名古屋高等裁判所 平成17年(ネ)391号 判決 2006年2月15日
主文
1 1審原告ら、1審被告法人及び1審被告Eの本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告らは、1審原告Aに対し、連帯して、1799万3550円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審被告らは、1審原告Bに対し、連帯して、1799万3550円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、1審原告らと1審被告らとの間に生じた費用については、第1、2審を通じ、これを4分し、その1を1審被告らの負担とし、その余を1審原告らの負担とし、補助参加に関する費用は補助参加人らの負担とする。
3 この判決は、主文1項(1)及び(2)に限り、仮に執行することができる。ただし、1審被告法人、同C及び同Dが、1審原告らにつき各1500万円の担保を供するときは、その仮執行をそれぞれ免れることができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 1審原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
ア 1審被告らは、1審原告Aに対し、連帯して5455万0530円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 1審被告らは、1審原告Bに対し、連帯して5455万0530円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 1審被告法人及び1審被告Eの本件控訴をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも1審被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 1審被告法人
(1) 原判決中1審被告法人敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告らの1審被告法人に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも1審原告らの負担とする。
(5)( ) 仮執行免脱宣言
3 1審被告C及び同D
(1) 1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
(3) 仮執行免脱宣言
4 1審被告E
(1) 原判決中1審被告E敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告らの1審被告Eに対する請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告らの本件控訴をいずれも棄却する。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも1審原告らの負担とする。
第2事案の概要
1(1) 本件は、1審被告法人経営のG保育園(以下「本件保育園」という。)の園舎屋上に設置した駐車場(以下「本件駐車場」という。)から1審被告E運転の乗用車が転落し、園庭にいた園児が死亡した事故(以下「本件事故」という。)につき、同園児の父母である1審原告らが、
ア 1審被告法人に対して、幼児保育委託契約による安全配慮義務不履行責任、民法709条による安全配慮義務違反の不法行為責任ないし保育士の同義務違反に関する同法715条1項の使用者責任、上記駐車場の設置又は保存の瑕疵による同法717条1項の土地工作物所有者責任に基づき、
イ 1審被告法人の代表者理事である1審被告C及び本件保育園の園長である1審被告Dに対して、安全配慮義務不履行責任、民法709条による安全配慮義務違反の不法行為責任ないし保育士の同義務違反に関する同法715条2項の監督者責任に基づき、
ウ 1審被告Eに対して、自動車損害賠償保障法3条本文ないし民法709条の不法行為責任に基づき、上記園児の損害及び1審原告ら固有の慰謝料として、各1審原告につき、連帯して6559万5046円及びこれに対する本件事故発生の日である平成14年9月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 原審は、1審原告らの請求は、1審被告法人に対し民法717条1項の工作物所有者責任に基づき、1審被告Eについては自賠法3条本文ないし民法709条に基づき、同被告らに対し、連帯して、2937万1571円及びこれに対する平成14年9月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し(同認容部分につき仮執行宣言あり)、同被告らに対するその余の請求、並びに1審被告C及び同Dに対する請求を棄却した。
(3) 原判決に対し、1審原告ら、1審被告法人及び1審被告Eが、不服があるとしてそれぞれ控訴した。
補助参加人らは、当審において、1審被告法人のために補助参加した。
(4) 1審原告らは、当審において、自賠責保険から一部損害のてん補を受けたとして、上記第1の1の(1)のとおり、請求の趣旨を減縮した。
2 争いのない事実(証拠により容易に認められる事実を含む。)、当事者の主張は、以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決の「第2事実関係」欄の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 原判決の付加訂正
(1) 原判決5頁12行目と13行目の間に「(1審被告法人の責任について)」を付加する。
(2) 原判決5頁20行目冒頭から同6頁8行目末尾までを、以下のとおり改める。
「イ なお、以下の「(1審被告Cの責任について)」欄及び(1審被告Dの責任について)」欄記載のとおり、1審被告C及び同Dも、1審被告法人とともに保育園の園児たちに安全配慮義務を負っていた。」
(3) 原判決6頁9行目の「被告法人らの債務不履行責任」を「1審被告法人の債務不履行責任」と改める。
(4) 原判決12頁12行目及び同頁14行目の「被告法人ら」をいずれも「1審被告法人」と改める。」
(5) 原判決12頁24行目と25行目の間に以下のとおり付加する。
「(1審被告Cの責任について)
(1) 不法行為責任(民法709条)
ア 1審被告Cは、1審被告法人の理事長として、1審被告法人が経営する本件保育園の業務について委任ないし準委任されており、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払って児童福祉施設である保育園の構造設備を設ける義務を負っていた。そして、1審被告Cは、1審被告法人において、平成11年から平成12年3月にかけて行われた本件園舎増築工事を現実に担当した。
多くの園児たちが利用する園庭に面した園舎の屋上を利用した駐車場を設けた場合、車が駐車場から逸脱して落下すれば、園庭にいる多数の園児たちに対し、生命に関わる重大な損害を与えることになるから、屋上に駐車場を設けるのはそもそも許されない。しかし、上記注意義務を怠り、1審被告Cは、このような園児たちにとって極めて危険な場所に駐車場を設置することを発案し、理事会に提案してその承認を受け、1審被告法人の理事長として設計事務所等に依頼した。
イ 1審被告Cは、園庭に面した園舎の屋上という極めて危険をはらんだ場所に駐車場を造ることを自ら発案し、現実にその業務を担当したのであるから、業者に対し、絶対に本件駐車場から車が転落して園児に危険が及ぶことがないような設計、施工をするように指示して、転落事故発生を防止すべき注意義務があった。
しかし、1審被告Cは、上記注意義務を怠った。
ウ 1審被告Cは、本件のような危険な場所に駐車場を設置する以上、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払った構造にし、最低限でも通常考え得る程度の誤動作により、自動車が本件駐車場の外壁等を突き破り、転落することのないような設計、施工をするように業者に指示し、その設計、施工が適切に行われているか否か確認すべき義務があった。
しかし、1審被告Cは、上記注意義務を怠った。
エ 1審被告Cは、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払った構造にし、最低限、通常考え得る程度の誤動作により、自動車が駐車場の外壁等を突き破って転落することのないような設計、施工をするよう業者に指示し、その設計、施工が適切に行われているか否か確認すべき注意義務があった。
ところが、1審被告Cは、同注意義務に違反して、本件増築工事の建築確認申請が出された後である、平成11年11月ころ、補助参加人設計事務所の設計士である補助参加人Fに対し、本件駐車場の構造を当初補助参加人設計事務所が設計していた構造(乙1号証の建築確認申請図面)よりもさらに危険な構造に設計変更し、施工するように指示した。
すなわち、本件駐車場は、当初、乙1号証の図面1枚目のように4台分の車の駐車場として設計された。車止めの形も通常一般的な駐車場で使われる凸型の車止めであり、手摺りの下のコンクリートの基礎部分の高さは35~40センチメートルで設計され、上記設計で建築確認を受けた。
ところが、1審被告Cは、補助参加人設計事務所に対し、本件駐車場の車止めを甲10号証添付図面のような段差の構造に変更するように指示した。
その結果、本件駐車場柵の下のコンクリートの基礎部分(擁壁)の高さは約25センチメートルと低くなった。さらに車両が車止めに乗り上げた場合、車体を前方または後方(後進車両の場合)に持ち上げる構造となってステップ台的な役割を果たし、かつ強度が弱い手摺り上部を押し込む形となって、車両転落事故が起こる可能性をより増大させた。
オ 本件駐車場では、本件事故の7か月前の平成14年2月に本件駐車場2月事故が発生した。
1審被告Cは、本件駐車場で事故が起こり、本件駐車場柵や埋め込み部が破損したことを聞いた。1審被告Cは、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払って保育園の構造設備を設ける義務を負っており、また、保育園の施設が破損した場合に、その補修方法等を定めて補修契約を締結し、また損害賠償について示談する権限があった。
したがって、1審被告Cは、事故発生情況、駐車場柵等の破損状況等を確認すべきであった。1審被告Cが、上記確認をしていれば、運転者の運転ミスにより、本件駐車場から車が転落する危険性があることを予見することができたはずであり、事故発生の危険性を回避するため、本件駐車場の使用を直ちに中止するよう園長らに指示し、かつ、駐車場柵の強度を十分にする等、自動車の転落を有効に防止できるような装置等を設置する工事をすることが可能であった。
しかし、1審被告Cは、補修工事を平成14年2月に事故の運転者であったHの加入していた保険会社に任せ、補修工事にあたったI工務店と補修方法につき話合いもせず、従前よりも強い強度にしてほしいという指示もしなかった。
(2) 民法715条2項の責任
1審被告Cは、1審被告法人の代表者であり、安全配慮義務を負っていた。本件駐車場の補修工事契約、損害賠償の示談等の業務は、1審被告Cにその権限があり、義務があった。また、1審被告Cは、それまでにもドアが壊れたというような細かい話でも、その打合せをするために、本件保育園に出向いており、月に1回程度は保育園に行っていた。
1審被告Cは、本件駐車場2月事故の後、駐車場柵の補修工事に関して安全配慮義務を果たす業務、事故状況を確認して、本件駐車場の補修工事につき、復旧工事以外の工事を依頼する必要性を判断し、業者に依頼する権限等を従業員であるJ主任に委任した。 J主任は、本件駐車場2月事故後の本件駐車場柵等の上記破損状況を見ており、本件駐車場に瑕疵があり、車が転落して園児たちに損害を与える可能性があることを認識し、認識し得べきであったが、なんらの補強工事をすることも考えず、結果回避措置を取らなかった。
したがって、1審被告Cは、J主任の上記過失について民法715条2項により責任を負う。
(3) 債務不履行責任
1審被告Cには、上記(1)のとおり債務不履行責任があり、また、上記(2)のとおり履行補助者に債務不履行責任がある。
(1審被告Dの責任について)
(1) 不法行為責任(民法709条)
ア 1審被告Dは、1審被告法人の理事であったほか、本件保育園の施設長であり(児童福祉法46条参照)、社会福祉施設である本件保育園の専任の管理者(社会福祉法61条)であって、1審被告法人から本件保育園に関する業務について、委任ないし準委任されていた。学校教育法77条では、「幼稚園は、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。」と定め、その目的を達成するために同81条は「園長は、園務をつかさどり、所属職員を監督する。」と定めている。言い換えれば、園長は、学校教育法上幼稚園の責任者として、安全な保育を確保できるよう施設管理を行うとともに、適切な保育内容を決定し、それに従って保育がなされるよう職員を監督する義務を負っている。保育園については、児童福祉法は園長(施設長)について、特に明文の規定は置いていないが、保育園の園長も幼稚園の園長と同様の責務を負っていると解される(児童福祉法45、46条、47条参照)。
多くの園児たちが利用する園庭に面した園舎の上部に屋上を利用した駐車場を設けることは、極めて危険をはらんだことであり、車が駐車場から落下すれば、園庭にいる多数の園児たちに対し、生命にかかわる重大な損害を与えることになる。
したがって、1審被告Dは、本件保育園の園長、専任の管理者として、そのような結果を回避すべき注意義務があった。
ところが、1審被告Dは、1審被告法人の理事会の承認を得る前に、1審被告Cから園舎屋上に駐車場を設置するという説明を受けたにもかかわらず、これに反対せず、賛成し、また、1審被告法人の理事会においても、上記設置案に賛成した。
イ 本件駐車場では、本件事故の7か月前の平成14年2月に本件駐車場2月事故が発生した。
そして、1審被告Dは、職員室から、裏駐車場の柵の根本のコンクリートが壊れており、柵がはずれているのを見た。
したがって、1審被告Dは、運転者の運転ミスにより、本件駐車場から車が転落する危険性があることを予見し、その結果を回避するために、<1>本件駐車場の使用を直ちに中止する、<2>本件駐車場柵の強度を十分にする等、自動車の転落を有効に防止できるような装置等を設置するよう1審被告Cに報告して、その結果を回避する、<3>園庭のうち、園舎の屋上から車が落下した場合に、園児たちに危険が及ぶ範囲内には、園児たちが立ち入れないようにする、<4>保育士たちに対し、少なくとも父母の送迎時間帯には、上記危険が及ぶ範囲内に園児たちを近づけないように指導する、等の注意義務があった。
しかし、1審被告Dは、上記注意義務を怠った。
ウ 上記イのとおり、1審被告Dは、本件駐車場2月事故による破損状況を見たのであるから、本件駐車場の利用者・利用方法に関して、安全配慮のための制限をする等して、園児たちの生命、身体を危険から保護し、危険防止に配慮すべき義務があった。 すなわち、1審被告Dは、本件駐車場の駐車位置や方向転換場所の指定について園児たちの危険防止に十分配慮すべきであったことはもとより、本件駐車場の利用者に対し、少なくとも軽自動車より大きい車の駐車を禁止し、かつ、高齢者や身体障害者など運転ミスを起こす可能性が高い者が運転する車の駐車を防止し、かつ、その必要性を父母会を通して説明するなどして、その指示を徹底させるなどの安全配慮をして、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があった。
しかし、1審被告Dは上記注意義務を怠った。
(2) 民法715条2項の責任
上記(1)のとおり、1審被告Dは、本件保育園の園長(施設長)として、園務をつかさどり、所属職員を監督する責務を負っていた。また、社会福祉施設である本件保育園の専任の管理者(社会福祉法61条)であった。
本件事故につき、職員らには以下の過失があるから、職員らの監督者である1審被告Dには民法715条2項に基づく責任がある。
ア 1審被告Dは、児童福祉施設である保育園の構造設備が園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払って設けられるよう管理する義務及び権限があった。そして、本件駐車場2月事故の際、1審被告Dは、安全配慮義務を果たす権限、具体的には同事故の発生状況、同事故により破損した本件駐車場柵やコンクリートの状況を確認し、本件駐車場の補修工事内容等を決定する権限をJ主任に与えた。
J主任は、本件駐車場2月事故による本件駐車場柵等の上記破損状況を見て、手摺りとコンクリートが外れているのを見ており、本件駐車場に瑕疵があり、本件駐車場2月事故の補修工事について、事故前と同様の補修をするだけでは、本件駐車場から車が転落して園児たちに損害を与える可能性があることを認識すべきであったにもかかわらず、なんらの補強工事をすることも考えず、結果回避措置を取らなかった。
イ 本件事故の発生状況について、仮にE車が本件駐車場の手摺りにぶつかって一旦停止し、その後、バックしてまた停止し、再度前進して本件駐車場柵に再衝突したとすれば、E車は、少なくとも20秒から30秒の時間があった(仮に、そうでなかったとしても、少なくとも10秒以上の時間はあった。)。
保育士たちには、本件駐車場において、異常な音、振動あるいは駐車場施設の異変が発生した場合には、直ちに園児たちの安全を確保するための対処をする義務があった。
したがって、保育士らは、一度目の衝突の後、直ちに危険を察知し、園児たちに対し、本件事故現場からできるだけ離れて避難するよう指示し、あるいは救助する義務があったが、保育士たちはその義務を怠った。
(3) 債務不履行責任
1審被告Dには、上記()のとおり債務不履行責任があり、また、上記()のとおり履行補助者に債務不履行責任がある。」
(6) 原判決12頁26行目冒頭から同行末尾までを以下のとおり改める。
「(1審被告法人の責任に関する1審原告らの主張について)
(1) 1審被告法人が安全配慮義務を負う点について」
(7) 原判決21頁14行目と15行目の間に以下のとおり付加する。
「(1審被告Cの責任に関する1審原告らの主張について)
(1) 1審原告らの主張(1)(民法709条の不法行為責任)について
ア 同アについて
否認ないし争う。
園児たちに対して危害防止に十分考慮を払って保育園の構造設備を設ける義務を負担しているのは、1審被告法人であり、1審被告Cではない。
1審被告Cが増築工事に理事長として関与したことは否定しないが、その工事業者の選定などにあたっては、1審被告法人の「評議会」「理事会」などを通じて多くの者が関与しており、1審被告Cが単独で全てを決定して竣工したものではない。
1審被告法人は、新園舎の増築に関する設計業者の選定にあたってコンペ方式を採用した。このコンペに応募した設計業者は、補助参加人設計事務所のほか、株式会社K設計、有限会社L設計事務所であった。このうち、K設計を除く2社は、いずれも基本設計案の段階で、増築される新園舎の屋上に駐車場を設置する設計をしていた。1審被告法人は、平成11年8月26日、理事会・評議会を開催して協議したところ、設計事務費が安く、積算見積額が適切で、しかも1審被告法人での過去の実績について信頼できる設計であったことから、補助参加人設計事務所を設計業者として選定することを決定した。このような経過で決定された同補助参加人の基本設計案には、新園舎の屋上を駐車場とする設計がなされていたため、新園舎の屋上に駐車場が配置されることになった。したがって、1審被告Cが新園舎の屋上の駐車場を設置することを発案したものではない。
イ 同イについて
否認ないし争う。上記のとおり1審被告Cが新園舎の屋上に駐車場を設置することを発案したものではない。
ウ 同ウについて
争う。1審被告法人の注意義務違反の存否として問題にされるべき論点を1審被告Cに無理矢理当てはめようとするものである。
エ 同エについて
否認ないし争う。
1審被告法人の注意義務違反の存否として問題にされるべき論点を1審被告Cに無理矢理当てはめようとするものである。
また、建築申請直後の時期に車止めをかまぼこ型ではなくべたうちにするよう依頼したが、車止めの形状や本件駐車場の柵の基礎部分の高さなどは建築確認の対象ではなく具体的な形状寸法は建築確認申請の段階で確定しておらず、施工に至る過程で具体化していったものであり、変更ではない。本件駐車場の柵の基礎部分の高さも、25センチメートルに低くなったものではなく、未定であった高さに具体的な数値が与えられた結果である。また、車止めの形状がステップ台的な役割を果たしたとしても、設計の専門家である補助参加人設計事務所ですら予測できなかったことを、設計の専門家ではない1審被告Cが予測することは不可能であり、予測可能性、結果回避可能性がない。
オ 同オについて
否認ないし争う。園児たちに対して、危害防止に十分な考慮を払って保育園の構造設備を設ける義務が問題となるのは1審被告法人についてであり、1審被告C個人ではない。
また、1審被告Cが補修方法を決定し、損害賠償について示談などする権限があるとしても、損害賠償請求権に基づき請求できる賠償額は原状回復を前提とする補修に限られるのであって、この法律関係を前提とすれば1審被告Cがその補修に関与しなかったからといって、1審被告C個人が責任を問われる問題ではない。
さらに、1審被告Cが与えられた情報のみからでは、本件駐車場の柵の強度を強化する工事の必要性を考慮するに至ることは不可能であり、この点の不作為が第三者に対する過失を構成するとはいえない。
(2) 1審原告らの主張(2)(民法715条2項の不法行為責任)について争う。民法715条2項は使用者代理監督者の責任を定めた規定であって、1審被告法人の代表者個人の責任を定めた規定ではない。
また、本件駐車場2月事故により、本件事故の予見可能性があったとはいえず、相当因果関係もないので、1審被告Cが民法715条2項の責任を負担することはあり得ない。
(3) 1審原告らの主張(3)(債務不履行責任)について
争う。1審被告Cが第三者に対して直接債務を負担しているという法律関係は存在しない。
(1審被告Dの責任に関する1審原告らの主張について)
(1) 1審原告らの主張(1)(民法709条の不法行為責任)について
ア 同アについて
否認ないし争う。1審被告Dが1審被告法人の理事であり、保育園の園長であることは否定しないが、そのような地位に基づいて第三者に対する直接の注意義務を根拠付けることにはならない。
また、1審被告Dは新園舎増築の設計段階で本件事故の発生を予測することは不可能であった。
イ 同イについて
否認ないし争う。1審被告Dが職員室から本件駐車場の方向を見たことは否定しないが、柵の状況や根本のコンクリートの状況を詳細に分かっていたわけではない。本件駐車場2月事故においては、車両は転落しておらず、転落寸前の状態でもなく、ドライバーも子供も怪我をしていなかった。このような事実について報告を受けた1審被告Dが本件事故を予見することは不可能である。
1審原告らの主張は、1審被告法人の安全配慮義務違反と1審被告Dの義務とを混同している。
ウ 同ウについて
争う。1審原告らの主張は、1審被告法人の安全配慮義務違反と1審被告Dの義務とを混同している。
駐車許可証発行当時、本件事故を予見することは不可能であった。この点は1審被告Eが高齢で身体に障害があるからということで変わることはない。高齢であること、障害があることは、逆に静かでゆっくりした運転操作を想像させる事実であり、本件事故のように二度も連続してタイヤをきしませながら前進後退を繰り返すような運転操作を予見することは全く不可能であった。
(2) 1審原告らの主張(2)(民法715条2項の不法行為責任)について
ア 同冒頭部分について
争う。1審被告Dが保育園の園長であったことは否定しないが、代理監督者に該当することは争う。
イ 同アについて
争う。1審被告Dは1審原告ら主張の管理義務を負担しないし、本件駐車場2月事故は、本件駐車場の柵によって車両の転落に至らなかったものであり、J主任にとっても本件事故を予見することは不可能であった。
ウ 同イについて
否認ないし争う。一度目の衝突では、本件駐車場の柵によってE車の転落は防止され、また、園庭にいた保育士のほとんどにとって、一度目の音は何の音か理解できず、その後に起きる転落事故を予測することは不可能であった。そして、本件駐車場を見ることができた位置に居た者にとっても、E車が自力で後退したためそれを見て皆「ホッ」としたものであり、危険を感じたのは二度目に本件駐車場の柵に衝突した以降のことであった。したがって、一度目の衝突直後に避難指示又は救助する義務が発生するとの1審原告らの主張については、その前提となる予見可能性も結果回避可能性もなかったのであり、義務違反があったとはいえない。そして、予見可能となった第二衝突以降は、転落までは時間の余裕がなかったため、結果回避可能性はほとんど皆無であった。
(3) 1審原告らの主張()(債務不履行責任)について
争う。1審被告Dが第三者に対して直接債務を負担しているという法律関係にない。」
(8) 原判決23頁5行目と6行目の間に以下のとおり付加する。
「(オ)逸失利益算定における中間利息控除の利率を民法所定の5パーセントとすべきであるとした最高裁平成17年6月14日判決は、中間利息控除の利率を実質金利(名目金利と物価上昇率との差)とすることが合理的であることを理解できないではないと言い訳をしながら、これまでの過去の裁判例が、経済や数学に弱く、著しく不合理、不公平であることに気付かず、誤った判断を積み重ねてきてしまったことを正す勇気がなかったものであり、不当な判決である。」
(9) 原判決23頁26行目の「被告法人らはこれを拒否した。」を、以下のとおり改める。
「1審被告Cはこれを拒否し、葬儀場を手配しただけであった。1審被告Cは、亡Mの葬儀の際、葬儀場でタバコをふかし、雑談をしながらくつろいでいた。」
(10) 原判決24頁7行目と8行目の間に以下のとおり付加する。
「平成14年10月3日、1審原告Aが、1審被告Cに会って、事故状況等についての説明を求め、これに対し、1審被告Cは、「時期を見ながら検討して開催する。」と答えた。しかし、やはりそれ以降も説明会は開催されなかった。」
(11) 原判決24頁21行目と22行目の間に以下のとおり付加する。
「その後、同年9月末ころ、1審原告らが、花壇の件につき、問い合わせに出向いたところ、1審被告Cは忌明けまで待ってくださいと答えた。」
(12) 原判決24頁22行目の「被告Cは、」の次に、以下のとおり付加する。
「本件事故については弁護士に一任したから弁護士に連絡してくれ、と答えてきた。そして、花壇の件についても、代理人の弁護士を通じ、」
(13) 原判決25頁6行目と7行目の間に以下のとおり付加する。
「カ 1審原告らは、1審被告法人らがしかるべき安全対策を施していれば今回の事故は未然に防ぐことができ、Mは死ななくてよかったという無念の思いや1審被告法人らの上記不誠実な対応に対する怒りなどから、このような保育園経営者の責任をきちんと追及し、今後このような悲惨な事故が二度と起こらないようにすることを社会に訴えなければMは浮かばれないと決意し、1審被告法人らの責任を追及し、保育園の安全対策の強化を求める要望書に1万4500人の署名を集めて、同年11月に名古屋市に提出した。
そして、その働きかけをきっかけとして、平成15年2月、建築基準法上の安全基準の適用範囲が改正された。
1審原告らは、本件事故の具体的状況を知り、1審被告法人らの責任を明らかにするために本件訴訟を提起する一方で、その後も安全な保育園の確立に向けて活動を続けている。
キ ところが、1審被告法人らは、本件訴訟提起後の平成15年5月31日ころ、Mの亡くなった場所であり、1審原告らが小さな花壇を作って欲しいと要望し、毎月の命日には花を備えていた場所にビニールシートを敷き詰めて通路とする工事をした。
さらに、1審被告Cは、1審原告ら代理人からの問い合わせに対し、1審被告法人らの代理人を通じて、工事はしていないという虚偽の回答をした。
そして、同年8月には、1審原告らの供花料を寄付するので、花壇を作って欲しいとの申出をも拒否した。
そして、同年8月には、1審原告らに何の連絡もなく、本件駐車場を全面改装した。
ク 1審被告法人らは、未だに1審原告らに対し反省も謝罪もしない。
ケ 1審原告Bは、美容院開業という夢を実現するために名古屋市a区bc番、d番の土地を購入していたが、その土地は本件保育園の真向かいにあった。1審被告法人らの不誠実な対応から、現在も本件保育園の前を通ることができない1審原告Bは、平成15年12月25日、同土地を手放さざるを得なかった。その無念さもあまりある。」
(14) 原判決25頁7行目冒頭の「カ」を「コ」と改める。
(15) 原判決25頁14行目と15行目の間に以下のとおり付加する。
「サ そして、本件訴訟提起後、1審原告らは、本件裁判の場で、1審被告Eが、足と耳の障害以外に、右目も全く見えなかったこと、最高血圧が180~200、最低血圧が120~130という非常な高血圧でもあったことを知った。
そして、1審被告Eは、このような多数の障害がありながら、車の運転者として自らの障害がどれだけ重大かを認識することもなく、車(特に大きい車)がものすごく好きで、かつ、スピード違反でよく捕まったという無謀運転者であった。」
(16) 原判決25頁15行目冒頭の「キ」を「シ」と改める。
(17) 原判決25頁18行目冒頭から同行末尾までを、以下のとおり改める。
「(7) 損害のてん補
上記(1)ないし(6)のとおり、1審原告らは、1審被告らに対し、各5959万5046円の損害賠償請求権を有するところ、1審原告らは、平成15年3月10日、1審被告Eの自賠責保険からそれぞれ1146万5000円の支払を受けた。
上記5959万5046円に対する平成14年9月18日から平成15年3月10日までの174日間の遅延損害金は、<1>のとおり142万0484円である。そして、<2>のとおり上記受領額1146万5000円から上記遅延損害金を差し引くと残金は1004万4516円となる。
そして、同額を上記5959万5046円の債権に充当すると、<3>のとおり残金は4955万0530円となる。
<1> 59,595,046×0.05×174÷365=1,420,484円
<2> 11,465,000-1,420,484=10,044,516円
<3> 59,595,046-10,044,516=49,550,530円
(8) 弁護士費用各500万円」
(18) 原判決25頁20行目の「原告らが」から同頁21行目末尾までを、以下のとおり改める。
「1審原告らがMについて各2分の1の割合で相続する関係にあること、1審被告Eの自賠責保険から2293万円の支払を受けたことは認め、その余は不知ないし争う。逸失利益算定における中間利息控除の利率は、民法所定の年5パーセントによるべきである(最高裁平成17年6月14日判決)。」
(19) 原判決27頁5行目と6行目の間に以下のとおり付加する。
「オ 原判決は、保育園葬にしなかったこと、園庭に花壇を設置しなかったこと、運動会を開催したことなどについては保育園の自由裁量の問題であるとしつつ、1審原告らに対する配慮を欠いた対応が見受けられるなどと認定して、1審原告らの固有の慰謝料を各300万円とした。
しかし、本件事故後の段階で1審原告らに対する配慮をしなければならなかったということは、1審原告らの要求に従わなければならないとするのと同じであり、保育園の自由裁量を否定するに等しい。自由裁量の問題を固有の慰謝料発生の原因としてあげることは、矛盾した判決であり理由齟齬に該当する。」
(20) 原判決27頁20行目末尾に「最高裁平成17年6月14日判決も中間利息の割合は民事法定利率年5パーセントによることを判示した。」を付加する。
(21) 原判決28頁2行目末尾を改行の上、以下のとおり付加する。
「原判決は、1審原告ら固有の慰謝料として各300万円を認めたが、原判決が認定した事実のうち、幼児を事故でなくした親の心情という事情は、幼児の死亡事故という同種事案においては大なり小なり認められる事情であって、本件のみ特別な事情ではないし、1審被告Eの事故後の対応についても至らない点や配慮不足の点はあるとしても、その反省の念にいささかの変わりもない。したがって、本件において1審原告らに固有の慰謝料を認めること自体不当であり、仮に固有の慰謝料を認めるとしても、その額を各300万円としたことは高額にすぎ、原判決は不当であり、妥当でない。」
(22) 原判決28頁2行目と3行目の間に以下のとおり付加する。
「(6) 損害のてん補について
1審原告らが、1審被告Eから250万円、1審被告Eの自賠責保険から2293万円の各支払を受けたことは認める。」
第3当裁判所の判断
当裁判所は、1審原告らの請求は、1審被告らに対し、各1799万3550円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は以下のとおりである。
1 1審被告Eの責任について
上記(引用にかかる原判決の第2の1の(3))のとおり、1審被告Eは、本件事故につき、自賠法3条本文の損害賠償責任ないし民法709条の損害賠償責任を負う。
2 1審被告法人の責任について
(1) 当裁判所は、1審被告法人は、民法717条1項の工作物責任に基づき、
本件事故による損害賠償責任を負うと判断するが、その理由は、以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決の「第3当裁判所の判断」欄の2に記載のとおりであるからこれを引用する。
(2) 原判決の付加訂正
ア 原判決29頁12行目から13行目にかけての「59の1・2、」の次に「77、80、81、」を、同頁15行目の「32、」の次に「33の1ないし11、36、」を、同行目の「丙1、」の次に「丁1、5」を、同頁17行目の「被告E」の次に「、当審証人補助参加人F」をそれぞれ付加し、同頁18行目の「認められる」を「認められ、上記各証拠のうち、以下の認定に反する部分は採用しない」と改める。
イ 原判決30頁16行目冒頭から同31頁1行目末尾までを、以下のとおり改める。
「イ 1審被告法人においては、平成11年8月26日に開催された評議員会(出席者は、1審被告C及び同Dを含む評議員10名と監事1名。)において、本件保育園の増築計画等の議題について協議が行われた。協議の中で、1審被告Cは、本件保育園の増築計画の設計に応募したのは、補助参加人設計事務所、K設計、L設計の3社であったことを説明した上、3社の設計案や設計見積金額、及び3社の実績等について説明した。なお、補助参加人設計事務所及びL設計の設計案は、増築される園舎の屋上に駐車場を設置するという内容であり、K設計の設計案は、駐車場は園庭内に設置する内容であった。
1審被告Cの上記説明の後、審議が行われ、評議員らからの質問に対し1審被告Cが回答ないし説明を行った。審議の中で、監事のNから1審被告Cの勧める会社があるのかとの質問があり、これに対し、1審被告Cは、「これら3社については、どこにお願いしても極端な不都合というのはないと考え依頼してきました。しかし、このように比較してみると、K設計かQ設計(補助参加人設計事務所)かと感じます。どちらでもいいような雰囲気なんですが。」と説明する場面もあった。また、審議の終わりころに、評議員のOが今まで付き合いがあった補助参加人設計事務所が安心感があっていいと思う旨の発言をする場面もあった。審議の後、採決が行われ、補助参加人設計事務所に依頼することになった。そして、補助参加人設計事務所との設計監理契約の時期及び金額を理事長である1審被告Cに一任すること、その結果を次回の評議員会に報告するということで出席者全員が承認した。
上記評議員会の後に開催された1審被告法人の理事会(出席者は、1審被告C及び同Dを含む理事6名と監事1名。)において、保育園園舎増築計画等の議題について審議が行われ、補助参加人設計事務所と設計監理委託契約を締結する旨の議題については、理事全員の異議がなく承認された。そして、上記委託契約の締結時期及び契約金額については、理事長である1審被告Cに一任すること、その結果を次回の理事会に報告するということも承認された。
本件保育園の増築工事を請け負ったI工務店は、平成11年12月ころから、約6か月間をかけて、従前の園舎の南側に本件南側園舎(その西側部分が2階建てであり、その東側部分が1階建てで、その1階建ての部分の屋上に駐車場(本件駐車場)が設置されるという構造になっている。)を新築した。本件南側園舎の屋上を本件駐車場とするという構造は、補助参加人設計事務所の上記設計案と同じであった。
なお、1審原告らは、本件南側園舎の屋上を本件駐車場とすることは1審被告Cの発案であった旨主張し、補助参加人F作成の陳述書(丁1)及び同人の当審供述には、同主張に沿う部分がある。しかし、上記認定のとおり、本件保育園の園舎増築設計案を提出した3社の設計案は屋上に駐車場を設置するという内容で統一されていない上、1審被告Cが屋上に駐車場を設置しない内容となっているK設計の設計案も支持していたこと、補助参加人設計事務所の設計案が採用されたのは、評議員会及び理事会の採決の結果であり、1審被告Cのみの判断によるものではないことを考慮すると、1審被告Cが最初から本件南側園舎の屋上を本件駐車場とするという意図をもって設計事務所にその案に従った設計案を出すようにと指示したということは疑問があり、他に同指示を裏付けるような打合せ記録が提出されていないことを考慮すると、補助参加人Fの上記陳述書及び供述部分は採用できない(同様の理由により、甲77号証、80号証のうち、上記認定に反する部分も採用しない。)。また、1審被告Cの原審供述中には、同被告が本件南側園舎の屋上を本件駐車場とすることを提案した旨の部分があるが、設計士と相談していく中で出てきた案ですとも述べている部分もあり、設計事務所選定に至る上記認定の経緯も考慮すると、1審被告Cの上記供述部分をもって、本件南側園舎の屋上を本件駐車場とすることは同被告の発案であったと認めることはできないというべきである。そして、他に1審原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
一方、1審被告法人らは、補助参加人Fから、本件駐車場の駐車車両について、<1>コンクリート段差の車止めで止まること、<2>仮に車止めを乗り越えても、本件駐車場柵の基礎であるコンクリート部分に車両のバンパーが当たって車両を止めることができること、<3>さらにそれを乗り越えた場合でも、車両の腹部が本件駐車場柵の基礎となっているコンクリートに擦った状態で、本件南側園舎の庇で止まることができる三段階の安全対策になっているとの説明を受けた旨主張し、1審被告C作成の陳述書(乙23)及び原審における供述中には、同主張に沿う部分がある。しかし、補助参加人Fは当審においてこれを否定する供述をしていること、補助参加人Fが上記説明をしたことを裏付ける打合せ記録が提出されていないことを考慮すると、1審被告Cの上記陳述書及び原審供述は採用できない。そして、他に1審被告法人らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。」
ウ 原判決31頁5行目の「そして」から同頁12行目末尾までを削除する。
エ 原判決32頁4行目、6行目、7行目、10行目及び24行目にそれぞれ「南側」とあるのをいずれも「北側」と改める。
オ 原判決35頁11行目と12行目の間に以下のとおり付加する。「1審被告Dは、本件駐車場2月事故を目撃していなかったが、事後に知った。1審被告Dは、P保育士から事故を起こした保護者にも、園児にも怪我がなく大丈夫だったと報告を受けたので、職員室から本件駐車場柵の部分を見たものの、あえて本件駐車場まで見に行くことはしなかった。」
カ 原判決36頁10行目の「増したということはかった」を「増したということはなかった」と改める。
キ 原判決36頁13行目の「被告C」から同頁14行目末尾までを、以下のとおり改める。
「1審被告Cは、修繕をするということと修繕費用は上記保険から支払われるという報告を受けた以外はかかわっていなかったが、保険で直すということから事故前の状態に戻す内容の工事であると認識していた。
1審被告Dは、補修工事については特に相談も報告も受けてなかった。」
ク 原判決37頁9行目の「申し入れられた」の次に以下のとおり付加する。
「(なお、1審被告Eは、左耳は完全に聞こえず、右耳もやや遠くなり、右目は全く見えず、右足も不自由であった。)」
ケ 原判決37頁16行目の「交付された」の次に以下のとおり付加する。
「(なお、1審被告Dや本件保育園の保育士らは、1審被告Eが高齢であり足も悪いということは聞いていたものの、障害の程度等については、免許証があるのでそこまで確認する必要はなく、高齢であるから安全運転をしてもらえると考えて本件駐車場の駐車許可証を出した。)」
コ 原判決39頁1行目冒頭から同頁4行目末尾までを、以下のとおり改める。
「1審被告Eが上記のような運転をした理由ないし原因は、同被告が事故当時の記憶がない(原審における1審被告E)ため明確ではないが、同被告による最初の衝突事故は、E車の速度調節を誤ったかブレーキとアクセルを誤操作したことによるものと推認するのが相当である。また、1審被告Eが一旦後退した後に再度前進して2回目の衝突事故を起こしたのは、1審被告Eが最初の衝突事故を起こしたことにより狼狽してパニック状態に陥っていたため、慌ててE車を急発進させたことによるものと推認するのが相当である。なお、1審被告Eがいつサイドブレーキをかけたかは不明である。」
サ 原判決39頁6行目(2つ)、7行目、17行目及び同40頁6行目にそれぞれ「南側」とあるのをいずれも「北側」と改める。
シ 原判決42頁5行目末尾に以下のとおり付加する。
「1審被告法人は、同通達が適用されると認識する者にとっては意味があるが、適用されていないと認識する者にとっては意味がないから、同通達どおりの強度の装置を設置する義務の根拠とならない旨主張する。しかし、本件駐車場は自動車の転落事故を想定し、これを有効に防止できるような構造設備が設けられているべきものであることは上記認定のとおりであり、転落を有効に防止できるための構造設備としては、その当時、本件駐車場には上記通達の適用がなかったとしても、通達の趣旨や対象を考慮すると、本件駐車場においても同通達と同程度の構造設備を備えることが、「通常有すべき安全性」の要件である。
したがって、1審被告法人の上記主張は理由がない。」
ス 原判決42頁24行目の「運転ミス」から同頁26行目の「通常考えられないというものではない。」までを、以下のとおり改める。
「運転ミス等により慌てたりパニック状態となったため、誤操作を繰り返すということも必ずしも稀なことではない(1審被告法人は、本件事故の異常性(特に1審被告Eの2回目の衝突事故)をるる主張するが、パニック状態となったことにより誤操作を繰り返すということが通常考えられないとはいえない。)。」
3 1審被告Cの責任について
(1) 不法行為責任(民法709条)について
ア 1審原告らは、1審被告Cは、1審被告法人の理事長として、1審被告法人が経営する本件保育園の業務について委任ないし準委任されており、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払って児童福祉施設である保育園の構造設備を設ける義務を負っていたところ、多くの園児たちが利用する園庭に面した園舎の上部に屋上を利用した駐車場を設けるのはそもそも許されないのに、1審被告Cは、このような園児たちにとって極めて危険な場所に駐車場を設置することを発案し、理事会に提案してその承認を受け、1審被告法人の理事長として設計事務所等に依頼した注意義務違反がある旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のイ認定のとおり、1審被告Cが本件南側園舎の屋上に本件駐車場を設置するという発案をしたとは認められないから、1審原告らの主張はその前提を欠くというべきである。
もっとも、1審原告らの主張は、園庭に面した園舎の屋上を利用した駐車場を設置することは許されないから、1審被告Cには、そのような設計案を理事会に提出しない、もしくは危険性があるから採用すべきでないと理事会に進言すべきところ、そのような行動をとらずに理事会の承認を受けたことも注意義務違反に該当する旨の主張とも解される。しかし、園庭に面した園舎の上部に屋上を利用した駐車場を設置することを禁じた法令はなく、社会通念上そのような構造設備の保育園を設置することが許されないとまではいえない。上記構造設備の保育園を設置することはそもそも許されないというのは、1審原告らの独自の見解であり、採用できない。
したがって、1審原告らの上記主張は理由がない。
イ 1審原告らは、1審被告Cは、園庭に面した園舎の屋上という極めて危険をはらんだ場所に駐車場を造ることを自ら発案し、現実にその業務を担当したのであるから、業者に対し、絶対に本件駐車場から車が転落して園児に危険が及ぶことがないような設計、施工をするように指示して、転落事故発生を防止すべき注意義務があったのに、これを怠った旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のイ認定のとおり、1審被告Cが本件南側園舎の屋上に本件駐車場を設置するという発案をしたとは認められないから、1審原告らの主張はその前提を欠くというべきである。
したがって、1審原告らの上記主張は理由がない。
ウ 1審原告らは、1審被告Cは、屋上に駐車場を設置する以上、園児たちに対する危害防止に十分な考慮を払った構造にし、最低限でも通常考え得る程度の誤動作により、自動車が本件駐車場の外壁等を突き破り、転落することのないような設計、施工をするように業者に指示し、その設計、施工が適切に行われているか確認すべき義務があったのに、これを怠った旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のア認定事実によれば、1審被告Cは、1審被告法人の代表者理事として、1審被告法人が経営する本件保育園の業務について委任ないし準委任されていたことが認められる。そして、弁論の全趣旨によれば、児童福祉法24条1項及び名古屋市保育所入所に関する規則6条1項に基づき、名古屋市a区社会福祉事務所長がMの保育園入所を承諾し、入所保育所を本件保育園と指定したことから、1審原告らは、本件保育園でMの保育を受けることになったと認められる。
このような事実関係においては、1審被告法人の代表者理事である1審被告Cについて、抽象的には園児に対する安全配慮義務があるといえるものの、具体的な安全配慮義務の有無は、事案に応じて検討されるべきものである。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のイ認定のとおり、1審被告法人は、評議員会及び理事会において、設計の専門業者であり、以前にも設計を依頼し信頼のあった補助参加人設計事務所と設計監理契約を締結することを承認したものである。したがって、設計の専門家ではない1審被告法人の代表者理事である1審被告Cとしては、このような場合、建物の安全性等について積極的に確認すべき注意義務まではなく、設計図により、あるいは施工後に安全性に疑問ないし不安があると一般人でも容易に気付く部分ないし箇所があった場合には、補助参加人設計事務所もしくは施工業者にその安全性について確認すべき注意義務があるにとどまるというべきである。
本件においては、本件南側園舎の屋上に駐車場を設置するという設計であったから、本件駐車場から自動車が転落することを防止する構造設備が設けられていることが必要であったところ、本件駐車場の設計図には、車止めや駐車場柵の基礎となるコンクリート擁壁と本件駐車場柵の記載があったこと、また、施工後の状況も上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のウ認定のとおり、高さ15センチメートルの車止め部分と、厚さ22センチメートル、高さ25センチメートルのコンクリート擁壁及びその上に直径4.27センチメートルの支柱等からなる高さ約95センチメートルの本件駐車場柵が設置されていた。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(4)のとおり、本件駐車場は、通常有すべき安全性を欠いていた状態にあったと認められるが、一般人が本件駐車場の設計図や上記施工後の状況を見て、本件駐車場が通常有すべき安全性を欠いていると認識することは容易であったとは認め難く、1審被告Cにおいてこれを認識することができたと認めるに足りる証拠はない。
1審被告Cが、補助参加人設計事務所に対し、本件駐車場の安全性(自動車転落防止の有効性)について万全を期すように要望したとかこれを確認したことは本件記録上窺えないが(なお、1審被告Cの原審供述中には、手摺りは安全な形でやって欲しい旨伝えたとの部分があるが、補助参加人Fから駐車場の安全性について説明を受けたという同被告の原審供述が採用できないこと、1審被告Cの供述を裏付ける打合せ記録等が証拠として提出されていないことを考慮すると、1審被告Cの上記供述は採用できない。)、上記認定のとおり、一般人が本件駐車場の設計図や上記施工後の状況を見て、本件駐車場が通常有すべき安全性を欠いていると認識することは容易であったとはいえないから、1審被告Cが、補助参加人設計事務所に対し、本件駐車場の安全性について確認しなかったことが注意義務違反に該当するとは認められない。
また、補助参加人設計事務所は設計の専門家であり、これまでにも設計を依頼した実績を有していたことを考慮すると、1審被告法人ないし1審被告Cにおいては、補助参加人設計事務所において通常有すべき安全性を備えた構造設備の建物の設計図を作成することを期待していたことは容易に推測できるから、1審被告Cが、補助参加人設計事務所に対し、本件駐車場の安全性(自動車転落防止の有効性)について万全を期すように要望しなかったことが注意義務違反に該当するとはいえない。
したがって、1審原告らの主張は理由がない。
エ 1審原告らは、1審被告Cは、自動車が駐車場の外壁等を突き破って転落することのないような設計、施工をするよう業者に指示し、その設計、施工が適切に行われているか否かを確認すべき注意義務があったにもかかわらず、本件駐車場の凸型の車止めを段差の構造に変更することを指示し、その結果、車両が車止めに乗り上げた場合、ステップ台的な役割を果たすことになり、また車止めの変更により、本件駐車場柵のコンクリート擁壁の高さが約25センチメートルと低くなったため、車両転落事故が起こる可能性をより増大させた旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のイ、ウ認定のとおり、1審被告Cが、本件駐車場の車止めを当初の凸型から段差をつける方法に変更するよう指示したことが認められる(1審原告らは、その結果、コンクリート擁壁の高さも約25センチメートルと低くなった旨主張するが、当審証人補助参加人Fの供述によれば、段差をつけた分だけコンクリート擁壁の高さも上げたため、高さについて変更はなかったことが認められるから、1審原告らの主張は理由がない。)。
しかし、上記車止めの形状変更により本件駐車場から車両が転落する危険性が明らかに増大したと直ちにいうことはできないし、1審被告Cが補助参加人設計事務所からその旨の注意を受けたという事実も窺えないことを考慮すると、1審被告Cが車止めの形状変更を指示したことが注意義務違反に該当するとはいえない。
したがって、1審原告らの主張は理由がない。
オ 1審原告らは、1審被告Cは、本件駐車場2月事故発生後に事故発生情況、駐車場柵等の破損状況等を確認すべきであったのに、補修工事を平成14年2月に事故の運転者の加入していた保険会社に任せ、補修工事にあたったI工務店と補修方法につき話合いもせず、従前よりも強い強度にしてほしいという指示もしなかったことは、注意義務違反に該当する旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のア、オ認定のとおり、本件駐車場2月事故の事故車両は日産リバティで、運転者がブレーキとアクセルを踏み間違えたことにより発生したものであること、本件駐車場2月事故により、本件駐車場柵の北東角から西に向かって2本目の支柱が北側にくの字に曲がり、その根本が砕けて本件駐車場の基礎から本件園庭側に外れ、さらにその西隣の支柱も変形してその根本部分が本件駐車場の基礎と共に損傷しており、これらの支柱間の下継が切れて本件園庭側に外れ、立子も全て本件園庭側にくの字に曲がったこと、補修工事の内容は本件駐車場2月事故発生前の状態に復元するというものであったこと、1審被告Cは、1審被告法人の代表者理事であり、本件保育園の修繕等については専決で処理できる権限を有していたところ、本件駐車場2月事故の報告は受けたが、同事故の現場を直接見に行くことはせず、本件駐車場柵の損傷状況等について写真による確認もせず、補修についても補修をするという報告を受けた以外はかかわっていなかったことが認められる。
本件駐車場2月事故による本件駐車場柵の損傷は、柵が変形するに留まらず、支柱の根本部分が基礎から外れ、支柱間の下継も切れるというものであったから、一般人が見れば、本件駐車場柵は、自動車の衝突・転落事故に対し高度の安全性(強度)を備えていないのではないかと、不安ないし疑問を十分抱かせるものであったと認められる。そして、本件駐車場の駐車車両は、軽自動車に限らず、また、E車のように日産リバティよりも大型の車両が転回場所として利用していたのであるから、衝突車両や衝突の態様によっては、本件駐車場柵に対し、本件駐車場2月事故以上の衝撃が加わる衝突事故が発生することも十分予想可能であったと認められる。したがって、一般人あれば、本件駐車場柵に本件駐車場2月事故発生以前の状態に復元するだけでは、自動車の衝突・転落という事故が発生することを十分防ぐことはできず、何らかの対策を講じる必要があることは十分認識できたと認められる。
1審被告Cが、本件駐車場2月事故の現場を直接あるいは写真で確認しなかったのは、上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のオ認定のとおり、主として事故を起こした保護者にも、園児にも怪我がなく、本件駐車場柵は安全に車を止めることができたという報告を受けたためであると認められる。
しかし、上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(4)のとおり、本件駐車場の構造については高度の安全性が要求されるところ、実際に車両が本件駐車場柵に衝突するという事故が発生したのであるから、1審被告法人の代表者理事である1審被告Cとしては、本件駐車場2月事故がどのような態様(原因)で発生したのかということや、本件駐車場2月事故により本件駐車場柵の損傷の程度等を確認の上、本件駐車場の構造が高度の安全性を満たしたものであるか否かを検討し、責任を持った判断ができないのであれば、補助参加人設計事務所等に対しそのための調査ないし確認を求めるべき注意義務があったというべきである。ところが、1審被告Cは、本件駐車場2月事故の報告は受けたが、同事故の現場を直接見に行くことはせず、本件駐車場柵の損傷状況等について写真による確認もせず、補修についても補修をするという報告を受けたもののその内容について確認しなかったのであるから、1審被告Cには上記注意義務違反があったというべきである。なお、1審被告Cは、本件駐車場柵は安全に車を止めることができたという報告を受けたものの、どのような態様の事故であったとか、本件駐車場柵の損傷の程度について確認しなかったのであるから、上記報告内容は、1審被告Cの上記注意義務を否定する理由とはならない。
以上のとおり、1審被告Cには、注意義務違反が認められ、1審被告Cが上記注意義務を尽くしていれば、本件駐車場柵の強化等本件事故の発生を防止するために必要な措置を取ることが可能であったと認められる。
したがって、1審被告Cには、本件事故につき、民法709条の不法行為責任がある。
(2) 以上によれば、1審原告らのその余の主張(民法715条2項の責任、債務不履行責任)について判断するまでもなく、1審被告Cは、民法709条の不法行為責任に基づき、本件事故による損害賠償責任を負うものと認められる。
4 1審被告Dの責任について
(1) 不法行為責任(民法709条)について
ア 1審原告らは、本件保育園の園長であり専任の管理者であった1審被告Dは、園庭に面した園舎の上部に屋上を利用した駐車場を設けるという計画に反対すべき注意義務があったにもかかわらず、1審被告Cから上記計画の説明を受けた際にこれに反対せず、1審被告法人の理事会でも同案に賛成した旨主張する。
しかし、園庭に面した園舎の上部に屋上を利用した駐車場を設けるということが許されないという1審原告らの主張が採用できないことは上記3の(1)のアとおりである。
したがって、1審原告らの上記主張は理由がない。
イ 1審原告らは、1審被告Dが軽自動車専用で利用者も職員に限られていた本件駐車場を職員以外も利用できるように変更したことは注意義務違反に該当する旨主張する。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のア認定事実によれば、1審被告Dは、1審被告法人経営にかかる本件保育園の園長であり、1審被告法人が経営する本件保育園の施設管理、人的管理等について委任ないし準委任されていたことが認められる。同事実に1審被告法人とMとの間の上記3の(1)のウ認定の事実関係を考慮すると、本件保育園の園長である1審被告Dについて、抽象的には園児に対する安全配慮義務があるといえるものの、具体的な安全配慮義務の有無は、事案に応じて検討されるべきものである。
上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のイ認定のとおり、1審被告法人は、本件保育園園児の保護者も使用できるようにしたこと、保護者に関しては、駐車可能な自動車を軽自動車や1300CC程度の自動車に限定したことが認められ、また、証拠(乙11)によれば、本件保育園の保護者のうち半数近い人数の者が本件駐車場を利用していたことが推認できる。しかし、原審における1審被告Dの供述によれば、1審Dは本件駐車場が安全である(車両転落防止のための十分な対策がとられている)と考えていたことが認められ、上記3の(1)のウ認定のとおり、一般人が本件駐車場の状況を見て、本件駐車場が通常有すべき安全性を欠いていると認識することは容易であったとは認め難いことを考慮すると、上記利用方法変更の判断をしたことに誤りがあったということはできない。
したがって、1審原告らの主張は理由がない。
ウ 1審原告らは、本件駐車場2月事故発生により、1審被告Dは、運転者の運転ミスで本件駐車場から車が転落する危険性があることを予見し、その結果を回避するために、<1>本件駐車場の使用を直ちに中止する、<2>本件駐車場柵の強度を十分にする等、自動車の転落を有効に防止できるような装置等を設置するよう1審被告Cに報告する、<3>園庭のうち、園舎の屋上から車が落下した場合に、園児たちに危険が及ぶ範囲内には、園児たちが立ち入れないようにする、<4>保育士たちに対し、少なくとも父母の送迎時間帯には、上記危険が及ぶ範囲内に園児たちを近づけないように指導する等の注意義務があったのに、これを怠った旨主張する。
上記3の(1)のオ認定のとおり、本件駐車場2月事故による本件駐車場柵の損傷状態は、一般人が見れば、本件駐車場柵は、自動車の衝突・転落事故に対し十分な安全性(強度)を備えていないのではないかと、不安ないし疑問を十分抱かせるものであり、本件駐車場柵を本件駐車場2月事故発生以前の状態に復元するだけでは、自動車の衝突・転落という事故が発生することを十分防ぐことはできず、何らかの対策を講じる必要があることは十分認識できるものであったと認められる。
そして、本件駐車場の構造については高度の安全性が要求されるところ、実際に車両が本件駐車場柵に衝突するという事故が発生したのであるから、本件保育園の園長として本件保育園の施設管理、人的管理等について委任ないし準委任されていた1審被告Dとしては、本件駐車場2月事故がどのような態様(原因)で発生したのかということや、本件駐車場2月事故による本件駐車場柵の損傷の程度等を確認の上、本件駐車場の構造が高度の安全性を満たしたものであるか否かを検討し、安全性を確認できない場合には、1審被告Cに対し、補助参加人設計事務所等に安全性に関する調査を求めるよう勧告するとともに、安全性が確認されるまで、本件駐車場の利用を中止する等所要の措置をとるべき注意義務があったというべきである。
しかし、上記(引用にかかる原判決、付加訂正後のもの)2の(3)のオ、カ認定のとおり、1審被告Dは、本件駐車場2月事故の後、本件駐車場の使用を中止したことはなく、保育士らに対し、本件駐車場のすぐ下にある本件園庭に園児らを近づけないようにという指示ないし指導をしたこともなかったことが認められる。また、1審被告Dが、本件駐車場2月事故の後、1審被告Cに対し、本件駐車場の安全対策を強化するように要望したことを窺わせる証拠はない。したがって、1審被告Dには、注意義務違反があったというべきである。
なお、原審における1審被告Dの供述によれば、1審被告Dは、本件駐車場においては車両転落防止のために有効な構造設備が備えられていると思っていたこと、本件駐車場2月事故によっても車両が転落せず、保護者及び園児とも無事だった旨の報告を受けて、安全性に疑問を持たなかったことが認められる。しかし、上記認定のとおり、本件駐車場2月事故発生の報告を受けた1審被告Dは、事故の態様や本件駐車場柵の損傷の程度について確認すべき注意義務があったにもかかわらず、上記報告を受けただけで、上記の確認をしなかったのであるから、1審被告Dには注意義務違反があるというべきである。
以上のとおり、1審被告Dには、注意義務違反が認められ、1審被告Dが上記注意義務を尽くしていれば、本件駐車場柵の強化や本件駐車場の使用禁止等本件事故の発生を防止するために必要な所要の措置を講ずることが可能であったと認められる。
したがって、1審被告Dには、本件事故につき、民法709条の不法行為責任がある。
(2) 以上によれば、1審原告らのその余の主張(民法715条2項の責任、債務不履行責任)について判断するまでもなく、1審被告Dは、民法709条の不法行為責任に基づき、本件事故による損害賠償責任を負うものと認められる。
5 損害について
(1) 当裁判所は、1審原告らは、1審被告らに対し、各1799万3550円及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができると判断するが、その理由は以下のとおり原判決を付加訂正するほか、原判決の「第3当裁判所の判断」欄の5のとおりであるから、これを引用する。
(2) 原判決の付加訂正
ア 原判決51頁8行目から同頁16行目末尾までを、以下のとおり改める。
「しかし、民法404条において民事法定利率が年5分と定められた理由(欧州諸国の一般的な貸付利率や我が国の一般的な貸付金利を踏まえ、通常の利用方法によれば年5分の利息を生ずべきものと考えられた。)、民事執行法等が、将来の請求権を現在価額に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除する考え方を採用していることからすると、損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、民法は民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられること、このように考えると事案ごとに裁判官の判断が区々に分かれることを防ぐことができること等の諸点を考慮すると、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によれなければならないというべきである(最高裁平成17年6月14日第三小法廷判決・判例タイムズ1185号109頁)。1審原告らの主張は採用できない。」
イ 原判決53頁2行目の「その経緯をを」を「その経緯を」と改める。
ウ 原判決55頁5行目の「認められる。」の次を改行し、同行目の「そして」から同頁15行目末尾までを以下のとおり改める。
「本件事故につき、1審被告法人らは、本件事故発生後から一貫して法的責任を負うことを否定して争い、1審被告法人の法的責任を認める原判決が出された後も、当審においてなお法的責任があることを否定して争っているが、1審被告法人らに損害賠償責任が認められることは上記認定のとおりである。このような、1審被告法人らの姿勢は1審原告らの精神的苦痛を生じさせるものであることは明らかである。
なお、本件事故につき、Mの葬儀を保育園葬とすることやMの死亡した場所に花壇を作ること、あるいは延期した保育園の運動会を開催すること等は、1審被告法人が自己の判断ですることができる事柄であるが、上記認定の経緯によれば、1審被告法人らの対応は、1審被告法人らにはMの死亡につき法的責任があるにもかかわらず、それがないという立場を前提とする行動ないし対応であったと指摘されてもやむを得ない部分がある。したがって、1審被告法人らの上記対応は、1審被告法人らが本件事故について責任を認めず、反省もしていない行動の表れとして1審原告らに理解されるものであって、慰謝料の算定に際し考慮するのが相当である。」
エ 原判決55頁24行目冒頭から同頁26行目末尾までを、以下のとおり改める。
「したがって、これらの事情を総合考慮すると、1審被告らに対する1審原告らの本件事故による固有の慰謝料としては、各300万円を認めるのが相当である。
なお、1審被告Eは、1審原告ら固有の慰謝料を認めることはできないし、300万円の慰謝料は高額に過ぎて不当であるとしてるる主張するが、本件事故の態様等上記認定の事情を考慮すると、1審原告ら固有の慰謝料として各300万円を認めるのが相当であり、同被告の上記主張は採用できない。
一方、1審原告らは、各500万円が相当である旨主張するが、上記認定事実及びその他1審原告らが当審において主張する事情を考慮しても、1審原告ら固有の慰謝料は各300万円とするのが相当である。」
オ 原判決56頁8行目冒頭から同頁17行目末尾までを、以下のとおり改める。
「(8) 既払金控除後の1審原告らの金額各1679万3550円
ア 1審原告らが1審被告Eの自賠責保険から各1146万5000円を受け取ったことは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、受領日は平成15年3月10日であったことが認められる。
1審原告らの損害額は、上記のとおり、各合計2882万1571円である。そして、同額に対する不法行為の日である平成14年9月18日から支払日である平成15年3月10日まで174日分の年5分の割合による遅延損害金は、各68万6979円(1円未満切捨)である。
したがって、上記損害保険金額(各1146万5000円)から上記遅延損害金額(各68万6979円)を控除した残金1077万8021円を、1審原告らの上記損害額(各2882万1571円)から差し引くと各1804万3550円となる。
イ また、1審被告Eから1審原告らに対し、250万円が支払われたことは当事者間に争いがないところ、この既払金の性質については上記(引用にかかる原判決)5の(2)のとおりであるから、上記損害保険金額を控除した後の1審原告らの損害額(各1804万3550円)から、各125万円を控除した後の残金1679万3550円が1審原告らの各残損害額となる。
(9) 弁護士費用各120万円
上記認容額及び本件事案の内容及び本件審理の経緯に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、1審原告ら各120万円と認めるのが相当である。
(10) まとめ
上記(8)の1審原告らの各残損害額(各1679万3550円)に上記(9)の弁護士費用(各120万円)を加算した各合計1799万3550円が1審原告らの損害額であり、1審原告らは、1審被告らに対し、同額及びこれに対する平成15年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。」
6 結論
よって、以上と結論を異にする原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 田邊浩典 裁判官 手嶋あさみ)