報の一部である旨)主張する。
しかし,甲第3号証(別紙1)によれば,本件文書①の回答欄において,控訴人が他の関係事業者に照会して受けた回答内容は,同種事例の情報について把握していない旨,あるいは「空調の容量が大きくなったため,ファンスイッチを最大にすると音が大きくなりビビリ音が出る。新型エスティマの商品性の問題と思われるが,やがて改善されるであろうとのことであった」等の回答に過ぎず,前者の如き回答の開示が何らかの利益侵害を生ずることは考えられず,後者についても,申告情報と基本的には同内容のものであって,これらの回答の回答者名等の記録内容を開示することによって,その権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められない。また,指導内容に関する黒塗り部分(本件文書①の別紙回答欄の13行目から14行目)については,控訴人はその開示により事業者側の十全な交渉が妨げられるおそれがあることをいうともみられるが,もともと事業者側において,行政庁から受けた指導内容を秘匿してユーザー等と有利に交渉すべき正当な利益があるとはみられない上,本件文書①の当該黒塗り部分の開示により特に十全な交渉が妨げられるおそれがあると認めるに足りる事情等の立証もなく,同部分の開示により十全な交渉が妨げられるおそれがあるとの事実は認め難い。そうすると,本件文書①の回答欄の黒塗り部分が上記不開示情報の一部に当たるということはできない。
また,控訴人は,概括的には,本件各文書の結果欄ないし回答欄に,関係事業者に対する誹謗中傷,申告者の苦情等に対する関係事業者の交渉方針等に関する事項が含まれる旨主張しているが(原判示),本件文書①に関する上記主張内容に照らし,本件文書①の回答欄にはそのような事項は記録されていないことが明らかであるし,証拠(甲4)によれば,本件文書②についても,その結果欄における黒塗り部分の外形上,そのような事項が記録されているとは認め難い。本件文書③及び④については,外形上は,黒塗り部分にそのような事項が記録されているか否か不明であるが,いずれにしても,個々の黒塗り部分について,その開示により法人等の正当な利益が害されるおそれがあることについての個別的な主張立証はないのであるから,同黒塗り部分が上記不開示情報の一部に当たると認定することはできない。
ウ 控訴人は,本件各文書の結果欄ないし回答欄の黒塗り部分には,申告者を識別できる情報があり,また,同部分の開示により回答者個人の権利利益を害するおそれ,リコールに関する事務等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,情報公開法5条1号本文後段,同条6号柱書の各不開示情報があるとも主張するが,上記黒塗り部分に,取消請求の対象から除外され,あるいは個人識別情報に該当する旨判示した申告者の氏名,住所,電話番号及び車両の登録番号以外で申告者を識別できる情報の記載があることを認めることのできる証拠はないし,また,上記(3)ウ,エと同様,本件の証拠上,黒塗り部分に上記個人の権利利益を害するおそれがあるなどの不開示情報が存することや,黒塗り部分の開示によって上記事務等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが生ずることを認定することは困難である。
エ したがって,本件各文書の結果欄ないし回答欄の黒塗り部分は,本件の証拠の限りでは,部分開示情報に当たらないとは認められないこととなる。
(5) 以上によると,申告者の氏名,住所,電話番号を除く本件各文書の黒塗り部分のうち,車両の登録番号を除く部分は,これを不開示とすべき事由があると認定することができず,その限度で,不開示事由があるとしてなされた本件処分は違法である(なお,控訴人は,当審口頭弁論期日において,本件文書②ないし④についても,その内容に即した不開示事由を主張する予定をいうが,本件の審理経過に鑑み,既にその機会は十分にあったというべきであるし,上記は主張の予定のみをいうもので,各黒塗り部分に不開示情報が存することにつき,合理的な範囲内である程度詳細な立証をすること等を予定したものともみられないから,当裁判所は口頭弁論を終結することとしたものである。)。
第4結論
よって,被控訴人の請求は,車両の登録番号を除き理由があるから,原判決を上記に従って変更し,訴訟費用の負担については,請求の大部分が認容されること及び訴訟の経過等を考慮して全部控訴人に負担させることとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 戸田久)
(別紙1ないし4添付省略)