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名古屋高等裁判所 平成15年(行コ)11号 判決 2004年9月28日

控訴人(1審原告) 甲

同訴訟代理人弁護士 山口敬二

被控訴人(1審被告) 岡崎税務署長

梅田弘志

同指定代理人 大村百合枝

同 小林昭彦

同 真野重信

同 寺澤寿

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人が、控訴人に対し、平成12年3月10日付けでした次のアないしエの各処分〔ただし、平成13年3月27日付け名古屋国税不服審判所裁決により取り消された分(平成6年分の申告所得税のうち、本税の額12万1600円、加算税の額1万9500円)、1審において取り消された①平成4年分37万9050円、②平成5年分74万円、③平成6年分64万円、④平成7年分14万円、⑤平成8年分14万円、⑥平成9年分54万円、⑦平成10年分64万円に係る所得税及びこれらに係る加算税並びに⑧平成4年分13万9050円に係る消費税及びこれに係る加算税を除く。〕を取り消す。

ア 平成4年分、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分及び平成10年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

イ 平成5年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分

ウ 平成4年、平成5年、平成7年及び平成8年の各1月1日から同年12月31日までの各課税期間の消費税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分

エ 平成9年及び平成10年の各1月1日から同年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2  事案の概要

1  本件は、控訴人が行った平成4年から平成10年まで(本件係争各年度)の所得税、消費税及び地方消費税の各申告に対し、被控訴人が、商品の仕入れ金額及び旅費等交通費の経費の否認等を理由として、所得税(平成6年分は、審査裁決による一部取消後のもの)、消費税(平成6年、平成9年及び平成10年を除く)及び地方消費税(平成4年ないし平成8年を除く)の更正処分、過少申告加算税(消費税及び平成5年分の所得税に関するものを除く。)及び重加算税の各賦課決定処分(本件各処分)をしたことについて、控訴人が、それらの取消しを求めたところ、被控訴人が、これを争った抗告訴訟である。

原審は、被控訴人が否認する売上原価のうち、平成4年度の原判決別表7記載の④(取引④、表記方法は以下同じ。)以外については、これを相当と認め、売上原価以外の必要経費の否認は、平成4年分24万円、平成5年分74万円、平成6年分64万円、平成7年分14万円、平成8年分14万円、平成9年分54万円、平成10年分64万円の各部分は相当でなく、その余は相当であると認めた上、上記各金額を被控訴人主張にかかる必要経費に加算して、所得税については、納付すべき税額、過少申告加算税及び重加算税を算出すると、原判決別表11-1ないし7のとおりと、消費税については、平成4年課税期間の取引④にかかる仕入税額(仕入金額に103分の100を乗じた金額の3パーセント)を控除税額に加算して、納付すべき消費税額及び重加算税を算出すると、別表12のとおりとなるとして、控訴人の請求は、本件各処分のうち上記税額を超える部分を取り消す限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないとしてこれを棄却したため、控訴人が、これを不服として控訴した(なお、控訴人は、取引⑨及び同⑪について、予備的に貸倒損失として扱われるべきであると主張していたが、当審において、これを撤回した。)。

2  前提事実、本件の争点及びこれについての当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1、2のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決24頁7行目、25頁8行目から27頁2行目まで、28頁4行目の「(ただし、」から5行目の「主張する。)」まで、29頁の6行目、同頁22行目から30頁13行目までをそれぞれ削除する。)。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も、被控訴人が否認する売上原価のうち、取引④以外については、これを相当と認め、売上原価以外の必要経費の否認は、平成4年分24万円、平成5年分74万円、平成6年分64万円、平成7年分14万円、平成8年分14万円、平成9年分54万円、平成10年分64万円の各部分は相当でなく、その余は相当であると認めた上、上記各金額を被控訴人主張にかかる必要経費に加算して、所得税については、納付すべき税額、過少申告加算税及び重加算税を算出すると、原判決別表11-1ないし7のとおりと、消費税については、平成4年課税期間の取引④にかかる仕入税額(仕入金額に103分の100を乗じた金額の3パーセント)を控除税額に加算して、納付すべき消費税額及び重加算税を算出すると、別表12のとおりとなると判断する。その理由は、次項で原判決の訂正をし、第3項で控訴理由に対する判断をするほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1ないし11のとおりであるから、これを引用する。

2  原判決の訂正

(1)  原判決51頁14行目の「丁からBに同資金が」を「それが、控訴人とB、Bと丁の取引の結果」と改める。

(2)  原判決54頁7行目の「認められる。」を「認められ、さらに、証拠(乙16)によれば、控訴人は、丙に対して有していた手形債権1334万3400円と任意整理による配当金64万9714円との差額1269万3686円について、債権放棄した旨を平成5年分所得税青色申告決算書に記載し、上記差額を貸倒金として処理していることが認められ、控訴人と丙の間には、この時期に取引のなかったことがうかがわれる(丙に債権を有するにもかかわらず、同人に対し、相殺処理することなく現実に代金を支払い、自らの債権は、上記のとおり貸倒金として処理することは通常考えにくい。)。」と改める。

(3)  原判決55頁18行目の「主位的には」を削除する。

(4)  原判決56頁10行目から24行目を削除し、25行目の「しかしながら」を「そして」と改める。

(5)  原判決57頁5行目の「被告」を「控訴人」と改める。

(6)  原判決58頁15行目の「Jから」の後に「700万1500円」を加える。

(7)  原判決59頁13行目の「再交付の際に、」の後に「Jは、」を加える。

(8)  原判決60頁11行目の「同時に」から13行目までを「Q宅を訪問した国税調査官のY及びdに対しては、(本来はJが販売する約束だった商品を見せてもらったことを)話しておらず(乙2、なお、上記申述書中にも同旨の記載部分がある。)、上記調査に対する回答と一貫しないから(上記申述書中には、上記調査官に話をしなかったのは、質問が厳しくて気分が悪く、早く帰ってほしかったからとの記載部分があるが、わざわざ訪問してきた国税調査官に対して話をしなかった理由としては合理的でなく信用できない。)、上記申述書の内容はにわかに信用できず、これも、上記取引ぃの存在を証するものとはいえない。

3  控訴理由に対する判断

(1)  必要経費の立証責任について

控訴人は、原判決判示のとおり、課税庁が、その認定した収入を得るに通常必要と考えられる経費を主張、立証したときは、それを超える必要経費の不存在について事実上の推定が働くとするのは、必要経費が認められると所得額の減少により納税額の減少につながるため、課税庁は、必要経費の発生に関心を抱き、これに関する証拠の収集や保持について質問検査権を行使するのが通常であるから、課税庁にとって、一定金額を超える部分の不存在を具体的に主張、立証することは困難とはいえないこと、また、課税庁が認定した収入を得るに通常必要と考えられる経費を主張、立証したとする基準が不明確であることなどからすると、公平の見地に照らして相当でないと主張する。

しかしながら、わが国の租税制度は、いわゆる自己申告主義を採用し、事業を行う納税者が確定申告を行う際には、事業所得に係るその年中の総収入金額及び必要経費の内容を記載した書類を当該申告書に添付することが求められている(所得税法120条4項)ことなどから、納税者は、必要経費の発生に関する証拠の収集や保持に努めるのが通常である。そして、課税庁が、当該納税者から提示された資料を基に、通常行われる国税調査官による調査を実施することによって、その経費を主張、立証し、これがその認定した収入を得るに通常必要と考えられる金額に相当する場合には、これを超える必要経費の不存在について事実上の推定が働き、一応の立証がなされたと解するのが、公平の見地からみて相当であることは原判決判示(原判決45頁26行目から46頁9行目)のとおりである。そして、上記するところは、課税庁が、必要経費率に相当する一定金額の範囲の必要経費を認めさえすれば、当然に事実上の推定を働かせることによって、事実上立証責任を転換させるとするものではなく、あくまで課税庁が認定した必要経費が証拠により認められ、それが、当該収入を得るに通常必要と考えられる経費率を下回らなければ、通常の必要経費を控除したことになるので、それ以上の経費が必要であったことについては納税者に反証をさせるというものであるから、公平の見地からして何ら問題はなく、妥当であるというべきである。

なお、控訴人は、被控訴人の主張を前提にすれば、平成4年度から平成10年度の各粗利率は原判決別表6のとおりとなるから、平均21.45パーセントにもなり、かつ、年度によって差異が大きいから、当該収入を得るに通常必要と考えられる経費の立証はできていないと主張するが、継続事業において、年度によって粗利益率にある程度の差異があることは不自然なことではなく、被控訴人の上記主張はあくまで証拠に基づいて認めた金額が、当該収入を得るに通常必要と考えられる経費からみておかしくはないというものであるから、被控訴人の主張は理由がない。また、控訴人は、上記の粗利益率平均21.45パーセントは、岡崎市内の同業他社と比較して不当に高く、この点でも通常必要と考えられる経費の立証はできていないと主張し、甲90号証ないし93号証を提出するが、乙27号証の1ないし5、同28号証の1ないし10に照らし、直ちに採用できず、これをもとに、通常必要と考えられる経費率を下回っているとは認められず、控訴人の上記主張も理由がないというべきである。

そうすると、被控訴人が証拠に基づいて認めた売上原価は、必要経費として一応の立証ができており、これを超える必要経費の不存在について事実上の推定が働くというべきであるから、控訴人の上記主張は理由がない。

(2)  販売明細表の証拠力について

控訴人は、原判決は、販売明細表の基礎となった原資料はおよそ実態を反映しない虚偽のものとはいえず、かつ、控訴人が主張する仕入れと販売の対応関係については、控訴人主張の特定方法(原判決13頁2行目から14頁8行目)について、販売の原資料の中から、品番の付された商品あるいは品番のない商品を適当に選択し、これらと一致するような仕入れの際の請求書等を(意図的に)作成したものでない限り、合理性を有すると判示するところ、仕入れの際の請求書等が上記のように(意図的に)作成された旨の認定をしていないのであるから、販売明細表は当然に信用性があると判断されるべきであると主張する。

しかしながら、原判決は、販売明細表の証明力は、仕入れの際の請求書、納品書等の証明力次第であると判示するにすぎず、控訴人の上記主張のような理由をもって販売明細表の証明力を否定したものではないから、控訴人の上記主張は、原判決の理解を誤り、前提を欠くものであって理由がない。

また、控訴人は、販売明細表によれば、取引③、同⑧、同(22)、同(28)、同(30)、同(33)には、年末在庫が残存したことが認められるのであり、仕入れがないことはあり得ず、これを架空とすることはできないから、この点においても、販売明細表自体の証明力を否定した原判決は不当であると主張する。

確かに、ある特定の在庫が存在する場合、それを入手した事実が存在するはずであることは、控訴人の指摘するとおりである。しかしながら、その在庫品の入手経緯、方法等には、通常の取引以外の方法も含め様々な場合が考えられ、売上原価(仕入価格)を伴わない場合も考えられないではなく、年末在庫が残存することをもって当然に仕入れがないとまではいえないから、控訴人の上記主張も理由がない。

(3)  株式会社B(B)からの仕入れについて

控訴人は、取引①ないし同③、同⑤について、これを否定する名古屋国税局財務事務官作成の聴取書(乙1)におけるBの乙(乙)の申述の内容につき、取引の存在を認める部分とそうでない部分を区別し、認めない部分はその理由を明らかにしている(原判決50頁21行目から22行目)とはいえないし、乙は控訴人のいとこではあるものの、同じ会社に勤務していた際に、控訴人が乙より先に昇進したり、独立後も乙が倒産したのに対し、控訴人は現在も社長としてアパレルの仕事をしていることなどの事情に照らせば、(控訴人の立場を不利にする趣旨で)虚偽の申述をしないとはいえず、また、乙が、国税不服審判所における不服審査の際にも同趣旨のことを述べた(原判決50頁26行目から51頁1行目)のは、税務署に対し、一度述べた以上、国税不服審判所に対してもこれを撤回できなかったにすぎないから、上記聴取書と国税不服審判所における説明内容が一致していることは重視できないなどとして、上記乙の申述は信用できないと主張する。

しかしながら、上記申述は、原判決判示のとおり、取引①ないし同③、同⑤のように、大量の商品を控訴人に販売したことはなく、これに関する領収書、請求書、納品書及び為替手形などを渡したことがないなど、領収書の作成を認めている取引④と区別し、その理由も一応明らかにしており、また、控訴人がその他指摘する点についても、必ずしも乙の上記申述の信用性に疑問を生じさせ得る事情とまでは認められない。かえって、控訴人の主張によれば、Bは、控訴人に商品を販売し、倒産直前の切迫した資金繰りを回避しようとしたというのであり、そうだとすれば、取引②及び同③につき為替手形を取得し、その額面合計が約4000万円であったことからすれば、直ちにBの事業資金に回ってしかるべきと思われるところ、上記為替手形は、いずれも割り引かれることなく、支払期日に、丁によって取立てに回されていることは不自然というほかない。また、取引⑤について、原審控訴人本人は、Bの倒産後の在庫について、商品の引渡しなしに500万円を支払い、かつ、商品がそれ以上の価値を有することが判明したとして、追加の仕入代金も支払ったと供述するが、これが事実とすると、通常の商取引とは少なからず異なることになるが、これについての合理的な説明をしていないことは、原判決判示(原判決52頁2行目から7行目)のとおりである。さらに、上記為替手形とは別に、Bが振り出し、控訴人引受の為替手形も決済されているが、第二裏書人である丁は乙(Bの社長)と面識がなく(甲8)、原審証人丁は、この点(裏書人となった経緯等)について、記憶がないと供述するのみで合理的な説明をしていないから、上記手形金が、上記取引⑤の代金として、Bあるいは、その取引先としての丁に対して、支払われたと認めるには足りないというべきである。

したがって、取引①ないし③、同⑤がなされたことについて、これに沿う原審控訴人本人の供述等は信用できず、控訴人の上記主張は理由がない。

(4)  丙(丙)からの仕入れについて

ア 控訴人は、取引⑦及び同⑧の対象商品について、丙は、平成5年6月の債権者集会の席上では、債権者が関心を示す正規品の在庫について報告したにすぎず、自らの倒産後の生活を考えて、正規品以外(傷ものなど)の在庫商品を別に確保していた上、上記債権者集会後に返品された商品も相当量あり、これらが上記各取引の対象商品であったもので、倒産直後に控訴人にあてた丙からの手紙〔甲13の5、甲14の1(原判決では「納品明細」と記載)〕によっても裏付けられるところ、原判決は、正規品とそれ以外の商品を区別することなく、かつ、債権者集会時の状況のみを問題にし、上記手紙についての判断をすることもなく、上記各取引について排斥していると主張する。

原審証人丙は、取引⑦及び同⑧は、大筋として、自ら確保していた正規品以外の在庫品の売却であるとの趣旨の供述をし、前記債権者集会時に存在した正規品以外の在庫商品は、倉庫や自宅の納屋に保管していたと供述するものの、その量や具体的な保管状況についてはあいまいな供述をするにとどまっており(何百個単位のダンボール箱になるということであるか否かとの趣旨の質問に対し、「そこそこにはなりますね。」(原審証人丙の証人調書18頁)として、肯定とも否定ともつかない供述をしたり、納屋などにはそんなに物が入るのかとの趣旨の質問に対しても、「何箱くらい入るか、ちょっと分かりませんけどね。」、「そこそこ入ります。」(同19頁)などと供述するにとどまっている。)、また、このような在庫の存在に関する債権者の認識についても、「当然分かっていると思います。」(同4頁)と供述しながら、他方で「(債権者集会の代表であるW株式会社社長Xは)知らないと思います。」(同23頁)と供述したり、再び「(債権者は)そういう面での不良在庫はあったということは知ってると思います。」(同25頁)と供述するなど一貫していない。いずれにしても、上記債権者集会の前後を通じて1050万円もの正規品以外の在庫品が存在したこと及びこれらについて債権者らがなぜ問題としなかったのかなどについて納得させるに足る具体的な説明はなく、また、昭和税務署筆頭特別国税調査官Y作成の陳述書(乙2、以下「Y陳述書」という。)中の丙からの聴取内容(平成11年12月6日の電話によるもの)と明白にそごするにもかかわらず(Y陳述書においては、在庫の存在並びに取引⑦及び同⑧のような大規模な取引を明確に否定し、平成5年8月から12月までの取引について記憶がないと答えているのに対し、原審証人尋問においては、上記のとおり、正規品以外の在庫の存在を肯定した上、取引⑦及び同⑧以外に、同年10月、11月の同⑨ないし同⑭についても、ある程度具体的な供述をしている。)、上記説明内容の変化について、合理的な説明が全くなされていないのであるから、原審証人丙の上記供述を採用するのは困難というべきである。そして、上記のとおり、原審証人丙の供述等についての疑問は、前記丙が控訴人にあてた手紙の存在を考慮しても、解消されるものではない(なお、原審証人丙は、上記手紙について、前もって商品の話は控訴人にしていたので、商品とともに直接控訴人のところへ持参したものであると供述するところ、甲13の5の記載内容からすると、控訴人に対し、事前に話をしていたことが前提になっているものとは考えにくく、上記手紙が原審での審理途中で初めて提出されたとの事情も合わせて考慮すると、その存在自体はもちろん、記載内容自体の信用性にも疑問を抱かせるものである。)。

イ 控訴人は、取引⑩、同⑫ないし同⑭について、丙は、自分が捌ききれない商品について、控訴人に購入してもらうことでその販路を確保し得たのであって、丙に商品を委託していたMにとっては、原判決が判示するような委託商品の確保、回収を急ぐ必要はなかったから、上記取引に関する控訴人の主張は正当であると主張する。しかしながら、上記主張に沿う原審証人丙の証言及びこれに沿う書証等が、上記取引について、その時期や規模の観点からこれを否定するY陳述書中の丙からの聴取内容に照らして採用できないことは、原判決判示(原判決54頁17行目から55頁8行目)のとおりであり、仮に、委託者にとって、委託先が倒産した場合、必ずしも委託商品の確保、回収を急ぐとは限らない場合があるとしても、そのことをもって、上記証言等を採用すべき理由とはならない。

ウ 控訴人は、取引⑨及び同⑪について、結果的に高値の仕入れになってしまったにすぎないから、単価が高すぎることをもって仕入れを否定する理由にはならないとか、同⑰ないし同⑲について、取引から6年を経過した日付の台湾の業者作成の請求書を提出したのは、後に裏付けとなる請求書を送付してもらったからであるにすぎず、訴訟における防御方法として自然な行為であるから、作成日付が取引から長期間経過していることをもって、その信用性を否定する理由とはならないなどとも主張するが、いずれも原判決の判断を左右するものではない。

(5)  Jからの仕入れについて

控訴人は、原判決が、控訴人において、危険を冒してまでもJの金融に協力することについて肯定できる説明がなく、身元不明の戊を紹介するのも不自然であると判示した点について、Jの社長のPは、控訴人の独立創業時の恩人であり、旧知の丁から紹介された戊を紹介して、その金融に協力することは何ら不自然なことではないし、また、Jが戊から仕入れた商品代金の支払いのため振り出された為替手形(甲19の3)を控訴人が引き受けた後、代金を受領すべき戊に交付せず、Jが再度受領して保管していたのは不自然であるとして、また、原審控訴人本人の説明は不合理であると判示した点について、原審控訴人本人の説明は、Jが仕入れた商品である以上、同社が手形を振り出すべきであるとの趣旨にすぎず、何ら不合理ではないと主張する。

しかしながら、単に恩人として世話になったとか、旧知の者の紹介であるということのみでは、金融手段のなかったJに対し、身元不明の人物(戊)を紹介して約700万円もの金融に協力する理由として納得できるものではない上、原審控訴人本人の供述内容(原判決57頁26行目から58頁8行目)を前提にする限り、Jの金融手段として、Jが仕入れた商品を売却して、その代金を手形で受け取る必要があるのに、J自身は、販売先の手当もしていなかった上、平成7年1月初め(Jが不渡手形を出す約2か月前)に、控訴人は、戊から商品を受け取っていたが、Jが既に倒産状態にあったため、直ちにその一部をほかに売却したと述べる(原審控訴人本人)が、控訴人本人が、当初、商品をJに渡そうと考えているうちにJが倒産した(不渡手形を出した)と供述していたことと内容的に矛盾し、変遷していることが明らかである。さらに、上記のとおり、ほかに商品を売却しているにもかかわらず、Jに手形を渡し、同年1月19日付けで額面額相当の領収書(甲19の1)を作成した(原審控訴人本人)というのも、取引の流れからみて一貫せず、いかにも不自然である。そうすると、原判決の上記判示は、いずれも妥当であり、控訴人の上記主張は当たらないというべきである。

(6)  戊からの仕入れ(取引(25))について

控訴人は、取引(25)の決済に使用された為替手形が、Kとの取引において誤って余分に作成された1通であることについて、手形用紙は銀行から取得して管理するものであり、貼用印紙代を無駄にしないために破棄せずに流用することを考えるのは当然であって不自然ではないと主張する。しかし、原判決判示のとおり、誤って余分に作成したことのほか、(作成済みの余分な為替手形の流用であるにもかかわらず)その額面額と戊からの仕入商品の代金とが一致すること自体、偶然とはいえ疑問があり、容易に信じ難く、この点からも、上記為替手形が、戊との取引の決済として使用されたことを疑問視せざるを得ないものである。また、控訴人は、戊に関する原審証人丁の証言は、被控訴人の丁に対する質問応答書(乙5)及びg税理士の丁に対する聴取書(甲41の2)の各内容と一致し、一貫しており、商売をする者は、一度会ったら顔や名字くらいは忘れないものであるから、上記証言を信用できないとした原判決は不当であると主張するが、これは独自の評価であって、上記証言が不自然で信用できないことは、原判決判示のとおりである(原判決62頁7行目から22行目)。さらに、原審控訴人本人は、仕入商品の量を具体的に答えられないことについて、社長自身は納品書の荷受けに直接タッチしていないからであると主張するが、納品書等が存在しない上に、供述自体も具体性を欠き、そのこと自体からも疑問があることは否定できず、単に、控訴人が引き受けた為替手形が決済されたとの事実をもって、当然に手形金が戊に支払われたとは断定できず、上記疑問を覆すには足りないというべきである。

(7)  その他、控訴人がるる主張するところは、いずれも独自の見解であって、原判決の判断を左右するものではない。

第4  結論

よって、控訴人の請求は、被控訴人が控訴人に対し、平成12年3月10日付けで行った平成4年分、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分及び平成10年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分のうち、それぞれ原判決別表11-1、3ないし7に記載された各金額を超える部分、平成5年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分のうち、同表11-2に記載された金額を超える部分、平成4年1月1日から同年12月31日までの期間の消費税の更正処分及び重加算税賦決定処分のうち、別表12に記載された金額を超える部分の各取消しを求める限度で理由があり、その余は理由がないから、上記理由のある限度でこれを認容し、その余を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 佐藤真弘 裁判官 山崎秀尚)

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