名古屋高等裁判所 平成16年(行ス)6号 決定 2004年6月10日
抗告人(被告) 千種税務署長
金川裕充
同指定代理人 篠原淳一
同 小林昭彦
同 朝倉茂
同 寺澤寿
相手方(原告) 株式会社A
同代表者代表取締役 甲
同訴訟代理人弁護士 升永英俊
同訴訟復代理人弁護士 荒井裕樹
主文
原決定を取り消す。
本件移送の申立てを却下する。
理由
(以下、略語は原決定に準ずる。)
1 抗告の趣旨及び理由
抗告人は、主文と同旨の裁判を求め、その抗告理由は、別紙「抗告理由書」のとおりである。
2 当裁判所の判断
当裁判所は、抗告人の申立ては理由があるものと判断する。その理由は次のとおりである。
(1) 認定事実については、原決定3頁23行目の「係属している。」の後に、「Cは、別件において、Bが本件ノウハウについて研究開発を行っており、Bとの間の本件ノウハウ使用許諾契約は架空ではないと主張している。」を加えるほかは、原決定「理由」の2のとおりであるから、これを引用する。
(2) 判断
ア 行訴法13条が関連請求に係る訴訟の移送について定めている趣旨は、行政事件における取消訴訟と、同条1号ないし6号に掲げる関連請求に係る訴訟とが各別の裁判所に係属する場合に、重複審理による当事者の煩わしさと裁判内容の矛盾抵触を防止し、関連する処分に関する紛争を一挙に解決することにあり、上記趣旨を勘案すると、同条6号の「関連する請求」とは、少なくとも、各請求の基礎となる社会的事実が同一ないし密接に関連し、事実に関する争点が相当程度に共通し、かつ、証拠の大部分が共通であることを要するものと解すべきである。
なお、抗告人は、行訴法の関連請求の概念は、訴訟の移送の可否を含めた訴えを併合できる事件の範囲を画する基準として統一的に用いられているのであるから、行訴法13条1号ないし5号のように、処分の前提となる個別の具体的事実や証拠関係を離れた類型的な判断枠組みによらざるを得ないと主張する。確かに、行訴法の関連請求の概念は、併合の対象となり得る請求の範囲を画する機能を有しているものといえるが、重複審理による当事者の煩わしさと裁判内容の矛盾抵触を防止し、関連する処分に関する紛争を一挙に解決するといった前記趣旨からすれば、必ずしも、処分の前提となる個別の具体的事実や証拠関係を離れて、類型的な判断枠組みによって関連請求の有無を判断する必然性はなく、移送の可否や併合の可否等を判断する時点における各請求の基礎となる社会的事実や争点の関連性等を考慮して判断することが相当である。
イ 以上の見地に立って、本件と別件との関連性について検討する。
本件は、前認定のとおり、千種税務署長が相手方に対し、相手方が受け取った本件契約(相手方とBとの間の平成7年2月28日付けのノウハウ及びデータベース譲渡契約書による契約)の譲渡代金を贈与と判断し、平成8年7月1日から平成9年6月30日まで(平成9年6月期)、平成9年7月1日から平成10年6月30日まで(平成10年6月期)、平成10年7月1日から平成11年6月30日まで(平成11年6月期)の各事業年度の法人税の各更正処分等を行ったことに対する上記各処分の取消請求であり、他方、別件は、江東西税務署長がCに対し、CとBとの間のノウハウ使用許諾契約(本件ノウハウ使用許諾契約)が架空であり、CがBに支払ったロイヤリティを寄付金と判断するなどして、平成7年3月1日から平成8年2月29日まで(平成8年2月期)、平成8年3月1日から平成9年2月28日まで(平成9年2月期)、平成9年3月1日から平成10年2月28日まで(平成10年2月期)、平成10年3月1日から平成11年2月28日まで(平成11年2月期)の各事業年度の法人税及び上記各事業年度の期間に相当する各課税期間の消費税等についての各更正処分等並びに平成8年2月期以降のCの青色申告承認の取消処分を行ったことに対する取消請求である。
以上によれば、上記各取消請求は、上記各課税処分の対象者としての法人を異にし、その各法人が申告した上記各事業年度の法人税等に対する各更正処分等をそれぞれ争うものであり、原則として、各更正処分等の前提となる個別の具体的事実が共通であるものとは認められない。もっとも、相手方とCとは、関連会社(Cは相手方の親会社である。)であることは、原決定認定のとおりであり、また、一件記録によれば、上記各更正処分等が東京国税局との連携調査に基づいて行われたことが認められることなどからすれば、本件と別件における各訴訟(以下「両訴訟」という。)において、在来工法による建築に関するノウハウをCが保有し続けており、本件契約や本件ノウハウ使用許諾契約が架空であるか否かが重要な争点の一つとなる可能性が高く、このことが現段階においても予測しうることは、原決定の指摘するとおりである。しかしながら、抗告人は(相手方ないしCの主張を前提とした場合)、本件においては、Cが開発したノウハウの帰属のほかに、本件契約前に開発されたノウハウの有無及び帰属が争点となるのに対し、別件においては、さらに本件契約後に追加して開発されたノウハウの有無及び帰属も争点となると主張するところ、前認定の審査請求における相手方の主張及び別件におけるCの主張を前提にする限り、両訴訟においては、抗告人の上記主張がそれぞれ争点となり、それらは共通する部分があるにしても、別件では、本件契約後に開発されたノウハウの有無及び帰属といった争点も加わることが考えられる。
そうすると、この点については、両訴訟は、請求の基礎となる社会的事実が必ずしも同一ないし密接に関連するとまでは断定できず、しかも、以上でみたところを前提にすると、両訴訟を併合審理することは、かえって審理が複雑化し、いたずらに訴訟の混乱と遅延とを招く結果となる可能性を否定できない。そして、相手方とCとが同族会社であるとはいえ、別個の法人である以上、重複審理による当事者の煩わしさは、いわば同一代理人に訴訟委任をした結果、代理人に生ずる煩わしさといえなくもないこと、また、裁判内容の矛盾抵触に関しても、上記各更正処分等が上記各税務署長において行われた処分であることからすれば、仮に、その判断内容が異なったとしても、上記各更正処分等自体が矛盾した結果を生じるものではないこと、さらに、両訴訟で上記した異なる争点が存在するものとすれば、関連する処分を一挙に解決することができないおそれもあることなどを考慮すると、両訴訟では、いまだ、各請求の基礎となる社会的事実が同一ないし密接に関連し、事実に関する争点が相当程度に共通するとは言い難いといわざるを得ない。
したがって、本件が別件との関係において、行訴法13条6号所定の関連する請求であると認めることはできない。
3 結論
よって、相手方の本件移送の申立ては、理由がないので、原決定を取り消して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 佐藤真弘 裁判官 山崎秀尚)
別紙(抗告理由書)
抗告人は、抗告理由につき、以下のとおり述べる。なお、略称は、特に断らない限り原決定の例による。
1 はじめに
本件の争点は、本件が別件に対する関係で、行訴法13条6号所定の「関連請求」に該当するか否かである。
この点、原決定は、要旨、本件と別件の主要な争点は共通であり、また、本件で取消し対象とされた本件各処分に関する調査は、別件で取消し対象とされている処分(以下「別件各処分」という。)に関する調査と連携して行われ、それゆえ、両事件における原告相互間及び被告相互間にいずれも強い結びつきが存するから、実際に提出されるであろう証拠資料についてもかなりの部分が共通することが予想される等として、本件は別件に対する関係で、行訴法13条6号の「関連請求」に当たる旨判示して(原決定3、4ページ)、本件を別件が係属する東京地方裁判所へ移送する旨決定した。しかしながら、相手方の移送申立てを認容した原決定には、重大な判断の誤りが存する。そこで、この点につき、まず、便宜上、判断の前提となる事情等を整理した上で(2項)、抗告人の主張を述べることとする(3項)。
2 判断の前提となる事情等
まず、本件と別件とは、いずれも、様々な関係者及び契約等が介在し、やや複雑であることから、本事案に必要と思われる限度で、本件及び別件につき基礎的な事実関係の概要につき整理しておくこととする。
(1) 関係者
株式会社C(以下「別件原告」という。)は、昭和53年9月12日に設立された木造注文住宅の販売及び施工を業とする株式会社であり(疎乙第1号証4ページ)、法人税法2条10号に規程する同族会社である。また、相手方は、昭和62年7月1日に設立された株式会社であり、平成12年6月30日現在において、その株式の85パーセントを別件原告が保有している(したがって、相手方もまた法人税法2条10号に規程する同族会社に当たる。疎乙第2号証2、3ページ)。
また、Bは、住宅建設技術の研究開発並びに内装及び改装工事の施工を主たる事業目的として、平成7年2月4日にシンガポール共和国において設立された法人であり、その株式の99.99パーセントを別件原告の元代表者である乙の親族が保有している(疎乙第1号証5ページ)。
(2) 相手方と別件原告・グループ企業との契約
相手方と別件原告は、相手方設立直前の昭和62年6月30日付けで、相手方が住宅建築等業務に関してのノウハウを供与等し、これに対し、別件原告がロイヤリティを支払う旨のノウハウ使用許諾契約を締結した(疎乙第1号証8ページ)。別件原告のグループ企業もまた、昭和61年から平成5年にかけて、別件原告ないし相手方と、上記とほぼ同趣旨のノウハウ使用許諾契約を締結している(疎乙第1号証7、8ページ)。
なお、相手方と別件原告・グループ企業との間で、このようなノウハウ使用許諾契約が締結された経緯につき、相手方は、後記(6)、ア(ア)、(イ)のとおり主張している。
(3) 相手方・B間の本件契約の締結
相手方とBは、平成7年2月28日付けで、要旨、相手方が所有するノウハウ及びデータベースを代金20億円でBに譲渡する旨の契約(本件契約)を締結した(疎乙第1号証7ページ、疎乙第2号証3ページ)。なお、抗告人は、相手方の平成8年6月期の法人税所得につき、本件契約の代金20億円を31億2601万2066円と認定し、その差額を雑収入計上もれとして更正処分等をしている(疎乙第2号証3、4ページ)。
(4) Bと別件原告・グループ企業との契約
Bと別件原告は、本件契約後の平成7年3月1日付けで、別件原告がBからノウハウの使用許諾を受ける旨のノウハウ使用許諾契約を締結した。Cのグループ企業もまた、上記とほぼ同内容のノウハウの使用許諾契約を締結した(以下、別件原告・B間及び別件原告のグループ企業・B間のノウハウ使用許諾契約を併せて「本件ノウハウ使用許諾契約」という。)。そして、別件原告及びグループ企業は、これらの契約に基づき、ロイヤリティ等をBに支払った(疎乙第1号証6、7及び11ページ)。
(5) 本件各処分及び別件各処分
そして、以上につき、江東西税務署長(別件被告)及び抗告人は、次のような処分をした。すなわち、
ア 江東西税務署長は、平成12年3月30日付けで、要旨、別件原告とそのグループ企業が、本件ノウハウ使用許諾契約に基づくロイヤリティをBに支払った取引は、いずれも架空の契約書を作成して行われた取引であり、これらの各ロイヤリティは、本来、別件原告が保有するノウハウ等の対価として、別件原告が受領すべきものであるから、上記ロイヤリティの授受は、別件原告からBに対する寄附金(法人税法37条7項)に該当する等として、別件各処分をした。
イ また、抗告人は、平成12年8月29日付けで、要旨、本件契約の目的物であるノウハウは、別件原告に帰属し、相手方に帰属するものではないから、本件契約は架空の取引であり、それゆえ、相手方がBから受領した譲渡対価総額31億円は、Bから相手方に対する寄附であり、相手方において受贈益(法人税法22条2項)に該当する等として、本件各処分をした。
(6) 審査請求における原告側の主張
本件各処分及び別件各処分については、いずれも、審査請求がなされているが、本件と関連する事項についての審査請求における相手方及び別件原告の主張の骨子は次のとおりである。
ア 本件各処分に関する相手方の主張の骨子
(ア) 別件原告が開発所有していたノウハウを、相手方設立後は相手方が譲り受けた(以下「原譲渡契約」という。)(疎乙第2号証・8ページ)。
(イ) 相手方設立後は、相手方が独自にノウハウを開発・所有している(疎乙第2号証・8ページ)。
イ 別件各処分に関する別件原告の主張の骨子
(ア) 別件原告は、公表済みノウハウも多いといった事情もあったことから、別件原告開発のノウハウにつき、無償でノウハウを考案する権利自体を相手方に譲渡・移転したが、原譲渡契約後、相手方は独自のノウハウ開発を行っている(疎乙第1号証16、17、21、24ページ)。
(イ) 本件契約により譲渡されたのは、相手方の開発体制とノウハウであり、個々のマニュアル書・データベースに価値があるわけではない(疎乙第1号証26ページ)。
(ウ) Bは、相手方から技術使用権を譲り受け、設立当初から開発に着手し、別件原告及びグループ企業への部材供給額も増加の一途をたどっている。したがって、別件原告及びグループ企業は、Bからノウハウの提供を受けている(疎乙第1号証17、29ページ)。
3 抗告人の主張
(1) 複数人に対する課税処分の関連請求該当性について
原決定の説示から推察すると、原決定は、本件各処分及び別件各処分の前提となる個別の具体的事実やこれを基にして想定される証拠関係を重視して、行訴法13条6号の関連請求該当性を判断していると解される。しかし、以下に述べるように、原則的に、複数人に対する課税処分は関連請求に該当しないというべきである。
ア まず、一般的にいって、「課税処分、換地処分等は各人ごとに別個の処分を構成するから、たとえその違法事由に共通なものがあつても、その間に関連請求の関係は認められない」とされている(矢野邦雄「請求の併合および変更」行政法講座3巻278ページ)。
イ また、元来、行訴法13条所定の「関連請求」概念は、行訴法13条でのみ問題となる概念ではなく、訴えの原始的併合や後発的併合の可否の要件(行訴法16条ないし19条1項)ともされていることに留意しなければならない。特に、原始的併合の可否の関係で問題となる関連請求該当性は、訴訟の入口の問題として訴え提起の段階で判断されるべき事項であるところ、かかる段階では、当然のことながら当事者の主張が出そろっていないなど、その判断の基礎となるべき情報量が乏しいのが通常である。したがって、行訴法の関連請求の概念は、訴訟の移送の可否を含めた訴えを併合できる事件の範囲を画する基準として統一的に用いられているのであるから、民事訴訟の移送や弁論の併合における判断枠組みと同様に、争点及び証拠の共通性を基礎として関連請求該当性を判断するのは困難なのであり、行訴法13条1号ないし5号のように、処分の前提となる個別の具体的事実や証拠関係を離れた類型的な判断枠組みによらざるを得ないものである(南博方編「条解行政事件訴訟法第2版」287ページ以下参照)。それゆえ、各人ごとの別個の処分を構成する課税処分については、通常、類型的にみて争点や証拠関係の共通性を認めることは困難なのである。
ウ そして、上記の観点から本件をみてみると、本件が本件契約に基づくノウハウ譲渡代金の受贈益課税の問題であるのに対し、別件は本件ノウハウ使用許諾契約に基づくロイヤリティの寄附金課税の問題であって、課税処分の原因が同一の社会的事実に基づくものではないし、また、課税処分の対象も別個の法人であり、処分の手続自体にも関連しないことから、課税処分自体に関連性があるとはいえず、やはり関連請求には該当しないというほかない。
なお、この点、司法研修所編・改訂行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究237ページでは、この関連請求該当性について、「例えば、複数の処分の取消訴訟においては、処分の原因が同一の社会的事実に基づくとか、処分の対象やその手続自体に関連があるというように処分自体に関連性があることが必要である。」とされるところ、仮に、かかる観点から本件を検討しても、上記のように、本件と別件の問題の相違等に着目すれば、課税処分自体に関連性があるとはいえないというべきである。
エ これに対し、原決定は、争点の共通性の点を強調して関連請求該当性を基礎付けているが、上記のとおり、本件と別件では、課税処分自体に関連性があるとはいい難いのである。
(2) 原決定が認定する主要争点の共通性
加えて、前記(1)の点をおくとしても、原決定が指摘する争点の共通性の点についても、その認定は正当とはいえない。以下、この点につき詳論する。
ア まず、原決定は、本件と別件とは「原告及び被告をそれぞれ異にしているが、取消請求の対象の主たる対象であるいずれの更正処分等も本件契約や本件ノウハウ使用許諾契約が架空であることを理由としており、かつ架空であると判断した理由は、本件ノウハウはCが取得し、保有し続けていたもので、本件と別件における各原告が主張するように、申立人に帰属していた(その上でBに譲渡された)ものではないとする点で共通であるから、本件ノウハウの帰属を巡る問題がいずれの訴訟においても主要な争点であると認められる」と判示している(原決定3、4ページ)。つまり、原決定は、本件各処分と別件各処分において、本件ノウハウが元々、別件原告が保有し続けていたことを根拠として、本件契約と本件ノウハウ使用許諾契約が共に架空とされている点に着目して、本件と別件の主要争点の共通性を認定したものと解される。
イ しかしながら、原決定の上記判断は、以下に述べるとおり相当ではない。
(ア) 原決定は、本件及び別件の主要争点を「本件ノウハウの帰属」の問題であると摘示するが、そもそも、本件及び別件におけるノウハウの帰属をめぐる紛争には、性格を異にする複数の問題が含まれていると解される。すなわち、原決定は、本件契約において譲渡対象物となったノウハウと本件ノウハウ使用許諾契約によりBが別件原告ないしグループ企業に対して提供するノウハウとを同視しているようである。しかし、いわゆるノウハウというものは、特許権や商標権等の法律上認められている知的財産権のように内容が固定化されたものではなく、開発主体による開発行為を経て、次第に内容を変じ得るものである。したがって、別件原告・B間で締結された契約が、本件契約において譲渡対象とされたノウハウをそのまま譲渡対象とするような契約であるならばともかく、本件ノウハウ使用許諾契約がそのようなものではない以上、両者の関係は論理的な択一関係に立つものではない。つまり、本件契約における譲渡対象となったノウハウと本件ノウハウ使用許諾契約に基づいてBが別件原告等に提供するとされているノウハウとは、必ずしも合致しないのである。
(イ) そして、これを本事案に即して説明すると、次のとおりである。すなわち、
a まず、本件では、本件契約で譲渡対象とされたノウハウが譲渡人である相手方に帰属しているか否かが最大の問題となるが、この場面におけるノウハウの帰属の問題を分析すると、そこには、①別件原告が開発したノウハウが同社から相手方へ移転したか否かという問題(ノウハウの移転の有無。前記2、(6)ア(ア)の相手方の主張がこれに対応する。)と、②別件原告が開発したノウハウのほかに、相手方が独自にノウハウを開発したか否かの問題(ノウハウの原始的帰属主体の問題。前記2、(6)ア(イ)の相手方の主張がこれに対応する。)という2つの問題が含まれるのである。つまり、前者は相手方が主張するようなノウハウの移転の有無(原譲渡契約の有無)の問題であるのに対し、後者は相手方が独自にノウハウを開発したか否かという問題であり、問題の性格を異にする。
b 他方、別件では、本件ノウハウ使用許諾契約におけるロイヤリティ支払の対価となる、Bから別件原告ないしグループ企業に対する「ノウハウ」の提供の有無が問題となり得るが、ここでも、前記aの指摘と同様の問題が含まれている。すなわち、前記2で示した本件事案の経過を踏まえるならば、ここには、ⅰ原譲渡契約前に別件原告が開発したとされるノウハウ(別件原告によれば、このノウハウは、相手方を経てBが承継取得したことになる。)、ⅱ原譲渡契約後、本件契約前に開発したとされるノウハウ(別件原告によれば、このノウハウは、相手方が開発し、これをBが承継取得したことになる。)、そして、ⅲ本件契約後に開発したとされるノウハウ(別件原告によれば、このノウハウは、Bが独自に開発したノウハウであるということになる。)の3つの帰属の問題が含まれるのである。そして、このうちのⅰ及びⅱは、前記aの①及び②にほぼ対応するものとみられるが、ⅲは、本件と全く異なる別個の問題といわざるを得ないのである。
(ウ) そして、上記のような観点から眺めた場合、確かに、本件ノウハウの帰属の問題は、本件と別件とで、上記(イ)a①、②の限度で共通するようにもみえるが、この点が真に別件において争点となるか否かは、別件原告がどの点を違法事由として主張するかによるところが大きいといわなければならない。けだし、前述したように、本件ノウハウ使用許諾契約の関係で問題となるノウハウと本件契約の関係で問題となるノウハウとは、論理的な択一関係に立つものではなく、それゆえ、別件原告が、別件において前記(イ)bⅲを争点とする場合には、必ずしも、本件の争点が別件においても主要な争点となるとはいえないからである。そして、実際、前記の審査請求における別件原告の主張、取り分け、別件における別件原告の主張をみてみると、別件原告は、別件各処分の違法の主張内容として、前記(イ)bⅰ、ⅱを重視せずに、前記(イ)bⅲの点を違法事由として重視していると解されるのである。すなわち、
a 疎乙第3号証は、別件における別件原告の準備書面(1)であり、同書面には、別件原告の主張が詳細に論じられているところ、これによると、別件原告は、「Cグループが利用している『経営システム』は…特に特許権等の知的財産権で保護されている性質のものではないから、一旦知ってしまえば、爾後、わざわざ対価を支払ってまで実施する必要がな」く、「一旦GC(引用者注:グループ企業のこと)各社に伝達してしまえば、直ちに陳腐化してしまう性質の情報である」として(疎乙第3号証22、83ページ)、本件契約に基づいてBが取得したノウハウは、本件ノウハウ使用許諾契約に基づくロイヤリティの対価性の判断とは無関係であるかのような主張を展開している。
b また、上記のような視点は、本件契約についての主張でも示されており、例えば、相手方の「経営陣は…GC各社がC(A設立後はA)に対して支払っているロイヤリティは、Cグループに加盟していることにより将来得られるであろう『経営システム』の対価であって、既にCから提供された既知の『経営システム』の対価ではないとの考え方に基づき、AからBに引き継がれる『経営システム』は、事実上無価値なものと考え、特に有償での譲渡を行う必要がないと判断した」(疎乙第3号証66ページ)と主張して、本件契約に基づいて譲渡されたとされるノウハウの無価値性を述べているところである。
c そして、別件原告は、本件ノウハウ使用許諾契約に基づくロイヤリティの支払は、「将来の経営システム」提供の対価であると主張し(疎乙第3号証22ページ)、かつ、本件ノウハウ使用許諾契約に基づくロイヤリティの支払が、Bが独自に開発したノウハウの提供に対する対価であることを力説しているのである(疎乙第3号証10ページ以下。Bの独自開発性につき、相当な紙面を充てている。)。
(エ) このように、原決定が判示するような「本件ノウハウの帰属」という問題については、これを子細に検討すると、実は異なった領域の問題を含んでいるのであって、これらは理論的に必ずしも関連性を持つものではなく、当事者の主張次第では、関連性を認め難い性質のものといわざるを得ない(つまり、原決定がいう「本件ノウハウの帰属」が争点となるかは、その具体的内容と当事者の主張を勘案した判断とならざるを得ず、その意味では、どのような形で争点が形成されていくかは極めて流動的な側面がある。)。
してみれば、本件においては、当事者双方の主張が全くなされていないばかりか、前記のとおり、別件における別件原告の主張によれば、本件と別件との主要争点が共通しない可能性も高いことを踏まえるならば(なお、別件被告の主張も、具体的な適法性の主張には至っていない〔疎乙第4号証〕。)、原決定が摘示するような、本件と別件における主要な争点が共通するとの認定には至り得ないというべきである。
(オ) 結局、前述したように、訴訟の当初の時点で関連請求該当性が問題となった場合、情報量が乏しい中での判断となるが、原決定は、その乏しい資料を基に、本件及び別件の争点を決め打ちしたに等しいというほかなく、その認定は相当でないといわざるを得ない。
(3) 証拠関係の共通性
そして、上記のような争点の把握についての理解を前提とすれば、本件と別件とで証拠関係が共通するとはいえないというべきである。すなわち、本件では、本件契約の架空性に関連して、原譲渡契約の有無及び相手方によるノウハウの独自開発性が主要な争点となることが想定されるから、ここで想定される証拠関係も、原譲渡契約の有無や、相手方と別件原告・グループ企業間で取り交わされた契約書の内容や整合性、そして、相手方が開発したとされるノウハウの開発経過等が立証命題となるのに対し、別件では、本件ノウハウ使用許諾契約の仮装性及びBのノウハウの独自開発性が争点となることが想定されるから、ここで想定される証拠関係も、Bと別件原告・グループ企業間で取り交わされた契約書の内容や整合性、そして、Bが開発したとされるノウハウの開発経過等が立証命題となるのであって、その基礎とする事実関係を全く異にすることとなる。
(4) このように、本件と別件とで主要な争点が必ずしも共通するとはいえないし、また、そうである以上、その証拠関係の共通性も認めることはできないというべきである。してみれば、原決定が摘示するような、本件各処分と別件各処分の調査手続の関連性、処分時期の近接性、訴訟代理人(原告側の)の共通性などを斟酌しても、行訴法13条6号所定の「関連請求」該当性を認めることはできないのである。
4 結論
以上の次第で、相手方の移送申立てを認容した原決定には、その判断の基礎とした事実の認定につき重大な誤りがあるので、速やかにこれを取り消した上、相手方の移送申立てを却下する旨の決定を求める。
以上