名古屋高等裁判所 平成15年(ラ)171号 決定 2003年6月06日
抗告人(被告) 丸和商事株式会社
上記代表者代表取締役 A
上記訴訟代理人弁護士 長野哲久
相手方(原告) X
上記訴訟代理人弁護士 瀧康暢
同 鈴木含美
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 原決定主文に「原告のその余の申立てを却下する。」を加える。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
抗告人の本件抗告の趣旨及び理由は、別紙即時抗告申立書記載のとおりである。
第2事案の概要
本件は、相手方を原告、抗告人を被告とする不当利得返還等請求事件について、民事訴訟法220条3項後段に基づき、相手方が抗告人が所持する原決定別紙物件目録2記載の文書の提出命令を求めた事案である。
原審は、原決定別紙物件目録1記載の文書(以下「本件文書」という。)について申立てを認容したことから、抗告人が即時抗告したものである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、相手方の文書提出命令の申立ては、原決定別紙物件目録1記載の文書の提出を命ずる限度で理由があるものと判断するが、その理由は、抗告人の主張に対する判断を加えるほか、原決定「理由」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 抗告人の主張について
(1) 抗告人は、業務帳簿は民事訴訟法220条3号後段の法律関係文書に該当しない旨主張する。
しかしながら、貸金業者は、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付の金額、受領金額等を記載しなければならないとされており(貸金業法19条)、この帳簿の記載内容によれば、業務帳簿またはこれに代わる書面(電磁的記録も含む。以下「業務帳簿等」という。)は貸金業者と債務者の間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書(民事訴訟法220条3号後段、231条)に該当すると認められる。
したがって、抗告人の主張は理由がない。
(2) 抗告人は、10年以上前の文書は処分し、現に存在しない旨主張する。
抗告人提出の証拠(乙3、4)によれば、段ボール箱を山積にしていたことと、平成14年4月25日に掛川市清掃センターに6130キログラムの廃棄物を持込んだことが認められる。
しかし、貸金業法施行規則17条1項は、業務帳簿等の保存期間につき「貸付の契約ごとに、当該契約に定められた最終の返済期日(当該契約に基づく債権が弁済その他の事由により消滅したときにあっては、当該債権の消滅した日)から少なくとも3年間保存しなければならない。」と定めているところ、証拠(乙2)によれば、抗告人と相手方との間には平成元年2月20日締結の金銭消費貸借契約があったこと、相手方は同契約については遅くとも平成12年2月18日まで返済していたこと(抗告人の契約証書(乙1)によれば、契約満了日に残債務があり、双方から何らの申出がない場合にはさらに契約を2年間自動継続できるものとし、以後も同様とされている。)が認められるから、平成元年2月20日締結の金銭消費貸借契約の業務帳簿は平成14年4月25日にはなお保存期間が経過しておらず、上記廃棄物の中に本件文書が含まれていたと認めることはできない。そして、他に上記廃棄物の中に本件文書が含まれていたことを具体的に裏付ける証拠はない。
また、電磁的記録についてこれを消去したことについては、具体的な裏付けがない。
したがって、抗告人の主張は理由がない。
(3) 抗告人は、保存義務期間を経過した文書は廃棄してもやむを得ないのであって、保存を義務づけられていない文書についてまで提出を求められると、永遠に文書を廃棄することができなくなり不当である旨主張する。
しかし、原決定は、抗告人に本件文書が存在することからその提出を命じたものであり、保存期間を経過していることを理由にその提出を拒否することはできないし、保存期間を経過した文書を廃棄せずに永遠に保管すべきことまでを命じたものではない。
したがって、抗告人の主張は理由がない。
(4) 抗告人は、貸金業者の帳簿備付け義務から取引経過開示義務を根拠づけることはできない旨主張し、最高裁判所平成15年3月13日決定を引用する。
しかし、原決定は、民事訴訟法220条3項後段、231条に基づいて本件文書の提出を命じたもので、帳簿備付け義務を理由に提出を命じたものではないから、抗告人の主張は理由がない。
第4結論
以上のとおり、相手方の申立てのうち、本件文書の提出を命じた原決定は相当であり、抗告人の本件抗告は理由がない。よって、本件抗告を棄却し、申立ての一部を却下することを遺脱した原決定主文にその旨を加えて更正することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 藤田敏 田邊浩典)
<以下省略>