名古屋高等裁判所 平成15年(行コ)37号 判決 2004年9月29日
控訴人
X1 (ほか3名)
上記4名訴訟代理人弁護士
石坂俊雄
同
村田正人
同
伊藤誠基
同
福井正明
被控訴人
(元御浜町長) 奥西清
同
(元同町収入役) Y1
上記両名訴訟代理人弁護士
楠井嘉行
同
北薗太
同
川端康成
同
西澤博
同
赤木邦男
同
加藤明子
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人らは、連帯して、御浜町に対し、9億5000万円を支払え。
(3) 訴訟費用は第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
2 被控訴人ら
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、御浜町の住民である控訴人(1審原告)らが、同町のパーク七里御浜株式会社(以下「パーク七里御浜」という。)に対する貸付け(以下「本件貸付」という。)が、<1>地方公共団体である同町の固有の事務に係る経費とはいえず地方自治法232条に違反する、<2>貸付けに際し地方自治法221条2項に基づく調査を尽くさず、回収の見込みのない貸付けを行ったものである、<3>地方財政法4条の4に違反する違法な財政調整基金の取崩しに基づくものである等の理由で違法であるとして、御浜町長で同社の取締役であった被控訴人奥西清(1審被告。以下「被控訴人奥西」という。)及び同町の収入役であった被控訴人Y1(1審被告。以下「被控訴人Y1」という。)に対し、被控訴人奥西については、地方自治法(ただし、平成14年法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号又は商法266条の3に基づき、被控訴人Y1については、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、御浜町に代位して、同町のパーク七里御浜に対する本件貸付金相当額についての損害賠償を求めた事案である。
2 原審は、本件貸付には、控訴人らの主張するような違法は認められないとして、上記控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで、これを不服とする控訴人らが本件控訴に及んだ。
3 本件の前提となる事実(争いのない事実等)、争点、争点に関する当事者双方の主張は、以下のとおり付加訂正し、次項のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決「第2 事案の概要等」の2ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
なお、以下、略称等は原判決に準じて用いることとする。
(1) 4頁13行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「すなわち、本件貸付当時のパーク七里御浜の経営状態は以下のとおり、ほとんど死に体ともいうべき状態である上、本件貸付を行うもととなっている第3次経営改善計画にも次のような問題点があり、とても実効性のある計画とは言い難いものであったから、同計画に基づいて本件貸付を行ったとしても、計画通りの経営状態の改善が望み得るような状況ではなかったし、関係者にはその旨の認識もあった。このことは、その後の経営状態の推移をみれば、自ずと明らかである。
ア 経営状態等
(ア) 設立以来、御浜町から12億2000万円、三重県から1億4600万円の公金の出捐を受けながら、平成10年3月31日当時のパーク七里御浜の経常利益は、マイナス2252万9000円であり、未処理損失は、11億6105万円にのぼっており、実質的には債務処過の状態にあった。
(イ) 本件貸付について、元本の償還が5年間猶予されていることからも明らかなとおり、本件貸付を受けても、パーク七里御浜は、直ちに元金の弁済ができないような経営状態であった。
(ウ) 本件貸付の担保不動産については、鑑定も行われておらず、適正な評価がなされていない。
被控訴人らは、本件貸付の担保不動産については、簿価を基準とした適正な担保評価が行われている旨主張するが、競売を前提として考えれば、パーク七里御浜以外の第三者と共有名義となっている土地について、簿価の7割で売却できるはずがない。また、建物については、既に築後10年を経過しているから、客観的にはせいぜい簿価の半分以下の価値しかないし、機械装置、車両運搬具等も簿価の半分以下の価値しかない。したがって、適正な評価を前提とすれば、パーク七里御浜は債務超過の状態にあることが明らかであるし、これによって本件貸付金を回収することは期待できない。
イ 第3次経営改善計画の問題点
第1次、第2次の経営改善計画と同様、第3次経営改善計画も、以下のとおり非常に杜撰なものであって、場当たり的な数字合わせに過ぎない。したがって、これに基づく本件貸付は、実質的には当座の倒産回避のための融資に過ぎず、経営改善のためのものとは言えないし、返済の見込みもないものであった。
(ア) 被控訴人らは、第3次経営改善計画は、第2次経営改善計画後、空調施設のトラブルが発生してその改修費用が必要なったこと、平成4年度以降の固定資産税の一括納付をせざるを得なくなったことや空きテナントの存在等の事情から、第2次経営改善計画の達成が困難になったことから策定されたものと主張しているが、これらの事情は、既に第1次経営改善計画のときから予見し得たものであり、単なるつじつま合わせに過ぎない。
(イ) 第3次経営改善計画は、安易に家賃収入の増額を前提として策定されているが、同計画策定時には、パーク七里御浜の売上げは毎年下降している上、ジャスコ進出により売上げが少なくとも10%落ち込むこと、場合によっては倒産する店舗も出てくるであろうことは、当然予想し得るところであり、破綻することは明らかであった。また、テナントとの協議の前提となっているテナントヘの建設協力金の返還も約束どおりできないことはわかっていた。
(ウ) 第3次経営改善計画は、固定資産税の延滞金合計5946万円余の支払いが正しく想定されていない。県税たる不動産取得税の延滞金については、2615万3687円が、御浜町の町税である固定資産税の延滞金については、平成10年までに少なくとも約3332万円の累積延滞金が存在していたにもかかわらず、パーク七里御浜の決算書には、上記各延滞金の記載がされいない。したがって、第3次経営改善計画及び本件貸付の前提となっているパーク七里御浜の決算自体が粉飾であり、違法なものであったというべきである。
被控訴人らは、県税については、完納の時点で延滞金が確定する旨主張するが、延滞税は成立と同時に確定するものであり(国税通則法15条3項6号)、格別の確定手続を要しない。
ウ 貸付後の状況等
(ア) 第三銀行からの運転資金借入金の繰上償還が行われているが、何故これが必要なのか、理由が不明である。
(イ) 第3次経営改善計画策定後も、賃料その他の売上収入、営業利益ともに減少傾向が続いており、既に計画内容から乖離してしまっている。」
(2) 同9頁23行目末尾に行を改め、次のとおり付加し、同頁24行目冒頭の「オ」を「カ」と、同12頁19行目冒頭の「カ」を「キ」とそれぞれ改める。
「オ 本件貸付金原本の返済が平成15年度以降となっているのは、同年度までに政策投資銀行より調達した当初借入金元金の年間3600万円の返済が終わること等を考慮して、資金収支に応じた返済計画を立てたものであり、控訴人らの主張するようにパーク七里御浜の破綻の先延ばしを意図したものではない。」
(3) 同12頁10行目末尾に次のとおり付加する。
「なお、控訴人らは、第3次経営改善計画には、県税たる不動産取得税及び町税である固定資産税の延滞金が算入されておらず、実質的な粉飾決算であると主張するが、不動産取得税については、最終納付日である平成12年3月25日に至って延滞金が確定したのであり、町税たる固定資産税については、一般管理費の中に年間350万円ずつ納付する前提で盛り込まれていたのであるから、何らの違法性も認められない。また、企業会計原則上、未払税金の延滞税を財務諸表に掲載すべき時期については、納税告知書の送達を受けた日に計上すべきであるとされており、パーク七里御浜は、いずれも遅滞なく処理している。」
4 当審における当事者の補充主張
(控訴人ら)
(1) 本件貸付は、金利負担の大きい当初設備資金等としての借入金に関する金利負担の軽減を図ることを目的としてなされたものであるから、当時のパーク七里御浜の経営状況に鑑みれば、御浜町としては、最少経費最大効果の原則(地方自治法2条13項(ただし、平成11年法第87号改正以前のもの)に基づき、より危険性の低い、金利負担部分についての利息支援(利息補助、利子補給)という選択肢を選択すべきであったのであり、これを考慮せず本件貸付を行ったことは、地方自治法に違反する。
(2) 本件貸付後の状況(原審口頭弁論終結時以降)
ア 第3次経営改善計画の策定から僅か3年後には、同計画は破綻し、実質的に第4次経営改善計画に該当するもくろみ書(〔証拠略〕)なる書面が作成された。同計画では、平成15年度について、さらに賃料収入が減少することが前提とされている。
イ 賃料収入は、年々減少し、平成15年時点では、第3次経営改善計画から大きく乖離している。平成14年度の決算書によれば、予定額の78%にしか到達していない。また、テナントの売上実績をみても減少が続いており、家賃の値上げが可能な状況ではない。
ウ 本件貸付について、平成14年度末に支払われるべき利息950万円が支払われたのは平成15年9月30日に至ってからであり、平成15年度に支払われるべき第1回の元金返済分2000万円については、現在に至るまで支払われていない。
水道光熱費も、期限までに支払いがされておらず、平成14年度、15年度分の固定資産税も支払未了の状況で、資金ショートの状態に陥っていることは明らかである。これは、第3次経営改善計画策定時から予想されていたことであって、今後本件貸付金元金が回収される見込みはまったくない。
エ 平成15年6月4日に御浜町長とパーク七里御浜から、同町議会の全員協議会に「パーク七里御浜株式会社診断報告書」(平成15年3月31日付け)が提出されたが、そこでは、同社の経営状態が予断を許さない厳しい状態であり、収益性の向上及び安定化策として、収益の見通しを盤石にして欠損金処理のための融資のほか、本件貸付金を出資に振り替えるデッド・エクイティ・スワップという禁じ手の実現可能性の検討までが提案されている。
また、御浜町から経営内容の分析の依頼を受けた税理士Aによる平成16年6月14日付け報告書によれば、パーク七里御浜は、収入額から直営事業の仕入れ代金、管理費を差し引くと、残金は6500万円程度であり、借入元本の返済をするだけで資金ショートを起こす危機的状況にあるとされている。
オ パーク七里御浜は、御浜町に対し、平成16年6月9日付けで、要望書を提出し、その中で、平成16年度には1億9372万6000円の、平成17年度以降も各年400万円程度の資金不足が予測されるとして、本件借入金の返済の今後9年間の猶予を求めるとともに、その間に本件貸金の資本組入を検討するとしているのであり、本件債務の返済が不可能であることを自認しているのである。
(被控訴人ら)
(1) 第3次経営改善計画では、支払利息の軽減のほか、資金収支の安定化対策も大きな柱となっていたところ、控訴人らの主張する利息支援策では、この目的を達成することはできない。
また、高い金利を支払うために利子の補助を受けるのは、そもそも補助金の趣旨に反するものであるし、補助金の形をとる場合には、貸付の場合と異なり、御浜町に返還されることはなく、直接還元されることがない。
控訴人らの主張は失当である。
(2) 本件貸付後の状況について
ア そもそも本件の争点は、平成10年4月の本件貸付時点において御浜町が行った本件貸付が適法か否かであって、その後のパーク七里御浜の経営状況はこれに関係しないというべきである。また、被控訴人奥西は、本件貸付後間もない平成10年10月9日をもって御浜町長を退任するとともに、平成11年6月30日にはパーク七里御浜の代表取締役も退任しており、以後同社の経営にはまったく関与していない。
イ 収支もくろみ書は、全国的な長期にわたる不況ととどまることを知らない急激なデフレ傾向の中で、パーク七里御浜が、第3次経営改善計画を基本方針として不断の経営努力を続けながら、激変する経営環境に迅速かつ果敢に対応することを目的として、短期経営戦略を策定し、不況を乗り越える施策として、平成16年度までの短期損益収支計画と短期資金計画をまとめたものである。控訴人らの主張するように、賃料収入の動向のみで考えることはできないし、超長期不況下における経営努力を示すものであって、第3次経営改善計画が杜撰で、これに基づく運営が破綻していることを示すものでもない。
ウ パーク七里御浜は、経営改善が進み、平成11年度以降経常利益を上げることができるようになり、平成14年度まで連続して経常している。
平成14年度、15年度の固定資産税については未払となっているが、これはパーク七里御浜内の大型テナントの倒産や県の補助金の縮減等第3次経営改善計画策定時には予見し得なかった経済情勢の悪化等によるものである。
水道光熱費については、季節的な変動が大きいために生じたものであるが、同年度中にはすべて完済している。
時期的な資金収支の問題から、平成15年度に支払うべき本件貸付金元金の弁済は未了であるが、平成15年度に予定どおり日本政策投資銀行の借入金(年当たり返済額2500万円)の返済を完了していることから、本件貸付金の返済が絶望的であるということはあり得ない。しかし他方、上記のような予期せぬ厳しい経済情勢の悪化のため、損益収支も当初想定していた黒字幅より少なく、平成15年度以降、営業利益は673万3000円を計上したものの、特に資金収支が厳しい状態になっている。このため、平成15年10月「パーク七里御浜株式会社経営安定化対策検討委員会」を設置し、種々の検討を進め、当初設備資金借入金や税金等の未払い金の返済精算を行う新たな経営改善計画案の策定を進めている。
(3) 被控訴人Y1について
被控訴人Y1は、御浜町収入役であるが、収入役は、主として「現金(現金に代えて納付される証券及び基金に属する現金を含む。)の出納及び保管を行うこと」及び「支出負担行為に関する確認を行うこと」等の会計事務をつかさどることとされているが、ここにいう事務は、普通地方公共団体の長から支出の命令を受けた場合において、当該支出に係る支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出負担行為に係る債務が確定していることを審査、確認をすること、すなわちいわゆる事後審査であって、支出負担行為の段階における事前審査までを含むものではない。
被控訴人Y1は、本件貸付に際し、当時の御浜町長被控訴人奥西が議会の承認議決を得て発した支出命令を受けて、支出負担行為を確認して本件支出を行ったものであるから、収入役としての職務を尽くしており、何らの違法もない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、原判決と同様に、控訴人らの請求をいずれも棄却すべきであると判断するが、その理由は、以下のとおり付加訂正し、次項に当審における当事者の補充的主張についての判断を付加するほか、原判決「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決26頁3行目末尾に、行を改めた上、次のとおり付加する。
「御浜町は、上記貸付に際し、同貸付金返還請求権を担保するため、パーク七里御浜との間で、別紙「パーク七里御浜株式会社所有財産」記載のパーク七里御浜所有財産(このうち特に抵当権及び根抵当権が設定された不動産を以下「本件担保不動産」という。)について抵当権ないし質権の設定契約を締結し、その旨の登記を了した(〔証拠略〕)。なお、上記担保不動産に含まれるべき建物付属設備及び構築物については、御浜町とパーク七里御浜との間で、平成12年7月7日、別紙「建物付属担保物件」記載のとおり確認されている(〔証拠略〕)。
上記各担保物件のほとんどについては、本件貸付契約当時、優先する共同担保として、
<1>抵当権者 日本開発銀行 債務者 パーク七里御浜
平成元年2月20日設定 金銭消費貸借 債権額8億円
<2>抵当権者 日本開発銀行 債務者 パーク七里御浜
平成元年2月20日設定 金銭消費貸借 債権額4億3000万円(無利息)
<3>根抵当権者 株式会社第三銀行 債務者 パーク七里御浜
平成元年3月1日設定 担保すべき債権の範囲 銀行取引等 極度額 3億3000万円
<4>抵当権者 株式会社青木建設 債務者 パーク七里御浜
平成2年4月1日設定 建築請負契約による残代金 2億7740万円
の各抵当権等(以下「本件抵当権等」といい、それぞれを「本件抵当権等<1>」などということがある。)が設定されていたが、このうち<1>及び<4>については、それぞれ、本件貸付契約後、平成10年6月15日弁済を原因として、平成11年12月8日又は平成12年1月14日受付により、いずれも抵当権設定登記抹消登記手続が経由されている。」
(2) 同27頁10行目「直近の」の後に「(平成11年1月1日現在)」を加える。
(3) 同27頁14行目冒頭から19行目末尾までを次のとおり改める。
「イ 担保に供されている不動産(本件担保不動産。抵当権等の目的たる建物付属設備及び構築物を含む。)の帳簿総額は、平成10年3月31日現在で21億7333万円(うち土地は、7億0082万5000円)(〔証拠略〕)、平成11年3月31日現在で21億2051万9000円(うち土地は同額)(〔証拠略〕)であり、これらの抵当権等(本件抵当権等)の被担保債権額は、本件貸付前においては14億3499万5000円であったが(〔証拠略〕)、本件貸付後、同貸付金を原資として、平成10年6月には本件抵当権等<1>の被担保債権全額5億7200万円が、また、本件抵当権等<4>の被担保債権9億5000万円が、同年4月から平成11年1月にかけて4回に分けて<2>の被担保債権合計3349万5000円が、また本件抵当権等<3>の担保すべき債権合計2億3849万5000円が、それぞれ弁済され(〔証拠略〕)、平成11年3月31日現在における被担保債権額は、本件貸付金9億5000万円のほか3億1232万5000円(本件抵当権等<2>の被担保債権1億6900万円、本件抵当権等<3>の担保すべき債権1億4332万5000円)であることが認められる(〔証拠略〕)。」
(4) 同29頁24行目末尾に次のとおり付加する。
「控訴人らは、第3次経営改善計画の前提たるパーク七里御浜の決算に粉飾があるとして、これに基づく上記計画の採択や本件貸付の違法を主張するが如きである。しかしながら、町税については、第3次経営改善計画(〔証拠略〕)に、「1 一般管理費」として、「(2) 固定資産税の延滞金は、可能な限り早期完納する計画とする。」との記載があり、少なくとも固定資産税について上記支払債務が存在することが考慮されていたことがうかがわれ、第3次経営改善計画や本件貸付の是非の判断に際し、ことさらに当該情報を隠蔽しようとしたものとは認められない。また、県税についても、上記の事情に、平成12年3月24日に不動産取得税納付後直ちに確定した延滞金の総額を計上した経緯を併せ考慮すれば、当該決算書への不掲載が不法な意図に基づく粉飾決算であると認めるに足りない。また、仮に実質的に両延滞税の存在が看過されていたとしても、そのことのみによって、これに基づく本件貸付に関する決定が違法とされるような重大な事実誤認に該当するものとも認められない。結局、会計処理上の当・不当の問題は別論、本件全証拠に照らしても、少なくとも第3次経営改善計画や本件貸付自体の違法を招来するような違法な粉飾決算が存在したと認めるに足りないというべきである。」
(5) 同30頁6行目「平成14年」から同11行目「いること」までを次のとおり改める。
「平成10年3月31日における本件担保不動産の帳簿総額は、21億7333万円であるところ、本件貸付金により予定されていた当初借入金の弁済を了した平成11年3月31日時点における本件抵当権等の被担保債権の総額は、本件貸付金9億5000万円のほか3億1232万5000円であったこと、本件抵当権等<3>の同時点における担保すべき債権額ではなく同根抵当権の極度額3億3000万円を考慮しても、せいぜい総額は4億9900万円であり、被担保債権の総額が本件担保不動産の帳簿総額に占める割合は、58パーセント、上記根抵当権の極度額を考慮する場合でもせいぜい60パーセントにとどまり、以後借入金の弁済に伴いさらに減少していくことが期待できること、パーク七里御浜の建物、建物付属設備、機械、工具器具備品の取得価額は会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されていること、これらの建物等(土地を除く)の帳簿価額は平成10年3月31日現在で14億7250万5000円であるところ、仮に控訴人らが指摘するように実勢価格は当該簿価の半分とみて7億3625万円余と評価するとしても、これにとりあえず鑑定価額の明らかな御浜町大字阿田和字松原4926番の5の土地(7億4763万5100円)を加えて考えれば、両者によって概ね上記被担保債権の総額をカバーし得る関係にあること」
2 当審における当事者の補充的主張について
(1) 最少経費最大効果の原則違反について
ア 控訴人らは、本件貸付が当初設備資金等借入金の高い金利負担の軽減を図るものであるとすれば、同目的は、御浜町が当該金利負担分を補助金としてパーク七里御浜に対し供与することによって達成可能であり、また御浜町財政にとっても負担が少ないから、同選択肢を採用しなかったことは、最少経費最大効果の原則(地方自治法2条13項)に違反する旨主張する。
イ しかし、上記控訴人らの主張は、パーク七里御浜が近日中に破綻し、しかも本件担保不動産等によっても本件貸付金の実のある回収は不可能であることを前提とする点で、前記(引用に係る原判決)のとおり、当裁判所の認定とその前提を異にするものであり、採用することはできない。
また、利息支援の継続によっては、随所で指摘されているパーク七里御浜の抱える構造的な欠陥、すなわち初期投資に占める借入金の割合が過大であったために、加重な金利負担が健全な運営の最大の阻害要因となっていることの改善には直接つながり得ないことは明らかであり、本件においてパーク七里御浜がおかれた状況を前提とすれば、利息支援の継続は、まさに当座の延命策ともいうべきものにとどまるものといわざるを得ない。いわゆる第三セクター方式をとって設立されたパーク七里御浜は、本来、できる限り早期に健全で自立的な運営が可能となるようその基盤整備をしていくことが求められているのであって、控訴人らの主張するような出捐を継続することは、地方自治法の定める補助金の趣旨にも反すると言わざるを得ず、いずれにしても、この点に係る控訴人らの主張は理由がない。
(2) 本件貸付後の状況について
ア 控訴人らは、第3次経営改善計画に基づく本件貸付後も、一向にパーク七里御浜の経営状況は改善せず、むしろ悪化の一途をたどって破綻寸前の状況にあるとして、るる具体的経緯を指摘し、これが、第3次経営改善計画は何ら実効性のある改善計画ではなく、したがってこれに基づく本件貸付もまったく意味のない、早晩破綻する会社に対する回収見込みのない貸付であって、違法である証左である旨主張する。
イ 確かに、前示(引用に係る原判決第3の4)のとおり、本件貸付と営業努力による一定の成果も認められる一方、要となるべき賃料収入の減少傾向は基本的に歯止めがかからず(〔証拠略〕)、平成15年度に支払われるべき本件貸付金の第1回償還金についても未だ支払われていない状態であり、同社の経営状態が予断を許さない厳しい状態であることを指摘する報告書等(〔証拠略〕)も提出されているところである。また、これを受けて、パーク七里御浜自身、御浜町に対し、平成16年6月9日付けで、要望書を提出し、その中で、平成16年度には1億9372万6000円の、平成17年度以降も各年4000万円程度の資金不足が予測されるとして、本件借入金の返済の今後9年間の猶予を求めるとともに、その間に本件貸金の資本組み入れを検討するなどとしており(〔証拠略〕)、これまでの数次にわたる巨額な公金の投入にもかかわらず、パーク七里御浜の抱える構造的な問題点が抜本的に改善されたとは言いがたく、その経営はなお極めて厳しい状態にあるといわざるを得ない。
しかしながら、本件で問われるべきは、本件貸付の行われた平成10年当時において、本件貸付が回収の可能性のない会社に対する貸付けとして、著しく不合理で裁量権を逸脱し、又は濫用するものであったと認められるか否かであって、結果的、事後的な回収可能性自体を問うものではなく、その意味で、仮にパーク七里御浜が現時点において本件貸付の返済資力を有しないとしても、そのことから直ちに本件貸付が違法と判断されることにはならないことはいうまでもない。
控訴人らの指摘する上記の報告書等も、その内容は、基本的には、経営内容の改善が急務であることを指摘するにとどまり、むしろ現時点においてもなおその改善の可能性があることを前提とするものということができる。
また、実際、パーク七里御浜は本件貸付後今日まで一定の成果をあげつつ存続してきていること、前示のとおり、本件貸付当時において合理的な担保を徴したものと認められること、現時点においてみても、本件担保不動産の帳簿総額は18億6416万5000円であり、これに対し本件抵当権等の被担保債権総額は、本件貸付金を含めて、その約6割に当たる11億2258万円にとどまり(〔証拠略〕)、本件貸付金の回収を期待し得るものであることに鑑みれば、本件貸付が、控訴人らの主張するように貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けとして、著しく不合理で、裁量権を逸脱、又は濫用するものとは認められない。
控訴人がるる主張するところは、いずれも上記認定を左右するに足りない。
ウ パーク七里御浜は、過疎に悩む御浜町において、人口の流出に歯止めをかけ、産業振興や雇用創出の要となることを目的として設立されたものであり、その目的に一定の公共性、公益性が認められることは疑いない。しかし、いわゆるバブル経済の絶頂期といういわば特殊な環境の中で策定された具体的な事業計画は、当初設備投資資金のほとんどを借入資金に依存するという今日からみればそれ自体として相当程度無理がある計画によるものといわざるを得ず、本件貸付に至る数次の公金の投資は、現実的な制約の中で、創業時の矛盾を解消するためのぎりぎりの選択として行われてきたものであることは想像に難くない。そのような状況の中で行われた本件貸付は、その回収可能性という観点から、前示の諸事情を総合的に考慮すれば、なお御浜町のとり得る選択肢の一つとして、公共性ないし公益性の観点からみて、行政において許容される裁量の範囲にとどまるというべきである。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 田邊浩典 手嶋あさみ)
≪参考≫ 津地裁平成15年4月24日判決(平成10年(行ウ)第33号)
【主文】
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
【事実及び理由】
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 被告らは、連帯して御浜町に対し、9億5000万円を支払え。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 被告ら
主文同旨
第2 事案の概要等
1 本件は、御浜町の住民である原告らが、御浜町のパーク七里御浜株式会社(以下「パーク七里御浜」という。)に対する貸付けが違法であるなどとして、御浜町長でパーク七里御浜の取締役であった被告奥西及び同町収入役であった被告Y1に対し、御浜町への損害賠償を求めた住民訴訟である。
2 争いのない事実等
(1) 原告らは、御浜町の住民である。
パーク七里御浜は、<1>不動産の賃貸借、建物等の維持、管理運営、<2>農林水産物の生産・加工、<3>ホテル・旅館その他の観光施設の経営、<4>観光地曳網業務、<5>市場調査業務、<6>食料品、タバコ喫煙具、清涼飲料、日用雑貨、装身具類、家具類、身のまわり品等の小売り販売を目的として、昭処61年5月28日に設立された株式会社である。
パーク七里御浜の額面株式1株の金額は5万円(当時)であり、発行済み株式総数は、当初600株、資本の額は3000万円であったが、順次変更され、平成6年6月25日には3万1664株で、資本の額は15億8320万円となり、平成13年3月28日には3万1764株で、資本の額は15億8820万円となっている。
被告奥西は、後記の貸付けの決裁、支出負担行為、支出命令を行った当時の御浜町長である。
被告Y1は、後記の貸付けを行った当時の収入役である。
(2) パーク七里御浜は、「平成10年4月16日、貸付申請を行い、御浜町は、同月17日、9億5000万円の貸付け(以下「本件貸付」という。)の決定を行い、支出命令を発した。
(3) 被告Y1は、平成10年4月30日に、パーク七里御浜に対する本件貸付の支出負担行為を確認して支出命令に従い、支出行為を行った。
(4) 本件貸付の条件は、平成10年から平成14年までの5年間は元金の返済を猶予し、平成15年から平成29年まで15年間にわたって元金を分割して弁済するが、平成15年は2000万円とし、以後、順次返済額を増やしていき、最終年度の平成29年には8875万円を返済する、利率は年1%とし、平成10年度の返済利息は871万9178円で、平成11年度から平成15年度までの返済利息は950万円であり、平成29年度の返済利息は88万7500円であるというものである。
(5) 監査請求と監査結果
原告らは、平成10年9月17日に、御浜町監査委員に対し、地方自治法242条1項に基づき、「上記の公金の支出が違法であるので、御浜町長、収入役に公金支出額相当額の損害賠償を、パーク七里御浜に対し公金支出相当額の返還を請求する措置を講ずるよう求める。」旨の監査請求をしたところ、同監査委員は、平成10年11月16日に原告らの監査請求を棄却した。
3 原告らの主張
(1) 本件貸付は、地方公共団体である御浜町の固有の事務に係る経費とはいえない。民間会社であるパーク七里御浜に対する貸付けに関する御浜町の支出負担行為は、地方自治法232条に違反する。
(2) 地方公共団体が行う民間法人に対する貸付けについては法令又は条例に根拠を有しなければならないところ、本件貸付は、法令又は条例に根拠を有しない。
(3) 本件貸付は、地方自治法221条2項の調査を尽くさずに行われた。そのため、後記(4)のとおり回収の見込みのない貸付けがなされた。
(4) パーク七里御浜は格付けがなされるならば最低ランクの会社であり銀行の融資の対象ともならない法人であり、株式評価は無価値に近く、担保力は皆無であり、貸付債権の全額回収の可能性は皆無の会社であって、業務内容である賃料収入によっては、既存債務を返済することすら不可能な株式会社である。
このように、経営内容の極端に悪いパーク七里御浜に対して、9億5000万円もの巨額な公金を20年間の長期にわたって貸し付ける行為は企業としての存続すら危い株式会社に対して、回収不能を承知で貸付けを行っているものといえるのであって、貸付債権の焦げ付きを見込んだ貸付けであって、違法である(経営状態が危機的状態にある会社に対する回収の見込みがない貸付け)。
特に、本件貸付当時のパーク七里御浜の経営状態や、本件貸付に当たり策定された第3次経営改善計画には次のとおりの問題があった。
ア 第3次経営改善計画の策定時には、パーク七里御浜の売上げは毎年下降しているうえ、ジャスコ進出により売上げが少なくとも10%落ち込むこと、建設協力金の返還が約束どおりできないことがわかっていた。
イ 第3次経営改善計画は、固定資産税の延滞金の支払を想定しておらず、その計画の策定根拠とされる空調施設のトラブル、平成4年度以降の固定資産税滞納分の一括納付、空きテナントの存在は第1次経営改善計画のときから予め予見できた。
ウ 第三銀行からの運転資金借入金の繰上償還は、何故繰上償還しなければならないか、理由は不明である。
エ パーク七里御浜は融資を受けた元金を直ちに支払えない経営状態にあった。
(5) 御浜町は本件貸付の財源として、財政調整基金の取崩しを行い、「その他必要やむを得ない理由により生じた経費の財源に充てる為」と称しているが、本件貸付は御浜町の固有の事務の経費とはいえないから、「その他必要やむを得ない理由により生じた経費の財源に充てるとき」という要件には該当しないものであり、取崩しも違法である(地方財政法4条の4違反)。
(6) 被告らの責任
ア 被告奥西は、御浜町の町長として、違法な支出負担行為、違法な支出命令、違法な財政調整基金の取崩しをしたものであり、9億5000万円の貸付けによって御浜町が被った損害を賠償すべき義務がある。
イ 被告Y1は、御浜町の収入役として、町長の支出命令を受けた場合においても、当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないことなどを確認した上でなければ、支出することができない(地方自治法232条の4第2項)にもかかわらず、法令違反の支出を行ったもので、損害賠償責任がある。
ウ パーク七里御浜は、本件貸付の全額返済が不可能であることを承知しながら本件貸付申請を行って借り入れたものであるから、不法行為に基づく損害賠償義務があり、被告奥西はこの会社の取締役として商法266条の3に基づき、御浜町が被った損害を賠償する責任がある。
4 被告らの主張
(1) 原告らの主張(1)、(2)に対する反論
ア 原告らは、「本件貸付が地方自治法第232条に違反する。」旨主張するが、地方自治法232条の3は、「普通地方公共団体の支出の原因となるべき契約その他の行為(これを支出負担行為という。)は、法令又は予算の定めるところに従い、これをしなければならない。」と規定している。
この規定は、支出負担行為が法令又は予算の定めるところに従ってなされるべきことを定めた規定である。
本件当時の地方自治法232条は、「普通地方公共団体は当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費、当該普通地方公共団体の長、委員会若しくは委員又はこれらの管理に属する機関が法律又はこれに基づいた政令によりその権限に属する国、他の地方公共団体その他公共団体の事務を管理し、又は執行するために必要な経費その他の法律又はこれに基づく政令より当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。」と規定し、普通地方公共団体の事務処理のために必要な経費の支弁義務を定めている。
イ 地方公共団体が実施する特定の事業等に対する支援措置としては、補助金及び貸付けの方法が考えられる。補助金の交付については、地方自治法232条の2の規定に「公益上必要がある場合においては…補助をすることができる」という制限がある。
貸付けについては、地方自治法232条の2の規定による制限はなく、法令による目的の制限や、貸付けの要綱等を求める規定もなく、議会において予算が可決されれば、個別の貸付契約に基づき、貸付けを行うことができる。
御浜町のパーク七里御浜に対する貸付けも、平成10年3月議会の承認議決に基づいて行っているところである。
地方公共団体は、直接又は間接に地域住民の福祉の増進や行政目的の見地から貸付けを行っているのであり、通常は無利子又は市中金利に比べて低利であり、償還期間も長期としていることが多い。
ウ 原告らは、「民間会社に対する本件貸付は、法令の根拠に基づかない違法な融資である。」旨主張する。
しかし、上記のとおり普通地方公共団体は地方自治の本旨に基づき、貸付けを行うことができる。
そして、地方自治の本旨とは、住民福祉の増進の目的に副う行政の施策を団体自治、住民自治の観点から地方公共団体の首長・議会が自主的、主体的に決定・実行することである。
したがって、地方公共団体の議会・執行機関は、住民の福祉の増進に寄与する貸付けを時代的、社会的、地域的な事情等、地方公共団体の諸般の事情を総合的かつ合理的に勘案して判断、執行することができる。
貸付けに地方自治法232条の2の適用はないのであるから、貸付けが住民福祉の増進に寄与するかどうかについては同条の公共性・公益性に関する解釈よりも緩やかに解されるべきである。
また、本件のように、特定の相手方に対し貸付けを実施する場合には、貸付けの内容を一般に広く知らしめる必要はないため、貸付けの実施にあたって特段要綱等を定めることは必要とされていないが、御浜町が内部的な内規としての貸付要領等を定め、貸付けの必要な理由、貸付けの実施基準等、貸付け実施に係る一定の基準を明らかにし、客観性を担保している。
原告らの御浜町のパーク七里御浜に対する貸付けそのものを否定する主張は、地方自治の本旨の解釈を誤ったものである上、地方公共団体の貸付けについて、議会、執行機関の裁量的判断を全く認めず、極めて限定的に判断しようとするものであり、憲法の保障する地方自治の本旨を損なうおそれのある独断的な見解といわざるを得ない。
(2) 原告らの主張(3)に対する反論
ア パーク七里御浜は、平成6年に決定された第2次経営改善計画に基づき、経営の安定化に向けて事業を推進してきた。
御浜町は、パーク七里御浜の経営を安定させるために「パーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会」(〔証拠略〕)を設置し、バブル崩壊に端を発した不況の長期化や会社を取りまく経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上の低下)等に対処することとした。
イ パーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会は、当初から第3次経営改善計画を策定するために設置したものではなく、パーク七里御浜の経営安定を図るための有効な事業、支援策について検討し、会社の経営改善に必要な施策を提言することを目的としている委員会であった。すなわち、パーク七里御浜が御浜町主導の第三セクターの会社であり、かつ御浜町の発展上欠かすことができない会社であるため、今後も経営安定のための必要な施策提言を行うことを目的として設置された。
ウ 平成6年4月設置されたパーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会は、御浜町助役、御浜町企画振興課長、御浜町総務課長、御浜町商工会事務局長、金融機関を代表する者(第三銀行御浜支店長)、学識経験者、三重県職員で構成され、会社の現状と課題及び会社の経営改善を図る方策について検討された。
既存施設の改善及び整備充実、周辺の整備、イベント開催等ンフト事業の強化、会社の内面的な取り組みが検討されたが、平成7年度において滞納固定資産税の一括納付や塩害等に伴う突発的な空調設備の修繕の必要が生じたことにより、第3次経営改善計画の必要性が論じられるに至った。
エ 第3次経営改善計画は、平成6年度に御浜町が設置した「パーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会」(〔証拠略〕)により、平成8年度から平成9年度にかけて、会社の経営内容や経営環境の他、金融情勢など経営全般にわたり詳細な検討がなされた素案を基に、会社の取締役会をはじめとして、御浜町、御浜町議会で更に詳細に検討され決定された(〔証拠略〕)。
本件貸付は、第3次経営改善計画を基に実行されたものであり、地方自治法上の調査は十分なされている。
(3) 原告らの主張(4)に対する反論
ア 本件貸付は、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けではない。
イ パーク七里御浜は、公共性・公益性の高い第三セクターの会社である。
パーク七里御浜の施設モール「ピネ」は町民の利便性や雇用の場の確保等大きな経済効果を生み出すと共に、町の商業近代化、活性化に多大な貢献をもたらしており、住みよい町・便利な町にするため大きく寄与している。また、パーク七里御浜の施設モール「ピネ」ができたことにより、御浜町中央公民館、第三銀行、阿田和郵便局の建設につながり、既存施設の紀南病院、JA三重南紀本店等と連携され、パーク七里御浜の施設モール「ピネ」の存在価値は非常に高く、御浜町及び東紀州地域の中心的な核施設としての役割が果たされている。
ウ パーク七里御浜は、平成2年8月、第1次経営改善計画を、平成6年3月、第2次経営改善計画をそれぞれ策定し、経営改善努力を行ってきており、相当な成果をあげた。
御浜町は、会社の経営を安定させるため、「パーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会」を設置し、バブル崩壊に端を発した不況の長期化や会社を取り巻く経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上げの低下)等に対処することとした。
第3次経営改善計画は、会社の経営内容を分析しながら、テナント各社の経営内容にも検討を加えると共に、長期にわたる不況の先行きや金融情勢など多岐にわたり検討した結果策定され、パーク七里御浜の取締役会が更に検討し、決定されたものである。この計画は御浜町議会においても審議され同意を得て確定したものである。
エ 御浜町の9億5000万円の融資により、日本開発銀行(日本政策投資銀行)や第三銀行等から借り入れている当初設備資金・青木建設の長期未払金を返済し、金利負担の軽減を図った。
オ 第3次経営改善計画の成果
(ア) 第3次経営改善計画は、平成6年度に御浜町が設置した「パーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会」により、平成8年度から平成9年度にかけて、会社の経営内容や経営環境の他、金融情勢など経営全般にわたり詳細な検討がなされた素案を基に、会社取締役会はじめ御浜町、御浜町議会で更に検討され決定された(〔証拠略〕)。
(イ) 第3次経営改善計画(〔証拠略〕)は、平成10年度より実施されている。その後の会社を取りまく経営環境は、長期にわたる不況からくる観光客の減少が続き、観光センターの大型テナントK社が主に和歌山県の観光地である白浜町での営業不振等により突然倒産した他、観光センターのテナントa社の退店やショッピングセンターのゲームコーナー会社の退店などがあり大変厳しいものであったが、ショッピングセンターテナント会・観光センターテナント会及びパーク七里御浜3者が一体となって取り組んできた努力が着実に実を結びはじめている。
a 支払利息の軽減実績
第3次経営改善計画の中心であった支払利息の軽減実績は下表のとおりである。
<省略>
b 経常利益の比較
<省略>
日本経済が順調に推移し、金融不安などが発生しない経済状況であれば、営業収入により営業外費用である支払利息も支払い、利益が確保されるが、バブル経済の崩壊に端を発した長々期にわたる不況下では、支払利息の軽減対策が不可欠であるとの認識のもと、第3次経営改善計画が策定され、その後更に厳しい経営環境の下で着実にその成果を上げはじめている。
(ウ) 営業損益、経常損益、当期損益の推移からみた実績
パーク七里御浜は、バブル経済の絶頂期であった昭和61年に設立され、折からの開発ブームの追い風のもと、計画が策定され、昭和63年7月に営業が開始されたのであるが、バブル経済の崩壊というかつて我が国が経験したことがないような長期不況のもと、御浜町が町の運命をかけた開発プロジェクトの健全経営のための方策として、多くの議論を重ね、行政及び関係機関テナント関係者・金融機関等が英知をしぼって、第1次経営改善計画、第2次経営改善計画、第3次経営改善計画がそれぞれ策定され、実行されている。
長期にわたる不況に加え、「住民訴訟」という逆風を受けつつも、着実にその成果があがっている。
営業損益、経常損益、当期損益の推移は、別紙「営業損益、経常損益、当期損益の推移」(〔証拠略〕)に記載のとおりであって、安定した業績の回復が図られている。
(エ) 空調設備については、当初から海辺周辺の設備であることから、一部塩害仕様が採用されており、その耐用年数は15年以上と予測して慎重に運転が続けられていたのであり、突如大規模な故障が発生するとの予測は困難であった。塩害を考慮して屋上へ設置した主要設備であったが、塩害に加えて屋上の風向の関係で煙害(排煙中に含まれる硫黄成分による冷却水の目に見えない汚染)などが複合的に作用して起こったことが、後日の解体調査ではじめて判明したほどであり、第1次経営改善計画や第2次経営改善計画の策定時においての予測は極めて困難であった。
パーク七里御浜は、固定資産税を早期完納できるよう、常に資金繰りを検討してきた。御浜町振興の拠点施設を継続的に維持し、事業を発展させていくことを前提とし、経営改善を図ることにより資金調達を可能ならしめ、資金繰りをして滞納税金の早期完納をすることを基本として努力が重ねられてきた。
パーク七里御浜が第三銀行の借入金2億2900万円を繰上償還したのは、パーク七里御浜の借入金の「支払利息軽減」を最大限に達成させるためにはどうするのがベストなのかを検討し、その結果として繰上償還を実行したものである。
空きテナントヘの充足計画は、計画策定時の経営環境や日本の経済情勢、消費動向など可能な限りをつくして分析しながら、パーク七里御浜の経営努力目標値を示す意味合いも含め、総合的に策定されたものであり、計画時における目標設定には重大な誤りはない。
カ 御浜町がパーク七里御浜に対する本件貸付に際して徴求した担保物件評価の妥当性
(ア) パーク七里御浜の本店所在地の南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5は、御浜町の固定資産評価のための基準地である。御浜町は貸付けに際し、改めて鑑定評価を行っていないが、直近の鑑定評価額を参考にして、パーク七里御浜の土地に関する帳簿価額は適正な数値であると判断したものであり、この判断には、裁量権の逸脱等はない(〔証拠略〕)。
ちなみに、課税標準価額を決める標準価額は1m2当たり8万9000円であり、鑑定価額は1m2当たり6万9400円、価額総額は7億4763万5100円であり、帳簿価額7億0082万5052円を上まわる評価額である。
南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5の宅地は御浜商業協同組合と持分案分という共有関係にあるがその共有割合は58095/1135379であり、御浜商業協同組合の持分は5.1%で、担保評価にさほど大きく影響するものではなく、抵当権の設定もそれぞれの持分に対し設定されている(〔証拠略〕)。また、土地の帳簿価格は持分所有部分である。
(イ) 建物、建物附属設備、機械、工具器具備品の取得価額は適正に会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されていることはいうまでもなく、一連の決算書はその事実を表し、証明するものである。
ちなみに、平成14年3月31日において担保に供している不動産の帳簿価額の総額は20億3414万5000円であり、担保権によって担保されている借入金の総額は12億0537万9000円で、期末帳簿価額の約59%であり、担保不足は生じないのである(〔証拠略〕)。
(4) 原告らの主張(5)に対する反論
ア 御浜町の財政調整基金の取崩しは、地方財政法4条の4第3号の規定に基づくものである。
イ 御浜町のパーク七里御浜に対する出資に係る津地方裁判所平成9年7月17日判決は、財政調整基金の取崩しが地方財政法4条の4第3号に違反しない旨判示している。
ウ 財政調整基金の取崩しについては、貸付金と出資金の違いはあるものの、その取扱いに関しては同様と解されることから、平成2年度に御浜町がパーク七里御浜へ出資した件に対する津地方裁判所(平成9年7月17日判決)の論理があてはまるものである。
パーク七里御浜の第3次経営改善計画に基づく貸付けのための財政調整基金の取崩しは、地方財政法4条の4第3号の「必要やむを得ない理由により生じた経費」に含まれる。今回の取崩しは、平成10年度の当初予算に計上され、御浜町議会は賛成多数で可決したものであり、裁量権を逸脱した違法性はない。
エ 地方公共団体は、その予算の中で、他の団体に対する貸付けをなし得るものであって、そうした投資的経費も地方財政法4条の4第3号から特段除外されているものと解する理由はないとの見解から、財政調整基金の取崩しもやむなしと判断されたものである。
オ 財政調整基金は、地方公共団体の年度間の財政の不均衡を調整するための積立金であり、目的を特定せず、地方公共団体の健全な財政運営に資する目的で設けられたものであって、地方財政法4条の4第3号の「その他必要やむを得ない理由」は、前記のような制度の趣旨に基づき、地方公共団体が自主的に判断できるものであって、原告らが主張するように極めて限定的に判断すべきものではない。
当時の御浜町長であった被告奥西は、以下の事情を考慮して財政調整基金の取崩しもやむを得ないと判断し、積立金の取崩しを含む平成10年度当初予算等を議会に提出し、御浜町議会も同様に判断してこれを可決したものである。
(ア) パーク七里御浜は公共的、公益的性格を有する団体である。本件事業は、産業の衰退や過疎化が進む御浜町において、商業を中心とする産業振興の期待を担っており、御浜町にとって、集客や雇用の場の創出等一定の効果をあげている。
(イ) パーク七里御浜が策定した第3次経営改善計画には、長期的な不況と近隣の新宮市への超大型店の進出等の厳しい経営環境にあって、家賃収入・共益費収入等の伸びを下方修正したことに伴う運営経費等の削減方針が示されていて、一般管理費・施設管理費については、必要最小限度に押さえることに加え、現在の低金利時代にあって、金利負担の軽減対策が盛り込まれていた。これは低金利の融資を受け、金利の高い当初の設備資金等の返済に充当しようとするものであり、これらの計画の早急な実行が要求された。
(ウ) 万一、パーク七里御浜が倒産する事態となれば、御浜町及び近隣市町村のリゾート開発事業及び地域経済に与える影響は甚大であった。
以上の点を考慮し、本件貸付の支出のために、財政調整基金を取り崩して一般財源として予算に繰り入れることは、何ら地方財政法4条の4第3号に反するものではない。
なお、御浜町の財政調整基金は、平成10年度当初、6億0806万円が積み立てられていたところ、本件貸付を含む5億円を取り崩したが、同年に8717万円を新たに積み立てた。その後、大災害復旧、尾呂志小中学校の建設等に3億5240万円取り崩したが(パーク七里御浜に関係のない取崩し)、平成14年3月末で約2億3600万円の残高となっている。このように、将来における年度間の財政の不均衡を調整するための財政調整基金の積み立ては、確実に実行されていて、財政運営の健全性が保たれていることを付け加える。
(5) 原告らの主張(6)は争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件貸付の経緯等
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) パーク七里御浜設立の経緯
ア 御浜町は三重県の南端部の東紀州地域に位置し、大阪、名古屋まで自動車・JR東海紀勢本線でそれぞれ4時間を要する距離にある。従来柑橘類の生産を中心とする農林水産業を基幹事業としていたが、農林水産業などの沈滞とこれによる過疎化が著しく進行しており、昭和33年当時約1万4000人であった人口は昭和59年には約1万人と減少し、昭和46年には三重県から準過疎地域に指定され、平成2年4月1日には過疎地域活性化特別措置法による過疎地域に指定されている。
このような状況にあって、御浜町は、昭和58年ころから阿田和中学校の移転に伴う跡地(御浜町所有地)の利用について、同町が熊野市と新宮市の商業の中間にあり購買客が流出していること等に鑑み、御浜町の商業の振興と活性化に資する有効利用の方策を検討することとした。
イ 阿田和中学校跡地利用について、御浜町がアジア航測株式会社に委託した調査や、御浜町商工会が三重県の補助事業で実施した御浜町商業近代化対策調査事業の結果を基に、御浜町は、昭和59年7月に御浜町長、助役、収入役、町議会議員、三重御浜農業協同組合組合長、御浜町商工会会長等を委員とする御浜町阿田和駅前開発協議会を設置した。この協議会は、商業の集積、地場産業の育成、観光開発等を目標とする開発を検討し、御浜町はその提言に基づいてコクド鑑定調査株式会社に開発事業の計画策定を委託した。
同社は、三重大学人文学部教授伊藤達雄を代表とするプロジェクトチームを組織して調査研究を行い、昭和59年12月、阿田和中学校跡地利用基本計画報告書を提出した。さらに、昭和60年11月には、この基本計画に基づく阿田和中学校跡地利用実施計画報告書が提出された。これに伴い、御浜町でも町議会全員協議会において事業に関する討議が繰り返された。
これらの計画の内容は次のとおりである。
事業は、(ア)商業振興として地元商業の活性化を図るためのショッピングセンター建設、(イ)観光振興のため、日本百選、白砂青松百選に指定されている七里御浜海岸を中心とする海浜レクリエーション施設の創出、観光センター、リゾート型ビジネスホテル、みかん博物館の建設、(ウ)広域的視点に立った地場産業振興センターの建設、(エ)地域住民のコミュニティ活動の場として中央公民館(総合文化センター)の建設を内容とする。
開発主体は第三セクター方式によることとし、第三セクターが土地を御浜町から買い受けて所有し、原則として建物施設を建設所有し、テナント方式で運営するが、ショッピングセンターの協同店舖部分は建物施設のみ協同組合に譲渡し、第三セクターとの区分所有とする。そして、この第三セクターは主にショッピングセンター部門と観光部門につき、テナントの管理業務及び建物施設の維持管理、運営業務を行う。資本の形態は、御浜町及び民間の出資とし、御浜町は株式の過半数を所有する。
総事業費は26億5273万5000円とし、資金調達計画は、資本金3000万円、組合施設売却収入3億4408万円、建設協力金収入(預かり保証金)8億1059万円による自己資本金合計11億8467万円と、借入金14億7000万円の合計26億5467万円を予定する。
ウ なお、パーク七里御浜設立後昭和62年12月に作成されたパーク七里御浜施設運営計画書は、用地取得、整備費用の増額、ホテル・レストラン棟の規模拡大と建築単価の上昇から施設建設事業費は総額35億4000万円とし、借入金25億2300万円、預かり保証金6億2300万円、売却収入2億2800万円、資本金1億2000万円、分担金4600万円をもって資金調達を行うこととした。
(2) パーク七里御浜の設立及び事業の運営
ア パーク七里御浜は、御浜町長を代表取締役とし、第三セクター方式で昭和61年5月28日に設立された。設立の際の資本金は3000万円で、会社が発行する株式の総数は2400株、発行済み株式の総数は600株であり、御浜町は1530万円を出資し、株式306株(出資比率51パーセント)を取得した。他の出資者は三重御浜農業協同組合、浦島観光株式会社、株式会社御浜窯、御浜町商工会、三重交通株式会社、熊野交通株式会社、株式会社第三相互銀行、株式会社百五銀行、近畿日本鉄道株式会社等であるが、いずれもその出資額は設立当時200万円以下であった。その後、平成2年1月26日に三重県が1200万円の出資をするなどの増資がされて、同年4月21日にはパーク七里御浜の資本金は1億6200万円となった。同社の経営管理命運営も御浜町主導で行われた。
イ ショッピングセンター、観光センター、地場産業振興センターは、昭和63年6月30日に建設を完了したが、ホテル、レストランについては、テナントが決まらず、建設を中断した。
こうして、パーク七里御浜は、施設建設総投資額31億5600万円余を費やして、昭和63年7月15日にショッピングセンター、観光センター、地場産業振興センターを擁する施設を開設した。地場産業振興センターは、御浜窯(地場陶芸品)等の地場産品を展示即売するとともに、その加工工程を見せる実演工房と来店客自らが制作する体験工房を設置したものであり、総てパーク七里御浜の直営である。ショッピングセンターには地元商業者による協同店舖15店が参加し、核テナントとして従来から同地区にあったスーパー・オークワが入ったが、12店の一般テナントのうち6店舗については家賃が高い等の問題で入店者が見つからず、パーク七里御浜の直営店舗とされた。観光センターについてもレストランが核テナントとして入店したが、一般テナント12店のうち4店舖は入店者が決まらず、直営店舗として開業した。
ウ この施設計画は、折からの国、県の推進するリゾート開発計画の動向に応じたものであり、昭和62年6月4日、この施設は建設省から御浜町七里御浜海岸(阿田和町)コースタル・コミュニティ・ゾーン整備計画の中核施設に認定された。また、三重県は昭和58年第2次三重県長期総合計画において、東紀州地域を「サンベルト地域」として位置づけ、国民的、国際的な休養、保養基地として整備を図るとしており、昭和63年7月9日、御浜町は総合保養地域整備法に基づき、三重県が実施する国際リゾート開発としての三重サンベルト構想の特定地域構成市町村に指定され、御浜町の一部が重点整備地区に指定され、この施設は特定民間施設に指定された。これらの整備計画等に基づいて、建設省、三重県及び御浜町により、海岸高潮対策事業、交通安全施設整備事業、海岸環境整備事業、社会教育施設整備事業(中央公民館の建設)、自然遊歩道整備事業等が順次進められている。
エ パーク七里御浜の従業員は、平成元年3月31日時点で46名で、平成元年度のショッピングセンターでの集客人員が92万9000人、売上額が15億3500万円で、観光センターの集客人員が23万3000人、売上額が3億2500万円、入り込み団体バスが3631台となっており、平成2年度(第5期)ショッピングセンターの集客人員が95万7267人、売上額が15億8200万円、観光センターの集客人員が18万3900人、売上額が2億8900万円、入り込み団体バスが3693台となっていた。
パーク七里御浜のテナント等における事業者及び従業員数は、平成6年9月1日時点で約200名であり、うち約110名が御浜町居住者となっており、御浜町における大きな雇用の場となっている。
(3) パーク七里御浜の経営悪化等
ア 合計10店舗が直営店となったことによる家賃収入の減収や設備投資、ホテル・レストラン棟の建設が中断されたことによる工事進行分の投資額・家賃収入の減収、町主導型であることによる経営の経験不足や人事管理の不手際等の要因での直営店の赤字経営、不採算部門である地場産業振興センターの負担等のため、開設まもなくパーク七里御浜は経営状態が悪化した。
イ そこで、パーク七里御浜は、平成元年5月に三重県に対し中小企業経営活性化指導を依頼し、同年11月に診断勧告を受けた。
ウ また、御浜町は、平成元年2月28日及び同年3月1日に、パーク七里御浜が同日付けで施設建設資金を借り入れた借入先である株式会社日本興業銀行ほか25行の銀行と三重県信用農業協同組合連合会ほか一連合会に対し、元本合計13億1000万円につき、損失補償契約を締結した。
(4) 第1次経営改善計画について
ア 三重県の経営診断結果を受けて、パーク七里御浜は御浜町商工会事務局長、御浜町商業協同組合関係者、テナント関係者等からなる経営改善計画策定幹事会を設置し、関係者の協力が得られなかった場合の和議申請も含めて検討し、債権者に対する金利の引き下げを要請し、テナント等に建設協力金や家賃の改定について協力を求める等、関係者の協力を得るための交渉を行い、その一方で御浜町のリゾート推進室が中心となって、町からの資金援助額についても検討し、その上で、経営改善計画案を策定した。この計画案作成の過程においては、度々御浜町町議会全員協議会等に提案を行い、その審議を経て再検討が加えられ、平成2年8月に経営改善計画が策定された。
イ この経営改善計画の内容は、「三重県に対し、平成2年度の御浜町に対する市町村振興資金6億円の貸付けと平成3年度以降の地場産業振興センターの賃貸料1500万円を助成することを要請し、また、自己資本が過少で借入金の金利負担が増大していたので、低収益施設の施設投資額の補填のためにも金利負担のない資金を確保すべく、御浜町に対して出資を求めるとともに、平成6年度以降も2650万円の出資を求め、出資金を借入金の繰上償還に当て、財務内容の改善を図る。」というものである。
この計画によると、平成20年度に建設当初の借入金は総て償還されることとなる。
また、三重県の経営診断勧告に副って、施設運営の分離、直営店の廃止、平成2年3月に閉鎖された地場産業振興センターを御浜町及び近隣市町村の共同運営として平成3年4月に紀南地域活性化センターを開設することとなった。
ウ 平成2年8月24日開催の御浜町議会臨時会でこの出資金を含む予算案の決議を経た上、同月29日パーク七里御浜は取締役会でこの経営改善計画を承認した。
エ 御浜町は、この計画のとおり、平成2年8月30日に3億5500万円、同9月14日に6億円の合計9億5500万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。
この結果、御浜町は、平成3年3月31日時点で、パーク七里御浜の発行済み株式2万3290株のうち2万0290株を有することとなった。
(5) 第2次経営改善計画について
ア パーク七里御浜は、平成6年3月4日の御浜町議会全員協議会に「パーク七里御浜の経営改善計画の見直し(案)」(〔証拠略〕)を提出し、その検討を求めた。
イ その案の内容は次のとおりである。
「1 見直しの必要性
(1) 金融状況の激変により運転資金の借入条件が厳しくなった。
ア 不動産投資に対して、金融機関の過剰融資が問題化し、担保物件の買取り機関設立等、融資担保の評価が非常に厳しくなった。
イ 当社の担保については、御浜商業協同組合との区分所有、共有関係にあり、担保価値の評価が高く望めない。
ウ 町の出資金について、住民訴訟が提起され銀行サイドからみて、町の支援体制が疑問視されはじめたこと。
エ 会社経営における収入が経営改善計画の10.8%下回っており(平成4年度実績)、又当初からの累積欠損金があり財務内容が悪い。
オ 借入金元金返済のための融資は当初見込みと異なり、銀行業務としては貸付困難な状況にある。従い元金返済財源の確保を明示する必要がある。
(2) 住民訴訟による悪影響が発生している。
ア バブルの崩壊による経済活動の低下や訴訟の影響により、テナントの入店勧誘が困難となっている。
イ 具体的入店交渉において、訴訟の合法判断があるまで延期をしたい旨申し入れられている。
(3) 空きテナントの充足、並びに家賃改定の遅れによる収益減等が発生している。
ア 家賃改定について、一部のテナントの売り上げが伸びず、経営改善計画における家賃の負担に応じられない状況にある。
イ 住民訴訟により、新規入店・増床が延期又は中止され、この訴訟が決着するまで様子を見ている傾向にある。
2 見直しの内容…
(1) 運転資金の借入条件を整備する。
財務内容改善のため、新たな資金として県よりの出資等を求める。平成6年度に県の出資1億4600万円(総資本金の10%)、又町の出資計画である2億6500万円を同時期に繰り上げ、計4億1100万円により経営基盤を確立する。
平成5年度運転資金借入額8100万円は、県・町の出資金により平成6年度に返済し、金利軽減を図る。これにより町の損失補償も抹消される。
青木建設(株)に対する建設延べ払い金2億2192万円は、平成5年度まで償還猶予を求める。その後の償還は約定どおりとする。
公的機開等に対し運転資金充当のための無利子又は低利子融資を求める。
(2) 空きテナント充足、並びに家賃改定は、努力可能な期間に収益を見込み、住民訴訟の進行状況を考慮して、平成6年度から順次計上する。
3 見直しによる経営状況
(1) 損益状況
黒字転換は平成12年度となり、平成11年度末における累積欠損額は11億7260万9000円となる。
累積欠損額の解消は、平成25年度になる見込みである。
(2) 運転資金
建設資金の償還期間中は、全額自己資金での対応は困難であり、平成9年度から再び運転資金の調達が必要となる。…
運転資金借入残高のピークは、平成17年度末で5億6961万5000円、平成21年度での借入金残高は3億7291万5000円となる。
(3) 当初の設備資金借入額25億4000万円は、平成29年度で完済し0となる。…」
ウ 御浜町議会全員協議会はこの計画を承認し、御浜町はこの計画のとおりに、平成6年度に、2億6500万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。また、三重県は、平成6年度に1億4600万円をパーク七里御浜に対する出資金として支出した。
(6) 第3次経営改善計画について
ア 第1次経営改善計画及び第2次経営改善計画にもかかわらず、バブル崩壊による経済不況と住民訴訟による裁判の悪影響等で空テナントヘの入店が進まないことや、予想外の日本経済の長期低迷等極めて厳しい経営状況にあること、パーク七里御浜が御浜町主導型の第三セクターであることから、御浜町は、平成6年4月にパーク七里御浜株式会社経営改善検討委員会設置要綱を制定して、委員会を設置し、パーク七里御浜の経営安定化を図るため必要な事項を検討し、御浜町長に提言することとなった。
委員会は、御浜町助役、御浜町企画振興課長、御浜町総務課長、御浜町商工会事務局長、金融機関を代表する者(第三銀行御浜支店長)、学識経験者、三重県職員等で構成され、会社の現状と課題及び会社の経営改善を図る方策について検討された。
そこでは、既存施設の改善及び整備充実、周辺の整備、イベント開催等ソフト事業の強化、会社の内面的な取り組みが検討されたが、平成7年度において滞納固定資産税の一括納付や塩害等に伴う突発的な空調設備の修繕の必要が生じたことにより、第3次経営改善計画の必要性が論じられるに至った。
委員会は、平成8年度から平成9年度にかけて、会社の経営内容や経営環境の他、金融情勢など経営全般にわたり詳細な検討をし、平成9年10月3日に、第三次経営改善計画案を御浜町長に提出した(〔証拠略〕)。
パーク七里御浜は、平成10年4月23日に開催された取締役会等において、第3次経営改善計画案を検討した(第3次経営改善計画。〔証拠略〕)。
そこで、御浜町は、町民の利便性を含む町内外への波及効果、万一、パーク七里御浜が倒産した場合の地域経済に及ぼす影響度、今後の町財政に与える負担等について検討し、新たな改善計画にもとづいた支援を行うこととした。
御浜町議会においても、平成10年4月27日開催の平成10年度第1回全員協議会で第3次経営改善計画が検討され、その承認が得られた。
また、御浜町議会は、平成10年3月に、本件貸付にかかる支出を含む平成10年度一般会計予算案を可決した。
イ 第3次経営改善計画の概要は、次のとおりである。
(ア) これまで、借入金等の利息の返済が会社の経営を大きく圧迫していることから、御浜町より公的資金9億5000万円の低利融資(利率年1%)を受け、それを財源として利息の高い日本政策投資銀行等の借入金等を早急に返済し、支払利息の軽減を図る。御浜町は、三重県の支援を経て、9億5000万円の2分の1にあたる4億7500万円を三重県から県市町村振興資金として借り入れて、これをパーク七里御浜に対する貸付金の財源の一部とする。
(イ) 家賃、共益費の見直し
(ウ) 大規模な修繕にかかる賦課金の徴収
(エ) 管理運営経費の見直し
(オ) 建設協力金返済にかかる見直し
(カ) 周辺の整備、空テナントの解消、会社の内面的な取り組みの強化を図る。御浜町は、貸付け以外に地域内外の集客対策等について積極的な支援を行う。
ウ パーク七里御浜は、御浜町に対し、平成10年4月16日、9億5000万円の貸付申請を行い、御浜町はパーク七里御浜に対し、同月17日貸付けの決定を行い、支出命令を発した(本件貸付)。
パーク七里御浜は、御浜町からの借入金9億5000万円を当初の設備資金の借入金のうちの日本政策投資銀行の無利子融資を除く高金利分、及びその他の高金利分の借入元金等の返済に全額充当した(〔証拠略〕)。
エ 第3次経営改善計画(〔証拠略〕)は、平成10年度より実施されているが、支払利息の軽減実績及び経常利益の推移はおおよそ次のとおりである。
(ア) 支払利息の軽減実績
<省略>
(イ)経常利益の推移
<省略>
オ 第3次経営計画策定後、観光センターの大型テナント株式会社北尾商店が平成11年2月15日に主に和歌山県の観光地である白浜町での営業不振等により破産宣告を受けた(〔証拠略〕)ほか、平成12年11月30日には観光センターのテナントa社が退店し(〔証拠略〕)、平成13年5月31日にはショッピングセンターのゲームコーナーを運営する株式会社タイトーが退店する(〔証拠略〕)など厳しいものがあったが、他の既設テナントに空き店舗部分への入店を要請したり、平成12年6月16日からは1坪夢ショップを開設したり(〔証拠略〕)、平成12年5月にコインランドリーを開設したり(〔証拠略〕)、ゲームセンターを直営化したりして(〔証拠略〕)、その減収を減らす努力がなされている。
(7) 御浜町がパーク七里御浜に対する本件貸付に際して徴求した担保物件評価について
ア パーク七里御浜の本店所在地の南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5は、御浜町の固定資産評価のための基準地で、その標準価額は1m2当たり8万9000円である。御浜町は、本件貸付に際し、改めて鑑定評価を行っていないが、上記の標準価額と直近の鑑定評価額(1m2当たり6万9400円、価額総額7億4763万5100円)を参考にして、パーク七里御浜の土地に関する帳簿価額は適正な数値であると判断した(〔証拠略〕)。
イ 平成14年3月31日において担保に供している不動産の帳簿価額の総額は20億3414万5000円であり、担保権によって担保されている借入金の総額は12億0537万9000円で、期末帳簿価額の約59%にあたる。パーク七里御浜の建物、建物附属設備、機械、工具器具備品の取得価額は会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されている(〔証拠略〕)。
ウ 南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5の宅地は御浜商業協同組合と持分案分という共有関係にあるが、その共有割合は58095/1135379であり、御浜商業協同組合の持分は5.1%で、担保評価にさほど大きく影響するものではなく、抵当権もそれぞれの持分に対し設定されている(〔証拠略〕)。また、パーク七里御浜の土地の帳簿価格は持分部分のものである。
2 上記認定事実を前提として、まず、原告らの主張(1)、(2)につき検討する。
(1) 原告らは、「本件貸付が地方自治法第232条に違反する。」旨主張するが、地方自治法232条は、普通地方公共団体の事務処理のために必要な経費の支弁義務を定めるものにすぎず、普通地方公共団体が貸付けを行うことを禁じる趣旨であるとは解されない。
(2) 原告らは、「民間会社に対する本件貸付は、法令の根拠に基づかない違法な融資である。」旨主張する。
しかし、普通地方公共団体は地方自治の本旨に基づき、貸付けを行うことができると解するのが相当である。
もっとも、貸付けも普通地方公共団体の行う支出である以上、公共性ないし公益性の認められないような支出は地方公共団体存立の基本理念に反し、許されないというべきである。そして、当該貸付けの支出が公共性ないし公益性を有するか否かについては、当該区域住民の民意に存立の基礎を置く当該地方公共団体の担当機関が、<ア>当該貸付の趣旨、目的、<イ>当該地方公共団体の置かれた地理的、社会的、経済的事情や特性、<ウ>議会の対応、<エ>当該地方公共団体の財政の規模及び状況、<オ>他の行政施策との関連等を総合的に考慮して判断することが、地方自治の精神に合致するといい得るから、貸付けの適法性の判断は当該地方公共団体の担当機関の裁量に委ねられているというべきであり、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し、又は濫用するものであると認められる場合にのみ違法となると解するのが相当である。
しかるに、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜は、三重県の指導のもと御浜町主導によって株式会社方式で設立された会社であること、パーク七里御浜の施設は、過疎化が進む御浜町にとって、町民の利便性や雇用の場の確保等の経済効果を生み出すと共に、町の商業近代化、活性化に一定の貢献をもたらしていること、第1、2次経営改善計画にもかかわらず、不況の長期化や会社を取り巻く経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上げの低下)等による経営悪化のため、第3次経営改善計画を策定したこと、この第3次経営改善計画は御浜町議会においても、全員協議会で審議されその承認を得ていること、本件貸付は第3次経営改善計画に従い支出されたものであるが、その支出について御浜町議会の議決を経ていること等が認められ、これらの事実からすれば、本件貨付をすることが、公共性ないし公益性を有するとの御浜町の判断は、著しく不合理で裁量権を逸脱し、又は濫用するものであったとは認められない。
3 原告らの主張(3)につき検討する。
原告らは、「本件貸付は、地方自治法221条2項の調査を尽くさずに行われた。」と主張するが、上記1の認定事実のとおり、委員会が設置され、その検討の結果第3次経営改善計画が策定されて、本件貸付に至ったのであるから、地方自治法221条2項の調査が尽くされなかったとは認められない。
4 原告らの主張(4)につき検討する。
原告らは、「本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けである。」旨主張するが、上記1の認定事実によれば、第3次経営改善計画策定、観光センターの大型テナントの北尾商店が破産した他、観光センターのテナントa社の退店やショッピングセンターのゲームコーナー会社の退店などがあったにもかかわらず、第3次経営改善計画の実施により支払利息が軽減し、経常利益も平成11年度にプラスに転じていること、平成14年3月31日のパーク七里御浜の担保設定債務の残高は12億0537万9000円に減少していることが認められ、これらの事実からすれば、本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けであるとは認め難い。
この点、原告らは、第3次経営改善計画の問題点をるる主張し、本件貸付が、貸付金の回収の可能性のない会社に対する貸付けである旨を述べるが、上記認定事実に照らし、採用できない。
また、原告らは、「御浜町が本件貸付に際して徴求した担保物件の評価が不当である。」旨主張するが、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜の本店所在地の南牟婁郡御浜町大字阿田和字松原4926番5は、御浜町の固定資産評価のための基準地で、その標準価額は1m2当たり8万9000円であること、御浜町は、本件貸付に際し、改めて鑑定評価を行っていないが、上記の標準価額と直近の鑑定評価額(1m2当たり6万9400円、価額総額7億4763万5100円)を参考にして、パーク七里御浜の土地に関する帳簿価額は適正な数値であると判断したこと、平成14年3月31日において担保に供している不動産の帳簿価額の総額は20億3414万5000円であり、担保権によって担保されている借入金の総額は12億0537万9000円で、期末帳簿価額の約59%にあたること、パーク七里御浜の建物、建物附属設備、機械、工具器具備品の取得価額は会計帳簿に記載されており、適正に減価償却されていることが認められ、これらの事実からすれば、御浜町は、本件貸付に際して徴求した担保物件を評価するに当たり、その裁量権を逸脱し、又は濫用したものであるとは認められない。
5 原告らの主張(5)につき検討する。
(1) 原告らは、「地方財政法4条の4第3号の「経費」とは地方公共団体の経費であって、貸付けはこれに含まれない。」旨主張する。しかし、地方公共団体はその予算の中で、他の団体に対する貸付けをなし得るものであって、この貸付けが地方財政法4条の4第3号から特に除外されたものと解する理由はない。
(2) また、原告らは、「本件貸付が地方財政法4条の4第3号後段に定めるその他必要やむを得ない理由により生じた経費に当たらない。」旨主張する。
ところで、同条は、地方財政の運営の健全性を確保し、もって地方自治の発達に資することを目的とする同法の趣旨に基づき、長期的な視野に立った経費の財源とすべく設定される積立金(同法4条の3)について、処分し得る場合を制限的に列挙したものである。このような本条の趣旨からすれば、「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」とは、支出をしようとする事業の種類等を特に限定するものではないが、前段にいう「緊急に実施することが必要となった大規模な土木その他の建設事業の経費」と同等の緊急性と必要性が認められる場合でなければならないと解される。もっとも、その必要性等の判断は、<ア>その支出の趣旨、目的、<イ>当該地方公共団体の置かれた地理的、社会的、経済的事情や特性、<ウ>議会の対応、<エ>当該地方公共団体の財政の規模及び状況、<オ>現実に直面している行政課題等の関連を総合的に考慮すべきものであり、第1次的には、地域住民の民意に根拠を有する地方公共団体のそれぞれの機関の裁量に委ねられているものであって、その判断が著しく不合理で、裁量権を逸脱し、又は濫用していると認められる場合にのみ、当該基金を取り崩した公金の支出が違法となるというべきである。
本件においては、前述のとおり、パーク七里御浜は、三重県の指導のもと御浜町主導によって株式会社方式で設立された会社であること、パーク七里御浜の施設は、過疎化が進む御浜町にとって、町民の利便性や雇用の場の確保等の経済効果を生み出すと共に、町の商業近代化、活性化に一定の貢献をもたらしていること、第1、2次経営改善計画にもかかわらず、不況の長期化や会社を取り巻く経営環境等の悪条件(パーク七里御浜の出資に関する住民訴訟や長期にわたる不況による売上げの低下)等による経営悪化のため、第3次経営改善計画を策定したこと、この第3次経営改善計画は御浜町議会の全員協議会で審議され承認を得られたこと、本件貸付は第3次経営改善計画に従い支出されたものであるが、その支出について御浜町議会の議決を経ていること等の事情が認められる。
また、上記1の認定事実によれば、本件貸付は金利の高い当初の設備資金等の返済に充当し、金利負担の軽減を図るためになされたものであり、パーク七里御浜の経営改善のために、本件貸付の早急な実行が要求されていたことが認められる。
さらに、〔証拠略〕によれば、御浜町の財政調整基金は、平成10年度当初、6億0806万円が積み立てられていたところ、本件貸付を含む5億円を取り崩したが、同年に8717万円を新たに積み立てたこと、その後、大災害復旧、尾呂志小中学校の建設等に3億5240万円取り崩したが(パーク七里御浜に関係のない取崩し)、平成14年3月末で約2億3600万円の残高となっていることが認められ、財政調整基金等の積立金の運営の健全性の確保という趣旨は損なわれていないといえる。
以上の事情を考慮すれば、本件貸付が地方財政法4条の4第3号後段にいう「その他必要やむを得ない理由により生じた経費」に該当するとした御浜町の判断が著しく不合理であり、裁量権を逸脱し、又は濫用したものであるとはいえない。
6 以上によれば、本件貸付の支出負担行為、支出命令、財政調整基金の取崩し、本件貸金の支出については、違法性が認められない。
また、上記1の認定事実によれば、パーク七里御浜が本件貸付の全額返済が不可能であることを承知しながら本件貸付申請を行って借り入れたとは認められず、被告奥西に商法266条の3に基づくパーク七里御浜の取締役としての責任があるとはいえない。
7 したがって、原告らの請求は理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 内田計一 裁判官 後藤隆 大竹貴)