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名古屋高等裁判所 平成16年(行ケ)3号 判決 2005年3月09日

原告(選定当事者)

甲野一郎

原告(選定当事者)

乙山二郎

選定者

甲野一郎

外14名

被告

岐阜県選挙管理委員会

上記代表者委員長

遠藤久子

上記訴訟代理人弁護士

池田智洋

端元博保

伊藤公郎

上記指定代理人

渡辺厚

外5名

主文

1  平成15年7月20日執行の可児市議会議員選挙の選挙の効力に関する審査の申立てにつき,被告が平成16年9月3日付けでした裁決を取り消す。

2  上記の選挙を無効とする。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする

第2  事案の概要

1  本件は,平成15年7月20日にいわゆる電子投票機を用いて行う投票により実施された可児市議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)について,原告ら及び選定者らが,本件選挙には選挙の規定に違反した違法行為があり,選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとして,被告に対し,選挙の効力に関する審査を申し立てたところ,被告が平成16年9月3日付けで審査の申立てを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をしたため,原告らが,本件裁決の取消しと,本件選挙の無効を求めた事案である。

2  当事者間に争いのない事実等

(1)  平成15年7月20日に岐阜県可児市議会議員選挙(本件選挙)が執行された。(争いがない)

(2)  本件選挙については,地方公共団体の議員及び長の選挙に係る電磁的記録式投票機を用いて行う投票方法等の特例に関する法律(以下「特例法」という)の規定に基づき電磁的記録式投票機(以下「電子投票機」又は「投票機」という)を用いて行う投票により執行された。ただし,不在者投票,仮投票については,公職選挙法による従来からの投票用紙を用いた投票により執行された。(争いがない)

(3)  電子投票のシステム構成は,投票端末(クライアント機)とシステムを制御する主装置(投票サーバ機)によるクライアント・サーバ方式が採用されている。(争いがない)

(4)  投票は,投票サーバ機内に格納された電磁的記録媒体(以下「記録媒体」という。)に記録される。

記録媒体には,光磁気ディスク(以下「MO」という。)と呼ばれる製品が使用されており,原本と複写の2枚で対となっている。

投票は,投票の都度,原本用の記録媒体(MO)に記録されるとともに原本用の記録媒体(MO)に記録された投票が複写用の記録媒体(MO)に複写記録される。なお,1投票につき1ファイルが作成される。(争いがない)

(5)  本件選挙は,全29か所の投票所において投票サーバ58台(予備機29台を含む。),投票端末機189台(予備機29台を含む)を使用して投票が行われた。(争いがない)

(6)  可児市選挙管理委員会(以下「可児市選管」という。)が発表した本件選挙の結果は,

ア 投票総数4万6594票(うち,有効投票4万6526票,無効投票68票),電磁的記録式投票機の操作を途中で終了した者の数は262票,

イ 有効投票の内訳は,電磁的記録式投票機を用いた投票が4万0954票,不在者投票,点字投票及び仮投票が5572票,無効投票68票の内訳は,電磁的記録式投票機を用いた投票では0票,不在者投票,点字投票及び仮投票では68票,

ウ 最下位当選者の得票総数は1361票(うち,電磁的記録式投票機を用いた投票による得票数は1253票,その他の投票による得票数は108票),次点者の得票総数は1326票(うち,電磁的記録式投票機を用いた投票による得票数は1163票,その他の投票による得票数は163票)であった。(甲6,乙20)

(7)  原告らは,本件選挙の選挙結果に不服があるとして,平成15年8月4日,可児市選管に異議を申し出たが,可児市選管は,同月28日に異議申出の理由がないとして異議を棄却する旨の決定をした。(争いがない)

(8)  原告らは,平成15年9月18日,被告に対して審査申立をしたが,被告は,平成16年9月3日付けで,選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとは認められないとして,審査申立てを棄却する旨の本件裁決をした。(争いがない)

(9)  原告らは,平成16年9月4日,被告の裁決書を受領した。(争いがない)

(10)  原告らは,平成16年9月30日,本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著)

3  原告らの主張

(1)  違法な電子投票機による選挙の実施

本件選挙で使用された電子投票機(以下「本件投票機」という。)は,次のとおり特例法4条1項各号に掲げる条件を具備していない。したがって,法定の要件を具備しない投票機で行われた本件選挙は無効である。

ア 特例法4条1項1号違反

電子投票機は,選挙人が一の選挙において2以上の投票を行うことを防止できるものであることを要する。

ところが,本件投票機は,選挙人が2以上の投票を行うことを防止できなかった。これは特例法4条1項1号に違反する。

イ 特例法4条1項2号違反

電子投票機は,投票の秘密が侵されないものであることを要するところ,投票の秘密が侵されないためには以下の要件を満たしている必要がある。

① 投票データには,選挙人に関する情報,時刻情報及び投票カードに関する情報を含まない。

② 個々の投票データをひとつずつのファイルとして管理する場合,実際の記録時間をもたないようにする。

③ 記録媒体の記録済み投票データについては,投票所内の電子投票機などの電子機器から閲覧,変更,消去できない機構とする。

しかし,本件投票機は,記録媒体の投票データに投票時刻及び投票カード番号が記録されていて,カード番号で追跡して投票データを特定することが可能である。

そして,後記のとおりパスワードまでが公になっていたのであるから,だれでも簡単に操作や確認ができ,投票カード番号を利用して,投票データの検索が可能である。

したがって,本件投票機は,投票の秘密が侵されるものであるから,特例法4条1項2号に違反する。

ウ 特例法4条1項4号違反

電子投票機は,電子投票機の操作により候補者の選択が確実に記録媒体に記録されなければならない。

ところが,本件投票機は,選択された候補者の記録が記録媒体に記録されていない現象がある。

したがって,特例法4条1項4号に違反する。

エ 特例法4条1項5号違反

電子投票機は,記録媒体に記録された記録を保護するために必要な措置が講じられていることを要する。

ところが,本件投票機は,記録を削除する機能が組み込まれている。

したがって,特例法4条1項5号に違反する。

オ 特例法4条1項7号違反

電子投票機は,投票所の関係者による投票の増滅等の改ざんを防止するために,権限を有しない者が管理操作をすることを防止できるものであることを要する。

ところが,本件投票機には,管理操作する機能が付けられていた。

しかも,本件投票機は,その画面の四隅を順次触れて特定番号(77777)を入力すると機械管理等の操作ができるようになっていた。この機能を使って業者の従業員が管理操作を行うことができるところ,本件投票機提供の契約の相手方である株式会社ムサシ(以下「ムサシ」という。)の従業員が可児市選管の立会いもなく単独で投票機の内部の操作を行っており,投票結果が改ざんされた可能性がある。

したがって,特例法4条1項7号に違反する。

カ 特例法4条1項8号違反

電子投票機は,選挙の公正かつ適正な執行を害しないものであることを要する。

ところが,本件投票機は,投票が行われて記録媒体に投票が記録されても,その投票記録を削除することができる機能が組み込まれていて,記録の削除が実行された。

したがって,特例法4条1項8号に違反する。

なお,被告は,1枚の投票カードによる複数回の投票の記録が行われても,開票所において同一の投票カードによる投票が1票しか採用されない,投票の取捨選択ができる仕組みが組み込まれていると主張するが,投票の記録を取捨選択することは,特例法及び技術書の投票データへのアクセス規制(記録媒体の記録済み投票データについては,投票所内の電磁的記録式投票機などの電子機器から閲覧,変更,消去できない機構とする。)に違反する。すなわち,一旦記録媒体に記録された投票記録は,絶対に変更,削除をしてはならないのであって,投票機が投票の取捨選択をすることができる仕組み自体が違法である。

キ その他の瑕疵

上記の法定条件を欠いていたことの他にも次のような瑕疵がある。

(ア) 全ての投票所において電子投票機が稼動停止又は機能を停止した。この点について,被告は,障害はサーバの熱暴走によるものであって一時的なものであると主張する。しかし,通常考えられる室内の温湿度で機能停止を起こすことはあり得ないこと,サーバに障害が起こる前に投票端末が投票拒否を起こしていたこと,障害がサーバの熱暴走によるものであるならば,それにつながる全ての投票端末が機能しないはずで,サーバ障害時に多くの投票端末が稼働していたこと,全投票所で一斉に障害が発生し,障害が投票行為の多面に影響していることからすれば,電子投票機が具備すべき法定条件を欠いた欠陥があったためであると考えられる。

(イ) 投票が行われて記録媒体に投票が記録されたにも関らず,投票端末がその情報を受信できなかったため,最後まで投票の完了を選挙人本人,投票管理者,投票立会人の何れも確認できない事象の存在があるのに対応を取っていなかった。

(ウ) 長時間使用するものであるから,記録装置には駆動機構を取り入れないのが一般であるのに,これを採用して機器の安定度を低下させた。

(エ) 投票データの送受信の時間設定,クライアント端末とサーバとのオンラインのシステム監視機能が欠けていたために記録媒体の書込みに問題を生じさせた。

(オ) 記録媒体の書込みの時点で回線の情報流量が低下して制御装置からの通信が遅れた結果,受信を待ち続けて,クライアントはサーバの処理を無視してエラーと表示された。このような監視モニター機能の設計には不備がある。

(カ) 容易に類推可能なパスワードが設定され,しかも,主任者と副主任者のパスワードが同じであり,パスワードがマニュアルに記載されている。

ク その他の事情

可児市は,本件選挙に電子投票機を用いるとして,地方選挙電磁的記録式投票補助金交付要綱に基づき国(総務大臣)に補助金の交付申請を行ったが,投票機が法定条件を具備していることを証明できないことから,結果として申請を取り下げるに至った。ちなみに,これまで電子投票機を用いて行った選挙で,国から補助金を受けていないのは可児市だけである。

ケ まとめ

以上のとおり,本件投票機は,特例法4条1項1号,2号,4号,5号,7号及び8号の規定に違反している。

特例法に違反した本件投票機により執行された本件選挙は,公正性を欠き,投票結果が正しく記録されていないので無効である。

(2)  違法な可児市選管の選挙管理の執行

ア 取扱い記録の不作成

投票機による投票では,投票用紙に替わり投票カードを介して行われる。基本となる投票カードについて,投票管理者と可児市選管の間で受渡簿などの記録及び投票所での取扱いの記録を作成しないのは,選挙の規定に違反するもので,選挙事務(特に投票事務)の執行において重大な事故を誘発するものである。

イ 投票カードの不正発行

選挙人(入場者)数を151人も上回る4万1361人の投票カードが発行されている。なお,可児市選管は,電子投票による投票者総数を4万1216人(途中で操作中止とされた262人を含む。)と発表しているが,上記投票カード発行数と145の差異がある。

ウ 二重投票等

(ア) 2枚の投票カードの交付による二重投票

今渡南,川合,下恵土南,西帷子,東帷子,長坂,南帷子及び羽生ヶ丘の各投票所で選挙人に投票カードを交付して投票機に挿入して操作した後に「反応が鈍い」との理由で再度投票カードを交付し,結果として1人2回以上の投票をさせる等した。

また,広見第2投票所において,選挙人の投票行為の途中に電子投票機が停止し,この復旧調整にあたっていたムサシの従業員が,投票機の操作途中で「終了」の表示を押したとして,これが未投票であることを理由に,先に交付した投票カードが未使用であったとの確認を取らないまま,再度投票カードを交付して二重投票を行わせた。

なお,可児市選管は,川合,下恵土南,南帷子,羽生ヶ丘及び広見第2の各投票所において,7人の選挙人が投票完了を確認できなかったために投票所を退出した上,再入場して投票した結果,二重投票となったと説明している。しかし,選挙人の投票完了が確認できないとして,選挙人を一旦退出させ,再入場者として再投票を行わせることは違法である。

また,被告は,今渡南投票所における本件選挙の結果に異動を及ぼす虞がある投票数は2票であると主張するが,投票カードによる投票が機能したかどうかが確認できず,再交付に当たっても正しく選挙人であるかを確認せず,かつ障害が生じた真っ最中で,投票事務従事者の大半が受付,障害の対応等に当たっていたことを考慮すると,別の選挙人に渡した可能性を否定することはできない。

(イ) 1枚の投票カードによる二重投票

404枚の投票カードで延べ1023回の投票行為を行わせた。

これら複数の投票行為による投票は,選挙人により行われたものとは限らないし,同じ選挙人が行ったものとか,同じ選挙人により同じ候補者に投票が行われたとも限らない。

(ウ) 非選挙人による投票

広見第2投票所において,電子投票機の機能停止の復旧作業にあたっていたムサシの従業員が,試験的に投票機の画面を操作した結果,選挙人でない者の投票が記録媒体に記録された。したがって,1票は選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。

エ 障害発生中の投票

電子投票機の不具合ないし機能停止により,投票しても投票結果が記録媒体に正しく記録されない状態であったにもかかわらず,選挙人749人に投票をさせた。

オ 選挙人の意思によらない白票

電子投票機による投票で,可児市選管による何らかの作為,投票端末の操作等の周知行為の不備,投票機の不具合,システムの設計瑕疵により,262人が「投票機の操作を途中で終了した者」にされ,選挙人の意思によらないで,結果として白票ないし不明票にされた。不明とされる262票は,本来有効投票(潜在的有効投票)であるから,選挙人の意思が正しく現れていれば,選挙の結果に異動を及ぼすことになる。

カ 記録媒体切替え手続の違法

今渡南,土田西,西帷子,長坂,二野,大森及び広見第2の各投票所では,サーバの切替えに伴い新たな記録媒体に取り替えるに当たり,投票立会人の立会いを求めず,意見も聴かなかった。

キ 記録媒体の非封印

塩河投票所から開票所に投票の記録媒体を送致する際に記録媒体に封印をしていなかった。したがって,非封印の記録媒体は,送致中に改ざんされる可能性があったのであるから,これに記録されている投票は無効となる。

ク 記録媒体の取扱いの誤り

投票所で封印された記録媒体の原本と複写の区分に関らず恣意的に原本,複写の表示をして,いずれが原本か判らないままに開票所に送致した。このため,少なくとも2投票所分については複写の記録媒体が開票に使用された。これは,特例法9条,10条2項に違反する。

なお,現在の一般的な技術水準からすれば,簡単に複写ができて外部に持ち出せるし変更も行うことができるのであるから,改ざんの機会が作られたというだけで不正が行われたとみるべきである。

ケ 記録媒体の改ざん

本件選挙においては,以下のとおり,電子投票機及び記録媒体の取扱いを業者に行わせ,更に投票の取捨選択及び改ざんを行う等した。

(ア) 開票所で開票するにあたり,可児市選管の開票事務従事者が行うべき記録媒体の開封,電子計算機への読込み,集計等の作業を,ムサシの従業員に,立会人もなく,だれも見ていない状態で行わせた。このように選挙事務における極めて重要な部分を選挙の規定に違反して実質的な部外者に丸投げで執行させたことは,特例法9条4項に違反する。

被告は,ムサシの従業員は開票事務従事者に任命されていると主張するが,可児市から給与や手当の支給なく,可児市の臨時的非常勤職員とは考えられない者に開票事務を行わせたのは法令に違反する。

(イ) 記録媒体に記録された投票は,変更,削除及び集計の除外をしてはならないのに,可児市選管は,記録媒体に記録されている投票を投票所で削除及び開票所で開票時に削除又は除外して集計するなどし,得票数の改ざん・増減を行った。これは,特例法9条4項に違反する。

なお,ログの取得ができない投票端末があり,これにより投票の失敗件数が確認できないものがあるが,これは可児市選管が工作して取得不能にしたためである。

すなわち,システム監査報告書によれば,①投票所において,投票終了時に運用していたサーバは投票締め切りで終了し,ログは投票を記録する記録媒体に保存されていたが,投票終了時に運用していたサーバとは別のサーバについては,終了でサーバを停止したことにより,記録媒体にはログが保存されていなかったこと,②投票終了時に運用していたサーバとは別のサーバ上にあるログについては,選挙後に行ったデータ保護信頼性テストの実施前に,可児市選管によって全てのサーバからログを吸い上げ,投票データが記録されている記録媒体とは別の記録媒体に手動で保存されたこと,③1月15日にログを読み取り確認したところ,投票機のログが同じ機器内の別の場所(E:ドライブ)に移動,あるいは消去されていたものがあった。可児市選管の回答の参考付記で,データ保護信頼性テスト実施前にDドライブのログを,Eドライブに移動作業を行った旨の記述があったこと,④ログが消去あるいは読み取り不可の投票機は,下恵土北,土田西,塩,姫治,大森及び二野の6投票所の9台の投票機であることが認められる。

以上によれば,可児市選管は,本件選挙の結果「得票数」を操作する意図があって,投票数を削除し,ログをこの状態に合わせるために移動,消去していたと認められる。

(ウ) 原告らの審査申立て後,被告が電子投票機及び記録媒体等の検証を行ったところ,開票終了後に封印したはずの記録媒体の封印が破られていた。これは被告の検証が行われると不都合な事があるので,可児市選管が,事前に封印を破いて工作を行い,改ざんしたものである。

コ 不正工作

可児市選管は,投票所で選挙人に投票行為をさせる基本となる投票カードの交付について,開票の時には「持ち帰りはない」と公表していたのに,その後,ログの解析等で愛岐ヶ丘投票所において持ち帰り1枚が判明したとして上記公表を訂正した。

しかし,開票時に現物により数を確認していたはずで,投票カードの持ち帰りがログの解析で分ったなどということは有り得ない。可児市選管は,数字を合わせるために工作を行い,持ち帰りがあったということにしたものである。

サ 違法な開票の執行

特例法9条4項の規定により,開票管理者は立会人とともに記録媒体に記録された投票を電子計算機で集計し,得票を計算しなければならない。そして,開票管理者たる選挙長は,立会人の意見を聴いて投票の効力を決定しなければならない。

ところが,本件選挙の開票においては,開票管理者及び立会人は,投票所から開票所に送致された記録媒体の封印,故障の有無を確認していない。

また,開票作業は,記録媒体及び電子計算機が立会人から見えない状態に置かれ,説明もないまま,ムサシの従業員により集計が行われ,かつ,立会人の意見を聴くこともなく開票事務を執行した。

電子投票の開票における立会人の業務は,記録媒体の異常の有無,電子計算機を用いた集計に立ち会い,正しい計算の確認,無効となる事態に対する意見の陳述等が主なものである。

選挙の最終の段階である開票事務に候補者から届け出た立会人を立ち会わせるのは,候補者の利益を代表する者をして開票事務の公正な執行を監視せしめるためであるから,立会人を無視し,拒否しあるいは立会人を欠いた状態で開票事務を行なうときは,結局のところ候補者をしてこれらが公正に行われたか,違法な執行がなかったかどうかを知らしめないことに帰着することになる。

本件選挙の開票は,立会人を無視し,立会人を欠いた状態で行われたのであるから,特例法9条の規定に違反し,かつ,不正が行われる機会を出現させたもので,選挙の規定に違反する。

シ 複写した記録媒体による開票

投票の集計は,記録媒体の原本(正MO)を用いなければならないのに,複写した記録媒体(副MO)により行われた。これは特例法10条2項に違反する。

ス 投票記録の削除

本件選挙において記録媒体(MO)から516票の投票記録が削除されたこと,開票サーバにおいて記録媒体(MO)から103票の投票記録を無視して集計しなかったこと,さらに開票に際して13票を記録媒体の投票記録を無視して集計から除外したことは,いずれも「投票の記録媒体に記録された投票を電子計算機を用いて集計する」と規定した特例法9条4項に違反する。

複数回の投票行為によって過剰投票とされた632票(619票と13票)は,本来無効たるべき投票(潜在的無効投票)であるから公職選挙法209条の2の規定が準用されるものである。

しかし,特例法ではこのような場合を想定しておらず,票数も多いことから,無効となる投票数が最下位当選者の得票と最高位落選者の得票との差に等しいか又は多い場合は,この投票の存在が最下位の当選者の当選に影響を及ぼすものとして扱うものと解すべきである。

なお,被告は,たとえMOに複数回投票が記録されたとしても,そのMOが同一のMOであれば投票時に後に記録された投票の記録を採用する処理を行ったのだから,一応は選挙人が一の選挙において2以上の投票の記録を行ったとしても,結果として1票を投じたと同様な状態となるから瑕疵があったとはいえないとするが,これは選挙規定によらないで操作して記録媒体の投票記録を加工改ざんするものであり,特例法16条1項に違反する。

また,これは,投票の増減罪(公職選挙法237条第4項)に該当するもので,行ってはならないことである。

セ まとめ

以上のとおり,本件選挙は,選挙の規定に違反した管理執行がされているところ,これにより本件選挙の結果に異動を及ぼしたことは明らかである。

なお,被告は,ログを解析した結果等から本件選挙の結果に異動を及ぼす虞はないとするが,選挙においては,普通選挙及び投票の秘密が保障されているから,事後に投票の記録を追跡して投票の有効無効等を調査,判断することは,憲法に違反し許されない。

(3)  電子投票機の機能停止により投票を断念した選挙人の存在

ア 投票を断念した選挙人の数

選挙の管理に当たる可児市選管及び投票管理者は,選挙人が投票するに際し,自由かつ容易に権利を行使し義務を果たし得るよう措置すべき責任を有するものであるから,投票所の設備の不備のため選挙の投票に長時間を要する状況にあるにもかかわらず,事務の円滑,順調,迅速処理のため適切な措置をとらず,ひいて棄権率を高めた事実が認められたときは,その管理の失当のため,自由公正な選挙を阻害する結果を招来し,選挙に関する法規の精神に反するものとして違法たるを免れない(東京高裁昭27.11.26判決)。

本件選挙では,全投票所で電子投票機に機能障害が発生したが,その延べ時間は,17時間13分(うち完全停止9時間26分)であり,このような長時間の障害が選挙人の棄権率を高めた。本件投票機の機能障害により投票を棄権した選挙人の数は,原告の調査や新聞,雑誌などによれば2200人はいた。

このことは,本件選挙は前回(平成11年)の選挙に比べて選挙人が3908人増加しているにもかかわらず,投票所での投票者が892人減少(なお,本件投票機が停止した午前11時までの投票者は1421人少なく,午後5時から8時までの投票者は2482人少ない。)し,投票率が低下していることからも明らかである。

なお,可児市選管は,9時間26分(うち完全停止9時間26分),被告は復旧までに15時間33分(うち完全停止2時間4分)と主張し,また,可児市選管は,本件電子投票機の機能停止による中断で投票をしないで帰った選挙人は皆無に等しいと主張している。

しかし,復旧を待ちきれず投票カードを返してしまった選挙人がいることは被告も認めるところであり,投票所で待機していた選挙人の中には投票をしないで帰った者もいる。そして,可児市選管が帰った者は皆無に等しいとする根拠は,いずれも合理性がないから,結局,帰った者が皆無に等しいとする被告の主張は理由がないというべきである。

また,被告は,午後からは正常な状態で投票できたことを理由に,選挙人が一旦帰宅しても後で投票を行うことができたと主張するが,勤務時間,催事,旅行等の都合により再度投票所に赴くことが困難な選挙人が多数いることは容易に推察される。

イ まとめ

以上のとおり,本件投票機の機能停止による混乱を受けて選挙人2200人が投票を断念せざるを得なかったが,これは,選挙人の意思ではなく,可児市選管の電子投票機等の選定,サーバの稼動停止等の機器の不備,運営の瑕疵及び投票所の管理の過失によるものである。

投票を終了するまでに長時間を要することとなり,棄権率を高めた原因を招いたのは,可児市選管の責任に帰着するものであるから選挙の無効原因となる。

なお,被告の主張どおり,最下位当選人と次点者との差が35票であり,本件選挙の結果に異動を及ぼすものが24票であるならば,棄権した選挙人が11人以上いれば,本件選挙は無効となる。

(4)  結論

以上のとおり,本件選挙は違法な電子投票機により行われたもので,可児市選管が行った本件選挙の執行には違法があり,本件投票機の異常により多数の棄権者が発生したのであるから,本件選挙の結果には異動を及ぼす虞があるというべきである。

したがって,被告の裁決は取り消されるべきであり,また,本件選挙は無効である。

4  被告の認否・反論

(1)  原告らの主張(1)(違法な電子投票機による選挙の実施)について

ア 特例法4条1項1号違反について

選挙人が一の選挙において2以上の投票を行うことを防止できるものであるためには,記録媒体(MO)に投票の記録がされたならば,そのことを確実に選挙人並びに選挙管理者,投票立会人及び投票事務従事者に認識せしめる機能を有することが不可欠である。

本件投票機は,機械自体においてはその機能を具備していたが,投票機の投票サーバが,その内蔵する記録媒体(MO)ユニットの温度上昇により,投票の記録の遅延を来たし,投票が行われて記録媒体に投票が記録されたにもかかわらず,投票端末に投票の記録が完了したという情報を送信できず,投票端末がその情報を受信できなかったという異常(以下「投票記録の遅延」という。)や,投票機の投票サーバが,その内蔵するMOユニットの温度上昇により,投票の記録に失敗し,投票端末に投票の記録が完了したという情報を送信できず,投票端末がその情報を受信できなかったという異常(以下「投票の記録の失敗」という。)が発生した。

そのため,実際にはMOに投票が記録されたにもかかわらず,投票端末がその情報を受信できず,最後まで投票できたことが選挙人並びに投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者のだれにも認識できなかった投票カードが15投票所で25枚発生した。

このうちの9枚については,これらの投票カードの交付を受けた9人の選挙人がそれぞれ当該投票カードを投票管理者に返却し,その場で別の投票カードの交付を受けて投票し,又は一旦投票所を出て投票機の異常復旧後に再度投票所に入場し,別の投票カードの交付を受けて投票したものであり,1人2票を投じたことになる。

また,本件選挙においては,1枚の投票カードによって複数回にわたって投票の記録が行われたこと,及び一旦記録された投票の記録を削除または採用しなかったことがある。すなわち,本件選挙においては,複数回MOに投票を記録した投票カードが404枚あり,これら404枚の投票カードによって1023回MOに投票の記録をし,結果として619回余分に投票の記録をした。このうち,同一のMOのみに投票を記録した投票カードが295枚,異なるMOに投票を記録した投票カードが109枚あった。

投票機による投票行為は,特例法3条1項において「選挙人が,自ら,投票所において,電磁的記録式投票機を操作することにより,当該電磁的記録式投票機に記録されている公職の候補者のうちその投票をしようとするもの1人を選択し,かつ,当該公職の候補者を選択したことを電磁的記録媒体に記録する方式による」こととされており,電磁的記録媒体に記録されれば投票行為が完結するのであるから,1枚の投票カードにより複数回電磁的記録媒体に投票の記録をした場合は,1枚の投票カードによって複数回投票行為を完結したこととなり,本件選挙においては,619回余分の投票行為が行われた。

したがって,本件投票機は,特例法4条1項1号に掲げる条件を一時的に具備していない状態であった。

イ 特例法4条1項2号違反について

特例法4条1項2号は「投票の秘密が侵されないものであること」という条件を規定しているが,投票の秘密は憲法上の要請であり,投票機において,投票内容を選挙人が特定できるような形で記録することが許されないことは当然であり,そのことを明示的に規定したものと解される。

本件投票機においては,MOに記録された投票の記録は,投票カード発行時に無作為に付されるカード番号により管理されていたが,このことにより直ちに選挙人がどの候補者に投票したかを特定できるものではないので,本件投票機が,特例法4条1項2号に掲げる要件を具備していないとはいえない。

なお,本件投票機においては,投票データの投票時刻は全て同一時刻として記録されていたが,ログ及び投票結果は,投票カード発行時に無作為に付されるカード番号で管理されていたため,カード番号を追跡すれば,投票カード発行時間,投票時間及び投票データを特定できる仕組みとなっていた。

ウ 特例法4条1項4号違反について

上記のとおり,本件投票機は,投票操作が行われたにもかかわらず,MOに投票の記録を行えない状態に陥り,そのことを即時に選挙人に知らせる機能は有していたものの,結果的に最後まで投票できなかった投票カードを13枚発生させ,97回にわたり投票の記録の失敗を発生させたものであるから,「電磁的記録式投票機の操作により公職の候補者のいずれを選択したかを電磁的記録媒体に確実に記録することができるものであること」という特例法4条1項4号に掲げる条件を一時的に具備していない状態にあった。

また,一旦,MOに記録された投票の記録は確実に保存されなければならず,投票の記録が削除されることがあってはならないところ,後記被告の認否・反論カのとおり,一時的にとはいえ,合計516個の投票の記録を削除した本件投票機は,特例法4条1項4号に規定する条件を,一時的に具備していない状態にあったと認められる。

しかし,開票において同一の投票カードによる投票が1票しか採用されていないこと,同一の投票カードによる投票操作は通常は同一の選挙人により行われるものと考えられることから,以上の事実によって直ちに本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできない。

エ 特例法4条1項5号違反について

争う。

オ 特例法4条1項7号違反について

特例法4条1項7号は,投票機に管理操作のための機能を組み込むことを禁止するものではなく,管理操作を行うときにパスワードや鍵等を要求するべきことを求める規定と解される。

本件投票機は,その画面の四隅を順次触れて特定番号(77777)を入力すると機械管理等の操作ができるようになっていた。

しかし,ムサシの従業員が可児市選管の立会いもなく,単独で投票機の内部の操作を行い,投票記録を改ざんしたことはない。

カ 特例法4条1項8号違反について

本件投票機は,同じ投票カードによって複数回にわたってMOに投票の記録をした場合において,同一のMOに投票が記録された場合は,投票サーバにおいて,既に存在している同一の投票カード番号による投票の記録を削除して新たな投票を記録し,異なるMOに投票が記録された場合は,開票時に開票サーバにおいて,MO内に記録されている投票サーバの使用開始時刻を比較し,使用開始時刻が後のMOに記録された投票の記録を採用し,使用開始時刻が先のMOに記録された投票の記録は採用しない仕組みになっていた。

このため,本件選挙においては,投票サーバにおいて516個の投票の記録がMOから削除され,開票サーバにおいて103個の投票の記録が一定のルールの下で採用されなかった。

このように,1枚の投票カードでMOに複数回投票の記録をした場合に限り,過去の投票の記録を削除する機能を本件投票機が有していたため自動的に削除されたもので,恣意的かつ人為的に削除できる機能は組み込まれておらず,恣意的かつ人為的な記録の削除が実行されたとはいえないから,特例法4条1項8号に違反しているとはいえない。

なお,上記被告の認否・反論アのとおり,本件投票機においては,実際にはMOに投票が記録されたにもかかわらず,投票端末がその情報を受信できず,最後まで投票できたことが選挙人並びに投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者の誰にも認識できなかった投票カードが15投票所で25枚発生したものであるから,一時的に特例法4条1項8号の条件を具備していなかった。

キ その他の瑕疵について

(ア) 同(ア)について

上記のとおり,本件投票機の投票サーバがMOユニットの温度上昇により,投票記録の遅延や,投票記録の失敗の現象を発生させ,投票端末の操作を行ったにもかかわらず,当該投票端末において失敗の表示がなされ,最後まで投票の完了を選挙人本人,投票管理者,投票立会人のいずれも確認できない事象が発生した。

そこで,復旧のため,第1サーバから第2サーバへの切り換え,扇風機による投票機の冷却等の措置を講じ,障害の除去に努めた。

その結果,本件投票機に異常が発生した時間帯は投票所毎に9〜83分間であった。

(イ) 同(イ)について

上記のとおり,本件投票機においては,投票の記録の遅延により15投票所で25枚の投票カードについて,実際にはMOに投票が記録されたにもかかわらず,投票できたことが最後まで選挙人並びに投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者のだれにも認識できない,すなわち,これら選挙人に投票をしたという自覚がなかったにもかかわらず,投票の記録がされた等の事由が一時的に生じていた。

このことにより,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞のある票数は二重投票9票を含む24票である。

(ウ) 同(ウ)について

不知。

(エ) 同(エ)について

否認する。

(オ) 同(オ)について

否認する。

(カ) 同(カ)について

主任者と副主任者のパスワードが同じであり,パスワードがマニュアルに記載されていたことは認める。

ク その他の事情について

不知。なお,補助金の申請を取り下げるに至ったことのみをもって直ちに本件投票機が特例法4条1項に規定する条件を具備しないという原告らの主張に合理性は認められない。

ケ まとめについて

本件投票機は,特例法4条1項1号,4号及び8号に掲げる条件を一時的に具備していない状態にあり,これにより二重投票が生じたり,選挙人の投票が阻害される等したが,本件選挙の結果に影響を及ぼす票は24票であり,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があったということはできない。

(2)  原告らの主張(2)(違法な可児市選管の選挙管理の執行)について

ア 取扱い記録の不作成について

電磁的記録式投票において投票カードは投票用紙に代わるものであり,その管理及び受渡しについては特に慎重に扱い,不正使用,紛失等の事故が生じることのないよう,保管者,保管場所の選定及び交付簿の整備等について十分留意すべきことはいうまでもない。そして,本件選挙において,投票カードの可児市選管と投票管理者間の受渡し等に関する記録は作成されていなかった。

しかし,被告が確認した64枚の投票カードの保管状況及び可児市選管の弁明書からは,投票カードの不正使用等を疑うべき特段の事情は認定できなかったので,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞はないと判断した。

イ 投票カードの不正発行について

投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数は4万1244枚であり,それ以外に投票カードが発券された事実はない。

なお,被告の調査によれば,投票カード発券機には,120回投票カード発券に失敗した操作記録が残っているが,当該発券に失敗した投票カードによって投票することはできない。

ウ 二重投票等について

(ア) 2枚の投票カードの交付による二重投票について

本件投票機に異常が発生したため,実際には記録媒体に投票の記録がされていたにもかかわらず,投票端末がその情報を受信できず,最後まで投票できたことが認識できなかった投票カードが発生したため,このカードの交付を受けた選挙人が別の投票カードの交付を受けて投票を行ったことによる二重投票があったことは認める。

その数は,今渡南投票所で1人,川合投票所で2人,下恵土南投票所で1人,西帷子投票所で1人,東帷子投票所で1人,南帷子投票所で2人,羽生ヶ丘投票所で1人の合計9人である。

上記のような場合における模範的処理は,投票管理者が,これら9人の選挙人に対し,当初その選挙人に交付していた投票カードによって,再度投票を行わせることである。しかし,投票機の異常によって実際にはMOに投票が記録されたにもかかわらず,投票できたことが確認できず,やむを得ず投票カードを投票管理者に返却した選挙人がいた場合,投票管理者において返却された投票カードが依然として投票できる状態であることを確認したものの,当該投票カードに何らかの異常がある可能性を考慮し,当該選挙人が円滑に投票が行えるようにとの見地から別の投票カードを交付して投票を行わせたことは,投票現場での臨機の処置としては,やむを得ない措置であって,結果的に1人2票を投じたことを投票管理者の責めに帰することはできないというべきである。

なお,今渡南投票所では,投票中に投票機が一時停止となったため,可児市選管の指示により,投票機に挿入された投票カード16枚を強制排出し,その際,強制排出した投票カードの状態や選挙人の氏名等の確認をせず,また記録もしなかったが,当該選挙人を投票中に一時停止した投票機の前で投票事務従事者とともに待機させ,複数の投票事務従事者が選挙人の顔を確認した上,強制排出した投票カードの交付を受けていた選挙人に新たな投票カードを交付した。したがって,今渡南投票所において本件選挙の結果に異動を及ぼす虞れがある票は2票にとどまる。

また,可児市選管の調査によれば,広見第2投票所において,午前7時55分ころ,1台の投票端末の画面のタッチ感度が鈍くなり,投票事務従事者が許可を得て投票管理者等の立会のもとでタッチ感度の調整中,操作を誤り「終了」に触れた事例が1件あったとされていることは認める。

(イ) 1枚の投票カードによる二重投票について

本件投票機に異常が発生したため,投票サーバのログ上で投票完了となった投票カード4万1216枚のうち,複数回投票の記録をした投票カードが404枚あり,これら404枚の投票カードによって,MOに1023回の投票の記録をしたこと,すなわち,619回余分に投票の記録をしたことは認める。なお,内訳は以下のとおりである。

2回の投票265枚 延べ530件投票完了

3回の投票89枚 延べ267件投票完了

4回の投票34枚 延べ136件投票完了

5回の投票10枚 延べ50件投票完了

6回の投票3枚 延べ18件投票完了

7回の投票2枚 延べ14件投票完了

8回の投票1枚 延べ8件投票完了

上記のとおり,開票において同一の投票カードによる投票が1票しか採用されていないこと,同一の投票カードによる投票操作は通常は同一の選挙人により行われるものと考えられることからすると,上記の事実によって直ちに本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできない。

(ウ) 非選挙人による投票について

上記ウ,(ア)のとおり,広見第2投票所において,投票事務従事者がタッチ感度の調整中,操作を誤り「終了」に触れた事例が1件あったとされていることは認める。

エ 障害発生中の投票について

本件投票機が不安定な状態にあったため,投票の記録の成功も認められる一方,投票の記録の失敗又は遅延も認められ,これらが混在していた状態にあったことは認める。

オ 選挙人の意思によらない白票について

原告らは不明票が262票とするが,これは,電子投票機の操作を途中で終了した者であり,不明票ではない。

電磁的記録式投票においては,特例法2条2号の規定により投票機に白票の表示は設けないが,終了の表示は設けるものであり,開票録又は選挙録にもそれに対応して投票機の操作を途中で終了した者の数を記載することとされている。すなわち,投票機においても,投票用紙と同様,投票所においてどの候補者にも投票しない意思を表示できる機会が与えられているのである。

本件選挙においても,どの候補者にも投票しない意思を表示した選挙人が相当数いたことは容易に推認でき,投票機の操作を途中で終了した262人の票は不明票であるとする原告らの主張には合理性がない。

カ 記録媒体切替え手続の違法について

投票機の異常発生により投票サーバを切り替える場合において,第1サーバから第2サーバへの切替えにおいては,第2サーバにMOが挿入されていないので,単に第2サーバに新たなMOを挿入するのみだったが,その後の第2サーバから第1サーバへの切替えにおいて,及びさらにその後の第1サーバから第2サーバへの切替えにおいては,切替え先の投票サーバに既にMOが挿入されていたため,当該MOを取り出し,新たに別のMOを挿入する措置が取られた。

既に挿入されていたMOを取り出す措置は,今渡南,土田西,西帷子,長坂,二野,大森及び広見第2の7投票所でとられた。

キ 記録媒体の非封印について

塩河投票所から開票所へ送致された正MO2枚,副MO2枚について,送致時に封印がされておらず,特例法施行令2条5項の規定に違反することは認める。

しかし,当該MOのすり替えが行われたという事実はなく,選挙の規定に違反することがあったとはいえ,そのことをもって直ちに本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があったということはできない。

ク 記録媒体の取扱いの誤りについて

本件選挙においては,記録媒体(MO)に予め①電磁的記録媒体である旨,②(正)(副)の別,③サーバ①用,サーバ②用の別,④投票所名を表示したラベルが貼付されており,記録媒体(MO)は,このラベルに従って所定のMOドライブに挿入することとされていた。したがって,原本と複写の区分及び表示は後記の一部の例外を除き明確であり,その区分及び表示に従って開票所に送致された。

今渡北投票所の第2サーバ分について,副MOを用いて開票が行われたが,これは,投票所における送致箱の収納の際,正副を取り違え,開票所においては正MOの送致箱に収納されていたMOにより開票を行ったことにより生じたものである。

また,緑投票所においては,MOの表示が異なっていたが,これは,投票事務従事者が,投票開始前の第1サーバへのMOの挿入の際,予めMOに付されていた表示により,副MO挿入場所(a)にMO(a)を挿入すべきところ,誤ってMO(B)を挿入し,投票機の異常発生による第1サーバから第2サーバへの切替えに伴う第2サーバへのMOの挿入の際,MO(b)を副MO挿入場所(b)に挿入し,残余のMO(a)を正MOの挿入場所(B)に挿入したことにより,MOの表示とその保有する情報の不一致が生じ,これが治癒されないまま開票所に送致されたものと推測される。

ケ 記録媒体の改ざんについて

(ア) 同(ア)について

企業派遣職員11人については,平成15年7月12日開催の可児市選管において電磁的記録式投票の特殊性に鑑み開票事務従事者に任命する旨決定されたものであり,その手続き及び管理に違法はない。

また,本件選挙の選挙会及び開票の事務において原告らが主張するような選挙長の無視又は開票立会人の排除という違法行為が行われた事実はない。

(イ) 同(イ)について

本件投票機は,同じ投票カードによって複数回にわたってMOに投票の記録をした場合において,同一のMOに投票が記録された場合は,投票サーバにおいて,既に存在している同一の投票カード番号による投票の記録を削除して新たな投票を記録し,異なるMOに投票が記録された場合は,開票時に開票サーバにおいて,MO内に記録されている投票サーバの使用開始時刻を比較し,使用開始時刻が後のMOに記録された投票の記録を採用し,使用開始時刻が先のMOに記録された投票の記録は採用しない仕組みになっていた。

このため,本件選挙においては,投票サーバにおいて516個の投票の記録がMOから削除され,開票サーバにおいて103個の投票の記録が一定のルールの下で採用されなかったと認められる。

一旦,MOに記録された投票の記録は確実に保存されなければならず,投票の記録が削除されることがあってはならないのであり,一時的にとはいえ,合計516個の投票の記録を削除した本件選挙に用いられた投票機は,特例法4条1項4号に規定する「電磁的記録式投票機の操作により公職の候補者のいずれを選択したかを電磁的記録媒体に確実に記録することができるものであること」という条件を,一時的に具備していない状態にあったと認められる。

また,開票サーバにおいて103個の投票の記録を採用しなかったことは,開票所において投票の記録の取捨選択が行われたものであり,このことは電磁的記録式投票の開票について「投票の電磁的記録媒体に記録された投票を電子計算機を用いて集計する」と規定した特例法9条4項に違反するものであると認められる。

しかし,開票において同一の投票カードによる投票が1票しか採用されていないこと,同一の投票カードによる投票操作は通常は同一の選挙人により行われるものと考えられることから,以上の事実によって直ちに本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできない。

なお,可児市選管によるログ記録の改ざんの主張については,システム監査報告書に原告ら主張の記載があること及び本件選挙に用いた投票端末189台のうち,故障等によりログが取得できなかった投票端末が6投票所で9台あったことは認め,その余は知らない。

(ウ) 同(ウ)について

被告が記録媒体の開披点検を行った際,開票に用いないため通常封印がなされている副MO保存用箱に保存されていたMOのうち,緑投票所分には,保存されていた2枚のMOにはいずれも封印はなく,かつ封印が破棄された形跡が存在したことは認める。

コ 不正工作について

否認ないし争う。愛岐ヶ丘投票所における本件選挙の結果に異動を及ぼす票の検討をしたところ,投票数が投票者数よりも1票少ないが,投票者数と投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数が一致すること,投票者数よりも投票サーバのログに記録された投票カード数が1枚少ないこと,最後まで投票できなかった投票カードがないことから,持ち帰り等(投票カードの交付を受けたが投票機にカードを挿入せずに退出したケース)があったと考えられ,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞はないものと判断した。

サ 違法な開票の執行について

特例法9条4項により開票管理者は開票立会人とともに記録媒体に記録された投票を電子計算機で集計し,得票を計算しなければならないこと,そして開票立会人の意見を聴いて投票の効力を決定しなければならないことは認め,その余は否認する。

本件選挙の選挙会及び開票の事務が選挙長の指揮のもと開票立会人の立会を得て実施されたことは選挙録から明らかである。

また,企業派遣職員11人については,平成15年7月12日開催の可児市選管において電磁的記録式投票の特殊性に鑑み,開票事務従事者に任命する旨決定されたことは議事録から明らかであり,その手続及び管理に違法はない。

そして,本件選挙の選挙会及び開票の事務において原告らが主張するような選挙長の無視又は開票立会人の排除という違法行為があったと認めるに足りる資料はない。

シ 複写した記録媒体による開票について

投票の集計は,記録媒体の原本(正MO)を用いなければならないこと,今渡北投票所分において,MOを送致箱に収納する際,正副を取り違え,そのまま送致をし,開票所において,正MOの送致箱に収納されていた副MOを用いて開票が行われたことは認める。

ス 投票記録の削除について

選挙の規定によらないで記録媒体の投票記録を加工したことが特例法に違反することは認め,記録媒体の投票記録が改ざんされたことは否認し,投票の増減罪に該当することは争う。

本件投票機は,一時的に,同一のカードによって複数回MOに投票の記録をすることにより,余分に619回の投票の記録を行ったり,投票サーバで516個の投票の記録を削除したり,開票サーバで103個の投票の記録を採用しないという状態にあった。

しかし,1枚の投票カードでMOに複数回投票の記録をした場合には,本件投票機のシステム上採用された方法により,一定のルールのもと,516件の投票の記録を削除したものであり,罰則をもって対応すべき自由に表明された選挙人の意思を不正行為によって歪曲しようとするがごとき悪質な行為とは本質的に異なる。

そして,被告の上記主張のとおり,結果として,開票において同一カードによる投票が1票しか採用されていないこと,同一の投票カードによる投票操作は通常は同一の選挙人により行われるものと考えられることから,上記の状態によって直ちに選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということはできない。

セ まとめについて

争う。本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるのは24票である。

(3)  原告らの主張(3)(電子投票機の機能停止による投票を断念した選挙人の存在)について

ア 投票を断念した選挙人の数について

否認ないし争う。本件投票機の異常により,全29投票所で,最長1時間23分,合計15時間33分の正常に投票できない時間帯を発生させ,その間,選挙人は,全投票所の投票端末において少なくとも697回の投票の失敗に直面し,あるいは1枚の投票カードで最高8回にわたって投票操作を試み,あるいは最後まで投票できない(または実際にはMOに投票が記録されていたにもかかわらずそのことが認識できない)状態におかれた。

可児市選管の主張によれば,投票機に異常が発生した間,受付済みの選挙人が全投票所で265人おり,そのうち投票しないで一旦帰ってしまった選挙人が15人いた。その間,受付前で並んでいた選挙人は全投票所で少なくとも概ね1000人程度いた。

そして,本件投票機の異常により,投票所で受付済みの選挙人256人のうち,投票行為を完了しないで一旦帰った選挙人が15人おり,そのうち3人は再来場しなかった。

また,投票所入場前の待機者については,可児市選管の平成16年4月30日付け弁明書,及び可児市選管から提出された各投票管理者等からの聞き取り調査復命書の写,並びに今渡南投票所の投票管理者等の証人尋問の結果により,投票所入場前の少なくとも概ね1000人程度の待機者について,各投票所の投票事務従事者が待機者に対し,投票機に異常が発生した事情を説明したり,椅子を出したりして待ってもらっていたこと等により,投票しないで帰ってしまった選挙人は皆無に近く,ほぼ全員が投票したものと認められる。

なお,原告らは本件投票機の異常が発生したことが投票率低下の原因となった旨主張するが,今回の投票率の低下が本件投票機に異常が発生したことによることの確たる証拠はない。

イ まとめについて

争う。被告の上記主張のとおり,本件投票機に異常が発生した際に受付以後の選挙人が全投票所で265人いて,そのうち投票行為を完了しないで一旦帰ってしまった選挙人は15人いたが,そのうち投票所へ再来場しなかった3人以外は全員再来場して投票を済ませた。

また,本件投票機に異常が発生したため投票所入場前(受付前)の待機者は少なくとも概ね1000人程度いたが,投票しないで帰ってしまった選挙人は皆無に近く,ほぼ全員が投票したものと認められる。

そして,仮に帰ってしまった選挙人があったとしても,本件投票機に異常が発生したのは午前中であり,午後からは正常に投票が行える状態にあったこと,可児市選管が同報無線によって選挙人に対して投票機の復旧状況を知らせるといった補完措置を講じている。

さらに,本件投票機に異常が発生した間については,投票の記録の成功並びに失敗及び遅延が混在していたものの,完全には停止しておらず,投票所が閉鎖されたという明白な事実が認められない。

以上の事実によれば,待機者が1000人程度いたとしても,このことによって選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとまではいえない。

(4)  原告らの主張(4)(結論)について

争う。本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるのは24票であって,投票機の異常による待機者が1000人程度いたとしても,ほぼ全員が投票したものと認められるから,選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとまではいえない。

第3  当裁判所の判断

1  本件選挙について

上記争いのない事実等及び証拠(甲5ないし7,21ないし24,37,39,40,47,48,51の1〜3,61,64の1〜8,70,乙1ないし5,9,14ないし18,20ないし22,30,32,34,36ないし38,42,53)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,上記証拠のうち,以下の認定に反する部分は採用しない。

(1)  平成15年7月20日に岐阜県可児市議会議員選挙(本件選挙)が執行された。

(2)  本件選挙については,特例法の規定に基づき電子投票機を用いて行う投票により執行された。ただし,不在者投票,仮投票については,公職選挙法による従来からの投票用紙を用いた投票により執行された。

(3)  本件投票機の型式は,「クライアントサーバ型電磁的記録式投票システム テラックEM100」というものであり,投票端末(クライアント機)とシステムを制御する主装置(投票サーバ機)によるクライアント・サーバ方式が採用されていた。

(4)  本件投票機のシステム(構造)の概要は以下のとおりである。

ア 投票機は,公職の候補者のいずれを選択したかを記録媒体に記録する部分(投票サーバ)及び選挙人が操作したことにより公職の候補者のいずれかを選択する部分(操作端末)により構成し,投票サーバには1以上の操作端末を接続する。

イ 投票サーバは,投票の記録媒体(原本)及び投票を複写する記録媒体(複本)の書き込み装置を内蔵する。

ウ 操作端末にはタッチパネル式の液晶表示画面を備える。

エ 操作端末は,非接触型ICカード(投票カード)の読み書き装置を内蔵する。

オ 投票に用いる投票カードを発行するため,パーソナルコンピューターと非接触型ICカード読み書き装置で構成される投票カード発券機を別に備える。

カ 操作端末の動作状態を表示するための操作端末動作状態3色表示灯を備える。

(5)  本件投票機のシステム(機能)の概要は以下のとおりである。

ア 投票資格の確認

(ア) 選挙人は,投票日当日,当該投票所で交付された投票カードによってのみ,操作端末での投票操作を行う。

(イ) 投票カードの二重使用に対処するため,投票カードを操作端末に挿入後,投票したデータが原本と複本に正しく記録されたことを確認した時点で,投票カードに投票済みであると記録し,再使用を防止する。

(ウ) 選挙人が投票カードを操作端末に挿入した後は,当該選挙人は投票を中断することはできない。

イ 候補者の選択

(ア) 操作端末には,公職の候補者1名のみを選択することができる候補者の氏名及び党派別(以下「候補者の氏名等」という。)選択画面を有する。

(イ) 候補者の氏名等選択後,投票が記録される前に,選挙人が選択した候補者の氏名等を拡大表示し,選択内容を確認できる画面(以下「確認画面」という。)を有する。

(ウ) 上記確認画面に,選択内容の変更機能を有する。

(エ) 候補者の氏名等選択画面に,候補者の氏名等を選択せず投票を途中で終了するための選択機能を有するとともに,当該選択内容が記録される前に拡大表示し,選挙人が確認又は変更できる機能を有する。

ウ 投票内容の記録

(ア) 個々の選挙人の投票は,固定長形式のデータとして原本に記録される。このデータは暗号化されることにより投票データの特定を防ぐ。

(イ) 個々の選挙人の投票に関する記録は,原本のみ記録され,投票機本体には,投票に関する一切の記録を保存しない。

(ウ) 投票データの特定を防ぐため,原本には選挙人に関連づけられた固有情報を記録しない。

(エ) 選挙人が投票を記録する操作を行うと同時に,原本に投票データが記録される。

(オ) 選挙人の投票が原本に記録された後,記録された投票データを読み出し,正しく記録されたかの照合を行う。

エ 操作端末動作状態の表示

操作端末動作状態3色表示灯は,投票管理者及び投票立会人が容易に確認できる位置に設置し,選挙人が投票できる状態である間は緑色に点灯,投票を行っている間はオレンジ色に点灯,全ての投票行為が完了するとオレンジ色と緑色が同時に点灯,異常発生時には赤色に点灯,その他の場合は点灯しないことにより動作状態を表示する。

オ 運用記録の保存

投票機の起動から終了に至るまでの作動状況を,時刻,操作内容等の別に,原本に記録する。原本への記録確認後,副本に記録する。なお,当該記録については,選挙人と投票結果が結びつかない形式とする。

カ 投票機の管理

(ア) 電磁的記録媒体収納部は投票サーバの施錠可能な開閉式ドア内部に取り付けた施錠可能な開閉式ドア内部に配置し,それぞれのドアを解錠することにより原本及び副本を取り出すことができる。

(イ) 投票サーバの電源スイッチは,投票サーバの施錠可能な開閉式ドア内部に配置する。操作端末の電源スイッチは,操作端末前面の施錠可能な開閉式ドア内部に配置する。

(ウ) 投票機の投票開始の操作は,投票サーバにて行い,投票管理者が管理する識別番号及び暗証番号による認証手続を必要とする。

(エ) 投票機の投票終了の操作は,投票サーバにて行い,投票管理者が管理する識別番号及び暗証番号による認証手続を必要とする。

キ 基本的操作方法

(ア) 選挙人は投票日当日,投票所において交付された投票カードを操作端末本体前面の挿入口に挿入することにより,当該選挙の投票を開始する。

(イ) 候補者の氏名等選択画面に表示された全ての候補者の氏名等の中から,選挙人が投票しようとする候補者を,当該選択画面に表示された候補者の氏名等に触れることにより選択する。選択した候補者の氏名等は,確認画面に拡大表示される。

(ウ) 上記(イ)により選択した候補者の氏名等が確認画面に拡大表示された際,選挙人が当該候補者に投票しようとするときは,当該確認画面の「はい」に触れ,投票を原本に記録する。

(エ) 上記(イ)により確認画面に拡大表示された候補者の氏名等が,選挙人が投票しようとする候補者の氏名等でなかった場合は,当該確認画面の「いいえ」に触れることにより,全ての候補者の氏名等が表示された選択画面を再度表示させることができる。

(オ) 候補者の氏名等を選択せず投票を途中で終了する場合は,候補者の氏名等選択画面の「終了」に触れ,候補者の氏名等を選択せず投票を途中で終了することを選択する。選択した内容は,確認画面に拡大表示される。

(カ) 上記(オ)により確認画面に拡大表示された内容を確認し,投票を途中で終了する場合には,画面の「はい」に触れ,当該内容を原本に記録する。

(キ) 上記(オ)により確認画面に拡大表示された内容を変更する場合は,当該確認画面の「いいえ」に触れることにより,全ての候補者の氏名等が表示された選択画面を再度表示させることができる。この操作は繰り返し行うことができる。

(ク) (ウ)又は(カ)の操作を行った場合,当該選挙の投票は終了する。

(6)  可児市選管は,平成15年7月12日,本件選挙が電子投票機を用いる方法により実施されることから,ムサシ又は富士通フロンテック株式会社の社員を投開票作業の補助に当たらせる必要があると考え,投票事務従事者として各投票者に1人ずつ(ただし,ゆとりピアのみ視察投票所のため3人。)計31人,開票事務従事者として11人を任命した。

(7)  本件選挙は,全29か所の投票所において投票サーバ58台(予備機29台を含む。),投票端末機189台(予備機29台を含む)を使用して投票が行われた。

投票の手続は,

① 選挙人は,持参した投票所入場券を受付係の係員に交付する,

② 受付係の係員は,受け取った投票所入場券を名簿対照係に送る,

③ 名簿対照係の係員は,本人確認等をした上,当該投票所入場券を投票カード交付係に送る,

④ 投票カード交付係の係員は,投票所入場券により男・女の別を確認した上,未入力投票カードをストッカーから取り出し,カード発行機に挿入し,男・女の別をカード発行PCにより入力し,発行処理が完了したら,カード発行機からそのカードを抜き取り,選挙人に手渡す(投票カードを発行しようとしたら,発行処理済みカードである旨の表示が出た投票カードは,「発行処理済みカード封入封筒」に入れて保管する。),

⑤ 選挙人は,投票端末に投票カードを挿入した上,操作端末を操作し投票手続を行う(投票を行わない旨の申出があった場合は,投票カードが未投票の状態であることを確認し,まだ投票していないものとして名簿対照簿のチェックを消し,投票所入場券を返却し,当該投票カードは,「棄権カード封入封筒」に入れて保管する。),

⑥ 投票終了後,選挙人は,投票カードを投票カード回収係の係員に交付し,投票手続を終える,

⑦ 投票カード回収係の係員は,受け取った投票カードを投票カードストッカーに入れる,

⑧ 投票カード回収係の係員は,ストッカーにたまった投票カードが適当な枚数になったら,投票カード発行係にストッカーごと持って行き,空のストッカーと引き換える,

というものである。

なお,本件選挙において,可児市選管と投票管理者間で投票カードの受渡し等に関する記録は作成されなかった。

(8)  本件選挙は,午前7時から投票が開始されたが,午前8時半ころから午前9時半ころにかけて各投票所において投票機に投票の記録の失敗や投票の記録の遅延という異常が発生した。そのため,投票端末はいわゆる「タイムオーバー」として画面上に異常発生の表示をし,また,挿入された投票カードに投票が完了したという情報を記録できなかった。

なお,本件投票機に異常が発生した原因は,ムサシにおいて,投票サーバの放熱ファンの位置を変更する等したことにより,投票サーバ内部の放熱が不十分となり,MOユニットの温度が規格値よりも上昇し,投票の記録の遅延を来たし,投票端末のタイマー内に投票サーバが応答できない状態になったことが原因である。

(9)  本件投票機に異常が発生した投票所においては,投票機の電源を切って再起動したり,第2サーバに切り換えたり,本体の扉を開け,団扇で扇ぐ等の対応が取られた。

上記異常状態が1回発生した投票所(今渡北,下恵土南,土田東,緑,東帷子,若葉台,愛岐ヶ丘,南帷子,塩,塩河,羽生ヶ丘,桜ヶ丘,皐ヶ丘,久々利,広見第1,中恵土)もあれば,2回発生した投票所(今渡南,川合,下恵土北,土田西,渡,西帷子,長坂,矢戸,姫治,大森,広見第2)や3回発生した投票所(二野,広見東)もあった。

本件投票機の異常状態は,多くの投票所では午前9時台に回復したが,午前10時台に回復した投票所(下恵土北,土田西,西帷子,緑,長坂,大森,広見第2,広見東)や午前11時以降に回復した投票所(今渡南,二野)もあった。

各投票所において,本件投票機が異常な状態にあった時間(投票サーバの切り替えにより投票機が完全に停止していた時間も含む。)は以下のとおりであり,最も異常状態が短い広見第1投票所では9分間(完全停止時間は1分間),最も長い今渡南投票所では1時間23分間(完全停止時間は4分間)で,全29投票所の合計時間は15時間33分間(完全停止時間は2時間4分間)であった。

上記異常発生時間(完全停止時間を除く。)中の本件投票機の状態は不安定で,投票の記録の成功も認められる一方,投票の記録の失敗又は遅延も認められ,これらが混在した状態にあった。

投票所名

異常発生(完全停止)時間

今渡北

13分間(3分間)

今渡南

1時間23分間(4分間)

川合

37分間(7分間)

下恵土北

34分間(8分間)

下恵土南

11分間(4分間)

土田東

17分間(1分間)

土田西

38分間(6分間)

42分間(4分間)

西帷子

49分間(8分間)

13分間(6分間)

東帷子

19分間(2分間)

長坂

1時間18分間(14分間)

若葉台

10分間(2分間)

愛岐ヶ丘

44分間(3分間)

南帷子

46分間(2分間)

矢戸

17分間(1分間)

36分間(3分間)

塩河

26分間(1分間)

姫治

34分間(4分間)

羽生ヶ丘

26分間(2分間)

二野

51分間(21分間)

大森

37分間(4分間)

桜ヶ丘

22分間(1分間)

皐ヶ丘

29分間(1分間)

久々利

23分間(1分間)

広見第1

9分間(1分間)

広見第2

45分間(8分間)

広見東

23分間(1分間)

中恵土

21分間(1分間)

合計

15時間33分間(2時間04分間)

(10)  上記29投票所における異常発生時間中,最後まで投票できなかった投票カードが13枚発生(今渡南投票所4枚,長坂投票所7枚,皐ヶ丘投票所1枚,広見第2投票所1枚)し,また,投票の記録の失敗又は投票の記録の遅延により,少なくとも697回の投票失敗(うち,投票の記録の失敗件数は97)という異常が発生した。

また,本件投票機の異常により,実際にはMOに投票の記録がされていたにもかかわらず,投票端末がその情報を受信できなかったため,選挙人並びに投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者の全員が,投票の記録ができたことを認識できず,不良カード等として処理した投票カードが15投票所で合計25枚発生した。

さらに,本件投票機の異常により,操作端末に挿入した投票カードが投票端末から排出されなかった等により正常に使用できなかった投票カードが12投票所において26枚発生した。

(11)  投票の記録の遅延の場合においては,投票サーバが投票完了の状態であるにもかかわらず,投票端末が投票失敗の状態であるため,MOに投票の記録がされているのに,投票カードは投票未完了の状態となって再投票ができるという事態が発生した。すなわち,MOに投票の記録がされても,投票端末の画面上は異常発生の表示がされ,投票カードは依然として投票が可能な状態であることから,選挙人は投票が失敗したと認識し,再び当該投票カードにより投票しようとする事態が発生した。

このようにして,MOに複数回投票の記録をした投票カードは,投票サーバのログ上で投票完了となった投票カード4万1835枚のうち404枚であった。

なお,上記404枚の投票カードの投票回数の内訳は,以下のとおり合計1023回であり,619回過剰に投票していることになる。

2回の投票265枚 延べ530件投票完了

3回の投票89枚 延べ267件投票完了

4回の投票34枚 延べ136件投票完了

5回の投票10枚 延べ50件投票完了

6回の投票3枚 延べ18件投票完了

7回の投票2枚 延べ14件投票完了

8回の投票1枚 延べ8件投票完了

(12)  上記(11)のように1枚の投票カードでMOに複数回投票の記録をした場合には,投票完了があった都度,当該MO内で当該カードによる直前の投票データを消して,新たな投票データが書き込まれる仕組みになっていた。これにより削除された投票の記録は516個である。

また,複数の異なるMOにわたって複数回投票の記録をした場合には,それぞれのMOにおいて最後に書き込まれた投票データが,そのままそれぞれのMOに残り,それが開票の際,開票システムの処理によって,時間的に後に使用を開始したMOの記録の中に記録された投票結果が開票に反映され,それ以外のMOの中に記録された投票結果は,採用されない仕組みになっていた。これにより削除された投票の記録は103個である。

なお,上記(9)のとおり,本件投票機に異常が発生したため第1サーバから第2サーバへ切り換える措置が取られた投票所があったが,第2サーバへ切り換えたにもかかわらず,第1サーバも引き続き稼働していた場合があり,このとき一部の投票端末において第1サーバに接続する現象が発生し,そのため,第2サーバで投票完了になった後に再接続等により第1サーバに接続され,第1サーバでも投票完了となった場合があった。この場合には,開票システムの処理において,先に投票した第2サーバのMOに保存されている投票結果が採用され,後に投票して第1サーバのMOに保存されている投票結果が無視されることになる。この事例は,今渡北投票所で5件,南帷子投票所で5件,広見東投票所で3件発生した。

(13)  本件投票機の異常が原因で,最後まで投票できたことが認識できなかった投票カード等が発生したため,当該投票カードの交付を受けた選挙人に対し別の投票カードを交付して再度投票させた投票所があった。

その数は,確認できたものだけでも,今渡南投票所で16件,川合投票所で2件,下恵土南投票所で2件,西帷子投票所で1件,東帷子投票所で1件,南帷子投票所で2件,羽生ヶ丘投票所で1件,広見第2投票所で1件の合計26件であった。

しかし,先に交付した投票カードによる投票において投票サーバのMOに投票の記録がされていないものもあるため,上記のものが全て二重投票となるのではない。被告が調査したところ,結果として二重投票となったことが確認できたものは,今渡南投票所で2件,川合投票所で2件,下恵土南投票所で1件,西帷子投票所で1件,東帷子投票所で1件,南帷子投票所で2件,羽生ヶ丘投票所で1件の合計10件である。

(14)  広見第2投票所においては,1台の投票端末の画面のタッチ感度が鈍くなり,投票事務従事者であったムサシの従業員が投票管理者等の立会の下でタッチ感度の調整中,操作を誤り「終了」に触れたことがあった。

(15)  上記(9)のとおり本件投票機の異常発生に対処するため,第1サーバから第2サーバへ切り替える措置が取られた投票所があったが,その場合においては,第2サーバに新たなMOを挿入する措置で足りた。ところが,その後,第2サーバから第1サーバへの切替え,あるいは再び第1サーバから第2サーバへの切替えが行われた投票所においては,切替え先の投票サーバに既に挿入されているMOを取り出して,新たに別のMOを挿入するという措置が取られた。かかる措置が取られた投票所は,今渡南,土田西,西帷子,長坂,二野,大森及び広見第2の各投票所である。

なお,緑投票所においては,投票事務従事者が,投票開始前の第1サーバへのMOの挿入の際,第1サーバの副MO挿入場所に第1サーバの副MOを挿入すべきところ,誤って第2サーバの正MOを挿入し,本件投票機の異常発生による第1サーバから第2サーバへの切替えに伴う第2サーバへのMOの挿入の際,第1サーバの副MOを第2サーバの正MO挿入場所に挿入したため,MOの表示とその保有する情報の不一致が生じる結果となった。

(16)  本件投票機の異常が発生した際に,投票行為中の者,投票カードを既に受け取っていた者,受付を済ませた者がいたが,その中には投票をせずに帰った者がいた。その数が確認できた者は,以下のとおりである(括弧内の数は,投票をせずに帰った者の数である。)。

また,受付前で並んで待機していた選挙人が多数いた。

投票所名

投票行為中の者

投票カード受取者

受付をした者

今渡北

6人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

今渡南

12人(0人)

0人(0人)

1人(1人)

川合

9人(2人)

0人(0人)

0人(0人)

下恵土北

12人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

下恵土南

5人(1人)

0人(0人)

0人(0人)

土田東

4人(0人)

3人(0人)

6人(0人)

土田西

11人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

8人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

西帷子

12人(0人)

4人(0人)

0人(0人)

4人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

東帷子

5人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

長坂

10人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

若葉台

5人(0人)

0人(0人)

3人(0人)

愛岐ヶ丘

5人(0人)

3人(0人)

5人(0人)

南帷子

5人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

矢戸

8人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

4人(0人)

0人(0人)

1人(0人)

塩河

4人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

姫治

7人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

羽生ヶ丘

4人(1人)

0人(0人)

1人(0人)

二野

15人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

大森

12人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

桜ヶ丘

6人(0人)

0人(0人)

4人(4人)

皐ヶ丘

6人(0人)

0人(0人)

2人(0人)

久々利

4人(0人)

0人(0人)

1人(0人)

広見第1

3人(0人)

0人(0人)

0人(0人)

広見第2

14人(0人)

4人(1人)

6人(0人)

広見東

12人(0人)

1人(0人)

3人(0人)

中恵土

2人(0人)

3人(0人)

0人(0人)

合計

214人(9人)

18人(1人)

33人(5人)

上記投票行為中の者で投票をせずに帰った者9人のうち,南帷子投票所の3人は再度投票所に来なかった。その余の上記投票行為中の者で投票をせずに帰った者6人,投票カードを受け取ったものの投票をせずに帰った者1人,及び受付を済ませたものの投票をせずに帰った5人は,いずれも再度投票所を訪れて投票を済ませた。

なお,再度投票所に来なかった上記3名については,実際には投票が完了していた。

(17)  各投票所においては,本件投票機に異常が発生したために待機することになった選挙人に対し,投票事務従事者が,投票機に異常が発生した事情を説明したり,椅子を出して待ってもらう等の対応を取った。

また,可児市選管は,同報無線によって投票機の復旧状況を知らせるという対応を取った。

(18)  本件選挙では,午後8時に投票が締め切られた。投票終了後,各投票所においては,投票管理者が,投票箱,MO送致箱(正副で2)等を開票所である可児市総合会館に届けた。

しかし,塩河投票所から開票所へ送付された正MO2枚,副MO2枚については,送致時に封印がなされていなかった。

また,今渡北投票所においては,送致箱の収納の際,正副を取り違えて送致した。

また,本件選挙終了後,被告が調査のためMOの開披点検を行った際,開票に用いないため通常封印がなされている副MO保存用箱に保存されていたMOのうち,緑投票所分には,保存されていた2枚のMOにはいずれも封印はなく,かつ封印が破棄された形跡が存在していた。

(19)  本件選挙の開票作業は,午後9時5分から可児市総合会館大ホールにて開始された。

電子投票分の開票作業は,以下の手順にて行なわれた。

① 投票箱を開ける前に,選挙長と開票立会人が,投票箱の施錠,記録媒体(MO)の封印及び電子投票集計機の画面の集計0票を確認する。

② 開票開始時に,開票集計(電子投票分)係の係員が,電子投票の記録媒体(MO)を開票集計(全投票分)係と一緒に開封し,5つのストッカーに順次,積み重ねる。

③ クライアント担当の係員は,電子投票の記録媒体(MO)をクライアントに挿入する。

④ 読み取り後の記録媒体(MO)は,開票集計(全投票分)係が順次回収する。

⑤ サーバ担当の係員は,電子投票分を集計し,集計結果一覧表を採点係へ回付し,集計されたフロッピィを開票集計(全投票分)係へ交付する。

⑥ 開票集計(全投票分)係の係員は,サーバ担当から受領したフロッピィを開票集計機に挿入し,逐次不在者投票の開票結果を2人で確認をとりながら入力する。

⑦ 開票集計(全投票分)係の係員は,電子投票及び不在者投票の集計分を開票システムにより,中間速報から最終速報に至るまで,総合集計していき,その都度,開票速報板用フロッピィを作成し,その結果を表示していく。

⑧ 採点係の係員は,各候補者の得票を集計し,採点係①の係員は,有効投票決定表の中央下の「審査係欄」に,採点係②の係員は,同表右下の「計算係欄」に認印を押し,併せて,電子投票の集計結果一覧票を回付する。

(20)  開票作業は,正MOを用いて行わなければならないところ,今渡北投票所分については,上記(18)のとおり正副を間違えて送致したため,副MOを用いて開票が行われた。

(21)  可児市選管が発表した本件選挙の結果は,

ア 投票総数4万6594票(うち,有効投票4万6526票,無効投票68票),電磁的記録式投票機の操作を途中で終了した者の数は262票,

イ 有効投票の内訳は,電磁的記録式投票機を用いた投票が4万0954票,不在者投票,点字投票及び仮投票が5572票で,無効投票68票の内訳は,電磁的記録式投票機を用いた投票では0票,不在者投票,点字投票及び仮投票では68票,

ウ 最下位当選者の得票総数は1361票(うち,電磁的記録式投票機を用いた投票による得票数は1253票,その他の投票による得票数は108票),次点者の得票総数は1326票(うち,電磁的記録式投票機を用いた投票による得票数は1163票,その他の投票による得票数は163票)

というものであった。

(22)  本件選挙における有権者は,7万2144人であるところ,可児市選管が発表した上記(21)認定の本件選挙の結果によれば,投票率は,64.95パーセントとなる。

なお,過去の可児市議会議員選挙の投票率は,平成3年7月28日の選挙では74.40パーセント,平成7年7月23日の選挙では72.64パーセント,平成11年7月25日の選挙では67.42パーセントであった。

(23)  被告が,本件選挙後,①正MO保存用箱に保存されていたMOを用いる方法,②正MO保存用箱に保存されていたMOから今渡北投票所分2枚を除き,替わりに副MO保存用箱に保存されていた今渡北投票所分2枚を用いる方法,③正MO保存用箱に保存されていたMOから緑投票所分2枚を除き,替わりに副MO保存用箱に保存されていた緑投票所分2枚を用いる方法により,3回の再開票を行ったところ,いずれについても上記(21)認定の本件選挙の結果と一致した。

(24)  被告が,本件選挙後,電磁的記録式投票の再開票並びに本件投票機のログ及び正MOの投票データファイル数を分析した結果,投票録の「電磁的記録式投票機を用いて投票した者」の数(投票者数)と,MOに記録された投票の数(投票数)が,以下のとおり8投票所で合計15票多く,4投票所で合計9票少なく,全29投票所で合計6票多く,全29投票所の投票者数と投票数との差の絶対値の合計は24票であることが判明した。

投票所名

①投票者数

②投票数

②‐①

絶対値

今渡北

1,532

1,532

0

0

今渡南

1,540

1,542

2

2

川合

1,773

1,775

2

2

下恵土北

2,124

2,124

0

0

下恵土南

1,704

1,705

1

1

土田東

936

936

0

0

土田西

1,587

1,587

0

0

520

520

0

0

西帷子

1,806

1,808

2

2

1,008

1,008

0

0

東帷子

1,127

1,128

1

1

長坂

2,301

2,296

-5

5

若葉台

1,762

1,762

0

0

愛岐ヶ丘

1,238

1,237

-1

1

南帷子

1,172

1,177

5

5

矢戸

925

925

0

0

755

755

0

0

塩河

1,072

1,072

0

0

姫治

1,214

1,214

0

0

羽生ヶ丘

818

819

1

1

二野

2,105

2,105

0

0

大森

1,643

1,643

0

0

桜ヶ丘

1,994

1,994

0

0

皐ヶ丘

2,043

2,042

-1

1

久々利

1,028

1,028

0

0

広見第1

1,219

1,217

-2

2

広見第2

1,791

1,792

1

1

広見東

1,326

1,326

0

0

中恵土

1,147

1,147

0

0

合計

41,210

41,216

6

24

(25)  被告が,本件選挙後,投票サーバのログに記録された投票カード数と正MOに記録された投票データファイル数について分析した結果,以下のとおり,投票サーバのログに記録された投票カード数は4万1229枚であること,投票サーバのログに記録された投票カード中「投票完了」の記録がある投票カード数は4万1216枚で,開票結果並びに再開票結果及び投票データファイル数(同じカード番号の複数の投票データファイルがある場合はこれらを1とした場合)と一致すること,投票サーバのログに記録のある投票カード中一度も「投票完了」の記録がなく,「投票未完了」の記録のみがある投票カード数は13枚であることが判明した。

なお,①の欄は投票者の数,②の欄は投票サーバのログに記録された投票カードの数,③の欄は②欄のうち投票完了の記録がある投票カードの数,④の欄は②欄のうち投票完了の記録がなく投票未完了の記録のみの投票カードの数,⑤の欄は②欄の数から①欄の数を差し引いた数である。

投票所名

今渡北

1,532

1,532

1,532

0

0

今渡南

1,540

1,546

1,542

4

6

川合

1,773

1,775

1,775

0

2

下恵土北

2,124

2,124

2,124

0

0

下恵土南

1,704

1,705

1,705

0

1

土田東

936

936

936

0

0

土田西

1,587

1,587

1,587

0

0

520

520

520

0

0

西帷子

1,806

1,808

1,808

0

2

1,008

1,008

1,008

0

0

東帷子

1,127

1,128

1,128

0

1

長坂

2,301

2,303

2,296

7

2

若葉台

1,762

1,762

1,762

0

0

愛岐ヶ丘

1,238

1,237

1,237

0

-1

南帷子

1,172

1,177

1,177

0

5

矢戸

925

925

925

0

0

755

755

755

0

0

塩河

1,072

1,072

1,072

0

0

姫治

1,214

1,214

1,214

0

0

羽生ヶ丘

818

819

819

0

1

二野

2,105

2,105

2,105

0

0

大森

1,643

1,643

1,643

0

0

桜ヶ丘

1,994

1,994

1,994

0

0

皐ヶ丘

2,043

2,043

2,042

1

0

久々利

1,028

1,028

1,028

0

0

広見第1

1,219

1,217

1,217

0

-2

広見第2

1,791

1,793

1,792

1

2

広見東

1,326

1,326

1,326

0

0

中恵土

1,147

1,147

1,147

0

0

合計

41,210

41,229

41,216

13

19

(26)  被告が,本件選挙後,投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数を調査した結果,以下のとおり,投票者数よりも投票カード発券機のログに記載された投票カード発券数の方が34件多いことが判明した。

投票所名

①投票者数

②投票カード

発券数

②-①

今渡北

1,532

1,532

0

今渡南

1,540

1,556

16

川合

1,773

1,775

2

下恵土北

2,124

2,124

0

下恵土南

1,704

1,705

1

土田東

936

936

0

土田西

1,587

1,587

0

520

520

0

西帷子

1,806

1,808

2

1,008

1,008

0

東帷子

1,127

1,128

1

長坂

2,301

2,303

2

若葉台

1,762

1,762

0

愛岐ヶ丘

1,238

1,238

0

南帷子

1,172

1,177

5

矢戸

925

925

0

755

755

0

塩河

1,072

1,072

0

姫治

1,214

1,214

0

羽生ヶ丘

818

822

4

二野

2,105

2,105

0

大森

1,643

1,644

1

桜ヶ丘

1,994

1,994

0

皐ヶ丘

2,043

2,043

0

久々利

1,028

1,028

0

広見第1

1,219

1,217

-2

広見第2

1,791

1,793

2

広見東

1,326

1,326

0

中恵土

1,147

1,147

0

合計

41,210

41,244

34

2  原告らの主張(1)(違法な電子投票機による選挙の実施)について

(1) 特例法4条1項1号違反について

投票機は,「選挙人が一の選挙において二以上の投票を行うことを防止できるものであること」(特例法4条1項1号)という条件を具備していることを要する。

上記規定は,投票機は,選挙人が一の選挙において2票を投じることができないような機能を有していることを定めたものと解される。

上記1の(8),(13)認定事実によれば,本件投票機は,機械ないしそのシステム(プログラムを含む。)においては,正常に作動する状態であれば,その機能を具備していたと認められるが,投票サーバのMOユニットの温度上昇等のトラブルが生じたことにより,投票の記録の遅延が発生し,最後まで投票できたことが選挙人並びに投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者の誰にも認識できないという出来事が起こり,確認できるだけでも9人の選挙人に対し,結果として二重投票をさせることになった。

また,上記1の(11)認定のとおり,本件投票機は,上記の異常な状態が発生したため,404枚の投票カードで複数回にわたって投票の記録が行われるという現象が起こり,619回余分に投票を記録した。

したがって,本件投票機は,一時的とはいえ,特例法4条1項1号が定める条件を具備していない状態にあったと認められる。

(2)  特例法4条1項2号違反について

投票機は,「投票の秘密が侵されないものであること」(特例法4条1項2号)という条件を具備していることを要する。

上記規定は,電磁的記録式投票の場合には,投票記録自体が機械において目に見えない形で処理されているため,選挙人が知らない形で投票内容が記録され,投票の秘密が侵されるのではないかと心配する選挙人もいることから,そのようなことが許されないことを定めたものと解される。

上記1の(5)認定のとおり,本件投票機は,投票機の起動から終了に至るまでの作動状況を,時刻,操作内容等の別に原本に記録するが,個々の選挙人の投票は,固定長形式の暗号化されたデータとして原本のみに記録され,投票機本体には,投票に関する記録は一切保存されないこと,原本には選挙人に関連づけられた固有情報を記録しないようになっていることが認められる。

もっとも,証拠(乙38)によれば,ログ及び投票結果は,投票カード発行時に無作為に付されるカード番号で管理されているものの,カード番号で追跡すれば,投票カード発行時間,投票時間及び投票データを特定することが可能であることが認められる。

しかし,上記証拠によれば,ログには投票結果(投票した候補者名)は含まれてなく,投票結果は暗号化されているため,ログを追跡しても直ちに投票した候補者名がわかるわけではないことが認められる。

以上によれば,本件投票機は,カード番号で追跡すれば,投票カード発行時間,投票時間及び投票データを特定することが可能であるから,この部分についてはなお改善すべき余地があるものの,ログを追跡しても直ちに投票した候補者が分かるわけではないから,特例法4条1項2号が定める条件を具備していないとはいえない。

(3) 特例法4条1項4号違反について

投票機は,「電磁的記録式投票機の操作により公職の候補者のいずれを選択したかを電磁的記録媒体に確実に記録することができるものであること」(特例法4条1項4号)という条件を具備していることを要する。

上記規定は,投票機の操作を行った場合には,確実に投票を記録し,仮に記録が行われなかった場合には,そのことを即時選挙人に知らせ,再度選挙人に投票機を操作する機会を確保する機能を有していることを定めたものと解される。

上記1の(8),(10)認定のとおり,本件投票機は,機械ないしそのシステム(プログラムを含む。)においては,正常に作動する状態であれば,その機能を具備していたと認められるが,投票サーバのMOユニットの温度上昇等のトラブルが原因で投票機に異常が発生し,結果として,全29投票所において,最後まで投票できなかった投票カードが13枚発生し,また,投票の記録の失敗が97件発生した。

また,上記1の(11),(12)認定のとおり,本件投票機は,一時的とはいえ,MOに記録された合計516個の投票の記録を削除した。

したがって,本件投票機は,一時的とはいえ,特例法4条1項4号が定める条件を具備していない状態にあったと認められる。

(4) 特例法4条1項5号違反について

投票機は,「予想される事故に対して,電磁的記録式投票機の操作により公職の候補者のいずれを選択したかを記録した電磁的記録媒体の記録を保護するために必要な措置が講じられているものであること」(特例法4条1項5号)という条件を具備していることを要する。

上記1の(11),(12)認定のとおり,本件投票機は,投票サーバのMOユニットの温度上昇等のトラブルが原因で投票機に異常が発生し,一時的とはいえ,MOに記録された合計516個の投票の記録を削除した。

MOユニットの温度上昇というトラブルが発生した場合においても,MOに記録された投票記録が保護されなければならないことは当然である。

したがって,本件投票機は,一時的とはいえ,特例法4条1項5号が定める条件を具備していない状態にあったと認められる。

(5)  特例法4条1項7号違反について

投票機は,「権限を有しない者が電磁的記録式投票機の管理にかかる操作をすることを防止できるものであること」(特例法4条1項7号)という条件を具備していることを要する。

上記規定は,投票機の不正操作を防止するため,権限を有しない者が投票機の管理に係る操作をすることを防止できる機能を有していることを定めたものと解される。

上記1の(5)認定のとおり,本件投票機は,電源については,施錠可能な開閉式ドア内部に配置され,鍵を使用しなければドアを開けて操作することができないようになっており,記録媒体(MO)については,施錠可能な開閉式ドア内部に配置され,鍵を使用しなければ取り出すことができないようになっていたこと,本件投票機の操作は,投票管理者が管理する識別番号及び暗証番号による認証手続が必要となっていたことが認められる。また,本件投票機は機械管理の操作をする場合には,画面の四隅を順次触れて暗証番号を入力する必要があったことは当事者間に争いがない。

したがって,本件投票機は,特例法4条1項7号が定める条件を具備していたと認められる。

なお,証拠(乙38)によれば,暗証番号の管理について運用上の問題があったことが認められるが,かかる事実は上記結論を左右するものではない。

(6) 特例法4条1項8号違反について

投票機は,「選挙の公正かつ適正な執行を害しないものであること」(特例法4条1項8号)という条件を具備していることを要する。

上記規定は,選挙は公正かつ適正に執行されなければならないから,投票機は,特例法4条1項1号ないし7号に掲げる条件を具備していることは勿論であるが,その他に選挙の公正かつ適正な執行を害するような機能を有していないことを定めたものと解される。

上記1の(10)認定のとおり,本件投票機に異常が発生したため,実際にはMOに投票が記録されて投票が完了していたにもかかわらず,投票端末がその情報を受信できなかったため,選挙人において投票が完了したことの認識がないという事例が15投票所で合計25件発生した。

また,上記1の(11),(12)認定のとおり,本件選挙においては,投票サーバにおいて516個の投票の記録がMOから削除され,開票サーバにおいて103個の投票の記録が採用されないという事態が発生したことが認められる。しかし,上記1の(12)認定のとおり,投票記録の削除等の処理自体は,人為的に行われるものではないし,複数の投票行為も最後の投票記録が投票として扱われる以上,当該選挙人の意思に反する処理が行われたとはいえない。もっとも,上記1の(12)認定のとおり,最後の投票記録より前の投票記録が採用された事例が3投票所において合計13件発生しており,これについては,選挙人が投票したと認識している投票記録以外の投票記録が投票として採用されることになったと認められる。

また,電子投票機に故障等の異常ないし不具合が発生した場合,これにより投票行為が妨げられるという事態が発生することは容易に推測されるから,電子投票機は,異常ないし不具合が発生した場合でも極短時間で異常ないし不具合が解消されるものであること,そして,これを実質的に確保し得るような態勢が整えられているものであることが必要である。しかし,本件投票機の異常発生時間は,上記1の(9)認定のとおりであって,異常ないし不具合が短時間で解消したとはいえない。そして,本件投票機に異常ないし不具合が発生したため,後記4及び5認定のとおり,多数の選挙人が待機する事態が起こり,かつその異常ないし不具合が合理的な時間内に終了するという見込みも明らかにできるようなものでもなかったために,結果として投票を断念ないし棄権することになった選挙人がいることが認められる。

選挙は,選挙人が自らの意思で公職の候補者を選択することが重要であって,選挙人が投票したという認識がないのに投票が完了していたということや,選挙人が投票したと認識した投票記録以外の投票記録が採用されるということ,あるいは,合理的な時間内に投票が終了し,選挙人が投票機の異常等により投票を断念することがないようにするため必要な性能等が備えられていないことは,選挙の公正かつ適正な執行を妨げるものというべきである。

したがって,本件投票機は,一時的とはいえ,特例法4条1項8号が定める条件を具備していない状態にあったと認められる。

(7)  その他の瑕疵や事情について

原告らは,本件投票機に異常が発生したことについて,それ自体が特例法4条1項に定める条件を具備していないことを示しているとか,プログラムの不備やパスワード管理の甘さ等を主張するが,本件選挙に使用された投票機に,上記(1),(3),(4),(6)認定以外の特例法に定める要件を欠く機能ないし部分があったと認めるに足りる証拠はない。

また,原告らは,可児市が,地方選挙電磁的記録式投票補助金交付要綱に基づき,国に対し補助金の申請を行ったが,その後同申請を取り下げたことは,本件投票機が特例法が定める法定条件を具備していないことを示すものである旨主張する。

可児市が,地方選挙電磁的記録式投票補助金交付要綱に基づき,国に対し補助金の申請を行い,その後同申請を取り下げたことは,当事者間に争いがないが,同事実をもって,直ちに本件投票機が特例法所定の条件を具備していなかったと認めることはできない。

したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。

3  原告らの主張(2)(違法な可児市選管の選挙管理の執行)について

(1) 取扱い記録の不作成について

上記1の(7)認定のとおり,本件選挙において,可児市選管と投票管理者間で投票カードの受渡し等に関する記録は作成されなかったことが認められる。

電磁的記録式投票においては,投票カードは,投票用紙に替わるものであるから,その管理及び送付については特に慎重に扱うことが求められるというべきであって,投票カードの不正使用,紛失等の事故が発生しないよう,可児市選管から各投票管理者に送付した投票カードの数及び各投票管理者から可児市選管に送付した投票カードの数を記載した書類を作成するのが相当であったというべきである。

そして,本件において,可児市選管は,当初,投票カードの持ち帰りはないと説明していたところ,後記5認定のとおり投票機の操作をしないまま投票カードを係員に返した選挙人がいたと認められ,これにより本件選挙に対する選挙人の信頼を損ねたのみならず,本件選挙の投票・開票の事務に重大な誤りを生じさせる可能性があったといわざるを得ない。

したがって,可児市選管が投票カードの受渡し等に関する記録を作成しなかったことは,選挙管理上の過誤に該当するというべきである。

(2) 投票カードの不正発行について

上記1の(26)認定のとおり,投票カード発券機のログに記載された投票カード数は4万1244枚であり,投票者数4万1210人を上回っていること,その差34枚は,投票機の異常発生により,最後まで投票できなかった投票カードや最後まで投票できたことが認識できなかった投票カードが発生したため,後記(3)のとおり二重発行することになったこと等によるものと認められる。

上記の事態は,専ら本件投票機の異常という機械の不具合が原因で発生したもので,その場において,投票の完了が確認できない投票カードについては,異常のある投票カードである等として,当該投票カードを所持している選挙人に対し新たな投票カードを交付することは,その場の状況を考慮すると,必ずしも違法なものということはできない。

しかしながら,後記(3)のアのとおり,その場で投票の完了を確認することが可能な投票カードもあったのであるから,そのような確認をすることなく,投票カードを新たに発行することは,選挙管理上の過誤に該当するというべきである。

(3) 二重投票等について

ア  2枚の投票カードの交付による二重投票について

上記1の(13)認定のとおり,本件投票機の異常が原因で最後まで投票できたことが認識できなかった投票カードが発生したため,当該投票カードの交付を受けた選挙人に対し別の投票カードを交付して再度投票させた投票所があり,その数は,確認できるものだけでも,今渡南投票所で16件,川合投票所で2件,下恵土南投票所で2件,西帷子投票所で1件,東帷子投票所で1件,南帷子投票所で2件,羽生ヶ丘投票所で1件,広見第2投票所で1件の合計26件であったこと,もっとも結果として二重投票になったことが確認できたのは合計10件であることが認められる。

上記の事態について,今渡南投票所においては,本件投票機に異常が発生したため,可児市選管と相談した上,挿入済みの投票カードを強制排出し,問題ないし異常が発生した投票カードという認識の下,特に投票完了の記録の有無を確認しないまま,投票管理者,投票立会人及び投票事務従事者の合意の下で投票カードを再度発行して交付したものと認められ(乙42),他の投票所においても同様の処理がなされたものと推認できる。

上記の事態は,専ら本件投票機の異常という機械の不具合が原因で発生したもので,その場において,投票の完了が確認できない投票カードについては,異常のある投票カードである等として,当該投票カード所持人に対し新たな投票カードを交付することは,その場の状況を考慮すると,必ずしも違法なものということはできない。

しかしながら,上記のとおり,その場で投票の完了を確認することが可能な投票カードもあったのであるから,そのような確認をすることなく,投票カードを新たに発行したことは,選挙管理の過誤に該当するというべきである。

また,投票カードを再交付する場合には,投票用紙の再交付に準じて,投票録にその経緯等を記載し,不正投票等が生じないようにするのが相当であったにもかかわらず,本件選挙においては,投票カードを再交付した経緯等について,これを16枚再発行した今渡南投票所においてすら投票録に記載してなく,これにより本件選挙に対する選挙人の信頼を損ねたのみならず,本件選挙の投票・開票の事務に重大な誤りを生じさせる可能性があったといわざるを得ない。

なお,原告らは,今渡南投票所の16件については,別の選挙人に渡した可能性を否定できないと主張するが,証拠(乙42)によれば,異常が発生したとして回収した投票カードを所持していた選挙人に対し新たな投票カードを交付したものと認められるから,原告らの上記主張は理由がない。

また,原告らは,選挙人が一旦退出して,再度入場した上,再投票をさせるということは違法である旨主張する。投票手続を終了した選挙人が,再度投票所に入場することは,公職選挙法58条違反に該当するというべきであるが,上記各投票所においては,投票手続を終了していないという認識で,一旦退出させた上,再入場を認めて,投票手続を行わせたものであるから,上記行為が同条に違反するとまではいえない(ただし,その前に投票が完了していないことを確認する必要があったことは上記のとおりである。)。したがって,原告らの上記主張も理由がない。

イ 1枚の投票カードによる二重投票について

上記1の(11)認定のとおり,本件投票機に異常が発生したため,MOに投票の記録がされても,投票端末の画面上は異常発生の表示がされ,投票カードは依然として投票が可能な状態であるため,選挙人は投票が失敗したと認識し,再び当該投票カードにより投票しようとする事態が発生し,結果として,404枚の投票カードにより,合計619回過剰に投票したことが認められる。

しかし,上記の事態は,本件投票機の異常という機械の不具合が原因で発生したものであり,投票管理者らの人為的な関与のもとで行われたものとはいえないから,上記の問題は,専ら本件投票機が特例法4条1項の条件を具備していないという違法の問題として取り扱うべきものである。

ウ  非選挙人による投票について

上記1の(14)認定のとおり,広見第2投票所においては,1台の投票端末の画面のタッチ感度が鈍くなり,投票事務従事者であったムサシの従業員が投票管理者等の立会の下でタッチ感度の調整中,操作を誤り「終了」に触れたことが認められる。

ムサシの従業員は,選挙人名簿に登録されていない以上,投票することはできない(公職選挙法42条1項)から,過失により操作を誤ったとはいえ,上記の行為は同法に違反するというべきである。

(4) 障害発生中の投票について

上記1の(9)認定のとおり,本件投票機に異常が発生した時間(完全停止時間を除く。)中の投票機の状態は不安定で,投票の記録の成功もある一方,投票の記録の失敗又は遅延も発生しており,これらが混在した状態にあったと認められる。

投票管理者は,選挙人がその意思に基づき確実に投票を終了し,あるいは投票の棄権をすることができるように配慮すべきであるから,投票機に異常が発生し,投票の記録が確実に行われるということが保障されない状況においては,投票機の異常状態が解消され,投票の記録が確実に行われることが確認されるまでは,選挙人に投票をさせるべきではないというべきである。

したがって,本件投票機に異常が発生し,投票の記録が確実に行われることが保障されていない状況下で,選挙人に対し投票を行わせたことは,不適切であったといわざるをえない。

また,上記1の(9),(16)認定のとおり,本件投票機に異常が発生し,円滑な投票ができない状態であったところ,このような場合には,投票管理者らは投票機の異常を短時間で解消し,投票機が正常に作動するようにするとともに,待機中の選挙人に対し,復旧に要する時間(待機時間)について情報を提供する等,投票に支障が生じないようにするため所要の措置をとるのが相当である。

しかし,上記1の(9)認定のとおり,本件投票機の異常が短時間で解消したとは認められないし,本件投票機に異常が発生した際に,各投票所の投票管理者らが,待機中の選挙人に対し,復旧に要する時間(待機時間)について正確な情報を提供する等所要の措置をとったことはうかがえない。

したがって,投票管理者らが上記の措置を怠ったため,選挙人においては合理的な時間内に投票が終了することの見込みが明らかでなく,これにより後記4及び5認定のとおり,結果として投票を断念ないし棄権することになった選挙人がいたと認められるのであるから,投票管理者らが上記の措置を怠ったことは管理上の過誤に該当するというべきである。

(5)  選挙人の意思によらない白票について

上記1の(21)認定のとおり,投票機の操作を途中で終了した者の数は262票であり,これは事実上白票として扱われたことが認められる。

この点について,原告らは,可児市選管の作為,投票端末の操作等の周知行為の不徹底,投票機の不具合等により,投票機の操作を途中で終了した者とされた旨主張する。

白票は,公職選挙法が制度として認めているものではないが,投票用紙を用いて行われる選挙において副次的に生じる現象であって,電磁的記録式投票においても,選挙人が投票機の操作を開始した以上,必ず候補者のいずれかを選択しなければならないとするわけにもいかないことから,投票機の操作を途中で終了することができるとされたものである。

したがって,本件選挙においても,投票機の操作を途中で終了するという,事実上の白票を投じるのと同様の選択をした選挙人がいたとしても,それ自体は格別不自然なことではない。

そして,証拠(乙9,10)によれば,可児市選管は,電磁的記録式投票機を用いて行われる本件選挙について,市民に対し操作手順等が記載された文書を配布する等の広報活動を行っていたこと(その中には,「候補者を選ばないで終了する場合は,『終了』に触れてください。」という記載もある。),候補者を選ばないで終了する場合には,操作端末の画面に「候補者を選ばずに投票を終了しようとしています。」という表示が出ることになっていることが認められる。

したがって,上記262票は,いずれも選挙人がその意思で候補者を選ばずに投票を終了したもので,事実上の白票に該当すると認めるのが相当であり,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(6)  記録媒体切替え手続の違法について

上記1の(9),(15)認定のとおり,本件投票機の異常発生に対処するため,第1サーバから第2サーバへ切り替える措置が取られた投票所があったが,今渡南,土田西,西帷子,長坂,二野,大森及び広見第2の各投票所においては,その後,第2サーバから第1サーバへの切替え,あるいは再び第1サーバから第2サーバへの切替えが行われ,その際,切替え先の投票サーバに既に挿入されているMOを取り出して,新たに別のMOを挿入するという措置が取られたことが認められる。

原告らは,上記各投票所において,投票サーバに新たに別のMOを挿入するに当たり,投票立会人の立会い等がなされなかった旨主張する。

しかし,証拠(乙21)によれば,投票サーバを切り替えるに際しては,事前に可児市選管に連絡することになっていること,切替え先の投票サーバを立ち上げる場合には,投票管理者が管理するパスワード等を入力することになっていること,MOを挿入する場合には,投票管理者が投票立会人らの立会いの下,「0票確認」の作業を行うことになっていることが認められ,上記各投票所においても,上記作業手順に従ってMOの交換が行われたものと認めるのが相当であり,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。

(7) 記録媒体の非封印について

上記1の(18)認定のとおり,本件選挙では,午後8時に投票が締め切られ,投票終了後,各投票所においては,投票管理者が,MO送致箱(正副で2)等を開票所である可児市総合会館に届けたところ,塩河投票所から開票所へ送付された正MO2枚,副MO2枚については,送致時に封印がなされていなかったことが認められる。

したがって,塩河投票所の上記MOに封印がなかったことは,投票管理者は「投票の電磁的記録媒体及び当該投票の電磁的記録媒体に係る投票を複写した電磁的記録媒体に封印をし」なければならない旨を定めた特例法施行令2条5項に違反する。

(8) 記録媒体の取扱いの誤りについて

上記1の(18)認定のとおり,今渡北投票所においては,送致箱の収納の際,正副を取り違えて送致したことが認められる。

また,上記1の(15)認定のとおり,緑投票所においては,投票事務従事者が,投票開始前の第1サーバへのMOの挿入の際,第1サーバの副MO挿入場所に第1サーバの副MOを挿入すべきところ,誤って第2サーバの正MOを挿入し,本件投票機の異常発生による第1サーバから第2サーバへの切替えに伴う第2サーバへのMOの挿入の際,第1サーバの副MOを第2サーバの正MO挿入場所に挿入したため,MOの表示とその保有する情報の不一致が生じる結果となったことが認められる。

以上の各事実は,いずれも投票管理者の選挙管理上の過誤に該当するというべきである。

(9)  記録媒体の改ざんについて

ア 原告らは,ムサシの従業員は,記録媒体(MO)の開封,電子計算機への読込み,集計等の作業を,立会人もなく,誰も見ていない状態で行った旨主張する。

上記1の(6)認定のとおり,ムサシの従業員らは,本件選挙の開票事務従事者に任命されたと認められ,同手続が違法であるとはいえない。

そして,開票作業の手順は上記1の(19)認定のとおりであって,ムサシの従業員が違法行為を行ったと認めるに足りる証拠はない。

イ 原告らは,可児市選管は,記録媒体(MO)に記録されている投票を投票所で削除したり,開票所で開票時に削除又は除外して集計するなどの得票数の改ざん・増減を行った旨主張する。

上記1の(12)認定のとおり,本件選挙においては,投票サーバにおいて516個の投票の記録がMOから削除され,開票サーバにおいて103個の投票の記録が採用されないという事態が発生したことが認められる。

しかし,上記削除は,本件投票機が備えていた機能に基づいて行われたものであり,可児市選管の投開票事務従事者の人為的な関与に基づいて作為的になされたものではないから,上記の問題は,専ら投票機が特例法4条1項の条件を具備していないという違法の問題として取り扱うべきものである。

そして,他に可児市選管が違法に記録媒体(MO)に記録されている投票記録を改ざんしたと認めるに足りる証拠はない。

なお,システム監査報告書(乙38)には,原告ら主張の記載があることが認められるが,その記載内容から直ちに可児市選管が違法に記録媒体(MO)に記録されている投票記録を改ざんしたと認めることはできないというべきである。

ウ 原告らは,可児市選管は,被告の検証が行われると不都合なことがあるため,開票終了後に封印した記録媒体(MO)の封印を破棄して,記録媒体(MO)に記録されている投票記録を改ざんした旨主張する。

上記1の(18)認定のとおり,被告が記録媒体(MO)の開披点検を行った際,開票に用いないため通常封印がなされている副MO保存用箱に保存されていたMOのうち,緑投票所分には,保存されていた2枚のMOにはいずれも封印はなく,かつ封印が破棄された形跡が存在したことが認められる。

しかし,上記1の(23)認定のとおり,被告が実施した3回の再開票の結果が全て選挙録と一致したこと等を考慮すると,記録媒体(MO)の封印が破棄された形跡が存在していることをもって,可児市選管が記録媒体(MO)に記録されている投票記録を改ざんしたと認めることはできず,他に原告ら主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

(10)  不正工作について

原告らは,投票カードについて,可児市選管が,開票の時には「持ち帰りはない」と公表し,その後,ログの解析等で愛岐ヶ丘投票所において1枚「持ち帰り票」があったとした(乙41)ことについて,投票カードの数は,開票時に数を確認していたはずで,ログの解析で持ち帰りが分ったなどということは有り得ないから,可児市選管の上記行為は,数字を合わせるために工作を行い,持ち帰りがあったということにしたものである旨主張する。

しかし,後記5認定のとおり,愛岐ヶ丘投票所においては投票カードを受け取った選挙人が何らかの理由により投票機の操作をしないまま係員に返した投票カードが1枚あったと認められ,また,証拠(甲5,乙37,41)によれば,同投票所においては,投票カードの数自体は,投票開始前と終了後では同数であったと認められる。

したがって,原告らの主張は理由がない。

(11)  違法な開票の執行について

原告らは,特例法9条4項により,開票管理者は開票立会人とともに記録媒体に記録された投票を電子計算機で集計して得票を計算し,開票立会人の意見を聴いて投票の効力を決定しなければならないのに,これを行っていない旨主張する。

本件選挙の開票手続は上記1の(19)認定のとおりであり,開票管理者の管理外で開票作業が進められたとか,開票立会人の意見を聴くことなく投票の効力を決定した等の特例法9条4項に違反する行為の存在を認めるに足りる証拠はない。

また,原告らは,ムサシの従業員は,開票管理者及び開票立会人を無規し,可児市選管の職員を記録媒体に触れさせることなく,独自に電子計算機による集計,計算等の開票事務を行った旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告らの上記主張はいずれも理由がない。

(12) 複写した記録媒体による開票について

上記1の(20)認定のとおり,本件選挙の開票手続において,今渡北投票所分については,送致の際の誤りにより,副MOを用いて開票が行われたことが認められる。

得票数の計算は,投票の記録媒体(正MO)に記録された投票を電子計算機を用いて集計しなければならず(特例法9条4項),上記投票の記録媒体(正MO)が破損し又は紛失したことにより,同記録媒体による集計を行うことが不可能であると認められるときに限り,開票管理者は,開票立会人の意見を聴いて,同記録媒体に代えて,同記録媒体に記録された投票を複写した記録媒体(副MO)を使用して開票することができる(特例法10条2項)。

したがって,今渡北投票所分については,正MOによる開票でなく,また副MOによって開票したことについて特例法10条2項所定の要件を満たしていたとはいえないから,同投票所分に関する開票手続は違法であるというべきである。

また,上記1の(15)認定のとおり,緑投票所から送致され,開票に用いられた第2サーバの正MOは,表記自体は第2サーバの正MOであるものの,実質的には第1サーバの副MOであったのであるから,正MOを用いた開票を定める特例法9条4項に違反しているというべきである。

(13)  投票記録の削除について

上記1の(10),(12)認定のとおり,本件選挙においては,投票サーバにおいて516個の投票の記録がMOから削除され,開票サーバにおいて103個の投票の記録が採用されないという事態が発生したこと,最後まで投票できなかった投票カード13枚は集計に用いられなかったことが認められる。

そして,原告らは,上記行為は「投票の記録媒体に記録された投票を電子計算機を用いて集計する」と規定した特例法9条4項に違反する旨主張する。

しかし,上記規定は,開票作業(集計)は正MOを用いて行なわなければならないという趣旨であるから,開票所に送致された正MOに既に削除された516個の投票記録が存在すること自体は,上記規定に抵触するものではない。

次に,開票サーバにおいて103個の投票の記録が採用されなかったことは,開票所において,正MOに記録された投票記録をそのまま採用せず,投票の取捨選択が行われたことになるから,特例法9条4項に違反するものであるというべきである。

さらに,最後まで投票できなかった投票カード13枚は,正MOに投票の記録がない以上,これを集計に用いなかったことが,特例法9条4項に違反するとはいえない。

4  投票を断念した選挙人の数について

(1)  上記1の(16)認定のとおり,本件投票機に異常が発生した際,全29投票所において,投票行為中の者が合計214名,投票カードを既に受け取っていた者が合計18名,受付を済ませた者が合計33名(以上合計265名)いたが,そのうち合計15名は投票をせずに帰ったことが認められる。

(2)  また,上記1の(16)認定のとおり,受付前で並んで待機していた選挙人が多数いたと認められる。

被告は,受付前で待機していた選挙人の数は概ね1000人程度であり,各投票所の事務従事者が待機者に対し,投票機に異常が発生した事情を説明したり,椅子を出したりして待ってもらっていたこと等により,投票をしないで帰ってしまった選挙人は皆無に近く,ほぼ全員が投票したと主張する。

可児市選管が,本件選挙後,全29投票所について投票状況を調査した結果を被告に提出した復命書(乙36)には,被告の上記主張に沿う記載部分がある。

しかし,証拠(乙42)によれば,今渡南投票所において人数を確認したという丙川三郎は,「受付前で待っていた選挙人の人数は,1回目のトラブルの際に25人程度,2回目のトラブルの際に50人程度」という人数は数えたわけではなく,大体その位の人だったという感覚で,帰った人がいないという確認はしていないので100パーセントないとは言い切れないと説明している。

また,上記復命書においては,桜ヶ丘投票所においては「受付前で13人程度待っていたが,列に並んでいる方に,現在停止している旨を説明したので,帰った人はいない」という記載が,さらに長坂投票所においては「受付前で55人程度待っていた。一時停止の時間は長かったが,帰った者はいない。」という記載がある。しかし,証拠(甲48,51の1〜3)には桜ヶ丘投票所においては受付前の人が10人くらい帰った旨の記載が,証拠(甲64の8)には長坂投票所においては10人位が帰った旨の記載があるところ,上記各証拠はいずれも選挙人であった者が作成したもので,同人自身も投票しないで帰り,その後投票したという記載内容からすると,上記記載部分は信用できるというべきである。そして,証拠(甲64の1〜7,70)によれば,他にも投票をしないで帰った選挙人がいることが認められる。

また,上記1の(16)認定のとおり,受付を済ませた者(その後の投票手続に入った者も含む。以下同じ。)は合計265名いたが,そのうち15名は投票を済ませないで帰っている。受付を済ませたにもかかわらず,異常状態が終了するのを待ちきれずに帰った者がいたのであるから,受付を済ませていない選挙人においても,少なくとも同程度の割合の者が帰ったと推認するのが合理的である。

さらに,上記3の(4)認定のとおり,選挙管理者らは待機中の選挙人に対し,復旧に要する時間(待機時間)について情報の提供をする等所要の措置を講じず,待機中の選挙人にとっては,どの程度待機すれば投票が終了するのか分からず,合理的な時間内に投票が終了するという見込みが明らかでない状態となったのであるから,待機時間が長くなることをおそれて,投票を断念する者が出るということは,容易に予想されるところである。

以上によれば,被告の上記主張に沿う上記復命書の記載部分は,各投票所の選挙管理に当たった投票管理者らが,本件選挙が無効となることをおそれ,本件投票機の異常による影響を過少申告した疑いがあり,信用できないというべきである。

上記のとおり,受付前で待機していた選挙人の数は概ね1000人程度であるという被告の主張は採用できないが,待機者が少なくとも2200人いたという原告らの主張についても,これを裏付ける具体的な証拠はないから,採用できない。なお,上記認定のとおり,投票率は,64.95パーセントと前回の平成11年の選挙(67.42パーセント)と比較すると,2.47パーセント減少しているが,平成3年の選挙では74.40パーセント,平成7年の選挙では72.64パーセントと毎回減少傾向にあることを考慮すると,投票率の減少が,本件投票機の異常発生に基づく棄権のみに起因するとは認め難いから,投票率の減少をもって,原告ら主張の事実を推認することはできない。

結局,本件において受付前で待機していた選挙人の数を具体的に確定するに足りる証拠はないが,過少申告の疑いがある上記復命書に記載された概ね1000人という数字を下回ることはないと考えられるから,1000人を相当上回る大勢の待機者がいたということは認めることができる。

そして,上記大勢の待機者のうち,受付をしないで帰った選挙人は,受付を済ませた者のうち投票をせずに帰った者の割合(約5.66パーセント)よりも高いことが推認できること,及び上記のとおり2投票所において合計20人を超える選挙人が一旦帰ったことが認められることを考慮すると,その人数を確定することは困難であるが,全29投票所全体では多数いたと認めることができる。

5  選挙の結果に異動を及ぼす虞の有無について

(1)ア  上記2の(1),(3),(4),(6)認定のとおり,本件投票機は,特例法4条1項1号,4号,5号及び8号の条件を一時的に具備していない状態にあったと認められ,これにより上記1認定の事態を引き起こしたものである。

また,上記3の(1)ないし(4)認定のとおり,可児市選管の選挙管理において,取扱い記録の不作成,二重投票の発生,非選挙人による投票,障害発生中の投票及び同障害による投票への支障を防止するために必要な措置の不足という選挙管理上の過誤があり,これらの過誤が上記特例法4条1項に定める条件を一時的に具備していなかった等の本件投票機の不具合とも相まって,上記1認定の事態を引き起こしたものである。

そして,本件投票機が上記特例法4条1項各号の条件を一時的に具備していない状態にあったことと,可児市選管の上記選挙管理上の過誤が,本件選挙の結果に与えた影響は,後記(2)及び(3)認定のとおりである。

イ なお,上記3の(7),(8),(12)認定のとおり,可児市選管の選挙管理において,記録媒体(MO)の非封印という過誤があったこと,記録媒体(MO)の正副の取り違えという過誤があり,開票の際には副MOを用いたこと,実質的には副MOにあたる正MOを用いた開票が行われたことが認められるが,上記1の(23)認定のとおり,被告による3回の再開票の結果が一致したことを考慮すると,上記過誤は本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものとはいえないというべきである。

さらに,上記3の(13)認定のとおり,開票サーバにおいて103個の投票の記録が採用されなかったという特例法9条4項違反が認められるが,投票記録の機械的削除は1人1票という選挙の根本理念に沿う処理であって,最後の投票記録が投票として扱われる以上,当該選挙人の意思に反する処理が行われたとはいえず,したがって,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものとはいえない。もっとも,上記1の(12)認定のとおり,最後の投票記録より前の投票記録が採用された事例が3投票所において合計13件発生しており,これについては,選挙人が投票したと認識している投票以外の投票記録が投票として採用されることになったと認められるが,選挙人にとっては1票を投じるつもりで投票行為を行っているのであるから,同一の候補者に対して投票していたものと認めるのが合理的であり,上記13件についても本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものとはいえない。

(2)  本件投票機が特例法4条1項1号,4号,5号及び8号の条件を一時的に具備していない状態にあったことと,可児市選管の選挙管理上の過誤により,各投票所において本件選挙の結果に異常を及ぼす虞があると認められる票(ただし,上記4認定の帰ったと認められる受付前の待機者のうち,再度投票所を訪れず,投票をしなかった者の票を除く。)は,上記1認定事実によれば,以下のとおり合計27票であると認められる。

なお,原告らは,事後の投票の記録を追跡して投票の有効無効等を調査,判断することは憲法に違反し許されない旨主張するが,ログの解析によって投票の秘密が侵されるものといえないことは,上記のとおりである。そして,ログの解析により選挙結果に異動を及ぼす虞がある票を確定し得る以上,選挙の結果に異動を及ぼすか否かを判断するために,投票の効力を審査することは許されると解するのが相当である。

ア 今渡南投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも2票多いところ,同投票所では2人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

したがって,本件選挙の結果に2票の異動を及ぼす虞がある。

イ 川合投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも2票多いところ,同投票所では2人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

したがって,本件選挙の結果に2票の異動を及ぼす虞がある。

ウ 下恵土南投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票多いところ,同投票所では1人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

したがって,本件選挙の結果に1票の異動を及ぼす虞がある。

エ 西帷子投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも2票多いところ,うち1票については,1人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

その余の1票については,二重投票であることが確認できないが,他に投票数の差異を説明できる事情もないことを考慮すると,二重投票の疑いが強いから,これも本件選挙の結果に異動を及ぼす虞がある票と認めるのが相当である。

したがって,本件選挙の結果に2票の異動を及ぼす虞がある。

オ 東帷子投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票多いところ,同投票所では1人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

したがって,本件選挙の結果に1票の異動を及ぼす虞がある。

カ 長坂投票所について

上記1の(10),(24)ないし(26)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも5票少ないこと,投票者数よりも投票カード発行数が2枚多いこと,最後まで投票できなかった投票カードが7枚あることが認められる。

上記最後まで投票できなかった投票カード7枚について,当該投票カードを所持していた選挙人に対し,同投票所において新たな投票カードを交付したと認めるに足りる証拠がないことを考慮すると,上記7人の選挙人は投票が失敗したにもかかわらず,投票が完了したと判断して,再投票をしなかった疑いが強いと言わざるを得ない。

また,投票者数よりも投票カード発行数が2枚多く,投票数が投票者数よりも5票少ないことについては,二重投票以外にその差異を説明できる事情がないから,二重投票が2件あった疑いが強い。

したがって,本件選挙の結果に9票の異動を及ぼす虞がある。

キ 愛岐ヶ丘投票所について

上記1の(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票少ないことが認められる。

しかし,上記1の(10),(25),(26)認定のとおり,投票者数と投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数が一致すること,投票者数よりも投票サーバのログに記録された投票カードが1枚少ないこと,最後まで投票できなかった投票カードがないことが認められる。

以上の事実を総合すれば,投票カードを受け取った選挙人が,何らかの理由により投票機の操作をしないまま,投票カードを係員に返したことが推認される。

そして,選挙人が投票カードを受け取りながら,投票機の操作をしなかった理由については,本件投票機の異常ないし投票管理者の管理上の過誤に基づくものというよりは,事実上の白票を投じるという意思であったと認めるのが相当である。

したがって,同投票所において,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があると認められる票はない。

ク 南帷子投票所について

上記1の(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも5票多いことが認められる。

そして,上記1の(13)認定のとおり,同投票所においては2人について二重投票があったことが認められる。

その余の3票については,上記1の(16)認定の投票行為中に帰り再度投票所を訪れなかった3名の選挙人(実際には投票完了していた。)が,投票者数の集計においては投票者と扱われず,投票数の集計においては投票済みとして集計されたためであると認められる。

被告は,これら3名については結果的には投票に成功しているから投票者数へ加算できるとしている(甲5)が,上記3名はその行動によれば投票は未だ完了していないという認識であったのであるから,その後再入場しなかったということは,投票を棄権することにしたものと認めるのが相当である。したがって,結果として投票に成功していることをもって,上記3名を投票者として扱うことは,上記3名の選挙人の意思と合致しない以上,許されないというべきである。

したがって,本件選挙の結果に5票の異動を及ぼす虞がある。

ケ 羽生ヶ丘投票所について

上記1の(13),(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票多いところ,同投票所では1人の選挙人に二重投票をさせたことが認められる。

したがって,本件選挙の結果に1票の異動を及ぼす虞がある。

コ 皐ヶ丘投票所について

上記1の(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票少ないことが認められる。

そして,上記1の(24)ないし(26)認定のとおり,投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数と投票サーバのログに記録された投票カード数がいずれも投票者数と一致することを考慮すると,投票数が投票者数よりも1票少ない原因が投票カードの持ち帰りによるものであるとは認められない。

そうすると,投票が失敗したにもかかわらず,投票が完了したと判断して,再投票をしなかった選挙人が1人いた疑いが強いと言わざるを得ない。

したがって,本件選挙の結果に1票の異動を及ぼす虞がある。

サ 広見第1投票所について

上記1の(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも2票少ないことが認められる。

そして,上記1の(24)ないし(26)認定のとおり,投票カード発券機のログに記録された投票カード発行数と投票サーバのログに記録された投票カード数がいずれも投票数と一致することを考慮すると,投票数が投票者数よりも2票少ない原因が,投票カードの持ち帰りによるものであるとか,投票が失敗したにもかかわらず,投票が完了したと判断して,再投票をしなかった選挙人がいたためであるとは認められない。

もっとも,何らかの理由により投票者となったものの投票をしないまま帰った選挙人が2名いることが認められ,その理由について合理的な説明ができる証拠はない以上,2票については,本件投票機の異常により待機していたものの待ちきれずに帰った選挙人がいたためであるという疑いが強いというべきである。

したがって,本件選挙の結果に2票の異動を及ぼす虞がある。

シ 広見第2投票所について

上記1の(24)認定のとおり,同投票所においては,投票数が投票者数よりも1票多いことが認められる。

上記1票については,上記1の(14)認定のムサシの担当者が操作端末の画面の操作を誤り「終了」に触れたことに起因するものと推測される。

したがって,本件選挙の結果に1票の異動を及ぼす虞がある。

ス その他の投票所について

全29投票所のうち,上記アないしシ以外の投票所においては,上記1の(24)ないし(26)認定のとおり,投票数が投票者数と一致し,投票カード発券機のログに記録された投票カード発券数及び投票サーバのログに記録された投票カード数とも一致していることが認められるから,上記アないしシ以外の投票所においては,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞のある票はないと認められる。

(3)ア 上記1の(21)認定のとおり,本件選挙の最下位当選者の得票総数は1361票,次点者の得票総数は1326票であり,その差は35票である。

そして,上記(2)認定のとおり,各投票所において本件選挙の結果に異常を及ぼす虞があると認められる票(ただし,上記認定の帰ったと認められる受付前の待機者のうち,再度投票所を訪れず,投票をしなかった者の票を除く。)は,合計27票である。

したがって,投票をせずに帰った受付前の待機者のうち,再度投票所を訪れず,投票をしなかった者の票が,8票以上あれば,本件選挙の結果に異動を及ぼすことになる。

イ  上記4認定のとおり,1000人を相当上回る大勢の待機者がいて,そのうち多数の選挙人が,一旦投票を諦めて帰ったと認められる。

もっとも,上記1の(16)認定のとおり,受付を済ませた者15名のうち12名は,その後再度投票所を訪れ投票を済ませたことが認められる。

また,投票をせずに帰ったとする選挙人7名(甲47,甲51の1〜3,64の3,64の5,64の8の各作成者)も,その後投票したと認められる。

また,上記1の(9),(17),(18)認定のとおり,本件投票機の異常は午前中にほぼ解消し,午後からは支障なく投票できる状態であり,投票時間も午後8時まで確保されていたこと,可児市選管は,同報無線によって投票機の復旧状況を知らせるという対応を取ったことが認められる。

したがって,投票をせずに帰ったと認められる多くの選挙人のうち,再度投票所を訪れ,投票を済ませた者も相当数いたと推認できる。

しかしながら,上記のとおり,投票を済ませずに帰った選挙人の数は多数に上るのであって,選挙人の仕事や余暇の都合等により再度投票所を訪れて投票を済ませる時間が取れないということは十分あり得るところであるから,なお無視しえない数の多数の選挙人が,再度投票所を訪れることができず,投票をしなかったということも,これまた優に推認できるところである。

したがって,証拠(甲47,48,64の1・2・4・6・7,70)により,投票をせずに帰り,再度投票所を訪れることができなかったため,投票をしなかったと推測ないし認定できる選挙人9名を含む多数の者が,本件投票機に異常が発生したことにより,投票を断念せざるを得なかったと認められる。

(4) 以上のとおり,本件投票機が特例法4条1項1号,4号,5号及び8号の条件を一時的に具備していない状態にあったこと,及び可児市選管の選挙管理上の過誤により,最下位当選者の得票総数と次点者の得票総数が逆転する虞があり,本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があると認められる。

したがって,本件選挙は無効である。

第4  結論

よって,本件選挙は無効であるから,これと異なる本件裁決を取り消した上,本件選挙を無効とすることとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・青山邦夫,裁判官・田邊浩典,裁判官・手嶋あさみ)

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