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名古屋高等裁判所 平成18年(行コ)16号 判決 2007年3月29日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人がP1株式会社に対して平成16年8月13日付けでした原判決別紙処分目録1,2記載の各産業廃棄物処理施設設置許可処分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は,1,2審を通じて被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人が,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成16年法律第147号による改正前のもの,以下,条文を示すときは「法」といい,法律名を示すときは「廃棄物処理法」という。)15条1項に基づき,P1株式会社(以下「P1」という。)に対して,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(平成16年政令第296号による改正前のもの,以下「施行令」という。)7条12号の2及び13号に規定する原判決別紙処分目録1,2記載の各産業廃棄物処理施設(廃ポリ塩化ビフェニル等又はポリ塩化ビフェニル処理物の分解施設及びポリ塩化ビフェニル処理物の洗浄施設)設置許可処分をしたところ,同施設設置予定地の愛知県半田市内に居住する控訴人らが,その生命,健康等に重大な悪影響を受けるおそれがあるなどと主張して,上記処分の取消しを求めたたところ,原審がこれをいずれも棄却したことから,控訴人らが控訴した事案である。

2  前提事実,関係法令等の要旨ないし抜粋,本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり加除訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の「1」ないし「4」に摘示のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決11頁7行目の「本件許可申請」を「本件各許可申請」と改める。

(2)  同15頁16行目冒頭から同20行目末尾までを,「4項 都道府県知事は,産業廃棄物処理施設(政令で定めるものに限る。)について第1項の許可の申請があつた場合には,遅滞なく,第2項第1号から第4号までに掲げる事項,申請年月日及び縦覧場所を告示するとともに,同項の申請書及び前項の書類を当該告示の日から1月間公衆の縦覧に供しなければならない。」と改める。

(3)  同16頁23行目の「前条第1項の許可(略)」を「前条第1項の許可(同条第4項に規定する産業廃棄物処理施設に係るものに限る。)」と改める。

(4)  同18頁2行目の「PCB特措法」の次に「(平成17年法律第33号による改正前のもの)」を加える。

(5)  同20頁7行目の「(」の次に「平成16年環境省令第22号による改正前のもの。」を加える。

(6)  同27頁14行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「リ 生成ガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすること。」

(7)  同28頁2行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「ヌ 生成ガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすること。」

(8)  同30頁13行目及び同44頁17行目の各「本件分解施設から」を,それぞれ「法15条の2第1項2号に適合しないのに本件各許可処分をした違法があるか。審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,これに依拠した本件各許可処分は違法か。本件分解施設から」と改める。

(9)  同42頁10行目末尾に「生活環境影響調査の調査対象地域は,調査事項が生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として申請者が設定するところ,P1は,本件各施設の稼働による排ガスが周辺の大気環境に与える影響についてPCBやダイオキシン類の最大着地濃度の出現する地点(事業予定地の南南東約460m)までの距離を勘案して本件条例施行規則10条に規定する知事が別に定める基準により同地点までの距離の概ね2倍である事業予定地を中心とした半径1kmの円内を生活環境影響調査の調査対象地域として設定した。すなわち,P1は,上記地域こそ,生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として認識していたことになる。また,本件条例9条1項にいう「関係地域」とは,本件条例施行規則10条により「知事が別に定める基準により当該施設の設置等に伴い生活環境に影響を及ぼすおそれがあると認められる地域」と定められており,具体的には「廃棄物処理施設の区分に応じ,調査事項毎に定める調査対象地域が含まれる町又は字の区域」をいうのであるから,本来,P1の定めた上記生活環境影響調査の調査対象地域が,関係地域に該当する。」を加える。

(10)  同44頁20行目末尾に改行して,次のとおり加える。

「ア 本件分解施設が法15条の2第1項2号に適合するか否かを判断するに際し,「現在の科学技術水準に照らし,審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該施設が具体的審査基準に適合するとした審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,都道府県知事の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,上記判断に不合理な点があるものとして,これに基づく許可処分は違法となると解すべきである(最高裁平成17年5月30日第1小法廷判決・民集59巻4号671頁)。」との判断基準に依拠すべきではない。その理由は,許可権者は行政庁であるから,審査会の意見に従って判断しさえすれば足りるというのでは,行政庁の責任をあまりにも軽視し,司法審査の範囲を限定しすぎるものであり,また,前提として審査会に極めて高度な審査能力が備わっていることが必要となるが,実際の審査会にはそのような審査能力はなく,さらに,行政庁には,専門知識がないのであるから,看過し難い過誤,欠落の有無の判断能力もないことになり,自己矛盾を来しているからである。

少なくとも,原子炉等規制法と廃棄物処理法とでは,許可要件の全てに専門家の意見を聴く必要があるか否か,委員会を支える専門的な知識を有する職員が多数いるか否か,事例の蓄積があるか否かについて相違があり,原子炉等規制法にかかる上記最高裁判決がそのまま廃棄物処理法の判断に妥当するとはいえない。

イ 仮に,上記判断基準に従って判断すべきであるとした場合,本件各許可処分については,審査会の調査審議及び判断の過程に,次のような看過し難い過誤,欠落があり,これに依拠した本件各許可処分は違法である。

a PCB分解施設設置許可の申請書には,法15条2項6号に規定する構造計画にかかわる事項については,「設計計算上達成することができる排ガスの性状等生活環境への負荷に関する数値」を記載しなければならず(施行規則11条2項),法15条2項7号に規定する特別管理産業廃棄物処理施設の維持管理に関する計画については「排ガスの性状,放流水等について周辺地域の生活環境の保全のために達成することとした数値」を記載しなければならいない(施行規則11条3項)。P1は,本件分解施設許可申請において,上記「達成することができる排ガスの性状及び数値」として,予熱器熱風発生炉バーナー,過熱器熱風発生炉バーナー及び固形物用蒸発器等のバーナーの焼却排ガス量と濃度の記述しかしていない。

しかし,上記「達成することができる排ガスの性状及び数値」には「生成ガス」の性状及び数値,具体的にはダイオキシン類,PCB,メタン,ベンゼン,塩化水素等の数値が記載されるべきである。すなわち,特別管理産業廃棄物処理施設において処理に伴って生じる排ガスについては,気相水素還元法を含む還元熱化学分解方式のダイオキシン類の排出基準は,施行規則の維持管理基準で定められているところ,「除去設備の出口における生成ガス中のダイオキシン類濃度が1立方メートル当たり0.1ナノグラム以下となるよう処理すること」と明記されている(施行規則12条の7第13項4号ト,6号チ,同14項3号チ,5号リ)。また,生成ガス段階でダイオキシン類濃度基準を満たしても,水素,メタン及びベンゼンや一酸化炭素等が含まれ,直接環境中に排出すると生活環境保全上の支障が生じる可能性があるため,焼却分解してから排出されるのであり,最終排出段階でダイオキシン類が挙げられていないことからも裏付けられる。このように最終排出段階の前段階のこともあり得る生成ガス段階での基準が定められているのは,一般廃棄物とは異なった危険性の非常に高い特別管理産業廃棄物であるPCBの分解施設としては,除去設備の出口の生成ガスの段階でプロセスが一応完結するからである。

なお,生成ガスが排ガスとの表記になっているのは,廃棄物処理法はもともと焼却施設(施行令7条12号)の定めしかなかったところ,平成9年の改正によりPCB化学処理技術が認められ,平成10年の施行規則等の改正によりPCB関連廃棄物の処理基準が定められたため,分解施設(法12条の2)についても,従来の規定が適用される箇所については,処理施設のガス排出基準の定めとして一般的な用語である排ガスがそのまま適用されることによる。また,施行規則3条1項5号は,法8条の一般廃棄物処理施設設置許可申請の際に記載すべき大気汚染防止法に規定する排ガスの性状に関する規定であり,特別管理産業廃棄物の処理施設に関するものではない。

また,本件分解施設設置許可申請において,達成すべき数値として,予熱器(オフガス燃焼時)の排ガス成分濃度を記載し,その中で,窒素酸化物=100ppm,ばいじん=0.007g/m3Nとしている。しかし,還元熱化学分解方式による分解ガスの成分には,窒素酸化物及びばいじんは発生しないはずであり,この点にも誤りがある。

結局,P1は,本件各許可申請では,施行規則11条2項5号及び同3項1号の「排ガスの性状・・・数値」の欄に燃焼排ガスの数値を記載しており,被控訴人は,生成ガスの濃度についての技術上の要件を満たすデータが不足していることを認識しながら,その旨の指摘を審査会にしなかったし,審査会も生成ガス濃度のデータのないまま,本件分解施設設置許可申請の申請書や配布資料に記載された燃焼排ガスの数値を前提に,技術上の基準に適合しているか否か審査をしている。したがって,審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠陥があったと言わざるをえない。

b 被控訴人は,本件計画書を精査した結果,技術上の基準を満たすか否かが不明な362項目の疑義事項を照会し,これに対し,P1は,実証試験は技術認定を受けたものであるから,実証試験の結果から証明できるとの回答に終始し,本件各許可申請にも上記疑義事項の照会,回答は何ら反映されていない。議事録からは,被控訴人の上記疑義が審査会に伝えられた様子はなく,審査会の調査審議は,科学的データに基づかず,本件分解施設でPCBの分解ができるか否かの具体的検討をした様子も窺えない。

c 審査会には,審査において用いられるべき合理的な具体的基準も存在しなかった。

d P1は,水蒸気を850度以上に昇温した反応器に送るだけで,水性ガス反応が起こる,ベンゼンが一酸化炭素や二酸化炭素にまで分解されると仮想しているが,水がラジカルな状態になっていなければ,上記のような分解をさせることは容易ではないのだから,ベンゼンのような有機残さがゼロとなることはあり得ない。

P1は,法15条の2第5項に規定された使用前検査の一環として,平成18年6月,8月及び10月に総合調整試運転等を行い,非PCB試験物負荷試運転では,試験物の分解生成物であるメタンの発生を確認したが,水性ガス化反応による一酸化炭素や二酸化炭素の発生量が計画に比べて低い結果に終わり,また,既知成分の試験物(トリクロロベンゼン)の噴霧試験の結果,確実な脱塩素反応は確認されたが,安定的な水性ガス化反応データは得られなかった。

水性ガス化反応が進行しないこと,したがって気相水素還元法ではPCBを無害化できず,上記基準を充足できないことは,審査会の調査審議段階で予想されたことであり,PCBを安定して処理できるとした審査会の判断は明らかに科学的根拠を欠く。

e 上記のとおり,ベンゼンが残っているのであり,ベンゼンは生活環境保全上の支障が生じる可能性がある物質であるから,施行規則12条の7第13項4号リ,同14項3号ヌに規定する「生成ガスによる生活環境保全上の支障がないようにすること」の要件にも反しており,これも審査会の調査審議段階で予想されたことである。」

(11)  同頁21行目の「ア」を「ウ」と改める。

(12)  同46頁4行目の「(煙突)」を削除する。

(13)  同頁11行目の「イ」を「エ」と改める。

(14)  同48頁19行目末尾に改行して,次のとおり加える。

「反応器内でダイオキシン類が合成される場合としては,塩素化芳香族からの生成反応と,分子構造的にダイオキシン類とは比較的関連性の薄い化合物からの生成反応であるデノボ合成がある。P1による非PCB試験物負荷試運転では,反応器内で水性ガス化反応が十分に進まず,想定よりも多くのベンゼンが残っていること,及びデノボ合成が生じる可能性も含めると,本件分解施設の反応器内でダイオキシン類が合成される可能性は,P1が想定するよりも高く,除去設備の出口における生成ガス中のダイオキシン類濃度が1立方メートルあたり0.1ナノグラムを超える危険性も高い。」

(15)  同50頁22行目末尾に改行して,次のとおり加える。

「ア 廃棄物処理法15条1項に基づく産業廃棄物処理施設の設置については,都道府県知事が許可の権限を有しているところ,同法15条の2第1項2号に掲げる事項について,生活環境の保全に関し環境省令で定める事項について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならないと規定しており(同条3項),上記専門的知識を有する者(からなる審査会)の意見を十分尊重して行う都道府県知事の合理的な判断に委ねていると解される。また,産業廃棄物処理施設のように高度に専門的・科学的検討を必要とする施設の設置について,専門家による審査結果を踏まえて判断することは,科学的合理性に従った許可権者の判断を担保する有効かつ合理的手段である。したがって,「現在の科学技術水準に照らし,審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該施設が具体的審査基準に適合するとした審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,都道府県知事の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,上記判断に不合理な点があるものとして,これに基づく許可処分は違法となると解すべきである(最高裁平成17年5月30日第1小法廷判決・民集59巻4号671頁)。」との判断基準に依拠するのは当然である。

原子炉等規制法が,一定の事項について,専門家等の意見を聴くべきとしている趣旨は,高度に専門的・科学的事項について,許可に際して参考とすべき科学的・合理的な判断材料をより多様にするためであって,この点の立法趣旨は廃棄物処理法でも同じである。どのような事項について専門家等の意見を聴くことにするかは立法の合理的裁量判断の結果である。したがって,原子炉等規制法と廃棄物処理法とで基準が異なる必要はない。

イ 審査会の調査審議及び判断の過程には,次のとおり,過誤,欠落はない。

(ア) 施行規則11条2項5号の「設計計算上達成することができる排ガスの性状,・・・・その他生活環境の負荷に関する数値」,同3項1号「排ガスの性状,放流水の水質等について周辺地域の生活環境の保全のために達成することとした数値」は,「排ガスの性状」については,施行規則3条1項5号で定義されており,環境中に排出される「排ガス」に関する規定であり,「生成ガス」すなわち,反応設備から排出されたガスとは異なるものである。なお,生成ガスのダイオキシン類濃度については,本件分解施設設置許可申請の維持管理計画に記載され,P1の計画では,本件分解施設にかかる生成ガスの測定については,除去設備(スクラバ)の出口において,ダイオキシン類を6か月に1回以上測定することとしており,施行規則12条の7第13項4号チ,同第14項3号リの維持管理計画に関する基準を満たしている。

施行規則12条の7第13項4号リ,同14項3号ヌの規定は「生成ガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすること」と規定されており,還元熱化学分解法ではプロセスにより違いはあるが,使用される薬剤ガスや生成ガスの成分に水素,メタン及びベンゼンや一酸化炭素が含まれ,これらのガスが直接環境に排出すると生活環境上支障を生じる可能性があるため,原料ガスとして利用する場合を除き,燃焼分解させてから排出することが一般的である。このため,還元熱化学分解方式によって排出される排ガスの性状として,生成ガスから水素を回収したガス(オフガス)を燃料として利用する予熱器の排出ガスについて,その性状,その他生活環境負荷に関する数値等が上記申請書に記載されている。なお,生活環境の保全に適正な配慮が行われているか否かについては,大気汚染防止法等公害防止関係法令による基準が定められている項目については,少なくとも当該基準を満たす数値となっていることが必要である。

(イ) 審査会は,気相水素還元法が旧通産省の難分解性有機化合物処理技術検討評価委員会において技術評価を受け,海外での実績もあり,実証実験においてPCB濃度及びダイオキシン類濃度等が測定されていること,実証実験の結果やその改良により,本件分解施設がダイオキシン類濃度を0.1ng-TEQ/m3N以下に処理できると判断したものである。

(ウ) 被控訴人の本件計画書に対する疑義事項は,平成16年3月30日に提出されたPCB廃棄物処理施設設置等修正計画書の中で問題となる事項は整理され,計画内容等は法定の要件を満たすものとなり,本件各許可申請にも反映されている。審査会においては,「廃棄物処理構造基準に対するP1の計画概要」,「廃棄物処理法維持管理基準に対するP1の計画概要」及び本件各許可申請等を用い,計画内容に疑義がある場合は質問等を行い,事業者見解を提出させる等し,利害関係人の意見や市町村長の意見を踏まえ,生活環境保全上の見地から8回にわたり慎重に審議検討がなされて,本件分解施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画は,廃棄物処理法に定める技術上の基準に適合しており,同法に定める周辺地域の生活環境の保全及び周辺の施設について適正な配慮がなされたものであると判断されたものである。

(エ) 審査会においては,廃棄物処理法が定めている具体的基準に基づいて審査がなされている。すなわち,審査会においては,施行規則12条,12条の2に規定されている産業廃棄物処理施設の設置許可基準に適合しているか否か,法15条3項に規定する当該施設を設置することによる周辺地域の生活環境に及ぼす影響の調査結果について周辺地域の生活環境の保全等に適正な配慮がなされたものであるかなどを,慎重に審査・検討している。」

(16)  同頁23行目の「ア」を「ウ」,同51頁18行目の「イ」を「エ」,同53頁6行目の「ウ」を「オ」と,それぞれ改める。

(17)  55頁2行目末尾に行を改め,次のとおり付加する。

「当該廃棄物処理施設の周辺環境は千差万別であり,それゆえその周辺環境にふさわしい環境基準を設定することや,科学技術は日進月歩であり,当該申請者が利用しうる最善の技術で達成可能な環境基準を設定することは望ましいことであり,廃棄物処理法の趣旨にも合致する。」

(18)  同72頁25行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「加えて,原審口頭弁論終結後,本件各施設において,施設建設後に,P1が許可されたものとは異なった設備の変更を数十カ所にわたって行い,しかも変更申請手続をしていなかったことが明らかになった。」

(19)  同73頁17行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「本件各許可処分の適法性は,許可時を基準に判断されるべきであり,控訴人らの主張する本件各許可処分後の事情は,本件各許可処分の違法事由たり得ない。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も控訴人らの請求はいずれも棄却されるべきものと判断する,その理由は,次のとおり加除訂正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の「1」ないし「8」に説示のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決75頁17行目の「一定」から,同行から同18行目にかけての「許可制」を削除する。

(2)  同84頁4行目の「未然の」を「未然に」と改める。

(3)  同90頁9行目末尾に「なお,被控訴人は,P1が,事業予定地を中心とした半径1kmの円内を生活環境影響調査の調査対象地域として設定し,上記地域こそ,生活環境に影響を及ぼすおそれがある地域として認識していたこと,これが本来は本件条例9条1項にいう関係地域に該当する旨主張するが,P1は,生活環境影響調査や異常時拡散予測が一定の前提条件の下でなされたものであることを認識していたはずであり,P1があえて半田市全域を関係地域として住民説明会を行ったことからすれば,被控訴人主張のP1の認識を推測することは困難というべきである。」を加える。

(4)  同90頁11行目の「本件分解施設から」を,「法15条の2第1項2号に適合しないのに本件各許可処分をした違法があるか。審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,これに依拠した本件各許可処分は違法か。本件分解施設から」と改める。

(5)  同頁13行目末尾に,改行して,次のとおり加える。

「(1) 都道府県知事は,法15条4項に規定する産業廃棄物処理施設(施行令7条の2により,同7条3号,5号,8号及び12号から14号に規定する処理施設であり,産業廃棄物の焼却施設,埋立処分の最終処分場のほか,PCB汚染物等の焼却施設,分解施設,分離施設が含まれる。)に係る設置の許可をするについては,あらかじめ,法15条の2第1項2号に掲げる事項について,生活環境の保全に関し環境省令で定める事項(施行規則12条の3により,廃棄物の処理並びに大気汚染,水質汚濁,騒音,振動及び悪臭に関する事項と定められている。)について専門的知識を有する者の意見を聴かなければならないとされている(同条3項)。

これによれば,法15条の2第1項2号に規定する産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が,周辺地域の生活環境の保全等について配慮がなされているかの判断については,法は,都道府県知事の専門的・技術的裁量を認めているものということができる。このことは,廃棄物の処理や大気汚染等生活環境に対する影響につき専門的知識を有する者の意見に基づいて適切に判断する必要があり,特に,その判断内容が,計画段階である維持管理に関する計画にかかるものであり,専門的・科学的な知見に基づく予測を要するものであることから,これらの事項について専門的知識を有する者の意見を聴取することを要することにしたものと解される。

そうすると,法15条の2第1項2号の基準適合性については,専門的知識を有する者もしくはこれらの者からなる審査会の意見に看過し難い過誤,欠落があり,都道府県知事の判断がこれに依拠したと認められる場合には,都道府県知事の判断に不合理があるとして,設置許可処分は違法と解すべきである。控訴人らは,上記判断基準によるべきではない旨主張するが,原子炉等規制法が専門家等の意見を聴くべきとしているのは,高度に専門的・科学的事項であり,原子力安全委員会の意見を十分に尊重して主務大臣が判断を行うべきとしているのであるが,これと比較すれば,その程度を異にするとはいえ,都道府県知事の判断について,専門的・技術的裁量が否定できない以上,上記基準によるべきといえる。

(2) そこで,本件において,審査会が行った調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤や欠落があるかについて,判断する。

ア 法15条2項6号,施行規則11条2項5号の「設計計算上達成することができる排ガスの性状,・・・・その他生活環境への負荷に関する数値」,法15条2項7号,施行規則11条3項1号の「排ガスの性状,放流水の水質等について周辺地域の生活環境の保全のために達成することとした数値」は,環境中に排出される「排ガスの性状」に関する規定であり,「排ガスの性状」は,施行規則3条1項5号で「排気ガス中の大気汚染防止法第6条2項に規定するばい煙量及び同項に規定するばい煙濃度並びにダイオキシン類濃度」と定義されており,「生成ガス」すなわち,除去設備から排出されたガスとは異なる。この点,控訴人らは,施行規則3条は一般廃棄物処理施設設置許可申請に関するものであるから,特別廃棄物処理施設設置許可申請には適用がない旨主張するが,施行規則上,上記定義について一般廃棄物処理施設設置許可申請に限定するとの記載はないから,採用できない。

また,廃棄物処理施設の維持管理の技術上の基準として,施行規則12条の7第13項4号リ,同14項3号ヌに「生成ガスによる生活環境保全上の支障が生じないようにすること」と規定されているところ,還元熱化学分解法ではプロセスにより違いはあるが,使用される薬剤ガスや生成ガスの成分に水素,メタン及びベンゼンや一酸化炭素が含まれ,これらのガスが直接環境に排出されると生活環境上支障を生じる可能性があるため,原料ガスとして利用する場合を除き,燃焼分解させてから排出することが一般的であることから(乙65),生活環境の保全を計るためには,生成ガスから水素を回収したガス(オフガス)を燃料として利用する予熱器の排出ガス(燃焼排ガス)について,その性状,その他生活環境負荷に関する数値等を廃棄物分解施設設置許可申請書に記載することが合理的であり,本件分解施設設置許可申請でも燃焼排ガスの数値等が記載されている(甲148,150,151,乙66,69)。

なお,除去設備の出口から排出された生成ガスのダイオキシン類濃度については,本件分解施設設置許可申請の維持管理計画に記載されている(乙69)。

したがって,P1が本件分解施設設置許可申請に必要な数値を記載しなかったとか,審査会がデータ不足のまま調査審議したということはない。

イ 控訴人らは,審査会の調査審議は,科学的データに基づかず,本件分解施設でPCBの分解ができるか否かの具体的検討をした様子も窺えない旨主張する。しかし,審査会は,気相水素還元法が旧通産省の難分解性有機化合物処理技術検討評価委員会において技術的評価を受け,海外での実績もあり,実証実験においてPCB濃度及びダイオキシン類濃度等が測定され,処理原理としては既に確立していることから,主として,本件分解施設の実際の処理が廃棄物処理法の定める生成ガス中のダイオキシン類濃度を安定かつ確実に達成できるか否かなどを調査審議している。本件分解施設がダイオキシン類濃度を0.1ng-TEQ/m3N以下に処理できるか否かについての調査審議については後記のとおりであり,その他,審議会においては,「廃棄物処理構造基準に対するP1の計画概要」,「廃棄物処理法維持管理基準に対するP1の計画概要」及び本件各許可申請を用い,計画内容に疑義がある場合は質問等を行い,事業者見解を提出させる等し,利害関係人の意見や市町村長の意見を踏まえ,生活環境保全上の見地から8回にわたり慎重に審議検討がなされており(甲12の1ないし3,乙21,37,41,52ないし58,69ないし71,証人P2),調査審議の過程に問題はない。

なお,排ガスの性状について周辺地域の生活環境保全のため達成することとした数値のうち,燃焼排ガスの排ガス成分濃度については,実証実験及び豊川での性能確認試験結果から,計算により算出している(甲148)。

ウ 控訴人は,審査会の調査審議において用いられるべき合理的な具体的基準も存在しなかった旨主張する。しかし,審査会においては,施行規則12条,12条の2に規定されている産業廃棄物処理施設の設置許可基準に適合しているか否か,法15条3項に規定する当該施設を設置することによる周辺地域の生活環境に及ぼす影響の調査結果について周辺地域の生活環境の保全等に適正な配慮はなされたものであるかなどの具体的基準に基づき調査審議している。なお,豊田市PCB廃棄物適正処理委員会及び環境事業団ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会は,法15条の2第3項の専門的知識を有する者(から成る審査会)ではなく,申請前の段階に,採用するPCB処理方式を決めるに当たり,各種の処理方式の特徴を検討・評価したものである(甲152,乙67)。

エ また,控訴人らは,水蒸気を850度以上に昇温した反応器に送るだけでは水性ガス反応は起こらない旨主張するが,気相水素還元法の実証実験の結果,気相水素還元方式を含む還元熱化学分解方式が施行規則で新たなPCB処理技術として認められていること,海外での実績に照らし採用できない。さらに,使用前検査の一環としてなされた総合調整試運転等の結果が本件分解施設設置許可申請で予定した結果を得られなかったことから,杜撰な申請内容であり,これに基づく審査会の調査審議も十分な安全性を確認したものではなかった旨主張する。しかし,控訴人らの主張は結果論にすぎず,計画段階で,しかも後に使用前検査が予定されている段階における維持管理の計画の適法性の判断にかかる科学的な予測である審査会の調査審議について,具体的問題点を指摘するものではなく,結局は実証試験のスケールが小さかったことを問題視する以上のものではなく,採用できない。」

(6)  同90頁14行目の「(1)」を「(3)」に改める。

(7)  同92頁6行目から26行目末尾までを,次のとおり改める。

「(4) 本件分解施設は施行規則12条の7第13項4号ト及び14項3号チに適合するかについて

ア 施行規則12条の7第13項4号ト及び14項3号チには,PCB分解施設の除去設備の出口における生成ガス中のダイオキシン類濃度が1立方メートルあたり0.1ナノグラム以下となるように処理されることを定めている。」

(8)  同95頁14行目末尾に,次のとおり加える。

「この点につき,控訴人らは,本件分解施設の反応器内でダイオキシン類が発生する可能性はP1が想定するよりも高い旨主張する。しかし,反応器内で気相水素還元方式によりダイオキシン類が合成されることがないことは前記のとおりであり,また,デノボ合成は未燃炭素の構造の一部が酸化反応によって分離し,ダイオキシン類の炭素骨格となることによって生じ,触媒物質として銅などの金属類が重要であり,生成温度域は250から350度であり,同条件であれば塩素化芳香族からの生成が主となると考えられている(甲168)ところ,本件分解施設の反応器内(温度は800度から850度,酸素は駆除されている。)のどの様な条件下でP1が想定する以上のデノボ合成が進むと主張するのか明らかではなく,採用できない。」

(9)  同97頁8行目末尾に「また,自主基準値が,廃棄物処理施設の周辺環境の個性に個別に,科学技術の進歩に即座に,対応し得るものであることは,自主基準値を廃棄物処理施設設置許可の要件とすべきことと直ちに結びつく訳ではない。」を加える。

(10)  同99頁2行目の「1ナノグラム」を「1マイクログラム」と改める。

(11)  同103頁5行目の「有すること」を「有することを」と改める。

(12)  同108頁19行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「控訴人らは,本件各施設において,施設建設後に,P1が許可されたものとは異なった設備の変更を数十カ所にわたって行い,しかも変更申請手続をしていなかったことが明らかになった旨主張するが,それらは,本件各許可処分後の出来事であるから,本件各許可処分の違法事由たり得ない。」

2  よって,控訴人らの控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 戸田彰子 裁判官 濱口浩)

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