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名古屋高等裁判所 平成15年(ネ)362号 判決 2003年9月04日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は1審原告の負担とする。

事実及び理由

(以下,略語は原判決に準ずる。)

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告は,1審原告に対し,204万5865円及びこれに対する平成12年3月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。

2  1審被告

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,1審原告が,1審被告に対し,同人が飼育する本件犬(バーニーズマウンテンドッグ,名はラックス)に右手を咬まれて傷害を負った本件事故につき,民法718条1項本文の不法行為に基づき,1審原告の被った損害の一部及び遅延損害金(不法行為の日から年5分)の支払を求めたのに対し,1審被告が同項但書の免責(相当な注意をもって保管したこと)及び過失相殺を主張し,損害を争った事案である。

原審は,1審被告主張の免責を認めなかったが,1審原告主張の損害のうち後遺障害等を認めず,1審原告に2割の過失を認めて過失相殺をし,その請求の一部を認容するに止めたので,1審原告が主に過失相殺の判断に不服があるとして控訴し,原審で認容されなかった部分のうち後遺障害に基づく損害等にかかる主張を撤回して同部分の訴えを取り下げ,不服の範囲を上記第1の1(2)の限度とした。

なお,原審以来の1審原告主張の損害額,同請求額及び同認容額等は別紙「1審原告主張等の損害額の推移」のとおりである。

2  争いのない事実等及び争点は,次のとおり改めるほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1及び2のとおりであるからこれを引用する。

原判決2頁2行目の「午前11時50分ころ,」の次に「愛知県海部郡立田村大字立田無番地所在国営木曽三川公園内において,」を加え,3頁24行目から4頁4行目までを削り,5行目の「キ」を「カ」と,同行と6行目の各「40万円」をいずれも「20万円」とそれぞれ改め,13行目及び14行目を削る。

第3争点に対する当裁判所の判断

1  当裁判所も,1審被告が主張する民法718条1項但書の免責は認められず,1審原告の損害は原審が認容する範囲で認められ,同人に2割の過失相殺をするのが相当であると判断する。その理由は,当審での主張を踏まえて次のとおり改め,当審での過失相殺に関する主張に対する判断を次項に加えるほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 判断」のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決5頁15行目の「書面」を「書面(甲8)」と,6頁17行目から18行目にかけての「原告は,自宅から持参したフランスパンを渡して挨拶をしていたところ,」を「1審原告は,フランスパン(長さ約25センチメートルのもの約20本)を白い袋3つに入れて持参し,これを知り合いの人達へあいさつ代わりに配って歩いていたところ,」と,7頁11行目の「半径約3メートルの円」を「半径約2メートルの円」と,15行目の「原告には」から16行目までを次のとおり,それぞれ改める。「大型のパンを多量に携行してこれを配っていた1審原告としては,犬の興味を惹きやすい行動を取っていることを自覚し,犬の行動範囲に入らず,入る場合は細心の注意を払うべきであったのにこれを怠ったものといわねばならないから,同人には本件事故発生につき2割の過失があると認めるのが相当である。」

(2)  原判決7頁26行目から8頁1行目にかけての「この費用と本件事故との間には相当因果関係があるものとは認められないが,」を削り,3行目の「被告は,」から4行目までを「同事実を考慮すれば,上記子犬の預け費用も本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。」と改める。

(3)  原判決8頁18行目から19行目にかけての「かつその間の収入が減少していることは前記のとおりであって,」を「前記のとおり,本件事故の年の所得が前年の所得に比べ101万円減少していること等も踏まえると,」と改め,24行目から9頁21行目までを削り,22行目の「(7)」を「(6)」と,同行の「なるところ,」を「なる。」と,10頁1行目の「(8)」を「(7)」とそれぞれ改める。

2  過失相殺について

(1)  1審原告は,当審において,①本件犬には咬み癖があったから,1審被告は本件犬をゲージに入れるか,口輪をはめるなどして管理すべきであったのに,それを怠ったこと,②1審被告は本件犬が人に咬みつかないよう十分に訓練することを怠っていたこと,③1審被告は,咬み癖のある大型の本件犬を2メートル近いリード線に繋いで直径4メートルの範囲で行動できる自由を与えていたのだから,本件犬の行動に十分な注意を払うべきであったのに,本件犬がAの子供の衣服を咬んで脱がせ,Bの軍手に咬みつこうとしたことに気付いていなかったものであり,本件犬の行動に注意を払っていなかったこと,④1審原告は,1審被告宅を訪問して本件犬の行動圏内へ入ったのではなく,公衆が自由に往来できる公園内を歩いていたに過ぎないこと等に鑑みると,1審原告に2割の過失があるとした原審の判断は不当であると主張する。

(2)  しかし,上記①ないし③については,本件犬が人の着衣に咬みついたことはあったが,本件事故以前に人を咬んで傷害を与えた事実を認める証拠はなく,1審被告において,本件犬をゲージに入れて管理すべき義務まであったとはいえない。また,上記④については,1審原告において,公衆が自由に往来できる公園内を歩いていたとはいえ,当日は公園内で犬のマラソン大会が開かれ,本件犬の周囲には犬を連れた参加者や見物人らが20人ほども集っていたのであり,1審原告自身も本件犬と同種の犬を飼う愛犬家として同好会の仲間と共に大会の見物に来ていたのであるから,1審原告は,本件事故時の公園内の多数の犬の状況を認識していたはずであり,単に公園内を散策する公衆とは異なる立場にあったというべきであるし,しかも大型のパンをたくさん入れた白い袋を持ち,パンの匂いを立たせるなどして犬の注意を惹く状況となっていたのであるから,本件犬の行動圏内へ入るには十分注意すべきであったのにそれを怠ったものといわざるを得ない。

1審被告の本件犬に対する訓練が不十分であったことは本件事故の結果から推認されるところであり,本件犬が着衣に咬みつく癖のある大型犬であったことに鑑みると,1審被告としては,本件犬に口輪をはめておくなり,常時その行動に注意を払っておくなりすべきであったのに,これを怠ったものということができるところ,1審被告のこの過失と対比すると,1審原告の上記過失が2割を占めるとするのはやむを得ないものといえる。したがって,この点に関する1審原告の主張は採用できない。

第4結論

よって,原判決のうち1審原告の請求を棄却した部分(当審で取り下げられた部分を除く。原判決中の同部分は同取下げにより失効した。)は相当であり,1審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用を1審原告に負担させることとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田村洋三 裁判官 小林克美 裁判官 佐藤真弘)

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