名古屋高等裁判所 平成16年(ラ)253号 決定 2004年8月16日
抗告人
A野太郎
代理人弁護士
宮﨑直己
主文
原決定を取り消す。
抗告人について、小規模個人再生による再生手続を開始する。
理由
第一抗告の趣旨及び理由
別紙即時抗告申立書(写)記載のとおり
第二当裁判所の判断
一 当裁判所は、抗告人については、民事再生法(以下「法」という。)二五条所定の事由はなく、小規模個人再生による再生手続を開始するのが相当であると判断するが、その理由は以下の通りである。
二 抗告人が本件申立てをするに至った経緯は、原決定「事実及び理由」欄「第二当裁判所の判断」の一に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原決定二頁一五行目の末尾に行を改めて、「なお、本件申立てにかかる再生債権は合計七三八万六五九一円である。」と加える。)。
三 本件申立てに対し、愛知県市町村職員共済組合(以下「組合」という。)は、抗告人が、前件申立てに際し、組合に対する債務を届けていないことが、法二五条四号の「申立てが誠実にされたものでないとき」に該当し、前件申立てをした事実を秘して、新たな貸付を受けたのは詐欺的な行為であり、このような経緯で生じた債務まで減免されることは疑問であるとして、抗告人について小規模個人再生による再生手続を開始すること、あるいは民事再生手続を開始することに反対している(なお、抗告人の組合に対する債務は二四五万六九九二円であって、前記再生債権の約三三パーセントに相当する。)。
この点に関し、抗告人は、組合からの借入については、この制度が共済組合員のみが利用できる内部的な互助組織からの借入であって、返済も給料から天引きされることから、組合に対する債務を裁判所に申告する必要があり、手続中に新たな借入が許されないものであるとは考えていなかったと主張するところ、抗告人作成の平成一六年六月一七日付の陳述書中には、いずれも結婚及び出産費用に充てるため組合から借り入れたもので、借入当時、組合員のみが利用できる制度であって、返済も給料から天引きされることから、組合に対する債務はサラ金や銀行等の金融機関に対するものとは異なるものであると考えていた旨の記載があり、抗告人において、前件申立ての前後を通じ、組合に対する債務につき、民事再生手続を利用してその弁済を免れる意思がなかったことは明らかである。
上記抗告人の行為は軽率というほかないが、抗告人の本件申立てに、再生手続を利用して債務を免れる目的があるとは認められないのであって、抗告人の本件申立てが誠実にされたものではないとまではいえず、本件は、再生手続によって債権者間の公平を図るべきである。
四 上記のとおりであって、抗告人は支払不能の状態にあり、将来において継続的に収入を得る見込みのある個人債務者であって、再生債権の総額は三〇〇〇万円を超えないから、抗告人につき、小規模個人再生による再生手続を開始するのが相当である。
五 よって、これと異なる原決定を取り消し、抗告人につき、小規模個人再生による再生手続を開始することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 丸地明子 鬼頭清貴)
<以下省略>