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名古屋高等裁判所 平成18年(ネ)986号 判決 2007年7月12日

主文

1  1審被告の本件控訴に基づき,原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。

1審原告の請求を棄却する。

2  1審原告の本件控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審を通じて1審原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  1審原告

(1)  控訴の趣旨

ア 原判決を次のとおり変更する。

イ 1審被告は,1審原告に対し,100万円及びこれに対する平成17年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ウ 訴訟費用は,第1,2審を通じて1審被告の負担とする。

エ イにつき仮執行宣言

(2)  1審被告の控訴の趣旨に対する答弁

ア 1審被告の本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は,1審被告の負担とする。

2  1審被告

(1)  控訴の趣旨

主文第1項,第3項と同旨

(2)  1審原告の控訴の趣旨に対する答弁

ア 1審原告の本件控訴を棄却する。

イ 控訴費用は,1審原告の負担とする。

ウ 仮定的に仮執行免脱宣言

第2事案の概要

1  本件は,弁護士である1審原告が,名古屋地方検察庁(以下「名古屋地検」という。)庁舎内の検察官執務室(以下「本件執務室」という。)において,検察官,検察事務官及び刑務官立会の下で,強制執行妨害被告事件(以下「本件被告事件」という。)の被告人として勾留中であり,かつ関税法違反事件(以下「本件被疑事件」という。)の被疑者となったA(以下「A」という。)と,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような短時間の接見(以下「面会接見」という。)を行った際のことにつき,①1審原告が名古屋地検特別捜査部(以下「特捜部」という。)所属のB検察官検事(以下「B検事」という。)に対し,Aとの接見を申し入れたとき,Aは未だ本件被疑事件で逮捕されていなかったのであるから,B検事は直ちに逮捕手続を中止させ,Aと接見させる義務があったにもかかわらず,それをせず違法な接見指定,接見拒否をした,②名古屋地検には検察官が接見のために用い得ることを容易に想到することができ,また,接見のために用いても,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の観点からの問題が生じないことを容易に判断し得るような場所等である警察官同行室(以下「本件同行室」という。),拘置所仮監(以下「本件仮監」という。)及び同庁5階にある待合コーナー(以下「本件待合コーナー」という。)があるのに,B検事は接見設備がないことを理由に違法に接見を拒否した,③本件待合コーナー,本件同行室,本件仮監の方が,被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生の防止の全ての観点から,本件執務室よりも面会接見に適しているのに,B検事,その他の名古屋地検の検事が,本件待合コーナー,本件同行室又は本件仮監において面会接見をさせなかったことは,面会接見について検察官に要求させる特別の配慮を欠いたもので,違法である,④本件面会接見に名古屋地検特捜部所属のC検察官検事(以下「C検事」という。)及びD検察事務官(以下「D」という。)が立ち会ったのは,検察官が面会接見についての配慮義務に違反し,違法である,⑤本件面会接見において,E刑務官(以下「E」という。)及びF刑務官(以下「F」という。)はAの腰部に捕縄(以下「腰縄」という。)を使用し,名古屋拘置所のその他の刑務官らがそれを容認し,C検事らがこれを止めなかったことは違法である,⑥しかして,B検事,C検事,D及び刑務官ら並びにその上司には,上記の違法な公権力の行使について故意過失があり,⑦1審原告がこれにより精神的損害を被った旨主張して,1審被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料100万円,弁護士費用100万円及び懲罰的損害1000万円の合計1200万円の一部である100万円及びこれに対する不法行為の日である平成17年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1審被告は,①B検事は1審原告に対し接見指定権を行使しておらず,かつ接見妨害をしていない,②名古屋地検には接見施設がないから,B検事が接見室等がないことを理由に接見の申出を拒否したことに違法はない,③B検事らは面会接見について特別の配慮義務を尽くしており,本件執務室を面会接見場所としたことに必要性,合理性は認められ,裁量を逸脱又は濫用していない,④1審原告は面会接見にC検事及びDが立ち会うことを承諾しており,またAの逃亡,罪証隠滅,戒護上の支障の発生防止のためには,C検事らが立会う必要があった,⑤腰縄の使用に関する刑務官の判断は合理的であって,裁量の逸脱ないし濫用は認められず,また,検察官らには戒具の使用について刑務官を指揮する法的権限はないのであるから,刑務官の判断を尊重したB検事らの判断に違法はない,⑥1審原告が主張する精神的損害は,結局刑訴法39条所定の接見交通ができなかったことに起因するものにほかならないところ,名古屋地検には接見用施設がなかったのであるから,1審原告は,上記接見交通権そのものを行使することはできなかったのであり,また,本件面会接見は,そもそも十分な秘密交通権の保障は予定されていないのであるから,1審原告の主張する上記損害を国家賠償法上の損害とは認められないなどと主張して,これを争った。

原審は,1審原告の①の主張事実は認められず,②,③及び⑤の違法も認められないが,④について,面会接見においても検察官等の立会いは特段の事情がない限り許されず,検察官らを立ち会わせない方途について具体的に検討することもないまま漫然とC検事らを立ち会わせたB検事の行為は検察官の面会接見についての配慮義務に違反し,また,C検事も上記特段の事情の存否を検討,確認することなく本件面会接見に立ち会ったことは上記配慮義務に違反するとともに,両検事にはこの点につき過失があり,これにより1審原告は本件面会接見において精神的苦痛を被ったとして,1審原告の本訴請求を,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金10万円(慰謝料9万円,弁護士費用1万円)及びこれに対する不法行為の日である平成17年5月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容したため,1審原告及び1審被告がいずれもこれを不服として控訴したものである。

2  争いのない事実等,1審原告の主張及び1審被告の主張は,以下のとおり当審における新主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1審原告の当審における新主張)

(1) 初回の接見又は面会接見拒否の違法

1審原告は,B検事に対し,午後1時35分ころにAとの接見の申出をし,かつ,午後3時20分からの法科大学院の講義のために午後2時50分に名古屋地検を出発する必要があることを伝えていた。他方,C検事は,午後1時39分に本件被疑事件でAを逮捕した。したがって,1審原告の上記接見の申出は,Aが逮捕された直後の初回の接見の申出であった。この場合,検察官は弁解録取の手続を中断させ,午後1時40分ころには,即時に接見又は面会接見させる義務があった。しかるにC検事は犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の告知を終えたのにそのまま弁解録取手続を行った。そして,B検事,C検事は,1審原告の逮捕直後の初回の接見又は面会接見を午後2時43分ころまで行わせずに拒否し,配慮義務に違反した。

(2) 腰縄把持の違法

仮に腰縄付きの面会接見が適法であるとしても,刑務官による腰縄の一端を把持することは被疑者に対し,人格を完全に否定され非人間としての扱いを受けている旨の苦痛と抑圧感を与え,弁護人と自由な解放された心で交流できないようにするものである。したがって,本件取調室内の机等に腰縄の端を緊縛するなどせず,これを刑務官が把持したまま面会接見が実施されたことは,秘密接見を尊重するための配慮義務に違反するもので違法である。

(3) 訴訟費用について

国家賠償請求事件において違法が認容されたにもかかわらず,認容額が少ないことを理由に訴訟費用の加重な負担を市民に課すことになると,市民が国家賠償請求訴訟を提起する際の障害となり,違法な行政権力の行使を国家賠償によって正す機会を奪われる結果となり,憲法17条の法意に反する。

したがって,認容額が請求の一部であっても,訴訟費用はその全額を1審被告に負担させるべきである。

(1審原告の新主張に対する1審被告の主張)

(1) 新主張(1)について

ア 時機に後れた攻撃防御方法であり,訴訟の完結を遅延させるものであるから,却下されるべきである。

イ 本件当時,名古屋地検の庁舎内には弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等は存在しなかった。

被疑者の逃亡,罪証の隠滅及び戒護上の支障の発生などを防止するという要請と秘密交通権の要請を共に満たす条件を整えることができない以上,接見を拒否することは許容されるというべきである。

ウ 弁護人等による被疑者の初回の接見の申出に対して,捜査機関が,弁解録取手続を中断して接見又は面会接見を実施させるべき義務はない。

(2) 新主張(2)について

腰縄を使用する場合に,その一端を刑務官が把持することは,腰縄の使用目的(逃走等の防止)を達成するための使用方法として最も合理的な使用方法であり,当然の使用方法である。腰縄の一端を把持していたことをもって,これが違法であるとの1審原告の主張は,そもそも戒具の使用自体を否定するに等しく,独自の見解というべきである。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,1審原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおり補正する(1審原告の当審における新主張に対する判断を含む。)ほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1ないし8のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決30頁4行目の「C検事」から同5行目までを「C検事ないしDが自分たちに対する発言であると認識しなかったために,1審原告の発言に反応しなかったものと推認するのが相当であるから,C検事及びEの証人尋問の結果は,上記認定を左右するものとはいえない。」と改める。

2  同33頁23行目の次に改行して,以下のとおり加える。

「4 初回の接見又は面会接見拒否の違法(1審原告の当審における新主張(1))について

(1)  上記新主張は,訴訟の完結を遅延させるとはいえないので,時機に後れた攻撃防御方法として却下しない。

(2)  上記認定のとおり,1審原告がAとの接見を申し出たことに対し,1審原告が名古屋地検に到着した直後に本件待合コーナーで行われたB検事と1審原告との間の協議において,B検事が,Aの弁解録取手続終了後に本件執務室で検察官等の立会いの下でAに会ってもらう旨告知したこと(原判決23頁19行目から同24頁17行目まで)は,いわゆる秘密交通権の保障された接見の申出を拒否したものと評価できるが,名古屋地検の庁舎内には,弁護人等と被疑者との立会人なしの接見を認めても,被疑者の逃亡や罪証の隠滅を防止することができ,戒護上の支障が生じないような設備のある部屋等は存在しなかったのであるから,B検事やその他の名古屋地検の検事が上記庁舎内における1審原告の接見の申出を拒否したことを違法ということはできないことは,上記認定,判断(原判決30頁23行目から33頁23行目まで)のとおりである。そして,それが初回の接見であるとしてもその判断は左右されないものというべきである。

(3)  1審原告が午後1時46分ころ名古屋地検に到着し,午後2時40分ころAと面会接見するまでの経過は上記認定のとおりである(原判決23頁19行目から同26頁10行目まで)。

しかして1審原告は,この場合,検察官は弁解録取手続を中断させ,午後1時40分ころには,即時に接見又は面会接見させるべき義務があった旨主張する。しかしながら,逮捕直後の初回接見又は面会接見であったとしても,捜査機関は,刑訴法203条等に掲げる犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の告知それに引き続く弁解録取の手続等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続及びそれに引き続く指紋採取,写真撮影等所要の手続を終えた後において,接見又は面会接見させれば足りるものと解されるから,1審原告の上記主張は採用できない。

以上のとおりであって,1審原告の新主張(1)は理由がない。」

3  同33頁24行目冒頭の「4」を「5」と,同35頁16行目冒頭の「5」を「6」とそれぞれ改める。

4  同35頁18行目から同40頁1行目までを,以下のとおり改める。

「(1) 上記説示のとおり,検察官が検察庁の庁舎内に接見の場所が存在しないことを理由として接見の申出を拒否したにもかかわらず,弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)がなお同庁舎内における即時の接見を求め,即時に接見をする必要性が認められる場合には,検察官は,例えば立会人の居る部屋での短時間の接見などのように,いわゆる秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の接見(面会接見)であってもよいかどうかという点につき,弁護人等の意向を確かめ,弁護人等がそのような面会接見であっても差し支えないとの意向を示したときは,面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務があると解するのが相当である。そして,検察官が現に被疑者を取調べ中である場合や,間近い時に取調べをする確実な予定があって弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは取調べが予定どおり開始できなくなるおそれがある場合など,捜査に顕著な支障が生ずる場合でない限り,検察官が上記接見の申出に対し,上記のような特別の配慮を怠り,何らの措置を執らなかったときは,検察官の当該不作為は違法になると解すべきである(最高裁平成17年4月19日第三小法廷判決・民集59巻3号563頁)。

このように面会接見ができるように特別の配慮をすべき義務は,接見のための設備のある部屋等が存在しないにもかかわらず,そのような設備のある場所での秘密交通権の保障された本来の接見を待たずに,弁護人等の要望により,かつ客観的にその必要性が認められる場合に限り,本来接見が予定されない場所で秘密交通権が十分保障されない短時間の接見を実施するという特別の内容のものである。したがって,検察官においては,短時間でその準備を行う必要があり,かつ,その実施につき罪証隠滅や逃亡のおそれ,戒護における支障の発生等の防止を担保できるような方法を確保する必要があるから,面会接見は,その性質上その実施場所や方法等において,おのずから一定の制約があるものといわなければならない。そして,それは秘密交通権が十分に保障されないことにつき弁護人の了承を得た上で実施されるものであるから,検察庁内のいかなる場所でどのような人の立会いや方法により面会接見を実施するかについては,上記観点に照らしてこれをよく知る検察官に合理的な範囲で裁量権が認められるものと解すべきである。

したがって,検察官において,面会接見ができるように特別な配慮をすべき義務があり,それに基づき面会接見を実施する場合には,その実施場所,立会人の人選,人数及び方法等が,即時実施の必要や被疑者の罪証隠滅,逃亡及び戒護上の支障の発生を防止する観点に照らしてその必要性又は合理性を欠き,裁量権の逸脱又は濫用にあたるような事情がある場合に限り,上記特別の配慮を怠ったものとして違法となるというべきである。

(2) そこで次に,B検事において,面会接見の実施場所,立会人の人選,人数及び方法等が,即時の実施の必要や被疑者の罪証隠滅,逃亡及び戒護上の支障の発生を防止する観点に照らし,必要性又は合理性を欠き,裁量権の逸脱又は濫用にあたるような特段の事情が認められるか否かについて判断する。

ア  上記認定の事実(引用に係る原判決22頁21行目から30頁5行目まで)によれば,B検事は,午後1時46分ころに名古屋地検に到着した1審原告と本件待合コーナーで直ちに面談し,同地検庁舎内において面会接見を行う前提でその方法について協議したこと,1審原告は,本件待合コーナーでの面会接見を希望したが,B検事は1審原告に対し,Aに腰縄と手錠を付けていることから,名古屋地検を訪れた一般人が待機する本件待合コーナーでの面会接見は適切でない旨を伝え,Aの弁解録取手続終了後にそのまま本件執務室において,検察官,検察事務官及び刑務官立会いの下で引き続き面会接見を実施する旨を提案したこと,これに対し1審原告は,面会接見の場所や立会人については構わない旨を述べたが,午後3時までには退庁したいことや,手錠や腰縄付きの面会接見には抵抗を示したため,B検事は名古屋拘置所の処遇部統括矯正処遇官のGに対し,上記手錠等の使用について名古屋拘置所の見解を問い合わせるとともに,C検事に対し,午後2時14分にはAとの接見を希望する1審原告が来庁していることを伝え,その後弁解録取手続が終了した午後2時20分ころには,Aの秘密交通権放棄の意思を確認し,それを書面化するように伝えたこと,他方この間,待機中の1審原告に対し,弁解録取手続終了後Aの身柄を直ちに拘置所に戻した後に拘置所で接見することを勧めたが,1審原告からは上記法科大学院での講義予定を理由にそれを断られたこと,B検事は,C検事がAの上記意思を確認し,その意思を書面化した午後2時38分ころ,名古屋拘置所に先の問い合わせの結果を確認したところ,手錠は外すが腰縄は使用したままにする旨の回答を得たため,午後2時40分ころ,1審原告を本件執務室に案内したこと,Aと1審原告は,本件執務室の出入口ドアを入って左側の壁際に置かれたテーブルの椅子にそれぞれ着席し,Aには腰縄を使用してFがその末端を把持し,Eが上記出入口ドアを入った付近に佇立し,C検事及びDは弁解録取手続から引き続き部屋の中央付近にある執務机の椅子に座ったままで,午後2時43分ころから本件面会接見が開始されたこと,1審原告は,上記開始に先立ってEに対し,退去して腰縄を外すように要請したがこれを拒否され,C検事に対しても部屋の隅に移るように要請したが,それに応じる旨の回答を得られなかったことが認められる。

以上の経過に照らすと,B検事は,1審原告の限定された時間内における面会接見の申入れに対し,限られた時間の中でその実現に向けて一定の配慮を行ったものということができる。そこで上記配慮の合理性等につきさらに検討する。

イ  B検事は,1審原告と面会接見の実施方法について協議をした際,既にAは本件執務室において本件被疑事件につき弁解録取手続に入っており,他方1審原告の予定する退庁時間を厳守するように求められてもいた。そして,上記説示のとおり,本件執務室は,待合コーナーや本件同行室,本件仮監と比較しても,検察官が取り調べをしない限り,一般人やその他の被疑者,被告人が出入りすることはなく,また,弁解録取手続終了後,Aを移動させずにそのまま待機させることが可能であった場所であるから,罪証隠滅や逃亡のおそれ,戒護上の支障発生の防止のみならず,1審原告の予定退庁時間を厳守するとの観点からしても,本件執務室で面会接見を実施したことは,一応の必要性,合理性を認めることができる。

また,本件執務室は名古屋地検の5階の一室ではあるものの,北側は全面がガラス窓でその一部は容易に開閉が可能であった上,鉄格子等の逃亡防止設備はなく,窓の外には人の通行が可能な庇状の張り出しがあったため,南側出入口のほかに北側方向への逃亡を防止する必要もあったものといえる。室内には,合計6脚の椅子が存在し,執務机の上には,藤村の逮捕に関連して作成した手続書類のほか,事件記録の写しの束や証拠関係等をデータ入力してあるコンピュータ等や,鉛筆,ボールペン及び定規といった筆記用具,持ち上げ可能なディスプレー,キーボード等のコンピューター関連の機器があり,机の引き出し内には千枚通し,カッターナイフ及びコンパスといった文房具もあり,これらによる罪証隠滅や逃亡のおそれを防止する必要があったことも否定できない。そうすると,罪証隠滅や逃亡,戒護上の支障の発生を防止するため,Aの傍及び南側出入口に戒護上の責任を負う拘置所職員であるF,Eが,それよりも北側ガラス窓に寄った執務机付近に室内の状況を把握しているC検事及びDがそれぞれ立ち会い,開口部や室内全体を管理できるようにしたことも,一応の必要性,合理性があったというべきである。

そもそも本件面会接見は1審原告の了承の下,接見交通権の十分な保障が放棄されたことを前提に実施されたものであって,既に認定したとおり(引用に係る原判決26頁19行目から21行目),1審原告自身,C検事らに部屋の隅に移ってほしい旨の発言をしているところ,C検事らと部屋の隅との間にそれほどの距離があるとはいえないことからして,上記発言は同検事らが本件執務室内で立ち会うこと自体は承諾するが,接見内容を聞かないようにしてほしいと要望する趣旨であるものと理解することができるから,C検事及びDの立会いが,憲法34条,刑訴法39条又は同条の趣旨に反するということもできない。

ウ  以上によれば,本件面会接見の実施について,B検事が行った配慮は,面会接見の即時実施の必要や被疑者の罪証隠滅,逃亡及び戒護上の支障の発生を防止する観点に照らして,その実施場所,立会人の人選,人数及び方法等において,その必要性又は合理性が認められず,裁量権の逸脱又は濫用にあたるような特段の事情が認められるとはいえないから,B検事において,1審原告に対し面会接見について特別の配慮を怠った違法があるということはできないといわなければならない。」

5  同40頁2行目冒頭の「6」を「7」と改める。

6  同40頁19行目の次に改行して,以下のとおり加える。

「8 腰縄把持の違法(1審原告の当審における新主張(2))について

1審原告は,刑務官が腰縄の一端を把持したままであったことは違法であり,その状態で面会接見させたことは検察官の特別の配慮をすべき義務に違反し違法である旨主張する。

しかしながら,戒護上の支障発生の防止の観点からすれば,腰縄を使用する場合にその一端を刑務官が把持することは腰縄の使用目的上当然のことであり,把持したこと自体をもって違法ということはできない。また,B検事は1審原告の要望に応じ,戒護上の責任を負う拘置所側に対して戒護方法の検討を要請してもいたのであるから,B検事の対応が著しく不合理であって配慮義務に違反したということもできない。」

7  同40頁20行目から同41頁21行目までを削除する。

8  同41頁23行目から26行目までを次のとおり改める。

「以上によれば,1審原告の請求は,その余の争点につき判断するまでもなく理由がない。」

第4結論

以上によれば,1審原告の本訴請求は理由がなく,これと結論を異にする原判決は相当でない。したがって,1審被告の本件控訴は理由があり,1審原告の本件控訴は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本慶一 裁判官 山崎秀尚 裁判官 山下美和子)

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