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名古屋高等裁判所 平成19年(ネ)752号 判決 2009年11月27日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、旧河芸町の承継人である被控訴人が、合併前の旧河芸町の平成14年度町道上野赤郷線道路改良事業(本件道路改良事業)において、国道23号線から旧河芸町庁舎へと向かう町道上野赤郷線(本件町道)を、その南東部分は既設の道路を拡幅し、北西部分は伊勢鉄道の高架下を潜って直線に近い形状で新設する道路改良案が策定され(本件改良計画町道)、同事業計画の詳細設計(本件詳細設計)に関する業務が財団法人三重県建設技術センター(技術センター)に発注されたことにつき、本件詳細設計に基づき本件町道を直線に近い形状で新設する部分(線形重視部分)の敷設は、①道路法や道路構造令に違反し(伊勢鉄道の高架下通過の問題)、②補助金に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金等執行適正化法)に違反し(河芸町民の森公園(本件公園)内に国庫補助金を用いて設置した調整池(本件調整池)に道路がかかる問題等)、また、③敷設に伴って必要となる都市計画法に基づく道路計画及び公園事業の変更手続をとることは極めて困難であったから、当時の河芸町長であった控訴人が、上記発注に係る委任契約(本件詳細設計委託契約)を締結した上(本件支出負担行為)、業務委託料の支出命令(本件支出命令)を決裁したことは、町長の裁量権を逸脱した不法行為に当たるとして、控訴人に対し、民法709条の損害賠償請求権に基づき、当該部分の請負代金相当額である263万3400円及び遅延損害金の支払を請求した事案である。

原審は被控訴人の請求を一部認容したことから、控訴人がこれを不服として控訴した。

2  そのほかの事案の概要は、次のとおり原判決を補正し、当審における当事者双方の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の第2の2及び第3の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の補正)

(1) 原判決3頁26行目の「豊津川下水路事業」を「豊津川都市下水路事業」に改める。

(2) 同4頁1行目の「都市下水路改良計画」をいずれも「都市下水路事業」に改める。

(当審における控訴人の補足的主張)

(1) 本案前の抗弁について

旧河芸町は、控訴人を訴えるにつき、「やったものは仕方がない」という現状肯定的な町議会の傾向を踏まえて、違法な専決処分をした上で事後的に町議会の承認を得ることのほうが目的を達しやすいと考えて、専決処分として本件訴えを先行させたものである。原判決は、そのような町議会の傾向を踏まえていない点において重大な事実誤認が認められる。

また、原判決が、町議会の承認決議につき、「旧河芸町議会において、専決処分としたことの妥当性だけではなく、本件訴えの請求原因の内容や本件訴えを提起すること自体の可否に関しても討論を経た上で、賛成多数によりなされたことが認められる」と判断したことも重大な事実誤認である。

(2) 控訴人が町長として行った本件詳細設計委託契約の締結(本件支出負担行為)は、町長としての行政裁量権の範囲内の行為であること

ア 詳細設計の内容の道路法30条及び道路構造令12条への適合性について

道路法47条3項の解釈として、道路管理者は、既設道路でも新設道路でも「都道府県公安委員会の意見聴取」をした上で(道路法95条の2第1項)、高架下の道路に高さ制限を設けることができる。そして、供用開始時までに道路法47条3項の車両制限をかけることを前提に第3種第4級普通道路を敷設する手法は一般に行われており(〔証拠省略〕)、もとより道路法30条及び道路構造令12条の想定していない脱法的な手法ではない(〔証拠省略〕)。国土交通省も北勢バイパスで道路法47条3項の車両制限をして新設道路を作っていることは明々白々の事実である(〔証拠省略〕)。

旧河芸町が計画した本件改良計画町道の敷設・供用開始手順は、伊勢鉄道高架下の両側を第3種第4級普通道路として敷設し、同町が道路法47条3項に基づき三重県公安委員会と協議をして道路管理者として高架下直前に高さ制限を設けるというものであった。旧河芸町は、本件詳細設計を利用して本件改良計画町道を敷設することができたのであるから、同町が損害を被るようなことはなかった。そして、供用開始に向けて道路法47条3項に基づき高さ制限をする行為は、行政裁量権の範囲内の行為であり、その実現は100%可能であった。

本件改良計画町道の全長は550メートルと短く、しかもルート(中心線)は詳細設計を発注するまでに決まっていたのであるから、別に素案、概略設計、予備設計を作成する必要が全くなく、直裁に詳細設計をする方が経済的であった。また、伊勢鉄道との協議にも詳細設計が必要であった(〔証拠省略〕)。さらに、技術センターは、本件改良計画町道は短く、ルートは1つであることから「概略設計や予備設計を行わずに直裁に詳細設計を行うことができる」と判断し、詳細設計での契約を締結している。

したがって、控訴人が町長として行った本件詳細設計委託契約の締結(本件支出負担行為)は適法であり、町長としての行政裁量権の範囲内の行為であった。

イ 本件改良計画町道のうち原判決別紙図面記載のD地点以西の部分(本件公園内町道部分)の敷設と補助金等執行適正化法22条及び17条との関係について

本件詳細設計委託契約が締結された平成15年1月7日当時、旧河芸町は、本件公園内町道部分の敷設と補助金等執行適正化法の関係について検討し、「国庫補助を受けての本件調整池工事や用地取得が実施されてから既に10年以上が経過しているし、本件改良計画町道の本件公園内町道部分の敷設に併せて、本件調整池や本件公園用地の機能補償がなされるのであれば、現実には、各省各庁の長において、補助金等交付決定の取消しまではしない」と判断していた。本件調整池や本件公園用地の機能補償は、本件調整池部分の工事実施の中で考えていけば十分対応できる事柄であり、また、補助金返還の予算措置の見込みといった事項についての具体的な検討書類作成等の準備は、各省各庁の長において補助金等交付決定の取消しがあってからでも十分に間に合うことなのであり、これらは控訴人を引き継いだ長谷川町長が行うべき施策である。したがって、控訴人が、本件詳細設計委託契約の締結前あるいは本件詳細設計が完成納付された平成15年4月以降退任するまでの間に、旧河芸町長として、本件調整池や本件公園用地の機能補償をどのようにするか、あるいは補助金返還の予算措置の見込みといった事項につき、具体的な検討書類作成等の準備をしないのは当然であり、その不作為が不法行為となるようなことは考えられない(控訴人には作為義務がない。)。

ウ 都市計画法による制約について

本件詳細設計に基づく本件改良計画町道の敷設は、法的に不可能ということではない。町道一色浜田線(本件都市計画道路)は昭和44年に都市計画された都市計画道路であるが、それがある場合でも、都市計画法等諸法はそれに平行して町が町道を敷設することを禁じていない。他方で、一色浜田線は、昭和44年以来今日まで40年近くになるが、その一部でも用地買収がされたり、予算措置のための検討がされたということはなく、将来も、その計画線上には複数の民家があることから用地買収は困難を極めることが容易に予想され、極めて実現困難な状況にあった。その状況の中で、地域住民はまっすぐな道路を作るよう旧河芸町に要望し、町議会も満場一致で賛成し、本件詳細設計委託契約の締結のための予算を承認・可決した。したがって、本件詳細設計委託契約の締結をしなければ議会軽視・住民無視と非難され、反対に、誠実に実行すれば個人責任を追及されるということになり、控訴人としては窮することになる。しかも都市計画道路が本件改良計画町道を敷設するにあたって何らの障害とならないことは、被控訴人が控訴人の退任後、同計画道路に平行して町道を改良敷設していることからも明らかであり、本件改良計画町道のうち、直線部分にあっては敷設が容易にでき、線形重視部分のみの敷設が極めて実現困難な状況にあったと区別される理由もない。

また、本件公園の都市計画の変更についても、必要があれば必ず行わなければならないものであり、三重県が合理的理由もないのに旧河芸町から出された本件公園の都市計画の変更申請に応じないということはできない。しかも、本件公園の都市計画の変更は、線形重視部分の工事に着手するまでに行えばよく、十分対応は可能であった。本件公園での都市計画の変更は先例もあり、難しいことではなく、実際に図書館・保健センターも用途変更して建築されている(〔証拠省略〕)。

このように、本件詳細設計に基づく本件改良計画町道の敷設は、都市計画法による制約を受けないし、本件公園の都市計画の変更は三重県の担当者の意向がどうあろうとも合理的理由があれば可能なのであって、本件公園にあっても変更した例があった。すると、本件詳細設計委託契約締結時において、旧河芸町にあっては、法律上も事実上も実現可能なことだったのであり、それは行政裁量権の範囲内の行為である。

エ 詳細設計を行ったことについて

本件改良計画町道は、国道23号線から旧河芸町庁舎へと向かう町道上野赤郷線を伊勢鉄道の高架下を潜って直線に近い形状で新設するというものであり、前述のとおり、そのルートは1つであった上に、全長は550メートルであり、うち新設の線形重視部分はわずかに150メートルと距離が短いものであった。したがって、本件改良計画町道を敷設するためにいきなり詳細設計を行うことができ、むしろ経済的にはその方が望ましかったのである。

加えて、伊勢鉄道との事前協議が不可欠であったところ、そのためには道路構造についての詳細図面が必要であり、詳細設計を必要としたのであった(〔証拠省略〕)。

被控訴人は、その後、本件改良計画町道の線形重視部分以外の部分(400メートル)について、本件詳細設計を使用して第3種第4級普通道路として敷設しており、このことは少なくとも本件改良計画町道の線形重視部分以外の部分においてはいきなり詳細設計をしても問題がないことを証明している。

また、線形重視部分についても道路法47条3項の車両制限をかけることで本件詳細設計を使用して第3種第4級普通道路として敷設することはできた。

オ そうすると、控訴人の本件詳細設計委託契約の締結、それに伴う支払には裁量の逸脱・濫用があるとは認められず、しかも被控訴人には損害が発生しないのであるから、被控訴人の請求は棄却されるべきである。

(3) 仮に本件詳細設計委託契約の締結が町長としての行政裁量権の範囲を逸脱していたとしても控訴人には過失が認められないこと

ア 本件改良計画町道の線形重視部分は技術センターとの打合せで決められたこと

技術センターは、三重県及び県内の市町村が出資をしている公的コンサルタントというべき存在であるが、同センターは、本件改良計画町道の線形重視部分が第3種第4級の建築限界4.5メートルを満たさないが、通行制限によってこの建築限界の問題点は解決可能であると考えており、それを前提に詳細設計をすることを前提に旧河芸町と協議を重ねていた(〔証拠省略〕)。したがって、仮に事後になって本件詳細設計委託契約の締結が町長としての行政裁量権の範囲を逸脱していたことになったとしても、控訴人に過失は認められない。

イ 控訴人は、旧河芸町議会平成14年12月議会が議決した予算案を粛々と実践したのであり、それは適法かつ妥当な行政行為であって、控訴人に過失は認められない。

(当審における被控訴人の補足的主張)

(1) 本件専決処分は、請求原因を確定して訴状の起案を了した際には、監査委員による勧告から4か月が経過しようとしていたことから、早急に訴えの提起に及ぶ必要があり、議会を招集する暇がないと判断して実施した。

仮に、旧河芸町の長谷川町長による本件専決処分に地方自治法179条1項所定の要件を欠く瑕疵が存したとしても、本件専決処分については平成16年第333回河芸町議会定例会において報告された上で同年9月6日に同議会において承認決議されており(〔証拠省略〕)、この承認決議によって上記の要件欠缺の瑕疵は治癒されている。旧河芸町議会では、本件専決処分を承認するか否かの点において慎重に審議を尽くしており(〔証拠省略〕)、出席した議員が錯誤に陥った事実は存せず、上記承認決議は適法に成立している。旧河芸町議会が現状肯定的な傾向を有しているとの主張は控訴人の独断であり、旧河芸町議会議員の名誉を徒に毀損する主張である。

(2) 控訴人が町長として行った本件詳細設計委託契約の締結(本件支出負担行為)が町長としての行政裁量権の範囲を逸脱するものであること

ア 詳細設計の内容の道路法30条及び道路構造令12条への適合性について

控訴人が町長として本件詳細設計委託契約を締結した時点で道路法30条及び道路構造令12条違反の問題が残されていた以上、本件詳細設計には瑕疵が存した。改正道路構造令の施行によって本件詳細設計を用いて本件線形重視部分を第3種第4級道路として敷設することが不可能ではなくなったとしても、瑕疵が治癒されるとはいえない。道路構造令の脱法的結果を肯定しないように道路法47条を制限的に解釈することは当然の理である。控訴人が指摘する北勢バイパスを潜る道路は、既存道路の改良工事にすぎないのに対し、本件線形重視部分町道の敷設は道路の新設であり、両者はその局面を全く異にしている。

イ 本件公園内町道部分の敷設と補助金等執行適正化法22条及び17条との関係について

控訴人が主張する、「国庫補助を受けての本件調整池工事や用地取得が実施されてから既に10年以上が経過しているし、本件改良計画町道の本件公園内町道部分の敷設に併せて、本件調整池や本件公園用地の機能補償がなされるのであれば、現実には、各省各庁の長において、補助金等交付決定の取消しまではしない」との判断は、実際には何らの調査や検討等も実施されていない控訴人の独断的な判断である。詳細設計は道路計画の最終段階であり、詳細設計が作成されればこれに基づく工事実施が可能となる反面、詳細設計の完成後に内容の部分変更がなされることはほとんどないのが通例である上に、道路の敷設につき関係機関と事前協議をするためには一般的には詳細設計は作成されず、概略設計までの図面が用いられている。

「本件調整池や本件公園用地の機能補償や補助金返還の予算措置の見込みといった事項につき、具体的な検討書類作成等の準備は各省各庁の長において補助金等交付決定の取消しがあってからでも十分に間に合う」旨の控訴人の主張は、本件公園内町道部分の施工に伴う問題点は実際に発生した際に先送りすればよいとの主張に他ならず(実際に補助金等の返還が必要となった際に予算措置を講じられない事態が発生した場合に如何になるのか)、控訴人の主張は独善的にして独断的な首長の権限に関する地方自治法の解釈である。

ウ 都市計画法による制約について

本件公園についての都市計画決定の変更及び事業認可の変更については、本件都市計画道路についての都市計画決定の存在や補助金等執行適正化法との関係から、三重県の担当者は極めて消極的な意向を示しており、旧河芸町でもこの事実を認識していた。にもかかわらず、旧河芸町では、本件詳細設計委託契約の締結前はもとより、本件詳細設計が完成納入された平成15年4月以降も、本件公園の都市計画変更のための準備に具体的に着手したことはなかったし、三重県に指摘された問題点の解決の目途もたってはいなかったのであるから、概略設計を準備して三重県との協議に臨むことが本来のあるべき姿なのである。

旧河芸町議会での補正予算案等の審議に際して諸問題の存在を十分に踏まえられた事実は存在しないし、住民意思の実現のためには三重県との事前協議に具体的に着手することこそが求められるのであり、これらの諸問題の存在や三重県との事前協議の必要性を無視して本件詳細設計に及ぶことが求められるわけではない。また、本件都市計画道路についての都市計画決定が実際の実施に際して相当の困難が伴うとしても、この困難の存在を理由として同都市計画決定の存在を無視することが許されるはずがなく、三重県との事前協議において同都市計画決定の見直しや本件都市計画決定の変更及び事業認可の変更に努力することこそが旧河芸町には求められていたのである。

なお、旧河芸町が実施した改良工事は既存の本件町道の拡幅及び整備工事にすぎない。

本件での問題は、三重県が実際に本件都市公園の都市計画決定の変更を行うか否かの判断過程において、詳細設計まですることが控訴人の裁量権を逸脱しているかであるが、本件詳細設計の変更が必要となった場合、無駄な手戻り作業と不必要な支出を要することになるから、三重県が実際に本件都市公園の都市計画決定の変更を行う前に本件詳細設計を実施する必要性は存しない。控訴人が主張する図書館・保健センターの設置に関しては本件都市計画道路についての都市計画決定の存在は問題とならず、次元を異にする事柄である。

エ 詳細設計を行ったことについて

道路設計において設計対象道路が鉄道と交差する際には、当該鉄道企業体との間で、事前協議、計画協議及び施工協議の3種の協議が必要であるが、事前協議の結果として設計対象道路と鉄道が実際に交差する具体的な場所等が決定されることになるので、事前協議の際には概略設計において作成される平面図、横断図及び縦断図で必要かつ十分である。

本件においても、線形重視部分が伊勢鉄道の高架下を潜る箇所が実際に設計された橋脚と橋脚との間より北方か南方かのいずれかの橋脚と橋脚の間に移動する可能性は充分に存したのであり、伊勢鉄道との事前協議もしくは計画協議が整うまでの間は「ルートが1つの場合」には該当しない。しかも、本件詳細設計を実施する以前に本件改良計画町道が伊勢鉄道の高架下を潜る際に道路構造令12条が定める建築限界を確保しえないことは明らかになっていたのであるから、少なくとも道路構造令12条が定める建築限界の確保という問題を解決するまでの間は本件詳細設計の必要性はなかった。伊勢鉄道から詳細設計の提示を求められたことも一度もない。むしろ詳細設計は伊勢鉄道との事前協議を経て初めてその実施が可能となったのである。

オ 結論

本件詳細設計は、道路法30条及び道路構造令12条に違反するとともに、補助金等執行適正化法に基づく補助金等の返還の要否や都市計画法上の諸手続を行う目処が立っているか否かについて充分な検討がされてから行うべきであったにもかかわらず、控訴人はこうした点を看過して本件詳細設計委託契約の締結に及んでいるのであるから、控訴人にはその裁量権を著しく逸脱した違法が存する。

第3当裁判所の判断

1  本件訴え提起の適法性について

当裁判所も、本件訴えの提起は適法であり、控訴人の本案前の抗弁は理由がないと判断するが、その理由は、原判決の「事実及び理由」欄の第4の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人は、旧河芸町議会の現状肯定的な傾向を踏まえない判断であり、本件訴えの内容や訴え提起の可否についても討論されたとするのは事実誤認であると主張するが、同町議会定例会会議録(〔証拠省略〕)によれば、専決処分に至る経緯だけでなく、訴え及び請求原因の内容や訴え提起の当否についての討論を経た上で賛成多数で承認の議決がなされたことが認められるのであって、控訴人の主張は理由がない。

2  本件詳細設計委託契約の締結及び本件支出命令に至る経過等について

本件町道を取り巻く状況、本件道路改良事業計画策定の経過、計画の内容、関係する都市計画の内容等、本件詳細設計委託契約の締結並びに本件支出命令に至る経過等については、以下のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第4の2(1)(原判決19頁26行目から28頁5行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決20頁1行目の「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改め、2行目の「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改め、3行目の「〔証拠省略〕」の次に「(原審及び当審)」を加え、「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改める。

(2)  同23頁6行目末尾の次に「町議会においても、早急の道路改良を求める意見が出されていた。また、本件町道を直線に近い道路に改良するために必要となる土地について、従来、用地買収に応じない姿勢を示していた地権者が、買収に応じてもよいという意向に変わったことが判明したことから、クランク部分を解消して直線に近い形状に改良できる可能性が生じてきた。」を加える。

(3)  同23頁15行目の「元に」を「基に」に改める。

(4)  同23頁23行目の次に、行を改めて次のとおり加える。

「 積算基準(〔証拠省略〕)によると、設計業務等標準歩掛について、以下のように規定している。

a 道路概略設計のうち、地形図(道路概略設計(A)は1/5,000,道路概略設計(B)は1/2,500)、地質資料、現場踏査結果、文献及び設計条件等に基づき、可能と思われる各線形を選定し、各線形について図上で、100メートルピッチ(道路概略設計(A)の場合。道路概略設計(B)では50メートルピッチ)の縦横断の検討及び土量計算、主要構造物の数量、概算工事費を積算し、比較案及び最適案を提案する業務であり、標準歩掛は、10キロメートル当たり合計が道路概略設計(A)は77.0、道路概略設計(B)は107.5となる。

b 道路予備設計は、概略設計によって決定された路線について、平面線形、縦横断線形の比較案を策定し、施工性、経済性、維持管理、走行性、安全性及び環境等の総合的な検討と橋梁、トンネル等の主要構造物の位置、概略形式、基本寸法を計画し、技術的、経済的判定によりルートの中心線を決定する業務とし、使用する図面は空中写真図(1/1,000)、作成する縦横断図は、20メートルピッチとし、標準歩掛は、1キロメートル当たり合計24となる。

c 道路詳細設計(A)は、与えられた平面図(縮尺1/1,000線形入り)、縦横断図ならびに予備設計成果にもとづいて(道路詳細設計(B)は予備設計なし)、道路工事に必要な縦横断の設計及び小構造物(設計計算を必要としないもの)の設計を行い各工種別数量計算を行うもので、標準歩掛は、1キロメートル当たり合計が道路詳細設計(A)の場合は50.5、道路詳細設計(B)の場合は53.5となる。」

(5)  同23頁26行目の「ただし、」から24頁1行目の「通例である」までを、「本件改良計画町道については、その南東部分はすでに本件町道の既設部分が存在していたことや、北西の線形重視部分の長さが150メートルと短く、伊勢鉄道の高架部分でどの橋脚の間を通るかという問題はあったものの、ルート選定という面ではその余地は少なく、設計の面だけから考えれば、直ちに詳細設計をすることも考えられないわけではなかった。もっとも、未確定部分を残したまま詳細設計を行うことは稀で、完成後にその内容の部分変更がなされることはほとんどないのが通例であり、仮に変更があれば、それに応じて詳細設計の手直しが必要となる」に改める。

(6)  同24頁12行目末尾に続けて、「ただ、当初のバイパス案としては、原判決別紙図面のA地点及びD地点よりも北側を通過し、伊勢鉄道の高架と交差し、C地点で町道浜田上野線へ接続する案が検討されていた(〔証拠省略〕)。しかし、その後、原判決別紙図面の本件公園内町道部分の土地について買収可能になったとして、平成15年1月21日ころには、D地点を通過すること、建築限界は高さを3.0メートル以上できるだけ高くとれるようにすることが設計条件とされたものである(〔証拠省略〕)。」を加える。

(7)  同24頁22行目の次に行を改めて、「このうち、線形重視部分は150メートルである(〔証拠省略〕)。」を加える。

(8)  同25頁3行目の「別紙図面D地点の」を「伊勢鉄道の」に改め、5行目の「判明した」の前に「同年11月27日までには」を加え、5行目末尾に続けて、「しかし、4.5メートルの建築限界を確保できず、3.6メートルしか確保できないが、旧河芸町の意向に従い線形重視の形状で設計することとなった。なお、伊勢鉄道からは、基礎に影響を与える場合には、すべての構造計算を行い、運輸局の認可が必要であるが、基礎に影響を与えない場合は、構造計算を行わず伊勢鉄道との協議・説明でよいとの見解が示された(〔証拠省略〕)。その後、既存橋脚への影響がほとんどなくなる橋梁案で検討を進めることになった(〔証拠省略〕)。」を加える。

(9)  同25頁20行目の「見解が示された」の次に「。これに対し、旧河芸町からは、「都市計画決定道路は、いつか整備するとし、都市計画決定道路とは別の道路を計画する。伊勢鉄道の高さに関する問題は規制をかける。

都市計画公園決定の変更をかける。都市公園面積の縮小に伴なう明確な理由を作る。現状の公園調整池に道路計画があたる為、補助金の返還をする。」ことを方針とすることが示された」を加える。

(10)  同25頁23行目の「回答」の次に「と、公園の認可の区域変更を行い、暫定的に道路としてはどうかとの助言」を加え、24行目の次に行を改めて、次のとおり加える。

「 これに基づいて、さらに同年5月1日に三重県側と都市公園の認可区域の変更について事実上の協議を行ったが、同月20日になって、三重県側からは、中部整備局との協議の結果、公園の認可区域から外す理由がないとの回答がなされ(〔証拠省略〕)、以後、旧河芸町においては都市計画の変更に関する作業は進まず、三重県との協議も、控訴人が町長を辞めた後の同年10月27日まで行われなかった。同月27日の協議では、三重県側からは従前と同様の見解が示された上、諸問題を解決しないまま設計測量業務を発注してしまったことが問題として指摘された(〔証拠省略〕)。」

(11)  同26頁12行目の「暫定型」を「暫定形」に改め、21行目の「平成14年12月に」の次に「調査、研究委託料として、上野赤郷線道路改良事業調査委託料等の1491万円を含む」を加える。

(12)  同26頁25行目の「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改める。

(13)  同27頁3行目の「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改める。

3  控訴人の不法行為責任の成否について

控訴人の不法行為責任の成否についての当裁判所の判断は、以下のとおり補正し、控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第4の2(2)ないし(8)(原判決28頁6行目から42頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決28頁6行目の「(2)」を「(1)」に、22行目の「(3)」を「(2)」に改める。

(2)  同29頁18行目の「区分され」の次に、「(地方部では高速自動車国道及び自動車専用道路が第1種、その他の道路が第3種とされている。)」を加える。

(3)  同29頁20行目の「区分されている」の次に、「(市町村道では、計画交通量が1日につき、平地部の場合500台以上1500台未満、山地部の場合500台以上4000台未満のものを第4級といい、平地部及び山地部とも500台未満のものを第5級とする。また、地形の状況その他の特別の理由によりやむを得ない場合において、該当する級の1級下の級に区分することができる。)」を加える。

(4)  同30頁14行目の「5条4項」を「3条4項」に改める。

(5)  同32頁15行目の「〔証拠省略〕」の次に「〔証拠省略〕」を、16行目の「車両規制がかけられている道路が」の次に「、第3種第4級普通道路として」を、それぞれ加える。

(6)  同32頁20、21行目の「肯定することはできない。」の次に「そもそも、道路法47条3項は道路管理権を基盤として、具体的な道路との関係において必要とされる通行車両の制限を行うことを目的としたもので、道路の新設又は改築の場合を予定したものではないと解されるのである。」を加え、25行目の「脱法的な」を「潜脱的な」に改める。

(7)  同33頁14行目から34頁18行目までを次のとおり改める。

「 しかし、改正道路構造令の施行により可能となった第3種第4級小型道路を敷設するのであれば、その旨の詳細設計をすれば足りる(技術センター職員のAも、本件詳細設計を用いて本件改良計画町道を第3種第4級小型道路又は第3種第5級道路として敷設することは、道路規格に対して過大設計となり不経済になると述べる(〔証拠省略〕)。)ほか、第3種第5級普通道路は1車線道路を想定している規格であるから、道路規格が第3種第4級普通道路とは大きく異なっており、本件詳細設計はこれにそぐわない設計ということになる。そもそも本件詳細設計は、これらの道路を念頭に置いたものとは認められない。なお、伊勢鉄道からは橋脚の基礎に影響を与えない場合には協議・説明で足りるとの見解が示されていたところ、線形重視部分が基礎に影響を与えるものであるとは認められないことから、伊勢鉄道との関係でも、詳細設計が必要であったとは認められない。

そうすると、控訴人が本件詳細設計委託契約を締結したこと(本件支出負担行為)については、道路法30条及び道路構造令12条との関係において、法が本来想定していない対応を前提とし、あるいは過大な設計を目的とするものということができる。」

(8)  同34頁19行目の「(4)」を「(3)」に、35頁24行目の「第4の2(4)イの」を「前記の」に、それぞれ改める。

(9)  同37頁2行目末尾に続けて、「旧河芸町は、平成14年12月17日の三重県本庁における打合せにおいてもそのことが問題点として指摘された際に、補助金の返還をすることを方針とすることを示しているものの、上記の事柄は、返還の要否、金額等にかかわるものであり、機能補償の内容や、減少する都市公園に追加編入する具体的区域の手当とともに、本件改良計画町道の線形重視部分を敷設するか否かの判断要素ともなるものである。事業計画の最終段階に位置づけられる詳細設計との関係でいえば、その前に具体的な検討を進め、見通しを立てておくべきものということができる。控訴人は、本件調整池部分の工事実施の中で、あるいは補助金交付決定の取消しを受けて考えても間に合うことであり、控訴人にその作為義務はないとも主張するが、認められない。」を加える。

(10)  同37頁9行目の「(5)」を「(4)」に改める。

(11)  同39頁1行目の「都市計画変更」を「都市計画決定の変更」に、5行目の「都市計画」を「都市計画決定」に、それぞれ改める。

(12)  同39頁11行目の「できないものになる。」の次に「そうでないとしても、詳細設計では各工種別数量計算までも行うものであり、本件公園の都市計画決定及び事業認可を変更するための手続に数年程度の期間を要した場合に、本件詳細設計の数値等をそのまま用いることができるものとも解されない。」を加える。

(13)  同39頁24行目の「当然であって、」の次に「前述した詳細設計と概略設計等の標準歩掛の相違をも併せ考慮すると、」を加える。

(14)  同39頁26行目の「(6)」を「(5)」に、40頁1行目の「第4の2(3)ないし(5)」を「上記(2)ないし(4)」に、9行目の「(3)ないし(5)」を「(2)ないし(4)」に、それぞれ改める。

(15)  同40頁15、16行目の「実施しようとしていたとの事情」を、「実施しようとしていたことや、住民や町議会からの要望があり、必要な用地が取得できる見込みになったことなどの事情」に改める。

(16)  同40頁19行目の「線形重視部分のうち」の次に「伊勢鉄道高架との交差部分については上記のような道路構造令12条違反の問題があり、」を加え、21行目の「同部分」を「これに続く部分も含めて、線形重視部分」に改める。

(17)  同41頁24行目の「〔証拠省略〕」を「〔証拠省略〕」に改め、26行目の「自認していること」の次に、「、上記のとおり、三重県県土整備部都市基盤室及び技術センターの各担当者などからは、上記計画についての問題点の指摘や消極意見、実現について強い危惧の念が表明されており、そのことは控訴人も報告を受け、町議会での審議やその準備等を通じて当然認識していたと解されること」を加える。

(18)  同42頁2、3行目の「理由とするものであるから、法解釈等の」を「理由とするものであって、それぞれに相当の根拠の認められる法解釈や実務上の取扱い等に関する」に改める。

(19)  同42頁11行目の「有効に成立している以上」を「有効に成立しており、上記のような理由では、その私法上の効力を無効とすべき特段の事情とは認められず、したがってその効力が否定されない以上」に改める。

(20)  控訴人の当審における主張について

ア 控訴人は、本件線形重視部分のような新設道路であっても、供用開始時までに道路法47条3項により通行車両の高さ制限をすることを前提に第3種第4級普通道路を敷設する手法は一般に行われていることであると主張するが、控訴人がその事例として提出する前掲の〔証拠省略〕を含め、本件各証拠からは、いまだそれが一般的に行われているものとまで認めることはできない。

また、本件改良計画町道は全長が550メートルと短く、しかもルート(中心線)は決まっていたことから、概略設計等を行う必要はなく、直截に詳細設計をする方が経済的であり、技術センターも同様の判断から委託契約を結んだものである旨主張している。

本件においては、道路として可能で適切な線形の選定等を主たる目的とする概略設計の必要性が小さいこと、特に、本件線形重視部分を除いた部分についてはその必要がないとも考えられることは控訴人主張のとおりである。しかし、新たに道路を敷設することとなる線形重視部分については必ずしも同様には考えられない上に、本件で問題となるのは、本件線形重視部分の道路敷設のために解決すべき複数の問題が存在し、しかもその解決が容易ではなく、解決が可能であったとしてもそのためには数年を要すると考えられる状況のもとで、解決に向けての具体的な見通しもないままに本件詳細設計委託契約を結んで詳細設計の作成業務を始めたことの適否なのである。仮に本件線形重視部分の道路敷設に伴う問題について具体的に解決の見通しが立っている状況であれば、控訴人主張のように考えることができるとしても、本件において認められる具体的な状況の下においては同様に考えることはできない。

そして、技術センターは、線形重視部分への道路敷設に伴って解決を要する問題について旧河芸町との協議の中で再三指摘した上、最終的にはそれらを理由に現線形(線形重視部分)は推奨できず、現道(クランク)に沿った線形を推奨するとの見解を示したのであるが、これに対して、旧河芸町からは、これらを考慮しないで道路法線を重視して設計をするようにと指示されたことから、指摘した問題については発注者側の責任として実施するものとして委託に応じたのであって、技術センターにおいて問題の解決が可能との見解を示したような事実は本件全証拠によっても認められない。控訴人主張にかかる技術センターの性格を考慮したとしても、旧河芸町から、上記のような指示とともに詳細設計の作成業務を委託された以上は、これを受託したことをもって技術センターを非難することはできず、また、技術センターが受託したからといって控訴人の責任が否定されるものでもない。

控訴人は、伊勢鉄道との協議のために詳細設計が必要であり、三重県等との協議においても詳細設計があった方が良いとも主張するが、伊勢鉄道からは、基礎に影響を与えない場合は構造計算を行わず協議、説明でよいとの見解が示されていたことは前記認定したとおりであり、三重県等との協議のために詳細設計が必要でなかったことも前述したとおりである。

イ 控訴人は、補助金等執行適正化法との関係について、本件調整池の機能補償は本件調整池部分の工事実施の中で考えれば足り、また、補助金の返還についても補助金等交付決定の取消しがあってからでも対応が可能であり、いずれも控訴人が行うべきものではない旨主張しているが、これが採用できないことはすでに述べたとおりである。

ウ 控訴人は、都市計画法による制約に関して、都市計画道路の存在が制約とならないことは、同計画道路に平行して本件町道の改良敷設がその後実施されていることから明らかであり、本件公園の都市計画変更についても線形重視部分の工事の着手までに行えばよく、三重県は合理的な理由もなく変更に応じないことはできない旨主張している。しかし、その後実施された本件町道の改良工事は、都市計画道路の存在と抵触しない形で、既存の道路の拡幅、整備事業として行われたものであり(〔証拠省略〕)、新たな線形重視部分の敷設を含む本件改良計画道路とは前提が異なる。

また、本件公園の都市計画決定の変更等に関して控訴人がその主張のような見解を有していたものとしても、当時の三重県側の消極的な意向に照らして、その変更等が困難な状況にあったことは前述したとおりである。そうであれば、都市計画決定の変更等についての権限を有する三重県の理解を得るために、協議を重ねて旧河芸町の考えを説明し、指摘された問題点の解決に努力するなどして協力を求めていく必要があると考えられる。また、仮にそれが順調に進んだとしても、変更のために必要な手続には数年程度の期間を要するものと考えられるのである。しかるに旧河芸町は、三重県の担当部署の意向を打診する程度の協議をしただけで、具体的には何も着手していなかったのであり、本件詳細設計委託契約締結の時点では、三重県側の理解はもちろん、協力が得られるのかどうかも明らかでない状況であった。したがって、都市計画決定の変更等の可能性、変更のための条件や必要な期間等について全く見通しのないままに、本件詳細設計委託契約を締結して詳細設計の作成業務を委託してしまったものといわざるを得ない。本件では、三重県との協議をさらに重ねて、都市計画決定の変更の可能性や条件等について見極めてから、具体的な設計の作業を進めるのが相当と考えられるのであり、それが困難若しくは不可能であったというような事情も認められないのである。

本件で問題となるのは、前述したように、本件線形重視部分の道路敷設のために都市計画決定の変更等を含め解決すべき複数の問題が存在し、しかもその解決が容易ではなく、可能であったとしてもそのためには数年を要すると考えられる状況のもとで、解決に向けての具体的な見通しもないままに本件詳細設計委託契約を結んで詳細設計の作成業務を始めたことの適否であることからすれば、仮に控訴人が都市計画決定の変更について上記のような見解を有していたとしても、本件詳細設計委託契約の締結が本件において認められる事情の下では違法と判断されるとの前記判断を妨げるものではない。したがって、この点の控訴人の主張も理由がない。

エ 控訴人は、旧河芸町議会が議決した予算案を実践したものであるから、控訴人に過失はないとも主張しているが、平成14年12月の町議会においては、本件詳細設計の委託契約についてまで詳しく説明されることはなく、上野赤郷線道路改良事業調査委託料等として補正予算案が上程され審議されたものであり(〔証拠省略〕)、また町議会の議決があったからといって違法と認められる支出負担行為が適法となるものでもないことから、控訴人の主張は認められない。

4  損害について

(1)  本件詳細設計は、本件改良計画町道の全区間について作成されたものであるが、以上検討してきたところからすれば、本件詳細設計委託契約という支出負担行為が違法と認められるのは、いずれも本件線形重視部分に係る道路法及び道路構造令違反の問題、補助金等執行適正化法違反の問題、都市計画法による制約に関する問題に起因するのであって、本件改良計画町道のその余の部分については、そのような問題はなく、実際にも前述したように同部分についての拡幅工事はその後施工されており、その限りでは本件詳細設計を活用することができたものと推認されることからすれば、同部分に関して生じた費用については損害から控除するのが相当と考えられる。また、実際にも、被控訴人は、本訴においては線形重視部分の詳細設計に要した費用相当分を損害として請求しているところである。したがって、控訴人の違法行為によって旧河芸町に生じた損害は、本件改良計画町道の線形重視部分(本件公園内町道部分のほか、原判決別紙図面記載のA地点とD地点を結ぶ部分も含む。)の詳細設計業務の対価に相当する額であると認められる。

しかしながら、原判決は、本件改良計画町道のうち、本件公園内町道部分については都市計画法の制約等によりおよそ敷設の見通しが立っていなかったものであるが、その余の部分についてはそのような事情にはなく、線形重視部分のうちの上記A地点から伊勢鉄道軌道までの部分についても、同部分に関する費用が、本件町道を旧河芸町庁舎へ至る道路の改良という観点からみて無駄であるとまでは断定できないとして、本件改良計画町道の全長550メートルのうち、線形重視部分150メートルから上記A地点から伊勢鉄道軌道までの33メートルを除いた部分に関する費用についてのみ損害と認め、損害額を算定している。そして、被控訴人も原判決のこの判断について不服を申し立てていない。したがって、本件では原判決のこの判断の範囲内で損害額について検討することとする。

(2)  これに対し、控訴人は、本件詳細設計は、線形重視部分に相当する部分とそれ以外の部分とに分断できるものではなく、また、線形重視部分に相当する部分を利用しなかったのは行政判断によるものであるとして、当該部分が損害賠償の対象となることはない旨主張している。しかし、設計業務は道路の各部分に対応してなされるものであるから、線形重視部分に相当する部分の費用をそれ以外の部分と区別することは可能である。また、本件線形重視部分には上記のとおりの問題があり、それらの問題の解決に向けた具体的な見通しもない状況下で、詳細設計を先行して行う必要性や合理性も格別認められないにもかかわらず、控訴人は本件詳細設計の作成業務を委託したものである。その結果作成された詳細設計について、線形重視部分が利用されなかったのは、同部分について存した上記の問題が解消される見通しがなかったことによるものといえるのであるから、それを単なる行政判断の結果であるとして損害を否定することはできない。

(3)  (1)を前提とした場合の損害額の算定についての当裁判所の判断は、原判決の「事実及び理由」欄の第4の3(3)(原判決44頁3行目から45頁6行目まで)及び原判決別紙計算書2に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決44頁11行目の「上記(1)」を「上記」に、45頁2行目の「301万4840円」を「301万4841円」に、それぞれ改める。)。

5  以上によれば、被控訴人の請求は原判決が認容した限度で理由があるものと認められ、原判決は相当であって、控訴人の控訴は理由がない。

よって、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西島幸夫 裁判官 野々垣隆樹 浅田秀俊)

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