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名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)67号 判決 2003年7月31日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  本件附帯控訴に基づき,原判決主文第2項を取り消す。

3  訴訟費用及び参加に要した費用は,1,2審とも,いずれも控訴人(附帯被控訴人)らの負担とする。

事実及び理由

(以下「控訴人(附帯被控訴人)」を「控訴人」,「被控訴人(附帯控訴人)」を「被控訴人」という。また,略称は原判決に準じて用いることとする。)

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人A,同B,同C,同D及び同Eは,各自,名古屋市に対し,4566万円及びこれに対する,被控訴人Aについては平成14年6月16日から,被控訴人B,同C,同D及び同Eについては同月18日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人Fは,名古屋市に対し,73万5000円及びこれに対する平成14年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人Gは,名古屋市に対し,81万円及びこれに対する平成14年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は,1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2附帯控訴の趣旨

主文第2項及び第3項と同旨

第3事案の概要

1  本件は,名古屋市の住民である控訴人らが,名古屋市に代位して,「名古屋市議会の議員の報酬及び費用弁償等に関する条例(平成14年名古屋市条例第46号及び同59号による改正前の昭和31年条例第32号。以下「本件条例」という。)5条3項に基づき,市会議員に対してなした費用弁償の支給が違法であるとして,支出負担行為及び支出命令をなし,若しくは,支出を防止する措置を執らず,又はその支給を受けた被控訴人らに対し,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,損害賠償若しくは不当利得返還を求めた住民訴訟であるが,原審が,本件で問題となった費用弁償について,支給の時点では法242条の定める「違法な公金の支出」に当たるが,条例の改正によって,遡及的に適法な支給となったと解するのが相当であるとして,請求をいずれも棄却したが,訴訟費用及び参加に要した費用はいずれも被控訴人ら及び参加人の負担とする旨の判決を言い渡したので,これに不服がある控訴人らが控訴をし,被控訴人らが附帯控訴をした事案である。

2  基本的な事実関係は,原判決の事実及び理由欄の「第2」の「1 当事者間に争いのない事実等」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

3  争点及びこれに関する当事者の主張の要旨は,原判決の事実及び理由欄の「第2」の「2 争点」及び「3 当事者の主張の要旨」に摘示のとおり(ただし,以下のとおり付加訂正する。)であるから,これを引用する。

(1) 原判決10頁10行目の「10月改正後条例」から12行目末尾までを,「本件費用弁償は10月改正後条例の規定により支給されたこととなるので,本件費用弁償の適法性は10月改正後条例により,判断されるべきである。」と改める。

(2) 同頁26行目の「ものであるから,」の後に,「決議の対象が自ら受領した費用弁償について欠けている要件の補完という議員と直接利害関係のある事項であり,議員の公正な決議権行使を期待できない場合であって,」を加える。

(3) 同12頁26行目の末尾に,行を改めて,以下のとおり加える。

「(オ)法203条の費用弁償について,いかなる事由を費用弁償の支給事由として定めるか,また,標準的な実費である一定の額をいくらとするかについては,条例を定める地方公共団体の議会の裁量判断に委ねられているとしても,上記の諸事情に照らせば,裁量権の範囲を超え又はそれを濫用したと認められるに足りる事情があるといえるので,違法というべきである。」

第4当裁判所の判断

1  当裁判所は,本件条例は,これによって支給金額等を確定しうるとはいえず,法203条5項の趣旨に反し無効であって,本件条例に基づく本件費用弁償の支出(平成13年6月分から11月分までの費用弁償)は,その時点においては法242条の定める「違法な公金の支出」に当たるといわざるをえないが,平成14年4月に改正された4月改正後条例によって費用弁償の日額を定め,さらに,同年10月に改正された10月改正後条例で費用弁償の支給事由を明確化し,この規定の適用につき,平成13年4月1日からこの条例の施行の日の前日までの間に支給した費用弁償は同条例の規定により支給した費用弁償とみなす旨の規定を定めたことにより,本件費用弁償は,条例上の根拠が与えられ,遡及的に適法な支給となったものと解すべきであると判断するが,その理由は,原判決の事実及び理由欄の「第3」の「1」(原判決18頁4行目冒頭から22頁14行目末尾まで)に判示のとおり(ただし,以下のとおり付加訂正する。)であるから,これを引用する。

(1) 原判決19頁12行目末尾に,行を改めて,以下のとおり加える。

「この点について,被控訴人ら及び参加人は,本件費用弁償は10月改正後条例の規定により支給されたことになるので,本件費用弁償の適法性は10月改正後条例により,判断すべきである旨を主張するが,財務会計行為は法規に従って遂行されるべきものであるから,まず当該行為が行われた当時,適法であったか否かを検討すべきである。それゆえ,上記主張は採用できない。」

(2) 同頁13行目の「この点について」を「さらに」と改める。

2  以上のとおり,控訴人らの本件請求は理由がないので,本件控訴は理由がなく棄却すべきである。

次に,本件附帯控訴について検討するに,原判決は,控訴人らの本件請求は理由がないから棄却することとしながら,「10月改正後条例は,控訴人らが本件監査請求手続を経て本訴を提起し,第2回口頭弁論期日が経過した後に,名古屋市長が名古屋市議会に改正案を提出し,可決成立したものであることなどの事情に照らすと,訴訟費用及び参加に要した費用については,行訴法7条,民訴法62条,65条1項,66条を適用して,被控訴人ら及び参加人の負担とするのが相当である」旨を判示し,「訴訟費用及び参加に要した費用は,被控訴人ら及び参加人の負担とする」旨言い渡したが,この点に関する原審の判断は是認することができない。

けだし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法は,61条で敗訴者負担の原則を定め,例外として,不必要な行為があった場合(同法62条)及び訴訟を遅滞させた場合(同法63条)に限って,勝訴者にも訴訟費用の一部又は全部を負担させることができる旨の規定を定めているだけであり,信義則上これらの場合に準ずる場合にも例外とすることができるものとは考えられるものの,本件においてはこれらの例外に当たるとすべき事情を認めることはできない。すなわち,本件費用弁償は,その支出の時点においては法242条の定める「違法な公金の支出」に当たるものであったが,条例の改正によって条例上の根拠が与えられ,遡及的に適法な支給となったものであるが,条例の改正案を名古屋市長が市議会に提案したとしても,条例を制定する権能は市議会にあり,執行機関と立法機関は別個独立した存在であって,条例の制定によって適法化したことを上記の例外的な事由に該当すると判断することはできないからである。

ところで,原審が訴訟費用の負担に関する判断につき不適法な判断をした以上,被控訴人ら及び参加人は,訴訟費用の負担の点についてのみ不服であっても,附帯控訴をすることによって,訴訟費用に関する原審の判断の是正を求める権利があるというべきである。そして,控訴審は,控訴人らがなした控訴に伴って請求の当否全般について検討することになるところ,原審がなした訴訟費用の負担に関する判断につき不適法な点があれば,これを是正すべきである。以上によれば,本件附帯控訴は理由があるから,原判決主文第2項を取り消した上,訴訟費用及び参加に要した費用は,1,2審とも,いずれも控訴人(附帯被控訴人)らの負担とすることとする。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 鬼頭清貴 裁判官 濱口浩)

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