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名古屋高等裁判所 平成15年(ネ)304号 判決 2004年3月25日

名古屋市中区錦2丁目2番13号

控訴人兼附帯被控訴人

大起産業株式会社(以下「1審被告」という。)

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

愛知県●●●

被控訴人兼附帯控訴人

●●●(以下「1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

大田清則

主文

本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は1審被告の,附帯控訴費用は1審原告の,各負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  1審被告

(1)  原判決中1審被告の敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る部分の1審原告の請求を棄却する。

(3)  本件附帯控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。

2  1審原告

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  本件附帯控訴に基づいて,原判決を次のとおり変更する。

1審被告は,1審原告に対し,2730万8442円及びこれに対する平成10年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも1審被告の負担とする。

(4)  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,1審被告との間で,金,白金及びパラジウム等の商品先物取引を行った1審原告が,1審被告従業員らの,① 勧誘段階における違法行為(file_2.jpg適合性原則違反,file_3.jpg説明義務違反,file_4.jpg断定的判断の提供),② 取引段階における違法行為(file_5.jpg新規委託者保護義務違反,file_6.jpg無意味な両建,file_7.jpg一任売買,file_8.jpg無意味な反復売買,file_9.jpg顧客総体に対する向かい玉),③ 取引終了階段における違法行為(仕切拒否)により,売買損益及び委託手数料等合計2482万5857円の損失を被ったとして,1審被告に対し,民法709条または同法715条に基づき,上記損害賠償金に弁護士費用248万2585円を加算した合計2730万8442円及び遅延損害金(上記不法行為後である平成10年10月2日から民法所定の年5分)の支払を求めたところ,1審被告がこれを争った事案である。

原審は,1審被告従業員らには,新規委託者保護義務違反や無意味な両建及び反復売買を示唆して行わせたもので,信義則上,義務違反があり,本件取引の執拗な勧誘から終了に至る全体について,1審被告従業員らの不法行為が認められるとして,民法715条に基づき1審被告の使用者責任を認め,1審原告の過失を4割として,これを控除し,弁護士費用を加えて,損害金1609万5514円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容したところ,1審被告がこれを不服として控訴し,1審原告も附帯控訴した。

2  争いのない事実,争点及びこれに対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1,2のとおりであるから,これを引用する。但し,原判決3頁7行目の「旧受託業務に関する協定2条」を「旧受託業務に関する協定2項」に,22行目の「旧商品取引所法94条1項1号」を「平成10年法律第42号による改正前の商品取引所法(以下『旧商品取引所法』という。)94条1号」に,24行目の「法94条1項1号」を「法94条1号」に,5頁6行目から7行目にかけての「法94条1項3号,同法施行規則33条1項3号」を「法94条3号,平成11年農林水産省・通商産業省令第3号による改正前の商品取引所法施行規則(以下『同法施行規則』という。)33条3号」に,6頁13行目の「売玉と買玉」を「売建玉(以下『売玉』ともいう。)と買建玉(以下『買玉』ともいう。)」に,24行目から26行目までの各「法94条1項4号,同法施行規則33条1項1号」を「法94条4号,同法施行規則33条1号」にそれぞれ改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,1審被告の1審原告に対する取引の勧誘から終了に至る全体について,1審被告従業員らには,信義則上,断定的判断の提供,新規委託者保護義務,無意味な売買の繰り返しに違反する不法行為を認めることができ,1審被告は,民法715条による使用者責任を負うべきであるところ,1審原告にも過失が認められ,その過失割合は4割とするのが相当であり,したがって,1審被告の1審原告に対する損害賠償額は,原審の認容した金額を相当と判断する。その理由は,以下のとおりに改めるほか,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決9頁11行目の「36,37の各1・2,38」を「甲36及び37の各1,2,甲38」に,12行目から13行目にかけての「5の1・2,8の1から49,9の1から5,10ないし14」を「乙5の1・2,乙8の1ないし49,乙9の1ないし5,乙10ないし14」に,13行目から14行目にかけての「原告本人」を「1審原告本人(2回)」に,13頁4行目の「約1200万円」を「1176万円」に,16頁6行目の「28の1ないし94,29の」を「甲28の1ないし94,甲29の」に,15行目の「旧受託業務に関する協定2条」を「旧受託業務に関する協定2項」に,17頁17行目の「法94条1項1号」を「法94条1号」に,22頁26行目の「法94条1項4号,同法施行規則33条1項1号」を「法94条4号,同法施行規則33条1号」にそれぞれ改める。

(2)  原判決17頁25行目の「認められるのであるが,」から18頁11行目までを次のとおりに改める。

「認められる。そうすると,1審被告従業員山●●●は,金取引により利益を生じることが確実であるかのごとく誤解させる表現を用いて,その委託を勧誘したものというべきである。1審原告は,取引開始当初に,商品先物取引の仕組みの説明を一応受けており,慎重に判断すれば,上記従業員の言葉が単なる相場の予測(意見)を述べているにすぎないものであると理解し得たとも解される。しかしながら,上記従業員の言動(情報提供)は,商品市況に関する様々な情報を収集し,これを顧客に提供して委託を勧誘する専門家たる商品取引員によってなされたものであるから,顧客をして,確実に儲かるものとの誤解を招くに十分であり,前認定のとおり,現に,1審原告は,勧誘された数量の10倍の資金を投入して取引を始めていることからも,1審原告が上記のような誤解をしたことが十分に窺えるものである。したがって,上記勧誘方法は,断定的判断の提供による勧誘というべきであり,旧商品取引法94条1号に違反するばかりか,商品先物取引上,信義則に反する違法行為であり,不法行為を構成するものというべきである。なお,1審原告においても,商品先物取引の仕組みからすれば,確実に儲かる取引がありえないことは社会経験則上明らかであって,1審被告従業員の言辞を誤解して取引を行ったことにつき過失が認められることは後記のとおりである。」

(3)  原判決22頁20行目の後に改行して,次を加える。

「 1審原告は,1審被告の顧客総体に対する向かい玉(差玉向かい)について,取組高の一致がみられれば,委託者から商品取引員に入った資金が場勘定の決済として同取引員の外に出ず,商品取引員の中でプールさせるのと等しい状態であることを意味し,そうなれば,商品取引員は,顧客である委託者に手数料損あるいは売買損を発生させ預託金の返還請求ができない状態にすることによって,委託者からの預託金を自己の手中に収めることができると主張する。

しかしながら,1審被告の自己玉を,顧客の委託玉の少ない方にその差を埋める方向で建てること(差玉向かい)により,仮に,顧客の委託玉の多い方に損失が生じた場合には,同一商品に関して,1審被告の自己玉が利益を生じる結果にはなるが,他方,仮に,顧客の委託玉の多い方に利益が生じた場合には,同一商品に関して,1審被告の自己玉が損失を生じる結果になるものであって,一般的に相場予測が困難な商品先物取引においては,形式的な仕組みとして,差玉向かいが上記の関係にあるからといって,1審被告が,差玉向かい玉を建てることで顧客の手数料損あるいは売買損を必然的に発生させて,預託金の返還請求ができない状態にしているとまでは断定できず,1審原告の上記主張は採用できない。」

(4)  原判決23頁3行目の「甘言とも言うべき」から4行目の「勧誘し,」を「確実に儲かるなどと断定的判断を提供して勧誘し,」に改める。

2  その他,1審被告の特定売買,新規委託者保護義務違反についての当審における補充主張は,いずれも採用し難く,また,1審原告の説明義務違反,一任売買,仕切拒否についての事実誤認や過失相殺の不当等の当審における補充主張も,その事実認定については,原審認定のとおりであり,いずれも採用できない。

第4結論

よって,1審原告の本件請求は,上記の限度で理由があるところ,これと結論を同じくする原判決は相当であり,本件控訴及び附帯控訴は,いずれも理由がないので,これらをいずれも棄却することとし,控訴費用は1審被告の,附帯控訴費用は1審原告の,各負担として,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 小林克美 裁判官 佐藤真弘)

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