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名古屋高等裁判所 平成19年(ネ)1016号 判決 2008年4月17日

控訴人兼被控訴人

高木製綿株式会社(以下「一審原告」という。)

代表者代表取締役

同上

訴訟代理人弁護士

楠田堯爾

同上

加藤知明

同上

深井靖博

同上

鈴木誠

被控訴人兼控訴人

Y1(以下「一審被告Y1」という。)

被控訴人

コンボ開発有限会社(以下「一審被告コンボ開発」という。)

代表者代表取締役

一審被告ら訴訟代理人弁護士

草野勝彦

同上

平野好道

同上

丹羽正明

同上

清水浩二

同上

河合伸彦

主文

1  一審原告の控訴に基づき、原判決の一審原告の敗訴部分のうち、次項及び第3項の請求に係る部分を取り消す。

2  一審被告Y1は、一審原告に対し、一審被告コンボ開発と連帯して、原判決主文第2項の金員のほか、326万2000円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  一審被告コンボ開発は、一審原告に対し、一審被告Y1と連帯して、1953万円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  一審原告のその余の控訴及び一審被告Y1の控訴をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は1、2審を通じて、一審原告に生じた費用の10分の9と一審被告らに生じた費用の10分の9を一審原告の負担とし、その余を一審被告らの負担とする。

6  この判決の主文第2項及び第3項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  一審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)(主位的請求) 一審被告らは、一審原告に対し、原判決別紙1物件目録1ないし31記載のコンテナを引き渡せ。

(3)(主位的請求) 一審被告らは、一審原告に対し、連帯して、9606万1330円及び平成18年2月1日から原判決別紙1物件目録1ないし31記載のコンテナの引渡済みまで1か月315万1750円の割合による金員を支払え。

(4)(予備的請求) 一審被告らは、一審原告に対し、連帯して、6億4469万7835円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  訴訟費用は、1、2審とも一審被告らの負担とする。

(6)  仮執行宣言

2  一審被告Y1

(1)  原判決中、一審被告Y1の敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る一審原告の請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は、1、2審とも一審原告の負担とする。

第2事案の概要

1  一審原告は貸コンテナ事業を営むところ、その取締役であった一審被告Y1がその家族により設立された一審被告コンボ開発をして貸コンテナ事業をさせたとして、

(1)  一審被告Y1に対し、

ア 主位的に、委任又はその類推によりコンテナの引渡し、貸コンテナ事業により既に得た平成13年7月5日から平成18年1月31日までの利益9610万8060円の返還、コンテナ引渡義務の履行遅延による平成18年2月1日からコンテナの引渡済みまでの1か月315万1750円の割合による遅延損害金の支払を求め、

イ 予備的に、競業避止義務違反又は不法行為(民法709条)による損害賠償として、(ア)一次的に、一審被告コンボ開発が既に得た利益及び将来得られる利益に相当する賠償金6億4469万7835円及びこれに対する訴状送達後である平成16年12月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、(イ)二次的に、一審被告Y1及びその家族が一審被告コンボ開発から得た利益に相当する2億1996万9201円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の支払を求め、

(2)  一審被告コンボ開発に対し、法人格否認の法理又は不法行為(民法44条1項、709条、715条)により、一審被告Y1と同様の請求をする事案である。

原審が、(1)一審被告らに対する主位的請求をいずれも棄却し、(2)予備的請求について、一審被告Y1に対し、競業避止義務違反により、一審被告Y1が平成13年7月8日から平成16年4月28日までの間に得た利益に相当する損害賠償金1626万8000円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の予備的請求をいずれも棄却したことから、これを不服とする一審原告及び一審被告Y1が控訴した。

2  前提事実、主位的請求の争点及び争点に対する当事者の主張、予備的請求の争点及び争点に対する当事者の主張は、次のとおり付け加えるほか原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」ないし「3」記載のとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決書3頁22行目の「代表取締役であった」を「代表取締役であり、同日、取締役を退いた」と改める。

(2)  同22頁20行目の末尾の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「 また、一審被告コンボ開発は、一審被告Y1の違法行為に加担するものであるから直接民法709条により、また、一審被告Y1は同コンボ開発の事実上の主宰者であるから民法44条あるいは民法715条により、損害賠償責任を負う。」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、一審原告の請求は、主位的請求についてはいずれも理由がなく、予備的請求については競業避止義務違反による損害賠償として、一審被告らに対し連帯して1953万円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がないと判断する。その理由は、次の2ないし6のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の「1」及び「2」記載のとおりであるからこれを引用する。

ただし、原判決書25頁11行目の「契約書に」を「平成17年から解約案内に」と改め、同34頁5行目冒頭から同36頁12行目末尾までを削る。

2  一審被告Y1の競業避止義務違反の有無

(1)  一審被告らは、一審被告Y1は同コンボ開発の事実上の主宰者ではないから競業避止義務違反はない旨主張する。

しかし、①一審被告Y1は、一審被告コンボ開発の出資持分を有していないが、一審被告コンボ開発の運転資金の多くは一審被告Y1からの借入に依っていること、②コンテナの敷地となる土地の賃貸借について一審被告Y1が連帯保証人となっていること、③一審被告Y1は一審原告で貸コンテナ事業を担当していたところ、一審被告コンボ開発においては、貸コンテナ事業で重要な土地の賃貸借契約を一審被告Y1が担当し、土地の貸主の紹介、貸コンテナの設置作業、仲介及び集金等については一審原告が利用してきたのと同一の業者を利用していること、④一審被告コンボ開発の事務所は一審被告Y1の自宅であり、これは一審被告Y1の取締役在任中の一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業の事務所と同一であることなどからすれば、一審被告コンボ開発においては、資金調達、信用及び営業について一審被告Y1が中心的役割を果たしているといえる。これに一審被告コンボ開発に出資し業務に従事しているのが一審被告Y1の家族であることからすれば、一審被告Y1は一審被告コンボ開発を事実上主宰して、一審被告コンボ開発において貸コンテナの利用に係る賃貸借契約をして、競業避止義務に違反したというべきである。

(2)  なお、一審被告らは、貸コンテナの利用に係る賃貸借契約書に連絡先として一審被告Y1の自宅の住所及び電話番号等が記載された事実はなく、一審被告コンボ開発の連絡先として解約案内に一審被告Y1の住所及び電話番号が記載されるようになったのは平成17年ころからであるから、一審被告Y1が事実上の主宰者とはいえない旨主張し、証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば、上記平成17年以降の解約案内の記載が認められる。しかし、①平成17年以降、解約案内に一審被告Y1の自宅の住所及び電話番号が記載され、②貸コンテナ事務所によっては連絡先として一審被告Y1の自宅の電話番号が記載されているところもあること(乙64、76、弁論の全趣旨)からすれば、貸コンテナ事業に関し一審被告Y1の自宅が連絡先となり得ること自体が、同所が一審被告コンボ開発の事務所としての機能を果たしていること、ひいては一審被告Y1が一審被告コンボ開発の事実上の主宰者であることを裏付けるひとつの事実といえ、解約案内に連絡先が記載された時期如何によって前記(1)の認定が左右されるものではない。

3  一審原告の取締役会における承認の有無、信義則違反

(1)  一審被告らは、一審原告においては平成16年までは取締役会が開催されたことはないが、これに代わるものが、一審被告Y1、B及びAの話合い(平成12年以降は一審被告Y1及びAの話合い)であったところ、一審被告コンボ開発の設立、貸コンテナ事業については、B及びA(あるいはAのみ)は了解していた旨主張する。

しかし、一部の取締役が集まって協議をして合意したとしても、これをもって取締役会の事前事後の承認があったとはいえない。

また、兄弟の話合いをもって信義則上取締役会の承諾があったと実質的に同視できる場合が有り得るとしても、①一審原告及びその関連会社の株式が一審被告Y1、B及びAとその家族によって概ね3等分して保有されているのとは異なり、一審被告コンボ開発の出資持分は一審被告Y1の家族のみによって保有されており、利益の帰属先が異なっていることから、営業地域を全く異にするのでなければ、一審被告コンボ開発の貸コンテナ事業を許容すべき理由はB及びAにはないこと、②B及びAは、貸コンテナ事業については一審被告Y1に委ねており、また、貸コンテナ事業に関する事務は一審被告Y1の自宅を事務所として遂行されていたことから、その具体的内容を把握していなかったこと、③平成16年1月に一審被告Y1から代表取締役退任に際し一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業を譲り受けたい旨の申出があり、これを巡って一審被告Y1、B及びAが話し合った際にも、一審被告コンボ開発又はその貸コンテナ事業については全く話題になっていないことからすれば、経理関係の各種帳票及び決算書等の記載にもかかわらず、B及びAは、平成16年10月ころまで、一審被告コンボ開発が貸コンテナ事業を営んでいることを知らなかったものと認められ、少なくともこれについて重要事項が示されたことはないのであるから、一審被告Y1が競業取引をすることを承諾したと認めるに足りる証拠はない。

(2)  一審被告らは、Aは平成14年には一審原告の経理を把握しており、一審原告の経理関係の帳票や高木産業の決算書等を見ることにより、一審被告コンボ開発の存在を知っていた旨主張する。しかし、Aは、一審原告及びその関連企業の布団の製造及び小売りの業務を担当しており、これに関連する経理については把握していたが、貸コンテナ事業には全く関与しておらず、同事業の事務は一審被告Y1の自宅にある事務所で行われていたこと、一審原告及び関連会社の代表取締役は一審被告Y1であったことなどからすれば(<証拠省略>)、Aが貸コンテナ事業、一審被告コンボ開発の存在について知らなかったとしても不自然ではなく、一審被告らの上記主張は採用できない。

4  損害及びその算定について

(1)  第一次主張について

ア 一審原告は、一審被告コンボ開発が第1期から第4期までの期間において利益を得ていたと主張するが、一審被告の上記期間において利益を得ていたと認めるに足りる証拠はない。なお、一審被告コンボ開発の決算に一審原告指摘の偽装や誤りがあるとはいえない。そして、このことは、後記貸コンテナ事業所の収支の分析結果によって左右されるものではない。

イ 一審原告は、今後20年間で一審被告コンボ開発が得られる将来の利益も、競業取引と因果関係があり、一審原告の損害と推定すべきである旨主張する。

しかし、貸コンテナ事業における「営業ノ部類ニ属スル取引」は貸コンテナの利用に係る賃貸借であるから、これと相当因果関係のある一審被告コンボ開発の利益が一審原告の損害と推定されることになる。そして、貸コンテナ事業は安定した収入が得られるとしても、一審原告の貸コンテナの利用に係る賃貸借契約の期間は1年であり、利用者は1か月前に通知すればいつでも契約を解約することができ、コンテナの耐用年数まで同一のコンテナの利用に係る賃貸借が続くわけではないこと、実際利用されなくなった貸コンテナ事業所もあることから、一審被告コンボ開発の貸コンテナ事業による20年間にもわたる将来の利益が一審被告Y1の取締役在任中の競業取引によって得ることのできる利益ということはできない。

また、貸コンテナ事業をするためには貸コンテナを設置する土地を借りることが必要であり、一審原告においては、当初の賃貸借期間を5年とし、その後も1年ごとに自動更新する旨の賃貸借契約をしているが、上記契約は、貸コンテナ事業の維持・便益のために行われる取引であるから、補助的行為であって、「営業ノ部類ニ属スル取引」とはいえない。また、建物所有目的の賃貸借とは異なりコンテナの敷地の貸主は容易に土地の返還を求めることができるから、20年間にもわたる利益が確保されているわけでもない。

ウ さらに、一審原告は、別件訴訟(名古屋地方裁判所平成16年(ワ)第2996号、3232号、名古屋高等裁判所平成18年(ネ)第70号)において認定された損害額と同様の算定方法による利益が、本件においても認められるべきである旨主張する。しかし、別件訴訟における損害は、一審原告が所有していた貸コンテナの占有を失ったことによる逸失利益相当額の損害であり、本件における一審被告コンボ開発が費用を投じて取得したコンテナに係る利益から推定される損害とは、考慮すべき経費を異にしている上、別件訴訟においてはコンテナを返還すればその後の支払義務を免れることができるのであるから、本件で同様の算定方法によらなければならない理由はない。

エ 一審原告は、アイメンが愛知県知多市内で平成18年12月ころ開設した貸コンテナ事業所の収支の分析結果(甲52)に基づき、貸コンテナ事業は安定した収入が得られる旨、これを基にDFC法による将来の利益の推定は正当なものである旨主張する。しかし、取締役在任中の競業取引と相当因果関係がある利益は何かという問題と貸コンテナ事業の収益可能性とは別問題である。また、DFC法についても、①利用されなくなった貸コンテナ事業所もあること、②一審原告の貸コンテナ事業の売上げは、平成11年から平成13年の間は月額900万円以上あったが、平成15年からは月額900万円を下回るようになっていることから(甲54)、貸コンテナ事業は競業する業者が出現し稼働率が低下する傾向が窺われること、③貸コンテナを設置する土地の賃貸借関係が20年間継続する保証がないことからすれば、貸コンテナ事業は必ずしも継続的に安定した収入が得られるわけではなく、長期間にわたる一審被告コンボ開発の利益をDFC法によって推計することには疑義がある。なお、上記分析結果(甲52)は、①分析対象とした貸コンテナ事業所を選択した根拠が明らかではなく、②分析において経費として人件費、借入利息及び販売管理費等を除外しており、③一審被告コンボ開発へのあてはめにおいて人件費(役員報酬を除く。)の売上高に対する標準的経費の指数を6%として考慮しているが、貸コンテナ業に倉庫業(トランクルームを含む。)の指数ではなく不動産賃貸業の指数である6%を適用することの妥当性には疑義があること、販売管理費等が考慮されていないこと、④稼働率や土地の賃貸借契約の継続可能性等の事業の継続可能性についても考慮されていないことからして、これをもって貸コンテナ事業は安定した収入が得られる、あるいは一審被告コンボ開発において第2期から第4期において利益があったと推定するのは相当ではない。

(2)  第二次主張について

ア 一審被告Y1が競業避止義務違反によって得た利益は、役員報酬又は給与手当が役務の対価又は労務の対価であり、一審被告コンボ開発において一審被告Y1が資金調達、信用及び営業について中心的役割を果たしていることに鑑みれば、原判決別紙6一審被告Y1ら利得一覧表の番号6「給与手当」欄記載の一審被告及びその家族の報酬(乙39の1ないし4)の合計額の5割とするのが相当である。なお、上記報酬額には、一審原告からのコンテナの譲渡が無効とされた分21か所及び取締役退任後に開設された分2か所に対応する役務の提供に係る報酬も含まれているので、結局、競業避止義務違反により一審被告Y1の得た利益は、全報酬額から上記部分を除いたものの概ね5割である1953万円とするのが相当である(〔第1期・<20万円×2+30万円>+第2期<240万円×2+360万円>×10/24+第3期<600万円×5+240万円>×29/49+第4期<216万円+120万円+650万円+630万円+600万円×2>×29/52〕×0.5。弁論の全趣旨)。したがって、旧商法266条4項により、一審被告Y1が、競業取引をすることによって一審原告が被った損害額は1953万円となる。

なお、一審被告Y1の実質的な報酬額を算定するに際しては、実際の役務の負担状況に応じて算定するのが合理的であり、また、家族であれば、同居の有無や実際の役務の負担状況とは無関係に所得税等の税金が有利になるように配慮して報酬を決めることもあり得ることからすれば、実質的な報酬額を判断するに際し同居の有無を考慮するのは相当とはいえない。

また、一審被告Y1が一審原告の取締役を退任したのは平成16年4月28日であるが、コンテナの利用に係る賃貸借契約の賃貸期間は1年であるから、競業取引と相当因果関係のある利益は、一審被告コンボ開発の第4期までの報酬額とするのが相当である。

イ 一審被告らは、一審被告Y1以外の家族は、一審被告コンボ開発において、それぞれ役務を負担しているので、これに対する報酬が一審被告Y1の利益となることはない旨主張する。しかし、上記のとおりであって、家族が報酬を得る理由があることと、それがどの程度の金額であるべきかは別問題であるから、上記一審被告らの主張は採用できない。

5  一審被告Y1の不法行為責任の有無

(1)  一審原告は、企業経営における営業秘密、技術ノウハウの重要性から、取締役は在任中はもちろん、退職後であっても一定範囲で忠実義務を負うべきであり、一審被告Y1は、一審原告の利益のために貸コンテナ事業を行うべきであるのに、法に抵触することを知りながら、一審被告コンボ開発をして貸コンテナ事業を行わせ、一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業の営業譲渡をして、一審原告及び高木産業の貸コンテナ事業を壊滅させ、一審原告が「利益を得る機会を奪った」のであるから、不法行為責任がある旨主張する。

しかし、民法709条には旧商法266条4項のような損害推定規定がないことから、一審原告において、一審被告Y1の取締役在任中に名古屋市及びその周辺において新たな貸コンテナ事業所を開設することが相当の確実性をもって見込まれる状態にあり、これによって一審原告が得るはずであった利益がいくらであったかについて立証がされるべきところ、これらについての立証が尽くされているとはいえない。したがって、一審被告Y1の不法行為責任の有無を判断するまでもなく、一審被告Y1に対し、不法行為による損害賠償として1953万円及びこれに対する平成16年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を超えて請求する部分は理由がない(不法行為による損害賠償のその余の請求部分は、選択的に請求している競業避止義務違反による損害賠償請求が一部認容されたことにより、審理の必要がなくなった。)。

(2)  一審原告は、初期投資をした段階で、将来の利益をすべて奪われたとも主張する。しかし、初期投資が、一審原告の関連会社であるアイメンが農協から3億円ないし4億円の借入れをしてこれを農協に貯金していたこと(乙1)を意味するとしても、一次的には農協の組合員に布団等を販売しているアイメン自体の販売促進活動の一環としてされたものであり、二次的に農協から土地を貸す組合員を紹介してもらう効果もあったと見るべきであるから、貸コンテナ事業のための初期投資とはいえない。また、一審被告コンボ開発の運転資金は一審被告Y1及びその家族が提供しており、一審原告が一審被告コンボ開発が貸コンテナの利用に係る賃貸借契約をするために何らかの経済的負担をしたとは認められない。したがって、一審原告の上記主張も理由がない。

6  一審被告コンボ開発の責任

一審被告コンボ開発は、一審被告Y1とは別個の法人格を有している。しかし、一審被告Y1は一審被告コンボ開発を事実上主宰していること、一審被告コンボ開発をして貸コンテナに係る賃貸借契約をさせることにより一審被告Y1に競業避止義務違反による責任が生じることを潜脱しようとしたこと、上記賃貸借契約による利益は一審被告コンボ開発に帰属することからすれば、本件においては、一審被告Y1と一審被告コンボ開発の法人格が異なることを否定して、一審被告コンボ開発にも一審被告Y1と同じ限度で競業避止義務による損害賠償責任を負担させるのが相当である。

第4結論

よって、原判決は一部相当ではないから、一審原告の控訴に基づき一審原告の敗訴部分を変更し、一審被告Y1の控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項、61条、64条本文、65条1項を、仮執行宣言につき同法310条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 戸田彰子 加島滋人)

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