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名古屋高等裁判所 平成16年(行ケ)2号 判決 2004年8月27日

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

平成15年4月27日に執行されたa県b町町議会議員選挙においてb町選挙管理委員会がAを当選として告示したことが無効であることを確認する。

第2請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本件訴えを却下する。

2  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

第3事案の概要

原告は,平成15年4月27日に執行されたa県b町町議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補し,最下位当選者と同得票数で抽選により次点となった者であるが,本件は,原告が,同選挙において当選したA(同姓同名の2名の当選人のうちb町大字c在住の者。以下「A」という。)の得票の中に無効投票があり,これが同人の得票として扱われなければ,同人は最下位当選者の得票に達しなかったとして,同人の当選の無効確認を求めた事案である。

1  本件訴えまでの経緯

(1)  原告は,本件選挙に立候補し,平成15年4月27日に本件選挙が行われたが,最下位当選者と同得票数で抽選により次点となった(争いがない。)。

(2)  同月28日,b町選挙管理委員会(以下「町委員会」という。)は本件選挙の当選人をAら18名とする旨の告示(d選告示第42号)をした(乙第5号証)。

(3)  平成16年2月27日,原告はb町選挙管理委員長に対し,「平成15年4月27日のb町議会選挙に於て不当な審査が行われているので再審査を申請いたします」と記載された平成16年2月26日付け上申書を提出した(乙第3号証)。

(4)  同年3月2日,町委員会は原告に対し,上記上申書でいう「再審査」が公職選挙法202条1項の異議の意味であれ,同法206条1項の異議の意味であれ,いずれにしても異議申出期間は既に過ぎていて異議申出はできないので理解するよう求めるとの同日付け書面を発送し,同書面はそのころ原告に配達された(乙第4号証)。

(5)  同月23日,原告は被告に対し,町委員会がした上記(4)の決定が無効であることの確認を求めるとの審査申立て(以下「本件審査申立て」という。)をした(乙第1号証)。

(6)  同年5月11日,被告は,町委員会が原告の異議申出に対する決定やその決定の告示をした事実は認められないから,本件審査の申立ては,町委員会の決定を経ていない不適法なものであり,また,仮に,本件審査の申立てが町委員会の決定を経たものであるとしても,審査申立ての前提として経るべき決定には異議の申出を適法要件を欠くものとして却下した決定は含まれないものとされているところ,原告の異議の申出は公職選挙法206条1項が規定する異議申出期間を徒過した後になされたものであるから,この場合にも本件審査の申立ては不適法なものということになるとして,本件審査申立てを公職選挙法216条2項が準用する行政不服審査法40条1項により却下する裁決をした(乙第2号証)。

(7)  同月25日,原告は,上記(6)の裁決を不服として本件訴えを提起した。

2  争点

(1)  本件訴えの適法性について

ア 被告

地方公共団体の議会の議員の選挙における当選の効力に関する訴訟は,公職選挙法206条1項の異議の申出又は同条2項の審査の申立てに対する都道府県の選挙管理委員会の決定又は裁決に対してのみ提起することができるとされている(公職選挙法207条2項)が,不適法な異議の申出又は審査の申立ては後の手続を有効にするものではないから,このような不適法な異議の申出又は審査の申立てに続く訴えも不適法なものとして却下を免れない。

市町村の議会の議員の選挙における当選の効力に関する審査の申立て(公職選挙法206条2項)は,異議の申出(同条1項)についての決定を経た後でなければすることができないものとされているところ,前記1(3)の上申書は上記異議の申出とは認められず,また,町委員会が異議申出に対する決定やその決定の告示をした事実も認められないから,本件審査の申立てが不適法な申立てであることは明らかである。

仮に,前記1(3)の上申書を公職選挙法206条1項の異議の申出と見るとしても,同条2項の審査の申立ての前提となる「決定」には異議の申出を不適法として却下した決定は含まれないものと解すべきところ,上記上申書が提出されたのは,前記1(2)の当選人の告示の日である平成15年4月28日から14日以内の異議申出期間(公職選挙法206条1項)経過後であり,これに応答した町委員会の前記1(4)の書面は異議申出期間徒過後の原告の異議の申出を不適法として却下した決定と見るべきであるから,この場合にも本件審査の申立ては不適法なものということになる。

なお,公職選挙法216条1項が行政不服審査法14条の準用を排斥していることから明らかなとおり,公職選挙法206条1項に定める異議申出期間が経過した場合は,理由の如何を問わず異議の申出は不適法になる。

したがって,本件訴えは不適法である。

イ 原告

被告の主張するとおり,公職選挙法には公職選挙法206条1項の異議申出期間を徒過した場合の救済規程はないが,行政手続法32条2項は,行政指導にあたっては,行政指導に携わる者は,申請者が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとしており,これは当然行政指導に従ったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないことにもなるものというべきところ,原告は,本件選挙開票の翌日,町委員会の事務を扱うb町の選挙担当のB(以下「B」という。)から投票の結果は3年間保存しており,その間はいつでも調べられる旨教示されたため,原告訴訟代理人に言われて平成16年2月27日に前記1(3)の上申書を提出するまで異議の申出をしなかったのであり,上記教示はまさに選挙の異議等に関する行政指導であるから,異議申出期間は原告が真実を知った時から進行するものと解すべきである。

(2)  本件請求の理由の有無について

ア 原告

本件選挙において町委員会は「C」と記載された投票89票をAの得票としたが,Aが通称として「C」を称することについて選挙長の認定はなされていなかったから,上記89票をAの得票として取り扱い,同人を当選人とした町委員会の前記1(2)の告示は無効である。

イ 被告

前記アの原告の主張は不知又は争う。

第4当裁判所の判断

1  本件訴えの適法性について

公職選挙法206条及び207条の規定によれば,市町村の議会の議員の選挙における当選の効力に関する訴訟は,その当選の効力に関し不服がある選挙人又は公職の候補者が,市町村の選挙管理委員会に対して異議の申出をし,これについての決定を受けるという異議の手続を経て,さらにその決定を不服として都道府県の選挙管理委員会に審査を申し立てて,これに対する裁決を受けるという審査の手続きを経た後,その裁決に対する不服としてのみ提起することができるものとされている。

しかるところ,前記第3の1(3)のとおり原告は平成16年2月27日にb町選挙管理委員長に対し同月26日付け上申書を提出し,これに対して同(4)のとおり町委員会は同年3月2日に原告に対し同日付け書面を送付しているのであるが,この原告の上申書の提出及びこれに対する町委員会の書面の送付は,上記市町村の議会の議員の選挙における当選の効力に関する訴訟に前置されるべき異議の手続きに当たるものということはできない。

すなわち,そもそも前記第3の1(3)の上申書を本件選挙における当選の効力に関する異議の申出と解することにも疑問がない訳ではないが,その点は一応措くとしても,公職選挙法206条1項によれば上記異議の申出は同法101条の3第2項又は106条2項の規定による告示の日から14日以内にされることを要するものとされているところ,上記上申書が提出されたのは,本件選挙における公職選挙法101条の3第2項の告示に当たる前記第3の1(2)の告示がされた平成15年4月28日から10か月が経過した平成16年2月27日のことであるから,上記上申書の提出による異議の申出は上記異議申出期間を経過した後になされた不適法なものということになる。

そして,前記第3の1(4)の書面を原告の異議の申出に対する町委員会の決定と解するとしても,それは異議申出期間を徒過した不適法な原告の異議の申出を却下する決定ということになり,このような内容の決定をもって選挙の効力や当選の効力に関する訴訟における異議手続前置の要件が満たされたものとすることはできない。

なお,原告は,行政手続法32条2項は,行政指導に従ったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないという趣旨を含む規定と解すべきところ,原告はBから投票の結果は3年間保存しており,その間はいつでも調べられる旨教示されたため,前記第3の1(2)の告示がされた平成15年4月28日から14日以内に異議の申出をしなかったのであり,上記教示はまさに選挙の異議等に関する行政指導であるから,異議申出期間は原告が真実を知った時(この「真実を知った時」がいかなる事実を指すものか必ずしも明らかではないが,その主張の趣旨からすると「公職選挙法206条1項の定める異議申出の期間が上記告示から14日以内であることを原告において知った時」という意味なのであろう。)から進行するものと解すべきであると主張する。

しかしながら,地方公共団体の議会の議員又は長の当選の効力に関する異議の申出及び審査の申立ての期間を定める公職選挙法206条は,審査請求期間を定める行政不服審査法14条にあるような天災その他異議の申出をしなかったことについてやむを得ない理由がある場合の適用除外規定を置いておらず,このことに公職選挙法が213条1項で選挙に関する訴訟の提訴期間だけでなく訓示規定ながら判決までの期間も法定するなどして選挙や当選の効力の早期確定を図っていることも併せ考えれば,上記公職選挙法206条は,やむを得ない理由があっても,定められた期間内でなければ不服申立てを許さない趣旨と解するのが相当であって,原告が指摘するようなBの教示があったからといって,上記異議申出期間経過後になされた原告の異議の申出を適法とすることはできない。

また,仮に,やむを得ない理由がある場合には異議申出期間経過後の異議の申出を認めるという解釈を採る余地があるとしても,原告が指摘するBの教示の内容は,投票の結果は3年間保存しており,その間はいつでも調べられるという旨のものに過ぎず,異議申出期間には触れていないのであるから,原告が異議申出期間内に異議の申出をしなかった原因を上記教示に求めることはできず,その異議申出期間が公職選挙法206条1項に明定されていて容易に知り得ることも考え併せれば,原告が異議申出期間内に異議の申出をしなかったことにやむを得ない理由があったとはいい難い。

以上のとおり,いかなる面から見ても,本件訴えは公職選挙法206条及び207条に定められた異議及び審査の各手続きを経ていない不適法なものというべきである。

2  結論

よって,本件訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊田士朗 裁判官 川添利賢 裁判官 多見谷寿郎)

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