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名古屋高等裁判所 平成16年(う)145号 判決 2004年6月16日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人平松清志提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、被告人を懲役三年の実刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。

そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

本件は、暴力団の構成員であった被告人が、組のしのぎである闇金融に荷担し、顧客との間で法外な利息を受領する契約をした事案(原判示第一)、組織の統制力を維持、強化する目的で、同会から無断で逃走した構成員に対し、団体の活動として、組織により、逮捕、監禁した事案(同第二)、他の暴力団関係者らとともに、集団で被害者二名に暴行を加え、傷害を負わせた同時傷害の事案(同第三の一、二)、組の資金源である暴走族を脱退しようとしていた被害者に対し、他の暴力団関係者と共同して、凶器を示すなどして脅迫するとともに暴行を加えた事案(同第四)である。いずれの事案も、暴力団等反社会的組織特有の犯罪であり悪質であるが、特に、第二の事案では暴力団を抜けようとした被害者に対して、第四の事案では暴走族を脱退しようとした被害者に対して、組織を維持するために犯行に及んだものであり、悪質である。また、第三の事案の被害者には何ら落ち度がないのに、因縁を付けた挙げ句、集団で暴行を加え、途中被害者らをトランク等に押し込み、犯行場所を移動させた上で執拗に暴行に及んでおり、その傷害の程度も重いことからして、被告人の刑事責任は到底軽視することはできない。

そうすると、暴力団組織の中では被告人の地位が比較的低く、会長らの指示を受けて行動していたこと、被告人に前科がないこと、被告人が本件を反省し、更生を誓っていること、被害者らに見舞金を送付し、第二の被害者からは早く社会復帰してまじめに人生をやり直してもらいたい旨意見が示されていること、今後は暴力団を脱退する決意をしていること、社会復帰後の雇用の場が用意されていること等、所論の指摘する被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても、被告人を懲役三年の実刑に処した原判決の量刑はなお相当であって、これが重すぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

なお、職権により調査するに、原判決は、法令を適用するに当たり、判示第一の前後五回にわたる利息受領契約締結行為を包括一罪としている。しかし、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律五条二項の「業として」の文言は「金銭の貸し付けを行う場合において」にかかっており、貸金業などの金融を業とする場合には前項の規定にかかわらずそれよりも低利で行っても同様の刑により処罰されるとする趣旨に解するのが文言上相当であり、営業犯として処罰する趣旨ではなく、本項の罪が成立するための要件を示していると解されること、また、同法五条一項の罪が反復累行された場合には、特段の事情がない限り個々の利息受領契約ごとに一罪が成立し、併合罪になること(最判昭和五三年七月七日最高刑集三二巻五号一〇一頁)との均衡からしても、五条二項の罪についても、個々の契約ごとに一罪が成立し、併合罪の関係に立つと解するのが相当である。そうすると、判示第一の行為は、原判決の別紙番号ごと、すなわち、各利息受領契約締結ごとに同法違反の罪が成立し、併合罪となるのに、これを包括一罪としている原判決には法令の適用に誤りがあることになるが、処断刑に違いを生じないから、判決に影響を及ぼすものではない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条を適用して当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小出錞一 裁判官 伊藤納 岩井隆義)

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