大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成16年(行コ)55号 判決 2005年3月24日

控訴人(1審原告) 甲

被控訴人(1審被告) 大垣税務署長

林彦一郎

同指定代理人 大村百合枝

同 小林昭彦

同 青島邦好

同 根岸裕介

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が、控訴人に対し、平成15年4月9日付けでした平成9年12月13日相続開始にかかる相続税の無申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成15年8月7日付け更正によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が、被控訴人から平成15年4月9日付けで被相続人乙(平成9年12月13日死亡)にかかる相続税の無申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成15年8月7日付け更正によって一部取り消された後のもの、本件処分)を受け、さらに、同処分について国税不服審判所に審査請求をしたのに対し、国税不服審判所長がこれを棄却する裁決(本件裁決)をしたことから、被控訴人及び国税不服審判所長に対し、本件処分及び本件裁決が違法であるとして、これらの取消しを求めた抗告訴訟である。

原審は、本件処分及び本件裁決に違法事由は認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が本件処分に対する判断を不服として、被控訴人に対する請求についてのみ控訴した。

2  前提事実、争点及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」1ないし3のとおりであるから、これを引用する(ただし、本件裁決の適法性にかかる部分を除く。)。

3  控訴理由

控訴人が相続した真実の財産(遺産分割協議で決めたもの)と本件の相続税申告書に記載された取得財産との間に不一致があり、本件処分、被控訴人が行った平成15年8月7日付け更正処分(以下「本件更正処分」という。)及びその手続には、以下の瑕疵があるから、違法である。

ア  被相続人乙の「相続税の申告書」は、連名で代理人の責任において申告されたものであるから、その申告にかかる取得財産の金額に誤算の存することが明白になった場合は、税務署職員は、税額が過大である相続人には更正の請求を指示・指導し、税額が過少である相続人には、修正申告書を提出するよう依頼し、調査結果を書き込んだ修正申告用紙を交付すべきであった。

イ  控訴人が、上記相続税の申告につき、丁に代理権を授与したのは、同人の不法行為(恐喝)によるものであるから、無効であり、相続税の申告は、控訴人を代理してなされたとみるべきではない。

ウ  被控訴人が行った本件更正処分は、上記アの理由から心裡留保である。

エ  被相続人乙の総遺産価額について、その相続税並びにその延滞税及び加算税を合計して計算すると、還付されるべき金額は以下のとおり約50万2920円(①ないし③の合計額)であるところ、控訴人に還付された金額は35万5300円であり、その差額である約14万7620円が未還付である。

① 相続税の還付されるべき金額

769万0700円-732万6500円=36万4200円

② 加算税の還付されるべき金額

36万4200円×0.15=5万4630円

③ 延滞税の還付されるべき金額(概算)

36万4200円×0.23≒8万4090円

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、本件処分に違法事由は認められないと判断する。その理由は、次項において控訴理由に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第3判断」1のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決4頁24行目から26行目までを削る。

2  控訴理由に対する判断

(1)  控訴人が相続した財産と本件の相続税の申告書に記載された取得財産との間に不一致がある点については、原判示のとおり、被控訴人が、控訴人の本件の異議申立てにより、総遺産価額及び取得財産価額のいずれについても減額して、本件更正処分と本件の無申告加算税を減額する変更決定処分を行っていることが認められるから、控訴人のこの点についての主張は理由がない。

(2)  控訴理由アについて

相続税法は、いわゆる自己納税制度を採用しており(相続税法27条)、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者で相続税の申告書を提出すべきものが2人以上ある場合において、当該申告書の提出先の税務署長が同一であるときは、当該申告書を共同して提出することができる(同条4項)ものと規定している。また、申告納税義務者が相続税の申告書を提出した後において、財産の評価や計算の誤りなどのために、申告書に記載した課税価格や税額(その税額について更正があった場合には、その更正後の税額)が過大であることに気付いたときは、法定申告期限から1年以内に限り、その課税価格や税額を正当な額に訂正を求めるための更正の請求をすることができる(国税通則法23条)ほか、相続税法は、相続人間で分割されていない財産を、相続人が、民法所定の相続分に従って取得したものとして課税価格が計算されていた場合において、その後その財産の分割が行われ、その分割により取得した財産に係る課税価格が、その相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことなどの事由によって、その申告、更正又は決定に係る課税価格及び税額が過大になったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その課税価格や税額を正当な額に訂正することを求めるための更正の請求をすることができる(相続税法32条)と規定している。そうすると、控訴人が上記相続税法の定めている方法により是正を求める以上に、税務署職員において、相続人に更正の請求を指示・指導し、あるいは、修正申告書を提出するよう依頼したり、調査結果を記載した修正申告用紙を交付すべき義務があるものとはいえず、控訴人の上記主張は採用できない。

(3)  控訴理由イについて

相続税法は、相続税の申告書の過誤等の是正方法について、前記のとおり、相続税法に特別規定を設けているところ、その趣旨は、課税標準等の決定について、その間の事情に最も通じている納税義務者自身の申告に基づくものとして、その過誤の是正は、法律が特に認めた場合に限る建前とすることが、租税債務を可及的速やかに確定せしむべき国家財政上の要請に応じるものであり、納税義務者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないためであると解される(なお、所得税に関し、最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。上記趣旨に照らすと、相続税の申告行為については、民法の意思表示の瑕疵の規定の適用を当然に受けると解することはできない。そして、原判示のとおり、税の申告と税額等の更正処分等とは、それぞれ別個の税額の確定原因であるから、仮に、控訴人のした相続税の申告が丁の不法行為による代理権授与に基づくものであったとしても、その瑕疵が直ちに本件処分(本件更正処分も含む。)の適法性に影響を及ぼすものではなく、控訴人の上記主張は採用できない。

(4)  控訴理由ウについて

上記のとおり、控訴人の控訴理由アの主張は採用できないのであり、これを前提とする控訴理由ウも、同様に理由がないものといわざるを得ず〔そもそも、心裡留保による意思表示は原則として有効である(民法93条本文)。〕、控訴人の上記主張も採用できない。

(5)  控訴理由エについて

控訴人の主張する計算方法は、独自の計算方法に基づくものであり、採用することができず、被控訴人が計算した還付金額に誤りは認められない。

第4結論

よって、控訴人の本件請求は、理由がなく、これを棄却すべきところ、これと結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 佐藤真弘 裁判官 山崎秀尚)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例