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名古屋高等裁判所 平成15年(行コ)54号 判決 2005年3月17日

控訴人兼被控訴人 X

被控訴人兼控訴人 経済産業大臣 外務大臣

代理人 篠原淳一 大村百合枝 谷口實 長田克示 ほか9名

主文

1  原判決主文第1項のうち、同項文書目録(原判決別紙第1文書目録)記載の番号3ないし5記載の各文書に関する部分及び主文第2項をいずれも取り消す。

2  上記各取消しに係る1審原告の請求をいずれも棄却する。

3  1審被告経産大臣のその余の控訴及び1審原告の本件控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、1審原告と1審被告外務大臣との間に生じた費用は、1、2審とも1審原告の負担とし、1審原告と1審被告経産大臣との間に生じた費用は、1、2審を通じて、これを4分し、その3を1審原告の負担とし、その余を1審被告経産大臣の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告経産大臣が、1審原告に対し、平成14年2月25日付けでした原判決別紙第1文書目録記載の各文書(ただし、番号8ないし11については開示部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。

(3)  1審被告外務大臣が、1審原告に対し、平成14年2月25日付けでした原判決別紙第2文書目録記載の各文書についての不開示決定を取り消す。

(4)  1審被告らの本件控訴を棄却する。

(5)  訴訟費用は、第1、2審とも1審被告らの負担とする。

2  1審被告ら

(1)  原判決中、1審被告らの敗訴部分を取り消す。

(2)  1審原告の請求をいずれも棄却する。

(3)  1審原告の本件控訴を棄却する。

(4)  訴訟費用は、第1、2審とも1審原告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、1審原告が、<1>1審被告経産大臣に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条に基づき、2005年日本国際博覧会(愛知万博)に関する行政文書について開示請求をしたところ、1審被告経産大臣は、そのうちの一部の文書(原判決別紙第2文書目録記載の各文書、外務省作成の文書)についての開示請求事案を法12条に基づいて1審被告外務大臣に移送した上、法5条3号の「国際機関(博覧会国際事務局、BIE)との信頼関係が損なわれるおそれがある」ことなどを理由に、同第1文書目録記載の各文書(ただし、番号8ないし11については開示部分を除く。以下、同第1及び第2文書目録記載の各文書について、番号順に従って「本件文書1」「本件文書2」・・・などと表記する。)の一部不開示の決定をし、<2>1審被告外務大臣は、上記同様の理由により、上記第2文書目録記載の各文書の不開示の決定(これらの不開示を併せて、本件各処分)をしたことから、1審原告が、本件各処分の取消しを求めた(抗告訴訟)ところ、1審被告らが、本件各文書は、いずれも法5条3号に該当し、また、1審被告外務大臣は、本件文書22につき、法6条1項により一部の開示義務がないと主張して争った事案である。

原審は、1審被告経産大臣に対する各請求のうち、本件文書1、2、6ないし11につき法5条3号の不開示事由に該当するが、本件文書3ないし5〔BIE説明資料〕については、既に公開済みの説明資料ファイル(<証拠略>)を基本として、資料を付け加え、若しくは差し替えたものにすぎず、同号の不開示事由に該当せず、さらに、本件文書12ないし14(2005年日本国際博覧会登録申請書)についても、BIE総会において既に登録承認を受けており、同号の不開示事由に該当しないとして、本件文書3ないし5、12ないし14の不開示決定を取り消し(その余は請求を棄却した。)、1審被告外務大臣に対する各請求のうち、本件文書15ないし21、23、24につき法5条3号の不開示事由に該当するが、本件文書22については、開催予定の会合名、開催予定日時場所、あて先、送り主に関する部分は同号の不開示事由に該当せず、法6条1項ただし書の「有意」でない情報とはいえないとして、この部分の不開示決定を取り消した(その余の請求を棄却した。)ため、1審原告及び1審被告らがこれらを不服としてそれぞれ控訴した。

2  前提事実、本件における争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1ないし3のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決9頁3行目から4行目にかけての「もし公開されれば、これが実現されなくなるでしょう。」を「公的に議論されることはないでしょう。」に改める。

3  当事者双方の各控訴理由

(1)  1審原告

ア 法5条3号の該当性について

(ア) 当該文書が法5条3号に該当するものなのか、他の各号(1号本文後段、5号、6号)に該当するものであるかは、実施機関の判断の合理性に対する結論に大きく作用するものである。すなわち、同号は、他の各号(1号本文後段、5号、6号)による不開示処分とは異なり、開示によって何らかの害悪が発生する「おそれがある」ことを実施機関において証明する必要がないことはもちろん、現実の「おそれ」が発生することがなくても、「行政機関の長としては、当該文書の種類、性質、作成主体等、裁判所が当該判断に不合理性が含まれているか否かを判断するに支障のない程度の具体性をもって、当該情報の内容を特定した上で、これを開示することにより、国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理とはいえないことを基礎付ける事実」を主張立証しさえすれば、不開示処分それ自体は合理的なものとなる。その結果、同号の文書該当性については、他の各号に該当するとして不開示処分とされた文書と比較して、明らかに行政機関の判断が維持される余地を拡げるものである。

そうである以上、本件各処分が同号に該当するとして不開示決定をしたものであったとしても、いわば、その先決問題として、実際に当該文書が、本来、同号が予定した文書であるかどうかについて判断し、それに該当しない場合については、当該処分は取り消されるべきであり、それに該当すると判断された場合に初めて、当該文書に対する不開示処分が国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理とはいえないことを基礎付ける事実に基づくかどうかの判断をすべきである。

(イ) 加えて、法5条3号の規定は、他国の情報公開法の規定文言と比べて、対象文言を具体的に限定していない。これを形式的にみれば、行政機関が当該文書を開示したくないと思えば、同号に該当することを理由として不開示処分をすれば、仮に、当該文書が外交、防衛情報として、さして重要なものでなくても、原則不開示の結果をもたらすものである。しかし、原則不開示とする対象文書について、国家安全保障に関するものに法文上限定している外国(韓国やカナダなど)の例に比較して、これを行政機関の自由裁量に委ねる合理的な理由はない。したがって、以上のことからも、当該文書の同号該当性については、それらの文書が実際に同号が予定する文書かどうかについて判断し、該当するとした場合に初めて、上記実質的な判断枠組みによって不開示処分の違法性を判定すべきである。

(ウ) そして、外務省及び経済産業省(経産省)は、それぞれのホームページ上で、法5条3号にあたる文書を例示(以下「例示文書」という。)しており、法5条3号該当文書の指定が行政機関の自由裁量でないことを認めている。したがって、上記したところの同号が予定する文書であるか否かの判断にあたっては、例示文書であるか否かをまず判断すべきである。

(エ) 以上を前提にすると、1審被告らは、本件各文書が法5条3号に該当する文書であることを十分に主張、立証していないし、外務省のいう例示文書の基準に従って検討しても、本件で不開示処分が維持された各文書は、いずれも同号に該当しないことが明らかである。

イ BIEの回答に対する評価について

BIEの回答書(<証拠略>)は、本件各文書の開示を禁止する旨を具体的に述べているところはなく、しかも上記回答書は、本来、名古屋地方裁判所の調査嘱託に直接回答したものでもない。そして、その内容は「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に関する基準を定めたにすぎず、これを超えてBIEの加盟国が独自に作成した文書の開示についてまでBIEが意見を述べたものではないと考えるのが自然である。加えて、加盟国が作成した文書の開示、不開示は、加盟国の法律に従って決定されることは当該国家の主権を前提とする以上当然であって、BIEがこれについて不開示を求める立場にはない。また、ドイツで開催されたハノーバー博覧会では、開催を巡って国民投票が行われた例もあり、博覧会開催に関して作成された文書を加盟国が独自の国内法に従って開示することは国際慣行に反することでもない。

以上のことからすると、BIEの回答が広く本件文書を非開示とすることを求める内容であると評価することは誤りである。

(2)  1審被告経産大臣

ア 本件文書3ないし5(いずれもBIE説明資料)について

本件文書3ないし5と既に公開されているBIE説明資料(<証拠略>、以下「公開済み説明資料」という。)とは、その作成目的や作成時期等が異なっており、そこに記載された情報は明らかに別個の情報である。すなわち、公開済み説明資料は、主に、愛知万博の準備計画の進ちょく状況、会場の跡地計画及び環境問題への配慮等に関するものであり、本件文書3ないし5は、平成12年9月の愛知万博登録申請に向けて、その申請内容を具体化していく過程の文書である。上記各文書は、フランス語、英語、日本語によって表記されている(同一情報)が、上記公開済み説明資料は、日本語、英語によって表記され、フランス語による表記はないなど両文書の言語表記の仕方、文書の構成自体も全く異なること、文書全体のページ数についても、本件文書5(日本語によって表記されたもの)の方が75頁も少なく、上記公開済み説明資料の日本語表記部分のページ数の約3分の2であること、本件文書5にのみ存在するキーワードが相当数存在し、他方で、上記公開済み説明資料にのみ存在するキーワードも相当数存在すること、さらに、本件文書3ないし5は、上記公開済み説明資料が作成された後、平成12年5月のBIE総会に向けた愛知万博の登録申請が見送られた上、万博会場の跡地利用としての新住宅市街地再開発事業の中止決定がなされ、博覧会協会に新たに設置された愛知万博検討会議における議論等を経て会場計画が大きく変更された後、改めて、同年9月にBIEに登録申請することを目標に、愛知万博計画の具体化に係る作業が進められていた時期に作成された文書であることを考慮すれば、上記各文書の記載内容と上記公開済み説明資料の記載内容とは、情報の同一性がないことが明らかである。

イ 本件文書12ないし14(いずれも2005年日本国際博覧会登録申請書)について

本件文書12ないし14については、BIEの基本方針として、総会における登録承認前後を問わず、非公開とされていることが明らかであり、登録申請書を公開することは、BIEの意向に明らかに反するものであり(BIEの前記回答書も、そのように理解すべきである。)、法5条3号の不開示事由に該当するとした1審被告経産大臣の認定判断には相当の理由がある。そもそも登録申請書の内容は、必ずしも登録承認された計画の内容と一致しているとは限らないし、当該申請に係る国際博覧会の内容も、登録承認後に変更されることが全く予定されていないものではなく、変更されることもあり得るのであり、登録承認されたからといって、登録申請書を公開することによる弊害が生ずるおそれが消滅したことにならない。

(3)  1審被告外務大臣

本件文書22(次回執行委員会の開催通知)について

法は、「情報」の意義について、特に定義規定を置いていないが、一般に、「情報」という言葉は、「ある事柄についての知らせ」であり、「個々の構成要素(語、文字、記号等)が、ある事象、事柄の伝達のために、人為によって統合され、構成され、一体的で、他と独立した知らせとなっているもの」をいうと解される。そして、当該情報が独立した一体の情報であるか否かは、上記のような情報の伝達機能を基本とし、情報内容の観点や文書の体裁等の外形的な事情をも併せ考慮して、社会通念によって判断すべきである。ところで、本件文書22は、平成12年9月にBIE事務局長から関係各国に配布された次回執行委員会の開催通知であり、BIE事務局長の加盟国代表あての内部連絡用文書であって、そこに記載された内容は、会合名、あて先、送り主、当該委員会の開催予定日時場所のほか、当該委員会での審議予定事項及びその内容も記載されている。そうすると、上記文書は、単に次回執行委員会の開催日時や場所などの形式的な事項を知らせるだけにとどまらず、これに加えて、加盟国が意見を表明する前提となる審議予定事項やその内容を知らせることをも目的としており、記載内容全体が、一体として独立した1個の情報であると解すべきである。

したがって、本件文書22について、法6条1項適用の余地はなく(同条項は、1個の行政文書に複数の情報が記載されている場合に適用がある。)、1審被告外務大臣が、上記文書について、これを細分化して部分開示をする義務を負うことはない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、本件文書1ないし11、15ないし24については、法5条3号の不開示事由に該当するものといえるが、同12ないし14については、既に正式にBIE総会において承認を受けた登録申請書であり、これを開示することによってBIE及びその加盟国等との信頼関係が損なわれるおそれがあるとは認められず、法5条3号の不開示事由に該当しないものと判断する。

2  まず、本件の争点である本件各処分の適否を判断するにあたっての不開示事由の判断手法(争点ア)、公開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無(争点イ)については、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1、2のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決46頁9行目から10行目にかけての「もし公開されれば、これが実現されなくなるでしょう。」を「公的に議論されることはないでしょう。」に改める。

なお、1審原告は、BIEの回答書(<証拠略>)は、原審の名古屋地方裁判所の調査嘱託に直接回答したものではなく、その内容も「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に関する基準を定めたにすぎず、これを超えてBIEの加盟国が独自に作成した文書の開示についてまでBIEが意見を述べたものではないと考えるべきであるなどとるる主張する。確かに、上記回答書は、原審の名古屋地方裁判所の調査嘱託に対する直接の回答ではないものの、同回答書には「名古屋地方裁判所民事9部主宰判事より日本国大使館を通じて送付された調査嘱託および質問書について、以下の情報を提供いたします。博覧会国際事務局の法律上の代表者として、および事務局長が特に法律問題について事務局を代表することを定める条約第13条に従い、私(ロセルタレス事務局長)が、上記文書にて言及された点に回答する資格を有します。」と記載されており、この記載に照らすと、上記回答は、名古屋地方裁判所の調査嘱託を意識し、これを念頭においた上で、これに対するBIEの代表者としての見解を情報提供したものと解することができる。そして、原判示のとおり、本件各文書を公表しても支障がない旨の記載はなく、かえって、「BIE内部での協議及び審議に使用された文書は、加盟国の作業過程にのっとった一時的な状況を示すものであり、もっぱら内部使用のためのものです。作業用文書は本来公的なものではありません。」、「作業用の内部文書が公的に議論されることはないでしょう。」などと記載されており、BIEとしては、加盟国の作業過程にある作業用文書については、公表されることに消極的な見解を有していることがうかがえる。そして、原判示のとおり、BIEの会議等が非公開で行われており、執行委員会の議事録は、加盟国代表団関係者に閲覧に供されているにとどまり、また、経産省の博覧会推進室長は、BIE事務局長から、非公開で行われた会議等での意見交換や協議、上記の機会等に内密にもたらされた情報については、不開示とするよう要請を受けていると理解していることなどに照らすと、仮に、本件各文書について、それぞれ個別的に非公開の要請がなされていないとしても、当該文書がいまだ作業の過程にあって作成されたものである以上、これを公開することによりBIEとの信頼関係を損なうおそれがあるということができ、また、BIEの加盟国として、そこでの協議や審議に関連する事柄についてはBIEの基本的な方針に対して無関心であることは許されず、上記回答をBIE内部等での協議及び審議に使用された文書に限定して理解するのは相当ではなく、1審原告の上記主張は採用できない。

3  そこで、次に、本件各文書の法5条3号該当性(争点ウ)について判断する。

(1)  1審原告は、法5条3号にあっては、他の同条各号に該当するとして不開示処分とされた文書と比較して、行政機関(実施機関)の判断が維持される余地が広いことなどを理由に、同条3号の該当性を判断するに先立ち、同号の予定する文書かどうかについて、まず先決問題として判断すべきであると主張する。しかしながら、法は、「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的」として、「行政機関の保有する情報の一層の公開を図」っている(法1条)ものであって、これを前提に、行政文書の開示請求がされた場合には、行政機関の長は、当該文書に法5条各号に掲げる情報(不開示情報)が記録されている場合を除き、これを開示しなければならない(法5条)ものであって、開示請求の対象は、当該情報というべきである。したがって、同条3号の該当性を判断するに先立ち、同号の予定する文書か否かをまず判断すべきであるとはいえない。

また、1審原告は、外務省及び経産省はそれぞれのホームページ上で法5条3号にあたる文書を例示しているから、本件各文書が上記例示文書に該当する必要かあり、まず、例示文書であるか否かを判断すべきであると主張する。しかしながら、上記例示(なお、例示して公表しているのは、ある「文書」ではなく、一定の「情報」である。)は、外務省及び経産省が公式ホームページにより、あくまで法5条3号の不開示情報についての例示として公表しているにすぎず、上記例示をもって同号の上記情報を限定したり、また、不開示事由に該当するか否かについての一定の基準を定めて公表したりしたものとは解されない。したがって、本件各文書が、上記例示文書に該当するか否かをまず判断すべきであるとはいえない。そうすると、結局、1審原告が情報公開法に基づいて開示を請求している本件各文書は、いずれも行政文書であることは明らかであり、本件各文書が法5条3号の不開示事由に該当する情報を含むものか否かを判断すれば足りるのであって、1審原告の上記主張は採用できない。

(2)  本件各文書(本件文書3ないし5、22を除く。)の法5条3号該当性については、原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」3(1)、(3)ないし(6)のとおりであるから、これを引用する。

(3)  本件文書3ないし5の法5条3号該当性について

証拠(<証拠略>、原審証人A)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

ア 本件文書3ないし5は、いずれも「BIE説明資料」(フランス語、英語及び日本語、本件文書5は日本語によるものである。)であり、その内容はいずれも同一であって、博覧会協会が博覧会国際事務局との実務協議を行うために作成した資料である。

イ 本件文書5とファイル名や作成主体を共通にする公開済み説明資料(<証拠略>)を公開するに至った事情は、以下のとおりである。すなわち、博覧会協会は、愛知県瀬戸市の博覧会会場予定地として「海上の森」(海上地区のうち、同西地区、南地区及び北地区)を予定していたが、主会場候補地を同所から愛知県青少年公園等を取り込む形の地区にすることとし、愛知万博終了後、上記海上地区については、いわゆるニュータウン建設のための新住宅市街地開発事業による土地造成を行うことなどを内容とする博覧会会場計画を進めていた。ところが、平成11年11月18日に非公式に行われたBIE事務局長と通産省審議官との実務協議のやり取りに関する内容(BIE事務局側の発言として、跡地利用計画は、博覧会計画の重要な部分であり、国際博覧会の良好なイメージに隠れて、自然を破壊する跡地利用計画があることは、BIEの理念に反するので、改善してもらいたいなどがなされたこと。)が平成12年1月20日付けの新聞に報道され、これをきっかけとして、マスコミや世間の誤解を解くために、経産省及び愛知県の各担当者とBIEとが協議を行い、愛知県では、同年2月、BIEの了解を得て、博覧会協会が作成した上記公開済み説明資料を公開するに至った。同説明資料は、505丁(日本語及び英語)に及ぶ大部のもので、上記平成11年11月18日の非公式な実務協議でBIE事務局側から指摘された博覧会計画の問題点について、その後の取組を説明する内容となっており、主に、愛知万博の準備計画の進ちょく状況、会場の跡地計画及び環境問題への配慮等に関して記載されたものである。

ウ これに対し、本件文書3ないし5は、当初予定していた平成12年5月開催のBIE総会に向けた愛知万博の登録申請が見送られ、かつ、万博会場跡地の新住宅市街地再開発事業の中止決定がなされ、その後、博覧会協会が、愛知万博検討会議(地元関係者、自然保護団体、有識者等を構成メンバーとする。)を設置して、同年5月28日から同年7月24日までの間に合計8回の会議を開催し、そこでの議論等を経て、最終的に、海上地区の利用面積を大幅に縮小させるなど会場計画を大幅に変更し、同年9月にBIEへの日本国際博覧会の登録申請をすることを目標として、改めて、愛知万博計画の練り直し作業を進めていた時期に、博覧会協会によって作成された文書である。したがって、主に、上記変更に伴って、その時点における資金計画、観客輸送計画、会場計画などに関して記載されたものである。

エ また、両文書の言語表記の仕方や文書の構成自体が異なる上、そのページ数も、本件文書5が160頁であるのに対し、公開済み説明資料の日本語表記部分のページ数は235頁である(したがって、上記文書5の方が75頁少なく、その約3分の2でしかない。)。また、両文書を分類・対比するために設定したキーワード〔万博の概要(開催期間、テーマ、コンセプト、会場等も含む)、準備状況、協会の地位・国際機関との連携等、会場計画関係、施設関係(宿舎も含む)、運営関係、動線関係、輸送関係、環境関係、エネルギー、合意形成、資金計画、商業化計画、広報計画、跡地利用等〕に従って、両文書を比較すると、別表のとおりである。

以上の事実によれば、本件文書3ないし5と公開済み説明資料とは、作成の趣旨や目的を異にし、その作成時期についても明らかに異なっていることが認められる。そして、本件のような大規模な国際博覧会計画においては、その計画の進ちょく状況ないしはその計画の見直し状況等により、そのときにおける状況説明も内容的に異なることは通常考えられることである。以上のほか、前認定の両文書の言語表記の仕方や構成の差、外形的な差(ページ数等)及びキーワードをもってする差などを総合すると、本件文書3ないし5に記載された情報と公開済み説明資料に記載された情報との間には少なからぬ差異があるものと推認でき、上記両文書に同一性があると認めることはできない。

そして、本件文書3ないし5が、本件文書2の協議に使用するための説明資料であり、これらの文書を公開することにより、上記協議の内容を推知することができ、前記認定・判断(原判決)に係る公開についてのBIEの原則に照らせば、BIEは非公開とすることを要請していると考えられ、この要請が及ばないと解すべき特段の事情の存在は認められない。よって、1審被告経産大臣が、これらの文書を開示すれば、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあると判断したことについては、相当の理由があるというべきである。

(4)  本件文書12ないし14についての1審被告経産大臣の控訴理由に対する判断

1審被告経産大臣は、本件文書12ないし14(登録申請書)については、BIEの基本方針として、総会における登録承認前後を問わず、非公開とされていることが明らかであり、法5条3号の不開示事由に該当するとるる主張する。

しかしながら、BIEの上記回答書の記載内容からすれば、BIE総会で承認された登録申請書は、作業過程にある作業用の内部文書ではなく、総会で加盟国による承認を得て公になった文書と解することができること(上記回答書にも「文書は、総会で加盟国による承認を得て初めて公のものとなります。」との記載がある。)、過去の登録申請書が公表できないことの理由は不明確であること(1審被告らは、登録申請国が、安易にこれを利用することにより独自性が失われるおそれがあるというが、独自性を優先するのであれば、むしろ過去の登録申請書と類似した内容を避けようとするのが通常である。)、BIE総会において承認された登録申請書については、基本的にその内容を変えることは予定されておらず、現に、愛知万博においても登録承認後に内容の変更をした形跡はうかがえないことなどを総合考慮すると、1審被告経産大臣の上記主張は採用できず、上記判断(原判決51頁26行目から53頁12行目まで)を左右するものではない。

(5)  本件文書22の法5条3号該当性について

証拠(<証拠略>、原審証人A)及び弁論の全趣旨によれば、本件文書22は、「BIE(次回)執行委員会の開催通知」であって、平成12年9月にBIEから関係各国(加盟国代表)にあてて配布されたものであり、あて先、送り主、当該委員会の開催予定日時場所、審議が予定されている事項及び内容が記載された文書であること、上記委員会に関する規則7条は、「会議開催の通知は、議事日程と必要な討議資料を添えて少なくとも開催1か月前までに、委員に送付されなければならない。各国の代表は、遅くとも執行委員会の会議開催の日の5日前までに、自国政府の意見を表明しなければならない。」と定めていることが認められ、これによると、執行委員会の開催通知には、単に、日時場所、審議のテーマが記載されるだけでなく、その具体的な審議の内容や資料等が記載され、情報として盛り込まれているものと推認し得る。

したがって、前記認定(原判示)に係るBIEの公開に関する原則に照らして、これらが公表された場合には、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあるものと認められ、そのように判断することにつき相当の理由があるというべきである。

4  本件文書22の全部不開示決定の適否について(争点エ)

1審被告外務大臣は、本件文書22の記載は、その全体が一体として独立した1個の情報であり、かかる情報が法5条3号に該当するのであるから、会合の日時場所等の一部のみを部分開示する義務を負わないと主張し、他方、1審原告は、法6条1項は、不開示情報の記録されている部分が容易に区分されて除かれた後の当該行政文書の一部分であること及び有意の情報が記載されていないと認められるものではないことの要件を満たせば、当該部分(一部分)は、開示しなければならず、開催の日時・場所についての情報は、有意性が認められる以上、開示しなければならないと主張するので検討する。

法6条1項は、「行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。」とし、同条2項において、不開示情報が記録されている文書のうち特に法5条1号のいわゆる個人識別情報のみを取り出し、「開示請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。」と規定しているところ、法6条1項にいう「部分」は1個の行政文書の部分を意味し、同条2項にいう「部分」は、1個の行政文書に含まれる情報(法5条1号の情報のうち特定の個人を識別することができるもの)の部分を意味することは、その文理からして明らかである。そして、法6条は、個人識別情報に限って、例外的に、独立した一体的な情報を更に細分化し、個人識別部分のみを不開示とする態様の部分開示を行政機関の長に義務付けるというもので、法5条1号以外の不開示事由に該当する情報については、その部分のみを除くという態様の部分開示を義務付けることはできないものと解すべきである。

ところで、前記したとおり、本件文書22は、次回に予定された執行委員会の開催通知であり、あて先、送り主、当該委員会の開催予定日時場所、審議が予定されている事項及び内容が記載された文書であり、この通知自体(一緒に送付される議事日程、討議資料を除く。)が1個の行政文書であり、その記載内容については、確かに、審議が予定されている事項及び内容が記載された部分を位置的に区分し、特定することは技術的には可能であるとしても、これに記載された情報は、ある特定の執行委員会の開催に関するものであって、会合名、あて先、送り主、開催予定日時場所のみならず、審議予定事項及びその内容も含めて、総体として、出席予定の執行委員に対して、その開催予定の概要を知らせ、かつ、審議予定事項に対して、加盟国に意見表明を求めるための連絡として社会通念上意味あるものとなるものと考えられ、本件文書22の記載内容全体が、一体として独立した1個の情報であると解すべきである。

したがって、1審被告外務大臣は、本件文書22のうち、法5条3号の不開示事由に該当する部分を除いた部分について開示すべき義務を負うものではなく(もちろん裁量により部分開示をすること自体は可能である。)、本件文書22の全部を不開示決定とした判断に違法はないというべきである。

第4結論

以上のとおり、1審原告の本件各請求は、1審被告経産大臣のした不開示決定のうち、本件文書12ないし14に関する部分の取消しを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと結論を異になる原判決は不当であり、1審被告経産大臣の本件文書3ないし5に関する部分及び1審被告外務大臣の控訴は理由があるので、原判決をその限度で変更し(1審被告経産大臣の本件文書12ないし14に関する部分の控訴は棄却)、他方、1審原告の控訴は理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中由子 佐藤真弘 山崎秀尚)

別表<省略>

〔参考〕第1審 (名古屋地裁 平成14年(行ウ)第20号、同第21号 平成15年10月15日判決)

主文

1 被告経済産業大臣が、原告に対し、平成14年2月25日付けでした別紙第1文書目録記載の各文書(ただし、番号8ないし11については開示部分を除く。)についての不開示決定のうち、番号3ないし5及び12ないし14記載の各文書に関する部分を取り消す。

2 被告外務大臣が、原告に対し、平成14年2月25日付けでした別紙第2文書目録記載の各文書についての不開示決定のうち、番号22記載の文書中の開催予定の会合名、開催予定日時場所、あて先、送り主に関する部分を取り消す。

3 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用は、第20号事件及び第21号事件を通じて4分し、その3を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実及び理由

第1請求

1 (第20号事件)

被告経済産業大臣が、原告に対し、平成14年2月25日付けでした別紙第1文書目録記載の各文書(ただし、番号8ないし11については開示部分を除く。)についての不開示決定を取り消す。

2 (第21号事件)

被告外務大臣が、原告に対し、平成14年2月25日付けでした別紙第2文書目録記載の各文書についての不開示決定を取り消す。

第2事案の概要

本件は、原告が、被告経済産業大臣(以下「被告経産大臣」といい、経済産業省を「経産省」という。)に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下、法律名を示すときは「情報公開法」と、条文を示す場合は単に「法」という。)に基づき、2005年日本国際博覧会(以下「愛知万博」という。)関連の行政文書について開示請求をしたところ、そのうちの一部の文書開示請求事案が、法12条に基づいて被告外務大臣に移送された上、公開することにより博覧会国際事務局(以下「BIE」という。)等との信頼関係を損なうおそれがあることなどを理由に、被告経産大臣が一部開示・一部不開示の決定を、被告外務大臣が全部不開示の決定(以下、これらの不開示決定部分を併せて「本件各処分」という。)をしたことから、原告が本件各処分の取消しを求めた抗告訴訟である。

1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定可能な事実)

(1) 本件各処分に至るまでの手続の経過

ア 原告は、平成13年12月27日、法3条、4条に基づき、被告経産大臣に対し、「2005年日本国際博覧会の中止について検討・議論したメモ・書類・議論の経過の分かるもの」の行政文書の開示を請求したが、平成14年1月23日、被告経産大臣から提供された情報に従い、開示請求の対象を「2005年日本国際博覧会の一般規則第6章の規定に係るメモ・書類・議論の経過の分かるもの」に補正した(以下「本件開示請求」という。<証拠略>)。

その結果、本件開示請求の対象となる文書は、別紙第1及び第2文書目録記載の各文書(以下、個別には、同目録に付された番号に従って「文書1」等といい、全体を総称して「本件各文書」という。)並びに「一般規則(仮訳)(仏語、英語及び日本語(<証拠略>))」として特定された。

イ 被告経産大臣は、平成14年1月24日、原告に対し、法10条2項に基づき、開示決定等の期限を本件開示請求があった日から60日以内である平成14年2月25日まで延長する旨通知(<証拠略>)、さらに、同年2月8日、法12条1項に基づき、開示請求の対象文書のうち、外務省において作成された別紙第2文書目録記載の各文書に係る事案を被告外務大臣に移送した(<証拠略>)。

ウ 被告経産大臣は、平成14年2月25日付けで、前記各「一般規則(仮訳)」について開示決定を行うとともに、別紙第1文書目録記載の各文書については、次の理由で全部又は一部の不開示決定をした(<証拠略>)。

(ア) 文書1ないし7について

「当該文書は、BIE(博覧会国際事務局)との非公開会議に関する情報であって、当該会議の内容は非公開にすべきとのBIEからの要請もあることから、公開することによりBIE等との信頼関係が損なわれるおそれがあり、法第5条第3号に該当するので、本行政文書(全体)を不開示とした。」

(イ) 文書8ないし10について

「当該文書は、BIE(博覧会国際事務局)から非公開にすべきとの要請を受けた資料の原案についての、BIEに提出前の政府部内での協議に関するものであり、公開することによりBIE等との信頼関係が損なわれるおそれがあることから、法第5条第3号に該当するので、本行政文書の該当部分を不開示とした。」

(ウ) 文書11ないし14について

「当該文書は、BIE(博覧会国際事務局)内部の非公開で行われる検討等に供するために作成したものであって、非公開にすべきとのBIEからの要請もあることから、公開することによりBIE等との信頼関係が損なわれるおそれがあり、法第5条第3号に該当するので、本行政文書(全体((11)の文書については該当部分))を不開示とした。」

エ 被告外務大臣は、平成14年2月25日付けで、別紙第2文書目録記載の各文書について、次の理由で不開示決定をした(<証拠略>)。

(ア) 文書15、16及び21について

「当該文書は、非公開の意見交換に関する文書であって、公にすることにより、国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ及び交渉上不利益を被るおそれがあるため。該当条項5条3号」

(イ) 文書17ないし20について

「当該文書は、国際機関との折衝に関する文書であって、公にすることにより、国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ及び交渉上不利益を被るおそれがあるため。該当条項5条3号」

(ウ) 文書22について

「当該文書は、非公開の会議の開催に係る通知に関する文書であって、公にすることにより、国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるため。該当条項5条3号」

(エ) 文書23、24について

「当該文書は、非公開の会議の議事録であって、公にすることにより、関係国及び国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるため。該当条項5条3号」

(2) BIEと国際博覧会

ア 国際博覧会に関する条約(1928(昭和3)年11月22日にパリで締結された後、1948年、1966年、1972年、1982年及び1988年の5回にわたり、改正されている。以下、改正された条約を「条約」という。)は、国際博覧会の秩序ある開催・運営を目的として締結されたものであり、日本は、昭和40(1965)年に同条約に加入し、その後のすべての改正の議定書又は条約を締約している(<証拠略>)。

BIEは、条約の適用を監督し、確保する責任を有する国際機関として設立され、その所在地はパリとされている(条約25条1項)。そしてBIEは、締約国の政府から任命された代表から成る総会、その代表から選出される議長、執行委員会、1又は2以上の専門委員会及び各委員会担当の副議長、総会によって選出される事務局長並びにその指揮する事務局から成る(条約25条ないし31条)。

イ 国際博覧会は、条約に基づいて開催される公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の1若しくは2以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すもののうち、2以上の国が参加するものをいう(条約1条)。自国の領域内において国際博覧会の開催が計画されている締約国は、BIEに対して、開催の登録申請をし、登録を受けることが必要である(条約6条)。

その手続過程は、以下のとおりである。まず、開催希望国政府が、BIEに対し、開催期日等を明示した申請書を提出し、これを受けたBIEは、加盟国政府に対し、開催期日の申請があったこと及び競合する意思表明をする猶予期間が6か月であることを通報した後、執行委員会に調査報告書を作成させる。その後、上記調査報告書はBIE総会に回送され、同総会において、開催国へ開催年が割り当てられる。その際、競合する開催希望国があった場合は、BIE総会で秘密投票によって決定される(博覧会国際事務局に博覧会を登録するための手続及び期限に関する規則(以下「BIE規則」という。)第1部。<証拠略>)。開催年の割当てを受けた開催国政府は、開催年における国際博覧会の開催権を取得し、積極的な開催準備を推進することになる。開催主体が設立された後は、同主体が基本構想、会場計画、資金計画等を策定する。続いて開催国政府が、BIEに対して登録申請を行い(BIE規則第2部)、BIE総会において当該博覧会が正式に登録承認された後、各国政府に対する参加招請を開始し、他方、開催主体によって、具体的な建設工事や広報活動が行われる。

(3) 愛知万博の登録承認までの経緯

愛知県知事、名古屋市長及び中部財界代表者は、昭和63年10月、21世紀初頭に開催される国際博覧会を愛知県に誘致することで合意し、その旨を表明した。愛知県知事は、平成2年2月、その開催予定地を愛知県瀬戸市南東部地区とすること等を表明し、他方、通商産業省(当時。平成10年法律第103号「中央省庁等改革基本法」による省庁改編後は経産省。以下「通産省」という。)は、平成7年8月、国際博覧会予備調査検討委員会を設置し、開催の必要性やその内容等について検討を行い、同年12月、同委員会は最終報告書を取りまとめ、試案を示した(<証拠略>)。

これを受けて、日本国政府は、愛知県瀬戸市周辺地域における国際博覧会の基本的な取組方針を決定するとともに、BIEへの国際博覧会開催期日承認申請を閣議決定し、平成8年ころ、BIEに対して、2005年の日本における国際博覧会の開催期日の申請をした。上記開催期日は、平成9年6月のBIE総会において、日本に割り当てられた。そして、同年10月には、開催準備及び運営の実施主体として、財団法人2005年日本国際博覧会協会(以下「博覧会協会」という。)が設立され、以後、同協会が中心になって、愛知万博の開催準備が進められた。その後、日本国政府は、同協会が策定した会場計画、資金計画等をそろえ、平成12年9月、BIEに対して、愛知万博の登録申請を行ったところ、同年11月のBIE執行委員会調査団による現地調査及び同委員会の審査を経て、同年12月15日、BIE総会において、愛知万博が登録承認された(<証拠略>)。

(4) 愛知県による文書公開

愛知県は、平成12年2月に行われた博覧会協会とBIEとの協議に用いられた説明資料であるファイル(以下「説明資料ファイル」という。<証拠略>)をBIEの了承を得て公開している。

(5) 調査嘱託とその結果

当裁判所は、原告の申出に基づき、平成14年11月13日付けで、BIE議長に対し、「原告が、……情報公開法に基づいて……各公文書の公開を求めたところ、被告らは、「公にすることにより、国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は交渉上不利益を被るおそれがあると被告らが認めたことにつき相当の理由がある」として、開示しませんでした。その為、下記の2つの事件(第20号事件、第21号事件)においては、不開示が適法であるかが争点となり、被告らは、貴局からの非公開にすべき旨の要請があったことや非公開とする国際慣習があることを主張しています。」と説明した上で、本件各文書が公開されることについてBIEが支障を感じるか否かについて、個別的に照会を求める旨の調査嘱託書を送付して照会したが、その回答期限である平成15年1月31日までに何らの回答が得られなかった。そこで、当裁判所は、念のため、同年2月13日付けで、再度、同一の照会事項について、同年4月10日を回答期限とする調査嘱託書を送付した(以下「本件調査嘱託」という。)。

しかるところ、BIE事務局長ロセルタレス名をもって、BIE日本政府代表「ナカニシ・ヒデオ(中西英夫公使)」氏をあて名とする2003(平成15)年4月7日付け書面(以下「本件回答書」という。<証拠略>)が交付され、在フランス大使、外務大臣等を経由して、当裁判所に送付された。

同書面には、上記の個別的照会に対する回答はなかったものの、「……本書状をもって、名古屋地方裁判所が行う愛知万博2005に関する調査全てに対する“唯一の回答”(斜字体)とするという意味で、BIEの情報及び文書の開示に関する基本原則を説明いたします。BIE内部での協議及び審議に使用された文書は、加盟国の作業過程にのっとった一時的な状況を示すものであり、専ら内部使用のためのものです。作業用文書は本来公的なものではありません。文書は、総会で加盟国による承認を得て初めて公のものとなります。加盟国の正当な利益が害されないことを保証することが、私の責務です。作業用の内部文書がもし公開されれば、これが実現されなくなるでしょう。……」旨の記載がある(<証拠略>)。

2 本件における争点

本件各処分の適否。具体的には、以下の事項について争いがある。

ア 不開示事由の判断手法

イ 公開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無

ウ 本件各文書の法5条3号該当性

エ 全部不開示決定(文書22)の適否

3 争点に関する当事者の主張

(1) 被告らの主張

ア 不開示事由の判断手法について

(ア) 情報公開請求権

法1条は、「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」と定めているところ、ここでいう「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務」とは、憲法の定める民主主義の制度に由来するものではあるが、それ自体は政治的な責任にすぎず、実体的な法的責任ではない。したがって、国民に対して行政運営に関する情報に対する開示請求権を付与するか否か、いかなる限度で、どのような要件の下で付与するかは、立法政策の問題であり、具体的な開示請求権の内容、範囲等は、専ら情報公開法の定めるところによるべきである。

このように、情報開示請求権は、情報公開法によって創設されたものであって、その立法政策によってその範囲が決まるものであるから、同法の解釈に当たっては、開示請求権の内容、範囲等について、いかなる立法政策が採られているかを各条文の文理に即して探求すべきであり、同法の規定を離れて、国民主権等からいきなり解釈基準を導き出したり、それらに沿うように情報開示請求権の範囲等を決したりすべきではない。

(イ) 行政裁量の存在

法5条は、行政庁の開示義務を定めるとともに、同条各号に定める不開示情報が記録されている行政文書を開示すべき対象から除外しているが、これは、国民主権の理念にのっとり、政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにすることによる利益とともに、個人、法人等の権利関係や、国の安全、公共の利益等も適切に保護する必要があることから、開示することの利益と開示しないことの利益とを適切に比較考量する必要があると考えられたことによるものである。

そして、同条3号は、「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定しているところ、これは、我が国の安全、他国等との信頼関係及び我が国の国際交渉上の利益を確保することは、国民全体の基本的利益を擁護するために政府に課された重要な責務であり、これらの利益を十分に保護する必要があることから定められたものである。そして、同号が「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」という規定の仕方を採っているのは、このような情報の性質上、開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと、対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性があること、諸外国の立法例でも他の情報と異なる特別の考慮が払われている場合が少なくないことなどから、司法審査においては、行政機関の長の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つものとして許容される限度内のものであるか否かを審査判断するのが適当であるからである。

そうすると、同条3号の定める不開示事由に関する判断については、当該行政庁に比較的広範な裁量権が付与されていると解すべきであり、行政事件訴訟法30条により、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くなど、裁量権を逸脱し又はその濫用があったと認められる場合に限り、当該不開示決定を違法と判断し得るのであるから、これらを基礎付ける事実については原告が主張立証責任を負担すると解すべきである。したがって、被告が、抗弁として、当該行政文書に記録された情報が法5条3号に該当するという点に関する判断について裁量権を行使し、その充足を認めたことを主張立証した場合、原告が、再抗弁として、被告の判断が裁量権の逸脱又は濫用に当たることを基礎付ける事実を主張立証しなければならない。訴訟運営も、このような観点から整序されてしかるべきである。

(ウ) 類型的判断の必要性

情報公開法の定めた開示請求の制度は、開示請求の主体を「何人も」としている(法3条)とおり、個人的・具体的利益や請求の目的にかかわらず、個人、法人、権利能力なき社団等を問わず、また日本人であろうと外国人であろうと、だれでもなし得るものであり、不当あるいは違法な目的によるものかについて確認するすべはない。そうすると、開示された文書を入手した場合にどのような支障を生ずるかは、具体的特定人との関係ではなく、不特定かつ様々な人々との関係で検討せざるを得ない。

このような観点から、行政機関の長としては、不開示情報について、それが一般に公開された場合に生じ得る支障につき、あらゆる事態を想定し、あらゆる角度から検討を加えることは当然であって、単にそのような支障が生ずる確率が高いことを直接証明する証拠が乏しいなどの理由で、そのような支障が生じないと断ずることはできない。

したがって、情報公開訴訟においては、具体的記載文言を明らかにしないまま、当該文書には、いかなる種類、性質の情報が記載されているかを基に、その種類、性質の情報が開示された場合には、不特定の多様な人々との間で、一般的にはどのような支障が生ずるおそれがあるか否かを類型的に判断すべきであり、表面的な事実関係にのみ目を奪われて皮相的な観察をすることなく、幅の広い経験則に立って判断すべきである。そして、かかる経験則による判断には、高度な政策的判断及び専門的技術的判断が必要とされることにかんがみ、法5条3号は、行政機関の長に第一次的判断権を与えているから、裁判所は、独自の立場から不開示決定が理由のあるものか否かを審査し直すのではなく、上記のような経験則に基づく類型的、一般的な見地から支障が生ずるおそれがあるとした行政機関の長の判断を前提とし、その判断が著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱又は濫用があったといえる場合に限り、当該不開示決定を違法と判断することができるというべきである。

イ 公開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無について

(ア) 外交における信頼関係の重要性

一般に、国際機関に対して、どの国においても何ら支配・命令の権限を有しないのは当然であるから、国際機関における意思決定に関しても、権力的な手段を用いて強制し、我が国の意図する結果を発生させるようなことは不可能であり、粘り強い交渉等の外交工作を行い、普段から築き上げた外交関係等を利用して、その利害の不一致ないし衝突を調整し、我が国の国益に沿う結果を追求すべきことになる。そして、国際社会において、相手方から必要な情報を的確に入手し、外交工作に必要な協力を得るためには、相手方との間に緊密で強固な信頼関係があることが必要であるところ、このような信頼関係を築く過程は、長くかつ地道なものであり、ひとつあるいは複数の案件について、幾度となく行われる意見交換、折衝を通じて、徐々に構築されるのであって、このような意見交換や折衝は、公開を前提とせずに行われるものも多い。その場合、意見交換等の内容やこれらを行った事実自体を秘密にすることが期待され、相手方の信頼に即して秘密を厳守することが信頼関係を構築するために不可欠である。

他方、このような信頼関係を損なうことは、極めて容易かつ短期間に起こり得る。すなわち、公開を前提とせずに行った交渉や意見交換における過程や内容が公にされたり、あるいは第三者の知るところとなれば、相手国等の、我が国の情報管理あるいは秘密保持に関する信頼を損なうことは明らかであり、我が国がいわゆる「水面下の交渉」に参加し、その意見を反映させることができないまま多数意見が形成されたり、交渉が硬直化するなどの事態が生じかねない。また、交渉自体には参加できたとしても、信頼関係を失えば、情報の入手が困難となり、我が国に有利な外交交渉を行うことができなくなるなど、我が国の立場を害することになる。なお、ある一国ないし一国際機関が我が国の情報管理又は秘密保持に対する信頼関係を失えば、その種の情報は、国際舞台のネットワークに乗って伝播するものであり、ひいては国際社会全体の信頼を失うことにつながりかねない。

(イ) BIEの加盟国に対する信頼

BIEの活動、特に国際博覧会の開催に向けての活動は、開催期日の申請とその割当て及び割り当てられた開催期日における国際博覧会開催の登録申請と承認等であるが、その間にも、それぞれの進行過程において、何度もBIE内部若しくはBIEと加盟国又は加盟国相互間において、会議、意見交換等が行われ、最終的に総会で承認されて決定し、次の手続へ移行する。そこで行われる会議等は、従来から長年にわたって率直かつ自由な議論を可能にするために非公開で行われ、会議等の内容はその後も公にされていない。このような非公開の慣習は、BIEが作成した文書をそのホームページ上で公開しつつ、それ以外の非公開の議論等に関する情報は、公開文書に含まないというBIEの実務慣行にも現れている。そして、BIEは、非公開とした会議等の内容については、自ら公表する以上の情報を公表してはならないとし、その旨要請し、加盟国もそれに従うものとされている。

それにもかかわらず、仮に、そのような情報が、我が国政府及び関係者によって公にされれば、BIEの我が国の情報管理あるいは秘密保持に対する信頼は損なわれ、その後、独り我が国のみが、BIE内部の協議や会合から疎外され、国際社会における我が国の信頼失墜につながりかねない。

また、BIEは、本件調査嘱託によって、被告らが本件各文書の開示を不相当と判断したことを了知したと認められるにもかかわらず、本件回答書において、BIEが公開を相当と考えていることを示唆する記述は全くなく、かえって、「BIEの情報や文書の情報公開についての基本原則を説明する。…内部での諮問や討議に実際に用いられた書類は…内部使用のためだけに用いられることが意図され、本質的に非公開のものである。」とされていることからすると、BIEの内部的な協議・折衝に使用された文書やそれに関する情報のすべてについて不開示を相当とするBIEの姿勢が強くうかがわれるし、また、本件各文書も内部的な協議・折衝に関する情報に含まれるとBIEが考えているものと解される。

なお、BIEが、本件調査嘱託による個別的な照会に応じなかったのは、BIEにはかかる調査嘱託に回答する義務がないことのほか、被告らがBIEの文書公開の原則を踏まえて主体的かつ信義則にのっとって判断すべきであって、個別的に本件各文書の一通ずつについて公開の当否を表明する必要性を認めなかったからと解されるし、本件回答書で唯一の回答であることをあえて強調したのは、愛知万博に関連して、BIEに対し3件の調査嘱託(別事件における調査嘱託を含む。)が送付されたため、全体に対しての回答であることを明示する意図で記載されたものと解するのが合理的である。

(ウ) 原告の主張に対する反論

本件回答書について、原告は、BIEの情報公開に関する原則が妥当する対象を「情報や文書」ではなく「文書」のみに限定するとともに、「BIE内部」についても、BIEと加盟国である我が国との協議すら含まない旨限定的に解しているが、そのような限定は誤りであって、BIEの原則が妥当する対象は、BIEの内部的な協議・折衝に使用された文書やそれに関する情報のすべてに及び、本件各文書もこれに含まれると解するのが相当である。

また、原告は、BIEからの要請の内容いかんによって、開示によるBIEとの信頼関係を害するおそれの有無は異なってくるはずであり、要請の内容が抽象的なものであればあるほど、行政文書を開示したとしても信頼関係を害するおそれは小さい旨主張するが、要請の内容を明らかにすることは、それ自体国際常識に反し、信頼関係を損なうものである上、被告らは、BIEの要請を一要素として、その公表が我が国に対する信頼を損なうか否かについて、高度の政策的判断と対外関係上の将来予測としての専門技術的判断をなした結果、本件各処分をなしたのであるから、原告の主張は、被告らの判断を正解しないものである。また、原告は、BIE幹部は、むしろ日本側に対して愛知万博についての情報の公開を求めていたはずである旨主張するが、一般的に情報の公開を推し進めるというのと、あらゆる情報を公開するということは異なり、BIE幹部の個人的な姿勢によって結論が左右されるものでもないから、原告の主張は失当である。

ウ 本件各文書の法5条3号該当性について((ア)ないし(オ)は被告経産大臣、(カ)ないし(サ)は被告外務大臣の各主張)

(ア) 文書1「ロセルタレス事務局長との会談議事録(平成11年8月2日)」及び文書2「BIE(博覧会国際事務局)との実務協議結果(平成12年9月7日)」

本文書は、愛知万博の開催期日割当て後登録申請前に、日本政府がBIEと非公式に行った非公開の協議の議事内容について、経産省職員が記録のため作成した議事録である。そこには、我が国とBIEロセルタレス事務局長やBIE事務局との率直かつ非公式のやり取りが記載されている。そして、これらは、BIEが、その自由な意思に基づき、好意から意見を交換し、調整、交渉に応じてくれたものであり、いずれも非公開で行われた。

これらの文書の作成にBIEは関与していないが、いずれも愛知万博登録申請へ向けて、その準備のためになされた我が国とBIE関係者の非公開の会談又は協議の内容を記載したものであり、これらを開示することは、その内容が国際社会の我が国に対する信頼を直接失墜させるようなものであるか否かにかかわらず、上記のとおりBIEの意思や国際慣習に反し、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがある。

(イ) 文書3ないし5「BIE説明資料」(仏語、英語及び日本語)

本文書は、愛知万博の開催期日割当て後登録申請前に、博覧会協会が平成12年9月7日にBIEと非公式かつ非公開の協議を行うために作成したもので、文書2の協議に用いられた資料である。

これらの文書を公表すれば、上記協議の内容を推知せしめることになるから、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがある情報に当たる。したがって、法5条3号に該当すると認めた被告経産大臣の判断には合理性がある。

なお、説明資料ファイルは、平成11年11月に行われた我が国とBIEとの協議に関して、平成12年1月に事実と異なる新聞報道がなされたため、同年2月、その対応について、我が国とBIEとの間で協議を行い、マスコミや世間の誤解を解くためにBIEの了承を得た上で、愛知県において資料の一部を公開したものにすぎない。これに対し、文書3ないし5は、それから7か月経過した平成12年9月7日に実施された我が国とBIEとの非公式の実務協議のために作成され、その際に用いられた資料であり、両者が異なる資料であることは明らかである。

(ウ) 文書6「BIE(博覧会国際事務局)執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」及び文書7「BIE執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」

本文書は、愛知万博登録申請後の平成12年10月24日に、経産省職員が、そのころ非公開で行われたBIEの執行委員会の結果について記録するため作成した文書である。その内容は、我が国とBIE及び執行委員との間における、非公開のやり取りであり、関係者が個別にどのような発言をしたかまでが詳細に記載されている。

したがって、法5条3号に該当すると認めた被告経産大臣の判断には合理性がある。

(エ) 文書8「愛知万博に関する閣議決定等のイメージ」の1丁表墨塗り部分

文書8は、愛知万博登録申請前の平成12年8月に、登録申請の閣議決定に先立って、経産省が、省内協議及び関係省庁への説明のために作成した資料であるが、このうち、1丁表の墨塗り部分は、BIEから登録申請に先立って非公式に事実上提供された情報が記録されている。

このように、我が国とBIEとの間の信頼関係に基づき、BIEが事実上提供してくれた情報を我が国の一方的な都合で公表することは、BIEの意思に反するのみならず、BIEやその加盟国の我が国に対する信頼関係を損なわしめる。それ故、被告経産大臣は、当該部分が法5条3号に該当すると認めたのであり、かかる判断に合理性があることは明らかである。

(オ) 文書8「愛知万博に関する閣議決定等のイメージ」の3丁以下の不開示部分39ページ分、文書9「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(事前協議)」、文書10「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(再協議)」、文書11「2005年日本国際博覧会の博覧会国際事務局に対する登録申請について(平成12年9月19日閣議決定案)」及び文書12ないし14「2005年日本国際博覧会登録申請書(仏語、英語及び日本語)」

これらの文書は、それぞれ、BIEに対する愛知万博の登録申請書(文書12ないし14)と、その原案である各省事前協議要請文書、各省再協議要請文書及び閣議決定のための資料(文書8の3丁以下の不開示部分及び文書9ないし11)である。

国際博覧会は、開催国独自の歴史的・道義的観点から、基本構想やテーマが策定され、あるいはこれを実現するための会場計画、資金計画等の開催計画の具体的な諸元が固められるべきであり、登録申請内容も、登録申請国独自の歴史的・道義的方法によるべきとされている。そのため、登録申請の方法については、国際博覧会規則において、必要となる情報やその期限について定められている以外には、ひな形はもちろん、文書によるべきか、その他の方法を利用するべきか、どの程度詳細なものを要するかは一切定められていない。ひな形等が提示されれば、登録申請国がこれを利用する可能性が高く、そうなると、開催国としての独自性が失われるなど、国際博覧会の趣旨に反する結果をもたらすおそれがあるからである。

そこで、BIEは、登録申請国あるいは開催国の独自性を確保するため、登録承認のための非公開の委員会会議の際に明らかにされる以外には、加盟国でさえ、その政府代表等に過去の登録申請書及びその添付資料を閲覧させるのみで、一切写しも交付しないこととし、登録申請書を始めとする非公開会議の議事録等を公表しておらず、かつ公表することは望ましくない旨要請している。このように、登録申請書の非公開は、既に国際慣習にまでなっているが、このことは、登録申請書の内容を推知し得る原案の開示についても、同様にいえることである。したがって、これらの文書を開示することは、BIEやその加盟国の我が国に対する信頼を損なわしめるおそれがあるため、法5条3号に該当すると認めた被告経産大臣の判断には合理性がある。

(カ) 文書15「BIE(黒岩博覧会協会部長とロセルタレス事務局長の意見交換)」及び文書16「BIE(山田通産省博覧会推進室長他とロセルタレス事務局長の意見交換)」

本文書は、愛知万博の開催期日割当て後登録申請前の平成11年3月と同年8月に、登録申請に向けて、BIEロセルタレス事務局長と黒岩博覧会協会部長ほかないし山田通産省博覧会推進室長ほかが、それぞれ開催準備に関して非公開の意見交換を行った際、外務省職員が詳細に記録したものであって、一般規則第6章「博覧会の開催中止」についての意見交換も含む、我が国とBIEとの自由かつ率直な非公式のやり取りが記載されている。

したがって、これらの文書を公表すれば、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあり、交渉上不利益を被るおそれがあるから、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

(キ) 文書17ないし19「BIE(「政府保証」文書に係る調整)」及び文書20「BIE(「政府保証」文書に係る調整:回答)」

本文書は、愛知万博の開催期日割当て後登録申請前の平成12年7月、BIEと我が国とが、登録申請に向けて、登録申請書について調整・交渉を行った際のやり取りを外務省職員が記録したものである。これらの記録には、登録申請の際の必要書類としてBIEから示されていた愛知万博開催中止の際の政府保証等について述べた文書の内容に関する交渉の過程が記載されている。

したがって、これらの文書を公表すれば、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあり、交渉上不利益を被るおそれがあるから、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

(ク) 文書21「BIE(9月6、7日BIE事務局との実務協議の概要)」

本文書は、愛知万博の開催期日割当て後登録申請前の平成12年9月、村崎通産省調整官ほかの我が国関係者が、ロセルタレス事務局長との間でなした意見交換を外務省職員が詳細に記録したものであり、これには、登録申請手続に関する実務協議の記録であって、一般規則第6章「博覧会の開催中止」に関する意見交換も含む、我が国とBIEとの自由、率直かつ非公式のやり取りが記載されている。

したがって、この文書を公表すれば、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあり、交渉上不利益を被るおそれがあるから、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

(ケ) 文書22「BIE(次回執行委員会の開催通知)」

本文書は、愛知万博開催期日割当て後登録申請前の平成12年9月、BIE事務局から関係各国に配布された執行委員会の開催通知であり、その内容は、会合の日時、場所を通知するにとどまらず、審議が予定されている事項及びその内容にまで踏み込んでいる。本文書は、BIEがフランス語を用いて作成したため、在仏日本大使館が独自に仮訳した日本語訳が添付されている。

したがって、本文書を開示し、非公開の会合の内容を公表することは、BIEの意思や国際慣習に反し、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあるとともに、今後の意見交換や交渉・調整が困難となるおそれがあるから、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

(コ) 文書23「BIE(執行委員会の結果概要)」

本文書は、平成12年10月に開催された前記執行委員会に出席した我が国関係者である外務省担当者が、会合の内容を詳細に記録したものであり、その内容は、一般規則第6章「博覧会の開催中止」に関する事項を含む愛知万博の登録申請をめぐっての、我が国とBIE加盟国代表との間での、公開を前提にしていないやり取りであり、BIE及びその加盟国が個別にどのような発言をしたかということまでが詳細に記録されている。

非公開で行われた会合におけるBIE及びその加盟各国の自由かつ率直な意見は、公表されないことが前提となっており、本文書が開示されれば、その内容いかんにかかわらず、同委員会の出席者、BIE及びその加盟国の意思に反し、国際慣習にも反することになるから、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあるとして、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

(サ) 文書24「BIE(執行委員会の結果の送付)」

本文書は、BIEから平成12年11月に在仏日本国大使館に送付された前記執行委員会の議事録及びこれと一体化された在仏日本国大使館から外務省本省へ送付する際の在仏日本国大使館作成の送付書であり、その内容は、一般規則第6章「博覧会の開催中止」に関する事項も含む愛知万博の登録申請をめぐっての、我が国とBIE及びその加盟各国代表との間における、公開を前提としないやり取りである。BIE及びその加盟国が個別にどのような発言をしたかということまでが詳細に記録されている。

したがって、本文書は、公開を前提とせず、自由かつ率直に表明した意見を含み、公開することがBIEの意思や国際慣習に反することは明らかであって、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあり、交渉上不利益を被るおそれがあるから、法5条3号に該当すると認めた被告外務大臣の判断には合理性がある。

エ 全部不開示決定(文書22)の適否について(被告外務大臣の主張)

(ア) 情報の単位

法5条、6条に規定する「情報」とは、個々の記述そのものではなく、このような記述が合わせられ、一体のものとして構成されたものであって、法5条各号の不開示事由該当性の判断対象を判断することが可能な程度の内容ないし実質を備えたもの、すなわち、独立した一体の情報をいうものと解される。そして、個々の記述等を、ほかの記述等から切り離した場合に、それが社会生活上の特定の意味を持つ事象、事柄の知らせとして、社会通念上、切り離す前と同様の意味を持つのであれば、情報として別個独立したものと考えられるが、その知らせとしての意味が消え失せるのであれば、それは独立した一体的な「情報」の構成要素にすぎず、1個の「情報」ということはできない。

(イ) 文書22に記載された情報の一体性

前記のとおり、文書22の行政文書は、平成12年9月に、BIEから関係各国に配布された執行委員会の開催通知であり、あて先、送り主、当該委員会の開催予定日時場所、審議が予定されている事項及び内容が記載されている。これらの記載部分は、それぞれを位置的に容易に区分することはできず、それぞれをその余の部分と切り離して取り上げたとしても、それ自体が意味のある「独立した一体的な情報を成すもの」ではなく、その余の部分を合わせて初めて、執行委員会を開催する旨の連絡として意味のあるものとなる。したがって、文書22の記載は、その全体が一体として独立した1個の情報であると解され、かつ、かかる情報が法5条3号に該当することは前記のとおりであるから、被告外務大臣は、会合の日時場所等の一部のみを部分開示する義務を負わず、文書22についてした全部不開示決定は適法である。

(ウ) 執行委員会の開催日時場所の不開示事由該当性

なお、執行委員会の開催の日時場所の記載だけをとらえても、法5条3号の不開示事由に該当する。すなわち、BIEは、一般的に、執行委員会の会合の前後を問わず、その会合の討議内容や具体的な開催の日時場所について、報道機関等へ対外的に公表することはなく、その内容は、BIE総会で報告され、それが総会議事録にまとめられ、加盟国に配布されるにとどまる。したがって、執行委員会の開催の日時場所は、BIEや執行委員会関係者という限られた者に明らかにされるが、それ以外の者には公開を予定している情報ではないというべきであり、これが開示されれば、日本国政府に対する信頼関係を損なうおそれがある。

(2) 原告の主張

ア 不開示事由の判断手法について

不開示事由を定める法5条3号は、「公にすることにより、……おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定しており、「相当の理由」の存否の判断について、被告らに裁量権があることを認めるとしても、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠き、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により、その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には、違法であると解される。そうすると、本件の「相当の理由」の存否判断においては、本件各文書の公開により、「他国若しくはBIEとの信頼関係を害するおそれがある」又は「他国若しくはBIEとの交渉上不利益を被るおそれがある」と被告らが判断したことの基礎とした重要な事実に誤認があるか、上記基礎事実に対する評価が明白に合理性を欠くかが問題となると解される。

ところで、愛知万博については、多額の公費の支出を要することや博覧会会場の環境保全などを争点として、実施の是非をめぐって県民、国民の間で議論がなされている。かかる場合、仮に博覧会を中止した場合に、だれが法律上いかなる責任を負うかという点については、愛知万博の実施に関するリスクコントロールの観点から十分な検討が必要である。原告が開示を求める本件各文書は、愛知万博を中止した場合に博覧会協会や国、地方自治体に生じることが予想される損害賠償義務を始めとする法的責任についてのメモ・書類・議論の経過が分かる文書であり、国民にとっても、上記の判断のための資料として極めて重要な意義を有する情報である。したがって、本件各文書に記載された情報は、法1条に定める「……国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」という情報公開の目的に照らして、開示されることが本来的に要求される情報に当たる。したがって、この点を考慮して、本件各処分が著しく妥当性を欠くか否かを判断すべきである。

イ 公開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無について

(ア) BIEの要請の抽象性

被告は、BIEによる非公開の要請があることを不開示の重要な理由とするが、BIEの上記要請の時期や内容が具体的に特定されることなしに、かかる「要請」の存在だけで「公開することによりBIE等との信頼関係が損なうおそれ」を合理的に説明するものではない。例えば、BIEの上記要請が、文書を特定することなく、会談の席上などで抽象的に情報の漏えいを注意するよう求めたにとどまるのであれば、そもそも、BIEの要請は、本件各文書のように、法的なリスクコントロールや世論形成の観点、法1条の趣旨から開示する必要性が高い情報に対して及ばないと評価すべきである。そもそも、BIE幹部は、日本側に対して愛知万博についての情報の公開を求めていたはずであり、信頼関係が損なわれることを理由とする本件各処分に合理性はない。

(イ) 本件回答書の意味内容

本件調査嘱託は、本件各文書が公開された場合に、BIEが支障を感じるか否かについて、支障を感じる場合には(はい)に、支障を感じない場合には(いいえ)に、それぞれマークをすることを個別的に求めているところ、本件回答書は、そのような回答の形式を採っていないこと、「本件調査嘱託に対して回答する」と記載せず、あえて「情報を提供する」と表現していること、本件調査嘱託の対象とした本件各文書に触れることなく、「BIEの情報及び文書の開示に関する基本原則を説明いたします。」と記載していることからすると、本件調査嘱託に対する回答でも、本件各文書の開示について説明したものでもないといわざるを得ない。

また、本件回答書は、「愛知万博2005に関する調査全てに対する唯一の回答」と記載しており、本件各文書については回答しない旨明示している。そして、「唯一の回答」の部分を斜字体にして強調していることに照らすと、BIE内部での協議及び審議に使用された文書の開示に関するBIEの基本原則以外に、愛知万博に関する文書や情報の開示に関する原則は、少なくともBIEには存在しないことを明示しているものと解される。しかも、本件回答書には、BIE内部での協議及び審議に使用された文書については総会で加盟国による承認を得た場合に公となる旨の記載があることからすると、BIEの情報及び文書の開示に関する基本原則は、「BIE内部での協議及び審議に使用された文書はすべて総会で加盟国による承認がない限りは公開しない。」という内容であると解される。しかるところ、本件各文書は、後記のとおり、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に当たらないから、上記不開示原則の対象となるものではない。

(ウ) 会議等の非公開と不開示事由

被告らは、会議等が非公開でなされたことをもって不開示の合理的理由としている。しかしながら、会議等自体が非公開であったとしても、会議後に、当該会議に関する情報の不開示が直ちに正当化されるものではない。現に、平成11年8月には、非公開の会議において、会場予定地であった「海上の森」での万博開催についてBIE委員から懸念が表明され、これが新聞に報道されて、最終的に会議の議事録がマスコミに広く公表された経緯がある。仮に、文書1ないし7の行政文書が、上記マスコミ報道に係る会議に関する文書であるとすれば、不開示とする合理的理由は全くない。

ウ 本件各文書の法5条3号該当性について

(ア) 文書1ないし7

被告経産大臣は、これらはいずれも非公開で行われた会議に関する情報であって、当該会議の内容は非公開とすべきとのBIEからの要請があり、文書を開示した場合にはBIEとの信頼関係が損なわれるおそれがある旨主張している。しかしながら、証人A(以下「A証人」という。)は、文書1ないし14についてBIEから非公開にしてほしいとの要請を受けたことがなく、前任者も個別具体的に文書を非公開にしてほしいとの要請を受けたか否かは分からない旨証言している。また、A証人、前任者から文書の開示についてのBIEの考え方を引き継いでいると証言するものの、具体的にどのような文書の開示について引き継いでいるかについては、登録申請書以外に具体的に文書名を挙げることができない。

しかも、本件回答書には、文書1ないし7について、BIEから公開することについて支障がある旨の指摘はない上、被告経産大臣によれば、文書1及び2は、日本政府がBIEと非公式に行った協議の議事内容を記録したものであり、文書3ないし5は、博覧会協会がBIEと非公式かつ非公開の協議を行うために作成され、文書2の協議に用いられた資料であり、文書6及び7は、経産省職員がBIEの執行委員会の結果を記録したものであり、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に該当しないから、BIEによる非公開原則の対象となるものではない。

また、BIEの運営に関する規則中、委員会に関する規則(<証拠略>)第12条は、執行委員会の議事録を閲覧に供することを規定しているところ、かかる記録を閲覧に供しているBIEが、殊更執行委員会に関する記録を非公開とすべき旨を要請したり、非公開とすることを奨励したりすることはおよそ考えられない。

さらに、被告経産大臣は、文書3ないし5について、愛知県が公開している説明資料ファイルを用いて行われた平成12年2月のBIEとの協議から7か月経過した同年9月の協議で用いられたもので、両者は別個の文書である旨主張するが、9月の協議は2月の協議を前提として、これに引き続いて行われたはずであるから、その内容が大きく変化したものとは考え難く、むしろ相当部分において共通するとみるのが自然である。そうすると、文書3ないし5の機密性(要不開示性)が説明資料ファイルと相違するとみるのは不可能であるから、これらの不開示決定は違法というほかない。

よって、本件各処分のうち、文書1ないし7については、不開示判断の基礎となった事実が全く存在しないにもかかわらずなされたものであって、違法であることが明らかである。

(イ) 文書8ないし10

文書8ないし10は、いずれも登録申請書の原案であるところ、A証人は、登録申請書が公開された場合には、他の登録申請国がこれを安易に利用して開催国としての独自性が害されるという理由で非公開とする旨のBIE側の要請を前任者から引き継いでいる旨証言する。

しかしながら、非公開とする理由がかかるものであれば、登録が承認された平成12年12月15日のBIE総会以降は、他国の登録申請書をまねして登録申請するという事態は生じ得ず、しかも、BIEにおいて閲覧に供されているのであるから、非公開の理由はないはずである。

また、被告経産大臣の主張によれば、BIEの公開についての基準に照らしても、文書8ないし10は、登録申請のための各省事前協議や閣議決定のために作成された資料であり、文書8の1丁表の墨塗り部分も、「BIEから登録申請に先立って非公式に事実上提供された情報」であり、また、その3丁以下の登録申請資料の原案も、申請資料そのものとは異なるから、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に該当しないことが明らかであり、BIEの非公開原則の対象となるものではない。

なお、文書8などは、愛知県が既にBIE説明資料として公開している説明資料ファイルに記載があるはずであり、同種の文書を愛知県が公開しているにもかかわらず、殊更不開示とする判断が不合理であることは明らかである。

(ウ) 文書11ないし14

これらの文書は、登録申請書自体ではなく、せいぜいこれに類似するものあるいは原案に当たると解されるところ、これらについて、BIEからの非公開にすべきとの要請はない。仮にそのような指示があったとしても、上記のとおり、登録が承認された平成12年12月15日の総会以降には非公開とする理由はない。本文書を登録申請書と同視したとしても、同様である。

また、これらの文書は、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に該当しないことが明らかであり、BIEの非公開原則の対象となるものではない。

したがって、不開示決定の基礎となる事情はない。

(エ) 文書15ないし21

被告外務大臣は、BIEにおいて非公開で行われた意見交換や議論、会合等の内容が公表されることを前提としていない旨主張するが、そもそも、BIEにおいて非公開で行われた意見交換や議論、会合等の内容が公表されることを前提としていないという事実が存在することについて、何らの根拠も示されていない。

また、いずれの文書も、登録申請前の会談の内容が記載されているが、登録承認によって愛知万博の開催が決定されて1年2か月が経過した本件各処分時に、これらの会談内容が公開されることによってBIEとの信頼関係を害することは、社会通念上あり得ない。

さらに、本文書は、いずれもBIE事務局長又はBIE関係者との意見交換や議論の内容を記したものであり、これらが公開されたとしても、BIE関係者が意見を述べることを差し控えるなどということは、およそ考えられないし、仮に、非公開で行われた意見交換の内容が公表された場合には、自由な意見が言えなくなるという事情があるとすれば、いくら世論の要請があったとしても、平成11年11月18日に行われたBIE事務局と通産省との会議録の公表などできないはずである。にもかかわらず、会議録の全文を公開したという事実は、そもそも非公開で行われた意見交換であっても、その内容が公表されることによって自由な意見が言えなくなるなどという結果が発生しないことを示すものである。

加えて、これらの文書は、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に該当しないことが明らかであり、BIEの不開示原則の対象となるものではない。

(オ) 文書22ないし24

被告外務大臣は、本文書が非公開の執行委員会の内容に関する文書であり、非公開の会合の内容を公表することは、BIEの意思や国際慣習に反する旨主張する。しかしながら、前記のとおり、BIEの運営に関する規則中、委員会に関する規則第12条は、「執行委員会の議事は、すべて完全な記録書にまとめられ、BIEの公文書保管所に保管される。この記録書は1年間保管所で閲覧に供される。すべての会合の議事録は全代表に送られる。」と規定しており、執行委員会が非公開であったとしても、その記録書は自由な閲覧に供されているのであるから、被告外務大臣の主張する基礎事情はない。

また、これらの文書は、いずれも「BIE内部での協議及び審議に使用された文書」に該当しないことが明らかであり、BIEの不開示原則の対象となるものではない。

エ 全部不開示決定(文書22)の適否

被告外務大臣は、文書22について、全体が独立した一体の情報であると主張し、日時・場所のみを部分公開する義務はない旨主張するが、他方で、日時・場所の情報それ自体が法5条3号に該当するとも主張している。しかし、全体が独立した一体の情報であれば、日時・場所それ自体は情報として意味がないことになるはずであるから、上記主張は明らかに矛盾している。

法6条1項は、不開示情報の記録されている部分が容易に区分されて除かれた後の当該行政文書の一部分であること、及び有意の情報が記録されていないと認められるものではないことの要件を満たせば、当該一部分は、開示しなければならないと規定しているところ、被告も独立した不開示事由が存すると主張しているように、開催の日時・場所についての情報は、原告のみならず被告にとっても有意性が認められる以上、開示しなければならないはずである。

第3当裁判所の判断

1 不開示事由の判断手法について

(1) 一般に、民主主義社会において、国民が自由な意思決定を行い、それを対外的に表明するために、行政上の情報を含む公的な情報を入手することが重要であることは異論のないところであり、このような知る権利は、表現の自由を保障した憲法21条、更には思想及び良心の自由の不可侵性を規定した同法19条や幸福追求権を規定した同法13条の趣旨、目的から、その派生原理として導かれると解される。このように、知る権利は、基本的には知ることを妨げられない自由権としての性格を有し、それ自体抽象的な権利にすぎないから、憲法の上記諸規定が、これを超えて、積極的に行政機関に対して情報の開示を求めることのできる請求権を具体的権利として保障するものとはいえない。そうすると、情報開示請求権は、具体的な法令が制定されることにより、初めて実定法上の根拠が与えられるというべきであるから、その内容、範囲等は、当該法令の趣旨、目的を踏まえながら、その文言に即して解釈・判断されるべきである。

しかるところ、法5条は、その本文において、行政機関の長が原則的な開示義務を負うことを定めるとともに、同条各号に定める不開示情報が記録されている行政文書を開示すべき対象から除外している。その趣旨は、政府の諸活動の実態を可能な限り国民に知らしめ、もって国民主権の理念を実効あらしめようとする配慮と、個人、法人等の権利利益を保護したり(1、2号)、国の安全などの公共の利益等が不当に侵害されないようにする(3ないし6号)配慮とを比較考量し、その調和を図ったものと考えられる。

(2) ところで、法5条3号は、「公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を開示の除外事由と定めている。このように、他の各号(1号本文後段、5号、6号)が「…おそれがあるもの」と規定しているのと異なり、同条3号(4号も同様)が、「…おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と規定しているのは、国の安全が害されるおそれや国際機関等との信頼関係が損なわれるおそれがあるか否かについては、その事柄の性質上、高度の政治性を伴う専門的、技術的判断を要するという特殊性が認められ、これらの事務を所管する行政機関の長の判断を尊重するのが相当であるとの考慮によるものと解される。

そうすると、裁判所が、「おそれがあると認めることにつき相当の理由」の有無に関する行政機関の長の判断が違法となるかどうかを審査するに当たっては、行政機関の長と同一の立場に立って、独自に認定・判断し、その結論と行政庁の処分とを比較する手法ではなく、その判断が行政機関の長に付託された裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が事実の基礎を欠くものか否か、又は基礎とされた重要な事実に対する評価が著しく合理性を欠くこと等により、その判断が社会通念に照らして妥当性を欠くことが明らかであるか否かについて審理し、これが肯定される場合に限り、その裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法となると解するのが相当である(最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223ページ、同昭和63年7月14日第一小法廷判決・集民154号273ページ参照)。

(3) 行政機関の長による法5条3号の不開示事由の存否に関する処分の前記のような性質にかんがみると、当該行政機関の長の判断に裁量権の逸脱又は濫用があったことを基礎付ける事実の主張立証責任は、本来、開示請求者である原告が負うべきものと解されるが、国の安全や他国若しくは国際機関との交渉に関する正確かつ詳細な情報は専ら国の側にある行政機関の長が保持しており、国民の側としては、公にされている刊行物やメディアによる報道等から概括的に入手するほかないと考えられることなどに照らすと、行政機関の長において、まず、その前提とした事実関係及び判断の過程等、その判断に不合理のないことを相当の根拠に基づいて主張立証する必要があり、これを尽くさない場合には、行政機関の長のした判断が裁量権を逸脱又は濫用したものであることが事実上推認されるというべきである(最高裁判所平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174ページ参照)。

もっとも、行政機関の長が、その判断に不合理のないことを相当の根拠に基づいて主張立証する前提として、当該情報の具体的な内容まで明らかにすることを求められるならば、その開示を強いられるのと同じ結果となるから、行疎機関の長としては、その種類、性質、作成主体、作成機会など、第三者機関である裁判所が当該判断に不合理性が含まれているか否かを判断するに支障のない程度の具体性をもって当該情報の内容を特定した上で、これを開示することにより国の安全等を害するおそれがあると判断したことが不合理とはいえないことを基礎付ける事実の主張立証を尽くすことにより、その処分の適法性を維持できると解すべきである。

このような主張立証が果たされた場合に、なお当該処分が違法であることを主張する原告は、原則どおり、当該判断が裁量権を逸脱又は濫用したものであることを基礎付ける事実の主張立証をしなければならない。

2 公開に関するBIEの見解と我が国に対する信頼を損なうおそれの有無について

(1) 前記前提事実及び証拠(<証拠略>、A証人)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

ア BIEと加盟国の関係等について

(ア) 条約は、国際博覧会の秩序ある開催・運営を目的として、1928(昭和3)年11月22日にパリで締結され、日本は、1965(昭和40)年に同条約に加入している。現在の締約国は、88か国である。

(イ) BIEは、条約及び議定書の適用を監督し及び確保する責任を有する国際機関として設立され、総会、議長、執行委員会、専門委員会、これら委員会の数と同数の副議長及び事務局長の指揮する事務局から成る(条約25条4項)。そして、BIEの構成員は締約国の政府であり、総会は、締約国の政府が任命する代表によって構成され、議長及び副議長は、締約国代表から選出され、事務局長は総会において締約国の国民の中から選出され、執行委員会は、12の締約国の政府のそれぞれ1人の代表によって構成される(条約26条ないし31条)。

BIEは、条約及び議定書の適用を監督し、確保する責任を有する国際機関であるため(条約25条1項)、開催国に対して、必要な指示、助言等を行うこととされている。

(ウ) 国際博覧会は、名称のいかんを問わず、条約に基づいて開催される公衆の教育を主たる目的とする催しであって、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の1若しくは2以上の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すもののうち、2以上の国が参加するものをいう(条約1条)。

(エ) 国際博覧会の開催を希望する政府は、BIEに対して、まず、開催期日の申請書を提出し、これを受けたBIEは、加盟国政府に対し、開催期日の申請があったこと及び競合する意思表明をする猶予期間が6か月であることを通報する。最初の申請書の提出から6か月の期間を経た後、執行委員会の委員長は、事務局長の助言に基づき、予備調査を実施する。調査は、博覧会のテーマ、開催場所、期待される入場者数、財政的な実現可能性と財政保証を確保するために提案される措置、参加費用、責務を負う関係当局及び関係当事者の態度等についてなされ、執行委員会は、その調査の結果を精査し、助言を添えてBIE総会に回送する。その後のBIE総会において、開催国へ開催の期日が割り当てられる。その際、競合する開催希望国があった場合には、BIE総会で秘密投票によって決定されることになる(BIE規則第1部)。開催期日の割当てを受けた国は、その開催期日における国際博覧会の開催権を取得し、開催準備を推進し、国内手続を経て、開催主体を設立させる。その後は、開催主体を中心に開催準備を行うことになる。

(オ) 開催主体は、まず、当該国際博覧会の基本理念とこの理念を受けて博覧会の各種計画を進めるための基本方針からなる基本構想を想定し、その後、博覧会の名称、テーマ、会場エリア、資金計画等を策定する。

(カ) 次いで、開催国政府は、当該国際博覧会につき登録申請を行う。登録申請書には、次の事項を示さなければならない。なお、この登録申請書は、遅くとも開会日の5年前までに、BIEに提出しなければならない。

a 関連する法的及び財政的措置並びに開催者の法的地位

b 博覧会の名称、テーマ(テーマの選択、定義、展開、適用)及びその普及のための会議、シンポジウムに係わる暫定計画、並びにこれらの活動が、例えば国際連合又はその専門機関の支持を得て広く国際的なキャンペーンに結び付けるように意図されているかどうかを示す暫定計画

c 博覧会の開催期間

d 博覧会の諸活動を要約する分類

e 会場エリア。ただし、駐車場、娯楽エリア、及びこれに類する博覧会の関連施設が会場外にあれば、それらの一切のゾーニング計画をも示す。

f 資金計画

g 国内及び国際レベルで博覧会を促進するための暫定計画

h 会場再利用の暫定計画

i 商業化の暫定計画

そして、申請書には、当該博覧会の一般規則及び参加契約書並びに開催取りやめの場合の賠償金を規定し保証する文書及び参加のための財政条件に関する一切の特別規則が添付されなければならないとされ、これに加えて、参加者に対して定める基本的な暫定条件を明確にするとともに、参加招請の対象となる開発途上国と、開催者からこれらに提供される優遇措置について、あらかじめ考えられた方針を定めなければならないとされる(BIE規則第2部)。

登録申請書が提出されると、BIE総会において、当該博覧会が、条約に定める条件を満たし、かつBIEの定める規則に適合するものであることを審理して、正式に登録承認されることになる。当該博覧会が正式に登録承認されて初めて、政府は、外国政府に対して参加招請を開始することになる(条約11条)。登録申請後には、計画の変更は、少なくとも好ましくないものととらえられている(<証拠略>)。

(キ) BIEにおける総会、執行委員会及びBIE関係者と加盟国政府関係者との会談等は、いずれも非公開で行われている。そして、BIEは、総会において承認された情報については、ホームページ等においてその内容を公表するが、それ以外の情報については、公表していない。なお、執行委員会の開催の通知は、議事日程と必要な討議資料を添えて、少なくとも開催1か月前までに、委員に送付されなければならない。そして、執行委員会の議事は、すべて完全な記録書にまとめられ、BIEの公文書保管所に保管される。この記録書は全代表に送られるとともに、1年間保管所で加盟国代表者の審議のために閲覧に供されるが、一般の者が閲覧等を行うことはできない(<証拠略>)。

イ 愛知万博の登録承認までの経緯について

(ア) 愛知県知事、名古屋市長及び中部財界代表者は、昭和63年10月、21世紀初頭に開催される国際博覧会を「二十一世紀の平和と文明」を仮テーマとして、愛知県に誘致することで合意し、その旨を表明した。次いで、愛知県知事は、平成2年2月、この国際博覧会開催予定地を愛知県瀬戸市南東部地区とすること等を表明した。

これに対し、平成5年ころから、環境保護団体を中心として、会場候補地である海上の森の自然環境への影響を懸念する指摘がなされるようになり、海上の森では立木トラスト運動が始まった。

(イ) 通産省は、平成7年8月、愛知県から2005年国際博覧会構想が提出されていることを踏まえて、国際博覧会予備調査検討委員会を設置し、愛知万博開催の必要性、妥当性やその内容等について検討を行なった。同委員会は、平成7年12月ころ、最終報告書をまとめ、テーマや基本理念等の試案を示した。これを受けて、通産省は、この国際博覧会の基本的な取組方針を決定し、関係各省庁の了承を取り付ける等の所要の手続を経て、同月19日、国際博覧会の開催申請をすることが閣議了解された。その中で、自然環境の保全への配慮、環境影響評価の適切な実施等が確認されている。

(ウ) 通産省は、平成8年、愛知県瀬戸市周辺地域における国際博覧会のテーマを「新しい地球創造・自然の叡智」と決めて発表し、愛知県瀬戸市周辺地域における国際博覧会(愛知万博)を開催すべく、同年6月、BIE総会において、2005(平成17)年開催についての希望を表明し、平成9年6月、BIE総会において、愛知県内にて国際博覧会を開催することが割り当てられた。これに伴い、平成9年10月、日本における開催主体として、博覧会協会が設立された。

(エ) その後、博覧会協会は、会場計画、資金計画等をそろえて準備を進めてきたが、平成11年5月、愛知県が会場予定地にオオタカの営巣を確認したことから、会場計画を一部変更し、その結果、会場は、海上地区と愛知青少年公園地区の2か所になった。そのため、BIE議長及び同事務局長は、同年11月16日、新しい会場予定地を見学し、同月18日、通産省審議官らとの実務協議を行った。

(オ) 平成12年1月20日付けの朝日新聞(<証拠略>)は、「BIE、通産省との会議録全文」の見出しで、上記通産省審議官らとBIE議長等との実務協議のそのやり取りを報道した。それによると、日本側は、愛知万博の会場跡地の海上の森をニュータウンとして開発する新住宅市街地開発事業を実施することにより、愛知万博の費用を減縮することを予定していたところ、BIE事務局長は、厳しい論調で、環境アセスメントの方法、上記跡地利用計画による環境破壊の影響、テーマとの整合性、資金計画等について具体的な問題点を指摘し、執行委員会による再度の調査が必要になることと、登録申請後に問題が起こることは避けるべきで、当初の予定どおり3月に登録申請をして6月に登録承認を得ることは困難ではないかなどと発言している。

(カ) 上記の報道をきっかけとして、愛知県は、経産省及びBIEと協議の上で、その了承を得て、説明資料ファイル(<証拠略>)を開示している。同ファイルは、その背表紙に「BIE説明資料(12・2・10―11)国際博推進局」と記載され、次の内容から成る505丁(日本語及び英語)の文書である。

<1> 愛知万博についての基本的考え方

資料1―1.2005年日本国際博覧会(リーフレット)

資料1―2.2005年日本国際博覧会の概要と経緯

資料1―3.誘致にかかる国を挙げた取り組み

<2> 博覧会の準備全般の進捗状況

資料2―1.博覧会の準備全般の進捗状況

<3> 現行跡地利用計画

資料3―1.国際博覧会会場整備と将来のまちづくり

―里山研究交流のもり―

資料3―2.瀬戸市南東部地区整備事業について

資料3―3.瀬戸市南東部地区のまちづくりにおける自然との調和と共生への取り組み

資料3―4.瀬戸市南東部地区のまちづくりにおける環境影響評価について

資料3―5.新住事業に係る建設大臣意見

<4> 会場計画の進捗状況

資料4―1.会場計画の進捗状況の概要

資料4―2.会場計画の進捗状況

資料4―3.会場管理運営計画について

資料4―4.博覧会会場間輸送に使用する隊列走行バスについて

<5> 環境問題への取り組み

資料5―1.環境問題に対する基本的姿勢

資料5―2.2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価要領の概要について

資料5―3.2005年日本国際博覧会環境影響評価書に対する通商産業大臣意見について

資料5―4.2005年日本国際博覧会環境影響評価書に対する環境庁長官意見について

資料5―5.環境影響評価書の概要について(抜粋)

資料5―6.博覧会計画における環境への取組み

資料5―7.EXPO2005環境への取り組み(パンフレット)

資料5―8.博覧会会場の自然とその取扱いについて

資料5―9.2005年日本国際博覧会の「ゼロエミッション」(パンフレット)

資料5―10.未来を拓く2005年日本国際博覧会のエネルギーシステム(パンフレット)

<6> 合意形成へ向けての努力

資料6―1.合意形成へ向けての努力

資料6―2.愛知県における県民の合意形成について

資料6―3.市民との合意形成

<7> 資金計画

資料7―1.資金計画の検討状況

この説明資料ファイルによると、愛知万博は、会期が2005年3月25日から9月25日までの185日間、会場予定地が海上地区と青少年公園地区の2か所、想定入場者数が約2500万人、テーマが「新しい地球創造:自然の叡智」、平成13年度に会場実施設計、平成14年度から会場建設工事の開始として予定されている。また、平成12年2月付け環境影響評価の概要において、従前の海上地区のみの場合とこれに加えて青少年公園地区等を利用する案とを比較検討しているが、今後も追跡調査を予定していると記載されている。

(キ) その後、愛知県は、愛知万博の会場の見直し作業を本格化させ、絶滅危惧種であるオオタカの保護策を求める自然保護団体の要望をも取り入れた結果、同年7月ころ、従前の海上の森会場を縮小し、青少年公園を活用する変更計画案を策定した。

これを受けて、経産省は、平成12年8月、愛知万博に関する閣議決定等のイメージと題する文書(文書8)を作成し、登録申請案について省内協議や関係省庁への説明を開始した。その後、経産省の担当者は、同年9月7日、ロセルタレス事務局長と実務協議を行った上で、同月19日、登録申請についての閣議決定案を作成し、閣議決定後速やかにBIEに対して、愛知万博の登録申請書及び一般規則等を提出した。愛知万博の登録申請は、同年11月のBIE執行委員会調査団による現地調査及び同委員会の審査を経て、同年12月15日、BIE総会において正式に承認されている。

ウ BIE関係の文書、協議等の公開に関する原則について

経産省国際博覧会推進室の職員や博覧会協会の職員ら日本側担当者と、BIEやその加盟国との議論や意見交換は、それが公式のものか非公式のものかにかかわらず、非公開で行われたときは、事後に内容を公表しないとの前提で行われており、BIE事務局長からもその旨の要請を受けている。

そのほかの文書についても、日本側担当者は、BIEから個別的に非公開の要請を受けているわけではないが、BIEとの信頼関係の中で仕事をしているため、率直で様々な意見交換を妨げるおそれのある検討段階の意見や文書を公開することは適切でないと考えている。

(2) 以上の認定事実を基に、BIE関係の文書の公開により我が国に対する信頼関係を損なうおそれが生ずるか否かについて判断する。

ア 前記認定事実のとおり、BIEは、条約及び議定書の適用を監督し、確保する責任を有する国際機関であり、そのために指導、助言を行うこと、BIEの執行委員会は、テーマや実現可能性等について調査を行い、その報告書に基づいて、BIE総会において登録申請が承認されること、その間、幾たびも実務協議や会談が繰り返され、会場等についての現地調査がなされること、愛知万博においては、環境に対する悪影響を指摘する声が大きくなったことから、そのような実務協議や交渉を経る中で、会場が一部変更され、テーマも変化していること、特に、当初の計画では、海上の森の会場跡地において新住宅市街地開発事業を実施することにより愛知万博の費用を減縮することが予定されていたところ、かかる計画について、BIE事務局長は環境保護等の観点から問題視し、最終的にこの計画が修正されるに至ったこと、BIE執行委員会による再度の実地調査が行われ、登録申請書の提出は、本来、開会日の5年前までとされていて、平成12年3月に登録申請することが予定されていたものの、それが同年9月までずれ込んだこと、以上の経緯が明らかである。

これらによれば、BIE側と日本国政府及び博覧会協会側は、愛知万博の登録申請まで、相当程度切迫した状況の下で、その計画内容等について、かなり厳しい折衝を繰り返していたものであり、環境保護への配慮を求めるBIE側と費用負担の軽減を図りたい日本側の双方が、非難と弁解を含む極めて率直な意見交換を行う必要があったことを容易にうかがうことができる。

イ そして、本件回答書には、情報及び文書の開示に関する基本原則の説明として、BIE内部での協議及び審議に使用された文書は、加盟国の作業過程にのっとった一時的な状況を示すものであり、専ら内部使用のためのものであって、文書は、総会で加盟国による承認を得て初めて公のものとなる旨の記載があり、これに照らせば、BIEは、少なくとも内部での協議等に使用された文書については公開に消極的な見解を有していることが明らかであること、また、BIEにおける会議等は公開されておらず、執行委員会の議事録は、加盟国代表団関係者に閲覧に供されているにとどまり、BIEのホームページ等で公表されている総会で承認を得た情報以外の情報は公表されていないこと、現に、経産省の博覧会推進室長は、BIE事務局長から、非公開で行われた意見交換や議論、内密にもたらされた情報については、BIEから不開示とするよう要請を受けていると理解していること、愛知県が説明資料ファイルを公表するに際し、BIEの了解を得ていること、以上のBIEの情報及び文書の公開に関する状況に照らせば、BIEは、総会において承認された文書や情報は公表するが、それ以外の、非公開で行われたBIE内部での協議、意見交換等の内容については公表しないとの原則を有し、加盟国に対しても、この原則に従うことを要請しているというべきである。

BIEの上記原則は、計画されている国際博覧会の具体的な内容等は、登録申請書が作成、提出され、BIE総会において承認されるまでは、BIEと開催希望国との協議等を通じて、ある程度の修正・変更が当然に予定されているにもかかわらず、仮に、審議・作成過程にある計画案やこれに対する協議や調査の状況が公開され、その是非をめぐる議論が生ずると、それによって計画案の弾力的な修正・変更が困難となる可能性を否定できないだけでなく、BIE側が真にどの程度の計画内容の修正・変更を要すると考えているか、若しくは開催希望国側がどの程度変更が困難であると認識しているのかなどを判断するための資料となり得る率直な意見交換を行い、双方共に柔軟な対応をすることが困難となる結果、条約の趣旨・目的にかない、かつ実現可能性が十分に担保された計画内容等を策定することが困難となる可能性があることに実質的な理由があると解される。

BIEの公開に関する原則をこのように理解すると、BIE内部において開催される協議及び審議の内容にとどまらず、その準備のためにBIEと開催希望国との間においてなされる協議や会談の内容、BIEから非公式にもたらされた情報についても、基本的に上記原則が妥当するというべきであり、さらには、開催希望国が独自に作成した資料についても、公表すればBIEにおける協議等の内容が明らかになり、若しくはBIEとの率直な意見交換を困難にするおそれがあるものは、上記原則の対象となるというべきである(もっとも、BIEのこの原則は、その趣旨及び前記愛知万博の登録承認までの経緯に照らすと、一切の例外を許さないほどの厳格なものとは考えられず、BIE自身の明示あるいは黙示の了承がある場合はもちろんのこと、文書が専ら加盟国の正当な利益を擁護するために非公開とされるべきである旨主張する場合において、当該加盟国がかかる正当な利益を有していないと認められるときは、これを適用すべき根拠を失うというべきである。)。そうすると、かかる内容を有する文書についてなされた不開示決定については、被告らが、これらの文書を公開することによってBIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあると判断したことにつき、その基礎とされた重要な事実を欠き、あるいは評価が著しく合理性を欠くとはいえないから、国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあると認めることにつき相当の理由があるというべきである。

ウ この点に関して原告は、<1>BIEからの非公開の要請が文書を特定しない抽象的なものであれば、法1条の趣旨から開示する必要性の高い情報については、その要請を及ぼすべきではない、<2>BIEの文書及び情報の公開についての基本原則は、本件回答書に記載されているとおり、「唯一」、「BIE内部での協議及び審議に使用された文書はすべて総会で加盟国による承認がない限りは公開しない。」という内容であると解されるところ、本件各文書は、BIE内部の協議及び審議に使用されたものに当たらない、<3>会議等が非公開で行われたとしても、これに関する情報の不開示が直ちに正当化されるものではないなどと主張する。

そこで判断するに、<1>については、確かに、A証言によっても、BIEは、日本側に対し、個別の文書について非公開の要請を行ったことはないと認められる。しかしながら、BIE内部等において開催される非公開の協議、審議の内容にとどまらず、その準備のためにBIEと開催希望国との間においてなされる非公開の協議や会談の内容、更にはこれらを推測せしめる情報は、非公開とされるべきであるとのBIEにおける公開に関する上記原則に照らせば、個別的な非公開の要請がないとしても、当該文書が審議過程にある以上、公開すれば、BIEとの信頼を損なうおそれがあるというべきであり、この理は、リスクコントロール等の観点から、当該文書に記載された情報の開示の必要性がいかに高くとも妥当すると解される。

次に、<2>については、なるほど、本件回答書の文面を額面どおりに読めば、原告主張のような解釈もあり得ないわけではないが、本件調査嘱託は、前記前提事実記載のとおり、本件各文書について、被告らが、BIEの信頼関係を損なうおそれがあること若しくは国際慣習があることを理由に不開示決定をなしたことを説明した上で、本件各文書を公開すれば、BIEに支障が生ずるか否かを尋ねたものであるから、仮に、BIEの情報公開についての基本原則が原告主張のようなものであるとすれば、本件各文書のうちBIE内部の協議等に使用された文書に該当しないものについては、端的に公表しても支障がない旨回答してしかるべきと考えられるところ、そのような記載はなく、かえって、「BIE内部での協議及び審議に使用された文書は、加盟国の作業過程にのっとった一時的な状況を示すものであり、専ら内部使用のためのものです。作業用文書は本来公的なものではありません。……加盟国の正当な利益が害されないことを保証することが、私の責務です。作業用の内部文書がもし公開されれば、これが実現されなくなるでしょう。」と述べて、非公開の理由として、当該文書が加盟国にとって作業過程にある一時的状況を示すものであることや加盟国の内部使用を目的としていることも読み取れる記述になっていることを勘案すれば、本件回答書に記載されているBIEの基本原則の内容を、BIE内部等での協議及び審議に使用された文書に限定して理解するのは相当でないというべきである。

さらに、<3>については、会議等が非公開で行われた事実から、これに関する情報の不開示が直ちに導かれるものではないことは、原告指摘のとおりであるが、BIEの基本原則が上記のようなものと解される以上、会議等が非公開で行われた事実を無視し得ないことはいうまでもない。

よって、原告の上記各主張は採用できない。

3 本件各文書の法5条3号該当性について

そこで、以下において、本件各文書の法5条3号該当性について、個別的に判断する。

(1) 文書1、2、15ないし21について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書1は「ロセルタレス事務局長との会談議事録(平成11年8月2日)」、文書2は「BIE(博覧会国際事務局)との実務協議結果(平成12年9月7日)」であって、掲記の月日に、日本政府とBIE側とが非公式、非公開で行った協議の議事内容について、通産省職員若しくは経産省職員が記録した文書であること、文書15は「BIE(黒岩博覧会協会部長とロセルタレス事務局長の意見交換)」、文書16は「BIE(山田通産省博覧会推進室長他とロセルタレス事務局長の意見交換)」であって、平成11年3月及び同年8月に、ロセルタレス事務局長と黒岩博覧会協会部長、山田通産省博覧会推進室長ほかとが、開催準備に関して非公開に行った意見交換の内容を外務省職員が記録した文書であること、文書17ないし19は「BIE(「政府保証」文書に係る調整)」、文書20は「BIE(「政府保証」文書に係る調整:回答)」であって、平成12年7月、BIEと日本側関係者とが、登録申請に向けて、登録申請書について非公開で行った調整・交渉の際のやり取りを外務省職員が記録したものであること、文書21は「BIE(9月6、7日BIE事務局との実務協議の概要)」であって、平成12年9月、日本側関係者とロセルタレス事務局長とが、登録申請手続に関して非公開で行った意見交換の内容を外務省職員が記録したものであること、以上のように特定、認定することができる。

そうすると、これらは、いずれも、BIEと日本側関係者との間において非公開で行われた協議等の内容を記録した文書に当たるから、前記認定・判断に係る公開についてのBIEの原則に照らせば、BIEは非公開とすることを要請していると考えられ、この要請が及ばないと解すべき特段の事情の存在は認められない。よって、被告らが、これらの文書を開示すれば、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると判断したことについて、相当の理由があると判断するのが相当である。

(2) 文書3ないし5について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書3ないし5は、「BIE説明資料」(仏語、英語及び日本語)であって、博覧会協会が文書2の協議を行うために作成した資料であると特定、認定することができるところ、被告経産大臣は、これらの文書を公開すれば、上記協議の内容を推知せしめることになり、BIEやその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがある旨主張する。

なるほど、これらの文書が公開されれば、どのような事項を対象として上記協議が行われたかを推測することができるが、「協議すべき対象事項」と実際に行われた「協議の内容」とは区別されるべきであり、また区別することが可能であるから、後者について不開示の理由があるからといって、前者についても不開示とすべきものとは限らないというべきである。したがって、文書2の協議に用いられたからといって、当然に文書3ないし5にも法5条3号所定の不開示事由の存在を肯認できるというものではない。

そして、一般に、既に公開されている情報については、それが狭い範囲あるいは限定された方法によるものであって、信頼関係の相手方である他国若しくは国際機関が公開の事実を認識していないなどの特段の事情のない限り、これを不開示とすべき相当の理由はないと解すべきである。

しかるところ、前記認定事実のとおり、平成11年11月18日に行われたBIE事務局長と通産省審議官との実務協議のやり取りが新聞報道されたことをきっかけとして、経産省の担当者及び愛知県担当者とBIEとが協議を行った上、愛知県は、平成12年2月、BIEの了解を得て博覧会協会が作成した説明資料ファイルを公開しているところ、説明資料ファイルは、505丁(日本語及び英語)に及ぶ大部のもので、平成11年11月18日にBIE側から指摘された問題点すべてについての取組を説明する網羅的な内容となっており、上記時点までの資料を含んでいるのに対し、文書3ないし5は、それから7か月経過した平成12年9月7日に行われた我が国とBIEとの非公開の実務協議のために作成された資料であるものの、同一のファイル名が付せられており、作成主体(博覧会協会)、作成目的、作成時期の共通性、類似性を考慮すると、その内容は、かなりの程度において重なっていると推認することができる。

この点について、被告経産大臣は、説明資料ファイルと文書3ないし5が異なる文書であることが明らかである旨主張するが、問題は、そこに盛られた情報の同一性の有無であるから、文書自体が同一でないからといって、情報の同一性の有無に関する判断が不要となるものではない。

かえって、被告経産大臣は、両者が異なる文書である旨を主張するのみで、その内容、情報がどのように異なるかについて何ら触れるところがないこと、A証人も、文書3ないし5と説明資料ファイルとの異同について証言を拒んでおり、そもそも説明資料ファイルが愛知県によって公開されている事実すら把握しておらず、この事実を考慮した上で文書3ないし5の不開示事由の存否を検討した形跡が全くないこと、平成12年2月から同年9月までの間に、愛知万博の計画内容やその解決すべき課題が変化したことをうかがわせる事情は認められないことなどを総合すると、文書3ないし5は、説明資料ファイルを基本として、これに、せいぜい平成12年2月から同年9月までの資料を付け加え若しくは差し替えたものにすぎないと認めるのが相当である。

そして、上記付加ないし差替え部分について不開示事由があり、かつこれらが既存の文書ないし情報とこん然一体となって、分離することができないなどの事情がうかがわれない本件においては、説明資料ファイルがBIEの了承を得て公開されている以上、文書3ないし5の全体につき、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると認めた被告経産大臣の判断は、著しく合理性を欠いていると判断するのが相当である。

(3) 文書6、7、23及び24について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書6は「BIE(博覧会国際事務局)執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」、文書7は「BIE執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」であって、掲記の月日に非公開で行われたBIE執行委員会の結果を経産省職員が記録した文書であり、文書23は「BIE(執行委員会の結果概要)」であって、平成12年10月に行われたBIE執行委員会(文書6及び7のそれと同一のものと推認できる。)の結果を外務省職員が記録した文書であり、文書24は「BIE(執行委員会の結果の送付)」であって、BIEから在仏大使館に送付された上記執行委員会の議事録及びこれを外務省本省に送付する際の送付書であると特定、認定することができる。

そうすると、これらは、いずれも、非公開で行われたBIE執行委員会の議事を内容とし、BIEやその加盟国の執行委員の発言等が記載されている文書であるから、前記認定・判断に係る公開についてのBIEの原則に照らせば、BIEは非公開とすることを要請していると考えられる。

この点につき、原告は、議事録の閲覧について定める委員会に関する規則12条を根拠に、BIEからの非公開の要請はない旨主張するが、前記認定事実のとおり、閲覧は加盟国代表団関係者に限って許されており、一般に公開されているわけではないから、上記主張は採用できない。

よって、被告らが、これらの文書を公開すれば、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると認めたことについて、相当の理由があると判断することができる。

(4) 文書8の1丁表墨塗り部分について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書8は「愛知万博に関する閣議決定等のイメージ」であって、経産省が、省内協議及び関係省庁への説明のために作成した文書であり、その1丁表墨塗り部分には、BIEから非公式に提供された情報が記録されていると特定、認定できる。

BIEから提供された当該情報がどのような性質・内容のものであるかはつまびらかでないが、このように、非公式な形で提供された情報である以上、提供を受けた側である被告経産大臣が、これらの文書を公開すれば、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると判断したことについて、著しく不合理であると判断することはできない。

(5) 文書8の3丁以下の不開示部分、文書9ないし11について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書9は「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(事前協議)」、文書10は「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(再協議)」、文書11は「2005年日本国際博覧会の博覧会国際事務局に対する登録申請について(平成12年9月19日閣議決定案)」であって、文書8の3丁以下の不開示部分ともども、BIEに対する愛知万博の登録申請書(文書12ないし14)の原案である各省事前協議要請文書、各省再協議要請文書及び閣議決定のための文書であると特定、認定できる。

そうすると、これらは、BIE総会における登録承認前の段階における登録申請書原案にすぎず、承認を受けた登録申請書が確定するまでの間に、BIEとの各種協議や意見交換を経て内容が修正・変更されたことが十分にあり得るところ、次項で述べるとおり、承認を受けた登録申請書については不開示の理由がなく、開示するのが相当であると判断するので、仮に両者とも開示されると、これらを比較して修正・変更点を検討することにより、BIEとの各種協議や意見交換の内容を容易に推認することができると考えられる。そうすると、前記認定に係るBIEの公開に関する原則に反する結果を招くおそれがあるから、被告経産大臣が、これらの文書を公開すれば、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると認めたことについて、相当の理由があると判断することができる。

(6) 文書12ないし14について

証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書12ないし14は「2005年日本国際博覧会登録申請書」(仏語、英語及び日本語)であって、平成12年12月15日、BIEの総会において承認された愛知万博の登録申請書であると特定、認定できる。

ところで、被告経産大臣は、BIEの基本方針として、登録申請書は非公開とされていると主張し、その理由として、国際博覧会は開催国独自の歴史的・道義的観点から基本構想やテーマが策定され、あるいはこれを実現するための会場計画、資金計画等の具体的な諸元が固められるべきであるにもかかわらず、過去の登録申請書が公表されると、登録申請国が安易にこれを利用する結果、独自性が失なわれるおそれがあるとして、ひな形ですら示されていないことを挙げており、これに沿う証拠(<証拠略>、A証人)もある(もっとも、A証人は、その理由として、登録申請書の中には不確定な部分が含まれているので、これを開示するとその後のBIEとの協議等に支障があるからとか、多数の国から類似した申請がなされると、選定に困難を極めるなどとも述べている。)。

しかしながら、他方で、被告経産大臣は、BIEが、登録申請書とその添付資料を、加盟国の政府代表等に閲覧させているとも主張し、証拠(<証拠略>、A証人)上もそうした事実が認められるところ、BIEが常に独自性を確保すべく、ひな形すら示さない方針を有しているのであれば、上記の扱いは極めて中途半端な措置といわざるを得ないし、BIEが独自性を確保する意図を有していることを理解している開催希望国としては、総会で承認を得るべく、過去の博覧会と類似した内容の登録申請を避けようとすると考えられ、このことは、過去の登録申請書が公開されているか否かにかかわりないと考えられる。また、前記認定事実のとおり、総会での登録承認後は、基本的にその内容を変えることは予定されていないことに照らすと、その後のBIEとの協議に支障を来すおそれがあるとは考え難いし、類似の申請が競合した場合における選定の困難性についても、もはや考慮すべき必要性が消滅していることが明らかである。

そして、本件回答書においても、BIEが登録申請書を非公開とする方針を有していることをうかがわせる記載が見当たらないことをも考慮すると、果たしてBIEが、登録申請書について、被告経産大臣の主張するように留保のない非公開の方針を有しているかは疑問であり、むしろ、「(作業用)文書は、総会で加盟国による承認を得て初めて公になります。」と記載されていることに照らすと、総会における登録承認を得るまでの間は非公開とすることを要請していると認めるのが相当である。

そうすると、BIE総会において登録承認を受けた後であることの明らかな被告経産大臣による不開示決定時において、文書12ないし14を公開することにより、BIEとの信頼関係が損なわれるおそれがあると認めた被告経産大臣の判断は、著しく合理性を欠いていると判断するのが相当である。

(7) 文書22について

ア 証拠(<証拠略>、A証人)及び弁論の全趣旨によれば、文書22は「BIE(次回執行委員会の開催通知)」であって、平成12年9月に、BIEから関係各国に配布された次回に予定された執行委員会の開催通知であり、あて先、送り主、当該委員会の開催予定日時場所、審議が予定されている事項及び内容が記載された文書であると特定、認定できる。

しかして、証拠(<証拠略>)によれば、委員会に関する規則7条は、「会議開催の通知は、議事日程と必要な討議資料を添えて少なくとも開催1か月前までに、委員に送付されなければならない。各国の代表は、遅くとも執行委員会の会議開催の日の5日前までに、自国政府の意見を表明しなければならない。」と定めていることが認められ、これによると、執行委員会の開催通知は、単に日時場所、審議のテーマだけでなく、具体的な審議の内容や資料が示されていると推認できる。そうすると、前記認定に係るBIEの公開に関する原則に照らし、審議の内容や資料の部分については、これが公表されれば、BIE及びその加盟国等の我が国に対する信頼を損なうおそれがあると認めることにつき、相当の理由があると判断するのが相当である。

しかしながら、上記以外の開催予定の会合名、開催予定日時場所、送り主、あて先については、開催通知に伴う定型的な事項にすぎず、前記認定に係るBIEの公開に関する原則によっても、非公開であることを要請されているとは認め難い(上記執行委員会が非公開で行われたとしても、平成12年10月に開催された事実自体は、被告外務大臣自身が主張するところであり、送り主、あて先も、自ずから明らかである。)。

イ この点につき、被告外務大臣は、<1>開催予定日時場所、審議が予定されている事項及び内容の記載部分は、位置的に容易に区分できないこと、<2>それぞれをその余の部分と切り離して取り上げたとしても、それ自体が意味ある独立した一体的な情報をなさないことを理由に、不開示の判断に合理性がある旨主張する。

しかしながら、<1>文書22は書面であるから、そこに記載されたある情報と他の情報を位置的に区分、特定することは技術的な問題にすぎないと考えられるところ、工夫をこらしても、容易にこれがなし得ないことを認めるに足りる証拠はない。<2>また、法6条1項ただし書所定の「有意」でない場合とは、文字どおり、不開示情報を除いた残りの部分だけでは開示しても何らの意味がない場合、例えば、無意味な数字の羅列になる場合とか、1回の交際費の支出における年月日、摘要などの事項のように、それらが合わさって初めて1個の生活事象、社会事象としての意味を有することになる場合の各事項を指し、それだけの情報で開示請求者にとってどの程度役に立つか否かの有用性の問題とはかかわりないと解されるところ、執行委員会の開催という情報は、その審議の内容や資料を欠くとしても、有意でないとはいえないことが明らかである。

ウ そうすると、被告外務大臣としては、文書22のうち、開催予定の会合名、開催予定日時場所、送り主、あて先を他の情報が記載された部分と区別した上、部分開示をすべきものであったと判断するのが相当であるから、一括して不開示とした決定は、当該部分に限り、違法というべきである。

4 結論

以上の次第で、原告の本訴各請求は、被告経産大臣のなした不開示決定のうち、文書3ないし5及び12ないし14の各文書に関する部分並びに被告外務大臣のなした不開示決定のうち、文書22中の開催予定の会合名、開催予定日時場所、送り主、あて先に関する部分の取消しを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、64条を適用して(本件は、被告経産大臣及び被告外務大臣に対して、それぞれ一部勝訴の結論であるが、行政事件訴訟法35条により、いずれも国に対して効力を有することが明らかであるので、各被告ごとの負担割合を示すことは意味がない。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤幸雄 舟橋恭子 平山馨)

(第1文書目録)

文書1「ロセルタレス事務局長との会談議事録(平成11年8月2日)」

文書2「BIE(博覧会国際事務局)との実務協議結果(平成12年9月7日)」

文書3ないし5「BIE説明資料」(仏語、英語及び日本語)

文書6「BIE(博覧会国際事務局)執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」

文書7「BIE執行委員会結果概要(平成12年10月24日)」

文書8「愛知万博に関する閣議決定等のイメージ」

文書9「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(事前協議)」

文書10「『2005年日本国際博覧会の登録申請書類』について(再協議)」

文書11「2005年日本国際博覧会の博覧会国際事務局に対する登録申請について(平成12年9月19日閣議決定案)」

文書12ないし14「2005年日本国際博覧会登録申請書」(仏語、英語及び日本語)

(第2文書目録)

文書15「BIE(黒岩博覧会協会部長とロセルタレス事務局長の意見交換)」

文書16「BIE(山田通産省博覧会推進室長他とロセルタレス事務局長の意見交換)」

文書17ないし19「BIE(「政府保証」文書に係る調整)」

文書20「BIE(「政府保証」文書に係る調整:回答)」

文書21「BIE(9月6、7日BIE事務局との実務協議の概要)」

文書22「BIE(次回執行委員会の開催通知)」

文書23「BIE(執行委員会の結果概要)」

文書24「BIE(執行委員会の結果の送付)」

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