大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成15年(ネ)610号 判決 2003年12月24日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は,控訴人に対し,30万円及びこれに対する平成9年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求(当審における拡張後のものも含む。)を棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴人に対し,原判決により支払を命ぜられた金員の他に290万円及びこれに対する平成9年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴人が当審で拡張した請求を棄却する。

(3)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,弁護士である控訴人が,裁判所構内に留置されている被疑者の弁護人になろうとする者として,被疑者へ文書を差し入れようとしたところ,裁判官から文書の授受を違法に禁止されたなどとして,控訴人が,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害合計200万0001円の内金50万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成9年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

原審は,控訴人の請求のうち,10万円及びこれに対する平成9年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命じる一部認容判決をしたところ,控訴人が控訴した。

なお,控訴人は,当審において請求の趣旨を上記のとおり拡張した(原審認容の10万円を含め合計300万円の請求となる。)

2  争いのない事実等,争点及び争点に対する当事者の主張は,以下に原判決を付加訂正し,当審主張を付加するほか,原判決の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁11行目の「検察官」の前に「岐阜地方検察庁多治見支部」を付加する。

(2)  原判決3頁1行目の「名古屋」から「弁護士であるが」までを「平成9年10月24日当時,名古屋弁護士会所属の弁護士であった(現在は岐阜県弁護士会所属の弁護士である(裁判所に顕著)。)が」と改める。

3  控訴人の当審主張

(1)  憲法17条違反について

控訴人は,当初200万円の損害の内,50万円の請求をしたが,原判決は10万円しか認めなかったのは,明治憲法下の切り捨て御免的行政の反省を踏まえて,国家の賠償責任を明らかにし,国民の権利救済に仕えようとするという憲法17条の趣旨に基づき,国家賠償法1条1項が規定する損害賠償の趣旨に反するものである。

裁判官に重大かつ明白な過失が認められるのにもかかわらず,10万円の賠償しか認容しないのは,単なる損害額の事実認定の誤りではなく,憲法17条の定める趣旨解釈に反するものである。

(2)  憲法34条前段違反について

本件は,裁判官により憲法34条前段,刑事訴訟法39条1項に反する行為がなされ接見交通権が妨害されたものである。それにもかかわらず,10万円の賠償しか認めないのは,被疑者の弁護人に依頼する権利を保障する憲法34条前段,刑事訴訟法39条1項に定めた法益尊重の趣旨に著しく反する。

また,本件は憲法99条が定める裁判官の憲法尊重擁護義務の法意を無視している。憲法99条の立法趣旨は,裁判官による憲法違反行為に対しては制裁的趣旨から賠償額に制裁的な趣旨を盛り込むことを求めていると解すべきであり,わずか10万円の賠償しか認めないのは,将来裁判官による憲法34条前段,刑訴法39条1項等法令違反行為を防止するという目的を達成できない。

(3)  最高裁判所判例違反について

ア 原判決は,裁判官と同じ法律の専門家たる検察官による接見交通権侵害について「国家賠償法1条1項にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が肯定されるのは,当該検察官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がある場合に限られる」と限定しなかった最高裁判所平成3年5月10日第3小法廷判決の趣旨に反する。

原判決のように,違法性制限説(二元説)をとり裁判官の行為が国家賠償法1条1項の「違法」に当たる場合を狭く限定すれば,その分控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料の算定基準となる違法判断の程度が限定され,賠償額は低くなる。本件のごとき接見妨害のケースで法律専門家たる検察官と裁判官を区別する理由は全くない。

したがって,原判決が違法性制限説に立って,10万円の賠償しか認めなかったのは,上記最高裁判決に違反する。

イ 原判決は,裁判官の行為が国家賠償法1条1項の「違法」に該当する判断根拠について,昭和57年3月12日最高裁判所第2小法廷判決(以下「最高裁昭和57年3月12日判決」という。),平成元年3月8日最高裁判所大法廷判決(以下「最高裁平成元年3月8日判決」という。)を引用する。

しかし,本件について,上記各最高裁判決を適用するのは誤っている。

刑訴法81条の接見禁止が,弁護人または弁護士になろうとする者に及ばないのは,一義的に明々白々で法曹人の基本的常識である。

本件裁判官は,接見交通にかかる刑訴法81条という基本的かつ重要な法規を知らなかったばかりか,控訴人が再三にわたり誤りを指摘したのに,法規を検討しようともしなかった。

このような裁判官の怠慢かつ傲慢行為について,最高裁昭和57年3月12日判決を適用すべきではない。

また,最高裁平成元年3月8日判決は,「裁判長の措置は,それが法廷警察権の目的,範囲を著しく逸脱し,又はその方法が甚だしく不当であるなどの特段の事情のない限り,国家賠償法1条1項の規定にいう違法な公権力の行使ということはできないものと解するのが相当である」と判示するが,法廷警察権の趣旨,目的,法の支配の精神に照らせば,その行使に当たっての裁判長の判断は,最大限に尊重されなければならないから,このような場合の裁判官の行為については,国家賠償法1条1項の「違法」に当たる場合を限定することにはそれなりに理由がある。

しかし,本件は,裁判官の法の無知,怠慢であり,適正な法廷警察権の行使のように裁判官の判断が最大限に尊重されなければならない場合とは全く異なる。

したがって,上記最高裁平成元年3月8日判決を適用すべきではない。

ウ また,原判決は,①弁護人等と被疑者との接見交通権は刑訴法81条によって禁止することができないことは,法律上,一義的に明白であり,それと異なる解釈の余地はない,②本件裁判官は,裁判官としてあってはならないともいうべき基本的な法律の適用の誤りを犯したばかりでなく,控訴人から何度も法律の適用の誤りを指摘され,これにより何度も再検討の機会が与えられ,かつ,自らが法律の適用を誤っていることは刑訴法の条文を確認することで極めて容易に知ることができたものであるのに,しかるべき検討もせず,憲法の保障に由来する重要な権利である接見交通権を不法に制限したもので,その誤りは極めて重大である,とも判示している。

したがって,このような事実認定に立てば,本件は違法無制限説(一元説)に立脚して判断すべきケースであるのに,原判決は違法性制限説に立脚して賠償額を10万円とする誤りを犯している。

(4)  損害について

本件での接見交通権侵害の主体は,検察官の違憲,違法を監督すべき立場にある裁判官であり,本件裁判官は,裁判所の構内における本件文書の授受を禁止する裁判をすることによって,弁護人の弁護権の行使のために極めて重要な弁護人から被疑者への初回の接見の際の書類等の授受の権利を,侵害したものである。

本件文書は,9頁にも及ぶもので,その内容も,被疑者の人権,黙秘権,捜査官にありがちな見解及びこれに対する意見,現在の刑事訴訟法の考え方,被疑者としての一般的な心構え,予想される身柄拘束の期間,面会の禁止,体調の悪いときの取調べへの対処,無理な取調べがあった場合の対処,調書作成への対処,調書への署名,指印は拒否できること,弁護人との接見,無理に調書を取られてしまったときの対処,嘘の言い訳はしない方がよいこと等を具体例を挙げるなどして,具体的かつ詳細に記載しているもので,到底15分ないし20分程度の接見によっては伝えることができない内容である。

かかる文書を初回の接見の際に授受することを禁止する行為は,憲法上の保障の出発点を明々白々に侵害するもので,これが裁判官によってなされたことは由々しき重大な違法行為である。

さらに違法性の程度も,上記のとおり,本件は,検察官の場合と同様に,裁判官の法令違反がそのまま国家賠償法1条1項の「違法」に当たり,本件裁判官の行為の違法性の程度は大きい。

したがって,10万円という原判決の認容額は到底容認され得ない。

(5)  懲罰的損害賠償について

我が国の国家賠償訴訟においても,本件を契機として,損害賠償につき懲罰的損害賠償の概念が導入されるべきである。

従来からの,最高裁判所の判例の姿勢からして,およそ裁判官の職務上の不法行為責任に関しては,限界的な事例以外の賠償責任が認容されず,そのため「加害行為に対する許容性」が極めて大きい。つまり裁判官は,何をしても許容される,という法的基準が確立されてしまっている。そのため,裁判官に対して,国家賠償法が行為抑制の機能を果たさないで現在に至っている。そして,裁判官の不法行為に対する行為抑制は,現行の国家賠償制度からは容易なことではない。

したがって,裁判官の不法行為に対する行為抑制のために懲罰的損害賠償制度を採用することが必要なのである。

裁判官に対する国家賠償制度を提訴した国民が,勝訴の場合,少なくとも費用につき財布からの持ち出しを強要されるような国家賠償制度は,到底国際水準を満たすことはなく,それは日本国憲法が定める国際協調主義にも反するものである。

以上のとおりであるから,少なくとも300万円の懲罰的損害賠償金の支払が認められるべきである。

4  被控訴人の応答

(1)  当審主張(1)(憲法17条違反),同(2)(憲法34条前段違反)について

原判決は,本件裁判官の行為について,被控訴人の国家賠償法上の責任を明確に認めているのであるから,少なくとも違法か否かの判断に関して憲法違反の問題は生じ得ず,あとは10万円という損害額の金銭的評価が相当であるか否かの問題が残るに過ぎない。そして,損害額の認定は,事実認定の範疇に属するものであるから,損害額の多寡が憲法違反の問題を生ずることは通常あり得ない。

さらに,原判決が認定した10万円は,必ずしも低額であるとはいえず,損害の認容額が50万円ではなく10万円であるために裁判官の同種の違法行為を防止できない結果となるということもできないから,原判決は,憲法34条前段はもとより,同法99条,刑訴法39条1項に何ら違反するものではない。

(2)  当審主張(3)(最高裁判所判例違反)について

裁判官の行う職務行為について国家賠償法が適用されるのは,原判決が引用する最高裁昭和57年3月12日判決のとおり,特別な事情がある場合に限定される。

その根拠とするところは,①裁判の終局性と完結性,上訴制度の存在等の裁判制度の本質,②良心に従った裁判と裁判官の独立の保障,③裁判行為の相対的性格等にあると解される。すなわち,司法権の独立のもと,裁判官は法とその良心にのみ従って司法権を行使するもので,それゆえ判断を行う裁判官によって結論が異なることがあり得るが,それは裁判制度の本質であり,国家賠償訴訟をもって介入すべきではなく,これを前提として,裁判に瑕疵がある場合には上訴手続によりこれを是正するものとし,上訴手続を経てこれが確定すれば,それは最終的な解決であって,原則的には,別途国家賠償訴訟をもって再び争うことはできないとしなければならない。そのため,裁判官の職務行為が国家賠償法上違法となる場合が限定的となるのは,その性質上やむを得ないことである。

(3)  当審主張(4)(損害)について

争う。原判決の10万円が低すぎるということはない。

(4)  当審主張(5)(懲罰的損害賠償)について

控訴人の主張する懲罰的損害賠償制度は,加害者への制裁と一般予防を目的とする損害賠償の支払を受け得る制度であり,一方,我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を加害者に填補させて不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とする制度である。

このように,両者の目的は本質的に異なるものであるところ,我が国において,加害者への制裁と一般予防は,刑事上又は行政上の制裁に委ねられているから,これらを目的とする賠償金の支払を受け得る懲罰的損害賠償制度は,我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則,基本理念と相容れないのであって(最高裁平成9年7月11日第2小法廷判決・民集51巻6号2573頁),我が国の現行の法制度のもとでは,懲罰的損害賠償の概念を導入することはできないといわなければならない。

また,アメリカの裁判所が認める懲罰的損害賠償については,他の国からの批判が強く,国際私法会議における特別委員会においても,懲罰的損害賠償の判決は外国判決の承認執行の対象から除くべきとの議論が大勢を占め,アメリカ国内においても,賠償額の巨大化等からの批判が出ており,連邦最高裁においても懲罰的損害賠償額が著しく過大であり憲法違反であるとする判決が出されているところでもある。

なお,控訴人は,裁判官の職務行為は「加害行為に対する許容性」が極めて大きい旨主張するが,上記のとおり,裁判官の職務行為についての抑制は,第1には裁判官が法と良心にのみ従うこと,上訴手続の中で判断の誤り等が正されることによってなされるもので,国家賠償という手段を第一としていないだけであり,裁判官は何をしても許容されるという法的基準が確立されているということはできない。

したがって,控訴人の主張は失当である。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,控訴人の本訴請求は30万円の限度で理由があり,その余(当審における拡張後のものも含む。)は理由がないと判断するものであるが,その理由は,以下のとおりである。

1  本件の経緯について

(1)  上記争いのない事実等(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)に,証拠(甲1の1及び2,2ないし4,6ないし8,10,11,31,乙1ないし6,8(ただし,後記採用できない部分を除く。),原審証人A(ただし,後記採用できない部分を除く。),原審における控訴人本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

ア 控訴人は,平成9年10月24日午後零時10分ころ,多治見簡易裁判所へ出向き,裁判所構内における本件被疑者らとの接見について,本件構内接見申請書を本件文書とともに裁判所に提出し,本件文書の授受を申し入れた。

これに対し,本件裁判官は,本件文書を一読した上で,本件書記官を介して,控訴人に対し,本件被疑者らには接見禁止が出ているから文書の授受は認められない旨を伝えた。

イ このため,控訴人は,本件書記官に対し,「何を言っておるんだ。接見禁止は刑訴法81条で一般人を対象に出されたもので,弁護人は対象外だよ。」,「よく調べてきちっと裁判官に伝えてくれ。」と述べた。

そこで,本件書記官は,本件裁判官に再度確認したが,本件裁判官は,本件書記官に対し,本件文書の授受のためには接見禁止の一部解除の申請が必要である旨を控訴人に伝えるよう言った。これを受け,本件書記官は,控訴人に対し,「やはり,本件文書の授受は認められないということです。本件文書の授受は,接見禁止の一部解除をしてもらわなくてはなりません。」と伝えた。

ウ 控訴人は,本件被疑者らとの接見予定時間が迫っていたこともあって,本件文書の授受の問題は,接見終了後に交渉することにし,本件被疑者らとそれぞれ15分程度接見を行った。

控訴人は,接見終了後,書記官室に戻り,本件書記官を介して,本件裁判官に対し,本件被疑者らが裁判所構内にいる間に本件文書を渡したい旨を伝えた。しかし,本件裁判官は,前と同様,本件書記官を介して,控訴人に対し,本件文書の授受のためには接見禁止の一部解除の申請をしてほしい旨を伝えた。

エ そこで,控訴人は,本件文書をBだけでも早く交付したいと考え,本件裁判官の回答のとおり本件解除申立書を作成することとし,本件書記官を介し,本件裁判官に提出した。

ところが,本件裁判官は,本件書記官を介して,控訴人に対し,検察官の意見を聞く必要がある旨及び検察官の意見があるまでは本件文書の差し入れは認められない旨を伝えた。

オ そのため,控訴人が,書記官室において,本件書記官に対し,裁判官を呼んできてほしい旨大声で要求したところ,本件裁判官が隣接する裁判官室から書記官室に出てきた。

そこで,控訴人は,本件裁判官に対し,弁護人は接見禁止の対象とはならないから本件文書の差し入れを認めて欲しい旨を述べたが,本件裁判官は,控訴人に対し,接見禁止であるから弁護人でも文書は差し入れられない旨を告知した。

控訴人は,さらに,本件裁判官に対し,本件解除申立書を提出したのだから今すぐ解除をして本件文書を差し入れさせて欲しい旨を要請したが,本件裁判官は,控訴人に対し,検察官の意見を聞く必要があるから,その日のうちに決定を出すのは無理である旨を述べた。

カ 控訴人は,本件裁判官に対し,「準抗告でも何でも争いますよ。」と述べたが,本件裁判官は,控訴人に対し,「不服があれば,しかるべき手続をとってください。」と述べた。

その後,控訴人は,書記官室から退室し,多治見簡易裁判所の構内を出たが,それとほぼ同時に,本件被疑者らも,勾留場所の各警察署留置場へ向けて,同裁判所の構内から連行された。

(2)  なお,被控訴人は,以上の認定とは異なる旨を主張するので,以下,検討する。

ア すなわち,被控訴人は,①本件文書の授受の申入れに対し,接見禁止が出ているから認められないと伝えられた控訴人が,接見禁止は弁護人は対象外である旨を述べた際,本件書記官が,本件文書を授受するためには,接見禁止の一部解除の申請が必要であるとの発言を繰り返したにすぎず,控訴人が裁判官に伝えてほしいと発言した事実もなく,本件書記官が,再度本件裁判官に確認した事実もない,②控訴人が本件被疑者らとの接見を終了した後は,控訴人が,再度本件文書の授受の申入れをした事実はなく,本件書記官が,「文書の授受は認められない。」,「一部解除の申請をしてほしい。」と告げた事実もない,③控訴人は,出せというので一応出しておく旨述べて,本件解除申立書を提出した,④同日に,本件裁判官が控訴人と直接対峙して会話したことはないなどと主張している。

そして,本件書記官である原審証人Aは原審において被控訴人の上記各主張に沿う供述をし,同人作成の陳述書(乙8)にも被控訴人の上記各主張に沿う記載部分がある。

イ しかしながら,上記争いのない事実等に,証拠(甲6,8,10,31,原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,控訴人は,本件被疑者らがそれぞれ別の警察署留置場に勾留されるため,裁判所構内で順次接見することを強く希望し,本件書記官がこれに対して難色を示すと,大阪弁護士会の裁判所への要望書をファックスで送信するなどして,裁判所構内での接見を実現するための努力をし,本件書記官から接見時間を1人当たり10分間とすると告げられると,10分間では短すぎると申し入れ,15分間に延長することを認めさせるなどしており,また,弁護人からの文書の差し入れについては接見禁止の効果が及ばないことを知りつつも,本件文書を差し入れるために本件解除申立書を提出したことが認められ,このように,控訴人が,本件被疑者らの弁護人等として,本件被疑者らに対し早期に十分な助言を与えようと,接見の申入れ段階から終始相当の努力をしていることからすれば,本件文書の授受について,控訴人が,本件裁判官と一度協議しただけの本件書記官との対応のみに終始し,接見終了後も,一応出しておくと言って本件解除申立書を出したのみで,本件裁判官と直接話したことなどないとするAの上記供述等は,不自然といわざるを得ない。

これに対し,原審における控訴人本人の供述及び同人作成の陳述書(甲6,8,10,31)は,一貫性があり,信用性が高いと評価し得る。

ウ 以上を併せ考慮すると,被控訴人の上記主張に沿う旨のAの供述及び陳述書(乙8)の記載は採用することができないと言わざるを得ず,他に上記(1)の認定を覆すに足りる証拠はない。

2  争点(1)(本件裁判官の行為の違法性)について

(1)  裁判官がした争訟の裁判に上訴,再審等の訴訟法上の救済方法によって是正されるベき瑕疵が存在したとしても,これによって当然に国家賠償法1条1項にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるものではなく,上記責任が肯定されるのは,当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がある場合に限られる(最高裁昭和57年3月12日判決参照)。そして,この法理は,争訟の裁判に限らず,その他,裁判官が行う職務行為一般に関しても同様と解すべきである(最高裁平成元年3月8日判決参照)。

そこで,本件において,本件裁判官の上記1,(1)の行為について,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものとして,違法と評価すべきかについて,以下検討する。

(2)ア  裁判所は,逃亡又は罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があるときは,勾留されている被疑者と弁護人等以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物の授受を禁じることができる(刑訴法81条,207条)。

また,裁判所は,身体の拘束を受けている被疑者が裁判所の構内にいる場合において,これらの者の逃亡,罪証隠滅を防ぐため必要があるときは,弁護人等との接見については,書類若しくは物の授受を禁止することができる(刑事訴訟規則30条)。

上記1,(1)に認定した事実によれば,控訴人は,裁判所構内において被疑者らと接見し,その際本件文書を交付することを求めたものである。刑訴法81条による接見等の禁止の効力は弁護人等には及ばず,ただ,刑訴規則30条により,裁判所構内において弁護人等が被疑者と接見する場合において,罪証隠滅の恐れがあると認められる場合には書類の授受を禁止することができるにかかわらず,本件裁判官は,刑訴法81条による接見等の禁止の効力が弁護人等にも及ぶと誤解した結果,刑訴規則30条の要件を検討することなく,申立てにより,検察官の意見を聞いた上,接見等の禁止の一部解除をしなければ,控訴人と本件被疑者らとの本件文書の授受は認められない旨を控訴人に告知し,もって,裁判所の構内における控訴人と本件被疑者らとの本件文書の授受についての禁止の裁判をしたものと認められる。

イ  ところで,憲法34条前段は,何人も直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留・拘禁されることがないことを規定し,刑訴法39条1項は,この趣旨にのっとり,身体の拘束を受けている被疑者・被告人は,弁護人等と立会人なしに接見し,書類や物の授受をすることができると規定する。この弁護人等との接見交通権は,身柄を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つである(最高裁昭和53年7月10日判決・民集32巻5号820頁)。

このように,接見交通権が自由であることは刑事手続における大原則であるから,弁護人等と被疑者との文書の授受が,接見等の禁止の有無にかかわらず原則として自由であることは,裁判官として当然知っていなければならない最も基本的な事項の一つである。

また,弁護人等と被疑者との接見交通を刑訴法81条によって禁止することができないことは,法律上,一義的に明白であり,それと異なる解釈の余地はない。

しかるに,本件裁判官は,裁判官としてあってはならないともいうべき基本的な法律の適用の誤りを犯したばかりでなく,上記認定事実のとおり,控訴人から何度も法律の適用の誤りを指摘され,これにより何度も再検討の機会が与えられ,かつ,自らが法律の適用を誤っていることは刑訴法の条文を確認することで極めて容易に知ることができたにもかかわらず,しかるべき検討もせず,憲法の保障に由来する重要な権利である接見交通権を不法に制限したもので,その誤りは極めて重大である。

ウ  また,上記アのとおり,裁判所は,弁護人等から被疑者への裁判所構内における書類等の授受の申出があったときは,罪証隠滅等の恐れのある物でない限り,原則として授受の機会を与えなければならない。

したがって,上記申出を受けた裁判所としては,書類等の授受を禁止すべき要件があるか否かを速やかに判断し,これを禁止する必要がない限り,裁判所の構内において書類等の授受をさせなければならず,合理的な理由もないのに判断を留保するなどして書類等を授受する機会を失わせることは,弁護人の円滑な職務の遂行を妨げるものといわなければならない。特に,弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕後初回の接見及びその際の書類等の授受は,身体を拘束された被疑者にとっては,弁護人を選任するとともに,弁護人から今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言等を得るための最初の機会であって,直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障を無意義にするものであるから,これが速やかに行われることが被疑者の防御の準備及び弁護人の弁護権の行使のために特に重要である。

しかるに,本件裁判官は,本件文書を一読し,その授受を禁止する必要がないことを容易にかつ直ちに判断し得たはずであるのに,上記のような極めて重大な法律の適用の誤りに基づき,控訴人に対し,本件文書の授受のためには,接見等の禁止の一部解除が必要であり,その申立てに対しては検察官の意見を聞く必要があるとして,結局,裁判所の構内における控訴人から本件被疑者らへの初回の接見の際の本件文書の授受の機会を失わせたもので,その結果も重大である。

なお,裁判官による裁判所構内での文書等の授受の禁止の裁判に対しては,特別抗告による不服申立てが可能であるが,弁護人と被疑者との接見等は,合理的期間内に実現しなければ被疑者の権利を守ることができない性質のものであり,一定期間が経過し捜査が進行した後は,その実質的意味がなくなってしまうものといわざるを得ない。

エ  以上のとおり,本件裁判官が裁判所の構内における本件文書の授受を禁止する裁判をしたことは,憲法34条前段に由来する刑訴法39条に違反し,本件被疑者らの弁護人等との接見交通権を侵害するものである。そして,この弁護人等との接見交通権は,被疑者にとって刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つであり,この接見交通権の侵害は重大で,権利侵害といわざるを得ない。

したがって,重大な権利侵害をもたらす裁判は,裁判官による良識のある判断とは到底認めることのできない不合理なもので,しかも,判断が誤っていることは明白で,その誤りを是正することは容易であったことを考慮すると,その是正は不服申立てのみによるべきものとすることは相当でないから,本件裁判官は,付与された権限の趣旨を明らかに背いて行使したものというべきである。

したがって,本件裁判官の上記裁判は,国家賠償法1条1項にいう違法な行為に該当するものといわざるを得ない。そして,本件裁判官の上記裁判について過失があることは明らかである。

(3)  被控訴人は,本件文書は,黙秘権に関する事項を記載したものであり,指定された15分の時間内に,弁護人選任届の作成及び被疑事実等の認否に必要な時間を除いても,十分伝え得る事項であるから,控訴人が,弁護権の行使を妨げられたと認めることはできない旨主張する。

しかしながら,本件文書(甲1の2)は,9頁(B5版の用紙で,1頁が1行47字・17行)にも及ぶもので,その内容も,被疑者の人権,黙秘権,捜査官にありがちな見解及びこれに対する意見,現在の刑事訴訟法の考え方,被疑者としての一般的な心構え,予想される身柄拘束の期間,面会の禁止,体調の悪いときの取調べへの対処,無理な取調べがあった場合の対処,調書作成への対処,調書の訂正,調書への署名,指印は拒否できること,弁護人との接見,無理に調書を取られてしまったときの対処,嘘の言い訳はしないほうがよいこと等を具体例を挙げるなどして,具体的かつ詳細に記載しているもので,到底15分ないし20分程度の接見によっては伝えることができない内容であるし,仮に弁護人が指定された時間内に上記内容を全て説明したとしても,逮捕,勾留により精神的にも動揺していることの多い被疑者にとって,15分ないし20分程度の接見の際に弁護人から受けた説明を理解し,記憶に留めておくことは通常困難であり,むしろ,本件文書は,被疑者が手元に置いて繰り返して読むことによって,その目的が達せられるものである。

したがって,被控訴人の上記主張は,弁護人による接見及び書類等の授受等の重要性を軽視したもので,到底採用することができない。

(4)  控訴人は,本件裁判官が本件文書の差し入れのためには接見禁止の一部解除申請が必要である旨述べた行為をもって,弁護人に対して義務無きことを強要した違法な行為であると主張する。

しかしながら,以上の認定事実によれば,本件裁判官は,本件文書の授受を認めるためには,接見禁止の一部解除申請が必要であり,同申請に対しては,検察官の意見を聞くことが必要であるとして,結局,控訴人に対し本件文書の授受をさせなかったものであって,その違法性については既に説示したとおりであるところ,以上の行為のうち,一部解除申請が必要であると述べた行為のみをとらえて,独立にその違法性を評価することは相当ではないというべきであるし,独立にその違法性を評価すべきものとしても,一部解除申請が必要であると述べた行為をもって,控訴人に対し,その意思に反して本件解除申立書を書くことを強制したものということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,一部解除申請が必要であると述べた行為をもって,国家賠償法上違法と評価することはできない。

3  争点(2)(損害)について

上記のとおり,控訴人は,本件裁判官が本件文書の授受について禁止の裁判をしたことによって,弁護人の固有権の最も重要なものの一つである接見交通権を侵害されたものである。

本件文書は,取調べに対する注意事項等が記載されたもので,勾留の初期の段階から被疑者に交付することが重要であって,そのため控訴人は,再三本件裁判官に対し,本件文書を被疑者に交付できるよう求めていたものである。しかるに,弁護人等の接見交通権を制限することができないことは法律上,一義的に明白であって,裁判官として当然に知っているべき極めて基本的な法律知識であるにもかかわらず,本件裁判官は接見等の禁止が出ていることを理由に控訴人の接見交通権を侵害し,しかも,控訴人が,一度ならず三度にわたってその誤りを指摘したにもかかわらず,誤りを是正しなかったものであり,本件裁判官のこのような対応は,控訴人にとって極めて心外であったと容易に推察される。

したがって,控訴人が本件裁判官の違法行為により本来であれば費やす必要のなかった時間自体は,全体としてはそれほど長いものではないが,弁護人として重要な接見交通権が裁判官によって侵害されたというその重要性に鑑み,控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料は30万円をもってするのが相当であると認める。

4  控訴人の当審主張に対する判断

(1)  当審主張(1)(憲法17条違反)について

控訴人は,慰謝料を10万円とした原判決は,憲法17条の趣旨に反する旨主張する。

憲法17条は,公務員の不法行為による損害につき,国又は公共団体の賠償責任を定めたものであり,これに基づいて国家賠償法が制定されたものであるが,いかなる場合が違法行為に該当するか否か,損害の額等は,個別的に個々の具体例ごとに検討されるべきものであり,損害額の多寡が憲法17条との関係で直接問題となることはないというべきである。

そして,本件裁判官の行為は違法なものであると認められ,控訴人が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,本件の経緯等を考慮すると30万円が相当である。

(2)  当審主張(2)(憲法34条前段違反)について

控訴人は,10万円の賠償しか認めなかった原判決は,被疑者の弁護人に依頼する権利を保障する憲法34条前段,刑訴法39条1項に定めた法益尊重の趣旨に著しく反する旨主張する。

しかし,違法行為の該当性及び損害額の判断に際し,憲法34条に由来する権利である接見交通権の意義,重要性を考慮することは必要であるものの,損害額の多寡が憲法34条との関係で直接問題となることはないというべきである。

そして,上記のとおり,本件裁判官の行為は違法なものであると認められ,控訴人が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円が相当である。

なお,控訴人は,憲法99条の立法趣旨は,裁判官による憲法違反行為に対しては制裁的趣旨から賠償額に制裁的な趣旨を盛り込むことを求めていると解すべきである旨主張する。

しかし,憲法99条は,要するに,公務員は憲法の規定及びその精神を忠実に守る義務を負うという趣旨であり,その精神に基づいて,人事官や国家公務員は,任命後,日本国憲法に服従あるいは遵守する旨の宣誓をする(国家公務員法6条,97条)ことになっているものの,憲法99条が,裁判官による憲法違反行為に対しては制裁的趣旨から賠償額に制裁的な趣旨を盛り込むことまでを求めていると解することはできない。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

(3)  当審主張(3)(最高裁判所判例違反)について

ア 控訴人は,原判決は,裁判官と同じ法律の専門家たる検察官による接見交通権侵害について「当該検察官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情がある場合に限られる」と限定しなかった最高裁判所平成3年5月10日第3小法廷判決の趣旨に反する旨主張する。

しかし,公務員の不法行為による損害につき,いかなる場合が違法行為に該当するか否か,及び損害の額等は,国家賠償法の立法趣旨に従って個別的に個々の具体例ごとに検討されるべきものである。

そして,裁判官の職務行為が違法となる場合は,訴訟法規,採証法則,経験則等に基づいて証拠の取捨選択及び事実認定を行った上,法令等に従って合理的に解釈したところを適用して事案を処理するという裁判作用を含む裁判官の職務行為の性質や内容及び上訴制度等を設けるとともに上級審の判断を最終的に正当なものとして,一定の裁判に終局性及び確定性の効果を付与するという裁判制度の仕組みの下で裁判を行うというその職務の特性等に鑑みると,その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情がある場合に限られると解するのが相当である。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

イ 控訴人は,裁判官の行為が国家賠償法1条1項の「違法」に該当する判断根拠について,最高裁昭和57年3月12日判決,最高裁平成元年3月8日判決を引用した原判決には誤りがある旨主張する。

しかし,上記のとおり,本件裁判官の行為が違法であるか否かは,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があるか否かの観点から判断されるべきである。

なお,控訴人は,本件裁判官の対応に鑑みると,最高裁昭和57年3月12日判決を適用すべきではないとか,本件は,裁判官の法の無知,怠慢であり,適正な法廷警察権の行使のように裁判官の判断が最大限に尊重されなければならない場合とは全く異なるから,最高裁平成元年3月8日判決を適用すべきではない旨主張する。

しかし,上記のとおり,裁判官が行う職務である限り,裁判官の職務行為の性質,内容等を問わず,裁判官の行為が違法となるのは,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の場合に限られると解するのが相当であり,特別な事情の該当性の判断に際し,当該職務行為の性質,内容,当該手続・裁判の性格ないし性質,不服申立制度の有無等を考慮することになるものというべきである。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

ウ 控訴人は,①弁護人等と被疑者との接見交通権は刑訴法81条によって禁止することができないことは,法律上一義的に明白である,②本件裁判官は,基本的な法律の適用の誤りを犯したばかりでなく,何度も再検討の機会が与えられ,かつ,自分が誤っていることは容易に知ることができたものであるから,違法性制限説に立脚した原判決には誤りがある旨主張する。

しかし,上記のとおり,裁判官の判断事項や行使した権限等を問わず,裁判官の行為が違法となるのは,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情がある場合に限られると解するのが相当である。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

(4)  当審主張(4)(損害)について

控訴人は,裁判官による接見交通権侵害の事案であり,勾留されている被疑者に対する注意事項等を記載した本件文書の授受を禁止したということを考慮すると,違法性の程度は大きいから,慰謝料を10万円とした原判決は低すぎる旨主張するところ,上記のとおり30万円が相当であるから,控訴人の主張は上記の限度で理由がある。

(5)  当審主張(5)(懲罰的損害賠償)について

控訴人は,懲罰的損害賠償として300万円の支払を認めるべきである旨主張する。

しかし,我が国において,加害者への制裁と一般予防は,刑事上又は行政上の制裁に委ねられているから,これらを目的とする賠償金の支払を受け得る懲罰的損害賠償制度は,我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則,基本理念と相容れないのであって(最高裁平成9年7月11日第2小法廷判決・民集51巻6号2573頁),我が国の現行の法制度のもとでは,懲罰的損害賠償の概念を導入することはできないといわなければならない。

控訴人は,裁判官の不法行為に対する行為抑制は,現行の国家賠償制度からは容易なことではないから,懲罰的損害賠償制度を採用する必要がある旨主張する。

しかし,上記のとおり,裁判官の裁判が違法となるのは,その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別な事情がある場合に限られるとすることには合理的な理由があり,裁判官による不法行為を抑制するために懲罰的損害賠償制度を導入するのが相当であるとの控訴人の主張は独自の見解であって採用できない。

したがって,控訴人の主張は理由がない。

第4結論

よって,以上と異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 藤田敏 裁判官 田邊浩典)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例