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名古屋高等裁判所 平成15年(う)157号 判決 2004年3月22日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、主任弁護人伊藤誠基、弁護人飯田泰啓及び同塚越正光連名提出の控訴趣意書(同訂正申出書3通を含む。)に、これに対する答弁は、検察官藤原光秀提出の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

そこで、原審記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

原判決が認定している「罪となるべき事実」の要旨は、次のとおりである。

一  A1に対する強盗殺人、有印私文書偽造、同行使、詐欺、死体遺棄事件(以下、これらを併せて「A1事件」という。)

被告人は、X1と共謀の上、

(一)  平成6年7月19日午後1時ころ、a県b市内の産業廃棄物最終処分場において、A1(昭和32年10月4日生)に対し、被告人が回転弾倉式けん銃で銃弾3発をその頭部に撃ち込んで殺害してその反抗を抑圧し、アタッシュケース等と普通乗用自動車(BMW、時価約400万円相当)を強取した。

(二)  同日午後2時55分ころ、B1銀行c支店において、被告人がA1名義の払戻請求書を偽造し、強取した預金通帳と共に提出して行使し、現金1000万円をだまし取った。

(三)  殺害後、X1がA1の死体を積んだ自動車を運転して搬送し、同月21日午前6時20分ころ、同県d市内の造成地(以下、「d造成地」という。)において、A1の死体を被告人が掘削機(以下、「ユンボ」という。)を操作して埋めるなどして遺棄した。

二  A2に対する恐喝事件(以下、「A2事件」という。)

被告人は、X1と共謀の上、同年10月27日午前8時35分ころ、c市内の市営住宅の一室において、金融業を営むA2(昭和20年11月15日生)に対し、被告人が回転式けん銃様のものを突き付け、X1がけん銃は本物であるなどと述べて脅迫するとともに金銭の交付を要求し、その結果、同日午前11時14分ころ、畏怖したA2から約束手形の差入れと引替えに現金100万円を脅し取った。

三  A3に対する強盗殺人、死体遺棄、有印私文書偽造、同行使、詐欺、窃盗事件(以下、これらを併せて「A3事件」という。)

(1)  被告人は、X1及びX2と共謀の上、

(一)  同年11月20日午後8時ころ、同県e市内の倉庫敷地において、A3(昭和6年9月9日生)に対し、被告人及びX1が暴行を加え、被告人が上記けん銃で銃弾1発をその頭部に撃ち込んで殺害してその反抗を抑圧し、その場で手提げかばん等を、同県g郡h町のA3の自宅で半円真珠等を、同所付近の月極駐車場で普通乗用自動車2台を強取した。

(二)  殺害後、X1及びX2がA3の死体を積んだ自動車を運転して搬送し、同月22日午後3時30分ころ、d造成地において、A3の死体を被告人がユンボを操作して埋めるなどして遺棄した。

(三)  同月21日午後2時5分ころ、B2銀行c支店において、A3名義の預金払戻(兼当座貸越)請求書を偽造し、強取した預金通帳と共に提出して行使し、現金227万円をだまし取った。

(2)  被告人は、単独で、

(一)  同日午前11時49分ころから同月23日午後1時7分ころまでの間、5回にわたり、強取したクレジットカードを不正に使用して商品をだまし取るなどした。

(二)  同月22日午後4時28分ころ、c信用金庫f支店において、強取したカードを使用して現金自動預入支払機から現金20万円を引き出して窃取した。

(3)  被告人は、L1と共謀の上、

(一)  同日午後零時10分ころ、h町役場において、L1がA3名義の印鑑登録証明書交付申請書を偽造し、強取した印鑑登録証と共に提出して行使した。

(二)  同月24日午後1時15分ころ、同県i郡j町内の飲食店において、被告人がA3名義の委任状を偽造し、同日午後1時55分ころ、B2銀行e西支店において、L1が強取に係る定期積金預金通帳等と共に提出して行使した。

本件は、以上のようなA1事件、A2事件及びA3事件からなる事案である。

第1理由不備の主張について

論旨は、要するに、(1)A2事件における他事件と異なる「回転式けん銃様のもの」という認定の問題(控訴理由第1点)、(2)A3事件における物色時間帯の愛人との通話の不自然性(同第19点)、(3)X1証言の全体的な信用性(同第20点)、(4)犯行動機の認定が漠然としたものであること(同第21点)、(5)被告人の人間性と犯人像とのかい離の問題についての説明に欠けること(同第22点)、の各点において、原判決には理由不備の違法がある、と主張する。

しかし、原判決には刑訴法335条所定の有罪判決の理由として必要な事項が記載され、各事実について有罪の認定をした詳細な理由を付していることはその判文上明らかである。(1)については、公訴事実が、けん銃ではなく、けん銃様の物とされているのは、現実にけん銃が発射されていないこと、使用された物が発見されていないことなどによるものであると解されるところ、原判決は、その訴因を前提とし、その内容に従った認定をしているのであるから、所論の指摘する点は理由不備の主張に当たらず、いずれの犯行にも同一のけん銃が使用されたとするX1の供述部分の信用性に関わる主張にすぎない。また、(2)ないし(5)についても、理由不備をいうが、その実質はいずれも被告人の犯人性ないしはその証拠の信用性を争う趣旨に帰するものであるから、理由不備の主張には当たらない(その所論については、次の事実誤認の主張に対する判断の中で具体的な検討を加える。)。論旨は理由がない。

第2事実誤認の主張について

論旨は、要するに、被告人は、A1事件、A3事件のうち強盗殺人、死体遺棄の点及びA2事件については、犯人ではなく、また、その余の事実については、被告人は客観的な行為自体に関与してはいるが、X1から告げられたことを信用していたため、通帳やカードについては強取されたものであることを知らず、権限が与えられていたと認識していたから犯意がなく、したがって、被告人は本件公訴事実のすべてにつき無罪であるのに、いずれも有罪の認定をしている原判決には事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。

そこで検討するに、原判決挙示の関係各証拠によれば、原判決が「罪となるべき事実」で認定した各事実が優に認められ、その「事実認定の補足説明」(以下、「補足説明」という。)で認定、説示するところも、一部(A1事件についての殺害状況、同事件のアリバイ判断の点等の判断の一部)を除き、おおむね正当として是認することができるのであって、当審における被告人質問等の事実取調べの結果を加えて検討しても、その認定は左右されない。

1 被告人の犯人性について

A1事件、A3事件の強盗殺人及びA2事件の各犯行において、被告人が犯行現場において共同実行している犯人であるかどうかにつき、被告人は、共同実行のみならず共謀の事実についても終始一貫して否定しているのに対し、共犯者とされるX1は、被告人が共同実行者である旨の詳細な供述をしている。以下、これらの各事件につきX1の供述の信用性も含め検討するが、検討の順序として、まず、被害者の供述のあるA2事件、次いで、共犯者X2の供述のあるA3事件、最後に、被害者やX1以外の他の共犯者の供述のないA1事件の順に行うこととする。

(1)  A2事件の犯人性について

被害者であるA2の供述はおおむね次のとおりである。<1>被害状況につき、事件当日である平成6年10月27日午前8時35分ころCと入れ替わりにX1がA2の事務所に入ってきた際、A2はいきなり「銭出せ。」と言われて見上げると、A2の約1メートル前にA2とは面識のない男が土足で立っていて、回転式けん銃(自動装てん式でないことは明瞭に目撃している。)を両手で握り腕を前に伸ばし銃口をA2の頭部に向けて突き付け、「下の階段に2人おる。今、下に行った男はもう上がってきやへんやろ。」などと述べた。A2とX1が応接間へ移動し、X1がA2に現金を必要とする事情として暴力団y1の若い衆3人が借金の取立てに泊まり込みで来ている旨説明したが、その間、その男は応接間の出入口付近に立っていた。その男はそのほかには何も話さず、同日午前9時15分前ころA2方から立ち去る際に、A2が名前を聞いたが、答えなかった。<2>その男の特徴につき、黒色サングラスをかけ、帽子をかぶり、黒っぽいジャンパーのような上着に黒色ズボンという服装であったが、年齢はX1より少し若く見え、やせ型で身長はそれほど高くなく、ひ弱そうな体つきであり、顔立ちも優しそうに見えた。<3>その男と被告人との同一性につき、A2は、同年12月4日刑事の訪問を受けて十四、五枚の面割り写真を見せられて、その男の顔写真があるのに気付いたものの、刑事にはそのことを告げず、刑事からその氏名等を聞き出そうとしたが、教えてくれなかった。その後、同月29日e警察署での面通しにより、逮捕されている男が横顔や顎の感じからしてもその男に間違いなかったため、初めて、犯人である旨を警察官に告げた。

A2は以上のとおり供述しているところ、被害者であるA2がこの点について殊更虚偽の供述をするような事情は特にうかがわれない。A2が被告人の写真を見せられた際、犯人であることに気付きながら、その旨すぐに警察官に告げようとしなかったのは、A2がy1に所属するような者を犯人として警察官に告げた場合には報復等身辺の危険性を招きかねないことを恐れたためであると推測できるのであって、面通しの時点において、その男が既に逮捕され、しかもy1とは無関係な者であることを知らされて安心し、犯人であることを警察官に明らかにしたものと見ることができる。しかも、A2がその男を目撃した状況は約40分間にも及び、その間近距離で横顔などを含めて見ており、面割りの方法も妥当であることからして、A2の面割り供述の信用性は高度であることが認められる。

他方、原判決が認定しているとおり、被告人は、事件当日の午前7時46分、午前8時29分、32分の3回にわたり、X1と携帯電話で連絡を取っていること、Cは、A2に融資を申し込んでおきながら、X1らが押し入る直前にA2方を退出したまま戻って来なかったこと、被告人は、その所持する携帯電話から、Cに対し同日午前9時35分から2分24秒間にわたり通話していることが認められるところ、X1に対する電話はX1と行動を共にしていることを、Cが戻らなかったことはCが手引きをしたことをそれぞれ示す情況事実である。さらに、Cに対する電話は、電話をした時刻が、犯人の退出時間後間もなくの時点であることからすると、手引きをしたCに手引きの謝意を伝えるとともに、その後の経過及び結果を知らせたことを推認させるものである。この点についてはCは自己負罪を恐れて内容を明確にしないが、被告人が自ら通話をしていること自体は、被告人も認めているのであって(なお、携帯電話を被告人が常時携帯している状態で使用していたことについても被告人の供述により明らかである。)、この事実は、被告人が犯行現場にいてけん銃を突き付けていたという事実を裏付ける重要な情況証拠というべきである。加えて、被告人は、Cに対する電話の趣旨につき、勾留中に当時の妻Dを介してCと口裏合わせを行い、原審第6回公判においてCにそれに沿う偽証をさせたことが認められる。

他方、A2事件に関するX1の供述は極めて詳細なものであり、A2の供述とよく符合している。X1は、A2を襲撃することにした経緯、強盗殺人を被告人と共謀した経緯、被告人がけん銃で射撃する役割を果たすことになっていたこと、しかし、X1が、その場の成り行きからその計画を変更し、被告人に退去するように指示するに至ったこと、その後100万円を脅し取ったことなどについても詳細に供述しているところ、その供述は、被害者であるA2の供述と矛盾するところがほとんどなく、Cの供述や関係証拠とも符合するものであって、信用性は極めて高いと認められる。

これに対し、被告人は、本件犯行を全面的に否認するのみならず、A2のことを全く知らないと供述しているが、上記のとおり犯行現場にいたことが明らかであるのみならず、被告人の新携帯情報ツール(当庁平成15年押第15号の12)の「電話帳」の「個人リスト」にはA2の電話番号と住所が登録されているなどの事実に照らし、A2を全く知らないとする供述は信用できない。

以上とほぼ同旨の内容を含め犯人性に関する事実関係、証拠関係について詳細に判示している原判決の認定は正当である。そうすると、被告人はA2事件の犯人であることを優に認めることができる。

(2)  A3事件の犯人性について

X1の共犯者であるX2の供述はおおむね次のとおりである。<1>A3殺害の犯行状況等につき、事件当日の同年11月20日午後7時30分ころ、X1との待ち合わせ場所で、X1が乗っていたシビックの運転席に黒色帽子(キャップ)をかぶりサングラスをかけた男が座っているのを見た。X2は、打合せのとおり、同日午後8時前ころA3を誘い出し、カリブに同乗させて殺害現場まで連れてきた後、X1の指示でカリブからシビックの運転席に移動して間もなく、けん銃の発射音がしたので振り向くと、カリブの助手席側の外にX1が、後部左側ドアの外にその男が立っていた。シビックから降りてカリブに戻り、運転席側ドアを開けて車内を見ると、A3は後部座席で頭を運転席側に向け右腹を下にした状態で倒れており、車内には強烈な火薬の臭いがしていた。その男はすぐにシビックに乗り込み、X1からA3のかばんを受け取って走り去った。その男は、X2に顔を見られないように振る舞っており、一度も声を出さなかった。その後、X2は、死体を載せたカリブを運転し、同県k郡l町のゲームセンターでX1と落ち合った際、X1の運転車両にはサングラスの男が乗っており、その車の先導でc市内のマンションの駐車場に行き、カリブをそこに置いて自分はX1の運転車両の助手席に乗り移ったが、その男は後部座席におり、3名で翌21日午前3時ころまでに同県g郡h町の月極駐車場へA3の車を奪取しに行った。その男はこの時も終始無言であった。X2はその男が駐車場で降りた際BMWの方へ歩く後ろ姿をよく見ている。その姿は犯行現場の犯人と同一人物といえる。<2>上記サングラスの男の特徴につき、X2と似た太っていない体型で、身長は170センチメートル弱のX2より少しだけ高く、黒っぽいジャンパーとズボンという服装であった。<3>X1にその男が誰かと尋ねたところ、X1から「あれ、w1のXちゃんやないか。」と、いかにもX2にも当然にそのことが分かっているのではないかという口調で言われたが、その後ろ姿とゲーム喫茶w1を経営していた被告人とで特に違和感がなく、その後、X1はその男を「X」と名前で言うようになった。

以上のような供述をしているところ、X2が犯人につき殊更虚偽の事実を言う事情はうかがわれない。そして、上記のようなサングラスの男の特徴として供述するところも被告人のそれと合致している上、X1が共犯者であるX2に対し、その男が被告人でないのに、被告人である旨殊更に虚偽の説明をするような事情もうかがわれない。この点については原判決が補足説明第3の2(10)イにおいて説示しているとおりである。

のみならず、関係証拠によれば、被告人は、原判示のとおり、A3殺害の翌21日y2でユンボを借り受け、同月22日Eに電話でユンボの操作を依頼し、Eをして同日午後3時ころd造成地で穴を掘らせた後、報酬5万円を手渡して口止めをしたことが認められるのであって、被告人が死体遺棄の犯行を実行していることが明らかである。被告人はこれを否定するが、y2の申込みを被告人がしていることやEが虚偽の供述をする理由は見出せないこと、現にその現場からA3の死体が発掘されていること等からしても、これを否定する被告人の供述は信用できない。

しかも、被告人は、A3の財産のうち預金以外の分については、自ら確保し、処分している。すなわち、被告人は、同月21日午後8時ころh町の月極駐車場においてFに対し上記奪取に係る車両であるA3のクラウン白色を引き渡していること、同日昼ころA3の亡妻G名義のカードで残高照会をし、A3名義のクレジットカードを使用し、同日午後2時5分ころB2銀行c支店においてA3名義の預金払戻(兼当座貸越)請求書を偽造し、預金通帳と共に提出行使して現金227万円をだまし取り、A3名義のクレジットカードを使用して詐欺や窃盗を重ねたこと、同月22日ころの午後Hに対し半円真珠等を見せて鑑定を求めネックレスの売却を依頼したこと、知人のL1にA3を名のらせて、同月22日午後零時10分ころh町役場においてA3名義の申請書を偽造、行使して印鑑登録証明書10通を入手したこと、同日午後1時24分ころから午後2時36分ころまでの間B2銀行e西支店においてA3の定期積金を解約しようとしたが、拒否されたこと、同月24日午後1時すぎ同支店に電話をかけた後、A3名義の委任状を偽造した上、同日午後1時55分ころこれを提出行使し再度定期積金の解約を試みたが、L1が逮捕されて失敗に終わったこと等の原判決認定の事実が、L1の供述を含む関係証拠により明らかである。なお、L1が逮捕されて間もなく被告人が警察に出頭するに先立ち、捜索を逃れるために証拠物や重要書類などを衣装ケースに入れて、知人に託しているところ、その中からA3名義の預金通帳、キャッシュカード類、印鑑等も多数発見されているが、これらは、被告人が本件犯行の犯人であることを推認させる重要な情況証拠である。

以上のような本件犯行後における被告人の関与の状況等は、その内容や被告人の主導性に照らし、それ自体、被告人が本件犯行の実行正犯であることを高度に推認させる事情と認められる。さらに、被告人は、警察に出頭する直前だけでなく勾留中にも本件につき積極的な罪証隠滅工作をしているが、この点も被告人が犯人であることを更に推認させる事情と見ることができる。

共犯者であるX1は、X2との犯行計画、襲撃対象をA3と決めたいきさつ、被告人との共謀状況、犯行現場を決めた状況、X1が被告人と待ち合わせた状況、X2がA3を誘い出した状況、犯行を実行した状況、当初の打合せではX2の分担とされていたのに、被告人が自らA3のBMWを奪い、A3の自宅の鍵を受け取って、財物の強取行為に及んでいる状況、その後の死体遺棄を含めた一連の状況等について、詳細な供述をしているところ、その供述はX2の供述ともおおむね符合しているのみならず、関係証拠とも符合していて高度の信用性が認められる。

被告人は、A3事件について、強盗殺人、死体遺棄を除く犯行の外形的事実自体についてはほぼ認めつつ、<1>ユンボのレンタルは同月22日朝w2でX1から、<2>残高照会等は同月20日夜w3事務所前でX1から、<3>A3の預金の払戻しは同月21日昼ころa会館でX1の代理人と称するIから頼まれたなどと弁解している。しかし、これらの点についての弁解は関係証拠に照らして信用できないのみならず、<1>については、原判決がその補足説明第3の2(4)イにおいて説示しているとおり、その弁解は、X1からレンタルを依頼されたという日時がその代金支払より後となる不合理な弁解であって、被告人がX1と会った時刻を問題とするまでもなく、信用できない。また、<2>及び<3>の弁解についても、他人名義の口座の残高照会や大金の払戻しを行う理由につき、被告人はX1の話を信じたというのみで、合理的な説明ができないのであるから、この弁解も信用できない(その詳細は原判決補足説明第3の2(3)イのとおりである。)。

以上と同旨の内容を含め犯人性に関する事実関係、証拠関係について詳細に判示している原判決の認定は正当である。そうすると、被告人が強盗殺人の現場において殺害行為に加わっていることは、以上の証拠から明らかであるのみならず、死体遺棄の実行正犯であること及びその余の犯行についても有罪であることが明らかである。

(3)  A1事件の犯人性について

A1事件においてはA2事件やA3事件とは異なり目撃者等が存在しないものの、関係証拠によれば、被告人の携帯電話から、X1の携帯電話(殺害前日の同年7月18日午後8時55分、午後9時2分、午後10時27分)、ポケットベル(午後9時24分、殺害当日の同月19日午前8時49分、午前9時12分)への通話連絡があることから、X1と密接に連絡を取り合っていた状況がうかがわれるのみならず、とりわけ、A1の自宅マンション(午前10時56分)、事務所(午前10時57分)、携帯電話(午後零時34分、57分)にも通話がされている事実が認められるところ、これらのA1との通話連絡状況は、X1と被告人とが行動を共にして本件犯行に及んだことを裏付ける重要な情況証拠というべきである。

すなわち、A1の自宅への10時56分及びその1分後のA1事務所への10時57分の通話は、それ自体がその時点で被告人がX1と同行していたことを明確に示す情況証拠として重要であるのみならず、X1の証言する状況ともよく符合している。さらに、A1の携帯電話への2度にわたる連絡についても、同様に被告人が殺害現場でX1と一緒に居合わせたことを推認させる情況証拠であるのみならず、上記の通話状況はA1を殺害現場であるb市内のw4近くの産業廃棄物最終処分場へおびき出す過程に関するX1の証言とよく符合し、X1の供述する前後の状況とも併せ自然に理解できるものである。

この点につき、被告人は、午前10時56分、57分の通話については、多分自分のポケットベルに連絡が入ったので折り返し電話をしたものと思うと弁解するが、その通話内容や用件についても述べていないばかりか、A1の自宅の電話に折り返しの電話をした1分とたたないうちにA1事務所の電話番号がポケットベルに表示され、これに折り返し電話をするというのは極めて特異なことであるから、その供述は信用できず、X1の供述するとおり行動を共にする中での通話と見るほかはないものである。また、午後零時34分及び午後零時57分の2回にわたるA1の携帯電話への通話についての被告人の弁解も、ポケットベルに入った番号に折り返し電話したものであり、いずれもX1が出ていると思うから、X1がA1の携帯電話を使用していたのではないか、と弁解するが、被告人の携帯電話に直接かけず、ポケットベルに入電させるのは、う遠であり不自然といえるし、当日以降の行動が極めて特異で印象的なものであるのに、その直前の通話内容については記憶がないというものであって、本件当日の通話状況についての供述としては信用性のないものというほかはない。

さらに、被告人は、A3事件の場合と同様に、A1のめぼしい財産をおおむね自ら意のままに処分している。すなわち、被告人は、A1殺害の犯行当日の同月19日午後2時55分ころB1銀行c支店においてA1名義の払戻請求書を偽造し、預金通帳と共に提出行使し、現金1000万円を払い戻してだまし取った(なお、翌20日午前には実姉からの借金200万円につき205万円を振込送金して返済しているが、その資金は犯行により得られたものとしても矛盾はない。)ほか、当日夜Jに対し電話等でX1の内妻であるK方前に駐車中のA1のBMWをw3事務所へ移動するよう依頼したこと、翌20日午後2時ころL6に小切手6通を交付して現金化を依頼し、その謝礼としてA1のクレジットカード1枚を交付して使用させ、自らも同日午後8時ころm県n市内においてA1のクレジットカードを使用していること(この点についてはA1の失踪を印象づける意図もうかがわれるものである。)、同月21日にもカード会社に使用可能かを確認し、自らo市内等においてクレジットカードを使用したほか、Mに対してもA1の運転免許証と共にクレジットカード3枚を交付して使用させたことなどの事実が、関係証拠により明らかである(その詳細は補足説明第1の1(4)において説示されているとおりである。)。

のみならず、原判示のとおり、A1の死体は、A3と同じdの造成地に埋められていたところ、被告人は、死体遺棄の犯行において中心的な役割を果たしている。すなわち、被告人は、殺害当日の同月19日夕方パチンコ店にいたNに対しユンボによる穴掘りを依頼したこと、翌20日午前10時30分ころy2でユンボを借り受け、Nをして同日夕方d造成地においてユンボで穴を掘らせたこと、同月21日早朝w5地下駐車場で死体を載せていたV8クラウンのバッテリーが上がっていたので、隣人にブースターケーブルを借りてエンジンを始動させて移動させたこと、d造成地において携帯電話でNからユンボの操作方法を聞きながら、穴を埋め戻したことが認められる。これらの点については原判決が補足説明第1の3(9)(10)において詳細に説示するとおりであって、以上の認定に反する被告人の供述は信用できないことが明らかである。

以上のような本件犯行後における被告人の関与の状況は、その内容や被告人の主導性に照らし、それ自体、被告人が本件犯行の実行正犯であることを推認させる事情として十分なものと認められる。また、A1事件とA3事件とは、X1又はX1側の共犯者において被害者をおびき出し、自動車内で被害者の頭部にけん銃を発射して殺害し、預金通帳等在中のかばんや高級乗用車を強奪した後、被害者の死体をdの造成地に埋めて遺棄するという点において、犯行態様及びその前後の行動に類似性が高いこと等も、A1事件の共犯者とA3事件の共犯者とは同一人物による犯行であることを推認させるものである。さらに、A2事件でも、A2にけん銃を突き付けた共犯者が被告人であることが明らかであり、A1事件の犯人がこれらの2事件の犯人と同一であることの推認は更に高まるものということができる。

共犯者であるX1は、犯行計画、襲撃対象をA1と決めたいきさつ、被告人との共謀状況、X1が被告人と待ち合わせた状況、犯行現場を決めた状況、A1を被告人の携帯電話で誘い出した状況、犯行を実行した状況、被告人が自らA1のBMWを奪い、走り去った状況、再び落ち合い預金通帳と印鑑を使用して銀行から払戻しを受けに行く状況、死体を隠匿し、その間に被告人がm県n市の方に行っていたことを知った状況、死体遺棄をした状況等、一連の状況について、詳細な供述をしているところ、その供述は、以上の事実とも符合し、その主要な部分は補強されているということができることからして、おおむね高度の信用性が認められる。特に、被告人が当日X1と行動を共にし、犯行現場にA1をおびき出す際被告人の携帯電話が使用されている状況についてのX1の供述は迫真的であり、被告人が現場にいて犯行に関与し、A1の車両を奪い去った人物であることについては疑問の余地がない。被告人がX1と落ち合うまでの電話の状況も、そのような行動を前提としても不自然な点は見出されない。これと異なり、犯行当日は午後2時半にX1と会うまではX1と行動を共にしていないとして犯行を否認する被告人の供述は信用できない。なお、預金の引出しはX1から頼まれたとの弁解は、いくらX1の依頼がしつこくても、1000万円もの多額であることに照らし甚だ不自然というほかない(その詳細は原判決補足説明第1の3(6)のとおりである。)。また、A1のBMW、クレジットカードは被告人がX1から担保として預かったもので、X1から使用の承諾を得ているとの弁解も、関係者の供述と整合性を欠く点が多いから信用できない(その詳細は同(7)において説示されているとおりである。)。

以上と同旨の内容を含め強盗殺人につき被告人の犯人性に関する事実関係、証拠関係について詳細に判示している原判決の認定はほぼ正当として是認することができる。そして、以上のような事実を総合すると、被告人がA1事件の強盗殺人の犯行現場に居合わせ実行行為を分担した犯人であるのみならず、死体遺棄の実行正犯であること及びその余の犯行についても有罪であることが明らかである。

2 X1証言の全体的な信用性に関する所論について

所論は、原判決は共犯者とされるX1の自白に依拠して被告人の有罪を認定しているのに、X1証言の信用性につき部分的、断片的な検討を加えているにすぎず、証言全体の評価を欠いているから、X1の証言の信用性判断には理由不備があるなどと主張する(控訴理由第20点)。

しかし、原判決は、情況証拠や被害者のA2、共犯者のX2、その他関係者の証言等を事件ごとに詳細に検討し、これらと対比しながらX1証言の信用性を判断しているのであり、部分的、断片的な検討を加えているにすぎないとする所論は前提を欠く。したがって、X1証言の信用性を検討せずこれを鵜呑みにしているという所論は当たらない。

X1は、被告人がA1事件、A2事件及びA3事件の現場における実行正犯者であり共犯者である旨証言するところ、上記のとおり、その証言は、被告人やX2との共謀状況、殺害前後の行動、殺害状況等につき具体的かつ詳細な内容のものであって、捜査及び公判を通じておおむね一貫しているのみならず、A1及びA3の死体をd造成地に遺棄したことや衣装ケースに入っていた重要な証拠物の所在等の点で秘密の暴露を含んでいる上、A2やX2の供述と合致し、多数の証拠物等の客観的証拠や関係者らの供述等による豊富な裏付けがあることからすると、高度の信用性を有するものというべきである。

なお、X1の自白にはA2事件で使用したけん銃の種類(当初は、被害者のA2の供述により明らかな回転式けん銃ではなく、自己の所持する小型自動装てん式けん銃(タイタン)を犯行に使用した旨明らかに虚偽の供述をしていた。)やその処分等の点で変遷があるものの、A1事件及びA3事件の取調べが開始されていない段階では被告人をかばう気持ちがあり、同一の凶器を使用したことを秘匿していた旨それなりに納得できるような説明をしているから、このような変遷をもって自白の信用性が減殺されるものとは認められない。

もっとも、一般に共犯者の自白には自己の刑責を軽減したり第三者の関与を隠ぺいするため虚偽の供述をする危険があるとされているから、X1証言の信用性については慎重に吟味されねばならず、このことは原判決が指摘し、所論も強調するとおりである。しかし、上記のとおり、A2事件については被害者であるA2の目撃供述、A3事件については共犯者であるX2の目撃供述からも、被告人が各犯行現場にいたことは明らかであり、A1事件についても被告人の携帯電話の発信記録からしても当時X1と行動を共にしていたことが推認される。また、A1事件及びA3事件に共通するけん銃の使用や犯行後の被告人の行動、特に死体遺棄への深い関与や強取された通帳による預金引出し、自動車等の処分、カードの使用、A2事件及びA3事件での罪証隠滅工作等の被告人の犯人性を示す情況証拠が認められる。したがって、これらの情況証拠ともよく符合する被告人の犯人性に関するX1の証言の基本的な部分の信用性が高度なものであることは明らかである。

なお、弁護人は、被告人の供述の信用性に関する原判決の認定、説示に対し各事件ごとに反論する(当審弁論第6項)が、いずれも上記判断を左右するに足りないというべきである。被告人の供述には、他の明白な証拠がある点についてもこれに反する供述をするところが少なからず認められるなど、全体として信用性に乏しいといわざるを得ない。たとえば、d造成地に穴を掘った理由として、2回とも廃棄物の投棄のためであると供述するところ、これに反する証拠が十分に存するにもかかわらず、被告人は敢えて不合理な弁解をしている。けん銃の所持の事実については、被告人と親しい多数の者の信用性が高度な供述があるにもかかわらず、これを否定している。証拠隠滅工作も明白であるのに、いずれもこれを否定する供述をしている。このように責任逃れに終始する供述態度が認められるのであって、その点からしても全体として供述内容の信用性に乏しいというべきである。

以下、所論が個別的に指摘する点にかんがみ、所論に即して説明を補足する。

3 A2事件に関する所論について

(1)  所論は、A2の目撃供述につき、<1>目撃状況に関し、けん銃様の物を突き付けた男が黒色サングラスを外したことがあるという点は経験則に反する、<2>A2の警察に対する被害申告の経過が不明朗である、<3>A2の人物像からして、信用性は認められない、と主張する(控訴理由第12点)。

しかし、A2の供述に信用性が認められることは前示のとおりであるのみならず、<1>については、犯人の男が黒色サングラスを外すことはうかつな行為といえても、所論のようにあり得ないこととはいえず、したがって、その供述部分が経験則に反する内容のものということはできないから、外したのを目撃したとの証言に信用性がないことにはならないし、殊更虚偽を述べる事項にも当たらないから、A2証言の信用性は所論指摘の点により何ら左右されない。<2>については、A2はX1の交友者の写真面割りの際に被告人がサングラスの男であると気付いていたのに、当初は警察官に対し恐喝の被害事実を申告しなかったという経緯は所論指摘のとおりであるものの、A2が自分でその男を探し出して仕返しをしようと考えていたためかどうかはともかく、被告人の写真を犯人のそれと指摘することを控えたことについては前示のとおり了解できるところであって、その後犯人の面割り写真の中から被告人の写真を選び出して犯人を明らかにしたからといって、所論のようにA2の目撃供述が信用性に欠けるとはいえない。さらに、<3>についても、A2は所論のようないわゆる高利の街金融業者であるとしても、それをもって恐喝事件の被害者が本物のけん銃を突き付けて脅されたという供述の信用性まで否定すべき理由にはならない。

したがって、サングラスの男と被告人との同一性について、A2の目撃供述の信用性を肯定している原判決の判断に誤りはないというべきである。

(2)  所論は、被告人が自分の方からC宛に電話した事実はなく、X1からの電話であると考えて折り返し電話としてかけたにすぎないものであって、この点に関する被告人の供述の一貫性、被告人とCとの関係の希薄さ、会話内容の不自然さ、C供述、特に原審第40回公判証言のあいまいさに照らすと、その後この点につき口裏合わせをしているとしてもなお、被告人がCの番号にかけた電話の趣旨は結局不明というほかないのに、Cの検察官調書(甲331号証)に信用性を認め、被告人がCに対する謝礼の趣旨で電話したものと認定している原判決は、供述調書の信用性の判断を誤っている、と主張する(控訴理由第13点)。

しかし、Cの上記調書は、詳細かつ自己に不利益な内容のものであって、原審公判証言よりもはるかに信用性が高いと認められる。被告人は、Cとの間で「X1さん見えませんか」という一方的なものであった旨の口裏合わせを行っていることが認められるところ、2分24秒間という通話時間の長さに照らしても、そのような内容の電話である旨の被告人の弁解は到底信用できず(この点については原判決が補足説明第2の2(2)において詳細に説示しているとおりである。)、前示のとおり犯行現場から退出した後、

手引きをしたCに対し連絡を取ったものと認めるのが相当である(前示のとおり事態の展開状況を参考に知らせる趣旨をも含むものと推測される。)。被告人とCとの関係が希薄であるからといって、それだけではこのような連絡があり得ないとはいえず、被告人がCの電話番号を知っていたことは、被告人の携帯電話からのCの電話への通話につき、数日前である同年10月21日午後2時25分と50分の2回にわたる記録があることからもうかがわれるところである。以上と異なる趣旨のCの公判証言は、同人の検察官調書と対比し回避的であって信用性が乏しい。

したがって、原判決の上記調書の信用性判断に誤りはないのみならず、被告人は当日午前9時35分の電話でCと何らかの連絡を取っている事実は、被告人のA2事件における犯人性に関する有力な情況証拠になるものである。

(3)  所論は、Cが手引きをした共犯者であるというX1の証言については、Cの否認、X1のあいまいな証言、X1の供述の変遷等から合理的な疑いを抱かざるを得ないのに、X1の証言を鵜呑みにしてCを共犯者と断定している原判決は、証拠の評価を誤っている、と主張する(控訴理由第11点)。

しかし、この点に関するX1の証言は具体性に富み、所論のようにあいまいであるとはいえない。Cの退出と入れ替わりにX1らが立ち入った後、Cが再びA2事務所に戻っていない事実に照らしても、Cが手引きをした旨のX1の供述の信用性は明らかである。検察官がCを起訴しなかったからといって、それだけで所論のように捜査機関が被告人の関与の証拠が薄弱であることを自認しているものとはいえない。したがって、原判決がX1やCの供述の評価を誤っているという所論は採用できない。

(4)  所論は、Oが被告人方に犯行時間帯に電話をかけ被告人と通話している事実と被告人がA2の事務所にいた事実とは両立し難いから、被告人にはアリバイが成立するのに、アリバイ主張を排斥している原判決は誤りである、と主張する(控訴理由第14点)。確かに、関係証拠によれば、OはA2事件当日の午前11時すぎから約1時間w3事務所で被告人から自動車保険料の集金をし、昼食も一緒にしていることが認められる。しかし、犯行時間帯である午前9時を挟んだ30分間に被告人宅に電話をかけて保険料の集金の打合せをしたというOの証言は、普段の連絡方法から当日電話をかけた時間帯を推測しているにすぎないものであって、信用性に乏しく、被告人がその時間帯にA2事務所内にいなかったことを示す証拠としての信用性は薄弱というほかはない。かえって、関係証拠によると、当日午前9時55分に被告人がOのポケットベルに連絡したことが認められ、Oが被告人に電話をかけたのは、そのころであることが推認される。したがって、アリバイ主張を排斥している原判決に誤りはない。

なお、被告人が祖母Pとの電話をきっかけにしてp町立病院に入院中のQを見舞ったのは、同年11月1日の1回だけであったと認められ、所論の主張する犯行当日午後の見舞いの事実が認められないことについては原判決説示(補足説明第2の3(3))のとおりである。そうすると、被告人がA2事件の犯人であると認定している原判決に事実の誤認は見出せない。

4 A3事件に関する所論について

(1)  所論は、同月21日午後2時36分すぎにL1がB2銀行e西支店を出てから午後3時59分に被告人がX1の内妻K方にいたX1に対し死体を埋め終わったことにつき電話をかけたとされるまでの83分間には、被告人がL1と合流してw3事務所まで戻り、d造成地に向かい、Eにユンボによる穴の掘削を指示し、被告人がこれを埋め戻して死体遺棄を完了することは不可能であるから、被告人が死体遺棄行為に及ぶことは不可能であるのに、被告人が死体遺棄行為をしたとしている原判決の認定は誤りである、と主張する(控訴理由第15点)。

しかし、ユンボの掘削、埋戻し作業の所要時間を実験結果に従い26分間と仮定し(実験結果をもって実際に要した時間より短時間であることをうかがわせる事情は特に見当たらない。)、車での移動については、最短の所要時間を採用すると、合計73分間程度で移動と作業を完了することが可能であることになる。また、所論のいうロスタイムを加えることにしても、被告人方への立ち寄りはせいぜい5分間程度であり、L1にたこ焼きを食べさせた点も、被告人がw3事務所前で営業している義父Rからたこ焼きをもらってL1に渡せば済むことであって、これに要した時間はごく短いと考えてよいから、合計七、八分間で十分に可能と見るのが相当である。そうすると、所論の83分間の中で被告人が死体遺棄を完了することができることになるから、これが不可能であるとする所論は採用できず、実際にも同程度の時間がかかっていることをむしろ裏付けているというべきである。

(2)  所論は、20日深夜被告人がシビックでA3方から強取品を持ち帰り、その後被告人とX1がX2と合流するためにセンティア又はシビックでl町のゲームセンター「w6」に向かったと判示している点につき、同夜被告人がシビックを運転してw7ないしw3事務所に戻ってきた事実はなく、X1の証言によればw7にシビック又はセンティアが放置されることになるのに、これを誰が取りに来たのか、どこへ移動させたのか不明であり、使用車両の点でもX2の証言と矛盾があって信用できないのに、X1の証言に信用性を認めている原判決は、証拠の評価を誤っている、と主張する(控訴理由第17点)。

しかし、A3殺害後被告人がとった行動については、X1とX2の証言が一致していることから、被告人が犯行後A3宅に侵入してそこにあった半円真珠等の財物を強取している事実を推認できる上、w7の一室に半円真珠等の被害品が搬入されていることが他の証拠によっても確認できることに照らすと、これに沿うX1の証言は十分に信用できる。のみならず、使用車両の点はささいな事柄であって重要性に乏しいから、仮にX1の証言の細部に誤りがあっても、被告人が深夜A3方から強取品を持ち帰り、その後l町のゲームセンターに向かった旨のX1の供述の信用性については、他の証拠によっても裏付けられているところからして、その信用性は左右されない。

(3)  所論は、A3の死体を載せたカリブをc市q町の月極駐車場からr市のy3駐車場へ移動させたことにつき、共犯者の協力が必要であるから、単独で移動したというX1は真の共犯者をかばい立てするための虚偽供述をしているのに、この点につきX1の証言を採用している原判決の認定は誤りであり、この点にもX1の供述の信用性の乏しさが現れている、と主張する(控訴理由第18点)。

しかし、カリブのcからrへの移動については、X1の証言でも一応の説明はできているし、死体の置かれた車両をcのマンション駐車場に置きっ放しにすることの危険性を考えると、その夜のうちに発見されにくいy3の駐車場に移動させたこと自体については、死体が発見されるのを防止する措置として必要かつ合理的であるといえる。仮に所論のように協力者がいるとしても、X1がその名前を出すのをはばかる者とも考えられる。所論は、Cの営むy3駐車場へ移動させた後の移動手段を問題とするが、名前を出しにくい者に車で迎えに来させるなどの方法もあることからすると、この点についてあいまいな供述をしていることを理由にX1の証言の信用性が左右されることになるものではなく、そもそもこの点は、所論の指摘にもかかわらず、ささいな事項にすぎないというべきであり、車の移動に関するX1の証言の信用性はこれにより左右されるものではない。したがって、X1の証言中所論指摘の部分が信用できないとし、ひいては本件の共犯者が被告人であるとのX1の供述の基本的な部分の信用性に疑いを生じさせるとの趣

旨に解される所論は、前提を欠き採用できない。

(4)  所論は、A3方で物色している最中と思われる時間帯には、被告人が愛人に携帯電話で連絡している事実が認められるところ、そのような行為はA3事件における被告人の行動としては不自然というほかはないから、被告人の犯人性を否定する事実と評価すべきであるのに、原判決がそのように評価していないのみならず、その理由をも示していないのであって、被告人の犯人性についての認定判断を誤っているとの趣旨に解される主張をする(控訴理由第19点)。

しかし、被告人がA3方における物色の時間帯に愛人と通話をすること自体をもって所論のように不自然であるとはいえないから、被告人のA3事件への関与を否定すべき事実であるとする所論は、そもそも前提を異にするものであり、採用できない。

(5)  所論は、X1が引き当たりの際にカリブの車内から発見したとされている弾丸につき、<1>平成7年2月のカリブの押収や検証から8か月後の同年10月という弾丸の発見時期、<2>鑑定嘱託書の作成日付が発見前であり、発見日時も捜査報告書と一致していないこと、<3>人血検査の行えないほど微量の固形物以外に血痕、組織片等の付着物が認められていないという不自然さからすると、その弾丸は外部から不正に持ち込まれたという疑いがあるのに、その証拠価値を認めている原判決は誤りである、と主張する(控訴理由第16点)。

確かに、弾丸の鑑定嘱託書2通(甲552号証、555号証)の作成日付が警察官証人のいうような誤記であると認めるには慎重にならざるを得ないが、鑑定嘱託書の参考事項欄の、X1の引き当たりの際発見された旨の記載と併せて見ると、誤記であるとする供述の信用性を否定し難い。所論のいうように弾丸が外部から持ち込まれたと仮定すると、A1事件と同一のけん銃(弾丸の条痕が相互に一致している。)がどこかにあり、それを使用して発射した弾丸を警察官が入手したということにならざるを得ないが、そのような特異な事情をうかがわせる証拠は全くなく、およそ推測の域を出るものではない。カリブ車内で弾丸が発見されないまま経過し、後に発見されることになったことについては、解体業者の廃棄物置場での保管状況やその後の警察の倉庫内における保管状況等に照らし相応の理由が見出されることからすると、当初発見されなかったため不存在と考えられていたところに、X1が自白したことからカリブへの引き当たりが行われ、その際X1の供述に従い発見に至ったということがあっても、これを不自然とすることはできない。いずれにせよ、所論のように外部から不正に持ち込まれたという疑いは否定すべきである。弾丸に微量の赤褐色固形物の付着の点も、血痕予備検査では陽性反応があったことからすると、貫通銃弾であることとの矛盾はないというべきであり、弾丸がカリブ車内のどの位置に滞留していたのかは明らかでない以上、血液付着が少ないからというだけで、所論のように外から持ち込まれたとの疑いを抱かせることになるものではない。

したがって、弾丸の証拠価値を否定する所論は採用できず、原判決の上記弾丸の証拠評価に誤りはないというべきである。なお、この点に関する所論は、これのみではそもそも被告人の犯人性を左右するものとはいえない。

そうすると、所論の指摘する点を検討しても、被告人がA3事件の犯人であることにつき合理的な疑いは見出せず、原判決に所論のような事実誤認は認められない。

5 A1事件に関する所論について

(1)  所論は、A1の事務所の事務員であったSが、その事務所でX1からの電話を受けたのは、当日午前9時40分ころから午前10時ころまでの間であるのに、午前10時57分と認定している原判決は誤りである、と主張する(控訴理由第10点)。

しかし、Sの供述によっても、X1がA1事務所のSに電話をかけたのは1回しかないことが認められるところ、被告人の携帯電話の発信記録を含む関係証拠によれば、その時刻は、午前10時57分であると認められる。所論は、Sの当初供述(甲274号証)が正しく、その訂正供述(甲275号証)はつじつま合わせであり、電話は当初供述のとおりにかけられている、というが、当初の供述は大まかな記憶によるものにすぎず、捜査官が客観的な証拠を指摘して記憶を喚起させること自体不当ではなく、その訂正された内容に照らせば、同証言の信用性が乏しいということにはならない。なお、弁護人が指摘するT作成のメモの記載内容は当初供述と同じであるという点(当審弁論第4項)も、その記載内容は後に上部に書き加えられたものであることがメモの写し自体から明らかであり、Sの記憶の正確性に疑問があることからすると、この判断を左右するようなものとはいえない。

したがって、Sの供述に変遷があるからといってX1の架電時刻に関する原判決の認定に誤りがあることにはならない。

(2)  所論は、当日午後1時前後の犯行時間帯における被告人の携帯電話による通話状況はA1殺害の犯行と両立し難いから、これと矛盾する不自然な架電記録は被告人に有利な証拠と評価すべきであるのに、被告人をA1事件の実行犯と認定する原判決は経験則違反の証拠評価をしている、と主張する(控訴理由第9点)。

しかし、犯行時間帯及びその直後に犯人がNやL3等の知人や被告人の家族に電話をかけたりすることは、一見奇異な印象を抱かせるように見えるけれども、例えば犯行に関する事項で必要な連絡をしたり、犯行のカムフラージュのために行ったり、その他色々な意図の下に行われることがあり、自宅への通話についても相手が誰であるかを含め色々な理由が考えられる。のみならず、A1の携帯電話への通話状況(午後零時34分、57分)は、A1を殺害場所へおびき出す過程に関するX1の証言内容とよく符合する。しかも、関係証拠によれば、射撃の方法によるA1殺害の犯行は短時間で終了し、その実行犯は直ちに現場を立ち去っていることが認められるから、被告人が方々へ電話をかけるのも決して不自然ではない。とりわけ、Nに連絡を取ろうとしている通話状況(午後1時4分、31分、35分、午後2時18分)は、それがA1殺害後に死体を遺棄することに関連するものと見ることができ、殺害終了の時期をうかがわせるものとして、X1の証言をよく裏付けるものとなっているのであって、所論のように被告人に有利な証拠であるとはいえない。

したがって、被告人の通話状況に関する原判決の証拠評価に経験則違反はない。

(3)  所論は、被告人には当日午後r市内のy4でマフラーを修理していたというアリバイがあるのに、これを否定している原判決には誤りがある、と主張する(控訴理由第5点)。

確かに、領収書(前同押号の56在中のもの)の存在やy4の総勘定元帳の記載(その内容については、原審第56回公判調書中の証人Uの供述部分及びこれに添付されている写しにより認めることができる。)からすると、被告人が当日y4でマフラー修理等の代金を支払った事実自体は否定し難いところであるが、それにより認められるのは上記代金の支払だけであって、実際にマフラーの修理が行われた日は証拠上明らかとはいえない。しかも、Uのいう被告人の来訪時間は、日常の生活や稼働状況からの推測でしかなく、十分な裏付けのあるものとはいえない。さらに、被告人が当日午後2時55分にB1銀行c支店でA1の口座から1000万円を引き出していることからしても、その前後にマフラーの修理が行われているとは考えにくい。のみならず、そもそも被告人が当日ソアラを運転していたというのは、前後にファミリアを運転しているという関係証拠により明らかな事実との整合性に欠けるというべきである。領収書の存在は犯行後得た金により既に修理を終えていた修理代金の支払をしたとしても矛盾しない(姉に対する借金返済の送金も、翌日午前中に行われている。)ことからすると、当日代金の支払に赴いた事実は否定できないというべきであるが、当日y4でソアラの修理をし、その際被告人が居合わせたというUの証言は、当日の行動であるかどうかにつき明確な根拠に欠け具体性に乏しいものといわざるを得ず、その信用性は乏しいというべきである。したがって、被告人が本件当日午後1時から午後3時まで間の約1時間y4でマフラーの修理を待っていたというUの証言は、少なくとも事件当日のこととする点において信用できないというべきであるから、被告人にはアリバイは成立しない。そうすると、被告人が当日午後3時10分から午後4時までの間にy4に赴くことができ、その際修理等が行われたかのようにいう原判決の認定には疑問があるというべきであるが、アリバイが成立しないとする結論においては正当である。

(4)  所論は、被告人の使用車両につき、被告人がA1殺害後BMWに乗って現場を逃走し、その後もBMWに乗り続けていたというX1の証言は、被告人がソアラの修理のためy4を訪れていること、BMWをJとVに依頼してK方から引き取らせている事実と矛盾し整合性がとれていないから、その信用性に重大な疑問が残るのに、その一部を不採用とし、被告人が午後3時ころK方でBMWをファミリアに乗り換えたとする原判決の認定は、証拠に基づかないものである、と主張する(控訴理由第8点)。

しかし、関係証拠によれば、被告人が当日午後7時59分と午後8時29分の2回Jに電話をかけて依頼し、JとVがBMWをK方から引き取っている事実は認められるものの、被告人がソアラの修理のためy4を訪れている事実は上記(3)のとおり認め難い。被告人が当日ソアラを使用しておらず、ファミリアとBMWの使用にとどまるとすれば、そもそも所論のように整合性がないことにはならないから、使用車両とX1の証言とが整合性を欠くという所論は採用できない。確かに、原判決は、X1に現金を渡した被告人がK方からBMWでどこかへ走り去ったというX1証言を採用せず、BMWからファミリアに乗り換えた旨認定しているが、たとえ乗換えの時期に誤りがあるとしても、被告人の犯行への関与等に影響を及ぼすことにはならない。

(5)  所論は、被告人がd造成地においてNに携帯電話でユンボの操作方法を教わりながら穴を掘り、A1の死体を埋めて遺棄したことにつき、<1>当時d造成地はw8の通信エリア外であって、携帯電話による通信が不可能又は著しく困難であること、<2>仮にNからユンボの操作方法を教えられた事実があったとすると、被告人がその後のA3事件でEにユンボの操作を依頼するのは不自然であること、<3>携帯電話を片手に持ってユンボのレバーの操作の教えを受けるのは非現実的であることからして、その証明は不十分であるのに、上記事実を認定している原判決は誤りである、と主張し、被告人は死体遺棄にも関与していないと主張する(控訴理由第7点)。

しかし、上記のとおり、関係証拠によれば、被告人が死体遺棄を自ら実行していることを含め、所論の指摘する点につき原判決が説示するところは正当と認められる。そして、<1>の点については、サービスエリア外とされていても通話可能な場所があること、通話可能かどうかは地形や電波状態、機種の性能いかん等とも関係すること等からすると、サービスエリア外であるというだけで通話不能ということはできず、現に通話記録によると、丁度その時刻ころに被告人がNに5分51秒間にわたり電話をかけて通信

している事実が認められるから、所論のような疑問はない。<2>の点については、被告人がA3事件でEにユンボの操作を依頼したのは掘削についてであり、Nから教えられてしたことは埋戻しであり、これについては被告人が自ら行っていること、NがA3事件当時服役中であったことなどを考慮すると、掘削につきEに依頼したことに何ら不自然な点があるとはいえない。<3>についても、ユンボを操作しながら携帯電話を使うことが直ちに不可能とまではいい難いのみならず、仮に操作中は通話をすることが困難であるとしても、操作を中断すれば通話内容を聞き取ることは可能であることは明らかであるし、Nも操作しながら通話することが可能であることを認める供述をしていることからしても、所論のように非現実的とはいえない。

したがって、所論の指摘する点は、被告人が死体遺棄行為を実行したことにつき疑いを抱かせるものではないから、原判決には所論のような事実誤認はない。

(6)  所論は、頭部の射創順位につき、X1証言は殺害状況が鑑定書と一致せず、その信用性に重大な疑義があるのに、X1証言は命中部位を誤認した内容のものとなっているから、その証言をもって鑑定書と矛盾しないという原判決は誤りである、と主張する(控訴理由第6点)。

しかし、関係証拠によれば、原判決が<1>左後頭下部、<2>左頬部、<3>左前額部の順である旨認定するところは、致命傷が<3>であること、各射創による損傷の程度等に照らして考察する限り、最も合理的と認められるから、現場にいて犯行に関わったX1の供述として、その順序自体につき虚偽の供述をする理由は見出し難いというべきである。

所論は、X1はA1の殺害状況のみならず殺害の実行犯、殺害場所についても自己又は第三者を庇うため適当な作り話をしている疑いが濃厚である、と主張する。

しかし、被告人が犯行現場にいてX1と共にA1の殺害に関与したことは既に認定しているとおりであり、被告人がA1の殺害を実行したというX1の証言については、被告人がA2にけん銃を突き付けている事実及びA3殺害の実行犯であるという事実(X2証言による被告人及びX1の車外における位置関係によっても裏付けられている。)に照らしても、これをうかがうことができる。そして、A1事件は、前説示のとおり、A3事件と極めてよく似た犯行態様のものであり、事後の行動にも一致点が多く見出される上、同一のけん銃が使用されていることなどに照らすと、殺害時の詳細な状況についてはともかく、被告人は射撃を担当する立場で犯行に加担していると見るのが自然であることからすれば、被告人がA1に対してもけん銃を発射しているものと推認するのが相当である。

もっとも、X1は、殺害現場に誘い出したA1をクラウンの後部座席に招き入れて運転席から後ろを向いて雑談を始め、被告人は車外で書類を広げ物件を調べているように装っていたが、クラウンの後部左側に近付き、車内で会話をしていたA1の背後から銃弾3発を発射した旨供述するところ(その再現状況につき、実況見分調書。甲99号証)、その際、A1が1発目の射撃を受けて発した言葉や2発目の射撃を受けて発した言葉の内容は、創作が困難な内容といえることからして、これをX1自身が間近で聞いたことについては信用性が認められる。しかし、X1が、A1が元の妻にかけようとした電話の番号を聞いた上、A1に代わってその女性に電話をかけてやると言い、運転席側から外に出て、その番号を押して呼び出し音が鳴ったなどと供述するところは、殺害を共同して行う立場にある者の行為としてはいかにも不自然であり、X1自身の行為を矮小化している疑いがある。また、2発目を発射した後うわごとめいた言葉を発しているのに、結果を見届けないで立ち去る被告人に向かい、まだ生きていると告げて、立ち去りつつある被告人を呼び戻そうとしたところ、被告人からお前やるかと言われたが、X1がこれを断ったために、被告人が車に戻っていき3発目を発射して殺害したというX1の供述の内容も、やはり不自然という感を免れない。しかも、X1の証言によれば、X1自身は当初は運転席にいたというのであり、X1自身にも弾丸が当たりかねない危険な位置関係から発砲されていることにもなりかねない点においても、いささか不自然に思われる。したがって、殺害状況に関するX1の証言は、そのままには信用することはできないというべきである。

この点については他に目撃者等の証拠のない部分であるところ、X1が殺害に関する自己の関与を小さくするために事実と異なる供述をした可能性を否定し難く、X1がA1の注意を引き付けていただけであるかのように述べる部分については十分な信用性を認め難いというべきである。X1は、A1の携帯電話を取り上げるにとどまらず、A3事件と同様、A1殺害の際に抵抗できないような力を加えるなどの加担行為に及んでいる可能性があり、また、2発の発射によっても死亡するに至らなかったことから途中で射撃を交替している可能性も完全には否定しきれない。しかし、被告人とX1とが犯行を共同実行するに至った経緯や、その後のA2、A3事件における被告人の役割からすると、自衛隊経験者である被告人が射撃役として加わっていると見るのが自然である。

ただ、射撃をした者がいずれであるかは、本件の犯行全体から見る限り、それほど重要な問題ではないといえるのであって、少なくとも被告人及びX1が共謀の上現場においてA1をけん銃により殺害している事実には変わりがないばかりか、仮にX1がけん銃の発射行為に加わっているとしても、被告人は強盗殺人の実行行為を現場において共同して行っていることに変わりはないから、被告人のA1に対する強盗殺人の犯情をほとんど左右しないというべきである。

結局、X1証言の信用性は、A1事件におけるX1の現場加功の態様の点においては十分とはいえないが、被告人が現場で共同して犯行を実行していることについては、前示のとおり明らかであり、所論指摘の点をもって被告人の犯人性が左右されることになるものではない。

そうすると、被告人がA1事件の犯人であることにつき合理的な疑いはなく、原判決に所論のような事実誤認は認められない。

6 けん銃に関する所論について

関係証拠によれば、L2は平成5年10月6日ころ恐喝未遂事件で警察に出頭する際、o市s区内のガソリンスタンドにおいて、被告人に対し、コルト社製38口径回転弾倉式けん銃1丁及び実包4発をL3に渡すよう依頼して、上記けん銃等をトランクに積んだ自動車を引き渡したこと、被告人は同日夕方ころの電話でL3から上記けん銃等を自己の手元に置くことの了承を得たこと、被告人は同年11月ころNに対し上記けん銃等を預け、更にNは平成6年2月上旬ころL4に対し上記けん銃等を預けたが、同年3月中旬ころ喫茶w1で被告人に返還したこと、被告人は同年8月ころL3を通じて38口径用の弾を調達しようとしていたことなどの事実が認められる(その詳細は原判決補足説明第1の1(1)のとおりである。)。これらの事実を総合すると、本件各犯行当時被告人が上記けん銃等を保管所持していたことが推認できる。

もっとも、保管事実のみから直ちにそれが本件の各犯行に使用されたことになるものではなく、あくまでも本件で使用された可能性があることを示すものにどまるというべきであるが、本件当時被告人がけん銃を保管している事実があれば、本件で使用された弾丸と適合するところから、被告人保管の上記けん銃が犯行に使用された可能性が高いことが認められることになる。この点は、被告人の犯人性を更に一層高めるものとして重要な情況事実となるとともに、X1の供述の信用性を補強するものといえる。

なお、原判示のとおり、本件各強盗殺人の凶器として使用された38口径のけん銃は、結局発見されていないところ、被告人が所持していたけん銃は同一の口径のものであって、出頭前、捜索逃れのために衣装ケースの中に所持していたけん銃を入れている蓋然性が高いこと(なお、仮にそうでないとすれば、被告人が所持するけん銃の所在が不明になる。)に照らすと、被告人の所持するけん銃が本件各犯行に使用された蓋然性は高いというべきであるが、上記けん銃以外の38口径のけん銃が使用されたという可能性も完全に否定し去ることはできない。しかし、凶器である38口径のけん銃の種類や、誰がこれを所持していたかなどの点は、被告人の犯人性を左右するような決定的な重要性を有するものとはいえないのであって、仮に本件各犯行のいずれかに上記けん銃とは別のけん銃が使用されているとしても、被告人の犯人性が左右されることにはならないのみならず、その犯情に特に大きな差異をもたらすものとも認め難い(仮に、この点に関するX1の証言に虚偽が含まれているとしても、虚偽の供述のされやすいけん銃の保管関係に関するものであることからすれば、その全体的な信用性を左右するものではない。)。以下所論に即して検討する。

(1)  所論は、被告人がL2からけん銃を預かった旨のL2及びL3の捜査段階での供述につき、L2はZ刑事から関係者の調書を示して否認させないよう誘導する不当な取調べを受け、L3も当時証人威迫罪で逮捕されていたため警察官の誘導に乗って虚偽の供述をしているという点において、信用性を疑うべき事情があるのに、これらに信用性を認め、被告人のけん銃所持を認定している原判決は証拠の評価を誤っている、と主張する(控訴理由第2点)。

しかし、L2(甲66号証)及びL3(甲75号証)の検察官調書は、具体的かつ詳細である上、相互に符合する内容であって、両名と被告人との親しい関係に照らし被告人に不利益な事実を殊更に作り上げているような事情はうかがわれず、高度の信用性を有するものといえる。L2やL3が所論のような理由で虚偽供述をしたという疑いは認められない。また、両名が原審公判で証言を拒否したりあいまいな供述をしたりしているのは、被告人や自己に不利な供述をすることをはばかる気持ちによるものといえるから、所論のように捜査段階における供述より公判廷での証言の方がはるかに信用性が高いことを示すものとはいえない。

そうすると、L2及びL3の捜査段階における供述につき証拠評価を誤っているという所論は採用できない。

(2)  所論は、被告人が所持していたとされるけん銃、弾、ケースに関するL2、N、L4、X1ら関係者の供述の不一致はあまりにも大きく、その証拠価値はないに等しいのに、被告人がL2から預かったけん銃をNに預けていた旨認定している原判決は証拠の評価を誤っている、と主張する(控訴理由第3点)。

しかし、被告人が所持していた上記けん銃の特徴に関するL2、Nらの証言は、回転弾倉式、38口径、コルト社製、黒色、馬の絵のマークという点でほぼ合致しているから、十分に信用することができる。

さらに、所論は、<1>上記けん銃を7年間所持していたL2は「ダイヤモンドバック」と特定する(当審弁14号証)のに対し、けん銃に興味のあるNは「コブラ」と特定し、けん銃の種類が一致していない、<2>上記けん銃のケースは、風呂敷包みのようなものというL4の証言は布製巾着袋というNの証言と大きく食い違い、ビニール製巾着袋というMの証言はL2、Nの証言とも異なる、<3>弾の色も、NとX1の証言は明白に食い違っている、と指摘する。しかし、<1>「ダイヤモンドバック」も「コブラ」もコルト社製、38口径、回転弾倉式のけん銃であることに変わりがなく、両者の形状もむしろ類似しているものといえる。この点についてはL5の供述を含め、おおむね供述が一致している。<2>入れ物については、A1事件前の段階では、各供述の内容は赤色系統で袋状のものという形状等の点で大筋において一致しているといえる(この点については、原判決補足説明第1の2(3)のとおりである。)。なお、後になると、けん銃のケースは被告人が当初預かった時点における物と異なる物になっているが、ケースを途中で取り替えることも十分にあり得ることというべきであるから、直ちに同一性に疑問を生じさせる理由とはならない。<3>弾についても、全部又は一部が金色であったという限りでは、証言が一致している。したがって、いずれも所論のように重大な違いがあるとはいえない。なお、A2事件で使用されたけん銃につき、A2は、回転式のものであるが銃身の部分が長いものであると供述しているが、A2はけん銃に詳しい者とはいえないから印象にとどまるというべきであって、犯行に使用された物が被告人の所持していた物と同一の型のものであるとしても矛盾するものとまではいえない。

(3)  所論は、被告人が出頭前Wに託した衣装ケース内にけん銃やアルマーニ製ジャンパーを隠し入れたという事実につき、これはX1及びL5の作り話であって、被告人の荷造り作業の状況には全く触れずに、Vの証言のみに依拠してけん銃を含む重要証拠の隠匿まで推認する原判決の認定は行き過ぎであり、しかも、けん銃の処分に関し変遷を重ねているL5の供述は明らかに信用性がない上、X1の証言とL5の証言とは大きく食い違うのに、両名の証言をほとんど無条件に信用できると判断している原判決は証拠の評価を著しく誤っている、と主張する(控訴理由第4点)。

しかし、関係証拠によれば、L1の逮捕後、被告人にも警察への出頭要請があることが当然に予期されるという緊迫した状況の下において、被告人が慌ただしく衣装ケース内に重要な証拠として押収されるおそれのある物品等を隠匿していることが明らかであって、けん銃だけを他に預ける余裕に乏しいといえることからすると、けん銃も一緒に入れた蓋然性は高いと認められる(なお、L3は、被告人から出頭前の電話で「L2から預かったものはちゃんとしてある。」と聞いていることが認められる。)。所論は、被告人の荷造り作業の際に事情を知らない女性事務員のWが傍らにいたのであれば、けん銃がケース等に入っていたとはいえ、同人が当然これに気付くはずである、というが、ケースに入っている以上けん銃であることにはむしろ気付かないというべきであるから、所論のようにはいえない。なお、アルマーニのジャンパーを被告人が当時使用していたことは、Yの供述により裏付けられているのみならず、X1は、A2事件及びA3事件の犯行時に被告人がこれを着用していたと供述するが、A2及びX2の供述によっても被告人の着衣につき類似性がうかがわれる。

L5が、預かった衣装ケースの中にあったというけん銃の処分につき供述を変遷させていることは、所論指摘のとおりであって、L5がけん銃を廃棄したり第三者に譲渡又は預託したか否かは、結局不明というほかない。さらに、X1及びL5の証言は、所論指摘のような不一致があるとはいえ、大筋において合致している以上、十分に信用できるというべきである。したがって、X1及びL5のけん銃保管に関する証言の基本的部分に信用性を認めている原判決の判断に誤りはない。

そうすると、けん銃に関しても、原判決につき判決に影響を及ぼすべき事実誤認があるとはいえない。

7 その余の所論について

(1)  所論は、死刑相当の重大犯罪であるにもかかわらず、その成否の判断に不可欠な事実である犯行動機の説明がないのに等しい原判決は死刑判決として具備されるべき十分な理由を付していない、と主張する(控訴理由第21点)。

しかし、関係証拠によれば、被告人は、当時手掛けていた墓地事業がうまく進展しないことから、経済的に良好な状態でなかった上、協力者がいたとはいえ、平成6年8月開店のw9や同年12月開店のw10のために事業資金を必要とする時期でもあったことが認められる。しかも、被告人が取得した現金を借金の返済等に充てている事実も認められる(翌日被告人の姉の借金返済のための振込送金が行われている。)。そうすると、原判決は、被告人の自白等がないこともあって、「量刑の理由」においては、詳細な認定を避け「私利私欲のため」と説示しているにすぎないものと解されるのみならず、被告人に本件各犯行の動機は十分に認められるから、原判決には理由不備の違法がないのはもとより事実誤認の違法もないというべきである。

(2)  所論は、凶悪なA1事件及びA3事件の犯人像、すなわち人の頭部を至近距離から何のためらいもなく銃撃するという冷酷、残忍、非情な犯人と、被告人の人間性、すなわち明朗、温厚な性格、人のためにとことん尽くす優しい人柄との間には乗り越え難いものがあるのに、この点につき原判決は判断を示しておらず、ひいては犯人性の認定を誤っている、と主張する(控訴理由第22点)。

しかし、温厚で優しい性格面があるからといって、直ちに冷酷非情な犯行を犯すことがないといえないことは経験的事実であるから、そのような性格の一面を理由として犯人像と異なるとする立論に飛躍があることは多言を要しないのであって、所論は前提を欠くというほかはない。

8 結論

以上のとおりであって、その他所論指摘の点につき原審記録及び証拠物をつぶさに検討しても、上記各事件の認定事実につき合理的な疑いをいれる余地はないとした原判決に誤りはなく、当審における事実取調べの結果を加えても、この結論は左右されない。結局、事実誤認の論旨は理由がない。

第3量刑に関する職権判断

事案にかんがみ、被告人を死刑に処した原判決の量刑の当否につき、職権をもって判断を加える。

原判決が、A1事件及びA3事件における強盗殺人の罪質の悪質重大性、確定的殺意に基づきけん銃で頭部を射撃したという殺害の手段・方法は冷酷かつ残虐であって、犯行の態様は巧妙かつ計画的であること、被害者2名の生命を奪った犯行の結果は甚だ重大であって、本件のごとき被害を被るいわれのない両名の無念さは勿論のこと、各遺族の処罰感情も峻烈であること、死体を地中に埋めて遺棄し、罪証隠滅を図った犯行後の行状も極めて悪いこと、短期間に連続して敢行された本件の社会的影響も大きいこと等の事情を認定しているのは、証拠に照らし正当と認められる。

ところで、本件は、借金の返済等を迫られているX1が被告人にけん銃を用いた強盗殺人による大金取得をもちかけ、共同して犯したものである。襲撃の相手の選択、襲撃計画、被害者のおびき出しや、実行の最終判断(A2事件では、当初の計画がX1の判断で変更されているといえることにも、この点が現れていると考えられる。)などは、X1(X2を含めX1の側)が主体的に担当していることからすると、犯行の実行計画等については、むしろX1が主導的な立場で行動していたものということができる。また、X1は、各犯行に当たっては、利得の分配につき、A1事件において銀行から払い戻した1000万円の分配状況からも明らかなように平等な分配にあずかることを予定しており、これを意図していたものと認められ、また、役割分担を決めるに当たり、X1には、奪った通帳による預金の払戻し等発覚の危険性につながりかねない行為は自らは担当しないという用心深さもうかがわれる。しかし、被告人は、けん銃を使用した殺害行為の実行を担当していること、死体の処理等についても主導的であること、犯行による利益の確保につき被告人が積極的に行動して有利な地位を占め、X1に比べて多額の利得を得ており、A1事件、A3事件では、殺害の犯行後は、X1の意向や死体処理の不安にも構わず、主導的に行動していること(特に、A3事件では、X2がA3宅で財物を物色するとの当初の計画を現場で変更して、自らこれを行うことにし、貸金庫内の金品取得のための行為についても死体遺棄等の予定を遅らせ優先させている。)が認められる。したがって、本件各犯行を全体として見れば、被告人とX1とはほぼ対等の立場で行動していたことが認められるが、結果として実質的には被告人の方がより重要な役割を果たしているというべきである。

このように、本件においては、けん銃を用いた強盗殺人事件を2件も犯し、2人の貴重な生命を奪い、その犯情も上記のとおり悪質かつ重大であり、これらの犯行において被告人の果たした役割等もX1のそれと比較して重大であること、被告人は暴力団関係者らとの交際もあるなど日常の生活態度にも問題があること、被告人は終始不合理な弁解を続けていて責任逃れに終始するその供述内容に照らし反省の情に乏しいといえること(これに対し、X1は、死体の埋められている場所を明らかにし詳細な自白をして事案の真相解明に協力し、反省の情を明らかにしている点において、被告人と情状を異にしているといえる。)などの点にかんがみると、被告人の刑事責任は極めて重大である。原判決の認定する被告人の経歴、前科関係等被告人に有利な事情を十分に斟酌しても、その罪責は誠に重大であって、罪刑の均衡及び一般予防の見地からも極刑をもって臨むほかないというべきである。したがって、被告人を死刑に処した原判決の量刑は正当として是認することができる。

第4結論

よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、同法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小出[金享]一 裁判官 久保豊 裁判官 手崎政人)

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