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名古屋高等裁判所 平成16年(行コ)56号 判決 2007年5月30日

主文

1  被控訴人らの附帯控訴に係る主位的請求を棄却する。

2  控訴人の控訴に基づき,原判決主文第1項を次のとおり変更する。

(1)  控訴人は,名張市に対して,1998万7350円及びこれに対する平成11年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

3  本件訴訟のうち,選定者甲,同乙及び同丙の請求に関する部分は,同人らの死亡により終了した。

4  訴訟費用(附帯控訴費用を除く)は,第1,2審を通じてこれを35分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とし,附帯控訴費用は,被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求(当審において拡張された請求を含む。)を棄却する。

(被控訴人ら)

1  主位的請求(請求の拡張)

控訴人は,名張市に対して,7億3051万0689円及びこれに対する平成11年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求(原判決主文第1項同旨)

控訴人は,名張市に対して,2億7431万7442円及びこれに対する平成11年8月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,名張市(以下単に「市」という。)の住民である被控訴人らが,市の斎場建設用地として市が土地所有者との間で原判決別紙1物件目録記載1ないし21の土地(以下「本件各土地」という。)の売買契約を締結して代金の一部を支払い,土地所有者や近隣工場に対して損失補償として金員を支出したことにつき,財務会計上の違法があるとして,市に代位して,元名張市長である控訴人に対して,平成14年法律第4号による改正前の地方自治法242条の2第1項4号に基づき損害賠償請求をする住民訴訟の控訴審である。

2  原審は,土地取得についての議決を求めるに当たって控訴人が市議会にした説明には重大な誤り及び欠落があり,審議がなされたとはいえないから,議会の議決を経たことを条件とする土地売買契約は条件が成就しておらず,したがって,売買代金及び売買契約の成立を前提とする損失補償等の支出はいずれも違法であるとして,被控訴人らの請求を全部認容した。そこで,これを不服とする控訴人が控訴した。

3  被控訴人らは,原審において,当初の訴えを変更して,市から土地所有者らに実際に支払われた金額を損害として7億1045万4639円及びこれに対する遅延損害金の請求をしていたところ(平成13年4月13日付け請求の趣旨変更申立書),平成14年11月28日に,請求額を,適正な支出として主張する額と実際の支出額との差額である2億7431万7442円及びこれに対する遅延損害金として請求を減縮したものであるが(なお,適正な支出額として主張する額は,その後更に減額されたが,上記の請求額はそのまま維持された。),当審において再び請求を拡張して,議会の議決が不存在又は無効であることを理由として,土地所有者及び近隣工場に支出された全額(7億3051万0689円)を損害として同額及びこれに対する遅延損害金の請求を主位的請求とし,上記の2億7431万7442円及びこれに対する遅延損害金の請求を予備的請求とした。

なお,選定者甲(平成14年8月1日死亡),同乙(平成13年7月23日死亡),同丙(平成13年1月12日死亡)の請求に関する部分は,同人らの死亡により終了した。その余の選定者である被控訴人らは,当審で被控訴人となるべき者の選定を取り消して各自が被控訴人となり,被控訴人丁は訴えを取り下げた。

4  事実関係は,下記5のとおり補正し,後記6のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実」欄第2に記載のとおりであるから,これを引用する。

5  原判決の補正

(1)  原判決5頁21行目末尾に,「(平成11年6月25日の市議会における本件各土地を取得する議案の議決を,「本件議決」という。)」を加える。

(2)  原判決6頁7行目の「本件1・14~21土地は,」の後に,「敷地とならないばかりか散歩道を配して公園として利用するにも適さない,借景にもならない有効利用が望めない下り斜面なのであり,」を加え,同8行目末尾に,「これらの不必要な土地を買収したことによる市の損害額は,原判決別紙3の【仮1】の内不要分に記載のとおり,5402万2296円である。」を加える。

(3)  原判決6頁25行目から7頁4行目までを,次のとおり改める。

「a 本件各土地の適正価格は,合計2億7574万7312円である(原判決別紙3の【仮1】記載のとおり。)。これは,不動産鑑定士b-ⅰ作成の不動産鑑定評価書(甲132。b-ⅰ鑑定)で鑑定対象となっている土地の価格を同鑑定どおりとし,それ以外の土地(雑種地,山林)については,隣接するf工業団地の買収単価によったものである。市は,これを合計6億2777万0761円で買い取ったから,両者の差額3億5202万3449円が市の被った損害となる。」

(4)  原判決7頁5行目の「原告の依拠した」を,「控訴人の依拠した」と改める。

(5)  原判決9頁2行目と3行目の間に,次を加える。

「d 控訴人としては,b-ⅱ第2鑑定は極めて不合理であり,議員からも買収価格が異常に高いとの指摘を受けていたのであるから,これを批判的に検討し,同鑑定士により正確な鑑定を求めるべきであったのに,これをせず,鑑定書を検討すらせず,電話で結果だけを聴き取り,議会に提案をした。疑問の多いb-ⅱ第2鑑定だけに依拠することは危険であり,他の不動産鑑定士から鑑定を取得する,あるいは土地評価委員会のような検討機関を設けて検討する等の調査を行う義務があった。これは「公共用地の取得に伴う損失補償算定基準」(以下「本件算定基準」という。甲111)にある「土地評価事務要領」からも控訴人に課せられた義務であったにもかかわらず,控訴人は十分な調査をしなかった。」

(6)  原判決10頁6行目と7行目との間に,次を加える。

「(エ) 被控訴人らが入手した本件牛舎建築時の基礎図面等を使って本件算定書のずさんな積算の一部を訂正すると,過剰補償額は,A棟からE棟までについて合計1億0477万1819円,工作物については2964万1245円,動産移転料については341万0508円で,合計1億3782万3572円となり,本件算定書の補償額3億4849万7278円の約39.55%にも当たるのである。」

(7)  原判決10頁12行目と13行目の間に,次を加える。

「カ 控訴人の故意又は過失の存在

前記(原判決「事実」欄第2の1(3)ア)の控訴人の一連の行為に照らし,控訴人には,市の損害の発生について故意があった。仮にそうでないとしても過失があったことは明らかである。」

(8)  原判決10頁13行目末尾に,「(予備的請求)」を加える。

(9)  原判決10頁16行目末尾に,次を加える。

「(ただし,被控訴人らが最終的に主張する下記③の適正額(本件各土地の適正額総額から買収不要分の土地の額を差し引いた残額)は原判決別紙第3の【仮1】に記載のとおり2億2172万5016円であるから,上記の損害額は実際の損害の一部である。)」

(10)  原判決11頁11行目の「(6)」の後に,「(予備的請求)」を加える。

(11)  原判決11頁25行目の「その対価の決定について」を削除する。

(12)  原判決15頁9行目と10行目の間に,次を加える。

「なお,同鑑定を行ったb-ⅱ鑑定士は,平成11年当時は前面市道の完成後の状態として幅員11メートルと確認しており(乙62),鑑定書のNo.B標準画地で16メートルを採用しているのは都市計画街路の規格を入れたまでで,実際の幅員11メートルとの差は片側の歩道がないことによるものであって,車道部分は幅員16メートルの道路と同じであるから評価には影響しない。」

(13)  原判決19頁18行目の「平成11年3月」を,「平成11年2月1日」と改める。

(14)  原判決20頁24行目と25行目の間に,次を加える。

「(カ) 市には土地評価委員会のような検討機関はないし,法的にもそのような機関による検討が義務づけられているわけではない。また,専門家である不動産鑑定士の評価額を信頼したからといって,そのことが違法であるということはできない。鑑定書に明白な誤りがあり,それによって鑑定結果が大きく異なるにもかかわらず,それを見落としたという場合なら格別,そのような誤りがないにもかかわらず,不動産の専門家でもない控訴人が,b-ⅱ第2鑑定の結果に基づいて契約したことが裁量権の逸脱濫用に当たるということはできない。」

(15)  原判決22頁24行目の「a-ⅰ」を,「建設技術センターの担当者a-ⅰ」と改める。

(16)  原判決24頁6行目及び7行目の「規準」を,いずれも「基準」と改める。

(17)  原判決24頁18行目の「(3)エ,オの事実」を,「(3)エないしカの事実」と改める。

6  当審における当事者の主張

(被控訴人ら)

(1) 原判決第2の1(2)(財務会計行為)アないしエの支出負担行為及び支出に共通する違法性

ア 議決不存在

控訴人は,本件牛舎地の引渡時期を,牛舎移転先保安林についての森林法29条の解除予定通知後18か月以内とすること及びf区に点在する牧場主の牛舎施設等の移転統合に関して,市が保安林解除申請手続を行い,かつ,損失補償基準に基づき算定した補助金額を上限として補助金を交付することを内容に含んだ本件協定書(「斎場整備事業に伴う用地・補償等に関する協定書」)を取り交わし,本件協定書に従った契約の履行を進めるつもりであったにもかかわらず,平成11年6月25日の市議会(以下「本件議会」という。)で,本件協定書の存在を秘匿して同月21日付け(一部については23日付け)の土地売買契約書等(以下同日付けの土地売買契約を,「本件仮契約」という。)を示して,議員の質問に対し,a-ⅱ助役(以下単に「助役」という。)に,本件各土地の明渡期限は平成12年3月31日であって条件は付されていないと虚偽の答弁をさせ,その場にいながら訂正せず,自らも斎場の建設開始時期について平成12年度中に着工できればなどと実現不可能な虚偽の発言を行って,本件各土地の取得を議決させた。

市議会は,本件協定書に記載された牛舎移転期限に関する取決めと補助金の必要性が明らかにされていれば,本件牛舎地の取得を議決しなかった可能性が極めて大きいことに鑑みれば,控訴人は,市議会に対して単に説明不十分であったに留まらず,虚偽の説明などにより審議対象を本来審議すべき本件協定書から本件仮契約にすり替えていたものというべきである。そして,このような虚偽の説明による審議対象のすり替えは,極めて重大かつ明白な議決手続の瑕疵であるから,これをもって議決があったとはいえない。

なお,牛舎移転期限に関する取決めと補助金の必要性が説明されていれば議決されなかった可能性が極めて高いとまではいえないとしても,虚偽の説明によって審議対象のすり替えを行ったことにより,やはり議決は不存在というべきである。

イ 議決無効

仮に,本件議決が存在するとしても,本件議決は,虚偽の説明による審議対象のすり替えという重大かつ明白な手続瑕疵の帰結であって,市議会が一方的に虚偽の説明等に騙された結果であるといえるから,本件議決が無効であることは明らかである。

(2) 請求の拡張(主位的請求)

ア 上記のとおり,本件各土地の取得に関する契約の審議がなされたとはいえず,この議会の議決(本件議決)はないものと評価するべきであり,仮に議決があったと評価されても無効というべきであって,本件仮契約については有効な議会の議決がないものであるから,未だ本契約とならず,これによる売買代金の支出は全て違法である。また,牛舎の移転に伴う損失補償契約,立木補償契約,近隣2工場に対する損失補償の契約を控訴人が締結し,これらの契約に基づいて支出することも違法であって,それらの支出については控訴人の故意が認められる。したがって,平成11年8月20日までに支出された本件各土地の代金4億7057万0761円,本件各土地上の建物等の損失補償2億3469万7278円,立木補償518万6600円,近隣2工場に対する損失補償2005万6050円の合計7億3051万0689円がすべて市の損害となる。

よって,被控訴人らは,控訴人に,市に対して,7億3051万0689円及びこれに対する平成11年8月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

イ 控訴人の主張(2)イ(消滅時効)について

市長が交代した平成14年4月は,伊賀7市町村の合併論議等,首長の決断を待っている問題が山積しており,前市長である控訴人の斎場計画の遂行が異例の事務処理によって混乱を極めていた事実について,斎場担当職員からc市長(以下「現市長」という。)に対して詳細が説明されたのは,おそらく,現市長が斎場計画の見直案を議会に提出した平成14年9月の時点から遡ってそう遠くはないと思われる。また,本件協定書が議決を経ていないこと,本件協定書と本件仮契約の内容が異なることに関する議会での説明の欠落,虚偽等について,それが控訴人の不法行為であることを確信するまでには,種々の疑問の余地があったであろうから,これについて現市長が認識したのは被控訴人らと同時期であったと思われる。したがって,被控訴人らにとっても,代位される市にとっても,控訴人の不法行為を原因とする損害の全てを賠償請求する権利は,附帯控訴に踏み切った平成17年5月26日時点において,未だ3年の時効期間を経過していない。

(控訴人)

(1) 当審における被控訴人らの主張(1)記載の事実は,いずれも否認する。

ア 本件協定書で,本件牛舎地の引渡時期が保安林の解除予定通知後18か月以内とされているのは,できるだけ早く引渡しを受ける必要のある市の利益のため最大限猶予できる範囲を設定したものであるが,具体的な期限は,本件協定書を交わした後,本件仮契約を締結する段階で更にその範囲内で定めることが予定されていたものであり,平成12年3月31日という明渡期限は,解除予定通知後18か月以内を更に具体的に定めて確定期限としたものであって,両者は矛盾する内容ではない。また,法的効力では,本件仮契約が市議会の議決を得た正式な契約であるのに対し,本件協定書は仮契約に過ぎず,本件仮契約が本件協定書に優先して適用されるのであるから,控訴人としては,本件議決のあった後は,本件仮契約に従った履行を相手方に求めていくことになる。

本件仮契約で明渡期限が平成12年3月31日と記載されたのは,予算の単年度主義に基づく要請があり,年度を超えた明渡期限を設定することはできなかったためである。また,実際,本件仮契約が締結された平成11年6月当時,契約上の期限である平成12年3月31日まで約9か月の期間があり,その期間に解除予定通知を受けることは十分に可能であって,本件仮契約に従った引渡しの履行は十分に可能であると控訴人は考えていた。平成11年度中に解除予定通知及び引渡しができなかったのは,ひとえに解除予定地内で国内希少野生動物であるオオタカの生息が確認され,その調査が必要であったためである。

このように,明渡期限を変更せざるを得なくなったのは,契約後の事情の変化によるものであって,控訴人が本件協定書に従った履行を進めようとしたことによるものではない。

イ 補助金については,本件各土地以外のf区内に存在する牛舎施設を本件牛舎と共に移転統合することは,f区から要望のあったもので,牛舎所有者の都合による措置ではないため,不利益を被る牛舎所有者に,損失補償基準に基づいて算定した金額を上限に補助金を交付しようというものであり,既に,平成10年10月12日の市議会斎場建設調査特別委員会(以下「特別委員会」という。)で説明済みである。また,牛舎施設の移転統合は,本件斎場計画とは別個の事業であり,本件議決の対象とされていた斎場建設用地に関する本件仮契約とは直接の関係がなく,平成11年6月当時,未だ具体的な時期・方法について決まっておらず,予算計上もなく,議会に説明できるところまでには至っていなかった。したがって,この補助金の交付の問題を,平成11年6月当時の斎場建設用地である本件各土地の取得を審議している過程で持ち出す必要はなく,控訴人に説明義務もなかった。

ウ 本件議会における助役の答弁は,本件仮契約で定められた明渡期限を正確に答えたものであり,何ら虚偽の答弁ではない。解除予定通知が平成12年3月31日までに取得できないことが最初から確実に分かっていたのであれば,本件仮契約の期限内の履行は不可能であるから,契約上の期限は平成12年3月31日とのみ説明するのは,不誠実な答弁であるかもしれない。しかし,解除予定通知が平成12年3月31日までに取得できれば(実際,可能性は十分にあったし,控訴人もそのように考えていた。),期限までの明渡しは十分可能であるから,本件協定書の内容を説明しなかったからといって,虚偽の答弁をしたことにも不誠実な答弁をしたことにもならない。

また,解除予定通知後でなければ本件牛舎地の明渡しを求めることができないということは,本件牛舎の移転先が保安林であることからも当然のことであり,そのような誰でも知っていることまで説明する必要がないことはいうまでもない。むしろ,反対派の問題提起により,保安林解除の問題点が明らかにされており,保安林解除が本件牛舎地の明渡しの大前提であることが分かっていたのだから,市議会は,本件議案の審議において,本件牛舎地の明渡し,斎場の建設着工が実際にはいつになるかなどの点について,控訴人の説明を聞くだけではなく,自ら調査をするなどし,時間が足りなければ審議を継続して,更に議論を尽くすことができたのであり,そのように審議を十分に尽くさず議決したとすれば,それは市議会の責任である。

エ 被控訴人らが指摘する控訴人の発言は,本件の場合,保安林解除が相当な長期間を要するほど困難なものではなく,控訴人もそのように認識していたこと,本件協定書に照らしても,例えば牛舎の移転と斎場の建設を同時着工する方法なども検討されていたことからすると,実現不可能な虚偽の発言といえないことは明らかである。

オ 市議会に対し議決が求められていたのは,本件仮契約であって,本件協定書ではない。

カ 仮に百歩譲って市議会が騙されていたとしても,平成12年3月の時点で契約どおりの明渡しができないことがわかったとき,市議会は予算の繰越措置及び期限を延長する変更契約を承認したのであるから,平成11年6月の本件議決を追認したことになる(民法122条)。

キ 本件議決が不存在であることにより本件各土地の売買契約が成立しなかったことになるのであれば,同契約により牧場主らに支払われた金員は法律上の原因なくして給付されたものといわざるを得ず,市は牧場主らに対して不当利得返還請求権を有している。したがって,市は,控訴人に対して重ねて損害賠償請求権を行使することはできない。

また,斎場用地購入については,鑑定に基づく適正な対価を支払って本件各土地の所有権を得て,登記も経由しているのであるから,市は対価に見合う土地を取得しており,対価の支払が損害であるとはいえない。

(2) 被控訴人らの請求の拡張について

ア 本案前の主張

被控訴人らは,原審で,当初の請求額を,市から実際に支払われた金額である7億1045万4639円に拡張し(平成13年4月13日付け請求の趣旨変更申立書),その後,請求を2億7431万7442円に減縮する旨を申し立てた(平成14年11月28日付け請求の趣旨変更申立書)。この経緯に照らすと,原審で減縮した部分の請求は放棄したものとみなすべきであるから,この部分を改めて請求することは許されない。

イ 消滅時効の抗弁

仮に請求の拡張が許されるとしても,2億7431万7442円を超える部分に係る請求権は時効により消滅している。すなわち,被控訴人らが市の支払額全部を損害として請求を拡張したことにより全額について損害賠償請求権の時効が中断したとしても,平成14年11月28日に請求額を2億7431万7442円に減縮したことにより同額を超える部分については訴えの取下げがあったものであり,その部分については時効中断の効力は失われた。

控訴人は,平成18年1月20日の当審第1回口頭弁論期日において,時効援用の意思表示をした。

第3当裁判所の判断

(当審における請求の拡張に対する控訴人の本案前の主張について)

控訴人は,被控訴人らが原審で減縮をした請求は,請求の放棄があったものと認めるべきであるから,当審で再度拡張して請求することは許されないと主張する。しかしながら,被控訴人らは,本訴において,地方自治法242条の2第1項4号により市が控訴人に対して有する損害賠償請求権を行使するものであり,この権利は被控訴人らにおいて処分し得ないものであって,請求を放棄することはできないもの(最高裁判所平成17年10月28日第二小法廷判決・民集59巻8号2296頁)であるから,被控訴人らが原審でした請求の減縮は訴えの一部取下げと解さざるを得ない。そして,第1審の判決前の一部取下げである以上,同一の請求について再度訴えを提起することは可能であるから,請求の拡張も同様に許されるものというべきである。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

(本案について)

1  請求原因(1)(当事者),(2)(財務会計行為)及び(5)(住民監査請求の前置)の事実は当事者間に争いがない。

2  本件の経緯等及び請求原因(3)ア(各支出負担行為及び支出に関する共通の違法性)についての当裁判所の認定,判断は,別紙のとおり補正した原判決「理由」欄の2及び3と同一である(原告らを被控訴人ら,被告を控訴人と改めた。また,当審で補正した部分を太字で記載した。)。

3  当審における被控訴人らの主張(1)(本件議決の不存在または無効)について

補正後の原判決「理由」欄の2(別紙の2)(15),(17)及び(18)で認定したとおり,控訴人は,平成11年4月1日に,牧場主との間で本件協定書を取り交わし,同年6月21日に,本件各土地所有者との間で本件仮契約を締結した上で,同月25日の市議会定例会(本件議会)に本件各土地を総額6億2777万0761円で取得する議案を提案し,その際,本件協定書の存在及びその内容を説明せず,本件仮契約のみを説明し,市議会は上記議案を了承する旨議決したものである。

(1) まず,被控訴人らは,控訴人が,本件牛舎地の明渡しに条件が付されていること,本件牛舎地の代替地につき市が保安林解除申請等の手続を行うこと,牛舎等の移転統合に関して補助金を交付すること等を内容に含んだ本件協定書に従った契約の履行を進めるつもりであったにもかかわらず,本件協定書の存在を秘匿して本件仮契約を示したと主張する。

しかし,本件協定書を検討すると,その前文で「仮契約を締結するにあたり,次のとおり協定を締結する。」として,別個に仮契約を締結することを前提としており,また,本件牛舎地の売買に関する部分は,明らかに議会の議決を要するものであるにもかかわらず,これについて合意が議会の議決を得て有効となる旨の記載はなく,本件牛舎地以外の施設の移転について,具体的な補助金の金額の記載もない(甲87の1の①)。これらのことからすると,本件協定書が,控訴人,牧場主の間で行っていた協議のうち,土地売買契約及び施設の移転統合に伴う補助金に関して,最終的かつ確定的な合意であると認めることはできず,本件牛舎地の売買についての最終的な合意は本件仮契約であることはその内容からして明らかというべきである。そうすると,議会が,地方公共団体の意思決定のうち基本的なもの及び重要なものについて,執行機関の行為に対して事前又は事後の監視,統制という機能を発揮することが予定されていることから,執行機関は,例えば不動産の取得について議決を得るに際し,目的物の特定及びその価格のみならず,売買の目的,必要性,双方の債務の履行時期等の重要な付帯条項について誠実に説明すべき責務があるというべきであるが,執行機関に契約締結に至る経過や関連する問題の経過等の一部始終を議会に説明・報告させることは,円滑な地方行政の執行に反したり,また,議会の議事をいたずらに煩雑にする場合もあり得るから,控訴人が本件各土地の売買の議決を得るに際して,最終的な合意ではない本件協定書について説明しなかったからといって,これが直ちに議決の意味を失わせるほどの重大な瑕疵になるものと解することはできない。当時斎場建設室長補佐で平成14年4月の現市長誕生後同室長となり,当審において被控訴人らの申請にかかる証人として出廷して証言した証人a-ⅲも,平成14年9月19日の議会において,「(本件協定書は)議会にあえて提出するものではない,事務方といたしましては,そうした議案を提出するに当たっての確約的なものが欲しかった」と説明し,また,一般的には協定書そのものや覚書,念書といったものは議会に説明することはあまりなかったように記憶している旨証言しているのもこれに沿うものである。

(2) 被控訴人らは,控訴人が,本件各土地のうち本件牛舎地の明渡期限は平成12年3月31日であって条件は付されていないと助役に虚偽の説明をさせたと主張する。そこで検討するに,補正後の原判決「理由」欄2(15),(17)のとおり,本件仮契約書には本件牛舎地の明渡期限は平成12年3月31日と確定期限が定められているが,本件協定書では移転先保安林の解除予定通知後18か月以内と定められているところ,解除予定通知が速やかに出されれば明渡しが平成12年3月31日までになされることもあり得るという意味で,本件仮契約は本件協定書の合意の範囲内であり,必ずしも両者は矛盾するものとはいえないし,牧場主は無条件の本件仮契約に合意しているのであるから,後述((3))するように,平成12年3月31日までに保安林解除予定通知の取得は確実であると確信を持っていたとの控訴人の主張も一概に排斥できないことも併せ考えると,控訴人と牧場主とが議会の議決を得るために,故意に仮契約に明渡期限を平成12年3月31日と記載して解除予定通知後18か月以内とする条項を入れずに,実際はこの部分についてのみ本件協定書どおり解除予定通知が得られてから履行すれば足りるものと合意したと解することは困難である。

もっとも,斎場建設室内では解除予定通知が平成12年3月31日までに出されなければ,明渡期限は延長するものと考えていたことが認められ(証人a-ⅲ),現に解除通知が得られないため,平成13年3月31日,平成14年3月31日と2回延期されたことからすると(補正後の原判決「理由」欄2(21)),市当局としては,実際には平成12年3月31日までに明渡しを得ることができなくなることは十分にあることと予想しながら,あえて仮契約には同日を確定期限として表示したものとの疑いはあり,そうであるとすれば,本件議会において助役が「すべての土地について仮契約をしております。仮契約の内容は本年度末ということになっております。」,「あの契約の中に特段の条件はうたわれておりません。」と答弁した(甲83の2)のは,それ自体は虚偽ではないとしても,不誠実な回答であり,これを訂正せず座視していた控訴人の態度も,議案を提出して市議会の審議・議決を受ける立場にある市長として誠実さを欠いたものとの批判を免れないところというべきである。しかしながら,先に見たとおり,市においては,新斎場建設は昭和50年代から長い間待ち望まれていた大事業であって,候補地が種々検討され,移り変わった挙げ句,平成9年にようやくf区の本件牛舎地に決まったのであり,牛舎の移転先が保安林である場合はその移転のためには保安林の解除が必要であり,これが容易にできるものではなく,相当程度の時間を要することがあることは議員においても承知しており,それゆえこれを前提とした質疑応答が市議会でも度々なされていたのであって,これらの事実からすると,本件協定書の存在・内容の説明をしていたとしても賛成15票,反対4票で可決された本件議決と異なる結果の議決がされたものとは考え難く(現に,補正後の原判決「理由」欄2(27)のとおり,平成14年9月19日の特別委員会において現市長が新斎場を工業団地内に建設する変更案を提案し,10月8日の特別委員会でこれが了承されたものであるが,これは現市長の公約の実行が提案され議会に承認されたものであって,本件協定書の存在も同年9月19日の特別委員会においてその存在が明らかにされたのに,それ以後の議会においても本件協定書の存在・内容が説明されなかったから本件議決が不存在あるいは無効であるとの意見は全く提出されていないし(甲100,141の1・2,乙52,54),被控訴人ら自身,原判決が,本件各土地取得に関する契約の審議がされたとはいえないから,本件議決はないものと評価すべきであると判示するまでは,本件議決が不存在または無効であるとの主張は全くしていなかったことは記録上明らかである。),控訴人ないし市当局において議決を得るためにあえて本件協定書の存在を秘匿して明渡期限につき虚偽の説明をしたとは認めることができない。

(3) 被控訴人らは,控訴人が,本件議会において,平成12年度中に斎場の建設に着工できればと実現不可能な虚偽の説明をしたと主張するところ,控訴人は,平成12年3月末までには保安林解除予定通知の取得は確実であると確信を持っており,仮に保安林解除予定通知が平成12年3月31日までに得られなかったとしても,牛舎の移転と斎場建設とを併行して行う同時着工方式なども検討されていたから,平成12年度中に着工することは可能であったと主張し,控訴人も本人尋問において同趣旨を述べ,平成8年以降市の斎場建設室に在籍していたa-ⅳは,同時着工方式を具体的に指示されたのは平成11年末であると述べる(乙70,控訴人本人)。

確かに,当時,県の担当者は,牛舎の移転のための保安林指定解除は不可能との見解を明らかにしており,これに沿う報道等がなされていたことを認めることができる(甲6の1,83の2)。しかし,当時,県は本件牛舎地で新たな斎場を建設することについて既に火葬場事業に対する都市計画法による認可をしているのであり(補正後の原判決「理由」欄2の(18),乙33,37),上記の報道について,助役は,本件議会で,保安林指定解除は可能であり,たとえできないとしてもいろいろな手法が可能であると答弁していること(同2の(18)),また,同議会での控訴人の説明内容,特に,県となお交渉が必要であることを述べて,平成12年度中の着工について確約したものではないこと,保安林指定解除の要件である公益性について控訴人なりの考え方を披瀝し,今後県との交渉に入ることを説明していること,議員からも,一時牛を避難させるなどの工期短縮の検討の必要性が問われ,これに控訴人が前向きに対応している状況(同2の(18)。なお,平成10年6月ころには,牛を別の牛舎で飼う現地生産方式も研究されていた(乙68)。),平成11年5月18日,a-ⅳらは,県の主幹から保安林解除のスケジュールについて,市の場合だと通常半年位だが,個人申請だと今年度は無理と考えるとの答えを得(甲146の1),斎場建設室長補佐であったa-ⅲもこれを聞いてそのような見通しを持っていたこと(証人a-ⅲ),平成12年3月30日,県の環境部森林保全課長のa-ⅵも市議会の議長らに対し,平成11年12月末までに国と協議し,12年3月末までに解除ができる方向になっていたが,同年2月にオオタカの問題が出てきて3月末の解除は無理となったと説明していること(甲142の1),更には,その後,実際に牛舎移転先として予定された保安林の解除予定通知が得られたこと,その際に事前相談書の提出から解除予定告示を得るまでに約2年3か月の期間が経過しているが(同2の(20)ないし(23)),当初約9か月程度はオオタカの調査が行われていたこと(同2の(19),甲150)などの事実があるのである。これらの事実からすると,オオタカの調査がなければ事前相談書の提出から1年半以内に解除予定通知が得られたものと単純に推定することはできないとしても,本件議会の時点で,平成12年度末(平成13年3月)までに斎場建設に着工することが客観的に実現不可能な状況にあったとまではいうことができず(乙54),したがって,控訴人が実現不可能であることを認識しつつ虚偽の答弁をしたものということはできない。

なお,被控訴人らは,同時着工方式は当時検討されていなかったと指摘し,証人a-ⅲは,同時着工を控訴人から指示されたのは平成13年末であると述べる(甲88の1の①,②,165の1,証人a-ⅲ)。しかし,上記のとおり,本件議会の当時から工事方法についても検討は行われているのであり,上記の証人a-ⅲの述べるところは,解除予定通知がなされた後,実際に工事の検討に入る段階で控訴人から指示され,牧場主と交渉したことをいうのみであることからすると,具体的な同時着工方式の検討を控訴人が指示したのがa-ⅵの述べるとおり平成11年末であるか否かは別として,証人a-ⅲの証言は,平成13年末以前の段階で,同時着工方式をも含めて控訴人を含む執行部が内部で検討をしていなかったことの証左となるものではないから,上記の被控訴人らの指摘を採用することはできない。また,被控訴人らは,本件牛舎地の適正価格を算出するに当たって,市が不動産鑑定士に更地評価を算出させていることをもって同時着工方式と両立しないかのように指摘するが,同時着工方式によっても本件牛舎地上の建物等を順次牧場主の負担で収去し明渡しを受けるならば,これを更地として評価して市が購入することとは何ら矛盾しないから,その指摘は採用することができない。

(4) 更に,被控訴人らは,審議対象のすり替えがあり,議決は不存在である等と主張するが,地方自治法96条1項8号で議決を要するのは,「条例で定める財産の取得または処分」であって,本件議決の対象は本件各土地の取得であり,控訴人が説明したところも本件各土地の取得であるから(補正後の原判決「理由」欄2の(18),甲83の2,乙60,64),このことにより,牧場主のみについて,「本件協定書に基づく本件牛舎地の売買契約」についての議決があったものと見ることはできず,被控訴人らの主張する審議対象のすり替えを認めることはできない。

(5) また,f区について牛舎等の移転統合事業が行われることも,本件各土地の取得契約自体と不可分な事柄ではなく,牛舎等の移転統合は斎場用地の取得と同時に行われるもののあくまで別事業として行われることは既に議会で説明済みであって(補正後の原判決「理由」欄2の(12)),別事業である以上その費用も別に計上されることは当然であり,これについてはその支出をするに当たり改めて議決を求められるのであるから,これらを本件議会で重ねて説明しなかったからといって,本件各土地を取得することについての議決の意味を失わせるような瑕疵になるものと解することはできない。

(6) 以上によれば,議会の議決の不存在,あるいは議決の無効をいう被控訴人らの主張はいずれも採用することができず,したがって,議決の不存在あるいは無効を理由とする主位的請求(当審における被控訴人らの主張(2)ア)は理由がない。

4  請求原因(3)イ(本件各土地の買受け及びその代金支出の違法性等)について

(1) 買収の必要性について

ア 被控訴人らは,控訴人が,市の目標人口が10万人であるにもかかわらず,15万人都市を目標としていると議会で述べて,本件斎場を人口15万人規模のものとしたのは過大であり,裁量権の濫用があると主張する。

しかし,証拠(甲3の1の①,135の2・3,証人a-ⅴ)によれば,市が設置する斎場は,市の住民のみならず,近隣町村の住民も使用するものであること,市の第4次名張市総合計画後期基本計画では,平成8年における平成12年の目標人口を10万人としているが,同時に,長期予測人口は平成33年に15万人としていること,斎場の適正規模は,人口が10万人を超えた場合と超えない場合とで異なると考えられていることが認められるのであり,更に,一般的に火葬場自体がいわゆる迷惑施設であって,将来,人口の増加により斎場の拡張が必要になったからといって,これが容易かつ迅速に行えるか否かは明らかでないことからすると,15万人規模の葬祭施設を計画することは行政の裁量の範囲内ということができ,これを裁量権の濫用ということはできない。

イ 被控訴人らは,本件1・14~21土地が買収不要であったとも主張する。しかし,証拠(甲3の1の①,15の1,20の1,135の3,証人a-ⅴ)によれば,人口15万人規模の斎場であって,郊外地に立地し,葬祭施設も併設するならば,基準となる斎場の規模は3万平方メートル程度が必要と考えられており,これは,施設を建設する宅地のみならず周辺の環境緑地を含んだ広さであることが認められ,本件において葬祭施設を併設することが不必要とまでは認めることができず,したがって,本件各土地合計約3万1500平方メートルは上記の基準に照らして相応の規模といえるところ,被控訴人らが不要であると指摘する上記の土地は,斎場計画地の北側周辺部分に当たり,斎場周辺の環境緑地部分に相当する位置に当たるものと解されるのであり,これらを総合すると,上記の各土地については,なお,不要とまでは認めることができない。

(2) 買収価格について

ア b-ⅱ第2鑑定について

被控訴人らは,市が行った買収価格の単価が高額に過ぎると主張するところ,市は,b-ⅱ第2鑑定の鑑定結果に基づき,本件各土地の売買を行ったものであるから,まず,同鑑定の相当性について検討する。

(ア) 証拠(甲22の2,94の1・2,95の1・2,103の1,104の2の①,乙3,44,62,証人b-ⅱ)によれば,以下の事実が認められる。

Ⅰ b-ⅱ第2鑑定は,本件各土地のうち13筆について,これを現況宅地部分11筆と現況林地部分2筆に2分し,最有効使用態様を,現況宅地部分は再整備を前提としての中規模工場用地,現況林地部分は中規模工場用地としての利用可能性を内包する低熟成度宅地見込地とする。そして,現況宅地部分に対応する標準画地を,「当該近隣地域のほぼ中央位置にあって,幅員約6m舗装県道g線に北面(等高位)する平坦地勢の現況宅地であり,間口約20m・奥行約50m・規模約1000m2の略台形状画地(中間地)」と設定し,1平方メートル当たり,取引事例比較法による比準価格を3万1500円,収益還元法による収益価格を2万3700円,公示地価を規準とする価格を2万9700円と求めた上で,標準価格を3万0800円と算出し,これに,個別的要因として,幅員約16メートルの市道(f工業団地中央線)に接面していること(街路条件)+3,環境条件-8,画地条件-11,その他条件+6,合計個別的要因100分の89として,本件各土地のうち現況宅地部分を1平方メートル当たり2万7400円と算出する。現況林地部分については,対応する標準画地を,「当該近隣地域の中央北部位置(県道g線の北背後ゾーン)にあって,幅員約16m舗装市道(f工業団地中央線)に東面(一段低位)する西向傾斜地勢の現況山林であり,間口約18m・奥行約55m・規模約990m2の略台形状画地である。」とし,取引事例比較法による比準価格及び収益還元法による収益価格を求めて,標準価格を1平方メートル当たり5500円とし,これをそのまま本件各土地のうち現況林地部分の価格とする(乙3,44)。なお,f工業団地への進入道路(f工業団地中央線)の幅員は上記の16メートルではなく正しくは11メートル(一部両側歩道を含め14メートル)であることは,b-ⅱ鑑定士も後に認めるところである(甲104の2の①,乙62)。

また,附記事項として,現況雑種地の価格水準については上記現況宅地についての標準価格3万0800円に個別格差62/100を乗じ,1平方メートル当たり1万9100円とした。本件土地1,9についてはこの価格により売買がされた(本件土地9の持分2分の1は公社が先行取得)(甲95の1)。

Ⅱ 補正後の原判決「理由」欄2(5)記載のとおり,b-ⅱ鑑定士は,本件各土地のうち13筆につき,平成8年11月にも市の依頼により鑑定評価を行っている(b-ⅱ第1鑑定。甲22の2,102の1の①,乙2)。同鑑定では,最有効使用態様を,現況宅地部分については再整備を前提としての中規模工場用地とするが,現況林地部分については,現況用途(山林)としての継続的使用とする。そして,現況宅地部分について,標準画地を「当該近隣地域のほぼ中央位置にあって,幅員約6m舗装県道g線に北面(等高位)する平坦地勢の現況宅地であり,間口約20m・奥行約50m・規模約1000m2の略台形状画地(中間地)」として,取引事例比較法による比準価格,収益還元法による収益価格及び公示地価を規準とする価格を求めた上で,標準価格1平方メートル当たり2万5500円を算出し,これに,個別的要因として,街路条件-5,環境条件-8,画地条件-15,その他の条件+3で,合計個別的要因100分の76と決定して,現況宅地部分を1平方メートル当たり1万9300円と算出する。また,現況林地部分については,標準画地を「当該近隣地域の中央北部位置(県道g線の北背後ゾーン)にあって,幅員4m舗装市道に東面(一段低位)する西向傾斜地勢の現況山林であり,間口約18m・奥行約55m・規模約990m2の略長方形状画地である。」として,取引事例比較法による比準価格及び収益還元法による収益価格を求めて,標準価格1平方メートル当たり5500円とし,これをそのまま現況林地部分の価格としている。

Ⅲ 本件各土地の北側で,同じくf団地中央線(ただし整備前)に接面する土地について,公社(当時の理事長は控訴人)がf工業団地造成のための用地を取得しているところ,これに先立ち,公社は,同団地予定地のうちの名張市f字h■番■の土地(現況宅地。実測6263.83平方メートル)について財団法人日本不動産研究所所属の不動産鑑定士b-ⅲに鑑定を依頼した。同鑑定士作成の不動産鑑定評価書(b-ⅲ鑑定。平成6年3月31日発行で,価格時点は同月1日である。甲94の1,103の1)では,幅員4.5メートルの未舗装市道(整備前のf団地中央線)沿いで1画地の規模が1万平方メートル程度の工場用地を標準画地と設定し,その標準価格を1平方メートル当たり1万8500円と判定し,個別的要因72パーセントの格差修正率を乗じて1平方メートル当たり1万3300円としている。

b-ⅲ鑑定士は,このほか,平成8年2月1日を評価時点として,本件各土地の北側の名張市f字k■番の山林208平方メートルについて,幅員1メートルの林道沿いで1筆の規模が1000平方メートル程度の宅地化の影響を受けた雑木林地の標準画地の価格を1平方メートル当たり2800円とし,これとの比較で,上記の山林は道路幅員が優れ,増額要因があるとして,1平方メートル当たり3200円と評価している(甲94の2)。

(イ) 上記に認定した各事実に照らすと,b-ⅱ第1鑑定とb-ⅱ第2鑑定とは,ほぼ同一の範囲の土地を平成8年11月と平成11年2月の2年3か月の間隔をおいて同一人である不動産鑑定士が鑑定したものであるところ,その価格は,現況林地部分は同一であるが,現況宅地部分が1平方メートル当たり1万9300円から2万7400円へと約42パーセントの上昇(標準画地間で約21パーセントの上昇,標準画地に対する個別格差の割合で13パーセントの上昇)となっていることが認められるところ,平成8年から11年にかけては全国的に地価の下落が続いている時期であって,このことは,三重県下でも同様であり,商業地のみならず工業地(特に工業専門用地の大規模のものなど)における下落傾向も大きな特徴であることはb-ⅱ第2鑑定にも記載されているところである(乙44)。上記のとおり,最有効利用,現況宅地部分を想定した標準画地の設定は両鑑定とも変わるところがないにもかかわらず,標準画地の価格及び個別格差の割合の双方で上記のとおり著しい増額の結果が出ることは,容易に納得し難いところである。また,現況林地部分については,最有効利用を林地から中規模工場用地としての利用可能性を内包する低熟成度宅地見込地と変更しながら,その評価において結果を同一とすることも不自然の感がある。

b-ⅱ鑑定士は,b-ⅱ第1鑑定とb-ⅱ第2鑑定の価格の乖離について,f工業団地の開発とf団地中央線の整備が主な要因であると述べる(証人b-ⅱ)。しかし,b-ⅱ第1鑑定が行われた平成8年当時,既にf工業団地及びf団地中央線の具体的な開発予定はあり,これはb-ⅱ第1鑑定でも言及されているのであって(甲22の2,乙62),これらを2つの鑑定の価格乖離の原因とするのは納得し難い。b-ⅱ鑑定士は,平成8年時点にも,これらを取引事例比較法の地域格差比準内容の「業務要因」,「発展・変動性」として織り込んで試算したが,昨今の全般的な公共事業の進捗状況を見た場合,構造的な財政不足を背景として,公共事業が中断されたり,遅れたり,場合によっては見直しがなされたりする状況であることから,平成8年の評価時点では価格への影響は最小限にとどめるのが妥当と判断した,平成11年には既にf工業団地の造成事業は着手され,f団地中央線の整備も進み,広域農道m号線(通称nロード)と国道165号の連結により車両輸送面の著しい上昇が見込まれたものであり,かかる事業が現実化・具象化したことによって,近隣における市街地近郊業務ゾーンとしての発展・変動性が鮮明となったと説明する(乙62)。しかし,b-ⅲ鑑定をもとにしたf工業団地の用地取得は平成6年ころから行われ,平成8年には一部造成工事は始まっており,b-ⅲ鑑定では標準画地の価格を1平方メートル当たり1万8500円としていることと比較すると,b-ⅱ第1鑑定は,既に,f工業団地の造成及びf団地中央線の整備を考慮に入れて評価しているものと解することができるのである。他方,平成11年の時点では,f工業団地の造成は第1工区はほぼ完成していたものの(平成11年11月11日造成工事完了,同年12月7日工事完了公告(甲132)),もちろん工場あるいは倉庫用地等として具体的に利用はされておらず,第2工区は完成未了(平成12年3月2日造成工事完了,同月17日工事完了公告(同))であり,f団地中央線も広域農道に至るまでの全線の拡幅工事が終了していたとは認められない(平成12年4月1日供用開始(同))ことからすると,平成11年にはこれらの事業について平成8年との比較で明らかに評価増となる事象があったとまでは認められない。

b-ⅱ鑑定士は,上記のとおり,f団地中央線の整備によって,広域農道を経由した国道165号線への連結により車両輸送面の著しい利便性が上昇したとして価格上昇の根拠として挙げる(乙62)。しかし,b-ⅱ第1鑑定,第2鑑定のいずれも,本件各土地を,あくまで主幹県道は県道g線であって,f団地中央線はこの県道への接続街路となるものと位置づけており,上記の利便性が標準画地の評価の決定的な要因となったものとは考え難い。なお,b-ⅱ第2鑑定は,対象不動産の地域要因分析表では,街路の系統・連続性を,「国道368号,広域農道等の整備により市街地部位との利便性上昇が認められる」と広域農道に言及しているが,このことによる標準画地に対する個別格差(街路条件)の増加はb-ⅱ第1鑑定の100分の95から100分の103と8ポイントの増で評価されているのであり,これを個別格差のみならず平成11年の標準画地の評価額自体の増額の根拠とすることには疑問がある。

したがって,b-ⅱ鑑定士の上記の説明を直ちに信用することはできない。

(ウ) b-ⅱ第2鑑定には,近隣地域の範囲について具体的な明示がないが,b-ⅱ鑑定士は,証人尋問において,県道g線に沿った本件各土地の西側で国道368号線に合流するあたりまでを想定し,f工業団地を含まない範囲であると証言する。そして,現況宅地部分についての取引事例比較法による比準価格を算出するに当たっては,この近隣地域外からの取引事例D1ないしD4を採用するについて,市街地外縁部~近郊ゾーンの業務混在地域に所在する取引事例を中心として採用している(乙62)。しかし,「業務混在地域」なる概念は,一般に広く用いられているものではなく,不動産鑑定評価基準にも掲げられていないものである上,b-ⅱ鑑定士は,あるいは既存農家集落の縁辺の工場,倉庫が混在して立地している場所,あるいは牛舎,山林,原野,田畑も存在する未成熟な混在地域などと,必ずしも一貫性のない説明をしている(証人b-ⅱ)。しかも,その採用した取引事例のうちD1ないしD3は住宅,工場,倉庫が密集する地域であり,その指摘するような形態の地域とは明らかに異なる(甲102の4の①ないし③)。また,D1ないしD4のいずれも,街路条件が国道368号あるいは165号に極く近接した位置にある点で,f団地中央線から県道g線を経て国道368号に達する本件各土地と類似地域ということは困難である。これらの事実からすると,採用されたこれらの取引事例に単に個別格差による修正のみを加えて本件各土地の評価が適正に行われるものとは認め難い。更に,収益還元法により収益価格を算出するについても,標準画地の最有効利用を工場用地としながら名張市o町所在の7階建て共同住宅を収益事例とすることが適正といえるか疑問がある。

(エ) また,b-ⅱ第2鑑定は,現況宅地部分について,隣接するf工業団地の用地取得に当たって作成されたb-ⅲ鑑定と比べ大幅な増額となっていることが認められるところ,これについて,b-ⅱ鑑定士は,b-ⅲ鑑定の対象地は傾斜の強い山林・原野的な画地であって,道路幅員も有効幅員2メートル前後で種別が違うなどと指摘する(乙43)。しかし,証拠(甲130の1,131,164の1の②,③,同2の②ないし④,同3の①ないし⑤)によれば,b-ⅲ鑑定の対象地は現況宅地であって,接面道路の幅員も4.5メートルであったことが認められ,b-ⅲ鑑定が行われた平成6年とb-ⅱ第2鑑定が行われた平成11年との間には一般には地価下落が継続していることを併せて考えると,b-ⅲ鑑定よりも大幅に高額の評価となったb-ⅱ第2鑑定の結果が合理的であるかについては大きな疑問がある。

(オ) 以上によれば,b-ⅱ第2鑑定の結果は相当ではなく,したがって,同鑑定に基づいて行われた本件各土地の買収価格もまた,適正価格であったものとはいうことはできない。

イ 適正価格について

(ア) 現況宅地部分の適正価格

Ⅰ 被控訴人らは,現況宅地部分の評価額について,b-ⅰ鑑定(甲132)が適正であると主張するので,これについて検討する。

b-ⅰ鑑定は,本件各土地のうち,現況宅地部分について,近隣地域の標準画地を,f団地中央線(幅員約5ないし6.5メートル)沿いの間口100メートル,奥行50メートル,規模約5000平方メートル程度の長方形状の中間画地とし,標準的使用を牛舎・作業所・工場の敷地,最有効使用態様を工場・倉庫等建物の敷地とした上で,取引事例比較法による比準価格,直近基準値価格を考慮して,1平方メートル当たり平成11年2月1日時点の標準的画地の価格を1万3000円と算定し,これに個別格差100分の89を乗じて,本件各土地の価格を1平方メートル当たり1万1600円とする。

しかし,b-ⅰ鑑定が採用する取引事例3ないし5は公社がf工業団地造成のため買い上げた土地であり(甲132),その取引時期が古いことはもとより(ちなみに本件算定基準中の土地評価事務処理要領によれば,取引時期が2年程度以内の事例を選択するよう努めるものとされている(甲111)。なお,取引事例5は平成11年の売買であるが,同一の事業のための買上げであるから,平成6,7年に買い上げられた取引事例3,4と同一の単価が基礎となっていることが窺われる。),これらを当該工業団地と隣接し評価時点においては同工業団地の造成が完了に近づいており,前記f団地中央線の工事も進捗していた本件各土地の評価に使用して,しかも両者は近隣地域であり,環境条件による格差は認められないとするのは(甲132・p22),平成11年3月1日当時は前記のとおり,本件各土地については道路も整備されつつあり,工業地域として発展が見込まれると評価されていたこと(乙43)に照らし,相当ではないというべきである。なお,b-ⅰ鑑定士は,平成11年当時f工業団地のあたりが工業地域として発展していくという予見は歴史により否定されているという(甲131)が,工業団地は,平成11年11月ころには坪8万円台で売り出される予定であった(乙74の1)のであるから,その後現実には売れなかったからといって,本件の評価当時発展が予想されなかったということはできない。そして,証拠(甲132)によれば,b-ⅰ鑑定は他に5か所の取引事例は徴したものの,取引事例3ないし5から試算された価格を中心に,標準価格を1平方メートル当たり1万3000円と査定し,これに個別格差修正率を乗じて比準価格を1万1600円と査定し,公示価格等からの規準価格1万円を求めた上,結局本件各土地の価格を1平方メートル当たり1万1600円と決定しているのである。このようにb-ⅰ鑑定は,f工業団地用地の買収事例である取引事例3ないし5をことさら重視して,しかも工業団地や中央線による地域の発展を全く無視した結果,同事例地の買収のためされたb-ⅲ鑑定(標準地の価格1平方メートル当たり1万8500円,対象地の価格1万3600円)より相当低額の結論となっているのであって,これを採用して本件各土地の平成11年3月1日当時の唯一正当な価格であるとすることはできないものというべきである。

Ⅱ 当裁判所としては,市が本件各土地の鑑定を委嘱したb-ⅱ鑑定士が平成8年にしたb-ⅱ第1鑑定(甲22の2,102の1の①,乙2)に時点修正を加えて評価額を決定するのが相当と考える。

b-ⅱ第1鑑定は,標準画地の設定,個別格差率の評定等につき特段の誤りはなく,適切なものと認められる。確かに,被控訴人らが指摘するように,同鑑定の採用した取引事例は,甲第102号証の3の①ないし⑥に照らすと,住宅が建ち並ぶなど一見評価当時の本件各土地とは地域の形態が異なるように見えるものが多く,また,隣接する工業団地の用地取得に当たってされた前記b-ⅲ鑑定に比ベて大幅な増額となっているものではあるが,前記認定のように,b-ⅱ第1鑑定時には,当該地域は,工業団地や中央線の造成,整備により将来の発展が予想されていたのであり,この点を重視して取引事例を選択し,結論として1平方メートル当たり1万9300円とした評価は,やや高額であることは否めないものの,鑑定士によってある程度の幅のあることを認めざるを得ない不動産鑑定の評価としてあるべき範囲を逸脱するとまではいえないものというべきである。このことと,b-ⅱ鑑定士は当時本件各土地の近くで県が進めていた県道g線整備事業地などの土地鑑定を行っていた者であること(乙73),市の斎場建設室長補佐として本件各土地の買収に当たり,当審において被控訴人ら申請の証人として証言した証人a-ⅲも,斎場建設事業を実現するためには牛舎経営者の協力が不可欠であり,b-ⅱ第1鑑定を取らざるを得なかったことは同人の用地買収の経験からも窺われることだとし,同鑑定の評価額1万9300円は交渉できるぎりぎりの線と考えて現に土地所有者と交渉していたと供述していること(甲150,165の1),補正後の原判決「理由」欄2(5)のとおり,議会においてb-ⅱ第1鑑定に基づく用地買収費用4億9000万円との説明がされたが,その後の議会においても,斎場を牧場地に建設することに対する反対の理由は,主に経営中の本件牛舎地を買収することの不利益,不経済をいうものであり,上記の費用が買収土地に比して高過ぎるというものではなかったこと(甲24,70の6ないし13),本訴において被控訴人らも,b-ⅰ鑑定が作成されるまでは,主に,本件買収価格がb-ⅱ第2鑑定に基づいて6億3000万円に増額されたのが高額に過ぎ,違法であると主張していたものであることを総合すると,本件各土地の買収時の評価額としては,b-ⅱ第1鑑定を基準とし,これに時点修正を加えて算定するのが相当というべきである。

そこで,b-ⅱ第1鑑定の価格時点である平成8年11月1日から同第2鑑定の価格時点である平成11年2月1日までの27か月の間の価格の変動については,b-ⅰ鑑定を採用して,月平均0.05パーセントの割合で価格が下落していたと認めるのが相当であるから,その間価格は1.35パーセント下落し,1平方メートル当たり1万9000円(10円の位で四捨五入した。)となったと認めるのが相当である。

(イ) 現況雑種地部分及び現況林地部分の適正価格

上記ア(ア)Ⅰのとおり,b-ⅱ第2鑑定は,現況雑種地を1平方メートル当たり1万9100円としており,これは同鑑定による現況宅地部分価格の約70パーセントに相当する。したがって,現況雑種地については,上記イ(ア)Ⅱで認定した現況宅地部分についての価格の70パーセントに相当する1平方メートル当たり1万3300円とするのが相当である。

また,現況林地部分は,宅地である本件牛舎地に隣接しているものであるところ,証拠(甲102の3の⑦ないし⑨)によれば,b-ⅱ第1鑑定はおおむね適切な取引事例を採用して評価し,算定していると認められること及び前記認定の事実からして,b-ⅱ第1鑑定の1平方メートル当たり5500円に上記と同様の時点修正を施して決定するのが相当である。そうすると,1平方メートル当たり5400円(10円の位で四捨五入した。)となる。

ウ 地目について

被控訴人らは,本件各土地の大半が雑種地であるのに,その現況を,原判決別紙3【1】の現況地目欄に記載のとおりとした誤りがあると主張する。しかし,証拠(甲59,72,乙44)によれば,平成11年当時,本件各土地のうち牛舎等構造物の底地及びその周辺は宅地と見ることができるのであって,市の認定が明らかに不相当であると認めることはできない。なお,被控訴人らは,市が平成16年に作成した平成12年度の固定資産仮土地評価証明書(甲133の1)を提出するが,同証明書は,地目欄に「現況地目」を手書きで書き込んで修正してあるものの,地積欄,評価額欄は変更されてなく,地目の現況の修正がいつ,いかなる根拠に基づいて行われたものであるか不明であり,この地目欄の記載をもって,平成12年当時の現況と見ることはできない。

エ 本件各支出の違法性及び控訴人の故意・過失

以上によれば,本件各土地の適正価格は,別表のとおり合計4億5000万8938円となる。ところが,本件各土地の買収金額は6億2719万6288円であるから(原判決別紙3【1】の買収金額総額から本件9土地にかかる公社先行取得手数料57万4473円を控除),39.4パーセント増となっている。

上記認定のとおり,本件各土地の買収価格は,b-ⅱ第2鑑定の結果によったものであるところ,既に平成8年に同一の土地について市が依頼したb-ⅱ第1鑑定が存在し,b-ⅱ第2鑑定の評価額はこの第1鑑定の評価額を大幅に上回るものであったし,それより以前には本件各土地に近い団地用地について公社が依頼したb-ⅲ鑑定が存在し,その評価はb-ⅱ第1鑑定よりも更に低額であったのである。そして,平成6年,平成8年と平成11年との比較で一般的には地価が下落を続けていることは公知の事実といえるのであるから,市としては,単に資格を有する不動産鑑定士による鑑定結果(b-ⅱ第2鑑定)を得るのみではなく,その結果について,各鑑定,特にb-ⅱ第1鑑定と比較して増額となった理由について,なお十分に検討すべきであったものというべきである。それにもかかわらず,市は,補正後の原判決「理由」欄2(11)ないし(13),(17),(18)のとおり,平成11年2月12日ころb-ⅱ鑑定士から口頭で鑑定結果を聞くや鑑定書を審査することもなく(鑑定書の提出は3月5日である。)その価格で買収することを決めて同月18日,22日には市議会に用地買収価格として6億3000万円を提示し,6月21日に売主らと本件買収金額による仮契約を締結して手続を進める一方,根拠としている鑑定書を提示せよと特別委員会等で要求されたのに対して売主との交渉の妨げになるとしてこれを拒絶し(しかも,2月18日の特別委員会や22日の全員協議会のときには,まだb-ⅱ第2鑑定書自体完成していなかったものである。),本件議決に至った最終日になって議事の途中でようやく同鑑定書を提示したものの,付属書類も添付せず,議決後にすぐ回収し,議員らがこれを検討する機会も十分に与えず,買収価格が高過ぎると追及されても「専門的な国家資格を持った不動産鑑定士が・・・導いた結論である」とし,再鑑定に付する意志もないと答弁していたものである(甲83の2等)。このような経緯と本件買収金額が適正価額(上記のとおり,これとても,やや高額ではあるけれども不動産鑑定士の鑑定として許容される範囲を逸脱するものとはいえないと評価されるb-ⅱ第1鑑定に基づいたものであり,いわば適正価格とされるものの中では上限に位置するといってよいものである。)の1.39倍に達していることを総合すると,控訴人には本件売買契約を締結するにつき裁量権を逸脱ないし濫用した違法があったものというべきである。そうして,上記認定の各事実によれば,控訴人には故意または過失があったものといわなければならない。

控訴人は,本件の個別的な事情を考慮すれば,買収金額について少なくとも適正価格の5割までの幅が許されるべきと主張する。しかし,上記に認定した経緯に照らすと,斎場建設が本件各土地以外では全く不可能であり,適正価格を上回る支出をしてまで市が早急にこれを取得しなければならないほどの事情があったものとまでは認められない(しかも,補正後の原判決「理由」欄2(23)のとおり,本件牛舎地の移転先の保安林解除予定告示は,平成13年12月4日になってようやくなされたものである。)から,前記の適正価格を上回る売買代金の決定が控訴人の裁量の範囲内ということはできず,上記の控訴人の主張は採用することができない。

オ 市の損害

市が本件各土地の代金として既に支払った4億7057万0761円から前記の公社の取得手数料を控除した金額から適正価格4億5000万8938円を差し引いた1998万7350円が市の損害となる。

5  請求原因(3)ウ(牛舎移転に伴う損失補償契約の締結と補償費の一部の支出の違法性)について

(1) 被控訴人らによる算定

被控訴人らは,市が損失補償の根拠とした建設技術センター作成の本件算定書(甲108)には信用性がないとして,本件牛舎の移転先である保安林解除申請書に添付された新築工事見積書に基づき,本件牛舎地を買収する際の建物補償費及び工作物補償費は1億6334万4339円が相当であると算出する(原判決別紙4【C】)。しかし,土地買収に伴いその地上建物及び工作物を移転するについては,再築工法,曳家工法,改造工法,除却工法,復元工法があるが,本件のように移転先において被買収者が同種の事業を営む場合には,取壊しを予定しているような建物を除いては,現存する建物と同種同等の建物を建築する再築工法を採用すべきこととなるから(公共用地の取得に伴う損失補償基準細則(乙10の2)の第15,本件算定基準(甲111の1,2),証人a-ⅲ),その算定の基礎は,現に存在する従前の建物に求めるべきであって,再築予定建物の内容により積算することは相当ではない。よって,被控訴人らの主張する上記補償費を相当と認めることはできない。

(2) 本件算定書の信用性

本件算定書は名張市が建設技術センターに作成を依頼したものであるところ,同センターは県と県内全市町村の協力支援の下に県内の公共事業の円滑かつ効率的な執行を支援するため設立された団体で,三重県下で行われる公共事業に伴う補償額のほとんどの算定の委託を受けているものであり(乙3,証人a-ⅴ,同a-ⅲ),本件算定書は,同センターが本件算定基準に則って作成したものである(証人a-ⅰ)。ところが,被控訴人らは,本件算定書には信用性がないとして種々主張する(甲128の1,2,3の①ないし⑤)ので,以下検討する。

まず,被控訴人らは,本件算定書の図面が不正確で,当然あるべき図面が添付されておらず,未完成なまま納められたものとしか受け取れない,また,本件算定書には計算違いがある上,登記簿や固定資産税上の建築年度欄が空白となっている,算定額が記載されている算定書の要の部分に手書きで訂正した部分があり改ざんの疑いがあるなどとして本件算定書には全体的に信用性がないと主張する。

しかし,証拠(甲108,証人a-ⅰ)によれば,建設技術センター職員は,現場に赴き,現況を確認し,建物の建築年度等については市に確認した上で,これらに基づき本件算定書を作成したことが認められるから,その一部の図面に不正確あるいは不存在である等の点があったとしても,これをもって直ちに事実に基づかない算定,あるいは,未完成な算定ということはできない。結論部分に手書き訂正部分があるとしても,その訂正の内容,方法等に特段の不自然な点が認められるものではない以上,これをもって,改ざんの疑いがあるということもできない。また,証人a-ⅲは,斎場建設計画当初の損失補償の概算見積額は2億円(うち牛舎の移転に伴う損失補償は1億7000万円)であり,これは牛舎施設のメーカーに問い合わせた上で算定した数字であったので,本件算定書により約3億4000万円と算定されたことに非常に驚いたと述べ(甲150,165の1,165の5の①ないし③,証人a-ⅲ),更に,本件算定書の結果が出た後に,市の斎場建設室において,これを上記の概算見積額と比較検討したものと思われる書面(ただし1枚のみ。甲165の5の③)も存在する。しかし,上記認定のように,本件算定書は前記センターの職員が現況を確認して作成したものであるから,単に積算の結果が,現況を確かめないでした概算見積額の約2倍になったことのみをもって,その積算結果が全体的に信用性がないということもできない。

(3) 個別の項目について

以上のように,本件算定書が全体として信用性がないとは直ちにいえないものであるが,証拠(甲130の2の①,⑦,130の3の①,②)によれば,f工業団地の用地買収補償の際には,建設技術センターの算定額より2割程度低額で補償契約が締結されたことが窺われるのに対し,補正後の原判決「理由」欄2(9)のとおり,本件の補償額の算定においては,本件算定書は平成10年3月30日に市に提出されたのに,その後特段市で個別的に検討を加えることもないまま算定書どおりの金額で本件の補償契約が締結されている(甲108,弁論の全趣旨)ところ,被控訴人らは,本件算定書の各項目を個別に検討すると全体で正当な補償額よりも39.55パーセントも高額になっており,これは,市ないし公社の理事である控訴人において,牧場主らに高額な補償金を得させるために建設技術センターに水増しした算定書を提出させ,これをそのまま用いて本件補償契約を締結したものであると主張する。そこで,建設技術センターの算定額をそのまま採用して補償額とした控訴人には,裁量権の逸脱濫用がなかったか,以下,被控訴人らの指摘する個別の項目につき検討する。

ア B棟について

(ア) 証拠(甲108の建物調査表B棟,建物付属計算書,証人a-ⅰ)によれば,建設技術センター職員は,現況を確認し,現況で不明な点は,本件算定基準中の統計数量値を用いて積算したこと,本件算定書中にはB棟の基礎図面がないことが認められるところ,甲第128号証の1及び同号証の5の①によれば,被控訴人らは,B棟を建設した際の現場監督からB棟基礎図面(基礎伏図,基礎構造図)を入手し,現場変更等について話を聞くことができたこと,これに基づいて本件算定基準に従って算定すると,基礎コンクリート,基礎型枠,鉄筋その他の量が訂正される結果,直接工事費分として841万7688円の減額となることが認められる。そうすると,この点については本件算定書は統計数量値を用いたものであるのに対し,被控訴人らの算定は現実にされた工事の図面に基づいてされたものと認められるから,後者の算定を採用すべきである。また,この関連で,解体費は378万9277円の減額となる(甲128の5の①)。

(イ) 被控訴人らは,前記現場監督の言によれば,濡れた床面は滑りやすいから床モルタル仕上げは不適当なので,床モルタル仕上げはしていないと指摘する(甲128の1)。しかし,弁論の全趣旨によれば,床面については滑り止めのため金ごての刷毛仕上げをしたが,算定基準にないため床モルタル仕上げで代用して算定したことが認められるので,被控訴人らの指摘は失当である。

(ウ) 被控訴人らは,70センチメートル幅の餌入れに30センチメートル幅のV字側溝300Bの単価を用いた本件算定書の積算は誤りであって,かつ,二重に積算されている可能性も疑われると指摘する。しかし,証拠(乙65,証人a-ⅰ)によれば,本件算定書中の「V字側溝300B」は70センチメートル幅の餌入れを表示するものであることが認められ,餌入れについて二重に積算されていることを認めることもできないから,上記の指摘は失当である。

(エ) 被控訴人らは,C,D棟と比較して桁行だけが短いB棟のコンクリートブロック積等が多いと指摘するが,上記のとおり,積算時に建設技術センター職員は現況を確認の上行っているのであり,B棟とC,D棟それぞれの詳細な現況と積算根拠が不明である以上,単に双方の桁行だけを比較して,C,D棟よりもB棟のコンクリートブロック積等が少量となるべきとすることはできないから,上記の被控訴人らの指摘は採用できない。

(オ) 被控訴人らは,照明器具を新品に取り替えると仮定した積算は妥当性も必然性もないと指摘するが,控訴人が反論するように,照明器具等は新設するのが通常であろうと考えられるから,未だその指摘を採用することはできない。

(カ) 被控訴人らは,その他,近接する建物も同時に撤去するのであるからシート養生の費用は不要である,屋根・壁が塩ビ被覆で天井なしの簡易な建物が,1平方メートル当たり50キログラム以上の重量建築であるはずがないので,地上部躯体解体の単価を変えるべき,牛舎ハウスの単価には「建方」を含み,墨出しの仕上げは不要である,盛土の計算式が不明である,建物内部に開口部がないから内部造作解体費用は不要である等と指摘する(甲128の1,128の3の②)。しかし,これらの点につき疑問がないわけではないが,被控訴人らの見解が正しく,また,その指摘する事実について,裏付けとなる客観的な証拠があるものとまでは認められないから,いずれも採用することができない(なお,補正後の原判決「理由」欄2(24),(27)のとおり,控訴人との選挙戦に勝利を収め,本件斎場をf工業団地に建設することとした現市長も,被控訴人らが新たに市に点検および再算定を求めたのに対して,本件算定書に「誤記誤算が含まれている可能性があることは認めざるを得ません」としながら,点検及び再計算は拒否し(甲134の2),客観的な資料は得られなかったものである。)。

(キ) 以上によると,直接工事費のうち841万7688円の減額となるので,本件算定書中の(被控訴人らも採用する。以下同じ。)再築補償率0.991を乗じると,834万1929円(1円未満四捨五入。以下同じ。)となり,前記解体費の減額分378万9277円を加え,甲第108号証による諸経費(消費税を含む。)33.29パーセントを上乗せすると,1616万9684円が減額されるべきものとなる。

仮に(エ),(オ),(カ)の被控訴人らの主張を前提とすると,甲第128号証の3の②,同号証の5の②によれば,次の計算のとおり,296万6244円が更に減額されるべき額となる。

{(248,400+199,584+552,873+428,640)×0.991+310,775+496,800+1,200}×1.3329=2,966,244(円)

イ C棟・D棟について

(ア) 証拠(甲108)によれば,C棟,D棟は全く同じ大きさ,構造の建物で,D棟が約1年後に建てられたという以外に違いはなく,ともにB棟と全く同質の建物で,矩形図は3棟とも同じで,本件算定書の積算の項立ても適用コードも全く同じであって,桁行きが2割増えて面積が増え,それに応じて積算量が増えているだけであることが認められる。

そうすると,B棟と同様に,基礎コンクリート,基礎型枠,鉄筋その他の量を訂正して,直接工事費として1010万6701円減額すべきこととなる(甲128の5の②)。また,この関連で,解体費は454万7995円の減額となる(同)。

(イ) 被控訴人らは,C棟・D棟についても,床モルタル仕上げ分,V字側溝300Bの分は削除すべきであると指摘するが(甲128の3の③,128の5の②),B棟と同様失当である。

(ウ) 被控訴人らは,B棟と同様,照明器具を新品に取り替えると仮定した積算は妥当性も必然性もないと指摘するが,未だその指摘を採用することはできないこと,その他,シート養生の費用は不要である,1平方メートル当たり50キログラム以上の重量建築であるはずがないので,地上部躯体解体の単価を変えるべき,牛舎ハウスの単価には「建方」を含み,墨出しの仕上げは不要である,盛土の計算式が不明である,建物内部に開口部がないから内部造作解体費用は不要である等と指摘する(甲128の1,128の3の③)が,いずれも採用することができないのはB棟と同様である。

(エ) 以上によると,直接工事費のうち1010万6701円の減額となるので,再築補償率としてC棟について0.993,D棟について0.994をそれぞれ乗じると,C棟については1003万5954円,D棟については1004万6061円となり,前記解体費の減額分454万7995円を加え,諸経費(消費税を含む。)33.29パーセントを上乗せすると,C棟については1943万8946円,D棟については1945万2417円が減額されるべきものとなる。

仮に(ウ)の被控訴人らの主張を前提とすると,甲第128号証の3の③,同号証の5の②によれば,次の計算のとおり,更に,C棟については290万6645円,D棟については290万8224円が減額されるべき額となる。

C棟{(298,080+51,744+334,454+500,080)×0.993+407,265+596,160+1,200}×1.3329=2,906,645(円)

D棟{(298,080+51,744+334,454+500,080)×0.994+407,265+596,160+1,200}×1.3329=2,908,224(円)

ウ A棟について

(ア) 被控訴人らは,屋根・壁共にポリカーボネート製の軽い材質であることからB棟と同様に基礎が大幅に減ることが予想されると指摘するが,弁論の全趣旨によれば,本件牛舎のように骨組みがH鋼で作られている場合は,重量鉄骨造りとみなされ,本件算定書は重量鉄骨の場合の標準統計数量値を採用したことが認められるので,これが誤りであるとはいえず,被控訴人らの指摘は採用できない。なお,この関係の解体工事費は甲第128号証の3の①では,56万1694円の減額と計上されている。

(イ) また,被控訴人らは,A棟は2階建とされているが,土地の段差を利用し,土留めの石垣をそのまま1階の外壁に利用している物件であり,2階部分の8割は実質的には1階に当たるから,この部分にも2階の統計数量値を掛けたのは誤りである,鉄骨量の歩掛りの誤り(躯体鉄骨統計数量表の数字は54/1000であるのに108/1000を使用)がある,養生シート,養生費は不要である,延べ床面積全体に単価を掛けている内部足場については,天井,内壁が存在するのは2階の一部を仕切った部屋(事務所兼休憩室)の範囲であることから,この面積に対応した数値に訂正すべきである等と指摘する(甲128の1,同3の①)。しかし,これらについても,疑問もないわけではないが,被控訴人らの見解が正しく,また,その指摘する事実について裏付けとなる客観的な証拠があるものとまでは認められないから,いずれも採用することができない。

(ウ) したがって,A棟については減額すべき金額はない。

仮に,(イ)について被控訴人らの指摘を前提とすると,その額は,甲第128号証の3の①に従い,次の計算により638万9180円となる。

{(110,331+232,300+86,400+839,040+90,970+2,537,728+628,544+45,747)×0.993+254,380}×1.3329=6,389,180(円)

エ E棟について

(ア) 本件算定書は,E棟の柱の品等を「中」と評価し,軸部係数1平方メートル当たり1万7340円として,合計832万3200円と算定している(甲108,証人a-ⅰ)が,本件算定基準によれば,1棟の建物を基準として,軸部品等区分表・その3の「中」とは,「最も高級と思われる一部屋の造作」が「上等な床の間,置床,長押,ランマ,仏間等を有する」部屋の柱をいうものであることが認められる(甲111,129の1)のであり,甲第108号証により認められるE棟の構造,すなわち全体として台形の建物であり,その最長辺の面は全面開放,その余の3面も腰壁だけで,27本ある柱のうち20本は雨ざらしになるような位置にあることからすると,いかに控訴人が指摘するように,軸部係数が柱のみではなく,梁,桁,土台,金具等の構造物を含み,手間賃を加えたものであるとしても,不相当に高額であることは明白である。そして,本件算定基準によれば軸部係数としては「下」でも「特別な造作もなく押入程度を有するもの」とされているのであるから(甲111),これを採用することはできないので,前記のような構造であるE棟については,単品の値段であって,疑問はあるものの,被控訴人らの指摘するとおり,檜1等正角材長さ6メートル(1立方メートル当たり18万7000円)の27本分(6.5立方メートル)121万5500円とする算定を採用することとする。これによる減額は710万7700円となる。

(イ) 被控訴人は,床モルタル仕上げおよび犬走りは建物全体の格からみて,「中」よりは「並」に相当すると指摘するが,前記のように建設技術センターの職員は現地に赴いて調査・確認して算定したものであるから,上記指摘は採用できない。

(ウ) 被控訴人らは,更に,高さ45センチメートルの布基礎の存在は疑わしく,その外側に柱を受ける独立基礎が3~4メートル間隔で柱を受けており,柱の内側の腰壁を支えるだけに有筋の布基礎が必要であるとは考えられない,小屋組は梁間3メートルしかないのに,8.2メートル以上の歩掛りを誤って使用している,建物解体費の基本加算額6万7800円は同一敷地内の棟数で除する扱いである,屋根の面積計算に誤りがある等と指摘する(甲128の3の④)。しかし,これらについても,疑問はあるものの,被控訴人らの見解が正しく,また,その指摘する事実について裏付けとなる客観的な証拠があるものとまでは認められないから,いずれも採用することができない。

(エ) 以上によると,(ア)の710万7700円に再築補償率0.917及び1に諸経費率等0.2569(甲108)を加えた1.2569を乗じて819万2174円を減額すべきこととなる。

仮に(ウ)について被控訴人らの指摘を前提とすると,甲第128号証の3の④に従い,次の計算により,更に328万5764円を減ずることとなる。

{(1,382,400+27,686+702,569)×0.917+54,240+622,636}×1.2569=3,285,764(円)

オ 工作物について

(ア) 被控訴人らは,通路・作業空間のコンクリートたたきの面積は8割相当,厚みは通常の犬走りと同じ4センチメートルが相当であると指摘するが,本件牛舎地においては,重量トラックが出入りしているのであり(甲108の写真),前記認定のとおり,本件算定書は,建設技術センターの職員が現地に赴いて調査・確認して算定したものであるから,上記指摘は採用できない。

(イ) 被控訴人らは,また,庭石125個の移設費については庭石に該当するものがないと指摘するが,上記のとおり,本件算定書は,建設技術センターの職員が現地に赴いて調査・確認し,大きさも一つ一つ計測した上(甲108)算定したものであるから,上記指摘は採用できない。

(ウ) 更に,被控訴人らは,焼却炉移転料や車両乗入れスロープの算定方法に誤りがあると指摘する(甲128の4の①別紙Ⅲ-Ⅰa②,③,128の4の②別紙Ⅲ-エb①,②,③)。しかし,これらについても疑問はあるものの,被控訴人らの見解が正しく,また,その指摘する事実について裏付けとなる客観的な証拠があるものとまでは認められないから,いずれも採用することができない。

(エ) 以上によると,工作物については減額すべきものがない。

仮に(ウ)について被控訴人らの指摘を前提とすると,甲第128号証の3の5の⑤に従い,次の計算により,448万9307円を減ずることとなる。

(484,380+3,791,150)×1.05=4,489,307(円)

カ 動産移転料について

被控訴人らは,飼育牛で4頭,成牛で2頭を2トン車で運ぶのに0.8日は過剰である,1日4往復可能であるからこれを元に運賃を計算すべきである,牛糞,干し草,おがくず,木材チップはいずれも「容積が嵩むもの(3立方メートルで1トンに換算)」として算定すべき,軽トラックは廃車であり移転不要,古タイヤは財産ではないから移転不要等と主張する(甲128の1,同3の⑤)。しかし,これらについて疑問もないではないが,本件算定書が誤りであって被控訴人らの指摘するところが正しいものとまでは認めることができず,したがって,いずれも採用することができない。

以上によると,減額すべきものはない。

仮に被控訴人らの指摘を前提とすると,341万0508円を減ずることとなる(前同)。

キ 以上によると,本件算定書は,合計6325万3221円正当な補償額より高額であることが認められ,本件補償額が総額3億4849万7278円であることからすると,正当な補償額は2億8524万4057円となり,これに比べると22.2パーセント高額であることとなるが,本件算定書が三重県の建設技術センターに依頼したものであること等からすると,これに基づき本件補償額を定めたことにつき,控訴人に裁量権の逸脱濫用があったとは断定し難い上,そもそも支払済みの額2億3469万7278円は上記正当補償額を超えていないから,市に損害はなく,すでにこの点で被控訴人らの主張は理由がないといえる。仮に被控訴人らの指摘のうち疑問が残るもの(上記ア(エ),(オ),(カ),イ(ウ),ウ(イ),エ(ウ),オ(ウ),カ)を更に減額しても,正当な補償額は2億5888万8185円となり,支払済みの額を超えるから,いずれにしても市には損害がなく(なお,被控訴人らは,経費率として全体としての工事額が3億から3億5000万円までの経費率19パーセント(甲129の1)を採用すべきであると指摘するが,前提が異なり,採用できない。),被控訴人らの主張は理由がない。

6  請求原因(3)エ(立木補償費の損失補償契約の締結と補償費の支出の違法性)について

被控訴人らは,補償の対象とされた立木は,買収不要な土地上にあるから,損失補償は不要であると主張するが,前記4(1)イに説示のとおり,被控訴人らが主張する土地が買収不要とは認めることができないから,その上の立木についての損失補償も不要であるとは認めることができない。

7  請求原因(3)オ(近隣2工場に対する損失補償契約の締結と補償費の支出の違法性)について

被控訴人らは,近隣2工場には,何ら損失はなく,また,法的にも補償の必要がないのに,実際には建築するつもりもない隔壁の建設を仮定して支払ったと指摘する。しかし,斎場建設に当たり直近に位置する2工場に対して損失補償を行ったこと(甲91の1,2)が不要であることを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人らの指摘は採用することができない。

第4結論

以上のとおりであるから,当審で拡張した被控訴人らの主位的請求は理由がないからこれを棄却し,予備的請求については,1998万7350円及びこれに対する公金の支出行為後であることの明らかな平成11年8月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は失当として棄却すべきであるから,これと異なる原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 満田明彦 裁判官 堀内照美)

裁判官多見谷寿郎は,転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 満田明彦

別紙

2 本件の経緯等

上記争いのない事実に証拠(甲1の1・2,2の1の1~3,2の2の5,3の1の1~4,3の2の1~3,5の2,6の1・2,8の2,9の1,9の2の2,9の3,13の1・2,13の3の1・2,24,26,29,30,34の1・2,41の3,48,49,51の1・2,53,55,58,59,61の1・2,62の1~3,63,64の1~3,65の1~4,70の2・4・8・9,71,72,75,76の1・2,79の1~3,80の1~3,81の1,82の1の1・2,82の2~4,83の1・2,86の1の1~6,86の2の1・2,87の1の1~4,90の1~3,91の1・2,93,99の1・2,108,109,117,142の1・2,162,乙3~5,29,33,37,39,44,50,51,55,証人a-ⅴ,同a-ⅳ,同b-ⅱ)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

(1) 市には,昭和37年にs町に建設された火葬炉2基を有する火葬場があったが,老朽化が進むとともに,火葬炉が少ないこと,施設が狭いこと,周辺の宅地化が進み移転の要望が出されたことなどから,その移転改築が長年にわたる懸案事項となっていた。市は,昭和50年代から,市内のpⅰ区での斎場建設を検討していたが,平成4年ころに至っても計画は進展せず,市議会では,他の地区を検討するよう要望する声が多く上がるようになり,市も,当該地域が公図混乱地域で取得すべき土地の特定が困難であることを理由に,平成5年,同地区での建設計画を断念した。その後,市は,新たな立地選定を行い,平成6年2月に,そのひとつとして,pi区に隣接するf区に受入れを打診した。これは,pi区での斎場建築計画を検討していた際に,f区が隣接地に斎場が建設されることを了承する条件として,地区内に工業団地を建設してほしいと希望していたことから,pi区での斎場建築計画を断念するに当たり,f区の工業団地建設は継続するので,工業団地周辺で,斎場も受け入れてくれとの申入れとなったものであった(甲79の2)。

(2) f区内では,平成6年の打診当初には賛否両論があったものの,ゴミ不法投棄の問題等,地区として市の協力を要請したい問題があったことから,協議を進め,受入先として区内の複数の地区が候補地として上がった。この中に,本件牛舎地も含まれていた。その後,地区と市とが候補地について協議し,牧場主への協力打診を行い,協力の意向が得られたことから,同年9月ころには,候補地を本件牛舎地とすることを前提として,斎場受入れの方向で,地区役員会の議決が行われた。同時に,市議会でも,同月16日,市議会全員協議会において,f区を立地案とする斎場建設計画の素案が了承された。

f区では,その後,区内で受入条件等を検討する中で,牛舎の移転が前提であることから,区で概ね了解できる移転場所も斎場建設位置とセットで決めることとなり,移転先を種々検討の結果,平成8年2月18日,本件斎場を本件牛舎地に設置することを了承するとともに,本件牛舎をf区q付近(r)へ移転することを求めることが区総会で決定された(以上甲49,79の1)。

(3)しかし,f区区長の諮問機関である「明日のfを考える会」が,平成8年10月ころ,同区の20歳以上の住民を対象にアンケート調査を行ったところ,本件各土地への斎場建設に否定的な意見が多数寄せられるなど,住民の中には異論もあった(甲48,49)。

また,市内の名張地区(s町区を含む。)の区長18人とt地区の区長12人は,平成8年11月,f区における斎場建設計画が危うくなったとして,控訴人に対し,s町の火葬場跡地に建設することを要望した(甲9の1)。

更に,市議会でも,斎場建設場所を本件牛舎地とした経緯を明らかにするよう求める意見が相次ぎ,また,本件牛舎地を斎場建設場所とすることに対する異論も出されるなどしたことから,議会として特別に調査する必要性が認められ,市議会は,平成8年12月20日,特別委員会を設置し,斎場建設の場所及び費用等に関する詳細な調査,検討を進めることとした(甲86の1の6)。なお,特別委員会の委員は,市議会の全議員をもって構成されている。

(4)控訴人は,平成9年1月20日,特別委員会に,「(仮称)名張市斎場建設基本計画(案)」を提出した(以下「本件基本計画」という。甲3の1の1)。この本件基本計画によると,本件斎場を将来の人口15万人に対応できる規模とすること(敷地面積約3万5000平方メートル,建物面積約2160平方メートル,火葬炉6基(うち,2基は将来増設)),火葬場に加えて通夜や告別式が開催できる葬祭棟を併設すること,斎場建設事業費は約22億円,関連事業費は約4億5000万円,建設地はfの本件各土地,事業期間は平成7年度から平成11年度末などとされていた。なお,本件基本計画は,斎場建築地を本件牛舎地(本件各土地付近)とする内容であって,牛舎の移転先は内容となっていない。また関連事業については,上記の費用見込みが記載され,添付資料として,「地域環境整備事業(牛舎等畜産施設移転)施設設置基本計画図」が付されていた。

(5) 平成9年2月特別委員会において,本件斎場建設事業について総事業費約26億5000万円,用地購入費4億9000万円,物件移転等補償金2億円,関連事業費約4億5000万円とする説明がされた。用地購入費は平成8年11月にb-ⅱ鑑定士がした本件牛舎地の鑑定(b-ⅱ第1鑑定)に基づいて算定されたものであり,補償金は公共事業の際に用いられる補償基準に従って概算したものであった(甲3の1の②,乙33)。

控訴人は,平成9年3月,市議会定例会に,平成9年度一般会計当初予算を提出したが,これには斎場建設関係事業費の一部として,事務費,委託料,用地費,補償費3億6167万4000円(以下「本件事業費」という。)が計上されていた。これに対し,斎場建設についてはなお検討中であることから,上記の予算計上については市議会で批判が出され,反対派が提出した予算修正案は否決されて当初予算が可決されたものの,市執行部は,特別委員会で審議検討中であることから,その結論が得られるまではこの斎場予算は執行しないと約束した(甲82の4,乙33)。

(6)特別委員会は,平成9年4月21日,執行が凍結されていた本件事業費のうち,本件牛舎地の物件移転補償額算出業務委託料1200万円,築炉メーカー選定業務委託料300万円及び事務費203万2000円に限り予算執行を了承した。

(7)特別委員会は,斎場建設候補地の比較資料として,平成9年5月7日,市斎場建設室作成の原判決別紙2「(仮称)名張市斎場建設に伴う用地単価比較表」の提出を受けた。これに対して,特別委員会の委員は,同比較表の積算根拠や候補地の図面,公図等の提出を要求した。しかし,同月20日に行われた特別委員会では,いずれの候補地とも対象地域を地形図により仮定し,机上での検討を加えた資料で,内部検討資料であるから同比較表以外の各候補地の図面等の詳細な資料は公表できないとして資料は開示されなかった。各委員からは,なおも積算根拠等の開示などを求める意見も出されたが,同比較表は,議会の日程上時間的余裕のない状態で作成されたもので,必ずしも正確なものではなかったところ,控訴人は,同比較表で必要最小限の資料になっている,おおよその見当さえつけばいい,それ以上細かく検討しても,uやv(他の候補地)は地区が受け入れるはずはない,だいたいこれで単価的にもほぼ経済性もいいなという程度を見て判断してほしいと述べた。その後,委員から,f区が本件牛舎地での斎場建設に同意していることを重視すべきとの意見も出され,採決の結果,本件牛舎地を斎場立地場所とする本件基本計画が賛成多数で了承された。しかし,牛舎移転先や関連事業費等本件基本計画以外の点については,なお議会で再検討の必要があるとの意見が集約された(甲5の2,82の1の1,乙39)。

(8)市は,同日以降,f区及び牧場主,地権者らと,用地購入費や斎場建設に際して区の要望する条件等について協議を継続した。

(9)控訴人は,平成9年5月27日,建設技術センターとの間で,本件牛舎及びf区に点在する牧場主所有の牛舎の移転に係る損失補償の算定業務を代金1172万8500円,期限同年9月3日(その後,期限は平成10年3月30日まで延長)として委託した(甲64,75)。建設技術センターは,平成10年3月30日,上記の委託を受けて,本件各土地に関する損失補償額合計3億4849万7278円(甲108,乙5),本件各土地外のf区3か所に点在する牛舎に関する損失補償額合計1億2967万1448円とする損失補償算定書を提出した(甲87の1の③,109,117)。

(10)f区では,斎場を受け入れる条件として提示していた公民館の新築及び市営化,斎場を中心とした環境整備,区内道路の新設,改良,改修,産業廃棄物による環境悪化への対応,区内字wと字xの牛舎及び牛糞の処理施設も斎場建設予定地内の牛舎と同様に新しくできる地に移転すること等について,市から平成10年7月14日付けの回答書を得たことから,同年8月29日,「市斎場建設に関する市の回答書・協定書(案)のf区同意について」が議案として提出され,多数決により,市との間で,市が名張市f字k地内に斎場を建設するについて名張市f区は全面的に協力し同意するとの内容の,「斎場建設に関する協定書」を締結することが可決された。なお,牛舎等の移転統合についての市の回答は,「移転に際しては,ご意見を尊重の上,地元と十分協議いたします。」というものであった(甲76の1・2)。

(11)市は,平成11年1月26日,本件牛舎地の価格の鑑定をb-ⅱ鑑定士に依頼した(甲93)。b-ⅱ鑑定士は,同年3月5日に現況宅地を1平方メートル当たり2万7400円,現況雑種地を1平方メートル当たり1万9100円,現況林地を1平方メートル当たり5500円(いずれも同年2月1日時点の価格)とし,本件各土地について,評価額合計が6億2719万6288円(総買収額6億2777万0761円はこの金額に本件土地9を先行取得した名張市土地開発公社(以下「公社」という。)の手数料を加えた金額である。)となる鑑定書を提出した(b-ⅱ第2鑑定)。なお,b-ⅱ鑑定士は,鑑定書の提出に先立ち,同年2月12日ころ,確定した数値のみを市の担当者に口頭で連絡し,同日16日ころ書面で報告した上,3月5日鑑定書を提出した(乙33,44,証人a-ⅴ,同b-ⅱ)。

(12)控訴人は,特別委員会の承認を得て,平成11年2月20日,f区長との間で,前記の「斎場建設に関する協定書」を取り交わした。なお,同年2月18日の特別委員会では,市から,斎場施設設備に係る基本設計概要の説明が行われ,上記の本件各土地上の牛舎に関する本件算定書の積算結果や,b-ⅱ鑑定士から連絡を受けた鑑定結果を基に,新年度当初予算案で,斎場建設計画に関し,計画当初の予算に用地購入費や補償費を大幅に上乗せする必要がある旨を説明した。また,その席上,委員から,f区内の牛舎等を移転統合するという地元の要望はどうなったか,あるいは,移転統合は斎場建設に伴う牛舎の移転補償に含まれるのかとの趣旨の質問を受け,控訴人は,移転統合と斎場建設に伴う牛舎の移転とは全く別の話であって,移転統合は別事業でやる,しかし,せっかく移転するときであるから,同時に移転してもらうようにしていきたいと思っていると答弁した(甲3の2の①,142の1・2,乙51)。

(13)市は,平成11年2月22日に開催された市議会全員協議会において,新年度当初予算案で,斎場建設計画に関し,計画当初の予算に用地購入費や補償費を大幅に上乗せする必要がある旨を説明した。これに対し,当初予定の用地購入費4億9000万円が6億3000万円に大幅に増額となっていることから,本件各土地の不動産鑑定書の提出を求める委員もいたが,市は,プライバシーの侵害になり,牧場主や移転先の地権者らとの交渉の妨げになるとして,これを拒絶した(甲2の2の5,8の1,乙33)。

(14)市は,平成11年3月,市議会に平成11年度一般会計当初予算を提出した。これには,増額となった斎場建設事業費11億5914万7000円が計上されていたが,市議会は,これを可決した(甲3の2の②)。

(15)控訴人は,平成11年4月1日,牧場主との間で,次のとおり,「斎場整備事業に伴う用地・補償等に関する協定書」(本件協定書)を取り交わした(甲87の1の1・2,乙50)。

土地の引渡時期  森林法29条の解除予定通知後18か月以内(3条1項)

土地代金  5億2385万7999円(2条2項)

代替地の取得  市は,用地測量業務等の調査並びに牧場主を申請者とする保安林解除及び開発許可等法的な手続に関する調査等を行う。(6条3項)

建物及び工作物等に関する補償金額  3億4849万7278円(8条1項)

立木に関する補償金額  205万9440円(8条1項)

補助金  市は,f区に点在する牧場主の牛舎施設等の移転統合に関して,損失補償基準に基づき算定した補償金額を上限として補助金を交付する。(9条1項,2項)

(16)控訴人は,平成11年6月14日,名張市長として,本件牛舎地付近の民間会社2社との間で1332万3450円及び673万2600円の土地の損失補償契約を締結した。同金員は,同年7月30日に支出された(甲91の1・2)。

(17)控訴人は,平成11年6月21日,名張市長として,牧場主ほか5名の土地所有者らとの間で,次のとおり本件仮契約を締結した(下記シの契約については同月23日。売買代金合計6億2777万0761円)。これらの契約のうち,売買契約については,市議会の議決を経たときに本契約とみなすこととされていた。これらの金員のうち,下記イの内金2億3469万7278円及びウ~シについては同年7月30日,下記アの内金3億6665万7999円については同年8月20日にそれぞれ支出された(甲53,乙55)。

ア 牧場主との本件2~8・10~16土地の売買契約

代金  5億2385万7999円

明渡期限  平成12年3月31日

代金支払時期  3億6665万7999円 遅滞なく

1億5720万円 土地の引渡後

イ 牧場主との本件4土地上の建物の移転に係る損失補償契約

補償金  3億4849万7278円

(物件移転料 3億3537万3738円)

(その他通常受ける損失の補償金 1312万3540円)

移転期限  平成12年3月31日

代金支払時期  2億3469万7278円 本契約とみなしたとき

1億1380万円 移転後

ウ 牧場主との本件5・14・15土地上の立木に係る損失補償契約

補償金  205万9440円

代金支払期限  本契約とみなしたとき

エ 本件1・19土地の売買契約

代金  5443万5110円

明渡期限  平成11年7月30日

代金支払時期  土地の引渡し及び所有権移転登記手続後

オ 本件19土地上の立木に係る損失補償契約

補償金  46万8400円

代金支払期限  本契約とみなしたとき

カ 本件17土地の売買契約

代金  1293万1105円

明渡期限  平成11年7月30日

代金支払時期  土地の引渡し及び所有権移転登記手続後

キ 本件17土地上の立木に係る損失補償契約

補償金  190万2080円

代金支払期限  本契約とみなしたとき

ク 本件18土地の売買契約

代金  375万1440円

明渡期限  平成11年7月30日

代金支払時期  土地の引渡し及び所有権移転登記手続後

ケ 本件18土地上の立木に係る損失補償契約

補償金  40万2440円

代金支払期限  本契約とみなしたとき

コ 本件20・21土地の売買契約

代金  1516万4334円

明渡期限  平成11年7月30日

代金支払時期  土地の引渡し及び所有権移転登記手続後

サ 本件20土地上の立木に係る損失補償契約

補償金  35万4240円

代金支払期限  本契約とみなしたとき

シ 本件9土地の売買契約(土地所有者は牧場主から先行取得した公社)

代金  1763万0773円

明渡期限  平成11年7月30日

代金支払時期  土地の引渡し及び所有権移転登記手続後

(18)控訴人は,地方自治法96条1項8号,同法施行令121条の2第2項,議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例3条により,予定価格2000万円以上の不動産の買入れには市議会の議決が必要となることから,会期の最終日である平成11年6月25日,市議会定例会に,本件各土地を総額6億2777万0761円で取得する議案を追加提案した。この質疑の途中,議員の要求に応じてb-ⅱ第2鑑定を開示したが,取引事例を記載した付属資料の添付を省略するなど一部のみを,議題終了後に回収する予定とした上で配付したものであった。そして,質疑答弁の際,控訴人は,本件各土地について,牧場主との間に,仮契約が締結されたことのみ説明し,本件協定書を締結していることは説明しなかった。また,議員から,平成12年3月31日に明渡しを受けることについて,相手方から条件は付けられていないのかと質問されたのに対して,助役は,仮契約の中には特段の条件は付されていないと説明した(甲29,41の3,42,83の2)。

なお,前日の24日の日刊紙には,保安林の指定解除の窓口となる県の担当者が,保安林の解除には公益上必要であることとの法令上の規定があり,牛舎は個人の問題で,公益の施設には当たらないとして保安林解除を否定しているが,他方,斎場建設に関わってきた市の助役は,たとえ解除ができなくても斎場の建設はできると話しているとの報道がされた(甲6の1)。これにつき,助役は,25日の本件議会で,保安林解除はできると思っているが,たとえできないとしても保安林解除イコール斎場建設地の話ではないから,理論的にはいろいろな手法は考えられると記者に説明したことを記事にされたものと答弁し,控訴人は,原理原則からすれば,県の公式回答は新聞報道のようになるであろうが,既に本件牛舎地での斎場建設に県の事業認可が下りているのであり,都市計画決定された斎場建設に関連する事業だという公益性,あるいは,f区全体の集落内の畜産施設の統合,環境整備というような公益性はあるので,これから県の担当者と交渉していくと答弁した。

また,委員から,保安林の解除まである程度時間がかかると思われるが,一日も早く斎場を完成させなければならないという観点から,もし保安林解除が多大な時間を要するのであれば,一時的にどこかへ牛を移動してもらうなどして工事にかかることも考えられるが,執行部はこのあたりの対応策を持っているのかと質問されたのに対して,控訴人は,一日も早く解除できるように県当局にお願いをしていきたい,現在いる牛を一時的に移動させることは相当の経費負担が伴うので議会でもう少し議論を積み重ねる必要があるが,既に予算が認められている工事については,現在の場所で支障のない場所については作業は始めさせてもらおうと思っている,質問の趣旨は十分検討させて頂きたいと答弁し,順調に進んでいつ着工になって供用開始になるのかとの質問に対しては,予定告示を得るまでには少なくとも半年はかかる,斎場建設を明年度中には着工できればと考えているが,具体的な答えは,もう少し県と詰めた段階で答えたいと回答した(以上につき,甲41の3,83の2)。

そして,本件各土地を総額6億2777万0761円で取得する議案は,賛成15票,反対4票で可決された(甲6の2)。

(19)市においては,pⅱ区に建設されたダムの管理を目的に,水資源開発公団が,平成8年ころから自然環境調査としてワシタカ類の調査を行っていたところ,平成11年7月ころ,本件牛舎の移転先として予定されているr付近において,絶滅危惧種のオオタカの営巣が疑われた。そこで,市は,同年8月12日,日本野鳥の会会員のdの協力を得て確認調査を始めた(甲34の1,2)。市は,平成12年5月19日,三重県知事に対して,rにおけるオオタカの調査に関する中間報告を行った。同報告は,環境庁(当時)の示す「猛禽類保護の進め方(ガイドライン)」では,保護策を講じるための調査期間としては,少なくとも繁殖が成功した1シーズンを含む2営巣期間の調査が望ましいとあるが,市は,水資源開発公団pⅱダム管理所のモニタリング調査結果を踏まえて考察することにより,調査期間を十分に補うことができるものとした上で,営巣木は明らかに斎場建設に伴う牛舎移転計画の事業区域から離れており,営巣中心域も残置森林は多少含まれているものの,地形の形状変化を伴う加工区域にはかかっておらず,事業計画そのものを見直す必要はないが,高利用域には計画区域が包含されていることから,オオタカの生息に影響があると予測される立木の伐採,火薬等の使用については非繁殖期(9~12月)に実施し,オオタカとの共存を図ることとすると結論付けた(甲51の1)。

(20)控訴人は,平成11年8月31日,三重県知事に対し,本件牛舎の移転のために,名張市rの保安林の指定の解除に関する事前相談書を提出し,平成12年8月4日,一部を差し替えた(甲26,59)。

(21)控訴人は,平成12年3月14日,牧場主との間で,上記(17)アの売買契約における土地の明渡期限,上記(17)イの損失補償契約における移転期限について,同月31日を平成13年3月31日に変更するとの契約を締結し,議会の承認を得た(甲61の1・2)。その後期限は更に平成14年3月31日に変更された。

(22)控訴人は,平成13年3月23日,農林水産大臣あてのrの保安林解除申請書を,三重県伊賀県民局に提出した(甲72,99の1・2)。

(23)農林水産大臣は,平成13年11月26日付けで,保安林の指定の解除に関する予定通知を行い,三重県は,同年12月4日に解除予定告示を行った(甲90の2・3)。

(24)控訴人は,平成14年4月,市長選挙で再選を目指したが落選し,cが新市長となった。

(25)牧場主は,平成14年4月13日,控訴人に対して,平成11年4月1日付けの本件協定書による土地明渡期限を,解除告示後24か月以内と改めてほしいとの要望書を提出した(甲87の1の4)。

(26)c市長は,平成14年9月8日,特別委員会の承認を得て,同月11日,f区長との間で,上記(12)の平成11年2月締結にかかる「斎場建設に関する協定書」について,斎場建設の位置を本件牛舎地からf工業団地内に変更する旨の変更協定書を取り交わした(甲86の2の1)。

(27)c市長は,平成14年9月19日,市議会の重要施設調査特別委員会に対して,選挙戦の公約どおり,斎場建設予定地をf工業団地4号地(f字α■番■,地積1万5341平方メートル)に変更することを提案し,その理由として,牧場主から上記(25)のような要望があることから,変更により事業期間の短縮が見込まれること,その他事業費の削減,用地確保の容易性及び立地地区の建設同意等を挙げた(甲86の1の1~6)。そして,本件協定書の存在が初めて明らかにされた(甲87の1の1,87の3の1・2)。

特別委員会は,平成14年10月8日,c市長の変更提案を了承した(甲86の2の2)。

(28)c市長は,平成14年10月16日,農林水産大臣に対して,牧場主から上記(25)の要望があり斎場建設事業が大幅に遅延するため,斎場の建設場所を変更することにしたとして,保安林の解除申請を取り下げた(甲90の1)。

(29)農林水産大臣は,平成14年10月30日,前項の取下げを受けて,上記(23)の保安林解除予定通知を取り消した(甲90の2)。

3 請求原因(3)ア(各支出負担行為及び支出に関する共通の違法性)について

被控訴人らは,控訴人が市長の裁量権を逸脱濫用して,本件各土地以外の立地場所を排除し,意図的に本件各土地での立地を誘導した違法があると主張するので,検討する。

(1) 上記2の認定事実によれば,従来の火葬場には,①老朽化が進み度々修理が必要となっていた,②市の人口に比して火葬炉が少なく,市民が近隣の地方公共団体の火葬場を利用しなければならないことがあった,③付近の宅地化が進み,地元住民から移転の要望があったなどの問題があり,また,火葬場自体が一般的にはいわゆる迷惑施設(付近に設置されることが望まれない施設)であるとの特殊性もあることから,火葬場を早期に住宅地域からある程度離れた場所へ移転又は新設する強い必要性があったと認められる。

そして,本件斎場の設置場所の検討に当たっては,その施設の特殊性から,地元住民の意向及び土地の買収を要する場合は地権者の意向を第一に考慮せざるを得ず,加えて,本件斎場を利用することになる市民及び近隣地方公共団体の住民からの交通の便,設置に要する費用及び期間,他に進行中の事業や計画との関係等を総合的に考慮することが必要となるのであって,当該地方公共団体の首長である控訴人に広範な裁量権があるというべきである。

(2)これを本件について見るに,本件各土地のあるf区では,上記2(2),(10),(12)のとおり,平成8年2月18日に本件牛舎地での斎場建設の受入れが決定され,その後更に協議が進み,平成10年8月29日のf区臨時総会において「斎場建設に関する協定書」の締結が可決され,平成11年2月20日,控訴人とf区長との間で「斎場建設に関する協定書」が取り交わされていることからすると,地元住民及び地権者の了解が得られていたということができる。もっとも,上記2(3)のとおり,平成8年10月ころ反対の声があったこともうかがえるが,それが地元住民の全体的かつ継続的なものであるとは認められず,かかる事態はいずれの場所で建設する場合にも多かれ少なかれ起こるものであるから,このことをもって,了解が得られていないとはいえない。

そして,控訴人は,①本件各土地は交通の便が良い,②買収交渉の相手方である本件各土地の所有者が明らかとなっている,③本件各土地は集落から比較的離れていて人目に付きにくい,④本件各土地は既に造成されており平坦地が確保できるなどの事情を考慮し,本件牛舎の移転に伴う損失補償の支払が必要になることも前提として,本件各土地での斎場建設を決定したというのであるから,控訴人による本件斎場の設置場所の選定自体に裁量権の逸脱濫用があったということはできない。

(3)被控訴人らは,原判決別紙2の「(仮称)斎場建設に伴う用地単価比較表」は虚偽の内容であると主張するが,上記2(7)のとおり,本件斎場の立地条件についてのおおまかな傾向を把握するための資料であることは配布された特別委員会において説明されていること,特別委員会の委員らも,用地単価の比較のみからではなく,地元の意見等を考慮して本件牛舎地を斎場建設地とすることを了承し,一方関連事業費等の費用になお不明な点があることから,斎場建設地と牛舎の移転先とを切り離して,後者についてはなお検討することと決議したことからすると,上記の比較表が時間的余裕のない状態で作成され,必ずしも正確でないものであるとしても,このことから,控訴人が,本件各土地以外の立地場所を排除し,意図的に本件各土地での立地を誘導したものということはできない。

(4)被控訴人らは,本件牛舎地の立地は,控訴人がf区役員に持ちかけて協力させたものであったのに,控訴人は,議会において地元の決めたことと虚偽の説明をした,また,長年火葬場を抱えてきたs町住民からの地元における新斎場施設建設の要望等も退けたと主張する。確かに,市議会において本件牛舎地を新斎場建設地にすることを発案したのは誰かと度重なる質問を受けたのに対し,控訴人及び助役はついに明確な答弁をしなかったこと(甲24,70の2・4・8・9,79の3,82の2)と,平成9年3月1日のf区の総会で,e-ⅰ前区長が「牧舎地への斎場立地案に市長から強く同意を求められた」と答弁し(甲82の3),e-ⅱ新区長も同月15日に行われた斎場建設計画に係る懇談会において,「市としてはそこが再(最)適地であるということを強く言われた」とか「市長があの様な遠い所は具合が悪いと。・・・z墓園に近いところを考え直してくれということでした。」と発言したこと(甲80の1。同証によれば,「あの様な遠い所」はy町との境界付近を指すこと及び本件牛舎地の隣地はz墓園であることが認められる。)を考え併せると,本件牛舎地に新斎場を建設することには,市,特に市長であった控訴人の強い意向が働いたのではないかという疑いはある。しかし,f区が区総会でこれを了承していること自体はそのとおりなのであって,控訴人の説明が虚偽であると断定することはできない。また,上記2(3)のとおり,s町区付近の区長30名が,平成8年11月ころ,s町に斎場を建設することを要望したことは認められるが,それがs町区住民の総意であるか否かやその意思が継続的なものであるか否かは不明であって,f区との協議が既に進行していた時期であることを考慮すると,s町を建設地から外したことに裁量権の逸脱濫用があったということはできない。

(5)被控訴人らは,上記2(3)に関して,控訴人が地元出身の職員を使って圧力をかけ,地元の自主的・民主的な取組みを踏みにじったと主張するが,控訴人が何らかの圧力をかけたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(6) 被控訴人らは,その他,控訴人が,市議会に広い用地買収を認めさせるために,市の目標人口が10万人であるにもかかわらず,15万人都市を目標としていると市議会で述べて,人口15万人規模の斎場の建設を認めさせた,本件各土地の所有者や事業主が行うべき調査や設計委託を市費で行った,牧場主との間で締結した本件協定書の中で裁量権を逸脱する合意をした,本件議会で本件協定書の存在を隠し,質疑応答で来年度には斎場建設工事に着工できると事実誤認させて,本件各土地の買収の議決をさせた,あるいは,本件牛舎の移転先付近にオオタカが営巣していることを知りながら,市議会で,オオタカは確認できなかったなどと虚偽の発言を繰り返した等と主張するが,これらの被控訴人らが主張する事実は立地場所の選定に直接結びつくものではなく,仮にこれらが事実であるとしても,これらの事実から,控訴人が,本件各土地以外の立地場所を排除して意図的に本件各土地での立地を誘導したことを推認することもできない。

(7) 以上によれば,本件各土地を斎場建設地と決定するに際して,控訴人が,市長の裁量権を逸脱濫用して,本件各土地以外の立地場所を排除し,意図的に本件各土地での立地を誘導したと認めることはできない。

別表

番号

実測面積

地目

単価

価格(円)

1

2619

雑種地

13,300

34,832,700

2

4854.82

宅地

19,000

92,241,580

3

193.17

宅地

19,000

3,670,230

4

8531.21

宅地

19,000

162,092,990

5

345

山林

5,400

1,863,000

6

150

宅地

19,000

2,850,000

7

903

宅地

19,000

17,157,000

8

558.03

宅地

19,000

10,602,570

9

893

雑種地

13,300

11,876,900

10

623.02

宅地

19,000

11,837,380

11

185.01

宅地

19,000

3,515,190

12

165

宅地

19,000

3,135,000

13

2153.5

宅地

19,000

40,916,500

14

1336.01

山林

5,400

7,214,454

15

1803

山林

5,400

9,736,200

16

102.8

宅地

19,000

1,953,200

17

2351.11

山林

5,400

12,695,994

18

682.08

山林

5,400

3,683,232

19

802.22

山林

5,400

4,331,988

20

2072.6

山林

5,400

11,192,040

21

137.41

宅地

19,000

2,610,790

合計

31460.99

450,008,938

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