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名古屋高等裁判所 平成19年(ネ)450号 判決 2007年8月23日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴人に対し,原判決別紙目録記載の帳簿又は書類を閲覧及び謄写させよ。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,被控訴人の発行済株式2000株の100分の3以上に当たる420株を有する控訴人が,被控訴人に対し,①被控訴人は第39期から第43期まで売上金がないのに経費のみが費消されている,②また,特許権等の資産が散逸するなど,被控訴人の資産が大幅に減少している,③さらに平成15年12月18日には,被控訴人の唯一の不動産である土地が第三者に処分されている,これらのことからすれば,被控訴人の取締役の任務懈怠が強く推認されるので,その有無を調査するためとして被控訴人に対し,原判決別紙目録記載の帳簿又は書類の閲覧及び謄写を求めた事案である。

被控訴人は,①控訴人の会計帳簿閲覧請求権行使に当たっての上記理由は抽象的であり,会計帳簿等の閲覧及び謄写請求で必要とされる理由を具体的に明示したものとはいえない,②また,控訴人が代表取締役を務める有限会社Aの目的であるマルチメディア関連情報サービスの提供及びこれに附帯する一切の業務は,被控訴人の主目的と実質的競争関係にあり,したがって本件は会社法433条2項3号の「請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み,又はこれに従事するものであるとき」にあたるから,控訴人の上記閲覧及び謄写請求を拒否する旨主張して,これを争った。

原審は,本件における控訴人の被控訴人に対する帳簿又は書類の閲覧及び謄写請求権の行使は,会社法433条所定の請求の理由を明らかにしたものとは認められないとして,その余の争点を判断することなく控訴人の請求を棄却したため,控訴人がこれを不服として控訴したものである。

2  当事者の主張は,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要1」に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決3頁9行目の「第三書」を「第三者」と改める。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の本件帳簿又は書類の閲覧謄写請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断1(原告Bの被告会社に対する会計帳簿閲覧謄写請求について)」に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決7頁14行目の「株式会社」を「歯科医療機器の研究,開発並びに販売等を目的とする資本金1000万円,発行済株式総数2000株の株式会社」と改める。

2  同8頁16行目から17行目にかけての「本訴を提起した」の次に「(当裁判所に顕著な事実,弁論の全趣旨)」を加える。

3  同9頁5行目の「減少していることから」を「減少しており,さらに,平成15年12月18日には被控訴人の唯一の不動産である土地が第三者に処分されていることから」と改める。

4  同9頁8行目の次に改行して,以下のとおり加える。

「なお,控訴人の上記主張(補正後の引用に係る原判決9頁3行目から6行目)について付言する。

被控訴人の第39期(平成14年7月31日期末)から第43期(平成18年7月31日期末)の決算において,費消されている経費の内訳としては地代家賃や租税公課など会社を継続している以上負担を余儀なくされるものが多く(甲7ないし11),単に経費を費消しているというだけでは,特定のいかなる行為を違法,不当であると指摘するものであるかは明らかでないといわなければならない。また,特許権等の資産の散逸などによる資産の大幅減少については,特許権の具体的指摘すらないのであるから,要するに資産が大幅に減少している旨の極めて抽象的な事項を指摘するにとどまるものと解するほかない。さらに被控訴人が,平成15年12月18日にその所有する名古屋市a区bc丁目所在の宅地201.65m2をCに売却していること(甲12)についても,控訴人は上記売却行為の具体的な違法,不当を指摘するものではない。そして,上記(引用に係る原判決8頁8行目から11行目)のとおり,控訴人が被控訴人に対して送付した内容証明郵便には,会計帳簿又は書類の閲覧及び謄写を請求する理由として「貴社取締役らに任務懈怠がないかどうかを調査するため」としか記載がなかったことをも併せて考えると,控訴人の本件請求は,具体的に特定の行為の違法又は不当を指摘するものではなく,被控訴人の取締役の業務執行全体における任務懈怠という抽象的,一般的な行為の違法性を指摘するにとどまるものといわざるを得ない。

したがって,控訴人の本件請求は,その理由を明らかにして行ったものということはできない。」

第4結論

以上によれば,控訴人の本件会社帳簿等の閲覧及び謄写請求は理由がなく,これと結論を同じくする原判決は相当であるから,本件控訴は理由がない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本慶一 裁判官 山崎秀尚 裁判官 山下美和子)

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