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名古屋高等裁判所 平成17年(ネ)291号 判決 2005年7月15日

主文

1  原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

2  控訴人は,被控訴人に対し,金350万0014円及びこれに対する平成16年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人の控訴人に対するその余の請求(附帯控訴により当審において拡張された請求を含む)を棄却する。

4  控訴につき訴訟費用は,第1,2審を通じて控訴人の負担とし,附帯控訴につき控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中控訴人に関する部分を取り消す。

(2)  被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。

(3)  被控訴人の控訴人に対する附帯控訴を棄却する。

2  被控訴人

(1)  控訴人の本件控訴を棄却する。

(2)  原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

(3)  控訴人は,被控訴人に対し,金385万0014円及びうち金350万0014円に対する平成16年2月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を,うち金35万円に対する本附帯控訴状送達の日(平成17年4月25日)の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え(金35万円及びこれに対する本附帯控訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める部分は,附帯控訴により当審において拡張された請求である。)。

第2事実関係

1  本件は,被控訴人が,控訴人に対し預け入れていた本件定期預金(原判決別紙預貯金目録(4)の「種類」,「証書番号」及び「預入金額」欄記載のとおりの定期預金)の支払い及びこれに対する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

2  控訴人は,本件定期預金をその証書の持参人に払い戻したことが,債権の準占有者に対する弁済と認められる,また,控訴人は免責約款により免責されると主張したが,原審は,控訴人の弁済は債権の準占有者に対する弁済に当たらず,免責約款により免責される場合にも当たらないとして被控訴人の請求を認めた。

3  控訴人は,原審の結論を不服として控訴し,被控訴人は,附帯控訴により請求を拡張した。

4  事実関係は,下記のとおり当審における主張(被控訴人については請求の拡張)を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1のうち控訴人に関する部分及び同欄の第2の2(2)のとおりであるから,これを引用する。

(1)  当審における主張(控訴人)

本件については,商事法定利率を適用すべき理由を欠く。

(2)  当審における請求の拡張(被控訴人)

盗取した通帳と偽造印鑑を用いた預貯金引き出し被害に関して,近時,金融機関が被害者に対する全額弁償の方針を打ち出しつつある中で,控訴人は被控訴人が被った被害について救済の姿勢を示さず,被控訴人は,訴訟手続に関する専門的知識の乏しさから,原審における訴訟提起及び遂行に当たりやむを得ず代理人弁護士を選任した。

原判決言い渡しにより被控訴人の救済がようやく図られようとしたところ,控訴人は,控訴により被控訴人の被害救済を妨害し,被控訴人は,控訴審においても代理人弁護士の選任を余儀なくされた。

被控訴人の代理人弁護士に対する報酬金は,控訴人に対する請求につき35万円が相当である。

よって,被控訴人は,控訴人に対して,35万円及びこれに対する本附帯控訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,控訴人に対して本件定期預金の支払いを求める被控訴人の請求は理由があると判断するが,その遅延損害金については民法所定の年5分の割合の範囲で認めるのが相当であり,また,被控訴人の附帯控訴は理由がないと判断するものである。その理由は,下記1及び2のとおり補正し,下記3及び4で控訴人の当審における主張及び被控訴人の当審における請求の拡張について判断するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3の2に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決8頁25行目の「両者の印影には差異があるが,」を「両者の印影には差異があるところ,その差異は,印鑑の使い込みによる印鑑自体の変化,押捺時の紙質,押捺時の力の強弱,押捺の仕方等の使用条件により生じるであろう差異を超えた明らかな差異と認められるが,」と改める。

2  原判決9頁2行目と3行目の間に,次を付加する。

「 控訴人は,本件の解約印影(甲8の1)が,本件定期預金証書と同時に窃取された郵便局の定額郵便貯金証書に押捺されている被控訴人の使用印章の印影をスキャナー等で本件定期預金証書の裏面に複写して作成されたものであり,したがって,解約印影の印章は共通印鑑届(甲8の3)に押捺された印章とも同一であるところ,同一の印章によって顕出された印影は同一印影であると考えるべきと指摘する。しかし,その指摘する本件の解約印影の作出過程が事実であるとしても,その解約印影は,上記共通印鑑届に押捺された印章そのものを直接押捺して作出されたものではないのであって,当該印章によって真正に顕出された印影とはいえないから,控訴人の指摘するところを採用することはできない。」

3  控訴人の当審における主張について

被控訴人は,控訴人に対して商事法定利率年6分の遅延損害金を請求するが,控訴人は,中小企業等協同組合法に基づき,中小規模の商業等の事業を行う者等の自主的な経済活動を促進し,かつ,その経済的地位の向上を図ることを目的として設立された法人であって,営利を目的としない法人であるから商人には当たらず,また,本件定期預金取引を含め控訴人が行う銀行取引もあくまで上記の目的の範囲内でなされるものである以上(同法9条の8第1項3号,2項4号,3項),営利を目的とするものとは認められず,営業的商行為に当たるとはいえない。そうすると,控訴人と被控訴人との間の本件定期預金取引は商行為とはいえないから,控訴人の主張するとおり,その履行遅滞による遅延損害金も商行為について規定した商法の規定によることはできず,民法所定の年5分の範囲内でこれを認めるのが相当である。

4  被控訴人の当審における請求の拡張について

被控訴人は,本件定期預金支払いの不履行によって,弁護士費用相当額の損害を受けたとしてその損害の賠償を求めるものであるが,本件において控訴人が債権の準占有者に対する弁済あるいは約款による免責を主張して応訴し,控訴した行為が不法行為を構成するほどの違法性があるものとは認められず,また,金銭債権の不履行による損害賠償の額は法定利率をもって足り,当事者間の合意等の特段の事情のない限り,これと異なる損害の主張は認められないから(民法419条1項),弁護士費用を損害として主張する被控訴人の当審における請求は理由がないことが明らかである。

第4結論

よって,被控訴人の請求は,控訴人に対して,金350万0014円及びこれに対する平成16年2月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める範囲で理由があるから,これと異なる原判決中控訴人に関する部分を変更し,被控訴人の控訴人に対するその余の請求(附帯控訴により当審において拡張された請求を含む)をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊田士朗 裁判官 多見谷寿郎 裁判官 堀内照美)

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