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名古屋高等裁判所 平成15年(ラ)208号 決定 2003年8月01日

抗告人(基本事件被告)

有限会社甲山ミシン商会

同代表者代表取締役

甲山太郎

同訴訟代理人弁護士

糟谷忠男

古川勞

相手方(基本事件原告)

××販売株式会社

同代表者代表取締役

乙川次郎

同訴訟代理人弁護士

南舘欣也

北川ひろみ

主文

1  原決定を取り消す。

2  基本事件を東京地方裁判所へ移送する。

理由

(以下,略語は原決定に準ずる。)

1  本件抗告の趣旨は,別紙抗告状のとおりである。

2  事案の概要

(1)  基本事件(本案)及び本件

ア  基本事件は,相手方が,抗告人との間の××製品販売特約店契約に基づき,平成12年10月から平成14年8月までの間に販売したとするミシン及びその部品の代金3249万2096円から,反対債務を相殺した後の残金2984万5298円(本件売掛金請求権)と遅延損害金(年6分)の支払を求めるものである。抗告人は,本案の答弁をしていないが,基本事件が提訴される前に申し立てた調停での主張に照らすと,相手方主張の売掛金は平成6年8月から平成14年7月までの間のものであり,平成7年4月の債務の一部免除,平成14年7月の一部弁済及び平成11年3月より前からの債務不履行に基づく損害賠償請求権による相殺等を主張することが予想される。

イ  本件は,抗告人が基本事件につき,管轄違い(民訴法16条1項)及び遅滞を避ける等のため(同法17条)を理由として移送を申し立て,後者については撤回したものである。相手方は同申立てを争い,原審が管轄違いは認められないとして,上記申立てを却下したところ,抗告人がこれを不服として即時抗告した。

(2)  争いのない事実等

抗告人と相手方との間の××製品販売特約店契約の経緯及び相手方の東京事業所の概要等は,原決定2頁8行目<編注 本号281頁右段14行目>から3頁21行目<同282頁左段19行目>までのとおりであるからこれを引用する。要するに,抗告人は,その代表者の個人営業の時代であった昭和46年から,訴外会社(旧商号××ミシン販売株式会社)との間で,本件商品(ミシン等の商品)についての本件取引(××製品販売特約店契約に基づく継続的売買取引)をしてきたものであるが,平成11年3月31日,相手方が,抗告人の承諾を得て,訴外会社から本件取引の契約上の地位を承継したものである。

(3)  当事者双方の主張及び争点

ア  当事者双方の主張及び争点は,次項に当審での主張を加えるほかは,原決定の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2のとおりであるからこれを引用する。

イ  当審での主張

抗告人の本件抗告の理由は別紙抗告理由書のとおりであり,これに対する相手方の反論は別紙意見書(1)のとおりである。

3  争点に対する判断

当裁判所は,基本事件での請求に係る売掛金債権の義務履行地を相手方の東京事業所とする合意の存在することを認めることができ,原審裁判所に管轄を認めることができず,したがって,抗告人の管轄違いを理由とする本件移送の申立てには理由があり,基本事件を管轄裁判所である東京地方裁判所へ移送すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

(1) 上記争いのない事実等(原判示)と後記括弧内の資料によれば,①抗告人と相手方との本件取引は,抗告人と訴外会社との間の長年の本件取引を相手方において承継したものであるところ,訴外会社は昭和63年11月21日東京都中央区京橋<番地略>に支店を設け,同月22日にその旨の登記をし(甲1,2),この支店に設けられた量販営業部ないし東京管理部が,千葉県松戸市を本店所在地とする抗告人との間において本件取引を継続してきたこと(疎乙3,4,疎乙6の1ないし4,疎乙13),②相手方は東京都下に登記をした支店を有しないが,訴外会社の東京支店の事務所を引き継いだこと(疎乙8,17),③抗告人からの代金支払手形については,相手方において××販売(株)・東京管理部を受取人として振り出させ(疎乙1の2,7の2),平成13年8月までは「東京都中央区京橋<番地略>・××販売株式会社・東京管理部」が作成した代金の領収書を抗告人に交付してきたものであること(疎乙2の1ないし30),④相手方が疎外会社から本件取引を引き継ぐにあたっては,毎月の代金締切日及び支払日を変更した以外には,従前の契約を変更する取決めはされず,「従前の同一条件にて,手形,小切手の発行,交付または,譲受会社(相手方)が指定する銀行口座への振り込みによる」とされていること(甲6),以上の事実が認められる。

(2) 上記事実によれば,抗告人と訴外会社との間においては,本件取引による代金支払場所を訴外会社東京支店とする黙示の合意が成立していたものと推認できるところであり,訴外会社から契約を引き継いだ相手方においても,抗告人との間で上記支払場所に関する合意を承継しないなどの意向を示したことはなく,むしろ上記取扱いをそのまま踏襲してきたものであって,支払場所に関する合意を従前どおり承継したものと認められる。

(3) 相手方は,平成13年7月に東京管理部を廃止し,東京事業所の業務を本社で統括することとした(疎甲8)と主張するが,上記(原判示)のとおり,訴外会社の東京支店を引き継いだ相手方の東京事業所は相当規模の実体を有するものとして活動し,本件売掛金請求権に係る債権の決済のための手形を取り扱ってきたものであり,抗告人との間で代金支払場所に関する従前の合意を変更する旨の新たな取決めをした旨の主張・立証はなく,上記主張は上記判断を左右するものではない。

(4) そうすると,抗告人と相手方との間における本件取引に基づく代金支払義務の履行地は東京都中央区であり,相手方の本店所在地である名古屋市とはいえない。本件記録によっても,原審裁判所には基本事件の管轄原因があると認めることはできない。

してみれば,基本事件については,管轄違いとして管轄裁判所である東京地方裁判所へ移送すべきである。

4  結論

よって,その余の点について判断するまでもなく,抗告人の本件移送の申立てを却下した原決定は相当でないからこれを取り消し,基本事件を東京地方裁判所へ移送することとして,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官・田村洋三,裁判官・小林克美,裁判官・佐藤真弘)

別紙

抗告状<省略>

抗告理由書<省略>

意見書(1)<省略>

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