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名古屋高等裁判所 平成16年(ネ)674号 判決 2005年5月19日

岐阜県可児市<以下省略>

控訴人

有限会社ラクショクフーズ

代表者取締役

訴訟代理人弁護士

髙橋譲二

関口悟

訴訟復代理人弁護士

川崎修一

横浜市<以下省略>

被控訴人

有限会社楽食

代表者取締役

訴訟代理人弁護士

畠山晃

主文

本件控訴(当審における新たな請求を含む。)を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙被告包装箱目録イないしホ記載の各包装箱並びに原判決別紙被告シール目録イ及びロ記載の各シールを使用してはならない。

3  被控訴人は、上記各包装箱及び各シールを廃棄せよ。

4  被控訴人は、国際EAN協会が管理する共通商品コードのうち「JANメーカコード」コード番号4903355を、被控訴人の使用する包装箱及びシールに使用してはならない。

5  被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する平成15年9月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は、1、2審とも、被控訴人の負担とする。

7  仮執行宣言

第2  事案の概要

1  本件は、控訴人が製造販売している焼売の包装箱等に類似する包装箱等を被控訴人が使用して混同を生じていると主張して、被控訴人に対し、不正競争防止法(以下、条文を示すときは「法」という。)2条1項1号、3条1項、2項に基づき、上記の類似する包装箱等の使用差止めとその廃棄を求めるとともに、法4条に基づき、損害の一部の賠償を求めるほか、控訴人のメーカコード番号を無断で使用していると主張して、その使用差止めを求める事案であり、原審が控訴人の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡したので、これに不服がある控訴人が控訴したものである。

控訴人は、当審において、法2条1項3号、4条に基づく損害賠償請求を追加した。

2  前提事実は、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

3  争点及びこれについての当事者の主張は、後記4のとおり、当審における新たな請求に関する主張があるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「2」及び「3」に摘示のとおり(ただし、次のとおり付加訂正する。)であるから、これを引用する。

(1)  原判決6頁14行目の「本件包装箱等」を「訴外会社においてすでに周知性を獲得していた本件包装箱等(なお、控訴人商品の包装箱等が周知性を獲得するに至った事情につき、原審では、控訴人が訴外会社から営業譲渡を受けた平成12年7月以前の事情は主張しないとしたが、同月以前に訴外会社の獲得していた周知性の承継も主張すると改める。この点につき、被控訴人は信義則違反をいうが、審理を著しく遅延させるとか、相手の攻撃防御に重大な影響を与えるというような特段の事情がなければ、主張の変更を制約されることはなく、本件においてこのような特段の事情はないので、主張の変更が制約されることはない。)」と改める。

(2)  同8頁22行目の末尾に、行を改め、次のとおり加える。

「(オ) なお、いったん周知性を獲得したとするなら、消費者の記憶から忘れ去られる程に周知性を獲得した後に時間が経過したとか、世代交代や人の移動等によって従前の消費者層が大幅に入れ替わってしまうほど長期間時間が経過したといった事情がない限り、需要者層は短期間では変動が見られないのが普通であり、またいったん需要者間において周知となった商品等表示が簡単に需要者から忘れ去られてしまうこともないはずである。

そして、訴外会社は、販売実績を重ねた結果、遅くとも平成12年ころまでには周知性を獲得しており、いったん周知性が認められるに至った需要者層が、短期間に大きく変動することは考えられず、売上げが落ちるなどの一時的現象はあったとしても、本件のような短期間のうちに周知性が失われる筋合いではないはずである。周知生を維持するためには、売上げ実績や宣伝・広告活動の実績を低下させることなく継続させる必要があるというのでは、権利者の保護に欠け、法2条1項1号の趣旨を没却しかねない。」

(3)  同10頁25行目の「しかして、原告は、」を次のとおり改める。

「 しかして、控訴人は、原審において、周知性につき平成12年7月以前の事情は主張しないとしていたが、当審に至って、訴外会社から営業譲渡を受けた平成12年7月以前の事情をも含めて主張するが、このような従前の主張の撤回は、訴訟上の信義誠実の原則(禁反言等)にもとる行為であり、信義則違反として認められるべきではない。仮に控訴人の主張の撤回が認められたとしても、そもそも訴外会社において本件包装箱等について周知性を獲得したことはなく、営業譲渡の有効性を検討するまでもなく、控訴人の請求は理由がない。

また、控訴人は、」

(4)  同13頁14行目の末尾に、行を改め、次のとおり加える。

「 また、被控訴人は、本件バーコードが控訴人商品の円滑な流通・販売に不可欠な識別手段であることを知りながら、あえて同じバーコードを使用して債権を侵害し、もって控訴人に回復不可能な損害を与えたのであるから、控訴人は被控訴人に対し、債権侵害に基づく差止め請求権により、本件バーコードの使用の差止めを求める。」

4  当審における新たな請求(法2条1項3号に基づく損害賠償請求)に関する主張

(控訴人の主張)

本件包装箱等と被控訴人包装箱等は、全く見分けのつかない典型的なデッドコピーであり、法2条1項3号の形態模倣に該当するので、同条項に基づき損害賠償を請求する。

すなわち、法2条1項3号は「商品の形態」の模倣行為を不正競争行為と定めているが、商品の容器や包装についても、デッドコピーから保護すべき必要があることは何ら商品形態と変わらないこと、「商品形態」と「商品を包む包装や容器」とは取引の対象となる商品の外観を形作るものという点で共通性を有するものであること、商品の配置の仕方や包装といった商品を取り巻く全体の構成や配置、デザインが消費者の目を引きつける機能を有すること、さらには、容器や包装も含めた商品全体の一部模倣と理解することができることなどを考えると、法2条1項3号による保護を否定すべき理由はない。

(被控訴人の主張)

本件包装箱等は、商品自体と容器や包装とが一体となり容易に切り離せない態様で結びついていない限り、法2条1項3号にいう「商品の形態」に含まれないというべきであり、本件では同号の適用はない。

本件包装箱等は、これを使用した商品の販売開始から3年を経過しているので、法2条1項3号の保護要件を充たさない。すなわち、訴外会社が本件包装箱等の使用を開始した時期は、遅くとも平成11年1月ころ(各使用開始時期は、原判決別紙原告包装箱目録のイないしニが平成11年1月であり、同目録のホが平成8年ころ、原判決別紙原告シール目録のイが平成9年6月ころ、同目録のロが平成11年1月である。)であり、被控訴人が平成13年10月の設立を経て業務の準備をし、被控訴人包装箱等を使用して商品の販売を開始したのが平成14年1月であるから、同号の保護要件である。「最初に販売された日から起算して3年を経過していないこと」という要件を具備していない。

さらに、本号の請求には、請求権者の問題があり、本件包装箱等はCが資本と労力を投下して自ら考案作成したものであるところ、Cの使用許諾に基づいて訴外会社が使用していたに過ぎず、控訴人がCを追放した段階では、Cからの使用許諾はないものと思われ、仮に使用許諾があるとしても、本号の請求権はないというべきである。

(控訴人の反論)

控訴人商品が最初に販売された日から起算して3年経過している事実の立証責任は、被控訴人にあるところ、この事実を客観的に裏付ける証拠はない。

被控訴人は、法2条1項3号に基づく損害賠償の請求権者につき、投資した者を保護する規定であるから、請求できるのは訴外会社のみであると主張するが、失当である。本件のように適法に本件包装箱等が承継されていて、その承継に際して控訴人が投資している以上、最初に本件包装箱等を製造販売した者と同様に保護されて当然だからである。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所は、控訴人の請求は、当審における新たな請求を含め、いずれ理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、後記2のとおり、当審における新たな請求に対する判断があるほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(但し、次のとおり加除訂正する。)に説示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決15頁11行目の「損害が発生した」を「不正競争行為をした」と改め、12行目の「相当である」の後に「(最高裁昭和61年(オ)第30号、第31号同63年7月19日第三小法廷判決・民集42巻6号489頁参照)」を加える。

(2)  同18頁2行目の「乙2、27」を「甲22、乙2、27」と改める。

(3)  同21頁23行目の「総菜」を「惣菜」と改める。以下、原判決引用中、「総菜」とある部分はいずれも「惣菜」と改める。

(4)  同頁24行目の「甲11、12の1・2、16ないし20」を「甲16ないし20」と改める。

(5)  同22頁の1行目及び2行目を削除する。

(6)  同頁6行目及び10行目の「6月、7月、」をいずれも削除する。

(7)  同頁19行目の「26位、」から20行目の「51位であった。」までを「26位であった。」と改める。

(8)  同頁21行目の「71位、」から23行目の末尾までを「71位にランクされていた。」と改める。

(9)  同23頁7行目の「原告商品」を「チルド赤箱焼売の226位」と改める。

(10)  同24頁2行目の「前記認定事実アのとおり、」を、次のとおり改める。

「 控訴人は、控訴人が訴外会社から営業譲渡を受けた平成12年7月には、すでに訴外会社において周知性を獲得していた本件包装箱等を、訴外会社から譲り受けて控訴人は本件包装箱等につき周知性を獲得した旨主張するところ、この主張が信義則に反するものであるとはいえないものの、同主張を認めるに足りる証拠はない。すなわち、前記認定事実によれば、」

(11)  同24頁16行目の「相当程度失った」を「相当程度失っていた」と改める。

(12)  同頁25行目の「同年10月」を「平成12年10月」と改める。

(13)  同26頁11行目の「平成14年11月」を「平成14年11月と同年12月」と改める。

(14)  同頁21行目から22行目の「、平成15年6月と同年7月においては225位及び226位」を削除する。

(15)  同27頁2行目から3行目の「、平成15年6月のそれは64位、7月のそれは51位」を削除する。

(16)  同頁4行目の「平成14年11月における京浜地区のそれは220位と284位に」を「京浜地区におけるそれは、平成14年11月が108位、同年12月が71位に」と改める。

(17)  同28頁10行目末尾に、行を改め、次のとおり加える。

「そして、当審の口頭弁論終結日において、本件包装箱等が、控訴人の商品を表示するものとして周知性を有するものと認めるに足る証拠はない。」

(18)  同頁23行目の冒頭から29頁5行目の末尾までを、次のとおり改める。

「 そうすると、控訴人が主張するように、仮に訴外会社との間で本件バーコードの専用使用権の譲受けが合意されたとしても、上記契約当事者の関係にない控訴人から被控訴人に対して、当然に本件バーコードの使用差止めを求め得るものではない(ちなみに、上記規約第9条によれば、営業譲渡等によって貸与されたJANメーカコードを他の事業者に使用させようとする場合、流通コードセンターの承認が必要とされているから、この手続が履践されていなければ、同センターに対しても使用を求めることができないことが明らかである。)。控訴人は、債権侵害に基づく妨害排除請求であると主張するけれども、被控訴人が本件バーコードを使用しても、控訴人が主張する本件バーコードの専用使用権の帰属が侵害されたり、その権利の行使が不可能になるものではないし、被控訴人が本件バーコードを使用するにつき控訴人を害する目的を有していたと認めるに足りる証拠もない。すると、控訴人の上記請求を認めることはできない。」

2  当審における新たな請求(法2条1項3号に基づく損害賠償)について

控訴人は、本件包装箱等と被控訴人包装箱等は、全く見分けのつかない典型的なデッドコピーであり、法2条1項3号の形態模倣に該当するので、同号に基づき損害賠償を請求すると主張するが、商品とその包装は本来別個のものであると考えられるところ、不正競争防止法上では、包装の用語が使われていないものの、同法と関係が深い商標法では商品と包装を明確に区別して用いられていること(例えば、同法2条3項1号や2号など。)に照らせば、原則として、包装や容器が商品の一部であるということはできない。商品が気体や液体で容器の存在が必要不可欠であるとか、商品自体が特別の包装や容器によって付加価値が高まり、そのために一体として法2条1項3号にいう「商品の形態」であると考えるのが相当である場合などの特別な事情が例外として考えられる。しかしながら、本件では、このような特別な事情は認められないので、本件包装箱等の模倣を法2条1項3号が定める「商品の形態」の模倣行為と認めることができない。すると、その余の点を判断するまでもなく、当審における新たな請求(法2条1項3号に基づく損害賠償)は理由がないので、棄却すべきである。

3  以上によれば、当審における新たな請求を含め、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 丸地明子 裁判官 鬼頭清貴)

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