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名古屋高等裁判所 平成17年(行コ)2号 判決 2006年2月24日

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成7年5月31日付け規制対象事業場認定通知書によって控訴人に対してした控訴人の産業廃棄物中間処理施設に対する規制対象事業場認定処分を取り消す。

3  訴訟の総費用は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事実関係

1  本件は,控訴人が三重県北牟婁郡a町(事件当時の同郡b町。以下「町」という。)において産業廃棄物中間処理施設(以下「本件施設」という。)の建設を計画したところ,被控訴人(旧b町長)が,本件施設を町水道水源保護条例(平成6年b町条例第6号。以下「本件条例」という。)2条5号所定の規制対象事業場と認定する旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたため,控訴人が被控訴人に対し,本件処分の取消しを求めるものであり,第1審及び差戻し前第2審は,本件施設の計画地において地下水の取水がされるときは,水道水源の水位を著しく低下させるおそれがあるなどとして,本件処分は適法であると判断し,控訴人の請求を棄却すべきものとしたので,控訴人が上告し,上告審が,被控訴人としては,控訴人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める事前協議手続において,控訴人の立場を踏まえて,控訴人と十分な協議を尽くし,控訴人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,控訴人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務(以下「本件配慮義務」という。)があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるとし,更にこの点の審理を尽くさせるため,差戻し前第2審の判決を破棄し,当裁判所に差し戻した(以下「上告審判決」という。)事案である。

2  前提事実(証拠の引用がないものは,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により認められる。)

(1)  本件条例は,水道法2条1項の規定に基づき,町の住民が安心して飲める水を確保するため,町の水道水質の汚濁を防止し,その水源を保護し,住民の生命,健康を守ることを目的とするものであり(1条),町長は,水源の水質を保全するため水源保護地域を指定することができるとするとともに(11条1項),産業廃棄物処理業その他の水質を汚濁させ,又は水源の枯渇をもたらすおそれのある事業を対象事業とし(2条4号及び別表),対象事業を行う工場その他の事業場のうち,水道にかかわる水質を汚濁させ,若しくは水源の枯渇をもたらし,又はそれらのおそれのある工場その他の事業場を規制対象事業場と認定することができる旨規定し(2条5号,13条3項),水源保護地域に指定された区域における規制対象事業場の設置を禁止し(12条),これに違反した場合には,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処することとしている(20条)。そして,本件条例によれば,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者は,あらかじめ町長に協議を求めるとともに,関係地域の住民に対する説明会の開催等の措置を採ることを義務付けられており,町長は,事業者から事前協議の申出があったときは,町水道水源保護審議会(以下「審議会」という)の意。見を聴き,規制対象事業場と認定するかどうか判断することとされている(13条)。審議会は,町の水道に係る水源の保護に関する重要な事項について,調査,審議する機関であり(5条),町議会の議員,学識経験者,関係行政機関の職員等のうちから町長が委嘱し,又は任命する委員10人以内をもって組織することとされている(6条)。

(2)  控訴人は,産業廃棄物の収集,運搬,再生,再生物販売及び処分業その他の事業を目的として平成5年9月28日に設立された有限会社であるところ,町の区域内に本件施設を設置して産業廃棄物処理業(以下「本件事業」という。)を行うことを計画(以下「本件事業計画」という。)した。本件施設の建設予定地(以下「本件敷地」という。)は,c川にほぼ隣接しており,d簡易水道の取水施設(以下「d水源」という。)の上流に位置している(甲12ないし14,乙7)。

(3)  控訴人は,同年10月4日ころ,町に対し,本件施設の設置に関する隣接地主の同意及び焼却残さの最終処分場への受け入れに関する同意について相談し(甲115),同月8日,地元自治会を対象に本件施設に関する説明会を開催した。そこで,町は,同月21日,被控訴人,助役の他,関係部局の担当者が集まって今後の取り組みについて協議した(乙90)。

(4)  控訴人が同年11月5日に本件施設に係る産業廃棄物中間処理事業計画書(乙7。以下「本件事業計画書」という。)を三重県X保健所長に提出したことから,同所長は,同月22日,被控訴人に対し,上記計画書を送付するとともに,産業廃棄物処理指導要綱に基づく事前協議会を開催することを通知し,これに担当者を出席させるよう要請した(乙92)。そして,同月29日,事前協議会に先だって現地調査を実施した上,三重県及び町関係各機関の参加のもとで事前協議会を開催し,町はこれに担当者9名を参加させ,上記計画につき控訴人の説明を聴取した。この中で,控訴人の担当者は,冷却水の必要量について補給水として1時間当たり5ないし6立方メートルが,野菜工場において日量25ないし26立方メートル(合計日量145ないし170立方メートル)が必要であると回答した。(乙92,93)

(5)  町は,同年12月10日,X保健所長に対し,本件事業に関する意見書を提出し,同所長は,これをも踏まえて,控訴人に対し,次の事項を含め15項目について関係機関との協議を指示した(乙90,96)。

① 三重県宅地開発事業の基準に関する条例に該当するので,これによる設計の確認を受けること(関係機関:三重県X土木事務所,町)

② 地域住民と環境保全協定等を締結するよう務めること(関係機関:X保健所,町)

③ 計画地はd水源の上流に位置するため,町水道事業管理者(町長)と水質保全,排水の無放流について協議すること(関係機関:町)

④ 井戸の設置にあたっては,c川流水に影響のないように,県,町及び関係機関と協議すること(関係機関:X土木事務所)

(6)  平成6年1月28日,控訴人は,大判のパンフレットを新聞の折り込みとして住民に配布した。その中には,使用水量1日あたり108立方メートルを井戸を掘って取水する方法で確保する予定である旨記載されていた。(乙17,90)

(7)  同年3月11日,本件条例が議員提案され,同月18日開催の町議会において本件条例が可決され,成立した。本件条例は同月25日に公布され,即日施行された。(乙90)

さらに,被控訴人は,同年8月15日,本件条例11条1項に基づき,本件敷地を含む町の区域の相当部分を町水道水源保護地域と指定し,同日,同条3項に基づき,その旨を公示した(乙5,19)。

(8)  同年5月2日,控訴人の関連会社であるA有限会社において取締役ではないものの常務取締役と呼ばれているB(以下「B常務」という。)が町を訪れて,保健衛生課長に環境保全協定の締結を要望した(乙7,90)。また,控訴人は,町に対し,同年6月8日,三重県宛の三重県宅地開発事業の基準に関する条例に基づく宅地開発事業設計確認申請書を,同年7月1日,三重県宛の建築確認申請書をそれぞれ提出した(乙90)。

(9)  同月4日,控訴人は,X保健所長に対し,上記(5)の指示事項につき調整が終了したとする指示事項協議調整済報告書(乙99)を提出した。このうち,(5)③については,町水道課長と協議し,排水については無放流とし,なお,取水については,敷地内井水(河川境界より9m外)より取水することで,同年1月24日までに了解を得た旨,④については,井戸の設置場所について,同年6月23日X土木事務所管理課長に建築確認申請図面で図示することで承認を得た旨の各記載がある。

(10)  X保健所長は,同年7月11日,被控訴人に対し,上記指示事項協議調整済報告書の内容を確認して回答するよう求め,被控訴人は,同年10月17日,これに回答した。このうち,(5)③については,「d水源の上流に位置するため,水質保全上事前に環境保全協定を結ぶ。町の水道水源保護条例の対象事業場に該当するので協議書の提出について指導している。」とし,未調整であると回答した。(乙100,乙102)

(11)  控訴人は,当初,井戸を掘って取水する計画であったが,X土木事務所からc川から50m以内では井戸を掘って取水しないように求められ,検討した結果,50m以上離しては井戸を掘っても十分な水がでないと判断したことから,同月21日,取水方法を湧水・雨水に変更し,これに基づいて三重県知事の開発許可申請手続を行った(甲12の2枚目,証人B19,20頁)。

なお,同年9月24日,控訴人の依頼を受けたCが,本件敷地において湧水の調査を行った(乙88)。

(12)  被控訴人は,同年11月10日,控訴人に対し,本件条例に基づく対象事業協議書を提出するよう文書で通知した(乙81)が,控訴人は,同月24日,被控訴人に対し,「ご通知の本件条例の当社計画に対する適用は条例の遡及適用と認められます。よって,条例にかかわる書類は一切提出いたしません。」と文書で回答した(乙82)。さらに,同年12月2日,被控訴人は控訴人に対し,本件条例13条1項に基づき対象事業協議書を提出するよう再度文書で通知したが(乙83),控訴人は応じなかった。また,X保健所長は,同年11月9日,控訴人に対し,上記(5)③について再度町と協議調整して報告するよう指示していたが,控訴人は,同年12月12日,上記文書での回答により,町との協議及び調整は終了したと文書で報告した(乙105)。他方,同月10ないし11日,控訴人は同年1月28日に配布したものと同じパンフレットを新聞の折り込みとして住民に配布した(乙17,90)。

(13)  そこで,被控訴人は,控訴人に対し,同年12月19日,本件条例第13条第2項の規定に基づき,対象事業協議書を提出するよう勧告し(乙84),X保健所長も,同月21日,控訴人に対し,「町に確認したところ,本件条例に基づく協議をするよう勧告中であるとの回答を得たので,再度協議及び調整し,終了後は別紙により報告してください。なお,今後とも地区住民に対し積極的に事業計画について説明し,合意形成に努めるとともに,地域関係住民,町及び水道事業管理者(町長)と環境保護協定等を締結するように努めること」との文書を送付した(乙85)。

(14)  控訴人は,同月22日,本件条例施行規則3条所定の対象事業協議書と添付書類(本件事業計画書)を被控訴人に提出した(乙7)。ただし,これには対象事業の実施に伴う使用水量の総量及びその供給源等についての記載がなかった。また,同日,控訴人は,X保健所長に対し,上記協議書を提出した旨の指示事項協議調整済報告書を提出し(乙107の1ないし4),これを受けて,三重県の指導要綱に基づく事前協議は終了した(乙90)。そこで,控訴人は,同月27日,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成9年法律第85号による改正前のもの。以下「廃掃法」という。)15条1項に基づき,三重県知事に対し,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請をして,受理された。さらに,平成7年1月5日には,三重県が控訴人に対し,建築確認通知を発した(甲25,26)。このような状況の中,被控訴人は,同月13日,三重県に対し,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請につき慎重な判断を求めるとともに,控訴人に対し地元住民の了解を得るように指導すること,同事業の遂行能力について慎重に検討することを要請した(乙108)。

(15)  同月4日,被控訴人は,本件条例13条3項に基づいて,審議会に対し,控訴人から提出された対象事業協議書に関して意見を求め,同月17日,審議会が開催された(乙109)。審議会の委員は,D,E(保健衛生課長),F(以下「会長」という。),G,H,I,J(弁護士。以下「J委員」という。),K(三重大学教授。以下「K委員」という。),L(高校理科教諭),M(助役。以下「M助役」という。)であった。また,被控訴人は,同月19日,Nに対し,審議会へ専門家を派遣するよう要請した(乙123)。

(16)  同年2月21日に審議会が開催され,O会からの本件事業計画に反対する意見書について検討し,審議会は技術者から専門的な説明を受けることが必要であると判断した。また,同日午後からd水源所在地と本件敷地及びその周辺地域の視察がなされた。同年3月2日,会長は,控訴人に対し,本件施設の設備機能に関する聴き取りのためにメーカーの技術者を同行した上,同月22日に開催する次回の審議会に出席するよう要請した(乙124の1及び2,112)。

(17)  町議会は,同月17日,議長が三重県知事宛に本件施設の建設に反対する住民の意思と町議会が同建設反対の陳情を採択したことに配慮するよう要望する決議を可決し,同月20日,これを送付した(乙90,111)。また,町ないし被控訴人は,同年4月中3回にわたり,三重県に対し,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請につき慎重な判断を求める旨要望した(乙90)。

(18)  同年3月22日に審議会が開催され,控訴人の当時の代表取締役P(以下「P社長」という。),B常務,本件施設の設計をしたQの技術者R(以下「R」という。)が出席して水の収支計画を含む事業内容の説明を行い,質疑が行われた(ただし,その際のやりとりの内容には争いがある。甲127,乙113)。

(19)  控訴人は,同年5月9日,「審議会への回答及び提出資料」と題する書面(乙8)を提出し,その中には湧水及び雨水の取水により日量95立方メートルの水を消費することとなる旨の資料が含まれていた。

(20)  同知事は,同月10日,控訴人に対し,本件施設に係る産業廃棄物処理施設の設置を許可した(甲2ないし7)。

(21)  同月15日,当時のSb町長(以下「S町長」という。)が町議会議員との懇談会において,審議会の答申如何にかかわらず本件施設の設置に反対すると意見表明した(甲115,116,乙116)。

(22)  審議会は,同月16日,O会の意見を聞いた上,審議し,被控訴人に対し,上記意見表明に遺憾の意を表した上で,本件施設は規制対象事業場と認定することが望ましいと答申すると決議し,その旨答申した。その理由は,「本件条例は町の水道水源を量及び質の両面において保護することを目的としている。しかるに,本件事業計画には疑念があり町の水道水源に影響を及ぼすおそれがあると判断される。」というものであった。(乙90,115ないし117)

(23)  被控訴人は,同月31日,本件施設は本件条例2条4号所定の対象事業を行うもののうち同条5号所定の水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たるとして,本件処分をし,同日付けの規制対象事業場認定通知書によって控訴人にその旨を通知した。ただし,同通知には,水源の枯渇と水質の汚濁のいずれと認定したかの記載はなく,認定した理由として上記審議会の答申の理由を引用したため,両方を理由とするように読みとることができるものであった。(甲8)

(24)  本件処分までの間,被控訴人や審議会において,控訴人に対し,地下水使用量を限定するように促したことはない。また,被控訴人から,控訴人に対し,審議会の指示を伝える以外に,直接協議をしたり,指導をしたりしたことはない。

(25)  前記(1)のとおり,本件条例は水道法2条1項の規定に基づくものであり,本件処分は,本件施設を本件条例2条5号所定の水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たるとしてされたものであって,廃掃法とは異なる観点からの規制をするものであるところから,控訴人は,前記(20)の三重県知事の許可を受けても,本件施設の設置をすることはできないままでいる。

3  第1審における争点は第1審判決の「事実及び理由」欄の第二の二記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,同判決10頁4行目の「平方」を削除する。

4  差戻し前第2審において,控訴人は,新たに,本件条例は,①産業廃棄物処理業者を理由なく差別するものであるから,法の下の平等に反する,②産業廃棄物中間処理施設の設置許可の権限を都道府県知事に専属させている廃掃法に違反する,③水源の枯渇のおそれの判断基準が全く明示されていない点で,施設設置の許可にかかる具体的基準を定めている同法に違反する,④本件施設の設置を阻止する目的で制定されたものであり,これを本件施設に適用することは遡及適用に該当し違法であるとして,無効であると主張した。

5  差戻し後の当審における争点並びに争点に関する控訴人及び被控訴人の主張は,次のとおりである。

(1)  差戻し後の当審における争点

ア 本件配慮義務の存否,その内容及び主体等

イ 本件配慮義務違反の存否

(2)  被控訴人の主張

ア 本件配慮義務の存否,その内容及び主体等について(争点ア)

(ア) 本件配慮義務の存否

以下のとおり,上告審判決が判断の前提とした事実に誤りがあり,被控訴人は,控訴人に対し,当初から特段の配慮義務を負担しいないというべきである。

a 上告審判決は,審議会が事業者から地下水を日量95立方メートル使用するとの回答を得たのに対し,地下水使用量について事業者と協議をしないまま本件処分を行ったとすれば配慮義務に違反する可能性があるとするが,控訴人は日量95立方メートルの水を湧水・雨水から採取する旨説明したものであり,地下水等から採取すると説明した事実はないから,その判断の前提を欠いている。

本件においては,以下に述べる事情があり,これらの事情も考慮すれば,控訴人に対し,地下水使用量の限定を促す等の配慮をする理由はなく,特段の配慮義務は存しなかった。

(a) 湧水とは,地下水が動水勾配に従って地表面に自然流出するものである。したがって,湧水を利用する限りにおいては地下水位の低下に結びつくことはない。

よって,湧水・雨水による取水という計画である以上は,被控訴人にはそもそも水量の限定を求める必要がなく,控訴人としても水量に関する指導・配慮を受ける理由がない。

(b) ところで,湧水・雨水による取水で事業計画に必要な水を確保することは不可能であった。すなわち,湧水とは,地下水が自然に地中から地表,湖沼,海などに流れ出る現象で,一般に地下水面が地表に現れる場所に見られるものである。一方,井戸を掘削して地下水を取水するということは,当該敷地の地表面よりも低い位置にある地下水面からの取水を意味する。本件敷地付近では,帯水層の水面は,c川の河床と同じかやや高い位置にあるが,本件敷地表面よりも低い位置にあるので,この地下水を湧水として取水することは無理であって,また,現地においても崖線の連続あるいは河岸段丘といった地下水が地表に湧出するための地形的特性は見られなかった。したがって,この帯水層の水を取るには,井戸を掘削して取水する以外にはない。

しかるところ,取水可能量を算出するには井戸を掘って地下水を汲み上げるための取水地点と取水方法が明らかにされなければならず,これがなければ地下水の取水の限定を促すことは技術的に困難であるところ,控訴人はこれらを示しておらず,被控訴人が地下水の取水の限定を促すことはできなかった。

また,事業者である控訴人は,被控訴人からの協議,指導の前提として,先に自らの責任と費用で水源保護の目的を達成できる取水地点と取水方法を探してこれを提案すべきであり,被控訴人としては,事業者である控訴人が示した取水地点と取水方法に限定して調査して水源を枯渇させるかどうかを検討すれば十分である。すなわち,水使用量をどこまで減らせるかは本件事業計画の技術的事項や採算性にかかわる事柄であるところ,被控訴人の審査判断及び事前協議の範囲は,審査基準としての水源枯渇のおそれ又は水源汚濁のおそれに尽き,それ以上に他の多数の技術的事項や採算性などには及ばず,行政指導の範囲も同様であるから,控訴人から具体的な工事計画や変更計画が提示されればその基準適合性についての助言・指導はできるとしても,これがない以上,被控訴人において具体的計画を提示して基準に適合させるように促すなどという必要もない。

b 上告審判決のいう取水量の変更を促すなどの指導は,被控訴人に,事前に十分事業計画を検討する機会があったことが前提となる。すなわち,本件施設程度の規模を有する廃棄物処理施設(廃タイヤ焼却施設及び野菜工場)に関しては,まず周辺の地質地層・地下帯水層の分布,生態系等の基礎調査と構造物の設計・強度計算,廃タイヤの燃焼計算,水使用量及び取水方法の検討,採算性の検討,下流域の自然的社会的条件の調査なども含めて,基礎調査の開始から計画策定まで少なくとも2年は要する。それを何ら予備的な知識もない行政庁が短期間に審査するのであるから,事業計画に関して,必要な全ての情報が十二分に提供されなくては,審査自体困難であるし,まして,計画変更の指導などできるはずがない。

しかるに,被控訴人は,本件処分の手続開始前に本件事業計画に関して三重県知事との間で廃掃法の手続が進められていたことは知っていたが,十分本件事業計画を検討するだけの資料を持ち合わせていなかったし,その後の控訴人との折衝においてもついにそのような資料の提供はなされなかったから,事前に十分本件事業計画を検討する機会があったとはいえない。したがって,本件配慮義務は発生しなかった。

c 本件条例は,事前協議という用語は使用しているが,それは事業者が事業計画を提示して,その内容に関して行政庁が審査をするというに尽きるのであって,条例上の制度として事業者と審査庁が直接事業計画の内容を具体的に話し合う場が明確に存在するわけではない。そうすると,本件配慮義務は,制度上明確に存在しないものを行政指導の一環として行うことになる。このような法令に明確な根拠を有しない行政指導に関しては,その行使には慎重な配慮が必要である(行政手続法32条1項等)から,被控訴人が本件事業計画の変更を伴う指導をしなかったからといって,それが違法であるとはいえない。

(イ) 本件配慮義務の内容

a 被控訴人が控訴人に対し何らかの配慮義務を負担するとしても,それは,予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,控訴人の地位を不当に害することのないよう配慮するというものであって,直ちに地下水使用量の制限を促す義務を負うものではなく,実現可能な取水方法を提示しない控訴人に対し適切な指導をすることが困難な事情があれば,地下水使用量の制限を促す義務までは生じない内容のものである。

b また,水量の限定を促すなどの行政指導が実効性を有するためには,控訴人の事業計画がそのままの状態で基本的に実現可能なものであることが前提となる。したがって,実現可能性のない計画に対する配慮の方法としては,まず,対象事業者の権利保護と規制目的達成の必要性とを調和させるという観点から,計画自体の見直しを促す指導をすることもその一つである。そして,事業者がこれに応じない場合には,これ以上の指導をすることができないから,上記配慮義務はその時点で消滅する内容のものというべきである。

(ウ) 本件配慮義務の主体等

本件配慮義務については,審議会において控訴人に対する協議・指導を行えば足り,別途被控訴人において協議等を行う必要はない。その理由は以下のとおりである。

まず,事前協議の申出があった場合において,被控訴人は審議会の意見を聴き,この意見に基づいて規制対象事業場と認定するか否かを決するのが,本件条例が定めている手続構造である。そして,審議会の責務は,水道に係る水源の保護に関する重要な事項について,調査・審議することにある(本件条例第5条1,2項)ところ,事業者が計画した事業場を規制対象事業場と認定するか否かは,極めて専門性の高い問題であるとともに,水道水の確保という住民の生命に直結する重大な問題である一方で,事業者に不利益を被らせることになる事柄であるため,その構成メンバーに専門家を含む審議会の専門的な意見を求めることによって,公正・妥当な判断を得られる仕組みとしたものである。したがって,審議会の答申は最大限に尊重されるべきであり,原則としてこれと異なる判断(認定)はできないものと解される。それ故に,審議会の意見が出た後は,事業者との間で更に協議・交渉等がなされる余地は極めて少ないことになる。以上のとおり,審議会は,事業者と町の水源の水質と水量についての利害の調整が図られる主要な場となっているのが本件条例上の仕組みである。

よって,審議会で事業者に対して,①取水方法,地点などを質問し,それが法的に,あるいは科学技術的に可能かどうかを検討し,②必要に応じて判明している事業計画に基づいて町と事業者の利害の調整をしていれば,本件配慮義務が尽くされたものというべきである。

イ 本件配慮義務違反の存否について(争点イ)

(ア) 事実関係

a 対象事業協議書提出までの経過

(a) 平成6年9月2日及び同月22日,S町長ないしM助役らが,P社長とB常務に口頭で対象事業協議書の提出を促したが,拒絶された。また,M助役は,同協議書の提出について,三重県(X保健所)に仲介を依頼していたが,同年10月中旬ころには失敗に終わった。

(b) 従来,控訴人が住民等に説明した水の使用量は,1日8リットル~108立方メートルとなっており,最大と最小で実に1万3500倍もの違いがあった。

(c) 控訴人は三重県知事の開発許可申請手続の中で取水方法を湧水・雨水による日量95立方メートルに変更したことを町水道課職員には報告しなかった。

(d) 控訴人が同年12月22日提出してきた対象事業協議書には対象事業実施に伴う使用水量の総量及びその供給源についてなんらの記載がなかった。

b 審議会の経過

(a) 平成7年2月21日の審議会

上記審議会では,控訴人の対象事業協議書を検討し,K委員が,その中の「放流せずに蒸発散」という記載について,水質汚濁のおそれの有無の判断材料として,提出された資料では不十分であり,追加資料が必要であること,降水量のデータについても,どの地点で観測されたものであるか明記されていない上,30年間の平均値を使用すべきであるのに,10年間の降水量の記録と極めて不十分なものであること,事業に必要な用水の量が対象事業協議書では示されていなかったこと,具体的な井戸の掘削地点,さらには井戸の深度及び本数に関する資料の提出が必要であることを指摘し,審議会委員長から町の事務局担当者に事業者にこれらを伝えるべく指示した。

これを受けて,M助役は,町水道課の職員に命じて,平成7年2月21日の審議会の結果を受けて,控訴人に審議会の意向を伝えた。

(b) 平成7年3月22日の審議会

上記審議会には,控訴人側からB常務とRが出席し,上記(a)の指摘に対する回答として「用水の収支」と題する書面と添付資料(乙88)を持参して追加提出した。そして,B常務は,これに沿って,本件施設全体で必要とする日量95立方メートルの水を本件敷地内の湧水・雨水で取水してまかなうと説明し,これで不足の場合にはタンクローリーを使って水を運ぶとも述べた。また,控訴人は,本件敷地内での湧水・雨水による取水が最終的な事業計画の前提であり,c川から直接取水したり,本件敷地内に井戸を掘ったりすることはなく,また,このように湧水・雨水による取水計画であるから,本件事業による水使用により,c川に枯渇をもたらすおそれはないと認識していた。

これに対してK委員は,日量95立方メートルの湧水・雨水が本件敷地において恒常的に得られる可能性はないことを指摘して,その理由として,その前提が,①降雨量の多かった年の調査結果に基づくものであったこと,②測定日以前の降雨条件に大きく支配される地下水の動態を,一回限りの調査結果を拠り所とすることは根拠に乏しいこと,③X測候所における降水量の統計値を根拠としているが,本件敷地の降水量はXの値よりはるかに小さいことを挙げた。

そこで,この日,審議会としては,上記の疑問を解明するために本件敷地内の湧水・雨水のみで恒常的に日量95立方メートル取水できる(水使用量は日量94立方メートル)という計画書,渇水期の流量と計画,町の雨量記録30年間分の提出を控訴人に求め,他に発電機の排気ガスの処理に関する資料についても追加資料の提出を求めて,更に検討することとした。

平成7年3月22日の審議会での委員から出された疑問点について,報告を受けたM助役は,町水道課職員に命じて,控訴人に対し追加資料を提出するよう指導した。

(c) 追加資料の提出

控訴人は,上記(b)の指摘を受けた事項に対して平成7年5月9日付けで回答及び追加資料(乙8)を提出した。しかし,この資料は上記指摘に満足に応える内容ではないほか,既に提出されていた用水の収支(乙88の1枚目)と同じもの(乙8の55頁の用水の収支)や,湧水・雨水という従前の説明と矛盾するもの(乙8の54頁)を提出した。

(d) 平成7年5月16日の審議会

上記審議会での審議内容は次のとおりである。

まず,K委員から,控訴人の計画がその実行性において極めて疑念があること,具体的には,控訴人側は,あくまでも湧水・雨水で取水するとして,井戸水の取水については全く言及していないが,実際には湧水・雨水では到底本件事業計画を実行することができないことが説明された。

次に,K委員は,仮にもしも井戸によって地下水を日量95立方メートル取水した場合には,d水源に影響があるということを,資料を添えて説明した。その具体的な内容は「第1敷地では日量58立方メートル,第2敷地では32立方メートル,合計90立方メートルが,1年間(365日)の平均値として期待できる地下水涵養量である。あくまで平均値であるから,渇水期の再現期間を考慮すればもっと厳しい数字になる。控訴人の使用水量95立方メートルは,1年間(365日)の平均値として期待できる地下水涵養量すら上回る計画であった。本件敷地とその周辺地域においては,地下水が河川水を涵養しており,c川が得水河流である事実を考慮すれば,地下水収支をマイナスとする揚水は特に渇水期における河川流量を減少させることとなり,下流で取水しているd水源に影響を与え,水源枯渇のおそれありと判断される。」というものであった。

そこで,審議会は,上記のとおり本件事業計画に大きな疑念があること及びこれを実行しようとすれば,井戸を掘削するなどの方法で地下水を取水することとなると考えざるをえないが,その場合にはd水源への影響を回避することができない計画であることから,本件事業計画は規制対象事業とすることが望ましいとの結論を出した。

なお,具体的な取水計画が控訴人側からは提出されなかったため,取水可能量の明確な数字が算出できず,地下水取水を前提とした地下水の使用量の限定を促すような具体的に適正な取水量に関する議論まで深めることができなかった。また,湧水・雨水からの恒常的な取水という方法に疑問があるという指摘を委員がしているのに,前記のとおり同じ内容の追加資料を提出するように,事業者はその点に関する説明をあえて避けているという状況であったため,審議会は再度控訴人を呼んで取水方法,取水量について聴取する必要はないと判断したものである。

c 審議会の答申後

平成7年5月22日,S町長,M助役,T水道課長,U保健衛生課長らが平成7年5月16日の審議会の答申を受けて協議し,その結果,審議会の答申を尊重することとなった。

(イ) 本件配慮義務違反の不存在

本件においては,控訴人が取水方法,取水量に関して全く実現性のない計画を提出したのに対し,審議会において控訴人に主張・立証を尽くさせる機会を十分に与え,また,専門家である委員が実現性のない計画であると指摘して再度検討を求めることにより,本件配慮義務を尽くした。

しかるに,控訴人が上記実現性のない計画を押し通そうとして拒否するなどしたため,被控訴人としてはこれ以上の適切な行政指導を行うことを断念せざるを得ず,控訴人に対して地下水使用量の限定等を促すという段階にまで至らないまま本件配慮義務は消滅した。

以上のように本件配慮義務が尽くされ,同義務が消滅したことは,次の点から明らかである。

a 控訴人に対し計画の見直しを促す内容は,問題点を指摘し再検討を促すことで足り,現実に取水可能な取水地点と取水方法を示すように促す義務はなかった。その理由は以下のとおりである。

(a) 前記(ア)b(b),(c)のとおり,湧水・雨水による取水であるから水源の枯渇はないとの建前を押し通している控訴人に,被控訴人が本音の計画を明らかにするように勧告するべき義務があるとは考えられない。

(b) 本件事業計画は,本件敷地内での取水を前提にしている。しかし,c川は河川法の適用される河川であるから,旧河川法(明治29年法律71号)施行以前の取水については慣行水利権が,同法施行以降の水利権については河川法23条に基づく許可水利権が,それぞれ存在する。したがって,水利権のない控訴人が,河川又は伏流水等から直接取水することはできず,また,河川敷又はその近傍に井戸を掘るとしても,これらの水利権を侵害するような方法での取水は許されない。しかるところ,源流部から本件敷地(第一敷地)付近は河床よりもやや高い位置にあり,地下水が河川水を涵養する(地下水が河川に流入して河川水に転化する)という関係にあるため,本件敷地付近で井戸掘削による取水をすると,取水量に応じてc川の流水が減少することになって,このような取水は本来水利権者以外は許されない。そこで,控訴人は,本件敷地付近で井戸掘削による取水をするほかはないにもかかわらず,その方法をとることができないことから,湧水・雨水に固執せざるを得なかったものである。そうすると,控訴人の本音と考えられる計画は水利権を侵害し,ひいては河川法に違反する行為である。そのような違法な行為を前提とする計画の提出を求めることは違法行為へ加担することになるから,被控訴人がそのようなことを求める義務を負うことはない。

b 協議が成り立つためには,その前提として誠実に協議する姿勢が必要であるが,控訴人は,被控訴人のたび重なる要請にもかかわらず,本件条例に基づく対象事業協議書の提出を拒否し,本件条例の手続を無視する態度を明らかにし,また,その事業計画が極めてずさんなものであるにもかかわらず,前記(ア)のとおり,その場限りの非現実的な説明に終始し誠実に協議する姿勢を示さなかった。特に,前記(ア)b(c)の追加資料の提出に至って,審議会としてもこれ以上の計画変更を求めるのは無理と判断した。したがって,被控訴人はこれ以上の配慮をする義務を負わない。

c 被控訴人は控訴人の上記bのような対応の中でもでき得る限り控訴人と協議し,これを指導すべく努力をした。

すなわち,被控訴人は,審議会において円滑・適正な審議が行われるために,控訴人に対象事業協議書を早く提出させること,審議会において控訴人から十分意見を聴取し,控訴人に主張する機会を与えること,委員からの釈明の求めに誠実に応えさせることに最大限の力を注いだ。

また,専門家である三重大学K教授(水文学)や,三重県立長島高等学校L教諭へ審議会委員を委嘱し,Nへアドバイザーの派遣要請等を行う等し,審議会を通じて,本件事業計画の実現可能性と水源の枯渇のおそれを真剣に検討し,控訴人に対し指導した。

なお,本件事業計画の重大な欠陥が被控訴人に明らかになったのは,審議会から答申が出た後の時点であり,迅速な判断が求められている認定処分の手続(行政手続法6条,7条,11条参照)において,上記重大な欠陥の是正を事業者と「協議」することは,計画自体の撤回を求めるに等しく,審査庁としての所掌事務の範囲をはるかに超えるものであって,それをしなかったことが違法であるとは到底いえない。

(3)  控訴人の主張

ア 本件配慮義務の存否,その内容及び主体等について(争点ア)

(ア) 本件配慮義務の存否,その内容

被控訴人は控訴人に対して,まず,被控訴人において本件敷地の地下水涵養量をもとに枯渇に関する基準を明確にした上で,この基準に即した水量を具体的な数値をもって示し,これに適うまで本件施設の使用水量と取水方法を変更するよう指導するべき配慮義務を負担する。そして,被控訴人は,控訴人に対して粘り強く協議することが求められる。その理由は以下のとおりである。

控訴人は,本件条例による規制など全く想定しないまま多額の費用を投じて本件事業計画を進めてきたのに対し,本件条例は既に進行していた控訴人の本件事業計画を規制するために後追いで制定されたものであるから,規制目的と控訴人の利益を調整する必要があり,被控訴人において事前協議の場で控訴人の利益に配慮すべき義務を負担する。

また,枯渇のおそれに関する本件条例の規制基準は漠然不明確であり,規制対象となりうる施設が使用してもよい地下水等の水量が具体的にどの程度なのか,一切示されていない。そして,地下水源の理解には,降水量や地下水に対する専門的知見と様々な統計結果を必要とするのであり,通常の判断能力を有する一般人において,本件条例の『枯渇をもたらすおそれ』が具体的にどの程度の取水量を指すのかを読み取ることは極めて困難である。これでは,規制を受ける事業者が予め規制基準を知りえず,したがって,本件条例の規制基準をクリアするだけの施設を設計することもできない。そこで,規制基準の不明確という不備を事前協議手続において補う必要がある。すなわち,規制主体たる被控訴人と規制対象たる事業者が協議する過程において,被控訴人から事業者に対して枯渇のおそれのない使用可能な水量が示されることが期待されている。

そして,「地下水涵養量」こそが,本件条例の枯渇に関する規制基準にほかならないところ,当該敷地の「地下水涵養量」は,当該敷地の降水量,蒸発散量,表面流出量,地下水流水量,地下構造等をもとに算出され,敷地上の施設の取水量や取水方法など,本件事業計画の詳細は使用可能な地下水使用量を把握するために必要ではない。これに対し,上記のとおり使用可能な地下水使用量が明らかでなければ何を基準に事業計画の見直しをすればよいのか分からず,事業者に不当な負担を課すものであるし,被控訴人が何かと理由をつけて本件事業を規制することが可能になってしまい不当である。

(イ) 本件配慮義務の主体等

事前協議の主体が被控訴人であること(本件条例13条1項)からして,配慮義務の主体も被控訴人であるというべきである。

審議会は水道水源に関する重要事項を調査・審議する機関であり,専門的知見から,被控訴人による規制対象事業場認定処分の合理性を担保する役割を担っているものの,それ以上に,事業者と協議をして利益調整を図る役割を期待されているとは解し難い。また,被控訴人の考えと審議会の結論が一致するとは限らず,たとえ技術的・専門的事項であったとしても,控訴人に対する指摘ないし指導は最終的に被控訴人名でなされる必要があるし,配慮義務の具体化たる協議や指導も被控訴人によってなされる必要がある。よって,審議会は本件配慮義務を負う主体ではない。

イ 本件配慮義務違反の存否について(争点イ)

(ア) 事実関係

a 対象事業協議書の提出

控訴人の提出した対象事業協議書は,被控訴人が作成した雛形を用いて必要な記入欄は全て埋めている。なお,被控訴人の作成した雛形には取水量,取水方法に関する記載欄が元々設けられておらず,かつ,被控訴人から取水量や取水方法を明らかにするよう指示や説明もなかった。

b 平成7年3月22日の審議会

控訴人は,上記審議会において本件施設に関する聴き取りを受けたが,事前に質問事項を明らかにされていなかったことから,控訴人は審議会での質問全てに回答することができなかった。

また,B常務は,K委員が確たる根拠もなしに枯渇のおそれを指摘し,同常務のそれまでの工事経験にそぐわないことから,「この程度の取水で水源が枯渇するとは常識的に考えられない。一体どの程度であれば地下水を汲んでもいいのか,はっきりさせるべきだ。水が不足するというのであればタンクローリーで運ぶつもりだ。」等と発言した。しかし,審議会からは何の返答もなかった。

なお,この際,控訴人は本件施設の使用水量を日量108立方メートルもしくは105立方メートルと回答した。

c 平成7年5月9日追加資料提出の経緯

上記bの審議会において,K委員より本件施設の使用水量によって水源の枯渇をもたらすおそれがあるとの指摘を受けたことから,控訴人としては,K委員の指摘の当否はひとまずおくとして,何とか本件条例との抵触を回避し本件施設を稼働させるため,できるだけ本件施設の使用水量を減らすよう技術者と本件施設の設計の見直しを行い,その上で,同年5月9日に本件施設の使用水量を日量95立方メートルと文書(乙8)で回答した。また,同時に汚濁問題や煤煙処理設備等の点についても資料を添付して回答している。

d 平成7年5月16日の審議会

K委員が,平成7年5月16日の時点で,本件敷地の地下水涵養量を日量平均90立方メートルであると把握し,そのように口頭で説明した事実はない。審議会は,控訴人が必要水量を湧水・雨水で賄いきれない場合に井戸を掘って地下水を汲むおそれがあると判断したことから,直ちにd水源への影響があると判断した。

(イ) 被控訴人の本件配慮義務違反

a 本件配慮義務の具体的な内容として,まず規制する側の被控訴人から規制基準である本件敷地の地下水涵養量を具体的数値をもって示す必要がある。しかし,それが控訴人に示されたことはないから,本件配慮義務違反は存する。

b 仮に,本件敷地の地下水涵養量を具体的数値をもって示す必要がないとしても,控訴人が被控訴人に対して対象事業協議書を提出した平成6年12月22日から本件処分が下された平成7年5月31日までの間において,被控訴人,あるいは被控訴人から指示を受けた助役や水道課職員等が控訴人と直接協議をしたり指導を行ったことは,一度もない。

また,前記(ア)cのとおり控訴人が平成7年5月9日に設計を見直した結果を回答してから,同月16日に審議会の答申が出され,同月31日に被控訴人によって本件処分が下されるまでの間,控訴人が被控訴人からも審議会からも事情を聞かれる等の機会は一度もなく,控訴人は平成7年12月26日付け決定書(乙121)を見て初めて本件処分の具体的理由を知ったのであり,本件処分に至るまでに被控訴人より本件施設の取水方法や取水量が本件処分の根拠であると知らされたことはなく,全く防御の機会を与えられていなかった。

よって,いずれにしても被控訴人は,本件配慮義務に違反して本件処分を行ったものである。

他方,控訴人は,本件事業に本件条例が適用されることに問題があると認識していたが,本件条例の手続と被控訴人側からの要請には応じている。なお,被控訴人は,審議会において本件事業計画に疑念があると指摘したと主張するが,本件事業計画における湧水・雨水の調査結果は,本件敷地の宅地開発に伴い三重県から指摘を受けて,専門家のCが行った現地調査をまとめたものであり,三重県は正当な調査結果として了解したのであるから,控訴人からすれば審議会の指摘はにわかに信じ難く,直ちに受け入れ難かったのである。

(ウ) 以上のように被控訴人に本件配慮義務違反が存したことは,次の点から明らかである。

a S町長は,審議会の答申前に本件施設の設置反対の意思表明をし,V弁護士の的確な法的助言に従わないなど,初めから本件事業を規制する意図を有していたから,控訴人に対し何らかの協議や指導をする意思はなかった。

b 審議会は,本件敷地の具体的な地下水涵養量と地下水使用量とを比較する方法により枯渇をもたらすおそれがあるとは判断しないまま,単にd水源に影響するおそれがあるというだけで本件施設を規制対象事業場とする答申をした。すなわち,K委員が本件敷地の地下水涵養量を日量平均90立方メートルと示したのは,早くても平成7年9月8日(乙3の作成日)であり,渇水期の地下水涵養量に至っては,本件訴訟提起後に算出されているから,本件処分以前に枯渇をもたらすおそれの有無を判断することはできなかった。

c 被控訴人は,事実関係や審議会の経過を知らず,答申書にいう本件事業計画の疑念が具体的に何を指しているのか全く理解しないまま本件処分を下した。

d 本件事業計画を変更するには,設計の見直し,新たな費用の調達及び三重県との調整に相当の期間を要する。また,被控訴人としても,進行中の本件事業計画を後追いで成立した本件条例を根拠に規制を及ぼそうとする以上,控訴人が反発を覚えるのも無理ないことであると読み込んで,十分な検討期間を控訴人に与えるべきであった。

しかるに,被控訴人は,審議会が平成7年3月22日に取水方法等の不備を指摘してから本件処分がなされた同年5月31日までの,僅か2か月10日間しか控訴人に時間を与えなかった。

第3当裁判所の判断

1  本件配慮義務の存否,その内容及び主体等(争点ア)について

(1)  上告審判決の配慮義務に関する判示は次のとおりである。

本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長との協議を求めるとともに,当該協議の申出がされた場合には,町長は,規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断することとしているところ,規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。そして,前記事実関係等(原審の確定した事実関係等)によれば,本件条例は,上告人(控訴人)が三重県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議に被上告人(被控訴人)が関係機関として加わったことを契機として,上告人が町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり,被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。そうすると,被上告人としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める上記手続において,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって,本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるといわざるを得ない。

(2)  本件配慮義務の存否について

上記(1)のとおり,上告審判決は,被控訴人が控訴人に対し本件配慮義務を負うことを認め,これに違反した場合には本件処分は違法となるとして,この点について審理することなく本件処分の違法性を否定した原審の判断を違法として破棄したものであり,当裁判所は,上告審判決が前提とする事実関係の下で被控訴人が本件配慮義務を負うとの判断に拘束されることになるところ,被控訴人は,上告審判決が前提とする事実関係に誤りがあるとして,本件配慮義務が存しないと主張するので,以下検討する。

ア 被控訴人は,控訴人が地下水位の低下に結びつくことのない湧水・雨水を使用するというのであるから,水量限定を求める理由はなく,また,控訴人により取水地点と取水方法などが明確にされない以上,地下水の取水の限定を促すことは技術的に困難である上,そのような促しをする必要もないなどとして,使用量の限定を促すなどの配慮をする義務はなかったと主張する(被控訴人の主張ア(ア)a)。

(ア) 水量限定を求める理由はないとの点について

まず,控訴人が提出した取水計画は本件敷地において湧水・雨水による取水で事業計画に必要な水を確保するというものであるが,被控訴人が主張するとおり,湧水は地下水が動水勾配に従って地表面に自然流出するものであるから,これを利用する限り水源が枯渇するおそれはない(当審証人K9頁)。

しかし,被控訴人は,控訴人が井戸を掘削して取水するなどして水源に影響を与える方法で取水するという前提で水源枯渇のおそれがあると判断したはずであり,そのような前提のもとで判断する以上は,取水量の限定が必要であるかどうか指導する理由はないとはいえない。なお,控訴人が湧水を採取できる根拠として審議会に提出した乙88の資料1によれば,控訴人は地表面から数m掘削して採取した水,すなわち湧水とはいえない水を湧水と称しているところ,控訴人がこのようにして採取した水を使用する意図であることは明らかであり,そのことは審議会においても認識していた(乙138,当審証人K5頁)。

(イ) 地下水の取水の限定を促すことは技術的に困難であるとの点について

まず,地下水使用量の限定を促す前提となる取水可能量にかかわる本件敷地の地下水涵養量は,敷地の位置・範囲により算出が可能であり,その地域における年間の降水量を平均値として算出するか,渇水年を基準とするかによって,数値が異なってくるものの,取水方法,取水位置,その他事業計画の具体的内容とは関係がなく判断することが可能である(原審及び当審証人K,乙3,9)。

他方,井戸の位置を川から遠くし,また,井戸の本数を多くすることにより,水源に与える影響は小さくなり,また,河川に流入している不圧地下水の層よりも深い層の地下水を取水するのであれば,原則として水源に影響を与えないことになるから,具体的に何立方メートルの取水であれば水源の枯渇のおそれがないかは,具体的な取水計画が明らかにならなければ判断することができない(当審証人K13頁,乙9)。

そうすると,水源の枯渇のおそれについてより正確に判断するためには,具体的な取水計画に基づいて算出される数値が判明していることが望ましいことはもちろんであるが,これが算出できない場合にも,一応想定可能な取水方法を考慮するなどし,本件敷地の地下水涵養量を基準とすることにより枯渇のおそれについて判断することは可能であると解される。このことは,原審から差戻前控訴審までにおける被控訴人の主張立証の経過(原審証人K,乙3の2頁)及び当審証人Kの証言(当審証人K16,23,27頁)からも,明らかである。

このように地下水涵養量を基準とすれば可能取水量を検討し算出することは可能であるから具体的な取水計画が明らかでないことを理由に,地下水の使用量の限定を促すことが技術的に困難であるとはいえず,被控訴人の上記主張は採用できない。

(ウ) 地下水の取水量の限定を促す必要はないとの点について

事業者の側から規制基準に適合する取水計画を提示すべきであり,被控訴人はこれを審査すれば足りるとの被控訴人の主張の背景には,本件条例の定める認定処分は不利益処分(行政手続法2条4号)というよりも,不許可処分(行政手続法2条4号ロ)に類似するとの見解(乙142の1の4,5頁)が存するものと解されるが,本件条例の適用一般については格別,本件においては,当初は制限のない状態で開業準備を進行させていた控訴人に対し,後に本件条例を制定してこれを適用するのであるから,実質的には不利益処分に該当し,これと同様に解することが相当であり,この点からいっても被控訴人の上記主張は採用できない。

イ また,被控訴人は,事前に事業計画を十分に検討する機会がなかったとして,るる主張する(被控訴人の主張ア(ア)b)が,前提事実によればこれはあったというべきであり,被控訴人において検討に必要な情報が得られなかったとの被控訴人の主張は乙92,93(前提事実(4))に照らし採用できない。

ウ さらに,被控訴人は本件における事前協議手続は制度上明確に存在しないもので,行政指導の一環として行われるにすぎないなどと主張する(被控訴人の主張ア(ア)c)が,本件では,行政庁である被控訴人に対して,事前協議手続の中で控訴人の正当な利益を害することがないよう,いわば控訴人の利益を保護する義務を負わせているのであって,行政目的を達成するため,行政庁から相手方に自制や負担を求めるという通常の行政指導とは局面が異なるから,この点も採用することができない。

(3)  本件配慮義務の内容について

本件配慮義務の内容については,その存在自体が本件の事案の下に導かれたものであり,その内容も具体的な事案を離れて一般的に定めることはできないと解されるので,以下,本件事案に即して検討する。

ア 前記(1)の事情,すなわち本件配慮義務の存在を根拠づける事情のほか,前提事実のとおり平成6年12月の時点で控訴人と三重県との事前協議が終了して,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請が受理されたこと,前記(2)ア(ア)のとおり,控訴人が申告した取水方法である湧水・雨水からの取水であればd水源が枯渇するおそれはないことなど,本件の事案に鑑みると,事業者である控訴人としては,本件事業計画はその取水計画を含め特段の問題がないとの見解を有しているものであり,そのことは被控訴人においても推察すべきであるから,被控訴人において,取水方法は地下水をくみ上げて取水するほかはなく,その観点から本件事業によりd水源が枯渇するおそれがあると判断をするのであれば,その前に,地下水使用量の限定を促すなど,事業者においてその点が問題とされると理解できる程度の協議や指導をする必要があり,それがないままに本件処分が行われたとすれば,いわゆる不意打ちとなり,控訴人の立場を不当に害するものというべきである。もっとも,被控訴人において,事業者である控訴人の立場に立って,その問題点にどのように対処すべきであるかまで指導することは,実際上は困難であるから,そのような指導をする義務まであるとは解されない。しかしながら,被控訴人としても,当該問題点について,控訴人が対処できず,あるいは対処しないことが一見して明白であれば格別,そうではない限り,仮に,控訴人に対処を求めることが困難な問題ではないかと思われたとしても,問題点を指摘して,控訴人に補正する機会を与えるべきであり,このような機会を奪うことは相当でない。

イ これに関し,控訴人は,本件条例の枯渇のおそれに関する規制基準が漠然不明確であることから,本件のような場合に限らず,一般に,被控訴人において,あらかじめ具体的な取水可能量を明らかにすべきであると主張する。

しかし,控訴人の上記主張の前提としては同規制基準が事業者から事前に事業計画を示すまでもなく算出することができる敷地の地下水涵養量であることを前提としており,これについては,事業者が専門家に依頼することにより把握することができることが窺えるから,規制基準が漠然不明確であるということはできない。また,本件条例の枯渇のおそれを的確に判断するには,事業地の位置・面積範囲のほか,被控訴人が指摘するとおり取水方法や取水位置等が影響すること,事業者から何も具体的な計画を示すことなく町が取水可能量を算出しなければならないとすれば,町に過大な負担となることもありうることも考え併せると,事業者の側で取水可能量について一応の調査を行うことが相当な場合もありうるから,控訴人の上記主張は採用できない。

なお,控訴人は,本件条例が罰則を設けていることから,規制基準が明確でなければならないとも指摘するが,規制基準に関わる本件条例の罰則は,事業者が規制対象事業場と認定された施設を設置しようとした場合に適用されるから,処罰の有無に関する基準が不明確であるということはできない。

(4)  本件配慮義務の主体等について

事前協議の主体も対象事業場の認定権者も被控訴人であるから(本件条例13条1項,3項),本件配慮義務の主体は被控訴人であるというべきである。

なお,審議会は水道水源の保護に関する重要な事項を調査・審議する機関であり(同5条2項,13条3項),被控訴人による規制対象事業場認定処分の合理性を専門的知見から担保する役割を担っているものの,それ以上に,積極的に事業者と協議をして利益調整を図る役割を期待されているとは解し難く,審議会委員もそのような役割があるとは理解していない(当審証人K16,19,31頁)。

これに対し,被控訴人は,原則として審議会の意見にしたがった判断をするべき被控訴人としては,事業者と利害調整を行う余地がなく,審議会がそれを行う場であると主張するようである。しかし,被控訴人も審議会の役割については,上記のように専門的知見に基づいて判断するものであることを自認しており,これが事業者と協議をして利益調整を図る場であるということはできないから,被控訴人の主張によれば,結局,そのような調整の場がないことに帰着する。本件では,被控訴人が控訴人に対し本件配慮義務を尽くすことが求められているので,被控訴人の上記主張はこれを否定することになり,採用できない。

2  本件配慮義務違反の存否(争点イ)

(1)  認定事実(前提事実及び後記の証拠により認められる。)

ア 対象事業協議書提出までの経過

(ア) 従来,控訴人が住民等に説明した水の1日使用量は,平成5年10月ころには200リットルであったものが,平成6年1月には108立方メートルと大幅に増加した(乙90,91。なお,水の1日使用量を8リットルと説明したとする乙87は直ちに採用できない。)。

(イ) 被控訴人は,控訴人に対し,平成6年9月ころから,当初は口頭で,後に文書で対象事業協議書の提出を再三促したが,控訴人は,本件条例を本件事業に適用することは違法であるとの見解から,これを拒否し続けた。また,X保健所長からも同様の指示を受けたが,町に対し協議に応じないと回答したことをもって協議が完了したと報告した。(乙135,139)。その後,被控訴人が本件条例第13条第2項の規定に基づく勧告をし,これを受けてX保健所長からこれに応じて協議するよう文書で求められたことから対象事業協議書を提出した。

(ウ) 控訴人は,平成6年10月21日,取水方法を井戸の掘削から湧水・雨水に変更するなどし,これに基づいて三重県知事の開発許可申請手続を行ったが,これを町には報告しなかったため,町は控訴人が井戸を掘削して取水するものと考えていた。

(エ) 控訴人が提出した対象事業協議書には対象事業実施に伴う使用水量の総量及びその供給源の記載はなかったが,本件条例及び同施行規則上,そのような資料の提出を求められてはいないし,同別紙の書式にもそのような記載をする欄がなかった。

イ 平成7年2月21日開催の審議会

上記審議会では,次回の予定として,Nに職員の派遣を求めて説明を受けることにし,また,控訴人に対し,メーカーの技術者を同行させ,処理設備の機能ないし機械の能力について説明を求めることを決め,会長名でその旨控訴人に通知した。さらに,次回以降には,c川の流水量や建築物の安全性を確認するほか,本件敷地及び先進地を視察し,また,建築に反対するO会に意見陳述の機会を与えることを検討することとした(乙112,124)。

なお,被控訴人は,上記審議会において,控訴人の対象事業協議書を検討し,水源枯渇の影響の有無を判断する基礎資料などの不足を具体的に指摘し,控訴人に提出を求めたところ,これに応じて「用水の収支」と題する書面と添付資料1ないし3(乙88)が提出されたと主張し,当審証人K(乙137,138の陳述書を含む。以下同様である。)はこれに沿う供述をするが,上記証拠(乙112,124)にそれを窺わせるような記載がないことと対比して当審証人Kの上記供述は直ちに採用できず,また,控訴人が乙88を提出した理由は,対象事業協議書に事業に必要な用水の量等が示されていないことから,自らこれを補充するため県に提出したものと同じ資料を持参したとも考えられるから,被控訴人の上記主張を認めるには足りる証拠はない。

ウ 同年3月22日開催の審議会

(ア) 上記審議会には,控訴人側から,P社長,B常務,Rが出席したが,使用水量,取水量及び取水方法については,B常務が同日提出した乙88に沿って本件施設全体の水使用量日量95立方メートルを本件敷地内の湧水・雨水で取水してまかなうと説明し,これで不足の場合にはタンクローリーを使って水を運ぶと述べた。また,B常務は,本件敷地内における湧水・雨水による取水が本件事業計画の前提であり,c川から直接取水したり,本件敷地内に井戸を掘ったりしないことから,本件事業による水使用により,d水源に枯渇をもたらすおそれはないと認識していた。これに対し,K委員は,日量95立方メートルの湧水・雨水が本件敷地において恒常的に得られることに疑問を呈し,恒常的に日量95立方メートル取水できる(水使用量は日量94立方メートル)という計画書,渇水期の流量と計画及びbの雨量記録30年間分の提出を控訴人に求めた。

その他,控訴人側から,タイヤ処理の能力,タイヤの備蓄方法,排出物の処理などを説明し,これに対し,Nから派遣されたWが大気汚染が水質に及ぼす影響を検討すべきであると意見を述べ,発電機の排気ガスの処理に関する資料についても追加提出を求めて,さらに検討することとした。

(甲127,乙113,当審証人K,B,各一部)

(イ) なお,上記事実認定の一部について補足説明する。

a 乙88の提出時期について

本件施設の使用水量とその取水方法を明らかにした資料は,乙88,これと同一である平成6年6月28日県に受理された開発行為許可申請書(甲12)の83枚目以降に綴られている「用水の収支」と題する書面と添付資料1ないし3,控訴人が平成7年5月9日に提出した水道水源保護審議会への回答及び提出資料(乙8)に添付された「用水の収支」と題する書面(上記「用水の収支」と題する書面と同一のものであるが添付資料がないもの)があるところ,被控訴人は,乙88が平成7年3月22日の審議会において控訴人側から提出された資料であると主張するのに対し,控訴人は,これを平成7年5月9日より前に提出したことはないと主張し,証人Bはこれに沿う供述をする(甲127を含む。以下同様である。)。

そこで検討するに,甲12の6枚目「開発行為許可申請書」の給水施設の欄には,「井水」「検討中」との記載を抹消した上で,「湧水・雨水」と記載されているところ,甲12の冒頭に綴られている平成6年10月21日付け「宅地開発事業設計確認申請書に伴う不備事項申請書」の1枚目「給水施設の取水方法について」は「湧水・雨水」と記載され,「河川協議について」の欄の右側には「井戸の設置-雨水湧水に変更」との記載があるので,当初計画では「井戸」であったものが,河川協議の結果「湧水・雨水」に変更されたことが読み取れる。そして,上記不備事項申請書の2枚目の末尾の行には,「必要量(水量調書)確保について」に対応して,右欄に「水の収支別紙のように検討しました」との記載があり,それに対応して,甲12の83枚目以降に,「用水の収支」として,取水量につき,湧水により第1敷地日量95立方メートル,第2敷地9立方メートル/日を,予備として雨水を取水する旨,使用水量につき第1敷地日量94立方メートル,第2敷地1立方メートル/日,合計日量95立方メートルを使用する旨記載されたものが添付され,その中で引用されている資料1~3として,「湧水調査」「雨量調査」「平均雨量及び現地写真」がそれぞれ添付されている。申請書の2枚目に記載されている「水の収支別紙のように検討しました」の「水収支別紙」に該当する説明文書は,上記日量95立方メートルを説明している上記「用水の収支」以外には見当たらないので,これが上記不備事項申請書の作成日である平成6年10月21日より後に提出されたとは考えられず,また,この「用水の収支」において,資料1~3が引用されていることから,資料1~3と「用水の収支」は一体として作成提出されたものと解される。そして,平成7年3月22日の審議会において控訴人側が水の収支計画について説明したことは前提事実のとおりであるところ,控訴人が既に平成6年10月21日付けで県に対し資料1~3と「用水の収支」を提出している以上,控訴人が同審議会においてこれを提出しこれに沿った説明をしたと解するのが相当である。また,証人Bは,陳述書(甲127の10頁)で,平成7年5月9日ころ,町に資料1~3と「用水の収支」を提出した際,同時に三重県にも施設変更の届出をして受理されたと述べているが,そのような事実は存在しない(乙143)。よって,上記認定に反する証人Bの供述は採用できない。

b 議事録(乙113)の信用性について

控訴人は,上記議事録が訴え提起後長期間経過して提出されたほか,平成7年5月16日の審議会の議事録(乙116)と比べて不体裁であるとして,同月9日以降に作成されて,乙8の記載が混入した可能性があると指摘する。しかし,平成7年2月21日の審議会の議事録(乙124の1,2)も同様に後日提出されたものであって,また,要点をメモした程度の記載であるが,その内容に特段の疑問はない。また,上記乙116も,逐語的に録取されているものの,その体裁や筆記の状態は乙113と同様である。さらに,乙8は平成7年5月9日の日付が入っており,その内容を錯誤により混入させるとは考えにくい。後日提出されたことについては,上告審までは審議会の経過が争点とはなっていなかったことから,特に問題とすることはできない。以上によれば,乙113の信用性を否定することはできない。よって,控訴人の上記指摘は採用できない。

c その他の証人Bの供述について

控訴人は,K委員から水源枯渇のおそれがあると指摘されたので,取水可能量を尋ねたが同委員は答えなかったと主張し,証人Bはこれに沿う供述する。

しかし,証人Bも,K委員も,使用する水を本件敷地内の湧水・雨水で取水してまかなう限り,d水源に影響を及ぼさないと認識していたのであるから,控訴人の取水により水源枯渇のおそれがあるという話が出るはずはないし,取水可能量を尋ねる理由もない。また,前記のとおり控訴人が既に平成6年10月21日付けで県に対し資料1~3と「用水の収支」を提出している以上,審議会に対してもこれと同一の説明をすると解するのが合理的であり,井戸により地下水を取水するという前提で水源枯渇のおそれがあると指摘することもないはずである(仮に,そのような前提で水源枯渇のおそれがあると指摘したなら,地下水使用量の限定を促したものに他ならない。)。その他,議事録(乙113)の記載に照らしても,証人Bの上記供述は採用できない。

d 当審証人Kの供述について

他方,当審証人Kは,乙88の資料1の写真によると,控訴人の予定している取水方法は湧水には当たらないと具体的に指摘したなどと証言する(当審証人K5頁等)が,上記認定以上の指摘や指示についてはこれを裏付ける資料もなく,採用することができない。

エ 追加資料の提出

上記ウの指摘を受けて,控訴人が回答及び追加資料として平成7年5月9日付けで提出してきたものが乙8である。しかし,この資料は排気ガスの処理などには答えていたが(当審証人K10頁),K委員が提出を求めた資料は含まれておらず,また,乙8の55頁の「用水の収支」は,平成7年3月22日に控訴人が審議会に持参した乙88の「用水の収支」と全く同一であったほか,乙8の54頁のプロセス水フローシートの下に「井戸」と記載されており,湧水・雨水という従前の説明と矛盾していた。K委員は,上記提出資料について,控訴人に真摯な態度が見られないと判断して,再提出を促す必要はないと判断した(当審証人K11頁)。

オ 平成7年5月16日の審議会

(ア) 上記審議会では,まず,反対派住民団体からの意見陳述が行われた。その後,水道水の汚染の可能性について検討し,J委員が,事業者に全ての立証責任を負わせることに疑問を述べ,抽象的危険で足りることを前提としても,少なくとも何が排出されてどう危険があるのかを示す必要があると指摘し,専門家であるK委員において判断が可能かについても危惧がある旨述べた。他方,K委員は,本件敷地内の湧水だけで事業に必要な水を確保することは無理であるとして,冷却水も確保できないことを具体的な数値を挙げて説明し,ほかに生活用水も必要であることから,本件事業計画が可能かどうかという根本的なことに疑問があると指摘した上,湧水によるという計画でも実際に稼働すれば,井戸を掘って取水することになり,そうなればd水源に影響するおそれがある旨主張した(当審証人K28頁)。また,この際,K委員は3種類の図面(乙132)を資料として示した。これに対し,会長が雨の多い年でも無理かと確認したところ,K委員は20年に一度の渇水を想定しなければならないと反論した。

休憩後,審議会はその結論を出すこととしたが,既に被控訴人が審議会での結論にかかわらず反対するとの意向を示していることを取り上げ,そのことに遺憾の意を表明した上で,被控訴人の意見とは別個に審議会としての意見を出すこととした。そして,K委員の上記主張にかかる意見に対する疑問やその点を控訴人に聞けば再度フローチャートが示されるのではないかとの異論もでたが,結局,湧水により必要な水量を賄うことは無理であり,井戸から取水するであろうからd水源への影響は避けられないとし,このように計画自体に問題があるものを審議会として認めるのは問題があるとの意見が大勢を占め,これに沿った内容の答申をすることとした(当審証人K15頁)。この間に,本件事業計画での全取水量や本件敷地の地下水涵養量などについて具体的な数値を示したり,これらを比較して枯渇のおそれの有無を検討するなどの議論はしなかった(乙116,当審証人Kの一部)。

(イ) これに対し,被控訴人は,K委員が,上記審議会において,乙3と同様の内容,すなわち,第1敷地では日量58立方メートル,第2敷地では32立方メートル,合計90立方メートルが,1年間(365日)の平均値として期待できる地下水涵養量である旨,渇水期の再現期間を考慮すればさらにもっと厳しい数字になる旨の説明をし,控訴人の使用水量95立方メートルは1年間(365日)の平均値として期待できる地下水涵養量すら上回る計画であることが明らかになったことから,特に渇水期における河川流量を減少させることとなり,下流で取水しているd水源に影響を与え,水源枯渇のおそれありと判断されたと主張し,当審証人Kはこれに沿う供述をする。しかし,これらは答申の重要な根拠となるものであるから,このような説明や検討がされれば議事録(乙116)にその旨記載されてしかるべきであるが,地下水涵養量について議論したことを窺わせる記載がないだけでなく,そもそも取水可能量や使用する全水量について検討した形跡もない。なお,K委員は「具体的数字に基づいた議論が必要である」と発言しているが,これに続く発言の内容からみると,その趣旨は湧水によって事業に必要な水を確保できないことの説明に止まると認められ(議事録の10頁7行目以下),同じくK委員の「それ以外の数字をもって言えない」との発言(同15頁1行目)も,それまでの発言内容から,「湧水によって本件事業に必要な水を確保できないこと以外は数字をもって言えない」という趣旨とも取れるのであって,いずれも,地下水涵養量等について議論し検討したことを窺わせる記載とはいえない。また,K委員は,当日乙132を示して説明しているが,その記載内容から直ちに上記地下水涵養量を算出できるものではないことが窺える(当審証人K24,25頁)から,被控訴人の上記主張の裏付けとしては不十分である。その他に被控訴人の上記主張を裏付けるに足りる証拠はない。

(2)  判断

ア 控訴人においてd水源の枯渇のおそれの有無ひいては地下水使用量の限定が問題とされると理解できるような協議や指導がなされたかどうかについて判断する。なお,被控訴人自身は直接このような協議等を行っていないが,実際に,審議会の中で実質的な調整や指導が行われ,重ねて被控訴人から指導をする必要がないと認められる場合には,改めて被控訴人が同様の指導等をしなければならないものではないと解する余地もあるから,以下,審議会での協議等の内容を検討する。

控訴人が上記のような理解を得るためには,被控訴人において地下水使用量の限定が必要であると指摘しないまでも,枯渇のおそれに関して具体的な釈明をするなど,この点を問題視していることについて控訴人が認識できる態様の指導等が必要である。しかし,本件においてこのような指導等が行なわれたとは認められない。すなわち,上記(1)の認定事実によると,審議会は,控訴人が提出した本件敷地において日量95立方メートルの湧水・雨水を取水するとの方法につき,それが恒常的に得られることに疑問を提起し,裏付け資料を追加して提出するよう求めたものの,控訴人がこれを提出しなかったことから,直ちに,控訴人が湧水・雨水により事業に必要な水を確保することは不可能であり,実際には井戸を掘削するなどの方法で取水するであろうと判断し,そうなればd水源への影響は避けられず,このような問題のある計画を認めることはできないと結論づけたものにほかならない。この間,審議会は,控訴人の取水方法を問題としただけで,取水量について直接の指摘はしていない。また,控訴人が提出した湧水・雨水による取水方法はd水源に影響を与えないものであるところ,審議会はこれについて疑問を提起し追加資料を求めただけであるから,控訴人において,これに応じなければ,直ちに,この方法による取水が不可能であると判断され,かつ,必要な水の全量を水源に影響を及ぼす方法で取水するという前提で枯渇のおそれの有無を結論づけられると予想することは困難である。

したがって,控訴人に対して,地下水使用量の限定が問題視されていることを認識できるような態様の指導等がなされたものとはいえない。

イ もっとも,本件では,控訴人が予定していた湧水・雨水による取水計画が実現の困難なものであるという事情があり(乙3,10,15,34,137,138,原審及び当審証人K),また,判断基準を地下水涵養量とするとしても,年間降水量の決定につき平均値を採用するか渇水年を考慮するかという問題もあることから,指導の手順としては,控訴人が予定していた取水計画の可能性についてまず行うことが不合理とはいえない。そして,その間に,本件事業計画がどのような補正をしても実現不可能なものであることが一見して明白となった場合や,控訴人が必要な指導に従わない態度を明確にするなど,控訴人の側に起因する事情で適切な指導が著しく困難となった場合には,それ以上の地下水使用量の限定を促すなどの配慮は不要というべきである。従って,このような場合にまで地下水使用量の限定を促さないことをもって,本件配慮義務に違反するものとはいえない(なお,上告審判決が地下水使用量の限定を促すことを指導内容に上げている趣旨も,例示であって,直ちに,あるいは,いかなる場合でも,これを行う義務があるというものではないと解される。)。

(ア) そこで,控訴人において適法に必要な水を確保する方法がないなど,本件事業計画に実現可能性がないことが一見して明白であったかどうかについて検討する。

まず,水の確保について,井戸水を取水するなど河川法ないし水利権の問題を生じる方法も,水利権者や県の同意を取りつけたり,また,河川から離れた位置で深井戸を掘って取水することによりc川への影響を回避したりすることが考えられる。これらは,控訴人において一旦は断念したなど実現が容易でないことは窺えるが,実現の可能性がないと断定はできない。また,仮にこれらが不可能であるとしても,地下水使用量を大幅に削減することが考えられる。よって,必要な水を確保する方法がないことが一見して明らかであるとまではいえない。

その他,被控訴人は,既に三重県の指導要綱に基づく事前協議手続が進んでいたので,控訴人において従前の事業計画を大幅に変更することは不能と考えられたと指摘するが,廃掃法による施設設置許可申請手続を最初からやり直させるか,軽微変更であるとして従前の手続内での変更で足りるとするかは,三重県が判断することであり,被控訴人が判断すべき事柄ではない。また,仮に最初からやり直すよう指示された場合に,それに応じて手続をするか,断念するかは控訴人の判断であり,被控訴人が判断すべき事柄ではない。そのような点を考慮して指導を差し控えることは,最初から控訴人に事業を行う機会を与えないことに帰し不当である。

また,被控訴人は,本件事業計画に不備があったなどと,るる指摘するが,それらによっても控訴人の本件事業計画が実現不可能であるとは断定できない。

以上のとおりであり,本件事業計画に実現可能性がないことが一見して明白であったということはできない。

(イ) また,控訴人が必要な指導に従わない態度を明確にしていたかどうかについて検討する。

a 前提事実及び認定事実によると,本件処分に至るまでの控訴人の取水計画及び被控訴人及び審議会の働きかけの経過はおおよそ次のようなものである。

すなわち,控訴人は,当初,本件事業に必要な水は井戸を掘削して地下水を取水する予定で,県,町,地元住民との折衝を続けた。他方,予定取水量(地下水使用量)についてはかなりの変動があったが,一定時期以降は日量108立方メートルと見込んでいた。その後,平成6年7月以降に,控訴人は,県からc川から50m以内では井戸を掘って取水しないよう求められ,控訴人はそれでは十分な取水が困難であると判断して,平成6年10月までに取水方法を湧水・雨水に変更した。そして,予定取水量についても同時期までに95立方メートルに減量した。

被控訴人は,控訴人の上記計画変更の直前ころから,直接又は三重県を介し,文書等で再三,本件条例に基づく対象事業協議書を提出するよう求めたが,控訴人は本件条例の無効を主張してこれに応じず,被控訴人が本件条例に基づく勧告をし,さらに県がこれに応じるよう指導することによりようやくこれに応じた。

審議会は,当初,控訴人が取水方法及び予定取水量を変更したことを知らず,井戸から日量108立方メートルを取水するものと理解していたが,平成7年3月22日の審議会で初めて上記変更後の計画が明らかになるとともに,控訴人からこれを裏付ける資料が提出された。しかし,控訴人は,上記アのとおり審議会から追加資料の提出を求められたのに対し,その他の資料は提出したが,上記取水の可能性に関する追加資料を提出しないまま,前と同じ取水計画を提出し,関連の資料にも矛盾があった。

審議会は,控訴人の上記対応からこれ以上控訴人に対し新たな働きかけをしても無駄であろうと判断して,そのまま上記結論を導いた。

b まず,上記控訴人の態度は真摯に協議に応じる意思のないことを窺わせるものであり,湧水・雨水から取水する計画も実現が困難であることも併せると,その計画内容にも重大な疑いをもたれても仕方のないものということができる。また,控訴人がd水源に影響しない湧水・雨水による取水を主張する以上,直ちに枯渇のおそれに関する指導を行いがたく,指導をしても,控訴人から反論を受けて指導が実効性を有しないのではないかとの懸念もある。このようなことからすると,控訴人に対する指導の継続は困難であるとして,その時点で結論を導いた審議会の判断も理解できないではない。

しかし,他方,控訴人は,対象事業協議書を提出した後には,審議会への出頭要求に応じて技術者を同行し,また,本件事業計画について説明をしており,提出を求められた追加資料のうち,排気ガスの処理に関するものは提出したことからすると,控訴人は了解可能なものについては,一応指示に従っていたとみることもできる。また,湧水・雨水によるとの取水計画については,町は知らないこととはいえ,三重県の指導で井戸水の取水から改めたもので,県はこれを受け入れており,また,業者に依頼して作成した資料を提出していたことから,控訴人としては提出済みの資料で十分ではないかとの思いから,抽象的に疑問を示されて追加資料を求められても容易に応じがたい状況であったとも考えられる。そうであれば,被控訴人から控訴人に対し,新たな資料が提出されなかったから,湧水・雨水による取水ではなく,水源に影響を与える態様で取水するとして判断する旨を告知すれば,湧水・雨水による取水であるから,水源枯渇のおそれがないと理解している控訴人において,新たな取水方法や地下水使用量について何らかの対応をした可能性も否定できない。

そうすると,控訴人に対して適切な指導をする方法が全くないとはいえないし,控訴人がこれに応じて本件事業計画を補正することが期待できないとは断定しがたい。

ウ なお,被控訴人は,控訴人が取水量変更の意思は全くないということを事実上表明したこと,被控訴人が本件施設につき認定しない処分をすることはあり得ないことを前提として,本件において取水量の変更等を促すことは,行政手続法33条,34条に反するとも指摘するが,その前提を採用することができないから,いずれも理由がない。

エ 以上のとおりであって,控訴人の側に起因する事情で適切な指導が困難であるとはいえても,これが著しく困難であったとまでは認めるに至らないから,被控訴人は,控訴人において枯渇のおそれの有無が問題とされると理解できるような協議や指導をするべき義務を免れることはできず,これをしたと認められない以上,本件配慮義務に違反して本件処分を行ったものというべきである。

オ その他,被控訴人がるる主張する点はいずれも,被控訴人には本件配慮義務違反があるとの上記判断を左右するものではない。

3  以上のとおりであるから,控訴人のその余の主張について判断するまでもなく,本件処分は違法であり,控訴人の本訴請求は理由がある。

第4結論

よって,控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるから,これを取消し,控訴人の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 多見谷寿郎 裁判官 堀内照美)

裁判長裁判官熊田士朗は,転補のため署名押印することができない。裁判官 多見谷寿郎

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