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名古屋高等裁判所 平成19年(ネ)571号 判決 2007年12月19日

東京都千代田区丸の内2丁目1番1号

控訴人(1審被告)

アコム株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

名古屋市●●●

被控訴人(1審原告)

●●●

同訴訟代理人弁護士

深津治

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中主文6項を取り消す。

(2)  上記取消しにかかる被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用のうち控訴人と被控訴人との間に生じたものは,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

第2  事案の概要

1  本件は,被控訴人が,貸金業者である控訴人との間で,昭和46年ころ以降,繰り返し金銭の貸付を受け,あるいは,弁済をするという取引を行ってきたところ,

(1)  一連の取引について,利息制限法所定の制限利率による引き直し計算を行うと過払金が生じていると主張して,控訴人に対し,最終取引日である平成18年4月20日までの不当利得金1686万0647円及び同日まで年6分の割合による法定利息745万4543円の合計2431万5190円並びに不当利得金1686万0647円に対する最終取引日の翌日である平成18年4月21日から支払済みまで年6分の割合による法定利息

(2)  控訴人に対し,取引履歴の開示を請求したが,控訴人は,昭和55年1月25日以降の取引履歴を開示したのみで,それ以外の開示に応じないが,これは意図的に被控訴人の権利を侵害するもので違法であり,かつ,これによって精神的損害を被ったと主張して,不法行為に基づき,精神的損害に対する慰謝料及び弁護士費用合計40万円並びにこれに対する平成18年6月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金

の各支払を求めた事案である。

原判決は,(1)について,法定利息の割合を年5分として不当利得金及び法定利息を算出し,また,(2)について,慰謝料及び弁護士費用として22万円が相当であるとして,1408万6021円並びに内1165万8624円に対する平成18年4月21日から支払済みまで年5分の割合による法定利息,及び,内22万円に対する平成18年6月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容した。

そこで,控訴人は,控訴した。

2  争いのない事実

(1)  控訴人は,貸金業者であり,株式会社である。

(2)  被控訴人は,控訴人との間で継続的に金銭消費貸借契約を締結し,繰り返し金銭の貸付を受け,あるいは,弁済をするという取引を行ってきた。

控訴人と被控訴人との間の,昭和55年1月25日以降の借入れ及び弁済の状況は,原判決別紙6「利息制限法に基づく法定金利計算書6-A」の「年月日」,「借入金額」及び「弁済額」欄記載のとおりである(ただし,昭和55年1月25日以降の部分)。

3  争点

本件の争点は,①昭和55年1月25日前の貸付及び弁済の状況,②契約の個数及び過払金の充当の可否,③控訴人が悪意の受益者か否か,過払金の利息の利率,④消滅時効の成否,⑤不法行為の成否である。

4  争点に関する当事者の主張

(1)  昭和55年1月25日前の貸付及び弁済の状況

(被控訴人の主張)

控訴人が昭和55年1月25日前の取引履歴を開示しないため,被控訴人は,手持ちの資料及び記憶に基づき取引を再現した。その結果,取引履歴は,原判決別紙6「利息制限法に基づく法定金利計算書6-A」の「年月日」,「借入金額」及び「弁済額」欄記載のとおりである(ただし,昭和55年1月25日前の部分)。

(控訴人の主張)

被控訴人との間の昭和55年1月25日前の取引履歴は,原判決別紙7「推定取引一覧表」の「日付」,「貸付」及び「返済」欄記載のとおりである。

なお,控訴人は,昭和53年に設立され,その際,マルイト株式会社から営業譲渡を受けたが,被控訴人は,昭和45年7月ころから,マルイト株式会社(当時の商号・丸糸株式会社,昭和47年に商号変更)と取引を開始した。

(2)  契約の個数及び過払金の充当の可否

(被控訴人の主張)

ア 被控訴人は,控訴人との間で,昭和45年ころから平成18年4月20日まで,間断なく借入れ及び弁済を繰り返してきた。

また,被控訴人は,控訴人との間で,残高スライドリボルビング方式(リボルビング払の残高に応じて毎月の弁済額が変わる方式。残高が増えると毎月の定額または定率が上昇する。)を含む基本契約を締結している。

ところで,このような基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引において,借入金債務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合,当該過払金は,その後に発生する新たな借入金債務に当然充当される。

イ もっとも,被控訴人と控訴人との間に,上記のような基本契約に基づく取引が,取引開始時からではなく,取引途中から導入された蓋然性も否定できない。

しかし,たとえ証書貸付が連続した場合であっても,各貸付が,①長年にわたり同様の方法で反復継続して行われ,②前回の返済から時間的に接着し,③前後の貸付と同様の方法と貸付条件で行われたものであるときは,各貸付を1個の連続した貸付取引であると認めることができる(最判平成19年7月19日参照)。

被控訴人と控訴人との間の取引は,上記の場合に該当するから,基本契約が締結される前のものがあるとしても,それも含め全体を,1個の連続した貸付取引であるということができる。

したがって,借入金債務について制限超過部分を元本に充当し過払金が発生した場合,当該過払金は,その後に発生する新たな借入金債務に当然充当される。

(控訴人の主張)

ア 弁済によって過払金が発生しても,その過払金は,その後に発生した他の借入金債務に充当されないのが原則である。ただし,特段の事情がある場合には,この限りでなく,特段の事情が認められる場合としては,リボルビング取引かそれに類似した取引,あるいは,現在の消費者金融でほぼ例外なく採用されている,与信限度額を設定しその枠内で貸借を繰り返し,契約書は当初の段階で作成するだけでその後の個々の取引に当たっては作成しないような取引である場合を挙げることができる。

イ リボルビング取引が昭和56年ないし57年ころから一般化したことは,公知の事実といってよい。それ以前の取引は,いわゆる証書貸付取引であり,原則として1回貸付が発生すれば,その弁済が終了するまで別個の貸付を行わないものである。したがって,基本契約を前提に頻繁に取引を繰り返すリボルビング取引とは,著しく形態が異なり,充当を認める特段の事情があるとはいえない。

被控訴人と控訴人との間の取引には,リボルビング取引が導入される前のものが含まれるが,その部分について,充当が認められることはない。

(3)  控訴人が悪意の受益者か否か,過払金の利息の利率

(被控訴人の主張)

ア 控訴人は,貸金業を展開する株式会社であるところ,被控訴人と契約を締結するに際し,被控訴人から弁済を受ける利息,遅延損害金が利息制限法所定の法定利率を超えていることを認識していた。また,被控訴人との取引が,いずれ過払の状態になることを認識していたことも明白である。よって,控訴人は,民法704条にいう「悪意」の受益者にあたる。

イ また,控訴人は商人であり,控訴人の被控訴人に対する貸付行為は商行為である。よって,本件の不当利得返還請求権の利率は,商事法定利率の年6分によるべきである。

ウ 被控訴人と控訴人との間の取引を,利息制限法に従って引き直し計算した結果は,原判決別紙6「利息制限法に基づく法定金利計算書6-A」記載のとおりである。

(控訴人の主張)

ア 民法704条にいう「悪意」とは,法律上の原因のないことを知りながら利得をしたものであり,過失ある善意者は含まれない。

控訴人は,法令遵守という点では,業界で一貫して先進的な取組みをしてきた。この点からしても,控訴人が善意であることは明らかである。よって,控訴人は,民法704条にいう「悪意」の受益者ではない。

イ 利率についての主張は,争う。

(4)  消滅時効の成否

(控訴人の主張)

金融業者と顧客との間のリボルビング取引が継続する限りは,過払金返還請求権が時効消滅しないという理論は暴論である。

控訴人は,不当利得返還請求権につき,平成18年10月11日の原審口頭弁論期日において,消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(被控訴人の主張)

被控訴人と控訴人との間におけると同様の継続的な金銭消費貸借取引においては,基本契約に基づく最初の貸付によって1個の貸金債権が発生し,その後,貸付と弁済が繰り返されても,その1個の貸金債権の元本に増減を来すだけであって,貸金債権が複数生じると解すべきではない。また,このような取引において生じた過払金にかかる不当利得返還請求権についても,弁済によって過払金が発生する度に別個の不当利得債権が発生すると解すべきではなく,当該取引が継続する限り,不当利得債権は1個であり,弁済や新たな貸付によって不当利得債権の元本が増減するに過ぎない。

そして,過払金は,取引が継続している限り,新たな貸付による充当の対象となるから,その1個の不当利得債権は,過払金が発生した時点で直ちに権利行使が可能になるとみることはできず,取引が終了した時点で,初めて債権額が確定し現実に返還請求が可能な1個の債権となる。したがって,消滅時効の起算点は,最終取引日の翌日である。

本件では,時効期間を経過していない。

(5)  不法行為の成否

(被控訴人の主張)

被控訴人から債務整理の依頼を受けた代理人は,平成18年5月10日,控訴人に対し,取引履歴の開示を求める旨の通知を発信した。ところが,控訴人は,同月19日,昭和55年より古い取引履歴は出せない旨の回答をし,同月24日ころ,被控訴人代理人に対し,昭和55年1月25日以降の取引履歴のみを開示した。控訴人は,それ以降,取引履歴を開示していない。

控訴人は,被控訴人の正当な取引履歴の開示要求に応じず,意図的に被控訴人の権利を侵害するものであるから,控訴人の行為は違法性を有する。そして,その不開示により,被控訴人が被った精神的損害については,不法行為による損害賠償が認められるところ,その慰謝料としては,20万円が相当である。

また,控訴人は,取引履歴を開示せず,任意に過払金の支払にも応じないので,被控訴人は,弁護士に委任し本訴提起を余儀なくされたところ,弁護士費用は,20万円が相当である。

(控訴人の主張)

30年前の保存文書を開示しないことが信義則に反するとは考えられない。

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所は,被控訴人の請求は,1408万6021円並びに内1165万8624円に対する平成18年4月21日から支払済みまで年5分の割合による民事法定利息,及び,内22万円に対する平成18年6月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきものと判断するが,その理由は,以下のとおりである。

2  争点①(昭和55年1月25日前の貸付及び弁済の状況)について

証拠(乙2の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

即ち,控訴人は,昭和53年に設立され,その際,マルイト株式会社から営業譲渡を受けたが,被控訴人は,昭和45年7月ころから,マルイト株式会社(当時の商号・丸糸株式会社,昭和47年に商号変更)と取引を開始し,その後,平成18年まで取引を継続してきたところ,昭和55年1月25日前の,控訴人(マルイト株式会社としての取引も含む。以下も同じ。)と被控訴人との間の取引経過は,原判決別紙7の「推定取引一覧表」のとおりであると認められる。この認定を左右するに足りる証拠はない。

したがって,当事者間に争いのない昭和55年1月25日以降の取引と併せた控訴人と被控訴人との間の取引は,原判決別紙13「利息制限法に基づく法定金利計算書6-B」の「年月日」,「借入金額」及び「弁済額」欄記載のとおりである(以下「本件取引」という。)。

3  争点②(契約の個数及び過払金の充当の可否)について

(1)  前記認定の事実,証拠(乙2の1・2,3の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 被控訴人は,控訴人との間で,昭和45年7月以降,継続的に借入れ及び弁済の取引を行ってきた(本件取引)。

イ 消費者金融取引において,昭和56年ころから,リボルビング取引(毎月,融資残高によって定まる一定の金額を弁済する方式)が一般化するようになった。多くの場合,顧客は,貸金業者との間で融資限度額を設定した基本契約を締結し,その限度内で,店頭において,あるいは,現金自動貸付機を通じ貸付を受け,弁済を行う。

本件取引についても,そのころ,基本契約が締結された。

ウ 本件取引は,基本契約が締結されているかどうかにかかわらず,原判決別紙13の「利息制限法に基づく法定金利計算書6-B」のとおり,弁済完了と同じ日または近接した日時に,新たな貸付が行われることがほとんどであり(同別紙の最左欄の番号7と8,11と12,15と16,18と19,23と24,37と38,46と47,50と51,56と57,61と62,65と66,71と72,73と74,76と77,82と83,84と85,87と88,89と90,98と99,107と108,112と113,118と119,125と126,129と130,136と137,140と141,152と153,166と167(番号153のころ,基本契約が締結された。)),基本契約の締結の前後でその取引形態が変わることはない。

(2)  同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの1つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情がない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されると解するのが相当である。

もっとも,基本契約に基づかなくとも,証書貸付が連続し,長年にわたり同様の方法で反復継続して行われ,各貸付が,前回の返済から時間的に接着し,前後の貸付と同様の方法と貸付条件で行われたものであるときは,各貸付を1個の連続した貸付取引であるとみることができる。

そして,このような1個の連続した貸付取引においては,当事者は,1つの貸付を行う際に,切替え及び貸増しのために次の貸付を行うことを想定しているのであり,複数の権利関係が発生するような事態が生ずることを望まないのが通常であることに照らしても,制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,その後に発生する新たな借入金債務に充当する合意が存在するのと同様の法律関係を認めることができる。

(3)  前記認定のとおり,本件取引においては,基本契約が存在する期間と存在しない期間とが存在するが,基本契約の締結の有無にかかわらず,長年にわたり同様の方法で反復継続して行われ,各貸付が,前回の返済から時間的に接着し,前後の貸付と同様の方法と貸付条件で行われたものであると認められるから,1個の連続した取引であるとみることができる。

したがって,借入金債務について制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が発生した場合,当該過払金は,その後に発生する新たな借入金債務に当然充当される。

4  争点③(控訴人が悪意の受益者か否か,過払金の利息の利率)について

(1)  本件取引において,控訴人が,貸金業法17条及び18条所定の書面を交付してきたことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の弁済について,同法43条が適用されないことは明らかで,控訴人も,被控訴人からの弁済につき,同条の適用を受けるものではないことについて認識していたものと推認され,これを左右するに足りる証拠はない。

よって,控訴人は悪意の受益者であると認められる。

(2)  商事法定利率を定めた商法514条の適用または類推適用を受ける債権は,商行為によって生じたものまたはこれに準ずるものでなければならないと解されるところ,過払金についての不当利得返還請求権は,高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって,営利性を考慮すべき債権ではないので,商行為によって生じたものまたはこれに準ずるものと解することはできない(最判平成19年2月13日民集61巻1号182頁)。

したがって,商行為である貸付けに係る債務の弁済金により発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段の所定の利息の利率は,民法所定の年5分と解するのが相当である。

5  以上をもとに,被控訴人の不当利得返還請求権について計算すると,原判決別紙13「利息制限法に基づく法定金利計算書6-B」のとおりとなる。

6  争点④(消滅時効の成否)について

前記認定のとおり,本件取引は1個の連続した貸付であるところ,上記一連の貸付から生じた過払金は弁済や新たな貸付が繰り返されることによってその額の増減を繰り返すことになり,その額が確定しないし,過払金返還請求権の性質上,取引終了時までこれを現実に行使することは期待できないので,過払金返還請求権は取引の終了時を消滅時効の起算点とするのが相当である。

本件取引の最終取引日は平成18年4月20日であるから(争いのない事実),本件取引によって生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点は,平成18年4月21日である。そして,過払金返還請求権は不当利得返還請求権であり,その消滅時効期間は10年であるから,本件取引によって生じた過払金返還請求権の時効期間は未だ経過していない。

よって,控訴人の消滅時効の主張は理由がない。

7  争点⑤(不法行為の成否)について

(1)  貸金業法は,罰則をもって貸金業者に業務帳簿の作成・備付け義務を課すことによって,貸金業の適正な運営を確保して貸金業者から貸付を受ける債務者の利益の保護を図るとともに,債務内容に疑義が生じた場合は,これを業務帳簿によって明らかにし,みなし弁済をめぐる紛争も含めて,貸金業者と債務者との間の貸付けに関する紛争の発生を未然に防止し又は生じた紛争を速やかに解決することを図ったものと解するのが相当である。

また,一般に,債務者は,債務内容を正確に把握できない場合には,弁済計画を立てることが困難となったり,過払金があるのにその返還を請求できないばかりか,更に弁済を求められてこれに応ずることを余儀なくされるなど,大きな不利益を被る可能性があるのに対して,貸金業者が保存している業務帳簿に基づいて債務内容を開示することは容易であり,貸金業者に特段の負担は生じないことに鑑みると,貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業法の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,保存している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うものと解すべきである。

そして,貸金業者がこの義務に違反して取引履歴の開示を拒絶したときは,その行為は,違法性を有し,不法行為を構成するものというべきである。

(2)  被控訴人から債務整理の依頼を受けた代理人は,平成18年5月10日,控訴人に対し,取引履歴の開示を求める旨の通知を発信した。ところが,控訴人は,同月19日,昭和55年より古い取引履歴は出せない旨の回答をし,同月24日ころ,被控訴人代理人に対し,昭和55年1月25日以降の取引履歴のみを開示した。控訴人は,それ以降,取引履歴を開示していない(争いがない。)。

また,弁論の全趣旨によれば,原審裁判所は,被控訴人の申立て(原審平成18年(モ)第1142号文書提出命令申立事件)により,控訴人に対し,本件取引の経過の記載された帳簿等の文書(電磁的記録を含む。)を提出するように命じ,同決定は,控訴人が申し立てた抗告の棄却により確定したところ,控訴人は,同抗告決定の確定後,それまで開示していなかった本件取引に関する「登録カード」,「契約経過台帳」(乙2の1・2)を提出するに至った。

(3)  前記のとおり,控訴人は,被控訴人代理人からの請求にもかかわらず,昭和55年より古い取引履歴の開示に応じず,文書提出命令が確定した後,本件取引に関する文書を提出するに至っている。また,本件において,被控訴人の控訴人に対する取引履歴の開示要求が濫用にわたるなどの事情があったとは認められない。

そうすると,控訴人による訴え提起前の開示拒絶行為は違法性を有し,これによって被控訴人が被った精神的損害については,不法行為による損害賠償が認められる。また,それを慰謝するための慰謝料は,20万円と認めるのが相当である。

さらに,被控訴人は,本訴の提起及び追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著であり,本件事案の内容,慰謝料についての認容額等を考慮すれば,控訴人の本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は2万円と認めるのが相当である。

第4  よって,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 青山邦夫 裁判官 上杉英司 裁判官 堀禎男)

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