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名古屋高等裁判所 平成15年(行コ)27号 判決 2004年1月21日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,Aに対して,2106万5100円を請求せよ。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,犬山市の住民である控訴人らが,犬山市が都市基盤整備公団(以下「公団」という。)との間で締結した業務委託契約が,地方自治法(以下「法」という。)234条2項,地方財政法(以下「地財法」という。)4条1項などに違反した違法なものであり,同契約に基づく委託代金の支払も違法であると主張して,法242条の2第1項4号に基づき,犬山市の市長(執行機関)である被控訴人に対して,公金を支出した市長個人に同代金相当額の損害賠償を請求することを求める住民訴訟を提起した事案である。

原審は,控訴人らの請求を棄却したので,控訴人らが控訴した。

2  前提事実,争点,当事者の主張(要旨)は,以下に当審主張を付加するほか,原判決の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。

3  控訴人らの当審主張

(1)  地財法4条1項について

原判決は,必要性がない契約,公金支出であっても,その程度が著しく当該契約の法的効力を否認しなければ法令の趣旨を没却する場合でない限り,違法,無効ではないとする。

しかし,地財法4条1項は,目的を達成するために必要かつ最小限度を超えて支出してはならないと規定しているのであり,同文言に照らすなら,明らかに必要性がない契約の締結及び公金支出,明らかに過大な経費負担をもたらす契約及び公金支出は,それだけで直ちに地財法4条1項に反するというべきである。

また,原判決は,地財法4条1項に違反する契約が無効となる場合の要件と,その履行としての公金の支出が違法となる要件を一体として論じている。

しかし,地財法4条1項に違反する契約が無効となるか否かについては,契約の相手方の取引の安全を考慮しなければならないから,契約が無効となる場合は自ずから制限されることになるのに対して,公金支出の違法性の判断にあたってはそのような考慮は必要ない。したがって,原判決は,地財法4条1項を不当に限定解釈するものである。

(2)  本件委託契約の必要性の不存在について

ア 原判決は,本件委託契約は,犬山市が平成12年7月に都市基盤整備公団に対して行った基本計画策定委託契約を前提としつつも,その後の事情を考慮するとともに内容を深化させて具体的な検討資料を提示する目的を有していたから,両者は重複しないとする。

しかし,基本計画策定委託契約の結果得られた報告書は,本件事業の基本計画の概略を示すものとしては十分な内容となっているから,その基本計画の具体化等のための調査検討作業を,多額の公費を支出して外部業者に委託するのは,将来,基本計画の大幅な見直しや計画の中止等により,その検討業務が無駄なものとならないことがほぼ確実となった段階,すなわち,基本計画について住民,地権者の間で基本的な合意が形成されてから行うべきである。

ところが,犬山市の策定した基本計画については,その前提である犬山市庁舎の移転等に対して,α地区の大半の地権者,地元の商店街等から強い反対の声が上げられていたから,その時点で,当該基本計画の推進は早くもかなり危ぶまれていた。

したがって,その時点で,当該基本計画のさらなる具体化の検討業務を外部に委託するのは,明らかに行き過ぎた措置であり,必要性のない業務委託契約であることは明らかである。

イ 原判決は,本件事業の実現可能性について,区画整理事業が組合施行に限られないこと,発展会の要望書は本件事業自体に反対する趣旨ではないこと,地権者の意向は不変ではないこと等を理由として,本件事業が確定的に実施不可能なものであるとは限らないとする。

しかし,犬山市は,本件地域の土地区画整理事業を組合施行として行う方針であり,犬山市が施行主体となることは全く念頭に置いていない。また,原判決のいう「本件事業」が何を指すのか明らかではないが,発展会の要望書が犬山市庁舎の移転を前提としたα再整備事業に対して明確かつ断固とした反対を表明し,その姿勢は極めて強固なものであるから,犬山市庁舎移転を前提とするα再整備事業はその実現が著しく困難であることは,本件委託契約締結当時においても明白であった。

なお,犬山市庁舎の敷地部分は,犬山市がB家から市庁舎に使途を限定した上で取得し,市庁舎としての使用を中止した場合には,B家に返還するという約束がなされている。したがって,犬山市は,市庁舎を別の場所に移転した場合には,B家から取得した部分を返還しなければならず,しかも,B家の後継者であるCは,市庁舎移転を前提とするα再整備事業に反対しているから,α再整備事業はその実施が殆ど不可能となる。

ウ したがって,原判決が,本件委託契約の必要性について事実を誤認したことは明らかである。

(3)  都市再開発法3条について

ア 原判決は,地区内区画道路が幅員が狭いこと,老朽化した建物が多く存在すること,駅前に位置しながら大型店舗跡の遊休地が存在することから,都市再開発法3条3号の要件を満たすとしている。

しかし,都市再開発法3条3号は,土地の利用状況が「著しく不健全」であることを要求しているところ,①本件計画区域は,駅前地域であって住宅街ではないから,子供たちにとって遊ぶ場所,といったものが必要な区域ではない,②自動車の通過が頻繁な駅前の道路には両側に歩道があり,他にこの施行区域内で車の通りが頻繁なところはなく,現存する道路で十分である(なお,α地区に隣接する県道旧41号線及び駅前から西に伸びる道路については,平成12年度までに区画整理の計画が立てられ,平成13年度,15年度と工事が行われた結果,道路の幅員は大幅に改善された。),③α地域は市役所や病院等の公共施設が整備された地域である(なお,市庁舎,D病院は建築から相当年数が経過しているものの,建替えが急務であるとはいえない。),④α地域内には,市庁舎,D病院,E車庫の他,駐車場があり,それぞれ相当規模の利用面積を有しており,全体として宅地が細分化されている地域とは到底いえない,ことからすると,α地区が,「土地の利用状況が著しく不健全」といえないことは明らかである。

イ 原判決は,地域型密着店舗や病院の建て替え等により都市機能の更新に貢献するから,都市再開発法3条4号の要件を満たすとした。

しかし,市庁舎の移転により,α地区の集客能力が低下することは避けられない。市庁舎を移転させてα地区の集客能力を奪っておきながら,多額の公費を投入して商業テナントビルを整備する等というのは,自己矛盾も甚だしい開発計画というべきである。さらに,D病院の建替えは,民間病院の補修あるいは近代化にすぎないのであって,これが犬山市の都市機能の更新に寄与する等というのは,全く理由にならない。なお,D病院は,平成15年10月,民事再生手続に入り,事実上倒産したが,本件委託契約締結当時,犬山市当局は,D病院が経営危機に陥っており,自力で再建することができないことを当然知っていたはずである。

ウ したがって,原判決には誤りがある。

(4)  法234条2項,法施行令167条の2第1項について

ア 原判決は,法施行令167条の2第1項2号の解釈として,最高裁昭和62年3月20日判決を引用した上で,本件業務が「幅広い経験」と「十分な専門知識」が不可欠として「競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当でない性質の契約であると解される」とし,公団の目的・資格・実績,委託契約との連続性の確保の点及び公団の性格等を「総合的に考慮」した結果,公団への業務委託は合理的裁量の範囲内であると判断した。

しかし,上記最高裁判決も指摘するように,地方公共団体の契約の締結方法に制限を加えている法234条2項,法施行令167条の2第1項の趣旨は,「契約の公正及び価格の有利性を図ること」にある。すなわち,契約の公正及び価格の有利性を確保するためには,特定の業者に個別に委託するのではなく,多数の業者に競争をさせるという入札方式がもっとも適切であるという観点から,法234条2項は随意契約という契約締結方法を原則として認めないとしたのである。したがって,随意契約について定めた法施行令167条の2第1項2号の解釈においても,あくまで例外的規定という本質に立ち返り,その適用範囲は,原則として競争入札の方法によることが不可能または著しく困難な場合に限られると解釈すべきである。

したがって,上記最高裁判決は,法234条2項,法施行令167条の2第1項2号の趣旨に反するものであるから,これを前提とする原判決には誤りがある。

イ 仮に,上記最高裁判決に従うとしても,本件では合理的裁量の範囲を逸脱していることは明らかである。

すなわち,原判決は,契約の相手方としての公団が債務超過にあることや失敗例があることなどを認定しつつも,犬山市が結果として公団に委託することを妥当と判断したことは合理的な裁量の範囲内とした。しかし,何かあっても税金で填補すればよいという安易な発想が現在の行政の本質的な問題であり,この考えを正さなければならないから,犬山市が公団に委託したことを合理的な裁量の範囲内とすることは,財政の健全化が叫ばれている今日においては許されない。

また,原判決は,価格の有利性という点については,「本件委託代金が過大とはいえない」とするものの,価格の有利性を検討していない。

したがって,原判決には誤りがある。

(5)  犬山市契約規則24条の2について(当審における新主張)

犬山市契約規則(以下「市規則」という。)24条の2は,「契約担当者は,随意契約により契約をしようとするときは,なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならない。ただし,法令によって価格の定められているもの,契約金額の総額が3万円を超えないものその他市長が必要でないと認めるときは,この限りではない」と規定しているところ,本件委託契約では2人以上の者から見積りをとっていない。

したがって,本件委託契約は,上記規定に反することは明らかである。

なお,被控訴人は,市規則は,法施行令167条の2第1項2号に定める「その性質又は目的が競争入札に適しない」ものについては適用されない旨主張する。

しかし,①市規則24条の2は,「随意契約による契約をしようとするとき」と定めているのであり,「法施行令167条の2第1項第1号に基づき,随意契約により契約を締結しようとするとき」とは定めていない,②「24条の2」という枝番で規定されている場合は,後に独立の条項として挿入された規定であって,24条との連続性があると解する必然性は全くない,③市規則24条は,法施行令167条の2第1項第1号に基づき,随意契約が許される少額な契約の限度額を定めているが,24条の2は,仮に随意契約で契約する場合でも,なるべく複数の見積りをとって契約することが地方自治体の利益になるという理由から定められた規定であり,24条と24条の2は,別個の観点,理由に基づく独立の規定であると解するのが妥当であることを考慮すると,被控訴人の主張は理由がない。

また,実質的にも,法施行令167条の2第1項2号の要件(「契約の性質上又は目的が競争入札に適しない」)を満たす場合であるため,随意契約により契約を締結する場合でも,当該随意契約の価格を地方自治体にとって有利なものとするためには,当該契約締結の相手方以外の事業者からも見積りを徴収することが必要かつ有益である。したがって,法施行令167条の2第1項2号の要件に該当する場合でも,当該契約の目的である業務や物品納入等を行いうる事業者が存在しない場合はともかく,そうでない場合には,当然,できるだけ複数の見積りを徴収することが義務付けられていると解すべきである。

4  被控訴人の応答

(1)  当審主張(1)(地財法4条1項)について

争う。原判決は,不必要あるいは過大な経費負担をもたらす契約が締結された場合には,その契約締結行為は「違法として評価されることがあり得る」と判示した上で,「その程度がさらに著しく,当該契約の法的効力を否認しなければ,前記各法条の趣旨を没却すると考えられる場合には,当該契約は無効となり,したがって,その履行としての公金の支出も違法と判断されることがあり得る」と述べている。

したがって,これと異なる控訴人らの主張は,独自の特異な立論である。

(2)  当審主張(2)(本件委託契約の必要性の不存在)について

ア 同アは争う。市庁舎問題は,全市民の問題であって,α地区の地権者だけが市庁舎問題について決定権を有しているものではない。控訴人らの主張は,一部の住民が市庁舎移転に反対しているという事実を,α地区の再整備事業そのものに反対しているかの如く主張しているに過ぎず,失当である。

イ 同イのうち,B家との返還約束の事実は否認し,その余は争う。現実に事業を実施するという場合には,事業主体を含め最善の方法を選択し,決定することになるが,現在行われているのは,本件事業を行うための多方面にわたる検討作業であり,組合施行が決定されているものではない。また,原判決がいう本件事業がα再整備事業を意味し,控訴人らがこれに反対するものではないことは明らかである。

そもそも,本件委託契約は,あくまでも地権者の意向を踏まえ,多くの地権者が合意できる可能性の高いプランの検討や事業の採算性の追求など,事業化へ向けた様々な課題について検討を深める事業化のための検討が目的である。このような大きな事業について,慎重な検討が必要であり,そのために専門家等の意見を聴取することが必要とされるのは当然である。

(3)  当審主張(3)(都市再開発法3条)について

ア 同アは争う。都市再開発法3条3号の要件に適合していることは明らかである。なお,控訴人らが主張する整備済道路は,本件事業の対象区域外のものであり,本件事業の対象区域内の道路は,狭隘で未整備なままの状態である。

イ 同イのうち,犬山市は,本件委託契約締結当時,D病院が経営危機に陥り,自力で再建できないことを知っていたとの事実は否認し,その余は争う。なお,D病院が倒産する事態に陥ったとしても,再整備の必要性がより高まることはあっても,減少するというものではないし,本件事業の検討に重大な影響を及ぼすものでもない。

(4)  当審主張(4)(法234条2項,法施行令167条の2第1項)について

ア 同アは争う。本件委託契約は,原判決も認定するとおり,「幅広い経験」と「十分な専門知識」を有する者が行うことが不可欠であり,「競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当でない性質」のものである。

イ 同イは争う。公団は,犬山市が本件事業の事業化検討業務の仕様書(甲4)によって期待する成果をもたらす技術,経験等を持ち合せた組織であることは明らかであり,しかも,法律に基づいて設立された国の特殊法人で,その性格からして,本件委託契約を締結するにあたり,十分な資力,信用をもつ法人であることも明らかである。そして,本件では既に契約の成果物を得ている。また,本件委託契約における委託金額の積算については,十分に積算を行った上で契約を締結している。

(5)  当審主張(5)(市規則24条の2)について

争う。市規則24条の2は,法施行令167条の2第1項1号が定める「普通地方公共団体の規則」に該当し,売買・貸借・請負その他の契約でその予定価額が比較的少額のものについては,入札ではなく随意契約によることができるが,この場合においても見積書をとってなるべく競争させることとしたものである。したがって,市規則24条の2は,法施行令167条の2第1項2号に定める「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」には適用されない。

仮に,本件随意契約に市規則24条の2が適用されるとしても,同規定は,「なるべく」という文言があるとおり,努力規定として定めているものである。したがって,控訴人らの主張を前提としても,複数の見積書を取っていないことが,直ちに違法となるものではない。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人らの請求を棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下のとおり原判決を付加訂正し,当審主張に対する判断を付加するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の付加訂正

(1)  原判決12頁4行目の「地方公共団体」から同15行目末尾までを以下のとおり改める。

「当該地方公共団体が意図した行政目的を実現させるため,当該契約の目的,性質,給付内容,締結に至った経緯等を社会的,政策的及び経済的見地から総合的に検討しても,当該地方公共団体にとって明らかに不必要な契約であるかあるいは著しく過大な経費負担をもたらす契約であって,裁量権の範囲を逸脱し,あるいは濫用したと認められる場合には,当該公金の支出が地財法4条1項に違反するものとして違法なものとなると解するのが相当である。」

(2)  原判決13頁12行目の「協議会の委員」の次に「21名」を付加し,「犬山議会」を「犬山市議会」と改め,同13行目の「商工会議所の代表者」の次に「5名」を付加する。

(3)  原判決23頁10行目の「本件事業」の前に「α地区の活性化を目的・内容とする」を,同14行目の「提示される」の前に「市庁舎の移転問題の帰趨,」を,同15行目の「本件事業」の前に「市庁舎の移転を前提とする内容の」を,同17行目の「本件事業」の前に「α地区の活性化を目的・内容とする」をそれぞれ付加する。

(4)  原判決24頁25行目の「というべきであるから」を以下のとおり改める。

「であり,市庁舎跡地を含めたα地区について本件事業を行うことは,これを行わない場合と比較すると,都市の機能の更新に貢献すると認められるから」

2  控訴人らの当審主張に対する判断

(1)  当審主張(1)(地財法4条1項)について

控訴人らは,地財法4条1項の文言に照らすなら,明らかに必要性がない契約の締結及び公金支出,明らかに過大な経費負担をもたらす契約及び公金支出は,それだけで直ちに地財法4条1項に反するというべきである旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,当該地方公共団体が意図した行政目的実現のため,当該契約の目的,性質,給付内容,締結に至った経緯等を社会的,政策的及び経済的見地から総合的に検討しても,地方公共団体にとって明らかに不必要あるいは著しく過大な経費負担をもたらす契約であって,裁量権の範囲を逸脱し,あるいは濫用したと認められる場合には,当該公金の支出が違法なものとなると解するのが相当である。

(2)  当審主張(2)(本件委託契約の必要性の不存在)について

ア 控訴人らは,基本計画策定委託契約によって得られた報告書は,本件事業の基本計画の概略を示すものとしては十分な内容であり,本件委託契約が締結された当時,基本計画の推進が危ぶまれる状態であったのであるから,基本計画について住民,地権者の間で基本的な合意が形成される前に本件委託契約を行う必要は全くなかった旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,本件委託契約は,基本計画策定委託契約を前提としつつも,その後の事情を考慮するとともに,内容をより深化して具体的な検討資料を提示する目的を有していたと認められ,また,本件事業が実施不可能であったとも認められないから,本件委託契約が明らかに不必要なものであったとはいえない。

イ 控訴人らは,組合施行による区画整理事業は地権者らが反対し,犬山市も施行主体になる意思がない以上,事業を行うことは著しく困難である旨主張する。

確かに,地権者の大半の者が基本計画に反対しているとの控訴人らの主張に沿う証拠(甲10,20ないし22,24,当審控訴人F本人)があり,また,平成12年9月の犬山市議会においてG市長公室長が「この事業は,市だけで進めるというわけにはまいりません。地権者の皆さんが主体となった組合方式での事業を進めるべきではないかと,現時点では考えております」と答弁している(甲17)ことが認められる。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,地権者らの意向が将来も不変であるとは限らないし,また,上記答弁も現時点における市の方針であって将来も不変であることを明言するものではないから,土地区画整理事業を行うことが不可能であるということはできない。

また,控訴人らは,市庁舎移転を前提とする本件事業を実施することが不可能な理由として,犬山市とB家との間で,市庁舎としての使用を中止した場合には,市庁舎敷地をB家に返還するという約束がなされていることをあげ,C作成の意見書(甲24)には控訴人らの主張に沿う記載部分がある。

しかし,控訴人ら主張の返還合意の存在を裏付ける契約書等の具体的な証拠はないから,上記意見書の記載部分はにわかに採用できず,他に返還合意の存在を認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件委託契約が明らかに不必要なものであったとはいえない。

ウ したがって,控訴人らの主張は理由がない。

(3)  当審主張(3)(都市再開発法3条)について

ア 控訴人らは,α地区は都市再開発法3条3号の要件(土地の利用状況が著しく不健全)を満たしていない旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,地区内区画道路は幅員が狭く,車両の通行に支障を来していること,老朽化した建物が多く存在すること,駅前に位置しながら大型店舗跡の遊休地が存在していることが認められるから,α地区が上記要件を満たすことは明らかである。

なお,控訴人らは,α地区に隣接する県道旧41号線及び駅前から西に伸びる道路については,平成13,15年度に工事が行われた結果,道路の幅員は大幅に改善された旨主張するが,拡幅した道路は地区内区画道路ではないから上記認定を左右するものではない。

したがって,本件委託契約が明らかに不必要であったとはいえない。

イ 控訴人らは,市庁舎の移転により集客力が落ちるのに,多額の公費を投入して商業テナントビルを整備する等というのは,矛盾している旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,仮に本件事業の実施に伴い市庁舎が移転する事態となっても,これを上回る効果をもたらす事業計画を立案,提示することは可能であると認められる。

なお,控訴人らは,本件事業の対象となっているD病院が民事再生の申立をしたことについて,犬山市は,本件委託契約締結当時,D病院が経営危機に陥っており,自力で再建することができないことを知っていた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件委託契約が明らかに不必要であったとか,著しく過大な経費負担をもたらす契約であったとはいえない。

ウ よって,控訴人らの主張は理由がない。

(4)  当審主張(4)(法234条2項,法施行令167条の2第1項)について

ア 控訴人らは,随意契約について定めた法施行令167条の2第1項2号の適用範囲は,原則として競争入札の方法によることが不可能または著しく困難な場合に限られると解すべきである旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,個々具体的な契約ごとに当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,当該地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量に基づいて判断されるべきものと解するのが相当である。

イ 控訴人らは,上記のとおり解するとしても,本件事業が失敗すると税金で填補せざるを得なくなるが,公団は債務超過にあり,また公団が扱った案件について失敗例があるから,公団に委託したことが合理的な裁量の範囲内とすることは,財政の健全化が叫ばれている今日においては許されない旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,控訴人らが主張する失敗例が主として公団の判断の誤りに起因するとは認められないから,公団に委託したことが合理的な裁量の範囲を逸脱したものであるとはいえない。

また,控訴人らは,原判決は,価格の有利性という点については,「本件委託代金が過大とはいえない」とするものの,価格の有利性を検討していない旨主張する。

しかし,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,本件委託契約を遂行する能力を公団は有しており,実績も他の民間業者の追随を許さないものであり,本件委託代金が過大であるとは認められない以上,価格の有利性について特に検討することなく本件委託契約を締結したことが,合理的な裁量の範囲を逸脱するものであったとはいえない。

ウ したがって,控訴人らの主張は理由がない。

(5)  当審主張(5)(市規則24条の2)について

控訴人らは,本件委託契約は,随意契約の場合でも2人以上の者から見積書を徴することを定めた市規則24条の2に違反している旨主張する。

ア 証拠(甲18)によれば,

(ア) 市規則1条は,「この規則は,地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下「令」という。)第173条の2の規定に基づき,法令その他別に定めがあるものを除くほか,契約について必要な事項を定めるものとする。」と規定していること

(イ) 市規則「第3節 随意契約」は,24条,24条の2及び25条に規定されている。

24条は,「令第167条の2第1項第1号の規定により随意契約によることができる契約は,その予定価格(貸借の契約にあっては,予定賃借料の年額又は総額)が別表左欄に掲げる契約の種類に応じ同表右欄に定める金額以下のものとする。」

24条の2は,「契約担当者は,随意契約により契約をしようとするときは,なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならない。ただし,法令によって価格の定められているもの,契約金額の総額が3万円を超えないものその他市長が必要でないと認めるときは,この限りではない。」

25条は,「契約担当者は,随意契約によろうとするときは,あらかじめ第14条の規定に準じて予定価格を定めなければならない。ただし,市長が必要でないと認めるものについては,この限りではない。」と規定していることが認められる。

そして,犬山市は本件委託契約締結の際に公団以外の者から見積書を徴したことがなく,公団からも見積書を徴していないことは,争いがない。

イ 市規則1条の規定,市規則24条の2の文言等を考慮すると,市規則24条の2は,随意契約一般についてなるべく2人以上の者から見積書を徴することを定めた規定であると解される。

この点,被控訴人は,市規則24条の2は,市規則24条により随意契約によることができる契約についての規定であって,法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するため随意契約による場合には適用されない旨主張する。

しかし,市規則24条の2は,上記のとおり「契約担当者は,随意契約により」と規定し,24条による随意契約の場合に限定していないこと,法施行令167条の2第1項は,随意契約においても予め選定した数人の業者に見積書を提出させることや,予定価格を定めることを禁止するものではないと解されること,契約の内容等からこれを履行するためには専門的知見が必要であるとか,契約の内容が極めて特殊な分野である場合等には,契約の相手方が自ずから1人に限定される場合もないとはいえないが,2人以上の者がいる場合も多いと考えられるから,2人以上の者から見積書を徴するということは十分可能であること,同規定は,2人以上の者から見積書を徴することにより,契約の相手方の選定が一部の者に偏し,情実に左右され,犬山市にとって不利な価格で契約が締結される恐れを防止するために設けられた規定であると解するのが相当であることを考慮すると,被控訴人の主張は採用できない。

ウ 上記のとおり,本件委託契約においては,2人以上の者から見積書を徴したことがないところ,市規則24条の2は「なるべく2人以上の者から見積書を徴さなければならない」と規定しているから,ただし書の例外に該当しない場合の全ての案件について2人以上の者から見積書を徴することを求めるものではない。

もっとも,市規則24条の2の規定の趣旨は,契約の相手方の選定が一部の者に偏し,犬山市にとって不利な価格で契約が締結される恐れを防止するというものであると解されるから,単なる努力義務にすぎないと解することはできないが,上記のとおり,随意契約によるか否かは,個々具体的な契約ごとに当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,当該地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量に基づいて判断されるべきものと解するのが相当であるから,随意契約の相手方の選定についても,個々具体的な契約ごとに相手方の資力,信用,技術,経験等諸般の事情を考慮して,当該地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量に基づいて判断されるべきものであること,及び市規則24条の2の趣旨に鑑みれば,2人以上の者から見積書を徴しなかったことが違法となるのは,同程度の能力・技術・信用等を有する者が複数いるにもかかわらず,合理的理由なくして1人の者に限定し,かつ,同人が提示した金額が不当に高額であることを認識又は容易に認識することができたにもかかわらず,他の業者からの見積書を徴することなく,そのまま契約を締結した場合等,契約担当者の裁量の範囲を著しく逸脱し,あるいはこれを濫用した場合に限られるというべきである。

本件の場合,上記(引用にかかる原判決,付加訂正後のもの)のとおり,公団は,市街地再開発事業の施行主体たる資格を有し,市街地再開発事業に携わった実績は他の民間業者の追随を許さないものであり,先行した基本計画策定委託契約の相手方も公団であったこと,犬山市は予め公団から見積書を徴していない(なお,都市基盤整備公団法28条の規定により公団は委託により初めて業務を行うことができるとされている。)が,犬山市においても本件委託契約締結の前に委託料の積算を行って予定価格を決定していたことを考慮すると,本件委託契約締結前に2人以上の者から見積書を徴しなかったことが,裁量権を著しく逸脱するものであったとはいえない。

したがって,控訴人らの主張は理由がない。

第4結論

よって,原判決は相当であって,控訴人らの本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 藤田敏 裁判官 田邊浩典)

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