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名古屋高等裁判所 平成15年(行コ)34号 判決 2004年1月28日

主文

1  原判決を取り消す。

2  本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人(1審原告)が,控訴人(1審被告)に対し,独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)に基づいて,別紙目録記載①ないし⑥の各法人文書(以下,個別には「文書①」などといい,総称して「本件各文書」という。)の開示を求めたところ,控訴人が,同目録1ないし3記載の一部不開示決定(以下,個別には「本件1処分」などといい,総称して「本件各処分」という。)をしたため,被控訴人が,その一部(本件1処分のうち,「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」を不開示とする部分,並びに本件2処分及び本件3処分のうち,「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」をそれぞれ不開示とする部分)の取消しを求めた事案である。

2  原審は,被控訴人の請求を認容した。そこで,これを不服とする控訴人が,本件控訴に及んだ。

3  前提事実(当事者間に争いのない事実等)

(1)  控訴人は,原子力基本法及び核燃料サイクル開発機構法に基づいて設立され,原子力基本法に基づき,平和の目的に限り,高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理並びに高レベル放射性廃棄物の処理及び処分に関する技術の開発を計画的かつ効率的に行うとともに,これらの成果の普及等を行い,もって原子力の開発及び利用の促進に寄与することを目的とする特殊法人である。

(2)  被控訴人は,法4条1項に基づいて,控訴人に対し,以下のとおり,本件各文書の開示を請求した(甲2の1ないし3)。

ア 請求日 平成14年11月1日

(ア) 「JNC ZN7450 2001-001 広域調査地表調査シート(昭和61年度及び昭和62年度)」(文書①)

(イ) 「PNC ZJ4257 88-001 Vol.1 東海・CA地域リモートセンシング調査」(文書②)

イ 請求日 平成14年11月12日

(ウ) 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.1 CB地域リモートセンシング調査」(文書③)

(エ) 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.2 CC地域リモートセンシング調査」(文書④)

(オ) 「PNC ZJ4363 88-001 Vol.3 中国東部・CD地域リモートセンシング調査」(文書⑤)

(カ) 「PNC ZJ4257 88-001 Vol.2 四国西部地域リモートセンシング調査」(文書⑥)

(3)  本件各文書は,いずれも控訴人が高レベル放射性廃棄物の処分の予定地を選定するために,昭和61年及び昭和62年ころに,日本各地の地質を調査した調査結果に関する文書であり,そのうち文書①は,控訴人が作成した調査シートをまとめた文書であり,残りの文書②ないし⑥は,控訴人が業務委託した民間調査会社の調査結果をまとめた文書である(甲1,2の各1ないし3,3ないし5)。したがって,本件各文書は,控訴人の役員又は職員が,その職務上取得した文書であって,控訴人の役員又は職員が組織的に用いるものとして,控訴人が保有している法人文書に当たる(法2条2項本文)。

(4)  控訴人の東濃地科学センターは,下記のとおり,本件各文書の一部を不開示とする本件各処分を行った(甲1の1ないし3)。

ア 本件1処分

(ア) 処分の日 平成14年12月2日

(イ) 対象文書 文書①

(ウ) 不開示とした部分

a サイクル機構の一般職員の氏名

b 調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報

(エ) 不開示の理由

a 当該情報は,個人に関する情報であり,特定の個人が識別される。

これは,法5条1号の個人に関する情報であって,ただし書のイロハのいずれにも該当しない。

b 当該情報は直接地名の特定につながるものであり,これらの情報を公開することはサイクル機構への信頼を損なうことにつながり,事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすことになると考えられる。よって法5条4号の不開示情報に該当する。

イ 本件2処分

(ア) 処分の日 平成14年12月2日

(イ) 対象文書 文書②

(ウ) 不開示とした部分

a アの(ウ)aと同じ

b 調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報

(エ) 不開示の理由

a アの(エ)aと同じ

b 当該情報を公開することは,地権者等の関係者とサイクル機構との信頼を損なうことにつながり,事業の適正な遂行に具体的な支障を及ぼすことになると考えられる。よって法5条4号の不開示情報に該当する。

ウ 本件3処分

(ア) 処分の日 平成14年12月11日

(イ) 対象文書 文書③ないし⑥

(ウ) 不開示とした部分

a アの(ウ)aと同じ

b イの(ウ)bと同じ

(エ) 不開示の理由

a アの(エ)aと同じ

b イの(エ)bと同じ

4  争点

本件各処分による不開示部分(「サイクル機構の一般職員の氏名」の部分を除く。)の特定性の有無

5  争点に関する当事者の主張

(1)  控訴人

ア 独立行政法人(以下「法人」という。)等は,開示請求に係る法人文書の一部を開示するときは,その旨の決定をし,開示請求者に対し,その旨書面で通知しなければならない(法9条1項)。その場合,当該決定において,開示する部分と開示しない部分との区別が明らかにされている必要があるから,その区別は,上記通知書面上で明らかにされる必要があることに帰する。

ところで,開示部分と不開示部分の区別の方法としては,位置的な要素(例えば,何頁目の何行目のように,文書中のどこの部分かを形式的に表すことになるもの)による方法と,内容的な要素(何が書かれているかを表すことになるもの)による方法とに大別できるが,いずれによることも可能である。実務的には,内容的な要素を用いて不開示部分の特定がなされている。これは,内容的要素を用いて特定することが,法人だけではなく,開示請求者にとっても合理的だからであり,法9条1項は,このような特定方法を当然許容しているものと解される。

すなわち,法は,不開示情報について,法人事務の種類等の事項的要素や開示することによる支障を個別具体的に判断するための定性的要素等その内容に応じて規定している(法5条各号)のであるから,開示請求がされた場合,法人は,その請求に係る法人文書中の情報の内容的な要素を吟味して,開示・不開示を判断するのであり,また,開示請求者にとっても,関心があるのは,法人文書中のどの位置にある情報が不開示になったかではなく,何が書かれている情報が不開示になったか,それが法の規定する不開示情報に該当するかの点であるから,特定のために位置的な要素が用いられるよりも,端的に内容的な要素が用いられている方が合理的である。

イ 特定のために内容的な要素が用いられた場合,当該不開示部分が特定されているか否かの判断に当たっては,文書開示決定通知書中の不開示部分を示す記載そのものを見ることはもちろんであるが,開示請求された法人文書の名称や不開示の理由等の記載をも併せて考慮し,合理的に判断されるべきである。

ウ 本件1処分における「調査対象地区」とは,「地区」が日常用語として一定の範囲で限定された土地の広がりを指し,端的には,その範囲内での具体的な一つ又は複数の地名を意味すること,さらに,文書①の名称が「…広域調査地表調査シート(略)」であり,地表調査とは,露頭の岩種,岩相,割れ目や風化状態等を現地調査することをいうことからすれば,その調査手法や内容に応じて調査の対象となった一定の範囲で限定された土地の広がり,その範囲内での具体的な一つ又は複数の地名を意味することが明らかである。このことは,同通知書の「不開示の理由」の中の「直接地名の特定につながるものであり」との記載によっても裏付けられている。

本件2,3処分における「調査対象地域」とは,「地域」の日常用語としての意味が上記「地区」と同じであること,文書②ないし⑥の名称がいずれも「…地域リモートセンシング調査」であるところ,リモートセンシング調査では,航空写真及びランドサット画像を利用して地質特性,地形特性等の解析が行われることから,その調査手法や内容に応じて調査の対象となった一定の範囲で限定された土地における具体的な地名を意味することが明らかである。

なお,本件2,3処分において,「調査対象地域」に付加して「等」の語が用いられているが,名詞の後に「等」が使用されている場合,一般には,当該名詞に類似し,その名詞と共通の当該概念を指すことが多い。ところで,リモートセンシング調査が行われると,その後は,同調査による解析の正確さや整合性を確認する必要があることから,現地に赴いてグランドトゥルースといわれる地上調査が行われるのが通常であるところ,これはリモートセンシング調査よりも狭い場所的範囲を対象として行われており,リモートセンシング調査に付随するグランドトゥルースの対象となる場所的範囲を示す文言が必要なことから,「等」という語が入れられたものである。そして,グランドトゥルースがなされることは,文書の名称が「…リモートセンシング調査」であることからも明らかである。

次に,「具体的に示すことにつながりうる情報」とは,「調査対象地区」又は「調査対象地域等」を具体的に特定し得る情報を意味する。なお,「具体的に示す情報」とされなかったのは,例えば,方位,地質構造帯名,岩石名,地層名,山地名,河川名のように,それ自体は「調査対象地区」あるいは「調査対象地域等」を直接示す情報ではないが,開示されれば,都道府県名や他文献の資料等を総合的に判断することによって容易にこれらの地区や地域等を示すことになる情報を不開示情報に含ませるためである。

以上によれば,本件各処分において不開示とされた「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」あるいは「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」とは,地表調査あるいはリモートセンシング調査をした土地の1つ又は複数の地名を具体的に特定し得る地層名,岩石名,地表の特質等を意味することは,本件各処分の通知書の記載から明らかであって,不開示部分は十分に特定されているというべきである。

エ 原判決は,行政処分の特定について,当該処分の内容が一義的に明確であって特定し得るものでなければならず,その特定性を欠く場合は無効であると判示するが,どのような場合に一義的に明確であり特定しているかについての具体的な判断基準を特に判示しておらず,その基準は必ずしも判然としない。

しかしながら,原判決が本件各通知書の記載の程度では,一義的に明確な程度に内容が特定されておらず,特定が十分でないと判示していることからすると,「内容が一義的に明確」という概念を極めて厳格に用いて特定の有無を限定的に解釈しているものと解される。

もとより,行政処分は特定されることを要し,特定を欠く行政処分が無効とされることはいうまでもない。しかし,その特定の程度は,他の行政処分と識別可能な程度であることを要し,かつ,それで足りるのである。このような程度であれば,行政処分としての効力を認めるに足りるし,行政処分の名宛人もその内容を理解することができるからである。

「内容が一義的に明確」という概念を厳格な意味に用いることの不都合は,当該行政処分の内容が本件のように定性的なものである場合に,一層明らかとなる。

法に基づく部分開示決定における不開示部分の特定とは,当該決定の対象となる法人文書のうち開示部分と不開示部分とを識別することができるようにすることであるが,その特定の方法として,情報の性質や内容を表す概念を用いることは許される。しかるところ,そのような方法によって不開示部分を特定する場合には,そのような概念が定性的なものであることから,処分内容につき解釈を要するものとなることは不可避である。にもかかわらず,「内容が一義的に明確」という概念について,文字どおり,二義を許さない,すなわち,解釈の余地を許さないというような意味で用いることになれば,情報の性質や内容を表す方法で不開示部分を特定することが困難となってしまう事態を招来しかねないのである。

したがって,特定の有無は,このような記載を合理的に解釈して開示部分と不開示部分とを識別することが可能か否かで判断すべきである。

この点,原判決が,特定の基準として用いる「内容が一義的に明確」という概念を,他の行政処分との識別可能性という意味で用いているのであればともかく,その記載によって処分内容が解釈の余地なく明確に了解し得るものか否かなどというように,極めて厳格な意味に解しているとすれば,特定についての判断基準を誤っているものというほかない。

また,原判決は,特定の方法として,情報の性質や内容を表す概念を持って不開示部分を特定することが許されることは認めているから,原判決が,特定の有無の基準とする「内容が一義的に明確」という概念を上記のような厳格な意味に解しているとすれば,情報の性質や内容を表す方法で不開示部分を特定することも許されると原判決自体が判示していることとも矛盾するのであって,この点からも失当である。

そして,開示部分と不開示部分との区別ができるか否かという観点から特定の有無をみると,本件各通知書記載の「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」又は「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」は,それぞれ広域調査地表調査又はリモートセンシング調査の結果であることが明らかであって,その調査手法や内容から考えれば,上記のような記載で開示部分と不開示部分との区別が可能であり,不開示部分の特定として何ら欠けるところがないことは明らかである。

(2)  被控訴人

ア 行政処分は,処分を受けた当事者の権利や法律上の利益に直接的な影響を及ぼすものであるから,当事者の権利や法律上の利益にどのような影響を及ぼすかが処分中に一義的,具体的に記載されていなければならない。この要請は,法5条に基づく決定についても妥当するから,控訴人が文書の不開示決定をする場合は,当該不開示部分が処分中に明示される必要がある。加えて,法と同様の規定を有する「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」の制定時に,行政機関の長に開示・不開示の審査基準を具体的に作成・公表すべきとする附帯決議が衆参両議院においてなされていること,同条が法人文書の原則開示を定め,例外的に不開示情報を具体的に限定列挙していることに照らすと,同条は,不開示情報の範囲が広がりすぎることを避けるべく,その範囲をできる限り明確にすることを要請しているというべきである。仮に,当該処分において不開示部分が特定できない場合には,情報の広範な不開示をもたらす運用を招きかねず,法人文書の原則開示を定めた法の趣旨を没却することは明らかである。

イ 本件各処分は,不開示部分の摘示が抽象的,概括的かつあいまいであり,不開示部分を十分に特定しているとはいえない。すなわち,本件1処分で用いられた「調査対象地区を具体的に示すことにつながりうる情報」のうち,「地区」とは地理的にどのような広がりを示す概念か,「示すことにつながりうる」とはいかなる意味か,本件2,3処分で用いられた「調査対象地域等を具体的に示すことにつながりうる情報」のうち,「地域」とは地理的にどのような広がりを示す概念で,「等」あるいは「具体的に示すことにつながりうる情報」とはそれぞれ何を示すか,本件各処分の通知書の記載からは理解し難い。

したがって,被控訴人が本件各文書の不開示部分を知ることすらできず,不開示部分を具体的に明示しているとは到底いえない本件各処分は,それ自体行政処分として不完全かつ法5条に反する違法なものである。

第3当裁判所の判断

1  法9条1項は「独立行政法人等は,開示請求に係る法人文書の・・・一部を開示するときは,その旨を決定し,開示請求者に対しその旨・・を通知しなければならない」と規定しているところ,上記の一部開示の決定には開示する部分と開示しない部分との区別を明らかにしなければならないと解される。

上記の決定も,一種の行政処分であり,これによって直接国民の権利義務が形成され又はその範囲を確定するものであるから,その内容が一義的に明確であって,特定し得るものでなければならない。

不開示部分を特定するにあたっては,位置的な要素(例えば何頁の何行目というように,文書中のどこの部分かを形式的に表すことになるもの)による方法も可能ではあるが,内容的な要素(何が書かれているかを表すことになるもの)による方法によることも許されると解すべきである。

そして,内容的要素によって不開示部分を特定する場合,ある種の概念を用いてその部分を特定することになるが,概念を用いて不開示情報を特定する場合,概念の広狭によってその程度に差があるが,いずれにしても抽象的なものとならざるをえないから,不開示情報の特定は,ある程度抽象的であることはやむをえないことである。ただし不開示部分の情報がいかなる種類の情報であるかが一般国民に判断できる程度のものである必要があり,また,その限度で足りると解すべきである。

また,その判断に際しては,当該法人文書一部開示決定通知書中の不開示部分を示す記載そのものだけでなく,開示請求された法人文書の名称や不開示の理由等の記載をも併せて考慮し,一般的な国民を基準として,合理的に開示部分と不開示部分とを区別することが可能かどうかによって判断すべきである。

被控訴人は,上記特定性が満たされているか否かは,当該法人文書一部開示決定通知書自体から客観的に判断されなければならない旨主張するが,不開示部分の特定に使用される概念は開示請求された法人文書の名称や不開示の理由等の記載をも併せて理解することを前提に使用されるのが通常であるから,これらをも併せ考慮して不開示部分が特定されれば足りると解する。したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。

そこで,以下本件各文書の不開示の当否について,個別的に検討する。

2(1)  まず被控訴人は,本件各処分における「調査対象地区」又は「調査対象地域等」における「地区」ないし「地域」の範囲をどの程度の広がりを持つ場所的範囲と理解すべきかが一義的に明確であるとはいえない旨主張する。すなわち,地理的な単位といっても,数県を包含する地方(例えば東海地方),都道府県,旧藩名に由来する地区(例えば尾張地区),市町村,集落,字等が考えられるが,上記の「地区」ないし「地域」がどのレベルを指すのかについて,上記の表示だけで判断することは,およそ不可能というほかないという。

しかし,「地区」あるいは「地域」は,それ自体が一定の場所的範囲を示す日常用語として確立した言葉であり,法令においても用いられている用語である。

そして,被控訴人が平成14年11月1日に控訴人に対して開示請求した法人文書の名称が「JNC ZN7450 2001-001 広域調査地表調査シート(昭和61年度及び昭和62年度)」であることからすると,本件1処分の法人文書開示決定通知書(甲1の1)の「調査対象地区」が,地表調査(露頭の岩種,岩相,割れ目や風化状態等を現地調査すること)の調査手法や内容に応じて調査の対象となった一定の範囲で限定された土地の広がり,その範囲内での具体的な一つ又は複数の地名を意味することは明らかである。

また,被控訴人が平成14年11月1日に控訴人に対して開示請求した法人文書の名称が「PNC ZJ4257 88-001 Vol.1 東海・CA地域リモートセンシング調査」,同月12日に控訴人に対して開示請求した法人文書の名称が「PNC ZJ4363 88-001 Vol.1 CB地域リモートセンシング調査」,「PNC ZJ4363 88-001 Vol.2 CC地域リモートセンシング調査」,「PNC ZJ4363 88-001 Vol.3 中国東部・CD地域リモートセンシング調査」及び「PNC ZJ4257 88-001 Vol.2 四国西部地域リモートセンシング調査」であり,リモートセンシング調査では航空写真及びランドサット画像を利用して地質特性,地形特性等の解析が行われることからすると,本件2処分及び本件3処分の法人文書開示決定通知書(甲1の2,3)の「調査対象地域」が,その調査手法や内容に応じて調査の対象となった,一定の範囲で限定された土地における具体的な地名を意味することも明らかである。

上記各調査は,地学等の自然科学的な観点に基づく調査であるから,その対象や調査者の関心は,市町村や集落等をいわばまたいで存在し得る岩種,断層,地層等であり,その対象となった一定の範囲で限定された土地といっても市町村のように広いものから集落名のように狭いものまで広狭様々な種類があるのであり,不開示情報として記載する場合にも,この観点からまとめて「調査対象地区」又は「調査対象地域」とすることは合理的である。

被控訴人は,「調査対象地区」又は「調査対象地域等」が上記の趣旨であるなら,「市町村名,集落名,その他の地名,当該市町村や集落をまたいで存在しうる岩種名,断層名,地層名」などと極めて容易に特定することができると主張するが,上記1の趣旨からすればその必要はない。

(2)  次に被控訴人は,本件2処分及び本件3処分において「調査対象地域」に付加された「等」の語が何を示すのか明確ではない旨主張する。

しかし,「等」という語がある概念を示す名詞の後に使われる場合,一般に,当該「等」は,直前の名詞に類似するもので,その名詞と共通の概念を指すために用いられるものであり,複数の事項を書き下ろす無駄を避け,簡潔に表記するために用いられるものである。上記1に述べた特定の趣旨からすると,複数の不開示情報を概括するために「等」の語を用いることも,許容されないわけではない。

リモートセンシング調査が行われると,その後,同調査による解析の正確さや整合性を確認する必要性があることから,現地に赴いてグランドトゥルースといわれる地上調査が行われることが通常である。このようなことは市販の書物(乙1)にも記載されていることであるから,上記リモートセンシング調査に関する法人文書の開示請求を行う一般的な国民も容易に知りうることである。したがって上記各法人文書(文書②ないし⑥)は,リモートセンシング調査に関するものであり,かつ,その名称からも同調査に関するものであることを知ることができるから,当該文書にリモートセンシング調査の結果のみならずその調査後のグランドトゥルースの結果も記載されていることは上記一般的な国民が認識可能なことである。そして,「調査対象地域」に付加された「等」という語がリモートセンシング調査に付随するグランドトゥルースの対象となる場所的範囲を示していることは,上記一般的な国民にとって認識可能である。

また,リモートセンシング調査が,航空写真及びランドサット画像に基づくある程度広い地域をその調査対象とするのに対し,グランドトゥルースは,リモートセンシング調査による解析の正確さ等を確認するという性格から,同調査の対象よりも狭い場所的範囲を対象として行われる(乙1ないし3)ものなので,「等」の語を用いることも許されると解すべきである。

被控訴人は,「等」の語が「グランドトゥルースの対象地域」の趣旨であるなら,「グランドトゥルースの対象地域の地名」などとすればよい旨いうが,上記1の趣旨からすればその必要はない。

(3)  さらに被控訴人は,本件各処分における「具体的に示すことにつながりうる情報」について,ある情報が,「調査対象地区」又は「調査対象地域等」を「具体的に示すこと」に「つながりうる」か否かの判断は,これに接する個々人によって区々とならざるを得ないことが明らかであるから,このような概念によって一義的に明確な程度に内容が特定されているといえないことは明らかである旨主張する。すなわち,具体的な地名がこれに当たることは一般的に承認されるとしても(もっとも,対象地区そのものの地名ではなく,周辺の地質構造帯名,地層名,山地名,河川名などが一律にこれに当たるとまでは解されない。),その地域の特産物,風俗習慣,方言,風景,気候などに関する情報がこれに該当するか否かは,それ自体の有する特異性や周知性の程度のほか,これに接する者が有する個別具体的な知識,基準等によって大きく影響を受けざるを得ないから,このような概念によって一義的に明確な程度に内容が特定されているといえないという。

しかし,「具体的に示すことにつながりうる情報」という言葉は,「調査対象地区」又は「調査対象地域等」を具体的に特定し得る情報を意味していることは明らかである。本件各文書は広域調査地表調査又はリモートセンシング調査によって得られた結果を記載した文書であるから,「調査対象地区」ないし「調査対象地域等」を「具体的に示すことにつながりうる情報」とは,例えば,方位,地質構造帯名,岩石名,地層名,山地名,河川名のように,それ自体は「調査対象地区」あるいは「調査対象地域等」を直接示す情報ではないけれども,開示されれば都道府県名や他文献の資料等を総合的に判断することによって容易に上記地区や地域等を示すことになる情報を示すことは理解できることであり,被控訴人がいうような当該地域の特産物,風俗習慣,方言,風景あるいは気候などの一般的情報がこれに含まれるとは一般的に解されない。

(4)  以上によれば,本件各処分において,不開示部分は十分に特定されているということができ,本件各処分にこの点に関する違法はない。

なお,控訴人が本件各処分の不開示部分について法5条4号に該当するとした処分理由の違法性についても被控訴人がこれを問題としていることは明らかであるから,本件については,この点に関してさらに弁論をする必要があると認められるので,民事訴訟法308条1項により第1審裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すのが相当である。

3  よって,これと結論を異にする原判決を取り消し,本件を名古屋地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 藤田敏 裁判官 榊原信次)

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