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名古屋高等裁判所 平成16年(ネ)49号 判決 2004年7月15日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人に対し、122万4838円及びこれに対する平成15年12月17日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第1、2審を通じて5分し、その4を控訴人の負担とし、その1を被控訴人の負担とする。

4  この判決主文第2項(1)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  申立て

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  被控訴人は、控訴人に対し、665万2835円及びこれに対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  附帯控訴の趣旨

(1)  原判決中、被控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  上記部分にかかる控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は第1、2審を通じ控訴人の負担とする。

第2  事案の概要

1  本件は、控訴人が、被控訴人に対し、運転手付建設重機等の借上げの代金等合計665万2835円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年10月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原審は、控訴人の請求は、123万6564円及びこれに対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるとして認容し、その余は理由がないとして棄却したため、棄却部分につきこれを不服とした控訴人が控訴した。

被控訴人は、原判決言渡後の平成15年12月16日、原判決で支払いを命じられた金員を弁済し、控訴人の被控訴人に対する債権は消滅したとして附帯控訴した。

2  争点及び当事者の主張は、3において、原判決の付加訂正をし、4において当審における当事者の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」中「第2事案の概要等」の1ないし5記載のとおりであるから、これを引用する。

3  原判決の付加訂正

1 原判決2頁17行目の「経由」を「軽油」と改める。

2 同3頁8行目の末尾に「ただし、控訴人が別表(2)記載の数量の灯油及び軽油の代金を立て替えた事実は認める。」を付加する。

4  当審における当事者の主張

(1)  控訴人

ア 控訴の理由1

常傭とは、企業が個人を雇い入れて仕事をさせる場合をいい、控訴人のような法人を常傭とすることはありえないのに、立場の弱い控訴人は、常傭という形式をとるよう求める被控訴人の要求に応じざるを得なかったものでその実体は請負である。

イ 控訴の理由2

原判決別表(1)は、被控訴人が原審で陳述した平成14年5月27日付書面に基づいて作成されたものであるが、被控訴人は、同書面中赤丸を付した部分については、控訴人の主張する請求原因を認めているにもかかわらず、原判決は、控訴人が被控訴人の主張を認めたものとして扱い、控訴人の請求を認めなかった。

ウ 控訴の理由3

控訴人と被控訴人の間では、乙1のとおり契約が存在していたのであって、被控訴人が一方的に契約を改定できる根拠はない。

エ 控訴の理由4

職長手当につき、被控訴人代表者の息子である専務が支払いを約しただけでなく、控訴人の従業員であるRが被控訴人の制服を着用して、被控訴人が派遣すべき指揮監督者の仕事をさせられたのであるから、職長手当は当然支給されるべきである。

オ 控訴の理由5

原判決は、被控訴人が立て替えたと称する金員を、被控訴人が控訴人の関与なくして作成した書面に基づいて認定している。また、常傭という形式をとる以上、控訴人の従業員が被控訴人の機械を操作中にフロントガラスを割ったとしても、当時の使用者は、控訴人ではなく被控訴人であるから、その修理代金は被控訴人が負担すべきものである。

(2)  被控訴人(附帯控訴の理由)

ア 平成15年12月3日、岐阜南税務署は、控訴人が滞納していた源泉所得税等を徴収するため、原判決によって、被控訴人が支払いを命じられた控訴人の被控訴人に対する債権を差し押さえた。

イ 被控訴人は、平成15年12月16日、岐阜南税務署に対し、123万6564円及びこれに対する平成12年10月22日から平成15年12月16日までの年6分の割合による金員合計147万0325円を支払った。

第3  当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する請求は、主文2(1)の限度で理由があり、その余は理由がないものと判断するが、その理由は、1において原判決の加除訂正をし、2、3において当審における主張に対する判断を加えるほか、原判決「事実及び理由」中「第3 当裁判所の判断」の1ないし5に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の加除訂正

(1)  原判決7頁24行目の「320BH」を「0.7BH」と改める。

(2)  同7頁26行目の末尾に行を改めて「なお、番号23については同日の請求である番号22と併せて判断し、番号37は日報の記載により認定した。番号59については、請求書には稼働時間8時間と記載されている(乙5の1)。番号60につき、同年5月10日に稼働した事実を認めるに足る証拠は存在しない。」を付加する。

(3)  同8頁2行目の「番号7ないし8」を「番号7ないし9」と改める。

(4)  同9頁5行目冒頭から7行目末尾までを、「番号1については、請求書には稼働時間が4時間と記載されており(甲6の6)、差額の金額は認められない。」と改める。

(5)  同9頁14行目冒頭から15行目末尾までを「平成12年1月28日に一宮パーキングで稼働した事実を認めるに足る証拠は存在しない。」と改める。

(6)  同9頁21行目冒頭から末尾までを「なお、被控訴人主張の工事減を認めるに足る証拠は存在しない。」と改める。

(7)  同9頁26行目の「番号5ないし11」を、「番号2、5ないし11」と改める。

(8)  同11頁11行目の末尾に行を改めて「番号23、26、28、30、33、35、38、41、58、60については、乙33によれば、いずれもMST2200(11トンクローダンプ)の貸与であり、双方に単価についての合意が成立したことを認めるに足る証拠はないから、被控訴人が認める限度で認められ、差額の金額は認められない。」を付加する。

(9)  同11頁15行目の「6」を「7」と改め、同16行目の「65」を「66」と改める。

(10)  同12頁3行目の「かつ」から、4行目の「認められるから」までを「稼働時間8時間の限度で当事者間で争いがないが、稼働時間が9時間であることを認めるに足る証拠がないから」と改める。

(11)  同12頁26行目の冒頭から13頁5行目末尾までを「控訴人が平成11年12月21日から平成12年7月22日までの間に灯油合計5627リットル、軽油407リットル分の代金を立て替えたことは当事者間に争いがなく、灯油は1リットル当たり49円、軽油は1リットル当たり80円であった(甲35)から、控訴人は、被控訴人の支払うべき代金合計30万8283円を立て替え払いしたものと認められるが、控訴人がその余の金額を立て替え払いしたことを認めるに足る証拠はない。」と改める。

(12)  同13頁7行目の「151万6900円」を「152万6718円」と改め、同行末尾に行を改めて「なお、別表(3)の認否欄に○とあるものについては、争いがない。」を付加する。

(13)  同13頁11行目の「記載」を「タカヨシ差引との記載」と改める。

(14)  同13頁19行目の「乙22」を「乙22の5の2の各サイン欄にタカヨシ重工、D、R、タカヨシD等の記載があること及び弁論の全趣旨」と改める。

(15)  同14頁19行目の「37万1345円」を「38万1164円」と改める。

(16)  同14頁20行目の「、5月13日分、5月19日分」及び「、28」を削除する。

(17)  同14頁23行目冒頭から同15頁3行目末尾までを削除する。

(18)  同15頁20行目の「乙29、30」を「乙29の2の2、30の1の2」と改める。

(19)  同16頁1行目の冒頭から3行目末尾までを「以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、常傭代金未払金244万5181円及び立替金30万8283円の合計額である275万3464円から被控訴人の立替金152万6719円を控除した122万6745円及びこれに対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払う義務があることとなる。」と改める。

(20)  同別表(3)中の「現場名:黒内ダム」の認定金額につき、5月13日分のガソリンの「0」を「4,033」と、5月19日分のガソリンの「0」を「5,319」と、H12年6月分の小計の「248,043」を「257,395」と、消費税の「12,402」を「12,869」と、計の「260,445」を「270,264」と、最終の小計の「353,662」を「363,014」と、消費税の「17,683」を「18,150」と、合計の「371,345」を「381,164」とそれぞれ改める。

2  当審における控訴人の主張に対する判断

(1)  控訴の理由1について

常傭という契約形態については、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1(1)オに説示するとおりであって、法人である控訴人が、運転手付建設重機を貸し出しあるいはオペレーターを提供することが可能であることはいうまでもなく、法人である控訴人が常傭で契約することはありえないとする控訴人の主張は独自の見解であって、採用することはできない。

(2)  同2について

控訴人指摘の書面は、その記載からして、被控訴人が控訴人の主張する請求原因を認める趣旨とは認められず、被控訴人が自白した旨の控訴人の主張は採用することはできない。

(3)  同3について

原判決は、被控訴人の単価切下げの申込みにつき、控訴人が明示に承諾したとは認められないが、その後も、控訴人が被控訴人との契約を継続し、重機等の貸し出しを行ったことから、黙示に承諾したものと認定したことはその説示(原判決5頁20行目から6頁2行目)から明らかである。

(4)  同4について

職長手当については、原判決が説示(12頁8行目から24行目)するとおりである。

(5)  同5について

原判決(ただし、当審において加除訂正した部分を含む。)は、被控訴人が立て替えた金員につき、被控訴人が作成した書面のみではなく、客観的な裏付け資料があるものに限って認定したことはその説示から明らかである。

また、フロントガラスの修理代金につき、常傭という形式をとったとしても、被控訴人が、控訴人が貸し出した重機の運転手やオペレーターと直接雇用契約を締結する訳ではなく、被控訴人が運転手やオペレーターの使用者となるものではないから、被控訴人が使用者であることを前提とした主張は採用することはできない。

3  当審における被控訴人の主張(附帯控訴の理由)に対する判断

(1)  証拠(乙40の1、2)、弁論の全趣旨によれば、岐阜南税務署は平成15年12月3日、控訴人の平成14年度の源泉所得税等を徴収するため、原判決が被控訴人に支払いを命じた、控訴人の被控訴人に対する売掛代金123万6564円に対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による損害金請求権を差し押さえたこと、被控訴人は、平成15年12月16日、岐阜南税務署に対し、売掛代金元本である123万6564円及びこれに対する平成12年10月22日から平成15年12月16日までの年6分の割合による金員の合計額である147万0325円を支払ったことが認められる。

(2)  被控訴人は、上記弁済により、被控訴人の控訴人に対する債務は消滅したと主張するが、上記認定によれば、岐阜南税務署が差し押さえたのは、控訴人の被控訴人に対する請求権のうち、売掛代金に対する損害金請求権のみであったことは明らかであり、被控訴人の弁済は、差し押さえられた債権である123万6564円に対する平成12年10月22日から平成15年12月16日までの年6分の割合による金員合計23万3761円のみが有効なものとなり、売掛代金123万6564円については、控訴人に対し弁済の効果を主張することはできない。

(3)  前記1(19)に説示するとおり、被控訴人は、控訴人に対し、常傭代金未払金122万6745円及びこれに対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があったところ、被控訴人の上記弁済のうち、23万1854円を平成12年10月22日から平成15年12月16日までの遅延損害金に充当し、その余の1907円を元本に充当すると、残元本は122万4838円となる。

4  以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、常傭代金未払金122万6745円及びこれに対する平成12年10月22日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を支払う義務があったところ、上記弁済により、被控訴人は、控訴人に対し、残代金122万4838円及びこれに対する一部弁済の日の翌日である平成15年12月17日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うべきこととなる。

5  よって、本件控訴は理由がなく、本件附帯控訴は一部理由があるから、控訴人の控訴を棄却し、附帯控訴に基づき、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 丸地明子 濱口浩)

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