名古屋高等裁判所 平成16年(ネ)901号 判決 2005年9月08日
主文
1 原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。
2 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,1,2審とも,被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,控訴人らを含む数社で構成する共同企業体(JV)が請け負った土木工事のために用いる埋立用土砂を,第三者の発注により海上運送した被控訴人らが,JVを構成する控訴人らがその土砂の荷受人であるとして,商法753条1項に基づき,運送賃等の支払を求めた事案であるが,原審が被控訴人らの請求を概ね認容する旨の判決を言い渡したので,これに不服がある控訴人らが控訴したものである。
なお,原審において原告であったG株式会社は,原審の口頭弁論終結後で判決言渡し前の平成16年8月4日に破産宣告を受け,破産管財人弁護士aが本件訴訟を受継した。
2 前提事実(争いがない事実以外は,末尾に証拠等を掲記する。)
(1) 当事者
被控訴人株式会社F及びG株式会社(平成16年8月4日に破産宣告を受け,弁護士aが破産管財人に就任した。以下,破産宣告の前後を通じ「被控訴人G」という。)は,いずれも海運等を業とする株式会社である。
控訴人らは,いずれも土木工事等を業とする株式会社である(以下,各控訴人は,「株式会社」を省略して表記する。)。なお,控訴人Bは,H株式会社が平成15年4月1日にI株式会社を吸収して現商号に変更したものであり,控訴人Cは,株式会社Jが平成16年4月1日にK株式会社に吸収されて現商号に変更したものである(弁論の全趣旨)。
(2) 中部国際空港建設に係る土木工事請負契約
控訴人ら及びL株式会社は,A・B・C・L・D・E工事共同企業体(以下「本件JV」という。)を組織し,本件JVは,平成13年6月11日,愛知県から,中部国際空港建設に関連する下記の土木工事を代金117億2850万円(消費税込み)で請け負った。その後,同請負契約は,愛知県と本件JVとの間で,埋立土砂量の増減に伴い,平成14年5月30日,同年10月16日,平成15年2月27日の3回にわたり,変更契約が締結された(以下,これらの契約変更の前後を区別せずに,この請負契約に基づく工事を「本件工事」という。乙1ないし4)。
記
工事名 臨海用地造成事業対岸部造成工事(TMH13-4)
路線等の名称 空港対岸部
工事場所 愛知県常滑市地先
工期 着手 平成13年6月12日
完了 平成15年3月15日
(3) 本件工事のための土砂の仕入れ
本件JVは,平成13年12月20日から平成14年12月26日にかけて,本件工事のための埋立用土砂(以下「本件工事用土砂」という。)を,株式会社Mから購入し,同社はその土砂をN株式会社及び株式会社Oから購入した。(乙5の1及び2,6の1から3,7の1及び2)
Nは,P株式会社から(ただし,平成14年6月15日から同年11月までの期間は「P・Q・R共同企業体」から。),本件工事用土砂を購入した(乙8の1及び2,10の1及び2,弁論の全趣旨)。
Pは株式会社Sから,Sは株式会社Tから,それぞれ本件工事用土砂を購入した。もっとも,砂質土については,PはTから直接購入していた(乙9,20,証人b,弁論の全趣旨)。
(4) 被控訴人Fによる土砂の運送
被控訴人Fは,本件工事用土砂を,自社所有船c丸により,①平成14年2月16日から同年7月5日にかけて,原判決別表(以下,単に「別表」という。)1の1ないし51の土源,揚地・揚船名及び数量の各欄記載のとおり,各積地港から本件JVの造成担当区域(以下「本件工事区域」という。)まで,②同年6月12日,別表1の52の土源,揚地・揚船名及び数量の各欄記載のとおり,縄地港から御前崎港まで,それぞれ運送した(以下,上記①の運送をまとめて「本件直運送1」と,同②の運送を「本件御前崎運送1」といい,これらを併せて「本件運送1」という。)。なお,本件御前崎運送1により御前崎港に運送された本件工事用土砂は,d丸により,同月13日,本件工事区域まで運送された。
(5) 被控訴人Gによる運送
被控訴人Gは,本件工事用土砂を,傭船e丸(以下,c丸と併せて「本件各船舶」という。)により,①平成14年4月2日から同年6月14日にかけて,別表2の1ないし27の土源,揚地・揚船名及び数量の各欄記載のとおり,各積地港から本件工事区域まで,②同年6月22日,別表2の28の土源,揚地・揚船名及び数量の各欄記載のとおり,松崎港から御前崎港まで,それぞれ運送した(以下,上記①の運送をまとめて「本件直運送2」と,同②の運送を「本件御前崎運送2」といい,これらを併せて「本件運送2」という。また,本件直運送1と本件直運送2とを併せて,「本件各直運送」といい,同様に,本件御前崎運送1と本件御前崎運送2とを併せて「本件各御前崎運送」と,本件運送1と本件運送2とを併せて「本件各運送」という。)。なお,本件御前崎運送2により御前崎港に運送された本件工事用土砂は,他船により,同月23日又は24日ころ,本件工事区域まで運送された(弁論の全趣旨)。
(6) 本件工事用土砂の計量,揚土の手順
土運船によって運送された本件工事用土砂は,揚土前に,本件工事区域近くの海上で満船の状態で撮影計量され,その後概ね本件工事区域の陸地に隣接して停泊中の揚土船(リクレーマ船)に接舷して同船上に揚げられた後,空船の状態で撮影計量されて,満船土量との差引量を運送土量として計上する手順が取られ,被控訴人らが本件各直運送により本件工事区域まで運送した本件工事用土砂(以下「本件直運土砂」といい,本件直運土砂と併せて「本件土砂」という。)も,直接陸揚げされたものを除き,この手順により揚土されており,本件各御前崎運送により運送された土砂(以下「本件御前崎土砂」という。)も,最終的には同様の手順により揚土された(乙20,証人b,弁論の全趣旨)。
3 当事者の主張
(1) 被控訴人らの主張
ア 本件土砂の運送契約
(ア) 本件運送1は,被控訴人Fが,平成14年2月上旬ころ,株式会社Uとの間で締結した海上運送契約(以下「本件運送契約1」という。)に基づいてしたものである。
(イ) 本件運送2は,被控訴人Gが,平成14年4月1日,有限会社V(以下Uと併せて「本件各荷送人」という。)との間で締結した海上運送契約(以下「本件運送契約2」といい,本件運送契約1と併せて「本件各運送契約」という。)に基づいてしたものである。
イ 本件土砂の引渡し
被控訴人らは,本件各荷送人からも本件JVからも本件土砂の荷受人は本件JVであるとの説明を受け,別表1及び2の計測月日欄各記載の日ころ,本件土砂をリクレーマ船に揚土した時点で,これを本件JVに引渡した。本件土砂は,本件JVが自ら本件工事に使用したものである。揚土作業の下請関係は,被控訴人らのあずかり知らないことである。
控訴人らは,本件各荷送人が荷受人であると主張するが,本件各荷送人は運送依頼人すなわち荷主であって,運送品の引渡しを受けるべき者ではないし,現に本件土砂の引渡しを受けてもいない。
ウ 本件各運送に係る運送賃及び待船料(以下「運送賃等」という。)
(ア) 本件運送1に係る運送賃の単価は,被控訴人FとUとの間で,別表1の単価欄各記載のとおり,本件直運土砂については1立方メートル当たり850円(消費税別。以下,単価については同様。),本件御前崎土砂については同450円と協定されたから,その運送賃の合計は,別表1の金額欄合計欄記載の3695万8650円である。
また,c丸は,平成14年6月17日から同月20日まで,4日間荷揚げ待ちをさせられたところ,待船料は1日当たり25万円が相当であるから,その待船料の合計は100万円である。
よって,本件運送1に係る運送賃等は,消費税込みで3985万6582円となる。
(イ) 本件運送2に係る運送賃の単価は,被控訴人GとVとの間で,別表2の単価欄各記載のとおり,1立方メートル当たり850円と協定された(本件御前崎土砂の運送賃について特段の協定はされていない。)から,その運送賃の合計は,別表2の金額欄合計欄記載の3150万3550円である。
また,e丸は,平成14年6月17日から同月20日まで,4日間荷揚げ待ちをさせられたところ,待船料は1日当たり25万円が相当であるから,その待船料の合計は100万円である。
よって,本件運送2に係る運送賃等は,消費税込みで3412万8727円となる。
エ 既払金
(ア) Uは,被控訴人Fに対し,本件運送1に係る運送賃等として,2406万4949円を支払った。
(イ) Vは,被控訴人Gに対し,本件運送2に係る運送賃等として,1647万9500円を支払った。
オ 結語
よって,商法753条1項に基づき,本件各運送契約上の荷受人である本件JVを構成する控訴人らに対し,
(ア) 被控訴人Fは,税込運送賃等から既払金を控除した1579万1633円及びこれに対する本件運送1の最後の日である平成14年7月5日から,
(イ) 被控訴人Gは,税込運送賃等から既払金を控除した1764万9227円及びこれに対する本件運送2の最後の日である平成14年6月22日から,
それぞれ支払済みまで商事法定利率年6分の割合による金員の連帯支払を求める。
(2) 控訴人らの主張
被控訴人らの主張ア,ウ及びエの事実はいずれも知らない。
同イの事実のうち,本件各荷送人の指示については知らず,本件JVが本件土砂の引渡しを受けたとの事実及びその引渡方法を指定したとの事実はいずれも否認する。
同オは争う。
ア 本件各運送契約書面上の記載
商法753条1項にいう「荷受人」とは,運送契約上,到達地において運送人から運送品の引渡しを受けるべき旨指定された者をいうと解すべきところ,Uと被控訴人Fとの間の成約覚書(甲6)によれば,本件運送契約1上の荷受人はUであり(このことは,同被控訴人がその運送賃等をUに請求していることからも明らかである。),Vと被控訴人Gとの間の運送契約書(甲7)によれば,本件運送契約2上の荷受人はVであって,本件各荷送人の指示の内容についての被控訴人らの主張は,これらの書面の客観的な記載に反する。
なお,運送依頼人である荷主が運送品を受領することは何ら問題がなく,荷受人と荷送人は同一人であっても全く差支えはない。
ところで,原審は,商法753条1項にいう「荷受人」とは,荷主(荷送人)により,到達地又は陸揚港において運送品を受け取るべき者として指定された者をいい,当該契約について船荷証券や貨物引換証が発行されていない場合には,書面又は口頭のいかんを問わず,荷送人が運送人に対して一方的に指示した者を指すというが,荷受人が運送品の受領後に権利義務を取得する法的理由は,運送契約が第三者のためにする契約の性質を有することに基づくことによれば,荷受人は受益の意思表示をすることが必要であるというべきである。「荷受人」になるには,当該運送品を受け取るべきか否かを判断する機会が与えられていることが当然の前提であり,荷受人の指定の有無及び運送契約に関する具体的事情を認識していて初めて,一次的に運送賃を支払うべき荷送人の資力は十分か,荷送人の資力が不十分でも,当該運送品の必要性からして受領すべきかを判断することが可能となり,荷受人の保護に欠けるものではないことになる。反対に,荷送人の資力の調査を怠った運送人が,荷送人から運送賃を回収できなかったからといって,事情を知らないまま運送品を受領した荷受人(事情を知らないから,当然荷送人の資力を調査できない。)に対し,経済的負担を求めることができるという解釈は正義公平に反するものである。
イ 揚土作業の外注
しかも,本件JVは,本件工事の工期中,リクレーマ船(揚土船)の管理及び揚土作業をW・X共同企業体(以下「W・XJV」という。)に外注し,同JVがこれを請け負っていたものであるから,本件JVが本件土砂を直接受け取ったとみることはできない。
4 主たる争点
本件JVを構成する控訴人らは,本件各運送において,商法753条1項が規定する「荷受人」に該当するか否か。
第3当裁判所の判断
1 前記前提事実,証拠(甲6,7,11の1及び2,12,13,15の1及び2,17,19,20,乙1ないし4,5の1及び2,15,16,20ないし22,24,25,証人bの供述)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,これに反する被控訴人F代表者fの供述,甲18,甲21は,上記証拠に照らし採用できない。
(1) 控訴人ら及びL株式会社が組織した本件JVは,平成13年6月11日,愛知県から,中部国際空港建設に関連して臨海用地造成事業対岸部造成工事を請け負い,これを実行するために,埋立用土砂を購入し,これを敷き均して埋め立て造成する工事を行ったが,この他にも,土運船積載土量計測作業や土運船で運ばれてきた埋立用土砂をリクレーマ船で揚土する作業をも,愛知県から請け負い,揚土作業については,W・XJVに下請けさせた。
(2) 本件JVは,埋立用土砂購入契約を,Mとの間で締結し,MはNなどからその土砂を購入していたのであるが,Mは控訴人Aの子会社であり,控訴人AがMの売上に協力するため,本件JVとNの間にMを介在させたもので,Nが購入した土砂の売買に関する交渉は,本件JVとNとが直接行っており,実際の土砂の引渡しにもMは関与していなかった。なお,本件JVとMとの上記埋立用土砂購入契約においては,土砂の引渡し場所は,見積書記載場所とされているところ,見積書には受渡場所が「常滑市g町h-i-j」となっているが,同所は本件JVを構成するAの現場事務所の所在地である。
Nは本件工事用土砂を,P(ただし,平成14年6月15日から同年11月までの期間はP・Q・R共同企業体)から購入し,さらに,PはSから,SはTから,それぞれ本件工事用土砂を購入した。もっとも,砂質土については,Pが直接Tから購入していた。
(3) T(現在は倒産状態)は,本件工事用土砂を本件工事区域に運送するため,U及びVに運送の手配を依頼し,Uは,平成14年2月上旬ころ,被控訴人Fとの間で本件運送契約1を,Vは,平成14年4月1日,被控訴人Gとの間で本件運送契約2をそれぞれ締結した。
なお,本件運送契約1については,Uと被控訴人Fとの間で,契約締結時に成約覚書(甲6)が作成されており,同書によれば,出荷主はT,受荷主はUとなっており,揚地における船内荷役は,本船の手配を船主の費用負担で行うこととされている。また,本件運送契約2については,Vと被控訴人Gとの間で,契約締結時に運送契約書(甲7)が作成されており,同書によれば,揚地における船内荷役の手配及び費用負担は,荷主が担当することとなっているが,荷受人に関する記載はない。
(4) 土運船から本件工事用土砂を陸揚げする方法としては,土運船に備え付けのガットクレーンで揚土する「直接揚土」(または「直投」)と呼ばれる方法と,リクレーマ船を用いて揚土する「間接揚土」と呼ばれる方法の2種類があった。
まず,直接揚土の場合には,Nの担当者が,土運船上で土砂の状態や品質を確認し,問題がなければ,土運船のガットクレーンで土砂を陸揚げさせ,その後陸揚げされた土砂を,本件JVの担当者が,その土砂の状態や品質を確認する作業をした。
また,間接揚土の場合には,土運船が所定のリクレーマ船に接舷すると,リクレーマ船上に待機していたN,P及びSの担当者が,土運船で運ばれた土砂の状態や品質を確認する作業を同船上で行い,問題がなければ,リクレーマ船が土運船から土砂を揚土した。
いずれの場合にも,Nの担当者が土運船で運ばれた土砂の状態や品質を土運船の上で確認してこれを検収し,土運船で運ばれた土砂の引渡しを受けていた。なお,被控訴人らが本件工事用土砂を運送した土運船の船長は,土砂の引渡しに関し,本件JVの担当者と連絡を取ったことはなく,Nの担当者と連絡を取り合っていた。
そして,Nの検収後,間接揚土の場合には,W・XJVによって,リクレーマ船に備え付けのバックホウを使って土運船の土砂がリクレーマ船上のベルトコンベアに下ろされ,ベルトコンベアで陸上の仮置き場へ運ばれるという揚土作業が行われ,直接揚土の場合は,土運船のガットクレーンで土砂を陸揚げする揚土作業が行われたが,この様にして陸揚げされた土砂は,本件JVによる検収を受け,ここで本件JVはNから本件工事用土砂の引渡しを受けた。
(5) なお,中部国際空港建設に際し,海上保安庁名古屋海上保安部は,伊勢湾の玄関口にあたる伊良湖水道は非常に狭隘で大型船の航行量も多いことから,埋立造成工事によって工事用船舶の航行が集中して一層過密となれば,船舶航行の安全確保に影響が生じることを懸念して,中部国際空港株式会社や愛知県企業庁に対し,安全確保に関する行政指導を行った。これを受けて,愛知県企業庁,中部国際空港株式会社及び埋立造成工事の元請業者である各共同企業体(本件JVを含む)は,中部国際空港建設工事安全連絡協議会を組織し,同会を通じて,一体的な工事用船舶の運行管理を行った。具体的には,工事用船舶の運行管理を行うために,最新の運行管理システムを工事用船舶に搭載し,GPSにより土運船位置情報をリアルタイムで受信し,地図画面に表示することで位置把握したり,海難事故時の連絡体制を確立したり,土運船運航記録表を船長に記載させるなどし,工事区域内に立ち入る関係業者に対する安全教育(Nが主催して各船会社担当者に対する説明会など)を行うなどした。
2 以上の認定事実によれば,本件各運送に関する成約覚書(甲6)や運送契約書(甲7)に本件JVを荷受人とする記載はない。また,本件各荷送人が被控訴人らに対し,本件JVを荷受人と指定したと認めるに足りる証拠はない。
ところで,証拠(乙26)によれば,海上運送における運送品の引渡しは「陸揚げ」として観念されているところ,陸揚げは,ハッチを開けて運送品を船倉から取り出して,これを船側まで運ぶ作業と,船側から直接埠頭または艀の上に荷下ろしする作業との二つの過程からなるが,傭船契約においては,別段の特約のない限り,運送品の引渡しは船側において行われるのが一般の慣習であるとされている。そこで,これを本件においてみるに,本件全証拠によるも慣習によらないとした特約がなされた事実は認められない上,上記認定によれば,本件陸揚げに際しては,Nの担当者,あるいは,N,P及びSの担当者が,土運船の上で運送された土砂を検収しており,その後に,リクレーマ船備え付けのバックホウを使用して,土砂がリクレーマ船上のベルトコンベアに下ろされているのであり,本件においても土運船の船側において引渡しがされたものというべきである。そして,引渡しの場に立ち会ったのは,上記のとおり,Nの担当者らのみであり,本件JVの関係者は立ち会っていない。直接揚土においては,土運船のガットクレーンが陸揚げに使用されていることから,ガットクレーンにより運送品を陸地に下ろしたときを引渡しの時期と見る余地があるとしても,陸揚げに関与した者はNの担当者のみであり,本件JVの関係者は立ち会っていない。また,土砂の引渡しについて,土運船の船長が連絡を取ったのはNの担当者であり,本件JVの担当者と連絡を取ったことはない。以上の事実が認められ,これによれば,運送品である本件工事用土砂を運送人から引渡しを受けた者,すなわち「荷受人」は,本件JVでないことは明らかである。また,上記認定によれば,本件JVは,陸揚後に本件JVを構成するAの現場事務所において本件工事用土砂の引渡しを受けていることが明らかである。また,土砂の売買については複数の売買によって最終的に本件JVがこれを買い受けているけれども,先行して行われた売買の当事者は本件JVの下請とはいえず,Nは,本件土砂の転売利益という独立の利益を享受していることが明らかであるから,これらをもって本件JVの履行補助者ということはできない。
なお,被控訴人らは,本件JVによる運航管理を根拠に控訴人らが本件各運送における荷受人であると指摘するが,運行管理については,海上保安庁名古屋海上保安部の行政指導に応じて組織された中部国際空港建設工事安全連絡協議会として行われたもので,上記荷受人の認定を左右するものではない。
3 以上の次第で,被控訴人らの控訴人らに対する本件請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,これと結論を異にする原判決を取り消して,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 鬼頭清貴 裁判官 濱口浩)