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名古屋高等裁判所 平成19年(ラ)61号 決定 2008年8月08日

主文

1  本件抗告に基づき、原決定主文第1項及び第2項中の相手方に係る部分を以下のとおり変更する。

(1)  相手方が、原決定別紙1の1、2、4、7(ただし、7についてはフレンドシップ1世に関するものに限る。)記載の抗告人の会計帳簿及び会計書類を閲覧・謄写することを許可する。

(2)  相手方のその余の申請を却下する。

2  本件附帯抗告を棄却する。

3  本件申立費用は、第1、第2審を通じてこれを3分し、その1を抗告人の負担とし、その余は相手方の負担とする。

理由

第1当事者の求めた裁判

1  抗告人

(1)  原決定主文第1項を取り消し、同取消部分に係る相手方の申請を却下する。

(2)  主文第2項同旨

2  相手方

(1)  原決定中、相手方の申請を却下した部分を取り消す。

(2)  相手方が、原決定別紙1記載の抗告人の会計帳簿及び会計書類並びに契約書類を閲覧・謄写することを許可する。

(3)  本件抗告を棄却する。

第2事案の概要

1  本件は、相手方及び原審相申請人X2(以下「X2」という。)が、抗告人の親会社(株式会社山武、以下「山武」という。)の株主として、抗告人及び山武の代表取締役であるY1(以下「Y1」という。)の不正行為の責任追及のため必要があると主張して、平成17年法87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)293条の8第1項に基づき、原決定別紙1記載の抗告人の会計帳簿及び会計書類並びに契約書類等(以下「本件帳簿等」という。)の閲覧・謄写(以下「閲覧等」という。)の許可(以下「本件許可申請」という。)を求めた事案である。

2(1)  原決定は、本件許可申請につき、相手方については、原決定の別紙2記載の会計帳簿及び会計書類並びに契約書類の限度でこれを許可し、その余の申請は却下したが、X2についてはすべて却下した。

(2)  抗告人は、相手方及びX2を相手方として即時抗告を申し立てた。しかし、上記のとおり、X2の本件許可申請はすべて却下されていたのであるから、同人を相手方とする即時抗告は抗告の利益を欠いていた。

(3)  相手方及びX2は、即時抗告の期限経過後の平成19年3月27日、附帯抗告を申し立てた。

(4)  抗告人は、平成19年4月13日、本件即時抗告のうちX2を相手方とする部分を取り下げた。本件附帯抗告は、抗告期間経過後になされたものであるから独立の抗告とは認められず、上記取下げによりX2についてはその効力を失った。なお、X2は、上記取下げに異議を述べているが、この異議は上記取下げ及び附帯抗告の失効の判断に影響を与えるものではない。

(5)  したがって、本件は、相手方の本件許可申請を一部許可した原決定について、抗告人の申立てに係る本件抗告と、相手方の申立てに係る本件附帯抗告とからなる事件となった。

3  前提となる事実及び当事者の主張は、以下のとおり、原決定を補正し、抗告審における当事者の主張を付加するほかは、原決定「事実及び理由」欄の二及び三に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、略語については原決定のそれによる(以下、同じ。)。

(原決定の補正)

(1) 原決定4頁14行目の「法人税の」から同15行目の「閲覧等」までを「法人税の確定申告書控・資料、経費に関する請求書・領収書の閲覧等」と改める。

(2) 同5頁8行目の末尾に「その根拠は、上記(1)ア、(2)アのY1の各行為である。」を加える。

(3) 同5頁10行目から11行目までを以下のとおり改める。

「 したがって、第1期から直近までの抗告人の得意先元帳(売上元帳)及び売上明細補助簿を閲覧することにより、その具体的内訳を知る必要がある。しかし、抗告人が、X2には旧商法293条の7第2号の事由がある旨主張しているので、X2及び相手方は、抗告人の営業上の秘密を知ってこれを利用しようとする意思のないことを明らかにするため、上記書類の閲覧等の許可申請は撤回する。」

(4) 同5頁25行目の「総勘定元帳」を「第1期から直近までの総勘定元帳」と改める。

(5) 同6頁7行目の「財産目録」を「平成15年9月30日時点の財産目録」と改める。

(6) 同6頁10行目から11行目にかけての「総勘定元帳」を「平成14年度及び平成15年度の総勘定元帳」と改める。

(7) 同11頁17行目の「フレンドシップ1世は、」を「フレンドシップ1世は平成12年に購入したものであり、」と改める。

(8) 同13頁2行目の「申請人X2が、本件申請書記載の主張を行う」を「X2及び同人と一心同体である相手方が、上記1のような主張を行う」と改める。

(抗告審における当事者の主張)

(1) 抗告人の主張

ア(ア) 競業会社の株主等に会計帳簿等の閲覧等が許可されないのは、競業会社への情報漏れを避ける趣旨である。したがって、相手方がマルヨの株主でなくとも、競業会社の株主であるX2と親子関係にあり、同一手続で本件帳簿等の閲覧等を請求し、しかも代理人が共通しているといった事情のある本件では、信義則上ないし旧商法293条の7第2号の類推適用により、相手方に対しても本件帳簿等の閲覧等は許可されるべきではない。

(イ) 本件のように、2人以上の株主が共同で会計帳簿等の閲覧等の許可申請をしている場合において、そのうちの1人に旧商法293条の7第2号の拒否事由があるときは、他の者についても閲覧等を拒否できると解すべきである。すなわち、会計帳簿等の閲覧等の請求は、請求者一体として1つの請求であり、一体の請求について拒否事由を判断すべきものであるからである。これを現実的に見ても、共同申請の場合において、一方当事者に拒否事由があるのに、他方に拒否事由がないとして閲覧等を認めれば、結果として拒否事由がある当事者に情報が与えられることになって、会社、他の株主及び債権者に不利益が生ずることとなる。

したがって、X2に旧商法293条の7第2号の拒否事由がある本件においては、共同申請人である相手方の本件許可申請も認められないというべきである。

イ 契約書は、旧商法293条の6第1項各号所定の会計帳簿及び書類に含まれない。会計帳簿は、領収書や銀行振込に基づいて作成されるのが通常であり、抗告人においても、契約書を会計帳簿の記録材料として使用したことはなく、したがって、契約書が会計帳簿を実質的に補充するということもない。

契約書には、会計帳簿に記載される会計処理以外の項目も多く含まれているから、経理状況の調査を目的とする会計帳簿の閲覧・謄写請求に付随するものとして閲覧等が認められるべきものではない。

(2) 相手方の主張

ア 本件帳簿等のうち、原決定が閲覧等を許可しなかったものも、以下のとおり、許可されるべきである。

(ア) 直近5年間の法人税の確定申告書控・資料

上記書類は会計帳簿と表裏一体をなすものであり、実質的に会計帳簿と同視すべきである。

(イ) 第1期から直近までの賃金台帳及び源泉徴収簿

上記書類は会計帳簿あるいは会計の書類に含まれるものである。すなわち、賃金総額は総勘定元帳で把握できるとしても、誰にいくらの賃金が支払われたかは賃金台帳及び源泉徴収簿でないと判明しない。Y1に対しては、同人が経営する税理士事務所の事務員の給料を抗告人に支払わせているとの疑いがあるから、上記書類の閲覧等を求める必要がある。

(ウ) 函南土地の不動産鑑定書

上記不動産鑑定書は、函南土地が適正な価格で売買されたか否かを知るために不可欠な書面であるから、これを会計帳簿を実質的に補充する書類と解さなくては、会計帳簿の閲覧等を認める法の趣旨を全うすることにならない。

(エ) 福利厚生施設船舶等利用規程、同利用申込書

会計帳簿自体が適正な支出原因に基づいて正しく記帳されているか否かをチェックするためには、上記書類の閲覧等が不可欠である。すなわち、Y1の公私混同の事実解明のためには、フレンドシップ1世がいかなる利用規程に基づいて運用されているか、当該利用規程にもかかわらず、実際には抗告人の従業員らがこれを利用した事実がないとの実態を明らかにする必要があるからである。

イ(ア) 山武及び抗告人とマルヨは、以下のとおり、競業関係にない。

山武は、以前は果実類を取り扱っていたが、昭和56年5月、果実部を独立させて株式会社中京を設立した。そして、同社は、名古屋市北部市場で果実類を取り扱う業者として活動していたが、山武は、平成14年11月、同社を合併し、平成17年6月まで名古屋市北部市場で果実類を取り扱っていた。しかし、その間も、山武とマルヨは客筋が異なり、競業関係にはなかった。そして、山武は、平成17年6月、果実を取扱商品からはずしたが、近い将来、山武及びそのグループ会社が果実を取り扱うことはない。このことは、専門的知識と長年の経験を要する果実を取り扱う人材が、平成17年6月をもって山武を全員退職した事実から明らかである。しかして、現在では、山武は名古屋市北部市場で野菜のみを取り扱っているのに対し、マルヨは名古屋市中央卸市場本場において果実のみを取り扱っているから、山武及び抗告人とマルヨは競業関係にない。

(イ) X2はマルヨの監査役であって営業担当ではないところ、X2及び相手方には、本件帳簿等を自らの競業に利用し、あるいは他の競業者に利用させようとする主観的意図はなかったから、同人らには旧商法293条の7第2号の拒否事由は存在しない。

X2及び相手方は山武の大株主であり、山武が利益を上げて高額の配当を得られることがX2及び相手方の利益となるのであるから、同人らが、本件帳簿等を閲覧等することにより山武及び抗告人に著しい損害を生じさせるような動機を持つはずがない。

(ウ) 相手方が閲覧等の許可を求めている本件帳簿等は、いずれもマルヨの利を図り、山武あるいは抗告人に何らかの損害を与えるために利用できる内容のものではない。すなわち、抗告人は山武の資産管理などを担当するために設立された会社であり、野菜及び果実の取引業務は行っていないから、本件帳簿等を閲覧等してもマルヨを不当に利することはないからである。

ウ 抗告人は、X2に旧商法293条の7第1号及び第2号の拒否事由があるとして、同人と一定の身分関係があり、本件許可申請を共同でした相手方についても、本件帳簿等の閲覧等を許可すべきではない旨主張しているが、この主張は株主平等原則に違反し、かつ、株式譲渡自由の原則を不当に制限するものである。

第3当裁判所の判断

当裁判所は、相手方の本件許可申請は主文第1項(1)の限度で許可すべきであり、その余は許可すべきでないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1  旧商法293条の8第2項(293条の7第1号、第2号)該当性について

(1)  相手方はX2の母親で同人と同居し、同人と一緒になって本件許可申請をしたものであり、代理人弁護士もX2と共通であることからすれば、両者の請求は、その実質において一体のものと認められるから、X2に旧商法293条の8第2項(293条の7第1号、第2号)の拒否事由が認められる場合は、相手方についても拒否事由があるものと認めるのが相当である。

なお、相手方は、上記のように解することは株主平等原則に違反し、かつ、株式譲渡自由の原則を不当に制限するものである旨主張するが、独自の見解であって採用することができない。

(2)  旧商法293条の8第2項(293条の7第1号)該当性について

当裁判所も、X2及び相手方の本件許可申請は旧商法293条の8第2項(293条の7第1号)に該当しないものと判断する。その理由は、原決定「事実及び理由」欄の「四 当裁判所の判断」の1(2)イに記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原決定16頁21行目の「提起していること」を「提起し、Y1が実質上これを認めて是正措置をとっていること(疎甲23ないし29(枝番を含む。))」と改める。)。

(3)  旧商法293条の8第2項(293条の7第2号)該当性について

ア 相手方自身に旧商法293条の8第2項(293条の7第2号)の拒否事由があることを認めるに足りる証拠は存在しない。問題は、X2に上記拒否事由が存在するか否かである。そこで、以下、検討する。

イ 旧商法293条の8第2項(293条の7第2号)は、株主が会社と競業をなす会社の株主等である場合は、当該株主が子会社の会計帳簿等の閲覧等を求めても、裁判所は許可することができない旨定めている。

これは、会社の株主である競業者等が、会計帳簿等の閲覧等により会社の秘密を探り、これを自己の競業に利用し、又は他の競業者に利用させることを許せば、会社に甚大な被害を生じさせるおそれがあることから、この危険を未然に防止する趣旨である。しかして、上記趣旨からすれば、会計帳簿等の閲覧等を求める株主が競業者の株主等であるという客観的事実が認められれば、原則として同条同号の拒否事由が存在するというべきであるが、競業者の株主等といっても千差万別であり、実質的に見て上記危険が存在しない場合もあり得るから、会計帳簿等の閲覧等を求める株主が、閲覧等によって知り得る事実を自己の競業に利用し、又は他の競業者に利用させようとする主観的意図が存在しないことを立証した場合は、閲覧等を許可できるものと解するのが相当である。

ウ 疎甲1、18、30ないし32、34、40ないし45、51ないし54、56、57、59、60、乙3の1・2、6、7によれば、以下の事実が認められる。

(ア)① 山武は、青果、促成、仲買業及びこれらに附帯する一切の業務を目的とする株式会社であり、名古屋市が開設する名古屋中央卸売市場北部市場(以下「北部市場」という。)において、青果部に属する仲卸業者として名古屋市長の許可を得ている。

② 抗告人は、山武グループ各社の総務、経理、電算、輸送業務などの各社に共通する部門を効率よく集中して行うとともに、山武の資産管理などを担当させたり、青果卸業の許可を受けた山武本体ではできない新規事業を行うために、青果仲卸業務の受託等を目的として、平成元年3月に山武の100%子会社として設立された。

③ マルヨは、青果物の仲卸業及びこれに附帯する一切の業務を目的として平成3年4月に設立された株式会社であり、名古屋市が開設する名古屋中央卸売市場本場(以下「本場」という。)において、青果部に属する仲卸業者として名古屋市長の許可を得ている。マルヨの現在の取扱商品は専ら果実類であり、近い将来において野菜類を取り扱う予定があることを認めるに足りる証拠はない。

X2は、マルヨの30%以上の株式を所有し、監査役に就任しているが、営業業務には従事していない。

(イ) 山武は、果実類を取り扱っていた時期もあったが、昭和56年5月、果実部を分離独立させて株式会社中京(以下「中京」という。)を設立した。中京は、北部市場で果実類を取り扱っていたが、山武は、平成14年11月、同社を吸収合併し、再び北部市場で果実類を取り扱うようになった。このとき、中京の従業員の半数以上が退職し、残りの従業員が山武に移籍した。しかし、山武は、平成17年6月、果実類の取扱いを中止した。そのため、中京から移籍した果実類についての専門的知識と長年の経験を有する従業員らは、平成17年6月をもって山武を全員退職した。

したがって、山武は、現在、野菜類を専ら取り扱っている。そして、山武が、近い将来において、果実類を取り扱う予定であることを認めるに足りる証拠は存在しない。

(ウ) X2は、疎甲51において、本件許可申請の目的を、「山武の大株主として、Y1の不正行為の責任追及のために本件帳簿等の閲覧等を求めているものであり、山武及び抗告人に損害を与えようとする意思はない。」旨陳述している。

エ そこで、検討するに、上記認定のとおり、山武とマルヨは、所属する市場は異なるものの、いずれも名古屋市が開設する名古屋中央卸売市場の青果物の仲卸業者であって業務内容も同種であり、その取扱商品についても果実類が競業していた時期もあったが、現在では、山武は北部市場において専ら野菜類を、マルヨは本場において専ら果実類を取り扱い、近い将来において取扱商品が競業する可能性はないこと、したがって、X2が本件帳簿等を閲覧等することによって、山武及び抗告人の取扱商品である野菜類の営業秘密を知り得たとしても、これをマルヨの取扱商品である果実類の商取引に利用するということはあり得ないこと、また、X2が山武及び抗告人の平成17年6月以前の果実類の商取引についての営業秘密を知り、これをマルヨの商取引に利用したとしても、山武及び抗告人が既に果実類の取扱いを中止している以上、山武及び抗告人に被害を生じさせることはないことからすると、上記ウ(ウ)の本件帳簿等の閲覧等により山武及び抗告人に損害を与えようとする意思はない旨のX2の陳述は信用することができる。

そうすると、本件においては、X2には、本件帳簿等の閲覧等によって知り得る事実をマルヨの営業に利用したり、他の競業者に利用させようとする主観的意図が存在しないことが立証されたといえるから、X2には旧商法293条の8第2項(293条の7第2号)の拒否事由が存在しないというべきである。

オ 上記アないしエによれば、相手方には旧商法293条の8第2項(293条の7第2号)の拒否事由が存在しないというべきである。

2  本件許可申請が理由のあること等について

(1)  旧商法293条の6の株主の帳簿閲覧権は、株主が会社の代表取締役の不正行為の責任を追及する等、経営監督権を行使するための前提ないし手段として認められた権利であるから、上記帳簿閲覧権行使の理由は、上記経営監督権行使の要否を検討するに値する特定の事実関係が存在し、閲覧等の結果によっては経営監督権を行使すると想定することができる場合であれば足りると解するのが相当であるところ、前提となる事実及び疎甲3ないし5、13ないし22、33によれば、本件許可申請は上記場合に該当するものと認められるから、申立ての理由があるというべきである。

(2)  抗告人は、本件許可申請には理由がないとして、①抗告人は山武の100%子会社であるから、抗告人が配当をしなくても山武が損害を被ることはない、また、抗告人との取引によって山武が損害を被ることもあり得ない、②相手方が主張する本件許可申請の理由は誤っている、③閲覧等の対象及び理由が特定されていない旨主張する。

しかしながら、相手方は、Y1に対する不法行為(配当を受ける権利の債権侵害)に基づく損害賠償等の訴えの提起を検討するために本件帳簿等の閲覧等を求めているのであるから、上記①の主張は的はずれである。また、上記②については、そのうち原決定の「事実及び理由」欄の「三 当事者の主張」の2(2)イ①は、上記と同様に的はずれであるし、同②、③、④は、それが真実であるか否かを確認するために本件帳簿等の閲覧等が必要なのであるから、失当というべきである。さらに、上記③については、相手方の主張(原決定の「事実及び理由」欄の「三 当事者の主張」の1)によれば、閲覧等の対象及び理由は特定されていると認められるから、失当である。

したがって、抗告人の上記主張はいずれも採用できない。

3  本件帳簿等のうち閲覧等を許可すべきものについて

(1)  閲覧等請求を認めるべき範囲について

旧商法293条の8第1項において閲覧等が認められている会計の帳簿及び書類の解釈についての当裁判所の判断は、原決定「事実及び理由」欄の「四 当裁判所の判断」の3(1)に記載されているとおり(ただし、原決定17頁16行目の末尾に「なお、契約書は、それが会計帳簿の記録材料として使用されているときは会計書類となるが、当然には会計書類に含まれるものではない。」を加える。)であるから、これを引用する。

また、当裁判所も、株主は一応必要とする帳簿等の閲覧等を求めることができるが、抗告人は、閲覧等の理由と関係がない書類については、不必要であることを立証して閲覧等を拒むことができる、また、保存期間を経過した帳簿等であっても、現に保管されている場合は閲覧等を拒むことができないものと判断するが、その理由は、原決定「事実及び理由」欄の「四 当裁判所の判断」の3(1)に記載されているとおりであるから、これを引用する。

(2)  本件帳簿等について

当裁判所は、相手方が閲覧等を求めている本件帳簿等のうち、原決定別紙1の1、2、4、7(ただし、7についてはフレンドシップ1世に関するものに限る。)記載の抗告人の会計帳簿及び会計書類については閲覧等を許可すべきであるが、その余の書類及び契約書類については許可すべきでないと判断する。その理由は、以下のとおり原決定を補正するほかは、原決定「事実及び理由」欄の「四 当裁判所の判断」の3(2)に記載されているとおりであるから、これを引用する。

ア 原決定18頁14行目の次に改行して以下のとおり加える。

「 なお、相手方は、直近5年間の法人税の確定申告書控・資料は、会計帳簿と表裏一体をなすものであり、実質的に会計帳簿と同視すべきである旨主張するが、独自の見解であって採用できない。」

イ 同18頁25行目の次に改行して以下のとおり加える。

「 相手方は、「賃金総額は総勘定元帳で把握できるとしても、誰にいくらの賃金が支払われたかは賃金台帳及び源泉徴収簿でないと判明しない。Y1に対しては、同人が経営する税理士事務所の事務員の給料を抗告人に支払わせているとの疑いがあるから、上記書類の閲覧等を求める必要がある。」旨主張する。

しかしながら、賃金の支払状況はY1及び抗告人の従業員の領収書等によって判明するし、仮に判明せず、相手方が主張する理由によって賃金台帳及び源泉徴収簿を閲覧等する必要があるとしても、旧商法293条の6によって閲覧等できる書類は会計の帳簿及び書類に限られているから、これらの書面に該当しない以上その閲覧等を求めることはできないものである。なお、上記のような場合のために、旧商法は、旧商法294条の会社の業務及び財産状況の検査の制度を設けているものである。」

ウ 同19頁1行目から11行目までを以下のとおり改める。

「 前記(原決定引用部分)のとおり、会計の書類とは、会計の帳簿を作成する材料となった書類、その他会計の帳簿を実質的に補充する書類であり、契約書は、それが会計の帳簿の記録材料として使用されているときは会計書類となるが、当然には会計書類に含まれるものではないと解すべきところ、相手方が閲覧等を求めている契約書は、いずれも通常であれば会計の帳簿の記録材料として使用されるものではない。そして、抗告人において、上記各契約書を会計の帳簿の記録材料として使用した事実を認めるに足りる証拠は存在しない。

そうすると、上記各契約書は、いずれも旧商法293条の6の会計の帳簿及び書類に該当しないものというべきである。

相手方は、「函南土地の不動産鑑定書は、函南土地が適正な価格で売買されたか否かを知るために不可欠な書面であるから、これを会計帳簿を実質的に補充する書類と解さなくては、会計帳簿の閲覧等を認める法の趣旨を全うすることにならない。」旨主張するが、独自の見解であって採用できない。なお、上記のような場合のために、旧商法が旧商法294条の制度を設けていることは上記イのとおりである。」

エ 同19頁14行目の次に改行して以下のとおり加える。

「 ただし、相手方の閲覧等を求める理由と関連するのはフレンドシップ1世に関する固定資産台帳のみであるから(原決定の「事実及び理由」欄の「三 当事者の主張」の1)、許可の範囲はこれに限定される。」

オ 同19頁18行目の次に改行して以下のとおり加える。

「 相手方は、Y1の公私混同の事実解明のためには、フレンドシップ1世がいかなる利用規程に基づいて運用されているか、当該利用規程にもかかわらず、実際には抗告人の従業員らがこれを利用した事実がないとの実態を明らかにする必要がある。」旨主張するが、独自の見解であって採用できない。なお、上記のような場合のために、旧商法が旧商法294条の制度を設けていることは上記イのとおりである。」

4  抗告人の信義則違反、権利濫用の主張について

抗告人は、「X2は、抗告人の監査役に就任していた間、本件各不動産の譲渡や山武と抗告人との取引について何ら異議を述べず、抗告人の経理が適正である旨監査していたものであるところ、同人と一心同体である相手方が本件許可申請をすることは信義に反し、権利の濫用である。」旨主張するが、審問の全趣旨によれば、X2は本件各不動産の譲渡について異議を述べていたことが認められる。しかして、X2が、山武と抗告人との取引について何ら異議を述べず、抗告人の経理が適正である旨監査していたとしても、相手方が本件帳簿等の閲覧等を求める理由を検討すると、いまだ本件許可申請が信義則に反するとか権利の濫用であるとはいえないものである。

第4結論

以上のとおり、相手方の本件許可申請は主文第1項(1)の限度で許可すべきものであり、その余は許可すべきでないから、本件抗告に基づき、これと一部結論を異にする原決定を変更し、また、本件附帯抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 林道春 裁判官 夏目明德 光吉恵子)

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