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名古屋高等裁判所 平成17年(ラ)124号 決定 2005年5月24日

東京都目黒区三田1丁目6番21号

抗告人(原審相手方)

GEコンシューマー・ファイナンス株式会社

同代表者代表取締役

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同代理人弁護士

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名古屋市●●●

相手方(原審申立人)

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同代理人弁護士

金岡繁裕

主文

本件抗告を棄却する。

理由

1  抗告の趣旨及び理由

別紙「文書提出命令に対する即時抗告申立書」記載のとおり

2  当裁判所の判断

(1)  当裁判所も,相手方の本件文書提出命令申立ては,原決定別紙文書目録記載2の文書(本件文書)の提出命令を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は,次項で原決定の訂正をし,(3)で抗告理由に対する判断を加えるほかは,原決定「事実及び理由」の2,3のとおりであるから,これを引用する。

(2)  原決定の訂正

原決定3頁1行目から15行目までを次のように改める。

「 そして,金融業者は,一般に,顧客に対する債権を管理し,法的手続を利用して権利行使を行うことも少なくなく,他方,顧客からは,過払金返還請求訴訟等を提起され,これに対し,みなし弁済等の主張をすることも珍しくない上,顧客データの情報管理は,電算機処理等により比較的容易であることが推認できることなどからすると,貸付けや弁済の事実を記録化して業務を行っているのが通常であり,借入れと返済とが反復する取引継続中の顧客はもちろん,取引が終了して間もない顧客の取引履歴等の消除が安易になされることは通常考えにくいことである。したがって,それら(取引履歴等)が存在しないことについて,その合理性を肯認し得る特段の事情のない限り,それを所持しているものと推認するのが相当である。

そこで,本件文書について,上記特段の事情の有無について判断する。

ア  抗告人は,平成17年2月15日付け「文書提出命令申立てに対する意見書」において,平成15年1月1日から10年を経過した取引履歴を自動的に消除するシステムを採用し,同年10月ころに同システムを一時停止するまで取引履歴を消除したので,平成5年9月以前の取引履歴を所持していないと主張し,平成17年3月18日付け「文書提出命令申立てに対する意見書2」では,同システムの運用について,次のように主張する。即ち,取引履歴に関する情報は,①ULF(顧客が抗告人とオンラインで取引を行った際のログ情報のうち,入出金の取引データなどの更新系のデータ),②残高マスター(毎月末に作成される当月10日,20日及び末日時点での顧客の残高状態を示すもの),③履歴マスター(1年単位で管理される顧客の取引履歴情報)の3種類があり,いずれについてもカセットテープを作成して抗告人のデータセンター(以下「LIセンター」という。)に保管し,さらに,ULF及び残高マスターについては,災害時のバックアップのため,上記とは別に各1本のカセットテープを作成して管理委託先の倉庫業者に引き渡して保管していた。これを平成15年1月1日の時点で平成4年12月31日までの取引履歴をまとめて消除し,それ以降は平成15年10月まで,1か月を経過する毎に10年前の該当月の取引履歴を消除した(明確ではないが,毎月末日に10年前の該当月の取引履歴を消除するとの趣旨であると思われる。)。消除方法は,LIセンターで保管しているもの(上記3種)については,機械(イレイザー)により磁気情報を消除して物理的に粉砕するか,又は上書きする方法により,倉庫業者が保管しているもの(ULF及び残高マスター)については,物理的に粉砕する方法により行った。また,上記カセットテープのほかにも,LIセンター内の「VSM」(大容量ハードディスク)に上記3種の情報を保存していたが,ULF及び残高マスターについては,元来,プログラムを13か月経過と同時に順次自動的に消除するようにしていたので,上記消除システム採用の問題は生じなかったのに対し,履歴マスターについては,上記カセットテープの処理と同時に上書きする方法により消除した。

イ  以上の抗告人の主張によれば,抗告人が平成15年1月1日から採用したシステムは,電算機のプログラムによる自動的な消除ではなく,むしろ,粉砕や上書きといったいわば「手動」で消除するものであり(自動的に消除するのは,LIセンター内の「VSM」に保存したULF及び残高マスターのみであり,これらは,従前から13か月を経過すると同時に自動的にデータを消除するものであり,上記同日から採用したシステムではない。),「自動消除システム」というにはほど遠いものということができる。ところが,抗告人は,前記平成17年2月15日付けの意見書において,「自動消除システム」を採用していたと主張するのみならず,一件記録によれば,他の裁判所(大阪地方裁判所)での不当利得返還訴訟において,平成15年1月1日から採用された取引履歴の消除は,毎月月初めの第2営業日にコンピュータのプログラムで自動的に処理されている旨具体的な主張をしており,上記とは明らかに異なった内容の説明をしている(なお,その後,同裁判所に提出された抗告人の情報システム部社員作成の陳述書には,自動的な消除システムの説明はなく,むしろ,本件におけるシステムの運用に関する抗告人の上記主張におおむね沿う説明が記載され,履歴マスターについては,平成15年4月2日より10年を超えたものを自動消除しているとして,上記主張と異なる説明も記載されている。)。また,抗告人が,カセットテープを保管させていた倉庫業者の所在や名称等の詳細は,その主張によっても明らかでなく,その存在を裏付ける疎明もない〔なお,磁気情報を消除する機械(イレイザー)の存在についても同様である。〕。さらに,抗告人は,自動消除システムを導入した根拠であるとする社内規定や同システムの導入についての取締役会議事録又は禀議書等の提出をしないことや,平成15年1月1日当時,既に消費者金融の借主が,金融業者各社に対し過払金返還請求訴訟を提起する状況が全国的に見られた時期であり,取引履歴等の顧客データは,上記訴訟等において,金融業者がみなし弁済等の主張をする上でも必要なものであることなどをも併せて総合すると,抗告人が,上記同日から,その主張する消除システムを採用したとすることには疑問を抱かざるを得ない。

以上によれば,本件においては,本件文書が存在しないことについて,その合理性を肯認し得る特段の事情は認められないというべきである。

そうすると,抗告人は,現在においても本件文書を所持していると推認するのが相当である。」

(3)  抗告理由に対する判断

抗告人は,抗告人の取締役会議事録等は,それが存在するとしても,その内容には,抗告人の経営に関する重要な機密等も含まれており,証拠として提出することには慎重にならざるを得ないし,取引履歴の消除に携わったのは,抗告人の限られた職員のみであり,社内規定等を作成する必要もなかったのであるから,これらを提出しないからといって,抗告人が取引履歴消除システムを採用していないとはいえないと主張する。

しかしながら,仮に社内規定等が存在しないとしても,上記システムを採用するに際し,これに関する資料が何もなかったとは到底考えられない上,上記議事録等の内容に経営に関する重要な機密等が含まれる場合には,その提出方法を工夫する余地もあり得るのであって,これらの提出が全くないことは,上記システムの採用を疑わせる一事情となることは否定できない。

したがって,抗告人の上記主張は採用できない。

3  よって,本件文書に係る文書提出命令の申立ては理由があり,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。

平成17年5月24日

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 佐藤真弘 裁判官 山崎秀尚)

<以下省略>

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