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名古屋高等裁判所 平成15年(う)363号 判決 2004年1月20日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は,検察官南部義廣作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,弁護人山田幸彦作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。論旨は,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑が軽過ぎて不当である,というものである。

そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討する。

本件は,被告人が,(1)当時22歳の被害者(以下,「傷害被害者」ということがある。)に傷害を加えようと企て,殺人の故意をもったA及び傷害の故意をもった共犯者5名と共謀の上,Aにおいて,三徳包丁で被害者の腹部を突き刺し,共犯者Bにおいて,頭部,顔面を殴るなどして,全治約1か月間を要する傷害を負わせた(原判示第1),(2)当時28歳の被害者(以下,「死亡被害者」ということがある。)から金品を強取しようと企て,強盗殺人の故意をもったA及び強盗の故意をもった共犯者5名と共謀の上,Aにおいて,三徳包丁で被害者の背部を突き刺すなどしてその反抗を抑圧した上,その所持金品を強取し,さらに,同人の自宅において手提げバッグなども強取した後,犯行の発覚を防ぐなどのために,被告人と他の共犯者全員が被害者の殺害を謀り,雑木林付近に掘った穴に被害者を引き入れ,ナイフで背部を刺したり,ゴルフクラブで頭部を殴打するなどし,その上から土砂をかぶせるなどして,生き埋めにして窒息死させて殺害した(原判示第2),(3)法定最高速度が60キロメートル毎時の道路を,43キロメートル越える103キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転した(原判示第3),という事案である。

原判決は,強盗殺人及び傷害について,被告人がそのきっかけを作っていること,被告人の殺害動機は,安易かつ身勝手であること,死亡被害者に対しては,殴る蹴るだけでなく,包丁やナイフで突き刺したり,スタンガンを押し当てて放電するなどした上,掘った穴に入れ,さらにナイフで刺し,ゴルフクラブで殴打し,遂には,生き埋めにして窒息死させるなど,犯行態様は執よう,冷酷,残忍であること,強盗についても当初からこれをもくろむなど計画的で,かつ,所持品を奪うだけでなく,自宅にある物まで奪うなど執ようであること,傷害被害者に対する犯行も,包丁で腹部を突き刺すなど,死亡する危険もあったこと,被告人は,金品強取については積極的であり,被告人ら7名の中では,B及びAに次いで主導的な立場にあったこと,死亡被害者の受けた肉体的精神的苦痛は極めて大きく,遺族の被害感情,処罰感情はしゅん烈であり,極刑を望んでいることなどの諸事情を考慮すると,被告人の刑事責任はまことに重大であるとしつつも,被告人には酌むべき事情も多く認められるとして,酌量減軽をした上で,被告人を懲役15年に処した。

これに対して所論は,本件犯行中最も重い罪である強盗殺人の法定刑の最下限は無期懲役刑であり,これを下回る刑で処断すべき理由は皆無であるのに,被告人を懲役15年に処した原判決の量刑は軽過ぎて不当である,という。

しかしながら,原判決の量刑は,結論において正当というべきである。これを所論に即しつつ補足的に説明すると,以下のとおりである。

第1犯行の発端について

本件各犯行中,道路交通法違反を除いた強盗殺人及び傷害(以下,これらを一括して「本件各犯行」ということがある。)については,死亡被害者らが,その仲間とともに,被告人にいわゆる「追い込み」をかけようとしたことが発端となっていることは明らかであるが,所論は,死亡被害者らが被告人に「追い込み」をかけるに至ったそもそものきっかけは,被告人が,返済期限が過ぎても借金を返さなかったり,個人間での売買の代金を支払わないばかりか,おれは殺人未遂をやって今ふけている,何をやっても怖くないなどと,被告人自身が周りから乱暴者と見られる状況を作り出していたことにあり,これに対して死亡被害者らは,やむを得ず「追い込み」をかけたものであるから,死亡被害者側の事情を重くみるのは相当ではない,という。

関係証拠によれば,被告人は,死亡被害者から借りた金を返済期限を過ぎても返さなかったり,傷害被害者からカーオーディオを買ったもののその代金を支払わず,また,傷害被害者の知人の車のガラスを割ったり,その知人を殴ったりするなどしていたことから,死亡被害者らが被告人を捕まえようとしていたこと,しかし,死亡被害者らは,被告人に逃げられたことなどから,日頃被告人と行動をともにしていた被告人の後輩を見つけ出して,入れ墨を見せながら,被告人と連絡をとれ,被告人を絶対にやってやる,マグロ漁船に乗せる,殺すなどと脅したが,後輩からこの話を聞いた被告人は,このままでは本当に殺されるかもしれないと思い,東京へ逃亡することを考えたというのである。こうした死亡被害者らのとった言動等にかんがみると,死亡被害者らの被告人に対する「追い込み」は,相当に過激なものであったといわざるを得ない。したがって,このような死亡被害者側の事情を,被告人のために酌むべき事情のひとつとして評価すること自体は決して不当ではない。そして,原判決は,他方では,この点に関連して,死亡被害者らの「『追い込み』の原因は被告人にあるのであって,被告人が本件の発端となったことに変わりはない。」と指摘しており,この指摘にかんがみると,原判決も,このような死亡被害者側の事情を特に重視して酌量減軽したとは考えられない。

第2被告人の地位及び果たした役割について

1  まず,犯行に至った経緯をみると,被告人が,A及びBに追従して本件各犯行に及んだことは否定できない。

すなわち,関係証拠によれば,上記のとおり,死亡被害者らから「追い込み」をかけられたことを知った被告人は,このままでは殺されるかもしれないと思い,父親が働いている東京へ逃げることにし,東京に行くのであれば,Bから借りていた車も返さなくてはいけないと考え,Bに電話したこと,その際,Bは被告人からそれまでの経過を聞き被告人を助けなければならないと考え,Aとともに詳しい話を聞くため被告人と会ったこと,そこで,被告人は,「追い込み」をかけられるに至った経過などを話し,東京へ逃げようと思っているなどと告げたこと,これに対して,BやAは,逃げる必要はない,やられる前にやってしまおう,などと提案し,その提案を受けて,被告人も,いずれ名古屋に戻ったとき死亡被害者らから逃げ回るより,この際,「追い込み」を断念させようと考えるに至り,Bらの提案に賛同したこと等の各事実が認められる。

これらの事実に照らすと,被告人は,当初から,死亡被害者らへの攻撃をもくろんでいたわけではなく,当初は,死亡被害者の「追い込み」から身を守るために東京へ逃げようとしていたのであるが,Bらの提案に賛同する形で,死亡被害者らに先制攻撃を加える話へと発展していったものと認められる。そして,その後の状況をみても,当初から殺意をもっていたAが,終始積極的に振る舞い,Bも,他の共犯者らを指示するなど,被告人に比してより積極的に犯行を主導したというべきである。

たしかに,強盗の企ては,死亡被害者が日頃から大金を持ち歩いている旨被告人がAらに伝えたことがきっかけとなっているし,死亡被害者の自宅にまで行って家の中にある金品を奪うことを提案したのも被告人であるなど,金品強取のきっかけを被告人自身が作っていることは所論指摘のとおりであるが,事件全体の中での主導性や積極性の観点からは,A及びBとは同列にみることはできないといわざるを得ない。

また,この点に関連して,所論は,被告人が死亡被害者殺害を決意したのは,森林公園においてであるのに,原判決が,それより後の時点である死亡被害者の自宅から殺害現場である原判示の雑木林に向かう時点で殺害を決意したとして,被告人は,それ以前から殺害を決意していたA及びBに追従した面が強いとしたのは誤っている,という。

そこで,被告人が死亡被害者の殺害を決意した時点をみるに,関係証拠によれば,Aは当初から相手方を殺害する意図を抱いていたところ,最初の犯行現場となった居酒屋の駐車場から守山区内の森林公園に移動し,そこで,Aが自分1人でも殺すと言ったことから,これを聞いたBも,A1人に殺害を行わせるわけにはいかないと考え,死亡被害者の殺害を決意したこと,その後,BとAが,殺害方法を話し合い,「殺す。」「埋める。」などといった言葉が飛び交うのを被告人を含めた他の共犯者らも聞いていたが,被告人自身は,自分だけ手を引くわけにはいかないし,このまま死亡被害者を帰せば,後でやくざに仕返しされるかもしれないなどと考えたものの,ためらい,殺害を決意するまでには至らなかったこと,しかしながら,森林公園から死亡被害者宅へ向かい,そこで死亡被害者の財物を奪った後,被告人がBに,「これからどないすんねん。」と言ったのに対し,Bが,「今から埋めに行く,殺して埋めに行く。」などと答えたこと等から,被告人は,それまでに死亡被害者のキャッシュカードで金を引き出そうとしたり,同人宅から財物を奪うなどしていたこともあって,もはや後戻りはできない,Bたちも自分のためにここまでやってくれたのだから今更やめようとは言えないなどと考え,この時点で,被告人自身も死亡被害者殺害を決意したことが認められる。他方,本件全証拠を子細に検討しても,所論がいうように,被告人が森林公園において殺害を決意したと認めるに足りる証拠はない。

そうすると,被告人は,死亡被害者宅を出てから,死亡被害者の殺害を最終的に決断したと認定し,A及びBより遅れて殺意を形成したとする原判決の説示は正当である。

2  次に,犯行態様の観点から,特にA及びBと対比しつつみると,関係証拠によれば,Aは他の共犯者を誘い入れていること,当初から被害者らを自分1人でも殺害する意図で,最初の犯行現場である居酒屋の駐車場に赴く際に三徳包丁を準備していたばかりか,現場では,死亡被害者に対しては背部を,傷害被害者に対しては腹部を,それぞれ殺意をもってその三徳包丁で突き刺していること,死亡被害者の自宅に行き,バッグなどを強取したこと,死亡被害者を埋めるための穴をBとともに率先して掘った上,しゃがみ込んだりするなどして抵抗する死亡被害者をBとともに引きずる等して穴に投げ入れていること,その後,「ここが心臓かな。」と言いながらナイフでその背中を突き刺し,さらにスコップで頭を叩くなどしたばかりか,被告人,Bに続いてゴルフクラブで死亡被害者の頭部を何度も殴打し,とどめを刺そうとしたこと,共犯者らと一緒に死亡被害者を生き埋めにし,さらには,土から出ていた死亡被害者の右足を力任せに折るなどしたことが認められる。

また,Bは,居酒屋の駐車場において,被害者らにいきなり催涙スプレーを噴射して先制攻撃を仕掛け,その後,傷害被害者の顔面を鉄筋棒で殴打していること,Aが死亡被害者を殺害するつもりでいることに気付くや,自らも即座に殺害の決意を固めたこと,死亡被害者の自宅まで行き,バッグなどを強取していること,死亡被害者を穴に埋めることを提案し,Aとともに率先して穴を掘り,一緒に死亡被害者を穴に投げ入れていること,死亡被害者の頭部をゴルフクラブで殴打していること,その後,共犯者らと一緒に死亡被害者の上に土をかけて生き埋めにしたことが認められる。

これに対して,被告人は,森林公園で,車内にいた死亡被害者を鉄筋棒が曲がるほど強打したこと,死亡被害者から強取したキャッシュカードを使ってコンビニエンスストアで現金を引き出そうとしたが,失敗したため,死亡被害者の自宅から金品を奪うことを提案し,これを実行したこと,穴を掘るためのスコップを探し出してきたこと,穴に座った状態の死亡被害者の頭部をゴルフクラブで1回殴打していること,共犯者と一緒に死亡被害者の上に土をかけて生き埋めにしたことが認められる。

以上のとおり,本件各犯行の態様は,あらかじめ凶器を準備した上で,無防備な被害者らを集団で襲ったもので,甚だ悪質であり,特に死亡被害者殺害方法は,いかにも執ようで,残忍かつ冷酷であって,その凄惨さは正視できないほどであるが,被告人自身が行った加害行為は,その態様及び回数などにおいて,A及びBとは明らかな差異があるというべきである。

ところで,所論は,被告人が死亡被害者の頭部をゴルフクラブで殴打したのは1回であるが,それに先立って2回空振りをしたのは,死の恐怖に直面している死亡被害者を前にして,ふざけ,あるいはもてあそんだものであり,殺害について積極的であったことが明らかであるとして,被告人が殺害について積極的であったとまではいいがたいとした原判決を論難する。

たしかに,関係証拠によれば,被告人は,Bからゴルフクラブを手渡され,穴の中でしゃがんだ状態の死亡被害者と向かい合う位置に立ち,クラブを持った左手を地面と水平になるように伸ばし,クラブを垂直に立てて構えるという,プロ野球選手のイチローの真似をしたこと,その後,右手の人差し指をなめて自分の顔の前に立て,風向きを確認するかのような仕草をした後,クラブを両手で握り,死亡被害者の頭をゴルフボールに見立てて,ゴルフスイングの方法で殴打しようとしたが,2回空振りをし,3回目に死亡被害者の左側頭部にクラブのヘッドを命中させたことが認められる。このように被告人は,死亡被害者の頭部を殴打するに当たって,あろうことか,その頭部をゴルフボールに見立てて,ゴルフスイングの方法をとっているだけではなく,死亡被害者が死の恐怖に直面していることを知りながら,あえてプロ野球選手の真似をしたり,風向きを確認するかのような仕草をするなどしているのであって,かかる被告人の行為は,死亡被害者を愚ろうし,かつ,もてあそんだものという他なく,掛け替えのない人の生命を余りにも軽視した非人間的で非道な行為といわざるを得ない。被告人がこのような行為に及んだのには,共犯者らに対する見栄ないし虚勢などの影響があったことは否定できないにしても,あえてこのような非人間的で残忍な行為にまで及んでいる被告人が,2回空振りしている点をとらえて,原判決が,「死亡被害者の殺害について積極的であったとまではいいがたい。」と説示した点は首肯することができない。

しかしながら,既に述べたように,A及びBがした死亡被害者に対する殺害行為は,その態様の残虐さや回数の多さ等の点で,被告人自身の行った殺害行為と比較して格段に悪質であり,被告人の刑事責任は,AやBと同列にみることは相当でない,というべきである。したがって,原判決の上記説示は,被害者ら,特に死亡被害者に対する犯行が,その態様や回数等において,AやBほどではない,という趣旨の限度では正当ということができる。

また,傷害事件についてみると,被告人は,傷害現場にはおらず,したがって傷害被害者に対してはなんらの危害も加えていないことが明らかである。

所論は,被告人が傷害現場にいなかったのは,犯行への関与をできる限り回避しようとしたためではなく,現場への到着が遅れた結果に過ぎないから,被告人が犯行現場にいなかったことを被告人に有利な事情とみるのは失当であり,また,Aが傷害被害者に対して包丁を使って腹部を突き刺し,腹部刺傷などによる全治約1か月間を要する傷害を負わせたことは被告人にとって予想し得たことであるのに,その結果は予想より重大であったとして,これを被告人に有利な事情と評価した原判決は誤りである,ともいう。

たしかに,関係証拠によれば,他の共犯者らは,死亡被害者及び傷害被害者に対し,いわゆる「焼き入れ」をするつもりでいたもので,そのことは被告人も了解していたこと,襲撃に用いるための道具として,共犯者らが,ゴルフクラブ,鉄パイプ,鉄筋棒,スタンガンなどの凶器を準備したことを被告人も知っていたこと,当日,Aが三徳包丁を準備し,持っていたのを見ていること,Aが喧嘩早い性格であることを後輩などから聞き及んでいたことなどが認められ,こうした事実を踏まえると,Aらが傷害被害者に対して加えた暴行,殊に,Aが,その腹部を三徳包丁で1回突き刺し,相手に重傷を負わせたという態様及び結果は,被告人にとっても決して予想不可能なものではなかったというべきである。したがって,その結果が被告人の予想よりも重大であったとして,これを被告人に有利な事情と評価した原判決の判断は,正当とはいいがたく,これまた首肯できない。

しかしながら,被告人が傷害の実行行為に及ばなかった経緯やその理由の如何はともあれ,結果として,被告人は,傷害被害者に対しては全く手出しをしていないのであるから,傷害現場において,傷害被害者に対し積極的に危害を加えたAやBに比べ,この点を量刑上有利に解し,あるいは酌量減軽の一事情として考慮すること自体はなんら不当ではないというべきである。

3  さらに,本件各犯行によって被告人が得た利益について,所論は,被告人は,AやBを利用して,死亡被害者らからの「追い込み」を封じようとして,現実にこれらの利益を得ているのであるから,本件各犯行により最も利益を得たのは被告人であり,被告人の立場がAやBと同じではないとした原判決の判断は誤っている,ともいう。

しかしながら,既に検討したように,本件各犯行は,被告人が死亡被害者らから「追い込み」をかけられていることを知ったB及びAが,「追い込み」から逃げようと考えていた被告人の思惑を超えて,殊に,Aにおいては,被告人から「追い込み」の話を聞いた段階では,死亡被害者とは面識すらないのに,相手がやくざであると聞き,やくざは大嫌いであるから殺すしかないと決意するなど,極めて先鋭的な態度をとり,より過激な行動に出た結果というべきである。

なお,死亡被害者の死によって,被告人は,その「追い込み」から逃れることはできたのであるが,本件全証拠によっても,被告人が積極的にそうした意図をもってAやBを利用しようとしたものとまでは認められない。

4  以上の検討を踏まえ,全体的・総合的に被告人の地位及びその果たした役割についてみると,本件各犯行全体を通じてみると,被告人は,A及びBほどには主導的ではなかったというべきである。

第3結論

本件各犯行は,所論がいうように,仲間を募って行った集団犯行であり,あらかじめ凶器を準備するなど計画的であること,態様は,執よう,残虐かつ冷酷で,殊に死亡被害者に対するものは,その人間性を無視する非道なものであったこと,無慈悲にもその命までも奪った結果はこの上なく重大であること,死亡被害者が死に至るまでに受けた苦痛,恐怖や絶望感は想像を絶するものがあり,遺族らは被告人に対し極刑を望むなどその処罰感情はまことに激しいこと,傷害被害者の受けた肉体的苦痛はもとより,精神的打撃も大きいこと等が認められ,これらの事情を踏まえて検討すると,犯情は甚だ悪く,本件各犯行を犯した被告人や共犯者らの刑事責任はまことに重大であるといわざるを得ない。

また,本件各犯行のきっかけを被告人が作り出していることなどからも明らかなように,被告人の生活歴に問題がなかったとはいえないことや被告人に自己の刑事責任を軽減しようとする態度が見受けられることなど,原判決が酌量減軽事由として挙げているところには首肯できない点があることは,所論指摘のとおりである。しかも,当審における事実取調べの結果によると,死亡被害者の遺族らの処罰感情は依然として極めてしゅん烈である。

しかしながら,先に検討した本件各犯行の罪質,各犯行に至る経緯,犯行態様,特に共犯者相互間における被告人の地位及びその果たした役割などを考慮しつつ,被告人の刑事責任を全体的・総合的に検討すると,その刑事責任を,A及びBと同列視するのは相当ではないというべきである。また,殺害された被害者は1人であり,他の被害者は重傷を負わされたものの,幸い致命傷には至らなかったこと,さらには,被告人は一貫して本件各犯行を認めるとともに,遺族に謝罪の手紙を送っていること,被告人には前科のないことやその年齢等をも併せ考慮して総合的に判断すると,無期懲役刑を選択した上で,酌量減軽し得る事情が認められるとして,被告人を酌量減軽をした刑期の最上限である懲役15年に処した原判決の量刑が軽過ぎて不当であるとまではいえない。

結局のところ,論旨は理由がないことに帰着する。

よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川原誠 裁判官 村田健二 裁判官 堀内満)

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