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名古屋高等裁判所 平成19年(ネ)827号 判決 2008年5月13日

主文

1  一審原告らの控訴に基づき、原判決中一審原告ら敗訴部分のうち、次項の請求に係る部分を取り消す。

2  一審被告は、一審原告らに対し、原判決主文第1項の金員のほか、それぞれ2万2000円並びにこれに対する一審原告X1及び同X2については平成18年7月29日から、その余の一審原告らについては同月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  一審原告らのその余の本件控訴及び一審被告の本件控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審を通じこれを6分し、その5を一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  (一審原告ら)

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  被控訴人(一審被告)は、控訴人(一審原告)らに対し、それぞれ33万円並びにこれに対する控訴人(一審原告)X1及び同X2については平成18年7月29日から、その余の控訴人(一審原告)らについては同月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  訴訟費用は、第1、2審を通じ被控訴人(一審被告)の負担とする。

(4)  (2)及び(3)につき仮執行宣言

2  (一審被告)

(1)  原判決中、控訴人(一審被告)敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消しに係る被控訴人(一審原告)らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は、第1、2審を通じ被控訴人(一審原告)らの負担とする。

第2事案の概要

1  一審原告らが居住する団地内の緑地の一部(一審被告が所有する土地で、登記簿上の地目は、雑種地であった。)が公衆用道路に地目変更され、そこに道路が造られた。これに対し、一審原告らは、その道路を緑地に戻すことを求めて(緑地復旧運動)、その旨の要望書や署名簿等に署名し、これを一審被告代表者市長に宛てて提出したところ、一審被告は、一審原告らに無断で、同要望書等を第三者である自治会長に交付した(本件交付行為)。本件は、一審原告らが、本件交付行為により精神的苦痛を被ったなどと主張して、一審被告に対し、国家賠償法に基づく損害賠償として1人につき33万円及びこれに対する民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  原審は、一審原告らの請求のうち1人につき3万3000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で認容したところ、双方が敗訴部分につき控訴をした。

第3当事者の主張等

基本的事実関係及び争点は、次の1、2のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1」及び「2」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決書7頁10行目の「エ」を「カ」と改め、同頁9行目の末尾の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「エ 自治会は、多様な価値観の会員がいる団体であり、当該地区に住居を構え、家族とともに一生を送る会員がほとんどであるから、自治会の方針を巡り意見を二分する先鋭な問題が生じたときには、会員個人がどのような意見を持っているかについては匿名性に配慮すべきである。意見の持ち主が特定されることになれば、特に少数意見の持ち主は、多数意見の会員から、場合によっては村八分のような排他的な嫌がらせを受ける危険性もあるからである。本件においても、一審原告らは、一審被告に対しては、本件署名簿等を提出し氏名を明らかにしているとしても、会員相互間においても誰が本件署名簿に署名をしたのかは、世話人以外は知らない。そのように、緑地復旧運動の参加者については、匿名性が必要である。しかるに、一審被告は、一審原告らの緑地復旧運動を妨害する意図で、Aら賛成派に加担し、本件交付行為をしたものであり、これは、自治会の分断と、一審被告支持派による一審原告ら反対住民への攻撃を容易にするものである。

オ 本件交付行為が行われたのは、平成16年9月9日ではなく、同年9月8日である。したがって、一審被告は、内部手続を無視して決裁前に本件交付行為を行っており、その意味でも、違法性は高い。また、その他にも、一審被告は、A自治会長に対し、同年7月28日に、伊勢市楠部町a町内会住民名で作成した「a団地内の緑地(〔番地省略〕)を削減し、個人が使用する進入路にする許可が出されたことについて」と題する文書も交付した。」

(2)  原判決書8頁6行目の末尾の次に、「また、一審原告らは、本件要望書等の誓願文書の提出に際し、その秘匿又は秘密の保持を希望する旨の申出をしていない。」を加える。

(3)  原判決書8頁16行目の「そしてまた」から同頁20行目の末尾までを、次のとおり改める。

「そして、本件回答書の写し(〔証拠省略〕)は、〔証拠省略〕(戻すことについての回答書写)、〔証拠省略〕(戻すことの要望書に対する回答書)、〔証拠省略〕(伊勢市楠部町字緑が丘〔番地省略〕をもとの緑地(雑種地)に戻すことについて)に深く関連していることは明らかであり、また、これらの書面の内容は、それ以前に出されていた〔証拠省略〕(要望書)、〔証拠省略〕(署名簿)の内容とも深く関連するものであることは明白である。平成16年9月4日のa団地地区における住民説明会(以下「本件説明会」という。)において、a団地住民から提出された上記疑問点や要望事項に対し、一審被告の職員が口頭で回答を行った際に、同職員が、A自治会長に上記回答を記載した文書及び本件要望書(〔証拠省略〕)等を交付する旨告げたところ、出席者から異議は出なかった。そこで、一審被告は、本件回答書の基底であり、これに密接に関連する本件要望書及び署名簿の写しについても異議はなかったと見て、交付した。したがって、一審被告は、署名者の意向を無視して交付したものではない。そして、交付先は、本件説明会に出席しており、しかも緑地復旧の要望の活動を知悉しているA自治会長である。」

2  当審において当事者が追加あるいは敷衍した主張

(一審原告ら)

(1)ア 本件交付行為の相手方であるA自治会長は市政賛成派(緑地復旧運動反対派)であり、一審被告が同人に文書を交付することは、緑地復旧運動を推進する一審原告らの情報を、これに反対する住民に提供することになる。したがって、一審被告は、緑地復旧運動に反対する住民が、本件交付行為により得た情報を自派の勢力拡大のために利用することや、さらには交付した文書の中にはA自治会長を名指しで批判する文書も含まれていたので、A自治会長ないしその周辺の者が何らかの報復措置をとるかもしれないことを容易に予測できた。したがって、一審被告は、本件交付行為により一審原告らの運動を妨害する意図があったというべきである。

イ 本件説明会に出席した一審原告は、X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10であり、その他の一審原告は参加していないので、そもそも本件交付行為を了承することはあり得ない。

ウ また、本件説明会では、本件回答書の内容の説明はあったが、要望書や署名簿、その他の回答書をA自治会長に渡すことについては、一切説明はなかった。したがって、一審原告らが、本件説明会当日、一審被告がA自治会長に交付することを了承したものは、本件回答書のみであり、その他の本件要望書や本件署名簿等の交付を了承したことはない。

(2) 開示された情報は、請願権の行使である思想信条に関する情報であり、行政が、行政に対し提出された署名簿や嘆願書を不法に流出させた場合の慰謝料としては、類似の事件に比べても、原審の認定額は少額に過ぎる。

(一審被告)

(1)ア 本件交付行為は、団地のA自治会長に対するものであり、その目的は、団地地区内における緑地復旧についての要望と署名者住民の現状を把握・理解し、本件団地自治会の円滑な運営に資することにあり、一審原告らの運動を妨害する意図はなかった。そして、本件要望書及び本件署名簿の記載内容自体に、一審原告らの同意を得なければならないと一般に認められるような秘密事項は含まれていない。

イ 一審被告は、市民の行政施策に対する請願は、広く受け入れてきており、本件団地住民に対して、自治会を通す必要があるとか、自治会としての意思統一をすべきであるなどの指示、要望はしていない。

ウ 一審被告は、本件説明会において、本件回答書の読み上げ及び口頭による回答を行い、本件回答書を出席者の一部に配布し、出席中のA自治会長にも交付することについては、出席者の了承を得た。一審原告らは、本件説明会に多数出席しており(少なくとも、緑地復旧活動の署名を集めた代表的署名者は出席していた。)、一審被告の職員の交付説明には反対の意見を述べておらず、本件回答書をA自治会長に交付することについて了承した。したがって、一審被告は、本件回答書と関連し、その前提となる本件要望書(〔証拠省略〕)、本件署名簿(〔証拠省略〕)の各写しの交付についても了承が得られたと判断した。

エ よって、本件交付行為は、正当なものである。

(2) 一審原告らの緑地復旧運動は、公然と行われており、したがって町内会長に対し、その秘密を保持しなければならない理由はない。そして、一審原告らが主張している、本件交付行為により一審原告らの精神面に与えた悪影響は、本件交付行為に契機があったとしても、一審原告らの日常の生活状況と緑地復旧運動そのものによっても生じているものであり、原審で認定した損害額は、類似の事件に比べても高額に過ぎる。また、弁護士費用は、損害としては認められない。

第4証拠

原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第5当裁判所の判断

当裁判所は、一審原告らの請求は、1人につき5万5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決書10頁24行目の冒頭から同頁26行目の「によれば」までを、「〔証拠省略〕によれば」と改める。

(2)  原判決書11頁16行目の「との方針が示された。」を、「との方針が示され、同旨の内容を記載した「伊勢市楠部町字緑が丘〔番地省略〕をもとの緑地(雑種地)に戻すことの要望書に対する回答」と題する書面(〔証拠省略〕)が交付された。」と改める。

(3)  原判決書12頁4行目の末尾の次に、「これに対して、一審原告らは、A自治会長に対し、上記方針は自治会住民の総意でないとの意見を伝えるとともに、同年7月28日、一審被告代表者市長宛に、自治会の上記方針は、住民の総意ではなく、A自治会長個人の意見で作られたものであるなどと記載した書面(〔証拠省略〕)を提出した。」を加える。

(4)  原判決書12頁7行目の「地域住民が出席し、」を「地域住民が出席したが、誰も出席簿に署名をしなかった。また、」と改める。

(5)  原判決書13頁9行目の末尾の次に、次のとおり加える。

「(なお、一審原告らは、一審被告が上記①ないし⑥の文書をA自治会長に交付したのは同年9月8日であり、以上の文書のほかにも、伊勢市楠部町a町内会住民名で作成した「a団地内の緑地(〔番地省略〕)を削減し、個人が使用する進入路にする許可が出されたことについて」と題する文書もA自治会長に交付したと主張するが、これらの事実を裏付ける的確な証拠はない。一審原告X3の陳述書〔〔証拠省略〕には、上記主張に沿う記載があるが、他に的確な証拠がなく、その記載のみでは上記主張を認めることはできない。)」

(6)  原判決書16頁25行目の末尾の次に、次のとおり加える。

「加えて、本件では、一審原告らは、地方公共団体である一審被告の行政施策に反対し、その撤回を求めており、この反対意見が記載され一審被告に提出された文書が、一審被告により、その行政施策に賛成しており、しかも一審原告らが所属している町内会の会長(自治会長)という立場にある者に開示されることになれば、上記危険は一層深刻になる。」

(7)  原判決書17頁6行目の末尾の次に、次のとおり加える。

「一審被告は、個人情報保護条例及び情報公開条例を定めているところ、上記個人情報は、両条例にいう個人情報(前者の2条(1)、後者の9条(1)ア)に該当し、前者の10条においては、「実施機関は、収集した個人情報を個人情報取扱事務の目的に即して適正に利用しなければならない。」と規定されて、保護の対象となっており、また、後者の9条(1)アにおいては、不開示情報として規定されている。したがって、本件交付行為は、これらの条例に違反するものである(実際、一審原告らが、上記情報公開条例に基づき本件要望書、本件署名簿等の情報公開を求めたところ、一審被告は、これらの文書に記載された個人情報を抹消した文書を開示した(〔証拠省略〕)。)。」

(8)  原判決書18頁2行目の「が窺えたのであるから」を「を認識していたと認められるのであるから」と改め、同頁3行目の「免れないところである。」を「免れず、一審原告らが、一審被告による本件交付行為を、一審原告らの緑地復旧運動に対する妨害行為と理解したことにも十分理由があるといえる。」と改める。

(9)  原判決書18頁16行目の「証拠はなく」の次に、「(実際、本件説明会に出席した住民は、その氏名を明らかにしなかった。)」を加える。

(10)  原判決書19頁3行目の「(9)」を「(10)」と改め、同頁2行目の末尾の次に、行を改めて、次のとおり加える。

「(9)また、一審被告は、本件回答書(〔証拠省略〕)は、本件要望書、本件署名簿などの内容と深く関連しているので、本件回答書をA自治会長に交付することに異議がなかったことから、その他の文書(〔証拠省略〕)についても異議がないものとして取り扱ったと主張する。

しかし、本件回答書は、一審原告らの緑地復旧運動に関する一審被告に対する質問、及びこれに対する一審被告の回答が記載されているものであり、それ自体で、緑地復旧運動に関する住民の意見とこれに対する伊勢市の見解が十分に理解できるものであり、他の文書を参照しなければ本件回答書の内容が理解できないとはいえない。したがって、本件回答書は、他の文書と深く関連しており、一体として扱わなければならないものであったとは認められない。よって、本件回答書をA自治会長に交付することにつき参加者に異議がなかったとしても、その他の文書を交付することについても異議がないものとして取り扱うことはできなかったというべきである。よって、一審被告の上記主張は採用できない。」

(11)  原判決書20頁3行目の「被告において、」から同頁4行目の「認め難いが、」までを、次のとおり改める。

「また、一審被告は、一審被告の行政施策に反対している一審原告らの個人情報を、一審被告の行政施策に賛成し、一審原告らと対立しているA自治会長に交付したものであり、しかも、一審被告は、A自治会長が一審原告らの緑地復旧運動に反対していることを認識していたのであるから、一審被告がどのような意図で本件交付行為をしたかは別として、一審原告らが、本件交付行為を、一審被告による緑地復旧運動に対する妨害行為であると理解したことにも十分理由があるといえる。したがって、」

(12)  原判決書20頁8行目の「3万円」を「5万円」と、同頁10行目の「3000円」を「5000円」と、それぞれ改める。

(13)  原判決書20頁20行目から同頁21行目の「損害賠償責任(使用者責任)」を「国家賠償法に基づく損害賠償責任」と改め、同行の末尾の次に「なお、一審被告は、弁護士費用額を損害と認めるのは相当でないと主張するが、これまで判示してきたとおり、一審被告による本件交付行為は、国家賠償法上違法なものであるから、この違法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害賠償が認められない理由はない。」を加える。

2  当審において当事者が追加あるいは敷衍した主張について

(1)  一審原告らは、一審被告の本件交付行為が一審原告らの行ってきた緑地復旧運動を妨害する目的でされたものであると主張する。

〔証拠省略〕によれば、緑地復旧運動自体は公然とされていたが、本件説明会に参加した住民が自己の氏名を明らかにしていなかったことが示すとおり、その参加者は氏名を明らかにしてその運動に参加してはいなかったこと、交付の相手方であるA自治会長は、一審原告らの行ってきた緑地復旧運動に反対してきたが、住民のうち誰が緑地復旧運動に賛成しているのかなど、その全貌を把握していなかったことが認められる。このような状況の下で、緑地復旧運動に賛成している者の氏名が反対派に明らかにされると、賛成している者が、反対派によるその情報を利用した妨害活動の発生を危惧することは、了解できるところである。しかし、一審被告は、本件交付行為に係る文書のうち、全部の文書について了承は得ていないものの、一部については本件説明会で出席者の了承を得てA自治会長に交付しており、公然と行っていること、本件交付行為以前においては、一審被告が、一審原告らの行ってきた緑地復旧運動に対し介入したり、反対したりするなどの妨害を行ってきたことを示す証拠はなく、また、本件交付行為に際して、一審被告がA自治会長に対して、特段の指示をしないで各文書を交付していること、本件交付行為後、A自治会長が、一審被告と意を通じて、交付された本件署名簿等を利用して一審原告らの緑地復旧運動を妨害したことを示す的確な証拠がないことに照らせば、一審原告らの主張している間接事実を考慮しても、一審被告が、一審原告らの緑地復旧運動を妨害する意図で本件交付行為を行ったとまで認めることはできない。

もっとも、一審被告は、緑地復旧運動のポスターを剥がしていることを認めているが、これは本件交付行為の後に、これと関係なく行われたものであり、上記認定を左右するものではない。

(2)  本件交付行為により開示された情報は、地域住民の行政に対する意見(一審被告の施策に反対する意見)であって、広く捉えれば、政治的信条に関わるものである。確かに、一審原告らの緑地復旧運動自体は公然と行われてきたものであるが、本件説明会に氏名を明らかにして参加した住民がいなかったことからすれば、参加者個々人は、その氏名を明らかにした上で公然と活動をしていたとまでは認められず、また、本件説明会を主催した一審被告も、そのことを認識していたものと認められる。そして、〔証拠省略〕の記載内容に照らせば、一審原告らとA自治会長とが対立していたことは明らかであり、一審被告も、一審原告らから〔証拠省略〕を受領していた以上、このことを認識していたものと認められる。

そして、個人がいかなる政治的信条を有し、その信条に基づきいかなる行動を行うかは、個人の内心と密接な関係を有する事柄であり、そのような事柄と関わる情報については、特に厚く保護する必要があるものであるから、本件で開示された情報は、単なる住所、氏名に比べ、要保護性の高いものである。また、本件交付行為により開示された情報は、住民運動(緑地復旧運動)に関わるものであり、この情報(誰が、どのような考えを持ち、当該運動に参加しているのか)が、殊に対立する当事者に開示されれば、運動自体の萎縮効果が生じ、本来許されるはずの住民運動を行うことが困難になる危険性が高い。

本件においては、上述のとおり、要保護性の高い情報を入手した一審被告が、一審原告らと対立していることを認識していたA自治会長に対し、当該情報を開示したものである。したがって、一審被告による本件交付行為は違法であり、一審被告には少なくとも過失がある。

これに対し、一審被告は、交付先は、本件説明会に出席しており、しかも緑地復旧の要望の活動を知悉しているA自治会長であるとして、本件交付行為は正当なものであると主張する。しかし、自治会(町内会)は、地方公共団体の下部組織ではなく、あくまでも地域住民の自主的な団体であるから、地方公共団体は、自治会を自らの施策に協力させるべく利用することは、特に当該自治会の構成員に施策に反対する住民がいるときには、自治会を分裂させる危険性をはらむものであるから避けるべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。

(3)  そして、これまでに判示した事情を総合すれば、本件交付行為により一審原告らが被った精神的損害に対する慰謝料としては、一審原告1人につき5万円が相当であり、これと相当因果関係のある弁護士費用は、一審原告1人につき5000円であると認められる。

第6結論

以上判示したところによれば、原判決は一部相当でないので、一審原告らの控訴に基づきこれを変更することとし、一審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法67条2項、65条1項本文、64条本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、仮執行の宣言については、その必要がないものと認め、申立てを却下する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 鳥居俊一 戸田彰子)

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