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名古屋高等裁判所 平成17年(う)173号 判決 2005年7月04日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役1年2月及び罰金1万円に処する。

その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山下勇樹作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。その要旨は、被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処した原判決の量刑が重すぎて不当である、というものである。

そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

本件は、被告人が平成15年2月から平成16年8月までの約1年半の間の4度にわたる無免許運転(原判示第1、第3、第4、第6。うち1回は無車検・無保険車運転を伴う。)並びにそれらの発覚の契機となった一方通行違反(過失によるもの、原判示第2)、速度違反(同第5)、業務上過失傷害(同第7)からなる事案であるところ、原判決がその量刑の理由として説示するところは、概ね正当として是認することができる。所論にかんがみ若干付言するに、被告人は一度も普通免許を取得したことがないところ、昭和40年代ころから無免許運転あるいはこれを含む事案で繰り返し処罰を受けているのに、これらに懲りることなく原判示の各無免許運転に及んでおり、各運転の態様も交通違反や事故を伴うなど危険というべきであるし、被告人の交通規範意識の欠如は甚だしく、原審段階では業務上過失傷害の被害者らに対する弁償も未了であったことがうかがわれる。

所論は、被告人が多数の犯行を重ねることになったのは、起訴が早期になされなかったことも一つの要因になっているというが、本来、被告人に対しては身柄を拘束した上での捜査も十分に考えられるのに、在宅捜査が選択されたのは、心臓疾患や腎臓疾患を有し療養中であるという被告人の体調や、妻の看護が必要であるとの家庭状況を考慮したためと推察されるところ、その捜査の間に自戒することなく無免許運転を続けた結果、多数の犯行を重ねることになったものであり、この間に格別に被告人のために酌むべき事情は認めがたい。また、所論は、被告人の前科の刑と比して、原判決の刑は著しく重いというが、そもそも、その前科の事案はいずれも平成14年の道路交通法改正以前のものであるところ、原判示の無免許運転の各犯行はいずれもその改正後のものである上、業務上過失傷害罪を犯し併せ処罰されていることなどからすれば、今回の場合、前回よりも重い刑をもって処断されるのは当然のことであり、これをもって所論のように著しく重いということはできない。

そうすると、被告人の刑事責任を軽くみることはできず、被告人の年齢や上記のような健康状態など原判決の挙げる有利な事情を斟酌しても、被告人を懲役1年6月及び罰金7000円に処した原判決の量刑は、その言渡し当時においてはこれが重すぎて不当とは言い難いところである。

しかしながら、当審における事実取調べの結果によれば、被告人は、原判決後、手持資金をやりくりして、合計30万円余を捻出し、これを業務上過失傷害の被害者らに対する一部弁償に充て、誠意を示していることが認められ、この事実と原判決当時に認められた有利な事情、特に被告人が心臓疾患や腎臓疾患を有している点を併せ考慮すれば、原判決の量刑は現時点においてはいささか重すぎる結果となっているものと考えられる。

よって、刑訴法397条2項により原判決を破棄し、同法400条ただし書により、当裁判所において更に次のとおり判決する。

原判決が認定した事実に、原判決と同一の法令の適用をし(ただし、併合罪加重の項を、「刑法45条前段、懲役刑につき 刑法47条本文、10条(最も重い原判示第7の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき、刑法48条1項により懲役刑と併科」と改め、酌量減軽の項は削除する。)、その処断刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役1年2月及び罰金1万円に処し、その罰金を完納することができないときは、刑法18条により、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、原審及び当審における訴訟費用は、いずれも刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする(なお、原判決の宣告刑と当審のそれとでは、罰金刑の金額については当審のそれが上回っているが、本件では原判決の全部について控訴がなされている場合であって、部分上訴の場合とは事案を異にし、かつ、その全部の罪が刑法45条前段の併合罪の関係に立つ場合であるところ、全体として双方の刑を比較すれば、当審の宣告刑は原判決のそれよりも被告人に有利であるから、刑訴法402条の制限に反しないと解するのが相当である。)。

よって、主文のとおり判決する。

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