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名古屋高等裁判所 平成17年(行コ)28号 判決 2005年9月14日

控訴人(1審原告) 甲

被控訴人(1審被告) 一宮税務署長

長沼裕幸

同指定代理人 安福達也

同 佐藤雅典

同 内藤宜彦

同 土井敏弘

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人が控訴人に対して平成15年3月6日付けでした下記の各処分をいずれも取り消す。

ア 控訴人の平成7年分ないし平成13年分所得税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分

イ 控訴人の平成9年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成11年1月1日から同年12月31日までの課税期間、平成12年1月1日から同年12月31日までの課税期間及び平成13年1月1日から同年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の各決定処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分

(3)  訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は、被控訴人が、写真現像焼付業及び印章製造業を営む控訴人に対し、平成15年3月6日付けで、①平成7年分ないし平成13年分(以下「本件各係争年分」と総称する。)の所得税については、その経営に係る4店舗のうち1店舗分についてのみ申告の対象とし、かつ、その申告内容も実際の売上げ及び必要経費の一部のみにすぎないとして、推計の方法による各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を行い、②申告のなかった前掲の各課税期間(以下「本件各課税期間」と総称する。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)についても、各決定処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分を行ったため、控訴人が、これらの処分には、被控訴人が職務上尽くすべき調査義務を果たさないまま行われた重大な瑕疵があるなどと主張して、その取消しを求めた事案である。

2  原審は、本件の税務調査に国税通則法24条、25条の趣旨を没却せしめる事情はなく、上記の各処分はいずれも違法ではないから、控訴人の主張は理由がないとして、その請求をいずれも棄却したところ、控訴人が控訴した。

3  前提となる事実、本件の争点、争点に関する当事者の主張は、次項に控訴人の当審における主張を付加するほか、原判決「第2 事案の概要」欄1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決2頁26行目の「「確定申告欄」」を「「確定申告」欄」と改める。

4  控訴人の当審における主張

(1)  一宮税務署の調査担当者である丙主査及び乙上席は、平成14年11月26日の時点で、控訴人が7年間にわたり帳簿を付けておらず、請求書及び領収書を保存していない事実を認識したにもかかわらず、その後も再三にわたり帳簿等を提出するよう求めることで、提出しないことが控訴人の責任であるかのごとく巧妙に責任転嫁をして、独自調査に正当性があるかのように主張をしている。

(2)  被控訴人は、C信用金庫の合計9口座の預金明細表を基に、控訴人に対してその口座内容を確認することが最良の選択であることを認識していたうえ、控訴人から協力を得ることも可能であった(これは甲5ないし7号証により明らかである。)にもかかわらず、これを行わなかった。

(3)  被控訴人が集金担当者から事情を聞き作成した質問応答書の作成日付は、平成14年12月3日から平成15年1月15日までであるから、控訴人の課税売上高の算出が可能になるのは、この平成15年1月15日以降でなければならず、したがって、それ以前の時期に課税売上高が算出されていたのであれば、それは被控訴人の不正行為であり控訴人に対する課税処分を取り消す合理的理由となるところ、被控訴人は平成14年12月20日時点で既に控訴人に対する税額の算出を終えていた。

(4)  したがって、本件各処分は違法であり、取り消されるべきである。

第3当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、次項に控訴人の当審主張に対する判断を付加するほか、原判決「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるからこれを引用する。

なお、原判決12頁21行目、16頁8行目、同頁20行目、17頁1行目、同頁6行目及び20頁6行目の各「被告職員」をいずれも「一宮税務署職員」と改める。

2  控訴人の当審主張に対する判断

(1)ア  控訴人は、本件各処分が違法であることの根拠として、一宮税務署の調査担当者である丙主査及び乙上席は、平成14年11月26日の時点で、控訴人が7年間にわたり帳簿を付けておらず、請求書及び領収書を保存していない事実を認識したにもかかわらず、その後も再三にわたり帳簿等を提出するよう求めることで、提出しないことが控訴人の責任であるかのごとく巧妙に責任転嫁をして、独自調査に正当性があることの根拠にしていると主張する。

イ  しかし、控訴人の説明から直ちに、控訴人が、真実、帳簿を付けておらず、請求書及び領収書を保存していないと、上記調査担当者らに認識・判断できるわけではないのであるから、その後においても帳簿等の資料の提出を求めることは調査方法として適切であって、控訴人の上記主張は理由がない。

(2)ア  控訴人は、被控訴人がC信用金庫の合計9口座の預金明細表を基に、控訴人に対してその口座内容を確認することが最良の選択であることを認識しながら、また、控訴人から協力を得ることが可能であったにもかかわらず、これを行わなかったと主張する。

イ  まず、上記(引用にかかる原判決)のとおり、控訴人は、本件税務調査において、被控訴人が面接調査時の録音を認めていないことを知った後も録音を認めるよう求める姿勢を継続し、その結果、被控訴人の控訴人に対する調査が進展しなかったものと認められる。

ところで、上記(引用にかかる原判決)のとおり、調査方法(範囲、程度、時期、場所等の実施の細目)については、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある職員の合理的な選択に委ねられていると解される。そして、面接調査における録音については、録音が正確な記録を残すという面もあるが、他方、録音を意識してしまい自由な発言などができず却って真相が明らかにならない、意図的な発言によって証拠作りに利用されたり、さらには編集等により特定の部分を強調するなどして、あたかも録音であるから正確なものとの印象のもと誤った内容の証拠とされる危険などもある。また、面接調査において質問応答書が作成された場合には、被調査者に対しては、内容を確認する機会が与えられ、さらにそれに署名押印をするか否かの判断も留保されている。したがって、被調査者の利益を考慮しても、上記事情からすれば、録音を許さない調査方法は社会通念上も相当性を有するものと認められる。

そうとすると、被控訴人が面接調査時の録音を認めていないことを知った後も録音を許すよう求める姿勢を頑なに続けていた控訴人の態度は、調査に非協力的な態度であったと評価でき、上記調査担当者らが個々の入金の詳細について控訴人から説明を受けることは著しく困難であったと認められるのである。したがって、上記調査担当者らが、控訴人の各預金口座における個々の入金が売上げに当たるか否かなどの詳細な事情を控訴人から聴取することがなかったとしても、調査方法として適切さに欠けるところはないというべきである。控訴人の上記主張は理由がない。

(3)ア  控訴人は、被控訴人において課税売上高を算出できるのは、集金担当者からの事情聴取を終えた平成15年1月15日以後でなければならないのに、被控訴人は、平成14年12月20日時点で既に控訴人に対する税額の算出を終えていたと主張する。

イ  しかし、平成14年12月20日当時に控訴人に対する税額が計算されていたとは、控訴人の提出した甲5号証によっても認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人の上記主張は理由がない。

第4結論

よって、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 坪井宣幸 裁判官 田邊浩典)

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