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名古屋高等裁判所 平成15年(ネ)359号 判決 2004年11月24日

主文

1  1審原告及び1審被告らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  1審原告の控訴にかかる控訴費用は1審原告の,1審被告らの控訴にかかる控訴費用は1審被告らの各負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告の控訴について

(1)  原判決中1審原告敗訴部分を取り消す。

(2)  1審被告らは,1審原告に対し,原審認容部分の外,各自,金6971万4462円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  1審被告らの控訴について

(1)  原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  1審原告の請求を棄却する。

第2事実関係

1  本件は,交通事故による損害賠償請求の事案であるが,1審原告は,1審被告ら各自に対し,原審では金9557万8674円及びこれに対する不法行為の日である平成10年10月8日から民法所定年5分の割合による遅延損害金を請求し,うち583万6205円及びこれに対する上記遅延損害金について認容されたが,当審において,一部損害額を増額して主張する一方,自賠責保険からの支払金の充当を認め,請求を7555万0667円及びこれに対する遅延損害金に減縮した結果,原審認容額を除く請求金額は上記第1の1(2)記載のとおりとなった。

2  基礎的事実関係及び当事者の主張は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の第二及び第三記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁10行目の「当事者間に争いがなく」を「当事者間に争いがないか,または,後掲証拠によって容易に認められ」に改める。

(2)  同3頁2行目の「左大腿骨骨折等」を「左大腿骨・脛骨開放骨折,腹腔内臓器損傷,血気胸,脳挫傷の疑い(甲42)」に改める。

(3)  同3頁10行目から同23行目までを次のように改める。

「1 本件事故の態様

1審被告A運転の普通乗用自動車(1審被告車)は,時速70㎞を超える速度で本件県道北進車線を北進し,大きく西にカーブしている本件事故現場の三叉路交差点(本件交差点)を直進通過する際に,本件県道の二重になっている中央線の間の部分内(以下「中央線内」という。)に侵入し,本件県道南進車線を南進してきて本件交差点を右折,西進しようとして本件交差点中央の中央線内において,一旦停止して1審被告車の通過を待っていた亡B運転の原動機付自転車(本件バイク)に,衝突直前に気付いてあわてて急ブレーキを踏みハンドルを左転把したものの,制動が発効する間もなく,別紙図面Ⅰのとおり1審被告車の前部中央付近が本件バイクの前部に衝突したものである。

2 1審被告らの責任原因

(1) 1審被告Aは,1審被告車の運行供用者であるが,前方を注視し,本件バイクとの安全を確認しながら,適正な速度で,適切なハンドル操作を行って進行するべき義務があったのに,これを怠り,上記速度で,本件バイクを衝突直前まで見落としたまま,かつ,中央線内に侵入して本件バイクに1審被告車を衝突させた過失により本件事故を惹起したものであり,自賠法3条及び民法709条に基づき,本件事故による後記損害を賠償すべき責任がある。」

(4)  同4頁3行目を次のように改める。

「(2) 逸失利益 金6955万5767円」

(5)  同4頁11行目から同19行目までを次のように改める。

「 したがって,亡Bの死亡による逸失利益の算定に当たっては,上記経歴に鑑み,その基礎収入として,大卒男女労働者の全年齢平均賃金570万3050円(平成10年賃金センサス)を採用すべきである。

よって,亡Bの逸失利益は次のとおり6955万5767円となる。

570万3050円×(1-0.3)×17.4232

=6955万5767円

(3) 葬儀費用 金300万円

亡Bの葬儀費用,墓石代その他葬儀関係費用425万円のうち,本件事故と相当因果関係のある損害は合計300万円を下らない。」

(6)  同5頁3行目の「精神的苦痛に対する慰謝料は」を「精神的苦痛に対する慰謝料は亡B分及び1審原告固有の分を合わせて」に改める。

(7)  同5頁5行目を次に改める。

「(5) 弁護士費用 金300万円」

第3当裁判所の判断

1  証拠等によって明らかに認められる事実

前記第2(原判決「事実及び理由」第二の1)記載の事実関係のほか,甲4ないし7,甲8の1及び2,甲11,甲13,甲15,甲16,甲35ないし41,甲44,甲50,甲51,甲53,甲56の1及び2,甲57,甲77,甲78,甲80,乙1ないし3,乙4の1ないし5,乙5,乙11の1,2,証人Cの証言,1審被告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。

(1)  本件事故現場付近の道路状況は,本件県道が南北に通じ,車道中央線として本件交差点を貫いて二重の白線が引かれ,歩車道の区別のほか,車道幅員約14mで,片側2車線(各車線の幅員約3.5m)に区分され,舗装されており,本件事故現場付近において,本件県道から西に伸びる幅員約6.4mの舗装道路(歩車道の区別のない道路)と交差し,三叉路交差点(本件交差点)を形成しているなど,以下の点を除き原判決別紙「事故現場見取図」(以下「見取図」という。)記載のとおりである(乙4の1,弁論の全趣旨)。

① 見取図記載の①ないし③,<イ>ないし<ニ>の各地点は,いずれも北方に1mずれて記載されており,本来の記載すべき位置は同図よりも1m(図面上は0.4㎝)南方である。ただし,相互の距離関係は同図の「関係距離」に記載のとおりである。(乙11の1)なお,同図記載の各地点の持つ意味については後に認定するとおりである。

② 二重の中央線の幅は,必ずしも判然としないが,内径ではおおよそ見取図記載のとおり0.5mほど,白線を含めた外径ではおおよそ0.8mほどである(甲35のA-9,甲36のB-6等)。

③ 本件交差点の北側約10mの地点より北側の中央線内には,一定間隔で金属様の突起物(チャッターバー)が設置されている。他方,これより南側から本件交差点の南側約10mの範囲にはチャッターバーは設置されていない。

(2)  本件県道は,南方約280mの信号交差点(a交差点)からは登り勾配5.1%とかなり急な上り坂となっているが,本件交差点手前では同2.8%とやや緩やかになっており,また,本件交差点の20mほど南側からごく緩やかに左(西)にカーブしはじめており,仮にその中央寄り車線(片側2車線のうち左から2番目の通行帯)を中央線に沿わずに正確に直進したとすると,本件交差点の中央付近で1審被告車の一部が対向車線にはみ出す可能性がある(甲8の2の図1,乙4の1の写真1,甲35のA-16ないし18,甲37,甲57,甲71,甲80)。

1審被告車側からの見通しは,本件交差点の南方手前約78mの地点から,本件交差点の北方約7mの地点に立った人間を視認することができる(乙4の3ないし5,甲37)。

本件事故当時,本件交差点付近には街路灯はなく,夜間は,見取図表示のコンビニJ店の照明及びその北向いの煙草店の照明があるだけで,かなり暗い場所であった。

(3)  本件県道は最高速度が時速50㎞に制限されている。

本件県道は,自動車の交通量がかなり多く,本件事故前後の時間帯も同様であったが,本件事故発生時はたまたま交通量が少なく,1審被告車はa交差点で先頭車として信号待ちをしており,先行及び後続の車両はない状況で本件交差点に差し掛かった。また,本件事故当時,本件県道の路面は乾燥していた。

(乙4の1,乙5,1審A,証人C及び弁論の全趣旨)

(4)  本件バイクには,本件事故により次のような損傷が生じた。①フロントフォーク及び前部フレームが大きく後退して破損し,かつ,右に少し湾曲している。曲損しているフロントフォークのベアリング部(ハンドルシャフトとの接続部分と横軸部分との接点)は,その左右に位置し横軸に溶接されたハンドルの動きを制限する二枚の羽根状の部分の間の羽根のない部分から大きくめくれ上がるようにして曲がっているが,ハンドルシャフトとの接続部分全体は横軸部分に対しやや左に傾いている(甲38のD8及び9,甲50のH8ないし10,甲51のI1及び2,甲8の2の確認写真1)。またフロントフォークの左右内側にタイヤとの接触による払拭痕がある。②ハンドルシャフトが折損し,前面カウル及び前照灯が破損し,③ステップ前部が屈曲,破損し,④左側面カバーが破損し,さらに,⑤前輪タイヤ左側サイドウォ-ル部に,突起物で引っかいたと見られる約7㎝の切れ跡痕が生じている。他方,⑥同バイクの右側面部は,衝突後に路面に転倒した際に生じたとしても矛盾のない前輪右側ホイールの擦過痕,右ステップ部の側面の擦過痕,マフラー底部の擦過痕,右ブレーキ先端部の擦過痕及び折損が認められたほか,同部及び後面部には顕著な変形・損傷は存在しない。(乙11の2,甲51,甲38)

(5)  本件事故当時亡Bが履いていたシューズの裏側のうち,左足の甲の外側とかかとの内側に黒色の付着物があるが,他には目に付く痕跡はない(甲11,41)。

本件事故当時亡Bが着ていたパンツには左足部に多数の鉤裂きがあり,臀部に大きな穴があいているが,右足部はほとんど損傷がない。上衣には目に付く損傷はどこにもない。同ヘルメットには右上部から右側頭部にかけて擦過痕がある。(甲41)

(6)  1審被告車には,本件事故により,①ボンネット(エンジンフード)の先端部には車両の左端から約3分の1の位置を中心に幅約30センチ位の凹損及びその下部のフロントグリルに連続するような凹損,②上記ボンネットの凹損部の左半分と重なる形で左前照灯の上部にかけて数箇所の擦過痕,③ボンネット上部には車両の左端から約7分の1の位置を中心に凹損,④フロントバンパー左部に数箇所の車両による接触痕,⑤ナンバープレート部の歪み,が生じた。上記①の凹損部には,同②の重なる部分を除き明らかな車両による擦過痕等は認められない。(乙1,甲40,乙11の2)

(7)  本件事故前,1審被告Aは,1審被告車を運転して,本件交差点の南方約280mのa交差点で右折して本件県道に入り,本件県道の北進車線の中央寄り車線を北進してきた。他方,亡B運転の本件バイクは,本件交差点を右折すべく本件県道を南進してきた。1審被告Aは,衝突直前に本件バイクと衝突する危険を感じ,急制動するとともに左にハンドルを切ったが間に合わず,双方の前部が衝突した。(乙4の1,乙5,1審被告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨)

2  本件事故後の転倒・停止位置,遺留物の位置について

(1)  転倒・停止位置について

本件事故当日の午後7時20分から55分までの間に,1審被告Aの指示により司法警察員が本件事故現場の実況見分を行い,確認したところでは,本件事故直後に亡Bが倒れていた位置(以下「亡Bの転倒位置」ともいう。)は見取図の<ハ>地点,同じく本件バイクが倒れていた位置(以下「本件バイクの転倒位置」ともいう。)は<ニ>地点であり,また,同じく1審被告車が停止した位置(以下「1審被告車の停止位置」という。)は③地点であった(ただし,前記1(1)のとおり見取図には北方に1mずれて記載された。)。

これに対し,1審原告から本件事故の調査・鑑定を依頼されたDは,交通事故調査鑑定書(甲15。以下,甲8の1,2及び甲11,甲15,甲16などの同人の見解を「D意見」ということがある。)において,上記実況見分の調書(乙4の1),その他の写真,道路台帳図等を基に検討し,亡B及び本件バイクの転倒位置は原判決別紙「道路台帳図」にA,Bと表示した地点であり,本件交差点の北端(ただし,同図に基点線と表示した位置)からの距離は,それぞれ30m,54mである旨述べている。しかし,Dが本件バイクの転倒位置を割り出す根拠とした乙4の1の6枚目の写真は,7,8枚目の写真と対比して明らかなように本来の転倒位置から移動させられており,その前提が誤っている。また,亡Bの転倒位置も,それを割り出す根拠とした血痕の範囲はかなり広範囲に及んでおり,どこが当初の転倒位置であるか判然としない(甲35のAー33,34)。したがって,この点においてもD意見は採用できない。さらに,Dは,1審被告車の停止位置についても,乙4の1の3,4枚目の写真から割り出して見取図とは異なると指摘している(甲15)が,1審被告Aは,事故後に停車した後,交通の妨げにならないように路肩に移動させたと述べている(乙5)ところ,上記写真は明らかにタイヤが右側を向いていること,路面のオイル痕も左前方から進行してきて車体を路肩に平行にして停車させたことを示していること(甲35のAー35,36)から,本来の停止位置から路肩に沿わせて移動させた後の位置での写真であることが窺えるので,1審被告Aの上記供述のとおりであると認められ,D意見はこの点でも採用できない。

他方,1審被告Aは,見取図①において,同<イ>の位置に本件バイクを発見したことは,一貫して述べているが,その他の点については,見取図の地点を指示していないと述べたり,実際の位置についての供述も変遷し,ないしはあいまいであるから,同供述は上記一貫する限度では信用できるが,その他の点については直ちに採用できない。

結局,亡Bの転倒位置及び1審被告車の停止位置を証拠上明らかにすることは困難であるが,本件バイクの転倒位置については,乙4の1の上記写真等,1審被告A本人尋問の結果から警察官が直接確認していると認められるから,見取図記載<ニ>(ただし,北方に1mずれて記載された。)のとおりの位置であると認められる。

(2)  見取図記載の路面痕跡について

路面痕跡についても上記(1)と同様に警察官が直接確認していると解されるから,このとおりの位置に存在していたものと認められる。

そこで,これが,1審被告車のスリップ痕であるか,本件バイクが転倒したことによる擦過痕であるかについて判断する。

本件事故の翌日には,見取図記載の路面痕跡付近の路上にスリップ痕や顕著な擦過痕は認められなかった(甲5の⑩,甲35のAー37及び44,甲44)こと,1審被告車はABS搭載車でありスリップ痕が生じる可能性は少ないこと,同痕跡の表記が一定の幅をもった範囲で細かく切れ切れになされており,これが1審被告車のスリップ痕であるとすれば異常な形状であり,バイクが転倒したことによる擦過痕と理解するのが自然であることから,本件バイクが転倒したことによる擦過痕と認めるのが相当である(甲4,甲5,甲16,甲55,乙4の1,乙11の1及び弁論の全趣旨)。

(3)  ガラス片又はプラスチック片の存否及び位置について

本件事故の翌日早朝から本件事故現場を検分した亡Bの父Eらは,本件交差点のすぐ北側から北方の中央線内付近に白色の細かいガラス片様のものがあるのを確認したとして,Eが1審原告の原審における訴訟代理人(以下「原審代理人」という。)にそのことを文書で指摘し,また,Cも口頭でガラス片があることを原審代理人に告げたことが認められる(甲45及び67の2の2枚目,甲60,1審原告本人尋問の結果)。

しかしながら,仮に,上記検分の際に同行しEとともに破片の状況を確認したというFが指示するとおり,破片が認められた範囲が中央線内の北進車線に近接する範囲及び北進車線内の中央線に近接する範囲であり,その他の南進車線内などには認められなかった(甲60)とすると,むしろ本件バイクの前照灯が1審被告車に衝突した位置は中央線を北進車線上に超えていたと理解されやすく,現に,「事故の私的見解」と題する書面(甲67の2)の2枚目によれば,Eは本件バイクが僅かに中央線を超えて車体全体を右斜め前方に向けた状態で停車している時に衝突したとしているようにも読みとれるのであって,上記の位置にガラス片様のものがあることは必ずしも1審原告主張のように本件の衝突地点が中央線内であることを裏付けるものとはいいきれない。ちなみに,原審代理人は上記書面を受け取るなどしながら本件訴訟においてこれを提出等しなかった。

また,上記翌朝の破片の位置は,車両が通行可能な範囲にあったものは,事故後の車両の通行に伴って事故直後の位置から移動し,または,散逸した後の状態である可能性があるので(甲59のCの指示位置と,甲60のFの指示位置とは,かなり違っている。),これをもってただちに事故状況を判断する資料とはできない。

なお,上記Cの指示するガラス片の位置(甲72)については,同人は明確な意図を持って事故現場の状況を確認したわけではなく,しかも,上記のとおり破片は移動散逸する可能性があったにもかかわらず,一定期間にわたってそのまま見られた旨述べていることから,いつどの範囲に存したかの記憶が正確なものであったかどうか疑わしく,少なくとも本件事故の翌朝の状況としては採用しがたい。

3  本件衝突時における本件バイクと1審被告車の姿勢,衝突部位

(1)  判断

上記事実関係,特に上記1(4)ないし(6)の事実によれば,本件バイクの1審被告車が衝突したことによる直接の損傷は主に前部及び左側面にあり,右側面の損傷は路面との接触によるものと認められ,1審被告車の損傷は前部左側に集中していること,1審被告車の上記(6)②の擦過痕は,その位置・形状及び双方の車両の車高など(甲8の1,2,乙12の2の鑑定資料チ)から本件バイクの前部計器付近が衝突したものと認められること,同④の傷は本件バイクの前部もしくは左側面が衝突したと認められること,本件バイクのフロントフォーク及び前部フレームの変形はその形状・程度から最初の衝突の際に生じたものと認められ,これが右に少し湾曲するなどしていること,その前輪タイヤの左側の擦過痕もその際に印象されたものと認められること,同①及び③の凹損部は,その位置・状況等から,いずれも亡Bの身体が衝突することにより生じたものであり(ただし,①のうち同②と重なる範囲では本件バイクの車体がまず衝突した。),亡Bの身体は,まず同①の部分に衝突し,その後③の部分に衝突したと認められること,亡Bは左下半身を中心に受傷し,着衣の損傷もこれに相応するものであること,1審被告車の底部のうち同①の凹損部の左側から左前照灯付近の下に損傷があると認められること(甲8の2の確認写真9,10)に,前記1(7)の本件事故直前の両車の動きなども考え併せると,1審被告車は,1審被告車から見て,本件バイクがほぼ対向するもののやや左向き斜めの姿勢で,その前部が1審被告車の前部の上記(6)①の凹損部の左半分から左前照灯付近にまず衝突し,そのとき亡Bの左下半身が同①の凹損部に衝突し,その後,亡Bの体は1審被告車のボンネット上に跳ね上げられて,亡Bから見て右斜め前方の③の部分に衝突して跳ね飛ばされ,本件バイクは,最初の衝突に続いて後部が時計回りに回転して,1審被告車の前部左側から中央部に本件バイクの左側面部が衝突したものであると認めるのが相当である(甲8の1の2ないし4頁,甲11の9頁,乙2,乙3,乙11の2の6,7頁,乙12の1の22頁)。そして,このように本件バイクが右向き斜めの態勢で衝突したため,引き続いて左側面が衝突したと見るのが自然である。なお,1審原告は,本件バイクと1審被告車の衝突部位や衝突時における方向に関し,いずれも上記認定に沿う内容を含むD意見,鑑識結果報告書(乙11の2),Gの鑑定書(乙2,乙3。以下これらを含む同人の見解を「G意見」ということがある。),Hの鑑定書(乙12の1。以下これらを含む同人の見解を「H意見」ということがある。)を非難しているが,D意見と鑑識結果報告書は本件バイク及びシューズを実際に見分しており,D意見は現場も子細に検討しているし,G・H意見は主な損傷状況と力学的な観点から判断されているのであって,上記内容に関する検討に別段不十分な点があるものとはいえない。

これに対し,1審原告は,双方の車両の損傷状況などを根拠に両車が角度なく正対する形で衝突したと主張するが,以下のとおり採用できない。

(2)  1審原告の主張の内容

(ア) 1審原告の衝突態様についての最終的な主張は,別紙図面ⅠないしⅤのようなものである。

(イ) まず,衝突時の姿勢及びその後の経過について,本件バイクは車体をやや右に傾け,ごくわずかにハンドルを右に切っていた可能性はあるものの,車体本体は1審被告車と正対する形で第1次的にほとんど真正面から大きな衝撃を受け,その後第2次的に左斜め前方から衝撃を受けてそのような入力角度の損傷も生じたものと断定できるとし,さらに具体的には,最初の衝突により一瞬本件バイクが1審被告車のバンパーにやや潜り込む形で引きずられ,このとき本件バイクは1審被告車と正対しつつ車体をやや右に傾けていたため,右底部が路面と接触して損傷が生じ,さらに同衝突時に本件バイクがごくわずかにハンドルを右に切っていた可能性があることと,1審被告車のハンドルが左に切られたことにより進路が左に変わり始めていたであろうことが相互に作用しあって,本件バイク前部がつぶされた状態のままかつ右に車体を傾けて立ったままで本件バイクの車体左側が1審被告車のフロントバンパーに近づき,その過程で本件バイクの前輪及びフロントフォークが第2次衝撃を受けたというものである。(準備書面2の29,30頁)

(ウ) 次に,第1次衝突の際の1審被告車の衝突部位について,1審被告車の前部中央やや左の損傷とこれが本件バイクのT字ハンドル縦軸部やフロントフォークの金属部品によることを根拠にこの部分(1審被告車の前部中央やや左)であると主張する。

(3)  1審原告の主張の検討

(ア) 上記(2)(イ)の主張について

このうち,本件バイクが1審被告車と正対しつつ車体をやや右に傾けていたとする点は,まず,右底部の損傷は前記1(4)⑥のとおり本件バイクが右に転倒した際に損傷したと解して矛盾はないから,本件バイクが衝突時に正対している車体をやや右に傾けていたという根拠にはならない。また,1審原告は亡Bが反対車線からの対向車の動向を見るために身を乗り出した結果,車体が右に傾いたものであると説明するが(甲51の8頁),そもそも本件バイクから身を乗り出さなければ対向車線上の見通しが不良であるというような道路状況であるとは認めがたい(甲80の①の写真。なお,本件事故当時は同写真中央の中央分離帯は存在しなかった。)。さらに,第1次衝突から第2次衝突までの間に1審被告車のハンドルが左に切られたことにより進路が左に変わり始めていたであろうとする部分は的確な裏付けがあるわけではない。

次に,大きな損傷は第1次衝突により生じるものと考えられるところ,1審原告は,本件バイクが車体をやや右に傾けて停止していたことを前提とするから,左足はともかく右足はしっかりと地面に付けていたはずであり,しかも,ハンドルをやや右に切っていたことを前提としながら前記1(6)②の損傷は本件バイクの右ハンドルのグリップ及びブレーキレバーによって生じた上,別紙図面Ⅱのとおり角度なく正対したままフロントフォークを含む前部が押しつぶされ,T字ハンドルが切断されたとするのであるから,亡Bの右下半身にも左下半身と同等以上の損傷があってしかるべきであるが,衣類にすらさしたる損傷がないのはいかにも不自然である。

また,1審原告は1審被告Aが正面衝突であったと述べていることを指摘するが,上記(1)のとおりの衝突状況であったとしても双方の前部が衝突する正面衝突であることにかわりがなく,また,いわゆる左ハンドル車である1審被告車の運転席の正面に衝突した点からいって運転者の印象としてはまさに正面衝突と感じるであろうし,また,1審被告Aは,事故直後から図面を用いた説明では本件バイクがその左前方から斜めに進行してきて衝突してきたと説明していることが窺える(乙4の1,乙9の確認書)。

そして,1審原告は,衝突時に正対していたことの根拠として,フロントフォークのベアリング部が真後ろを中心として曲がっていると指摘するが,正確に羽根と羽根の中央を中心として曲がっているとまでは断定できないし,前記(4)①のとおり,ハンドルシャフトとの接続部分全体は横軸部分に対しやや左に傾いており,左側斜め前方から衝撃を受けたことを窺わせる。その他,1審原告は,ハンドル下部のボルト・ナット部分やその他の部分の状況等から事故態様について種々指摘するが,このような微妙な損傷の形状から事故態様を詳細に認定することは困難である。

さらに,その後の衝突経過が別紙図面ⅡないしⅤのとおりであるとも主張するが,本件バイクが1審被告車中央やや左寄りの位置にこれと正対した姿勢でした第1次衝突の際にフロントフォークを含む前部が押しつぶされ,T字ハンドルが切断された(別紙図面Ⅱ)とすると,1審被告車の左前照灯の上部のボンネット及びその下のバンパー等に損傷を与える機会が十分でない。しかも,第1次衝突から第2次衝突への回転時には本件バイクのハンドルと前輪車軸との間のフロントフォークが支点となり,この際にこのフロントフォーク付近の左側がより大きく損傷されたことを前提にしながら,この部分の1審被告車との接触位置はほぼ中央(別紙図面Ⅱ)から左前照灯付近まで(別紙図面Ⅴ)大きく移動したとする理由が明らかではない。その上,1審原告の主張によれば,本件バイクは衝突時に停止していたもので,かつこの間に1審被告車は直進から左へ方向転換していたというのであるから,本件バイクが1審被告車からみて右にずれることはあっても,逆に左にずれていくのは余りに不自然である。また,本件バイクの左後部の損傷がいつどのようにして生じたかも明確ではない。

(イ) 上記(2)(ウ)の主張について

第1次衝突の際の1審被告車の衝突部位について,1審被告車の前部中央やや左の損傷は上部と下部がずれているところ,1審原告は上記(ア)のとおり衝突時に本件バイクの車体が1審被告車と正対しつつ右に傾いていたからであると説明するが,前記(ア)のとおり本件バイクの車体が1審被告車の前部中央やや左の位置に1審被告車と正対しつつ右に傾いた状態で衝突したとは解しがたい。その他,上記損傷が1審原告主張(上記(2)(ウ))のような本件バイクの金属部によるものと認めるに足りる証拠はない。なお,1審原告は,当審において当初,上部の傷は本件バイクの左ハンドルの握り及びブレーキレバーによるものと主張したものを(控訴理由書19頁)上記のように主張を訂正したものである。

(ウ) なお,付言するに,1審原告は,衝突態様に関する主張を,当審において原審から大きく変更しているが,以下のとおり当審においてすら,細かな接触か所の変更は別としても,次のとおり相当程度変更している。すなわち,1審原告は,当初,控訴理由書においては,本件バイクは約10度ほどの角度で左斜め前方から1審被告車に衝突されたこと,本件バイクは衝突後すぐに,右を下にして倒され,1審被告車の前部バンパーと路面の間に挟まれて引きずられたこと,その際,本件バイクの前輪が1審被告車の右前輪によって押されたこと,見取図の路面痕跡はこのときに生じたことを主張した。しかし,1審原告は,その後,これを変更して,前記最終的な主張とほぼ同様に(ただし,後記衝突位置に関する部分を除く。),まず正面から衝突し,次いで本件バイクのハンドルが右に切られていたため(このときは1審被告車のハンドルが本件バイク側から見て右に切れ始めていた可能性もありこれが原因かもしれない。)時計回りに旋回して跳ね飛ばされ,このときにフロントフォークとパイプフレームに対し左方向からの力が掛かったと主張し,1審被告車のどの部分が衝突したかについても別紙図面ⅠないしⅢの各2のとおりに主張している(準備書面1の6,7,12,16頁)。そして,これと最終的主張を比較しても,別紙図面ⅠないしⅢと別紙図面ⅠないしⅢの各2を対比して明らかなように衝突位置は大きく異なっている。もちろん,1審原告は本件事故を体験したわけではないから,審理の過程において主張が変わることにやむを得ない点もあると考えられるが,控訴審においてもこのように大きく変遷することはその基本的な主張について根拠の不足が窺われる。

4  本件衝突時の本件バイクの挙動

(1)  判断

上記3のとおり亡Bの左下半身が前記1(6)①の凹損部に衝突し,その後,亡Bの体は1審被告車のボンネット上に跳ね上げられて,本件バイク側からみて右斜め前方の③の部分に衝突したところ,このように最初の衝突位置に対し第2次衝突の位置が右にずれるということは,本件バイクに1審被告車の進行方向と交差して右に移動する力が加わったためであり,すなわち,本件バイクは右方向に移動中であったと認められる(乙2の27頁,乙12の1の22頁,乙13の5頁)。また,同②の傷が横に長くのびていることや,前記3のとおり本件バイクが右斜め前を向いた姿勢であったことも上記認定に沿うものである。

これに対し,1審原告は,種々反論するが以下のとおり採用できない。

まず,乙2の5頁のダミーの写真を引用して,衝突されたものがその進行方向と逆に移動することもあると指摘する(準備書面2の48頁キ)が,その実験条件及び結果は特定できず,かえって,同6頁に衝突した後の乗員は衝突前の進行方向にまっすぐ移動することが分かると記載していることと整合しないことになるから,上記ダミーの写真が1審原告指摘のような内容のものとは判断できない。

次に,亡Bの体が1審被告車のボンネットに跳ね上げられ本件バイク側から見て右斜め前方に移動したのは,別紙図面Ⅱの状態で1審被告車が北北西(本件バイク側から見て右)に進路を変えたことにより,本件バイクの後部が左に振られ本件バイク及び亡Bに時計回り方向の力が加えられたからであるとも指摘する(準備書面2の47頁カ)が,まず,亡Bの体は最も衝撃の大きい第1次衝突によりボンネット上に跳ね上げられたと解されるし,また,そうでないとしても,1審原告の主張にかかる別紙図面ⅠないしⅤの本件バイクの座席の位置を見ると本件バイク側から見て左斜め前方かまたはせいぜいまっすぐ前方に移動する力が働いたとしても,それをこえて右方向にまで移動する力が加わるとは考えにくい。また,1審原告が主張するようにこの間に1審被告車が北北西(本件バイク側から見て右)に進路を変更しつつあったとすれば,本件バイクと1審被告車との位置関係は同バイクが1審被告車の右側(同バイク側から見てより左方向)に移動すると考えられる。

また,1審被告車の運動エネルギーの方が圧倒的に大きいから本件バイクの運動エネルギーによって同バイク上の者が西(本件バイク側から見て右方向)に移動することはあり得ないとも指摘する(準備書面2の40頁イ)が,以下に述べるとおり,本件事故においてこの現象が上記運動エネルギーの作用以外の作用等により生じたものと解するのは困難であり,現に,亡Bの体が衝突により右方向の角度を持って移動した以上,上記運動エネルギーが作用した結果であると解するのが相当である。すなわち,1審原告は,着衣などが引っ掛かる可能性をも指摘するところ,そのためにそれまでの運動方向への移動が妨げられることはあっても,別の方向に移動するとは解されない。さらに,亡Bが右方向をのぞき込んでいた可能性を指摘するが,前記3の(3)(ア)のとおり採用できない。

(2)  1審原告の主張の検討

1審原告は,シューズの底の黒色の付着物が本件衝突の際にアスファルトが付着したものであることを前提として本件バイクが停止中であったと主張する。また,1審原告は,日常亡Bが履いていた他のシューズの裏側には本件事故当時亡Bが履いていたシューズの裏側のような痕跡がないこと(甲53)などから本件事故の際にアスファルトが付着したことを裏付けようとする。

しかし,事故により靴底が路面に強く擦過されたとしても,靴底が路面により削られて擦過痕が残るだけで,逆に路面が削られてアスファルトが付着するとは考えにくい(乙11の2,なお,甲79も靴底に擦過痕が残った事例である。)のであって,本件事故発生時の季節・時間帯からしても,亡Bが履いていたデッキシューズの靴底の形状や材質がゴム状のものであること(甲41)からも一層そのようにいえる。結局,左足シューズの裏側の付着物が,本件事故時に生じたものと認めるに足りる証拠はないから,上記付着物もただちに本件衝突時に本件バイクが停止していたことの根拠とはならない。ちなみに,仮に1審原告主張のとおり本件衝突の際にアスファルトが付着したとしても,前記1(5)の痕跡の位置・状況から推測する(甲79)と,かえって,写真撮影報告書(甲51)の8枚目の写真のように両足をしっかり接地したものではなく,左足のみを軽く路面に接触させていた程度である可能性が強く窺えるから,いずれにせよ1審原告の主張を裏付けるものではない。

(3)  D意見について

他方,Dは,「上記1(4)⑥の本件バイク前輪に生じた切れ跡痕は,その位置・形状からして,フロントフォークに付置されたケーブルガイドの突起物が本件衝突時の衝撃でタイヤに接着し,かつ,タイヤが後進回転したために生じたものである。これは,本件バイクが停止しているところを1審被告車に衝突され,後ろに押されたことを示している。」旨述べている(甲8の1)。

しかしながら,G意見(乙3)が述べるとおり,上記切れ跡痕は,本件バイクの前輪に後進回転運動が生じたことを示すものではあるけれども,このような後進回転運動は,バイクが停止状態で前方から自動車に衝突された場合だけでなく,斜め進行状態で前方から自動車に衝突された場合にも生じるから,上記切れ跡痕の存在は,ただちに本件衝突時に本件バイクが停止していたことの根拠とはならない。

5  本件衝突地点について

(1)  まず,衝突地点が本件県道の中央線内か北進車線内かは別として,本件バイクは本件交差点を右折しようとしていたのであるから,本件交差点内の中央ないしはそれよりも北寄りに位置すると考えるのが相当である。これに対し,実況見分調書(乙4の5)及び調査報告書(乙6)に記載されているIの説明中,上記判示に抵触する部分は,その説明している同人の進行距離・時間と1審被告車の速度・進行状況等に照らすと,同人のいう衝突は本件交差点から数十m北で発生したこととなり,不合理であって採用しがたい。また,1審被告Aの指示や供述(乙4の1,乙5,本人尋問の結果)も前記2(1)のとおり採用しない。

(2)  衝突地点が本件県道の中央線内か北進車線内かについて

(ア) 判断

本件バイクは衝突後転倒したまま滑走して移動しており,その際に仮に回転していたとしてもその重心を中心に一直線の動きをするから,本件バイクの停止位置と路面上の擦過痕とを結んだ線の延長線上に衝突地点がある可能性が極めて高い(乙11の2の8頁)。そこで,見取図記載の<ニ>と路面上の擦過痕とを結んだ線の延長線が中央線の中央と交差する地点を見ると本件交差点を南方に大幅に超えた位置になる(乙11の2)。なお,1審原告は,鑑識結果報告書(乙11の2)が添付図3の斜線の幅内に衝突地点があるとして矛盾がない旨記載している点を捉え,車線の範囲内に衝突部位を含む1審被告車の一部が掛かっていれば足りるとした上,1審被告車の左側部分が同斜線の東寄りを走行した場合を考え,かつ,後記(イ)の点から添付図3に修正を加えると,衝突地点は本件交差点内の中央線内になり得る旨指摘するが,上記のとおり本件バイクの停止位置と路面上の擦過痕とを結んだ線の延長線上に衝突地点がある可能性が極めて高いというべきであり,また,斜線部分が誤差を考慮したものであるとすれば,擦過痕の直近は誤差が小さく距離が離れるほど大きくなると考えられるのに,そのようには記載されていないことも考慮すると,斜線は1審被告車両の存在範囲を示すと解される。また,同見取図記載<ニ>の地点が1mずれて記載されていることなどの点から,見取図に距離が記載されることにより位置の特定されている路面上の擦過痕をもとに検討しておくに,路肩から中央線の中心までの距離は,路肩0.5mに,前記1(1)のとおり片側2車線7mと中央線の幅0.8mの2分の1の0.4mを加えた約7.9mであるから,擦過痕の延長線が中央線の中央と交差する地点は,(路肩から中央線の中心までの距離7.9m-擦過痕の南端の路肩からの距離4.8m)×(擦過痕の両端から路肩に対し垂線を降ろしたその垂線間の幅4.6m÷擦過痕の両端から路肩に対し降ろした垂線の長さの差0.5m)=28.52mとなり,やはり本件交差点をかなり超えた地点になる(乙4の1)。他方,本件県道北進車線の中央寄り車線上で衝突したとすれば,上記(1)の衝突地点と矛盾はない。

さらに,1審被告車の衝突部位は左前部であるから,仮に中央線内で衝突したとすると,1審被告車は二重の中央線を超えた上でさらに車体の相当部分が反対車線に入り込んでいたことになる。しかしながら,1審被告車両は直前に南方約280mの信号交差点(a交差点)を右折しており,また,同交差点から本件交差点付近までかなり急な上り坂となっており,車道中央線として二重の白線が引かれている。また,1審被告Aが被害者発見位置と指示した見取図<イ>点からはa交差点まで見通し可能である(乙4の1,3)。さらに,1審被告Aは本件県道を通勤に使用していた(1審被告A本人)から,道路状況はよく承知しているはずである。なお,このときはたまたま通行車両がなかったが,通常は通行量の多い時間帯であるから,いつ対向車が進行してくるかも知れない状況である。以上の点にかんがみると1審被告Aが大きく運転を誤る要因は見出し難い。

してみると,本件衝突は,本件事故のしばらく前から1審被告車が進行していた車線上,すなわち,本件県道北進車線の中央寄り車線上で発生したものと認めるのが相当である。

これに対し,1審原告は種々主張するので,以下順次検討する。

(イ) 1審原告は,鑑識結果報告書(乙11の2)の添付図3は,訂正前の実況見分調書(乙4の1)の図面(図面上全地点が1m北にずれており,実際は1m南に存する。)を使用しており,また道路がカーブしていることを無視しており不正確であると指摘する。まず,道路がカーブしていることは確かに影響はするが,その程度は現在の道路図により算出すると,直線距離100mに対しカーブの最大高さは1.2mと,1mにつき1.2㎝程度の誤差であり(乙13),これを考慮しても衝突位置は本件交差点を南方に越えている(甲58)。なお,見取図をもとに作成された上記添付図3の斜線を,現況の道路図に移記し,さらに写真撮影報告書(甲80)をもとに当時の中央線を赤線で記入した図面(甲81)は正確性に疑問があり採用できない。また,全地点が1m南にずれている点も見取図上では0.4㎝の差であり,上記添付図3の斜線の範囲にほとんど影響がない上,上記(ア)のとおり路面上の擦過痕をもとに算出しても同様の結果である。

また,1審原告は,第1次衝突後に1審被告車が左にハンドルを切った(ないしそれによる方向転換が生じ始めた)ことにより第2次衝突がおこり左前方に飛ばされたことを前提に,鑑識結果報告書(乙11の2)の添付図3はこの第2次衝突の位置を反映しているだけで,第1次衝突位置は反映していないとも主張する(準備書面2の47頁オ,カ,50頁イ)が,その主張の前提を採用しがたいほか,第1次衝突後に1審被告車が一定距離直進したとすると,第1次衝突の位置は第2次衝突の位置よりさらに南方になり,かえって本件衝突位置は本件交差点よりも南方にずれるから,いずれにせよ採用できない。

(ウ) さらに,1審原告は,1審被告車が自己の走行車線からはみ出して進行した可能性について,現在の道路図からこれを直進すれば本件交差点内ではみ出すことになると指摘する。しかし,本件交差点付近程度の緩やかなカーブは,運転者としては道なりに進行するだけで直進するのと大差のないハンドル操作であり,後記認定程度の速度でこれを誤って自己の走行車線から大きくはみだす可能性は特段の事情がない以上考えにくい。そして,写真撮影報告書(甲80)によれば,本件事故当時の中央線は,現在の中央分離帯の位置よりも,本件交差点の南側では西寄りであり,北側では東寄りであるから,よりはみ出しにくい状況であったともいえる。

(エ) 1審原告は,本件バイクの前輪タイヤの接地面に付着している白色塗料様のものは,中央線の白色ラインのものが衝突時に路面にすりつけられて付着したものであるから,そこで衝突したと指摘する。

しかし,本件バイクの前輪タイヤには白色塗料様のものが付着した部分のほかにも,接地面を含む位置に顕著な擦過痕が存在する部分があること,白色塗料様のものの付着した部分には擦過痕のようなものはなくきれいな状態であり,また,白色塗料様のものは時間の経過によりかなり薄くなってきていること(甲38のD-39ないし41)から,むしろ本件バイクがブレーキをかけながら中央線を超えた際などに付着した可能性がある(乙13)。

6  1審被告車の速度について

(1)  亡Bの転倒位置及び1審被告車の停止位置は正確に特定することができないし,また,1審被告車の制動を開始した位置もそれに関する1審被告Aの供述等をただちに採用できず,明らかでないから,主に衝突後の本件バイクの動きを参考に判断するのが相当である。

(2)  そこで,まず,本件バイクの滑走距離である路面上の擦過痕の開始位置と本件バイクの停止位置との距離から推計すると,同距離は見取図から正確に計測すると約37.3m(乙12の1の17頁),これに重力加速度9.8m/SS,バイクの転倒滑走による摩擦係数については,本件と同様乾燥したアスファルトでは0.35ないし0.5を採用するのが相当である(乙2の18頁。H意見が採用する乙12の2の資料2はサンプル数が2例と少なく,H意見以外はいずれも採用している同数値が相当である。)として計算する(速度の二乗=2×0.35ないし0.5×9.8×37.3)と,秒速16m(時速57.5㎞)ないし19,12m(時速68.8㎞)となる。また,H意見(乙12の1の17頁)は,本件交差点のすぐ南側の勾配が上り勾配0.028(乙4の2)であることから,これを採用して計算しており,同様に計算すると,秒速16.62m(時速59.8㎞)ないし19,65m(時速70.7㎞)となる。なお,H意見は,摩擦係数について0.3ないし0.4を採用しているため,秒速15.49m(時速55.7㎞)ないし17,69m(時速63.7㎞)としている。

なお,鑑識結果報告書(乙11の2)は上記と同様の計算方法で滑走距離を約37mとして算出し,時速57.3ないし68.5㎞とほぼ同様の結果を示している。他方,これに対し,D鑑定(甲15の14頁)とG鑑定(乙2の20頁)は,計算方法は同様であるものの,前者は本件バイクの停止位置が不正確である上,衝突直後に本件バイクが転倒滑走したことを前提として速度を計算しているため,後者は滑走距離が短く,いずれも採用できない。

(3)  次に,本件バイクの飛翔距離,すなわち本件バイクの落下地点である路面上の擦過痕の開始位置と衝突地点との距離から計算するに,同距離は衝突地点を本件交差点の北端として少なくとも13.6m,中央とすれば16.8mである。そして,同擦過痕は,翌朝には観察されなかったことや上記距離関係からするとガウジ痕とは認められないから,本件衝突から本件バイクが路面に転倒する間での時間は約0.9秒と推定できる(乙11の2の15頁)。そうすると,衝突時の1審被告車の時速に直すと,約54.4㎞ないし67.2㎞と算出される。

(4)  そこで検討するに,上記(2)及び(3)はいずれも衝突地点から擦過痕の開始位置までの移動に要するエネルギーや本件バイクと衝突したことによる影響を考慮していないことから実際にはこれを超える速度であったと認められること,同(2)につき,甲35,36によると本件の現場の路面はかなりひび割れが生じるなど荒れた状態であることから摩擦係数は上限に近い数値を採用するのが相当であること,同(3)につき,本件バイクが本件交差点を現に右折進行中であったことを考慮すると,衝突位置は交差点中央付近と解されること,1審被告Aは通勤時には制限速度を若干上回る速度で運転していたことを自認しているところ(1審被告A本人3,8頁),本件交差点は,a交差点からの急な登りが緩やかになる箇所であり(乙4の2,甲38),速度を超過しやすい状況にあること,後記のとおり1審被告Aは衝突直前に本件バイクを発見したため(1審被告A本人5頁),衝突時には制動が発効していない状況であったことなどの事情を総合すると,1審被告車は本件事故直前はおおよそ時速70㎞程度の速度で進行していたものと認定するのが相当である。

他方,1審被告Aは,陳述書(乙5)及び本人尋問で,時速55㎞程度で進行していたと述べるが,その根拠は日常通勤時にその程度であったからというにすぎず(1審被告A本人3,8頁),当時の速度について明確な回答を回避しているとも理解できるところであり,採用できない。

7  本件バイクの飛び出しの有無,1審被告車の制動の有無,本件事故の態様,本件バイクの前照灯点灯と右折合図の有無,並びに,1審被告Aの過失及び1審被告Aと亡Bとの過失割合については,次のとおり補正する他は,原判決の「事実及び理由」第四の一7ないし10,同二記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決12頁9行目の「被告A本人は」の前に「1審被告Aは,本件交差点の数十m手前にきたとき,本件交差点の北側辺りあるいは本件交差点内中央手前の中央線付近をゆっくり走っているか,または停車していた本件バイクを確認し,本件交差点を右折しようとしているものと判断したところ(乙4の1,乙5,1審被告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨),」を加える。

(2)  同12頁19行目の「約2m」を「少なくとも約1.5m」に,20行目の「2m」を「約1.5m」にそれぞれ改める。

(3)  同21行目の「時速七十数㎞(秒速約20m)」を「時速約70㎞(秒速約19.4m)」に改める。

(4)  同13頁9行目の「時速約70㎞を超える速度で」を「時速約70㎞で」に改める。

(5)  同14頁1行目の「ほぼ同旨の記載があるけれども」の次に「,事故直後には本件バイクの前照灯を視認した旨述べていながら,その後訂正していること(乙9の3頁)」を加える。

(6)  同14頁10及び11行目の「制限最高速度を20㎞以上超過して進行し」を「制限最高速度を約20㎞超過して進行し」に改める。

8  亡B及び1審原告の損害,1審原告の相続,過失相殺,損害の填補及び弁護士費用については,原判決の「事実及び理由」第四の三ないし七記載のとおりであるから,これを引用する。

第4結論

以上のとおりであるから,1審原告の本訴請求は,1審被告らに対し,各自583万6205円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がなく棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊田士朗 裁判官 川添利賢 裁判官 多見谷寿郎)

(別紙図面添付省略)

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